勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース

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    ドイツは、欧州経済の王者を自任してきたが、高電力料金で海外企業はドイツへの直接投資を敬遠してフランスへ流れている。フランスは、言わずと知れた原子力発電国である。低電力料金を「売り」にして対内直接投資では、ドイツのお株を奪っている。「工業国ドイツ」は危機感を強めているが、対抗策はゼロだ。ドイツ企業自体が、「脱ドイツ」を急いでいるほどである。

     

    『ロイター』(5月25日付)は、「企業投資はドイツからフランスへ、マクロン氏の改革が成果」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツの電子部品メーカー、ハーガー・グループは事業拡大に向けた新工場の建設場所を国内とフランスのどちらにするか迷った結果、フランスを選択した。グループ会長のダニエル・ハーガー氏はロイターに、フランスの法人税軽減措置や、工場立地探しに対する地元当局の支援、さらに企業にとって悪名高い同国の厳格な労働規制を柔軟に運用できる余地ができたことなどが、決め手になったと明かす。

     

    (1)「これはまさに、マクロン大統領が就任から7年かけて打ち出してきた企業寄りの改革が、ユーロ圏の経済規模ビッグ2であるフランスとドイツの経済的な力関係を変えたことを物語っている。もはやフランスの高い税率や、ドイツの週40時間よりも少ない週35時間の労働制に外国投資家が不満を唱えていた時代は遠い昔となり、フランスへの外国からの直接投資は記録的な水準に達しつつある。ハーガー氏は「マクロン氏が大統領に就任して以来、企業にとって事業環境ははっきりと改善し、歓迎されている」と語った」

     

    フランスは、マクロン氏が大統領へ就任以来7年間、取組んできた企業寄り改革が実を結び、海外からの直接投資は記録的な増加率になっている。

     

    (2)「ドイツの雇用の55%を占め、家族経営型が多い中堅・中小企業の典型と言えるハーガー・グループは、引き続き国内にも投資しているが、結局フランス東部のアルザス地方に1億2000万ユーロ(1億3000万ドル)を新たに振り向けることになった。26日にフランス大統領として2000年以降で初めてベルリンを公式訪問するマクロン氏は、前任者たちのように外資誘致競争で置き去りにされることをあまり心配せずに済む。000年当時、フランスは週35時間労働制を導入したばかりで多くの外国投資家にそっぽを向かれていた一方、ドイツは労働改革を強化し、06年から10年間にわたる力強い輸出拡大基調の土台を築いた

     

    ドイツは、フランスが週35時間労働制を導入した結果、2006年から10年間にわたりドイツの優位性が目立ち輸出拡大基調の基礎を築いた。フランスの「敵失」に救われた形だ。

     

    (3)「近年、そのドイツの経済成長モデルには疑念が生じている。中国向け輸出や安価なロシア産天然ガスに依存し過ぎた上に、インフラの老朽化や電力価格の高騰、緊縮財政などが重くのしかかっているからだ。対照的にフランスは、原子力エネルギーを長期的に推進してきた経緯もあり、外国のハイテク企業からの投資も増えている。例えばマイクロソフトは、膨大な電力を消費するデータセンターを同国に建設する」

     

    今やドイツに逆風が吹いている。原発抑制とロシア産天然ガスに依存しすぎた結果、エネルギーコストが高騰している。ドイツは、インフラの老朽化や憲法上の規定による緊縮財政も重なり、欧州の病人とまで言われる事態だ。フランスとは、立場が入れ替わった。

     

    (4)「コンサルティング会社EYの年間調査によると、ドイツが勢いを失い、英国も欧州連合(EU)離脱による逆風が依然尾を引いている中で、フランスは2019年から欧州で外国からの直接投資が最も多くなっているマクロン氏が企業投資誘致のためにベルサイユ宮殿で毎年開催している会議では今年、過去最高となる150億ユーロ相当の投資の約束を獲得。また同氏は法人所得税率を25%に引き下げることなどで、企業の年間の税負担を250億ユーロ圧縮したほか、他の事業関連税を軽減したり撤廃したりしている。

    ドイツ貿易・振興機関によると、同国の平均的な法人税率は30%弱だ」

     

    ドイツへ集中した対内直接投資は、2019年からフランスへ流れが変わった。フランスの改革が軌道に乗ったからだ。

     

