勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: 英国経済ニュース

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    英国のTPP(環太平洋経済連携協定)加入は、年内の見通しが強くなっている。英国は、自由貿易の国ゆえにTPP参加にとって格別の障害が見当たらないからだ。英国の年内加入説は、年初から指摘されてきたところでもある。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月29日付)は、「英貿易相『TPP加盟合意』22年中に、中国の参加に難色」と題する記事を掲載した。

     

    英国のトラス国際貿易相は日本経済新聞のインタビューで、環太平洋経済連携協定(TPP)の加盟交渉について「2022年中に結論を出すことを希望している」と語った。TPP参加に関心を示す中国に対しては世界貿易機関(WTO)などの国際貿易ルールに従う努力が必要だと述べ、現状ではTPP参加国が加盟を受け入れることに難色を示した。

     

    中国は、香港への「国家安全法」導入によって、英中で取り決めた「一国二制度」を破棄した。これが、中国への不信感を強め、怒りへとなっている。かつての「大英帝国」である。その沽券に傷をつけられたのだ。中英関係が、急速に冷却化したのは当然であろう。英国が、中国に対して「裏切られた」という感情を持っている以上、中国がTPPへ参加したいと言っても断固、拒否する姿勢を強めるのは当然だ。英国は、「目には目を」の報復精神に燃えている。

     

    (1)「20年末に欧州連合(EU)を完全離脱した英国は21年2月にTPP参加を申請し、6月22日から加盟交渉を正式に始めた。TPP参加をEU離脱後の目玉政策に位置づけている。TPP交渉では関税などの市場アクセス分野では加盟11カ国と国ごとに個別交渉する。英国内では畜産品や農産品の市場開放を警戒する声が農業関係者から上がる。トラス氏は、「TPP加盟国のオーストラリアと2国間の自由貿易協定(FTA)の合意にこぎ着けた。TPPでも市場アクセス交渉はうまくいくと思う」と述べ、交渉が行き詰まるような展開にはならないとの見通しを示した」

     

    英国は、すでに豪州とのFTA交渉で合意にこぎつけている。日本は、日英友好で固く結びついているので、英国のTPP加入を促進する役割を果たすであろう。

     


    (2)「TPP参加には中国も関心を示すが、TPPは加盟の条件として国有企業の改革や幅広い品目での関税撤廃を求めている。トラス氏は「不透明な政府補助金や進出企業への技術移転強制、(新疆ウイグル自治区の)強制労働などの問題がある」と中国が抱える課題を指摘した。「中国はもっと努力する必要がある」とも語り、WTOなどの国際貿易ルールに従わない限りTPP参加は難しいとの見解を示した。英国が正式にTPP加盟国となれば、中国の加盟申請を審査する立場になる」

     

    英国が強硬路線にカジを切るのは、ジョンソン政権を支える与党・保守党内の対中懐疑派が勢いを増している点が大きい。特に伝統的に人権を重んじる保守派にとっては、香港の自治の侵害やウイグル族の強制労働が疑われる問題は容認できない。英議会では政府提出の貿易法案に、特定民族の破壊行為があると認定された国との貿易や投資の協定を結びにくくする修正を加えようとする動きが活発化している。

     

    上院は、2月上旬の貿易法案の審議で「英国の高等裁判所に、民族破壊行為があったかを判断する役割を与え、『あった』と認定された場合、議会で当該国との通商政策について議論する」という趣旨の修正を加えた。議会が既存の自由貿易協定(FTA)を停止したり、進行中の交渉を止めたりできるようにする狙いだ。

     


    (3)「10月に英国で開くG7貿易相会合はWTO改革が主要な議題になる。WTOは途上国に国内産業の保護を認めたり、先進国の市場に農産品や工業製品を安く輸出できたりする特権を与えている。途上国かどうかの認定は自己申告制で、中国など一部新興国が途上国の地位を返上しない問題が起きている。トラス氏は中国経済が米国の1割程度の規模だったWTO創設当時とは状況が全く違うと指摘した。「WTOの途上国の地位は貿易を通じて人々を貧困から救い出すために支援を必要とする国にだけ活用されるべきだ」とも強調し、中国の扱いの是正が必要だとの考えをみせた」

