欧米の航空会社が中国便を削減している。需要の低迷とロシア上空を迂回して飛ぶ高コストが重なり、中国の航空会社に対する競争力が低下しているためだ。
『フィナンシャル・タイムズ』(8月21日付)は、「欧米航空会社が中国便を削減、需要低迷 競争力も低下」と題する記事を掲載した。
(1)「英国最大の航空会社ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は8月、ロンドンー北京便の運航を10月から停止すると発表した。その数週間前に、英ヴァージン・アトランティック航空が、同社唯一の中国路線である上海便の運航中止を決めたばかりだった。ロシア領空の飛行禁止の影響は受けていないものの、7月にシドニーー上海便の運航をやめた豪カンタス航空は、半分空席の状態で飛行機を飛ばすこともあったと明かした」
BAは、10月からロンドンー北京直行便を廃止する。豪カンタス航空は7月、シドニー上海便の運航を中止した。いずれも乗客の少なさが大きな理由だ。中国の地政学的問題が絡んでいる。中国の「反スパイ法」による拘束リスクが災いしているのであろう。
(2)「中国便の削減は、中国の経済成長が減速し、米国やその同盟国と中国との地政学的な緊張が高まるなかで世界の大手航空会社の一部が中国に対する見方を変えたことを示唆している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前は、中国の経済成長と裕福な観光客の増加から利益を得ようとする欧米航空会社から同国は成長の機会を与えてくれると見られていた。だが、コロナ下で便数が激減し、2023年に海外との往来が再開した後に航空各社は運航便数を増やし始めたが、ここ数カ月は新たな減少の兆しが出ている」
中国の経済成長率低下も、航空便廃止の背景にある。中国でのビジネスチャンスが減っているのだ。
(3)「BAは昨年、3年間の休止を経て中国路線の運航を再開した時に北京便は同社で「最も重要な路線の1つ」とし、今年1月に北京語を話す乗務員を積極的に採用し始めたばかりだった。同社はまだ上海と香港への定期便を運航しているが、今年は香港便を半分に減らした。中国の航空市場はパンデミック期の国境閉鎖からの回復が最も遅い市場の1つだ。旅行が本格的に再開したのは23年になってからで、国際便の需要はまだ19年の水準を大幅に下回っている。もっとも、多くの航空会社にとって、ロシア領空(通過)の閉鎖が中国便の運航が不採算になる最も大きな要因だったと経営トップらは話す」
BAは、パンデミック後の中国便再開に大きな期待をかけていた。それが、あっけない終末である。ロシア上空の飛行禁止は最初から分った上での再開である。需要減が、北京便廃止の大きな理由とみるほかない。
(4)「英航空情報会社OAGによると、夏の繁忙期に欧州と北米から中国へ飛ぶ国際航空会社のフライト数は1万3000便を超えた18年のピークから60%以上減少した。OAGのデータは、中国の航空会社がこれらの路線の便数を19年のピークから30%しか減らしておらず、今夏は欧米の競合の2倍以上の便数を運航していることを示している。仏蘭エールフランスKLMのベンジャミン・スミス最高経営責任者(CEO)は昨年、「ロシア上空を飛ぶ中国の航空会社があるとすれば、その会社は我々に対して不当な優位性を持っている」と述べた」
中国は、ロシアとの関係で上空を飛べる。欧米の飛行機は禁止されている。これが、中国の航空会社を有利にさせている。
(5)「米政府は今年2月、米中間を往復する直行便の数を州35便から同50便に増やすことに合意した。コロナ前の週325便の6分の1にも満たないが、米国の航空会社は中国の航空会社との競争で苦戦しており、上限をこれ以上引き上げないよう米政府に働きかけている。米航空業界のロビー団体「エアラインズ・フォー・アメリカ(A4A)」はフィナンシャル・タイムズ(FT)が確認した4月の書簡で、ブリンケン国務長官とブティジェッジ運輸長官に対して「中国航空市場の成長が市場へのアクセスの平等に対する配慮なしに歯止めもなく続くことが許されたら、航空便は今後も米国の労働者と企業を犠牲にして中国の航空会社に奪われていく」と訴えた」
米航空業界は、米中間の飛行便を増やさないように米国政府へ要望している。中国が有利であるからだ。
(6)「A4Aのデータによると、24年の米中直行便の需要は19年比で76%減少している。ヴァージン・アトランティックの幹部として1999年に上海便の立ち上げに携わり、現在は航空コンサルタントを務めるエドモンド・ローズ氏は、夏に飛行機を利用する中国人観光客と学生に大きく依存していた路線では乗客数がまだ2019年の水準まで回復していないと指摘する。「(こうした路線は)常に例えば大西洋路線の市場より格段に季節性が強く、これは問題だ。通年で運航する場合、コストがほぼ変わらないのに冬場は搭乗率が必然的に低くなるからだ」と語った」
中国の経済成長率の低下が、航空需要減となって跳ね返っている。中国は、それだけでない。「反スパイ法」という厄介な問題が控えている。