日本と英国が、連携強化に向かっている。EU(欧州連合)を脱退した英国は、アジアで新たなパートナーである日本との関係強化に乗り出す。日本は、米国との関係を保ちつつ、欧州での基盤づくりが不可欠だ。こうした両国の共通利益の上で、100年前の「日英同盟」再現を目指している。
日英同盟は、1902~23年まで継続した。日本は、英国の議院内閣制を導入しており、政治の「手本」としてきた国である。互いに皇室制度を維持しており、共通点は多い。この日英が欧州とアジアで協調する。防衛面では、「準同盟国」の位置になっているのだ。
『日本経済新聞』(11月21日付)は、「太平洋シフトで貿易拡大」と題する記事を掲載した。筆者は、 英貴族院議員・子爵 ヒュー・トレンチャード卿である。
日英関係はこの10年ほどでかなり緊密になっており、「第2の日英同盟」ととらえていい。日露戦争や第1次世界大戦時の日英同盟は軍事同盟だったが、今日の日英の連携は安全保障のみならず、通商や投資など幅広い分野に及んでいる。
(1)「欧州連合(EU)離脱後の英国は自由貿易を支持し、法や条約を順守する国家としてインド太平洋地域への関与を強めている。この地域には英国の歴史的な影響力がなお残り、オーストラリアやマレーシア、シンガポールなどの友好国も多い。なかでも多くの価値観を共有し、ともに議会制民主主義国家である日本との連携は極めて重要だ」
英国は、アジアに多くの植民地を持っていた。それが、第二次世界大戦後に独立している。だが、現在も英国連邦を形成しているので、アジアへの回帰はごく自然なものだ。
(2)「日英の安全保障協力はさらに拡大するだろう。2021年は英国の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」が日本に寄港した。22年春の日英首脳会談では(自衛隊と英軍が共同訓練をしやすくする)円滑化協定で大筋合意した。英国がイタリアと進めている次期戦闘機の共同開発に、日本が真剣に参加を検討しているのは非常に喜ばしい。1905年に(日本海海戦で)ロシア艦隊を破った日本の艦船の多くは英国で建造された。今回は、日本がコンソーシアム(共同体)に参画して英国とともに次期戦闘機を開発することになるだろう」
自衛隊と英軍の「円滑化協定」は、共同演習を可能にする。日本は、英国と防衛面で協調行動が可能になるメリットが大きい。次期戦闘機開発では、英国・イタリアの三ヶ国が協力体制を組む。2035年に自衛隊への配備を目指すが、英伊の両国の販路を使い販売を考えている。
日本は、防衛費の対GDP比2%(現在1%)と大幅な拡大を目指す。ただ、日本の装備品コスト高が続けば財政を圧迫する。そこで、共同開発・生産する次期戦闘機では、英国やイタリアの販路を通じて販売する方針だ。共同開発は、日本にとってもメリットが大きい。
(3)「環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟は英国にとって重要な機会となる。TPP11カ国プラス英国は(英離脱後の)EUに並ぶ巨大な自由貿易圏であり、その成長力はEUをはるかにしのぐ。TPP加盟が英国とEUの貿易に与える影響も軽微とみられており、英国の貿易や投資に大きな利益をもたらす。もともと米国が日本をパートナーとして主導してきたのがTPPだ。(米国の離脱がなければ)英国が加盟しても発言権は非常に小さかったと思う。日本は英国の加盟申請を積極的に受け止めてくれており、英国もTPPの将来に重要な役割を果たす用意がある。TPP11カ国のうち6カ国は英連邦(コモンウェルス)のメンバーであり、英国のコモンロー(判例法)を受け継ぐ国も多い」
英国は、近くTPP加盟が正式に決定の見込みである。かねてから、英国はTPP加入後、中国を加盟させないという強い態度を表明してきた。中国には、香港で一国二制度破棄という「煮え湯を飲まされた」だけに、強い反感を持っており、「中国絶対拒否」という姿勢だ。
(4)「英国はほんの数年前まで、中国が民主主義や自由貿易システムと協調するだろうと考えていた。中国との貿易機会は最大化したいが、香港での(民主化運動を抑圧した)国家安全維持法の施行などをふまえ、現在は中国への懸念を強めている。ウクライナ侵攻で英国はロシアに対する制裁を主導してきた立場にある」
このパラグラフでは、中国の「裏切り行為」を非難している。
(5)「今の英国は、ミドルパワーと言うべきなのだろう。人口は日本のほぼ半分であり、国内総生産(GDP)規模も小さい。だからといって、英国の経済力を無視できるものと考えるのは誤りだ。EUの規制に拘束されなくなり、これからは金融サービスなどで競争力を発揮できるだろう。(文化や価値観で他国に影響力を及ぼす)ソフトパワーも英国の強みだと考える。EU離脱後の英国では首相交代が相次いでいる。特に対外政策では、保守党としてスナク新政権をしっかり支えることが極めて重要になる」
英国のソフトパワーは健在である。金融や情報では、圧倒的な優位性を持っている。さすがは、かつての覇権国である。日本は、英国から多くのことを学ぶ機会ができた。