     

    トラス氏は10月に対面で開く予定のG7貿易相会合の議長も務める。WTO改革が主要な議題になる予定だ。WTOは、途上国に国内産業の保護を認めたり、先進国の市場に農産品や工業製品を安く輸出できたりする特権を与えている。途上国かどうかの認定は、自己申告制である。改めて、中国を途上国と認めるかどうかを議論する。英国は、徹底的に「中国シフト」を敷いている。

     

     

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    現在の世界的なテーマは、二酸化炭素の排出量を減らすことである。二酸化炭素は、人間の経済活動と密接な関係を持っていることはいうまでもない。一方、新型コロナウイルスの感染を減らすには、「人流」を減らすことが重要だと叫ばれている。この両者の共通点は、人間が蟄居していることが最善という結論に落ち着く。

     

    冒頭から、いささか荒唐無稽な話題を持ち出したのは、「脱炭素」が人間の数と比例しているという議論が出てきたので、この考えを吟味する必要を感じたたからだ。私の結論を先に言えば、合計特殊出生率が置換率「2.08」を割り込むと15年後に、その社会は経済活動に変調を来たすことを忘れてはならない。その結果、社会保障制度がガタガタになって、脱炭素も十分に行なわれない危機に直面することを覚悟すべきということだ。

     


    『日本経済新聞』(6月24日付)は、「人口減少のプラス面に着目を」と題する記事を掲載した。筆者は、エネルギー移行委員会議長 アデア・ターナー氏である。2008~13年英金融サービス機構(FSA)長官。民間企業が立ち上げたエネルギー移行委員会(ETC)で現職。

     

    5月に発表された中国の2020年実施の国勢調査は、人口がほとんど伸びていないことを示した。中国の1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.3と、(通常は約2.1とされる)人口置換水準(人口の国際移動がないと仮定し、一定の死亡率の下で現在の人口規模を維持するための合計特殊出生率の水準)を大きく下回った。こうした現象は先進国も同様だ。

     

    (1)「1990年ごろから2000年代にかけ米国の出生率が2を上回る水準に戻った当時、「古い欧州」と比較した米国のダイナミズムや「社会的信頼感」の高まりを理由に挙げる識者もいた。実際には、増加は移民によるものといえた。はるかに高い出生率が維持されているのは、アフリカや中東に集中するより貧しい国だけだ。女性が十分な教育を受け、いつ子どもを持つかどうかを自由に選択できるようになった国の出生率は、置換水準を下回ることになる。こうした状況が広がれば、世界の人口はいずれ減少するだろう」

     

    昨年7月、英医学誌『ランセット』に掲載された論文によれば、2100年の世界人口は88億人となり、現時点で国連が算出した予測よりも21億人少なくなる。合計特殊出生率の低下と人口の高齢化により、世界の勢力図が一新されると予測している。21世紀の終わりまでに195か国中183か国で、移民の流入が無い場合に、人口維持に必要な数値(注:2.08)を下回るという。


    (2)「幅広くみられる、型にはまった見方は、人口の減少は悪いことに違いないというものだ。人口が安定した後に減少すれば、絶対的な経済成長率は低下するかもしれない。だが繁栄と経済的機会にとって重要なのは、国民1人当たりの所得だろう。教育を受けた女性が、「経済ナショナリスト」の気分を良くするために子供を産むのは嫌だと思うのは、非常に望ましいことだ。人口の安定や減少が国民1人当たりの経済成長を脅かすという議論は誇張されており、間違っているケースもある

     

    日本を例に取れば分かるが、合計特殊出生率の低下に伴う総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)比率の減少は、潜在的成長率を引下げる要因である。つまり、全体の労働力人口が減れば、経済成長率が低下して、1人当たりGDPも上昇しにくい状況が生まれる。

     