    (5)フランスは企業寄り政策が実を結び、マクロン氏が初当選した17年以降の経済成長率はドイツの2倍以上に達していることが、ロイターの計算で分かる。フランスの雇用数も過去最高水準だ。EYの調査によると、外資が創出した雇用数は昨年4%増加したただ外国投資家の人気を集めているこうしたマクロン氏の改革は、しばしば有権者の感情を逆なでし、同氏の支持率は低迷している。フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままだ。ハーガー氏は、外国投資がフランスに大きく流入しているとしても、同国の工業セクターがドイツに追いつくまでの道のりはなお非常に長い、と話している

     

    マクロン氏が、フランス大統領に就任以来のGDP成長率は、ドイツの2倍になっている。だが、国内の評判はよろしくなく世論との紛争が絶えない。フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままである。フランスが、ドイツの工業部門の水準へ到達するのはまだ先の話だ。

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    ドイツ経済が、低成長で苦しんでいる。エネルギーコストの上昇で、国内企業が国外へ脱出して空洞化が進んでいるからだ。事態は、構造的な問題を抱えるだけに深刻だ。

     

    IEA(国際エネルギー機関)は、欧州がエネルギー政策で「歴史的に見て重大な誤りを犯した」と指摘する。その典型例がドイツだ。ロシア産の天然ガスに依存し、脱原子力発電政策を進めたことを指している。かつては、「脱原発」の模範国とされたドイツが窮地に立たされている。

     

    『日本経済新聞』(4月29日付)は、「ドイツ成長率、日本下回る 今年0.3%見通し G7で最低 政治不信で投資手控え」と題する記事を掲載した。

     

    欧州最大の経済大国ドイツは、景気回復の遅れが目立っている。ドイツ政府の試算では2024年の実質成長率は0.%と振るわず、日本を含む主要7カ国(G7)で最低になる見通しだ。ショルツ政権への不信から産業空洞化の懸念も影を落とす。

     

    (1)「ハベック経済・気候相は4月24日、「生産性と潜在成長率の見通しが非常に低い。中長期的に高成長を実現するには構造変化が必要だ」と春の景気予測の発表で危機感を訴えた。景気は、底打ちして緩やかに持ち直す想定だが、24年の実質成長率の見通しは0.3%と従来の2月時点から0.%の上方修正にとどまる。想定より長引く低空飛行はショルツ政権にとって大きな誤算だ。ロシアがウクライナに侵略した後、22年秋の時点では成長率が24年に2%台まで戻る姿を描いていた」

     

    ドイツ経済は、ロシアのウクライナ侵攻を機に始まった「脱ロシア」で大きな痛手を受けている。割安なロシア産原油依存を絶つほかなかったからだ。米国は、ドイツのロシア依存に対してかねてから警告してきた。それが現実化したのである。ドイツは、「脱原発」を進めている。こうして、ドイツのエネルギーコストは、米国より23倍高いと指摘されている。特に重工業は、コスト面で中国や米国など他の主要国と比べて著しく不利な立場にある。

     

    (2)「ドイツ経済の苦境は、先進国の中で際立つ。23年に名目の国内総生産(GDP)はドル建てで日本を超え、米国と中国に次ぐ世界3位に浮上したものの実質成長率では日本を下回る可能性がある。国際通貨基金(IMF)が4月に公表した24年の経済見通しでは、フランスとイタリアの0.%や日本の0.%を下回った。ユーロ圏全体の0.%より低く、ドイツの低迷が欧州経済の足を引っ張る」

     

    IMFが公表した経済見通しでは、今年のドイツ経済は0.3%成長である。日本の0.9%を大幅に下回り、G7では最低の見通しである。ドイツ経済の苦境ぶりを浮き上がらせている。

     

    (3)「景気低迷の主因は、インフレや欧州中央銀行(ECB)の利上げの影響だ。ドイツ連邦統計庁が30日発表する1~3月期のGDPは、市場予想で前期比0.%増と小幅なプラス成長になりそうだ。23年10~12月期は0.%減で、2四半期連続のマイナス成長となるかの瀬戸際にある。ドイツ経済が持続的に改善する兆しはまだ見えていない。今春にかけて鉱工業生産は持ち直したが、建設需要などは冷え込んだままだ。ドイツ政府は賃上げとインフレ鈍化による消費の持ち直しで景気回復のシナリオを見込むものの、直近2月の独小売売上高は前月比1.%減とユーロ圏20カ国で最も落ち込んだ」

     

