ミャンマーは、中国にとって陸路でインド洋へ出られる地政学的に重要な位置を占める。2月のミャンマー国軍のクーデター前に、国軍総司令官が中国を訪問していたことが分かっているので、両国は何らかの打合せをしたのでないかと疑惑の目で見られてきた。それを、裏付けるように、中国は早くもミャンマーとの貿易を復活させている。
一方、ミャンマー国民による中国への冷たい眼差しが存在する。ミャンマーは次第に内戦的な様子も見せていることから、中国のミャンマー接近は、大きなリスクを抱えることになった。こうして、ミャンマー国内では行政施設や国軍協力者を狙った爆弾事件や襲撃が増えている。米調査団体の集計によると5月は297件の爆発があり、4月の4倍になっている。国軍が民主派への弾圧を続けるなか、市民の抵抗が一部で先鋭化している結果だ。
『フィナンシャル・タイムズ』(6月25日付)は、「中国、国軍支配のミャンマーと通商・外交強化へ」と題する記事を掲載した。
2月のクーデターで全権を掌握したミャンマー国軍が国内の激しい抗議活動や国際的な批判にさらされる中で、中国とミャンマーが通商・外交関係の正常化に動き始めた。民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏が率いた国民民主連盟(NLD)政権が倒されて以降、中国系企業の資産を狙った激しい攻撃が相次いでいるが、中国はミャンマー国軍指導部との関係強化を図っている。
(1)「米シンクタンク、スティムソン・センターでミャンマー・中国関係を専門とするユン・スン氏は、中国がミャンマーを「抜本的に評価」した結果、同国は再び長期的な軍事政権時代に入るとの結論に達したと指摘した。中国は今回の軍事クーデターが成功し、今後も軍政が続くと判断した」と同氏は述べた。両国の外交関係および経済活動の再開により、ミャンマー経済は再びこれまで通りの中国依存に戻る見込みだ。ミャンマーはこれまでも国際的な制裁を受け、外国企業が投資案件の中止・棚上げを表明した際には、その影響を和らげるための盾として中国を利用してきた」
中国は、ミャンマーが再び長期の軍事政権時代へ逆戻りするとの判断を固めたという。この結果、ミャンマーとの関係復活に本腰を入れるのであろう。これによって、ミャンマー国民の反発をうけることは決定的である。
(2)「ミャンマーの人権団体、政治犯支援協会によると、クーデター以降、軍の武力弾圧で875人が犠牲になり、6242人が拘束された。経済活動や公共サービスはクーデター直後から3カ月間に相次いだ大規模な抗議活動により深刻な打撃を受けたまま、ほとんど復旧していない。中国は、クーデター前から軍事政権を支援する構えだったとの疑惑が反クーデター派の間に広がっていたが、中国との貿易が再開されればその疑念は一層深まりそうだ」
国軍司令官は、クーデター前に訪中している。中国側へ事情説明して支援を求める打合せをしたと疑われている。今回の貿易再開は、こうした疑惑を裏付けるようなものだ。
(3)「中国の通関統計によると、ミャンマーの2021年1~5月の対中輸出額は累計33億8000万ドル(約3750億円)に達した。これは20年の24億3000万ドルだけでなく、新型コロナウイルスが世界的に流行する前だった19年の25億6000万ドルも上回っている。だが、中国のミャンマーへの輸出はそこまで回復していない。1~5月のモノの輸出額は42億8000万ドルと、直近2年間の45億6000万ドル、47億9000万ドルを下回った」
ミャンマーの対中輸出は、2021年1~5月で累計33億8000万ドルに達した。ミャンマーにとって、中国が救いの手になっている。一方、中国の今年1~5月のミャンマー向け輸出は、直近2年間の同期間を下回っている。中国が、少しは世界の目を気にしている結果であろう。だが、いずれ図々しくなって、過去を上回る実績になるのは確実だ。
(4)「両国の外交関係強化の兆しは他にもある。中国の陳海駐ミャンマー大使は5日、クーデターを指揮したミン・アウン・フライン国軍総司令官とミャンマーの首都ネピドーで会談した。その後発表された声明で、陳大使は総司令官をミャンマーの指導者と呼んでみせた。国連総会は18日、ミャンマーへの武器流入の防止とスー・チー氏ら政治犯の解放を国際社会に求める決議を採択したが、中国をはじめ一部の国は棄権した」
中国は、予定通りの行動に出ている。
(5)「中国はクーデター前、スー・チー氏率いる民主政権と良好な関係を維持していた。スー・チー氏は軍に拘束され複数の容疑で刑事訴追されている。だが、中国が国軍批判を避けているため、クーデター後の大規模な抗議活動では中国に対する反発が強まっている。中国はミャンマー最大の貿易相手国であるだけでなく、ミャンマーに戦略的なインフラ投資をしている。中国にとっては陸路でインド洋とつながる原油・天然ガスパイプラインもその1つだ」
世界世論は、ミャンマー国軍批判から中国も同罪という見方に変わる日も近い。これは、中国の立場を一層、不利な状況へ追込むはず。中国は、こうやって隣接国を影響下に収めてゆくのだ。