    この筆者が最も見落としている点は、人間の数が減れば供給と需要が減って、その相互作用である経済成長率に響くことである。日本でも出生率低下を喜んでいた向きがいた。「通勤電車の混雑度が緩和される」という類いである。今、振り返って見れば、社会保障面で大きな穴が開くことに気付かなかったのである。経済活動は、供給と需要の二要因から構成されることを忘れては困る。人間の数が減れば、需要減に見舞われるのだ。

     


    (3)「人口が増加しなくなると、退職者1人当たりを支える現役労働者が減り、国内総生産(GDP)に占める医療費の比率が上昇するのは確かだ。しかし上昇分は、人口増加を支えるためのインフラや住宅への投資の必要性が低下することで減殺される。無駄をなくし、ハイテクなどへの支出を増やせば、人口が減少しても繁栄を続けられる」

     

    人口減によってインフラ投資や住宅投資が減ることは、需要を減らすことである。供給はロボットの多用で一定水準を維持できても、ロボットは消費しないから供給と需要の不均衡をもたらして、経済活動は停滞せざるを得ないのだ。よって、急激な人口減は経済活動のバランスを崩して不況を招く大きな要因である。

     

    (4)「世界の人口が安定し、やがて減少に転じた場合、気候変動を回避するための温暖化ガスの排出削減が容易になる。労働力の縮小は、企業の自動化の誘因となり、実質賃金は上昇する。一般市民にとっては、絶対的な経済成長よりも賃金増加のほうが重要だ。技術によって自動化される仕事が増えれば、より大きな問題は、潜在的な労働者の数が多すぎることで少なすぎることではない

     

    このパラグラフでも、同じ誤解を繰返している。ロボットや機械化は生産性を上げるが、需要がゼロという重要な点を忘れている。経済は、供給と需要の均衡によって発展する。賃金の増加も生産性の増加に見合ったものでなければ、アンバランスになって不況になる。韓国の文政権が陥った実例がこれだ。全体のGDPが増えないで、1人当たりのGDPが増えると言う魔術はない。全体のGDPが増えるのは、供給と需要がマッチしている結果である。

     


    (5)「複数の調査によると、出生率が低い国では多くの家族がもっと子どもを持ちたいと考えるが、高い不動産価格や託児所の不足などが障害になっている。政策立案者は、夫婦が理想とする数の子どもを持つことをできる限り可能にするような対策を検討すべきだ。しかし改善をはかっても、長期的には人口が減少していく。世界中で早く人口が減ったほうが、人々にとってよい結果をもたらすだろう

     

    下線部は、明らかに二酸化炭素を減らす上での前提条件である。だが、二酸化炭素を減らすには、究極の脱炭素として水素発電がある。科学の力による脱炭素が不可欠である。今後の人口減は、英医学誌『ランセット』に掲載された論文のように、確実に進行する。超高齢社会における福祉問題が、これからの重要問題になるだろう。脱炭素は、科学研究の成果も不可欠である。単に、人口減のみに期待を繋ぐ訳にはいかないだろう。

     

     

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    中国企業は、海外の主要国の大学へ研究資金を提供して、研究成果を手にする「鵜匠」の役割を行なっている。すでに米国やカナダでは、こういう中国企業による資金提供の危険性が周知徹底化されているが、ようやく英国でも始まった。

     

    カナダでは、アルバータ州政府が州内の主要大学が中国と関わりのある研究協力を一時停止すると発表した。国家安全保障上の理由および人権侵害への加担を避けるためだとしている。カナダの大学と中国の間には多くの共同研究プロジェクトが展開している。「中国はカナダの大学と協力を通じてカナダの重要な戦略的技術を盗み出し、国家に深刻な脅威をもたらす」とカナダの情報セキュリティ専門家は以前から警告してきた。

     


    『大紀元』(6月11日付)は、「英20大学、ファーウェイなど中国企業から巨額の資金支援 学問の自由への懸念高まる」と題する記事を掲載した。

     