    ドイツ経済にとっての重石は、高金利が続いていることもある。これが、国内経済を抑圧している。2月の小売売上高は、前月比1.%減とユーロ圏20カ国で最悪の状態である。

     

    (4)「より深刻なのは、ショルツ政権に対する政治不信の高まりだ。ドイツ連邦銀行(中央銀行)は「経済政策の不確実性の高まりが企業の投資を抑えている」と分析する。「失われた2年だった」。日本の経団連に相当するドイツ産業連盟(BDI)のジークフリート・ルスブルム会長は4月、南ドイツ新聞とのインタビューでショルツ政権を痛烈に批判した。欧州各国と比べた成長の遅れから、有効な経済対策を打てない独政府を非難する」

     

    ショルツ政権への支持率は低下している。次期総選挙では、保守党に政権が移るとみられるほど。こうした政治不安が、企業投資を抑制している。経済界からも支持を失っている。

     

    (5)「企業向けの電気料金は米国や日本より高く、産業界は立地拠点としての競争力低下に身構える。ドイツ経済研究所(IW)によると、ドイツへの直接投資額は23年に218億ユーロ(約3.7兆円)と14年以来の低水準だった。海外向け直接投資は5倍超の1159億ユーロで流出超過が続く。IWのシニアエコノミスト、クリスチャン・ルッシェ氏は「政治が現状のままであれば産業空洞化が大幅に加速する可能性がある」と指摘する」

     

    ドイツ経済は、大きな転換点に立たされている。従来からのロシアや中国へ傾斜した貿易政策が、根本から揺さぶられているからだ。ドイツは、過去のメルケル政権が敷いてきた路線が、大きく問い直されようとしている。

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    中国企業の不況は深刻な事態に陥っている。ドイツの先進ロボット企業と合弁契約を結んだものの、資金不足で必要な投資ができず、これを不服としてドイツ企業が契約を解除して撤退した。中国にとっては、後味の悪い結果だ。

     

    『レコードチャイナ』(2月26日付)は、「ドイツの先進ロボット企業 中国との合弁解消し生産拠点をドイツに戻すー独メディア」と題する記事を掲載した。

     

    独国際放送局『ドイチェ・ヴェレ 中国語版サイト』(2月22日付)は、ドイツのロボット企業が中国企業との合弁をやめ、生産拠点を中国からドイツに戻すと報じた。

     

    (1)「記事は、ドイツのバーデン・ビュルテンベルク州に本社を置くスタートアップ企業Neura Roboticsが先日、現在ロボット4機種を生産している中国工場を引き払い、すべてドイツ国内で生産する意向を示したと紹介。創業者が、「ドイツにはエネルギー価格の高止まりなど多くの問題があるが、転ばぬ先の杖ということで生産拠点を自国に戻すことにした」と理由を説明するとともに、「ドイツ製品の品質は今なお世界で広く認められているので、ドイツでの生産には自信を持っている」と語ったことを伝えた」

     

    ドイツの先端ロボット技術が、中国へ流れることに疑問も多かった。それが、今回の契約違反で解除となった。ドイツでは、胸をなで下ろしているであろう。

     

    (2)「同社は、中国広東省深セン市のロボット会社との合弁により運営していたものの、中国側が約束していた投資がしっかりと行われないなど双方の提携が順調に進まなかったことを理由に合弁を解消し、西側企業を新たな株主に迎えたとした。記事によると、同社は先進的な感覚機能を備え、世界で初めて人工知能(AI)とロボット技術を融合した認知機能付き協働ロボット「Maria」を生産しているという。同社の新たな株主となったHVキャピタルのグルーナー氏は、生産拠点をドイツに戻すことについて「ドイツの技術の自主性や世界市場における競争力を高めることにつながる」と歓迎の姿勢を示している」

     

    協働ロボット「Maria」は、世界で初めて人工知能(AI)とロボット技術を融合した、認知機能付き協働ロボットである。中国は、AI半導体製造が米国の輸出規制によって困難ゆえに、合弁事業への融資を渋ったのであろう。

     

    (3)「記事は、ドイツの多くの中小企業が中国とのビジネス縮小、あるいは中国市場から撤退を模索していることが最新データで明らかになったと指摘。在中国ドイツ商工会議所が1月に実施した調査では、中国市場から撤退した、あるいは撤退を検討しているドイツ企業の割合が9%と4年前の2倍以上に増え、44%の在中国ドイツ企業が地政学の変化やサプライチェーン問題など起こりうるリスクへの対策を講じたと回答する結果が出たと紹介した」