    英国のトップ20大学が、華為技術(ファーウェイ)をはじめとする中国企業から巨額の資金を受けていたと英メディアが報じた。英政界で懸念が広がっている。

     

    (1)「英紙『デイリー・テレグラフ』(6月8日付)によると、英議会中国研究グループ(CRG)の調査で、2015年以降、中国共産党政権と直接つながりを持つ中国企業が、英国の大学に研究資金を提供していたとわかった。たとえば、インペリアル・カレッジ・ロンドンは2015年以降、ビッグデータ研究や工学部のプロジェクトへ資金支援として中国軍と密接な関係があるとされるファーウェイから350万~1450万ポンド(約5億3821万~約22億4875万円)の資金を受け取っていた」

     

    中国企業は、英国の主要大学へ研究資金を提供して大きな見返りを得てきた。中国の最先端研究部門には、こういう隠れ蓑が用意されていた。

     


    (2)「同大学は2016年以来、ファーウェイの他にも、中国石油化工(シノペックグループ)からも少なくとも1000万ポンド(約15億3751万円)、中国航空工業集団 (AVIC)から少なくとも650万ポンド(約9億9938万円)の資金援助を受け取っていた。両社はいずれも中国の国営企業である」

     

    中国企業は、自国研究陣では得られない質の高い研究成果を取り込んできた。

     

    (3)「ファーウェイは2015年以降、ランカスター大学に半導体、コンピューティング、機械学習などの研究のために110万ポンド(約1億6912万円)、ヨーク大学にも「非公開」の研究プロジェクトのために89万ポンド(約1億3878万円)の資金を提供していたことがわかった。ブリストル大学、エクセター大学、ヘリオット・ワット大学は、「敏感な問題」という理由で、受け取った資金の詳細の公表を拒否した。これらの資金提供は、学術の独立への懸念を引き起こした」

     

    中国企業は、半導体やAI(人工知能)などの研究成果を手にしてきた。受け取った資金の詳細の公表を拒否している大学もある。いずれ、法律によって開示させられるだろう。

     


    (4)「CRGを率いる下院のトマス・タジェンダット外交特別委員会委員長は、「英大学が資金を追求すれば、学術的自由が損われる可能性がある」と警告した。同委員長はデイリー・テレグラフ紙に対し、「誰がボスで、誰が最終的な決定権を持っているのか知る必要がある」と指摘した」

     

    中国企業が、英国の大学の研究成果を利用していることを自覚するように促している。

     

    (5)「中国によるスパイ活動や知的財産権の窃盗を懸念した英国政府は、昨年10月1日から国家安全保障に関連する科学分野の審査を開始し、保護対象を拡大した。また、中国人留学生のビザ制限を強化し、航空宇宙、人工知能、サイバーセキュリティなど防衛科学に関連する分野の中国人留学生の受け入れを制限した。政府の調査を受け、インペリアル・カレッジ・ロンドンの広報担当者は、「資金提供者が我々の独立したオープンで透明性のある研究の干渉を許さない。我々は学術的独立性を確保するために強力な措置を講じている」と述べた」

     

    下線部は、米国と同じ中国人留学生の制限である。米国では、中国人留学生が軍籍を隠して留学するケースがあり、摘発されている。

     

    『大紀元』(5月29日付)は、「カナダ・アルバータ州政府、大学に中国との協力停止を要求 安保上などの懸念で」と題する記事を掲載した。

     

    カナダ・アルバータ州のニコライデス高等教育大臣は声明の中で、「カナダの知的財産権が盗まれている可能性や、中国との研究提携が中国の軍事・諜報機関に悪用される可能性」に対して懸念を示した。

     

    (6)「カナダ・アルバータ州では、「州の大学研究は主に納税者からの資金によって賄われている。それが中国に悪用され、カナダとカナダの同盟国に損害を与えたり、あるいは中国政府による自国民への人権侵害のために利用されたりすれば、これは全く容認できないことだ」とした。同氏は」「今回の措置はあくまでも中国政府に対する予防的措置であり、中国人民を標的にするものではない」と強調した」

     

    中国への厳しい警戒感が滲み出ている。ほとんど「敵視」していると言っても良いほどだ。

     


    (7)「カナダ紙『グローブ・アンド・メール』は、アルバータの大学と中国は、ナノ、生化学、人工知能などの戦略的プロジェクトに関わる多くの研究を共同で行っていると報じた。その多くはカナダで開発された技術の商業化に関する研究だが、主導権は中国にあると指摘した」。

     

    ここでも、中国はナノ、生化学、人工知能などの戦略的プロジェクトを狙っている。中国が研究資金を提供しているので、研究成果は中国へ持ち去られている。カナダの大学は、研究の下請け的な役割に成り下がっている。

     

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    英国は2月1日、TPP11(環太平洋経済パートナーシップ協定)の加盟を申請した。年内に正式加盟の見通しと伝えられている。EU(欧州連合)を脱退してTPPに参加する狙いは何か。英国の元保守党党首 イアン・ダンカンスミス氏は、『日本経済新聞』(2月25日付)で、次のように語っている。

     

    「大きな魅力は、EUより人口や経済成長の速度の点で優れており、市場に大きな潜在力がある点とされている。現加盟国には日本やカナダなどの友好国のほか、もともと関係が深い英連邦の国々などが多い。我々の強みはサービス輸出であり、TPPによって英企業は金融や医療、教育などの分野でチャンスを得る」

     


    ここでは、経済的利益のみを語っているが、インド太平洋の安全保障で一役果たす覚悟を持っていることだ。英国は、最新鋭空母「クイーンエリザベス」をインド太平洋へ長期派遣する意向である。クアッド(日米豪印)には英国の旧植民地インドが参加している。英国は、先ず、インドの了解を取ってクアッドへ参加する意向と見られる。ジョンソン首相の初外国訪問先として、4月末にインド訪問を発表している。英国は、着々とインド太平洋戦略への準備を進めているのだ。

     

    英政府は、3月16日発表した外交・安全保障の方針「統合レビュー」で、次の点を明らかにしている。

     

    1)民主主義と人権を擁護し米国との関係を重視する

    2)インド太平洋への関与を強める

    3)「クイーンエリザベス」をインド太平洋へ派遣し、NATOと連携する

    4)4月末にジョンソン首相が初外遊先としてインドを訪問する

     


    このほか、核弾頭の上限180発を260発に引上げるという緊迫した事態も織込まれている。英国は、今後の国際情勢が「きな臭くなる」と見ていることは間違いない。英国は、紛争防止策として前記のような4項目を上げている。これは、英国がインド太平洋戦略のクアッド参加意思の極めてつよいことを覗わせている。NATOとの連携も強調している。クアッドは将来、NATOと一体化することを前提にしていると見られる。

     

     

    『日本経済新聞』(3月28日付)は、「中ロが迫った英安保方針転換」と題する社説を掲載した。

     

    英ジョンソン政権が向こう10年間の外交・安全保障の方針を発表した。目を引くのが、日本を含むインド太平洋地域を重視する姿勢だ。同盟国である米国をはじめ共通の利益と価値観を持つ国との結束を強調した。

     

    (1)「背景にあるのは、「切迫した直接的脅威」と位置づけたロシアと、貿易面では重要としながらも「体系的な挑戦を受けている」とする中国の存在だ。中国については、キャメロン政権時代の2015年に同国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に主要国で最初に参加表明するなど親密な関係にあったが、方針転換が鮮明となった」

     

    2010年代の英国は、中国と蜜月関係を築いてきたが、中国の自国本位の振舞に嫌気がさし冷却化した。そこへ昨年6月、中国が香港への強引な「国家安全法導入」で、英中の締結した一国二制度が破棄され、決定的な溝をつくった。こうして英国は、中国と敵対的関係に陥っている。英国が、インド太平洋戦略にことのほか関心を深めるのは当然であろう。

     