     

    ドイツ企業は、徐々に中国からの撤退を始めている。今のところはまだ、大きな流れでないが、中国の少子高齢化の進行とともに中国の魅力は低下する。

     

    『ロイター』(1月25日付)は、「中国市場から撤退もしくは撤退検討の独企業が増加ー商工会議所」と題する記事を掲載した。

     

    在中国ドイツ商工会議所の調査によると、中国市場で事業を展開しているドイツ企業のうち、同市場からの撤退を「進めている」もしくは「検討している」企業が占める比率は9%となり、4年前の4%から2倍強に上昇した。調査は昨年9月5日から10月6日にかけて566社を対象に実施した。

     

    (4)「ドイツ企業が中国市場で直面する地元企業との競争激化、不公平な市場参入条件、経済的逆風、地政学リスクといった試練が浮き彫りになった。調査では、中国事業の売却を進めているドイツ企業は全体の約2%、売却を検討している企業は7%を占めた。さらに全体の44%は、中国に依存しないサプライチェーン(供給網)を構築するなど、中国での事業運営に関連したリスクへの対応策を講じている。また中国経済が下振れ方向の軌道に直面していると答えたドイツ企業は全体の約86%を占めた。だが大半の企業は、こうした状況は一時的であり、向こう13年で景気は回復すると予想した」

     

    ドイツ企業は、売却を進めている企業が2%。検討中は7%もある。実に、9%が撤退構えである。さらに41%は、中国に依存しないサプライチェーンを構築するとしている。ドイツ企業の「中国熱」は完全に冷めてしまった。

     

    (5)「中国では新型コロナウイルスのパンデミックからの回復の足取りが想定よりも弱いことが判明。不動産危機の深刻化やデフレリスクの増大、需要の低迷により、今年の見通しが不透明になっている。それでも回答社の約54%は、競争力を維持するため投資を増やす方針を示した」

     

    54%の企業は、競争力を付ける投資を行うという。全体からみれば半分である。ドイツ企業は、中国に対して「半身」の構えである。変われば変わったものだ。

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    IMF(国際通貨基金)によると、23年のドイツ経済は世界の主要国の中で最も低迷(マイナス0.3%成長)した。IMFは最近の経済見通しで、先進国の23年の経済成長率は平均1.%、新興・発展途上国は4%と予測した。ドイツの出遅れは明白である。この裏には、エネルギーコスト増大という致命的な問題を抱えている。ロシアのウクライナ侵攻へ抗議して、割安なエネルギー輸入を打ち切った跳ね返りである。こうした要因は、早急な解決が難しく、構造的危機という認識が生まれている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月16日付)は、「ドイツ経済、壊れた欧州の成長エンジン」と題する記事を掲載した。 

    ドイツは閉塞状況にあり、手っ取り早く抜け出す方法はない。ドイツ経済は欧州大陸で最も大きく、昨年は縮小した。6年にわたって続く不振は産業空洞化の懸念を引き起こし、欧州全域で各国政府への支えが失われる状況を招いている。

     

    (1)「ドイツの景気悪化は、ドイツの輸出中心のビジネスモデルを一変させつつある逆風が重なっている状況を反映している。逆風には、中国の成長減速からエネルギー価格や金利の上昇、世界貿易を巡る緊張の高まり、グリーンエネルギーへの移行の難しさに至るまでが挙げられる。こうした周期的で構造的な要因のいずれもが直ちに改善される兆候がまったくないことから、ドイツの見通しは良好ではなさそうだ」 

    ドイツ経済は、23年に名目GDPで日本を抜いたとされるが、実態は極めて深刻である。グリーンエネルギー転換と原油や天然ガスの価格上昇で、生産コストが急増している。 

    (2)「フランクフルトを拠点とするナティクシスのエコノミスト、ディルク・シューマッハ氏は「これほどドイツの中期的な見通しを懸念したことは今までにない」と述べた。同氏は数十年にわたってドイツ経済を追跡してきた。ドイツの実質GDPは、2017年末比でわずか1%増にとどまった。米経済が同時期に13%成長したのとは対照的だ。ドイツは今年、不動産市場の崩壊や中東の紛争によるアジア・欧州間の通商航路寸断など、新たな経済的脅威に直面している。失業率が上昇し、移民の数が過去最多になっているにもかかわらず、企業は労働力不足を訴えている。憲法裁判所が予算外の基金の使用を制限する判断を下したため、政府の歳出計画は混乱に陥っている」 