    (2)「英国は、年内に最新鋭の空母をアジアに派遣、海上自衛隊などとの共同軍事演習に参加する予定だ。日本は尖閣諸島周辺での領海侵入など中国から圧力を受けている。アジア太平洋地域の安定に積極的に関与するという英国の立場を歓迎したい。今年6月に開く主要7カ国(G7)首脳会議の議長国である英国はインド、オーストラリア、韓国の首脳を招待している。日本は「自由で開かれたインド太平洋」を実現するためにもこれらの国々と連帯を強め、メッセージを出し続けることが重要だ」

     

    英国は、今年6月に開くG7首脳会議の議長国である。議長国は、裁量で招待国を選べる資格を持つ。英国は、インド、オーストラリア、韓国の首脳を招待する。いずれもインド太平洋に関わりの深い国々だ。インドと豪州はクアッド参加国である。韓国もこれに準じる扱いである。G7は、インド太平洋戦略に何らかの声明を出す可能性が高い。

     


    (3)「懸念されるのは、保有する核弾頭数の上限目標を引き上げたことだ。英国は冷戦時に約500発の核弾頭を保有したが、10年に発表した方針では20年代半ばまでに上限目標を180発まで減らすとしていた。それを覆し、260発まで増やす政策に転換した。中ロを念頭に置いた対応だが、対立をあおってはならない。新たな軍拡競争につながらないよう目をこらしたい」

     

     

    『デーリー・テレグラフ』紙は、核政策の専門家の話として英国の「核弾頭増強が事実なら、冷戦終結以来、英国が着実に進めてきた軍縮の動きの大転換となる」との見方を伝えている。インド太平洋戦略は、対中ロにおいてこうしたリスクを秘めていることを認識させる。核は絶対に使ってはいけないが、その抑止力を持つことも不可欠である。同盟の力によって防がなければならない。

     

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    英国、「報復」中国嫌いが徹底、TPP加入後に中国が申請すれば「阻止の構え」

     

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    中国は、香港へ「国家安全法」を導入して、英国へ大きな代償を払わされる様相が濃くなってきた。習近平氏は2015年、英国訪問を果たし「英中蜜月」と騒がれた。それも、今は昔話となった。英国の中国嫌いが徹底してきたのである。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月19日付)は、英中『黄金時代』に幕、香港住民は英移住ビザに殺到」と題する記事を掲載した。

     

    英中関係の悪化に歯止めがかからない。中国が香港への統制を強めたのをきっかけに、香港の旧宗主国の英国が反発。英国が始めた香港住民の移住支援策には申請が殺到している。中国のウイグル族の人権問題では、中国が英BBCの放送を禁じた。「黄金時代」とうたわれた蜜月関係は終わりを迎えている。

     

    (1)「英中関係は、最近まで「黄金時代」と称されていた。英国は2015年に中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に主要7カ国(G7)で最初に参加した。中国企業による英国内の原子力発電所への出資や鉄鋼大手の買収など基幹産業での結びつきも強まった。だが、中国国内の新型コロナウイルス対策の初動への疑念などから、英国内で対中懐疑論が台頭し始めた。20年6月末に習近平(シー・ジンピン)指導部が香港で統制を強める香港国安法を制定すると、英中関係の悪化は決定的になった」

     

    中国は、英中で取り決められた「一国二制度」を、香港への「国家安全法」導入で破棄した。これが、中国への不信感を強め、怒りへとなっている。かつての「大英帝国」である。その沽券に傷をつけられたのである。中英関係が、急速に冷却化するのは当然であろう。

     

    (2)「中国の放送当局は21年2月11日、英BBCワールドニュースの放送を禁止した。BBCはウイグル族の「再教育施設」について、人権迫害や集団の性的暴行があったと報じ、中国が抗議していた。これに先立つ4日、英当局は中国国際テレビ(CGTN)の番組の最終的な編集権を中国共産党が握っているとして、放送免許を取り消した。英紙デーリー・テレグラフによると、中国人3人が中国の別々の報道機関への勤務を装って英国に入国していた。英当局が身元を突き止めスパイ容疑で中国に送還したという」

     

    英国は、諜報機関が世界で1、2位を争う実績を持っている。その嗅覚の裏をかこうとした中国人スパイ3人が身分を突き止められ、強制送還されたという。中英関係は、ここまで冷却化している

     


    (3)「英政府は、春以降に最新鋭空母クイーン・エリザベスをインド太平洋地域に派遣する際、日本の自衛隊と共同訓練する方針を固めている。中国の海洋進出をにらんだもので、東シナ海・南シナ海情勢を巡り一方的な現状変更の試みに反対するための連携強化だ」

     

    英国は、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」をインド太平洋に長期派遣する。日本が母港になる見通しである。これは、英国が日米主導の「インド太平洋戦略」の「クアッド」(日米豪印)へ参加する可能性を高めるものだ。米国は、すでに英国をクアッドの一員に加える意向と伝えられている。これが実現すれば、中国にとって極めて由々しき事態を招く。英国は、NATO(北大西洋条約機構)加盟国である。このことから、「クアッド」参加国は「アジア版NATO」の一員になる可能性が高まる。

     

    NATOは、2030年を目標に対中国戦略を決定する予定だ。中国の存在がNATOにも脅威という認識である。それまでに、アジア版NATOが結成されれば、この双方に包囲される事態になろう。この意味で、英中対立は中国の将来に大きな影を落としそうだ。

     


    (4)「
    英国が強硬路線にカジを切るのは、ジョンソン政権を支える与党・保守党内の対中懐疑派が勢いを増している点が大きい。特に伝統的に人権を重んじる保守派にとっては、香港の自治の侵害やウイグル族の強制労働が疑われる問題は容認できない。英議会では政府提出の貿易法案に、特定民族の破壊行為があると認定された国との貿易や投資の協定を結びにくくする修正を加えようとする動きが活発化している

     

    下線部分は、中国を想定している。英国議会は、政府に対して中国と将来、貿易協定を結ばせないように「ブレーキ」を掛けようとしている。

     

    (5)「上院は、2月上旬の貿易法案の審議で「英国の高等裁判所に、民族破壊行為があったかを判断する役割を与え、『あった』と認定された場合、議会で当該国との通商政策について議論する」という趣旨の修正を加えた。議会が既存の自由貿易協定(FTA)を停止したり、進行中の交渉を止めたりできるようにする狙いだ。修正案が下院に戻ると、政府は上院の修正案を拒否する代わりに、「議会の委員会に民族破壊行為について調査する役割を与える」という妥協案を示した」

     

    貿易法案は、高等裁判所が民族破壊行為のあったと判断した国に対して、議会が既存の自由貿易協定(FTA)を停止したり、進行中の交渉を止めたりできるようにする狙いである。これは、中国による新疆ウイグル自治区での民族弾圧を想定した法案である。英国は、この中国と自由貿易協定を結ばないし、貿易交渉を中断させるという内容だ。

     


    (6)「2月9日、この案が賛成多数で可決された。与党・保守党から上院の修正案に賛同する議員約30人の造反が出た結果だ。上院は再び、同様の修正を追加して下院に差し戻す見通し。もし、法案の賛同者が増えて可決されれば、英国の参加後に中国が環太平洋経済連携協定(TPP)に入る際の大きな障壁になる可能性もある

     

    英国は、今年中にTPPへ加盟が決まる見通しである。仮に将来、中国がTPPへ加盟申請しても、英議会がその交渉を打ち切らせる、つまり英国は中国加盟を阻止するとしている。TPPへの新規加入は、全加盟国の賛成が条件である。英国が一国でも反対すれば、中国加盟を阻止できる「縛り」を生かすのだ。さすがは、「大英帝国」である。その誇りにかけても、新興国・中国を甘やかさないという毅然とした姿勢である。

     

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    メルマガ233号 中国経済「欠陥構造」 重要指標が示唆する凋落の足音

    2021-02-01

    メルマガ228号 「暴走中国」 安保と経済で落とし穴に嵌まり 自ら危険信号発す

     

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