    ドイツの実質GDPは、2017年末比でわずか1%増である。米経済が、同時期に13%成長したのとは対照的だ。ドイツ経済の停滞が明らかである。

     

    (3)「こうした(財政支出削減)問題を受けて、幅広い人々が怒りを強めている。農業従事者らは15日、補助金削減に抗議し、ベルリンで道路を封鎖するデモを行った。世論調査の結果によると6月の欧州議会議員選挙とその後の年内に予定される州議会議員選挙では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」がドイツの最大政治勢力となる可能性がある。これらすべてを受けて、「欧州の病人」との呼び名が復活しつつある。この名は1990年代終わりから2000年代初めにドイツに付けられた。当時の同国は、東西統一の後遺症で競争力を失っていた」 

    経済停滞が、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を最大政党に押し上げる危険性が出てきた。ドイツの政治土壌には、ヒトラーを生んだ極右思想が潜んでいる。日本には見られない政治現象である。 

    (4)「ドイツ東部ザクセン州にある創業175年の鋳物メーカーGLギーセライ・レースニッツのマックス・ヤンコフスキー最高経営責任者(CEO)は「産業空洞化の脅威があることは事実だ」と述べる。エネルギー価格は一時より下がったが、ヤンコフスキー氏によれば、それでも電力価格はロシアのウクライナ侵攻開始前と比べて3~4倍になっており、米国の競合企業が払っている額との比較では5倍以上になる。同氏は、この問題の解決に向けた政府の対応について「依然として戦略の全体像が見えない」と語った。また、「われわれは、コスト上昇分を自動車メーカーに転嫁することができない。そうすればメーカー側が、トルコや中国に乗り換えると言うからだ」と語った」 

    ドイツは、エネルギー価格の急上昇で「産業空洞化」の恐れが出てきた。電力価格は、ウクライナ侵攻前の3~4倍へ、米国の5倍以上になっている。大変な事態だ。

     

    (5)「歴史あるドイツの自動車産業は現在、欧州で電気自動車(EV)販売を強化しつつあるテスラや中国の新興ライバル企業との競争で苦境に陥っている。ロビー団体の独自動車工業会によると、同国の乗用車生産台数は、2010年代半ばの水準を25%余り下回っている。また、経済協力開発機構(OECD)によれば、ドイツの製造業全体の生産高は2019年の水準を下回っており、減少傾向にある。ドイツ商工会議所(DIHK)が最近、工業分野の同国企業2200社以上を対象に行った景況感調査は、2008年の調査開始以降で最悪の結果となった。DIHKのマルティン・バンスレーベン会長は、「工業やその関連業界にとってドイツの魅力は急速に低下している。その結果、必要な投資が行われなかったり、他の場所で行われたりしている」と述べた」 

    ドイツ商工会議所は、工業関連業界にとってドイツの魅力が急速に低下していると指摘する。企業は、必要な投資が行われなかったり、他の場所で行われたりしているのだ。ドイツは、GDP世界3位の位置を長く維持できそうにないのだ。

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    IMF(国際通貨基金)の予測によれば、23年の名目GDPはドイツが僅差(4.7%)で日本を抜くという。円安がもたらした事態である。この状態が、定着化するわけでない。24年の円相場は、世界的に「上昇する通貨」として注目されている。1ドル=130円見当の円相場が見込まれるのだ。現在の141円台かれみれば7~8%の円高になる。円高になれば、ドイツに譲った「名目GDP3位」は日本へ戻るであろう。 

    ドイツ経済は、日本以上に深刻な事態に見舞われている。ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアからの割安な原油や天然ガスの輸入が止まったことだ。エネルギー価格の上昇が、インフレ率を高めている。これが、皮肉にもドイツの名目GDPを押し上げたのだ。ドイツが、名目GDP3位になったことに無関心である理由でもある。こういう事情である以上、日本が名目GDP3位でなくなったことを取り立てて騒ぐ必要もない。ただ、「失われた30年」の帰結が、ここに現れたという認識は持つべきであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月2日付)は、「ドイツに迫る『日本化』、GDP逆転も潜在成長率ゼロ%台」と題する記事を掲載した。 

    欧州最大の経済大国ドイツが、名目の国内総生産(GDP)で日本を超える。ウクライナ危機が直撃したドイツ経済は、本当に成長しているのか。実は長期停滞に陥る「日本化」の根深い構造問題が待ち構えている。 

    (1)「いまのドイツ経済に「日本超え」の高揚感は全くない。「我々は深く、長い谷の真ん中にいる」。23年12月中旬、独化学工業会のシュタイレマン会長は危機感を訴えた。会員企業の売上高が年2600億ユーロ(約40兆円)というドイツ有数の経済団体で、25年までは経営環境が好転しないと見込む企業が多くなっている。ウクライナ危機が直撃した業界の一つがドイツ経済の屋台骨である化学メーカーだ。ドイツはガス調達の過半を安価なロシア産に依存していたが、主要7カ国(G7)が経済制裁を強めると供給が遮断。ドイツ企業は割高な価格でエネルギーの代替調達を迫られた」 

    ドイツは、安価なエネルギーを求めてロシア依存を高めた。米国は、その危険性を忠告したが聞き入れず今日の事態を招いた。ドイツに燻る「反米」が、大きな蹉跌をもたらした。外交感覚が鈍かったのだ。ロシアの本性を見誤った結果である。

     

    (2)「欧州債務危機などを乗り越え、ドイツは世界有数の経常黒字国として成長を続けてきた。けん引役は自動車や化学製品に代表される輸出だが、単に人口8400万人の国と捉えれば見誤る。単一通貨ユーロの誕生でドイツにとって割安な通貨が輸出の追い風になり、米国とほぼ同じ規模の約3億人が暮らす豊かな通貨圏が広がった。独経済諮問委員会が取りまとめた超長期の景気予測は衝撃的だ。経済成長の巡航速度を示す潜在成長率は26年に0.3%と過去半世紀で最低になり、今後10年以上は1%に届かない。東西ドイツ統一後、景気低迷から「欧州の病人」と冷やかされた2000年代にかけては1〜2%を維持していた。今の日本以下の水準に沈むことになる」 

    ドイツ経済が、日本を追い上げた背景にはユーロの誕生がある。ドイツの輸出競争力が大いに高まったのだ。それも限界を迎えている。労働力不足が、潜在成長率を引き下げる。今後10年以上、潜在成長率は0%台に止まる。ドイツは、「欧州の老人」になる。

     

    (3)「最も厳しいのが労働力不足だ。日本と同様に女性や高齢者の就業が下支えしてきたが、退職者の増加に追いつかない。人口に占める65歳以上の比率である高齢化率は日本が29%で、ドイツは22%。ウクライナ危機で100万人規模の避難民を受け入れたものの「移民では相殺できず労働力の大幅な減少につながる」(経済諮問委)。実際、ドイツ経済は景気後退の瀬戸際でも労働市場は安定している。IMFによると独失業率は28年に3%弱と東西ドイツ統一後の最低を更新する見通しだ。失業者があふれた2000年代にかけて10%前後で推移していたのとは対照的で人手不足に起因する失業率の低位安定こそが皮肉にもドイツ経済の不安の源泉だ」 

    下線部は、日本と似通った状態を示している。労働力不足が深刻化しているのだ。 

    (4)「ドイツが再び成長力を取り戻すには、構造改革や公共投資の成否がカギになる。独ハンブルク商業銀行のチーフエコノミスト、サイラス・デラルビア氏は「保育施設の充実など女性の労働参加を増やす取り組みが解決策の一つだ」と指摘する。名目GDPで逆転を許す日本は学べる相手だ。「人手不足への対処でデジタル化を活用する知見がある」とした上で「ドイツの企業や政治家は日本の経験を参考にするのが急務だ」と訴える。成長戦略に位置付ける環境投資は切り札になりえても、ドイツの企業向け電力料金は米国などの2倍以上で拙速な環境規制には反発が避けられない。競争力低下に危機感が強まる内憂外患のドイツ経済。名目GDPは世界3位になっても、世界経済はドイツの構造問題に向き合うことになる」 

    ドイツは、人手不足への対処でデジタル化が必要としている。その点では、日本の経験を参考にするのが急務としているほど。そう言われると日本は恥ずかしくなるが、日本のキャッシュレス決済は33%(2021年)だ。ドイツは21%(2020年)に止まっている。ドイツ人は、生活が地味で古風である。新しいものを受入れない「古さ」がつきまとっている。一口で言えば、良い意味で「頑固」な民族である。

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