ドイツの開放的経済は、これまで最大の強みだった。今、その開放性が最大の弱点となっている。かつてドイツ製品を大量に買い求めていた中国が、ドイツと同様の製品の多くを、はるかに安い価格で生産している。ドイツは、かつての「上得意先」であった中国の輸入品に溢れかえるだけでなく、他国市場でもドイツ製品を圧迫している。
これは、ドイツ政府にも責任がある。ドイツ企業の中国投資には、投資保証保険を付与していたからだ。投資に失敗してもドイツ政府の保証が得られた。さらに、中国では補助金も給付されるという「おんぶに抱っこ」という甘えがつきまとっていた。こうして、安易な対中投資が大量に行われた。いまそれが、逆転したのだ。ドイツ経済回復の手立ては、中国製品の輸入抑制と労働市場の流動化とされている。いずれも、簡単な問題ではない。
『ウォールストリート・ジャーナル』(6月29日付)は、「ドイツ支えた開放経済、今や最大の弱点に」と題する記事を掲載した。
ドイツは、同国企業を重要な資源や技術から切り離す保護主義的な措置に対して脆弱(ぜいじゃく)であることを思い知らされた。さらに、イラン戦争によるエネルギー価格高騰からドナルド・トランプ大統領の関税に至るまで、自国の力では制御不能な外部ショックに翻弄(ほんろう)されている。
(1)「国営ドイツ復興金融公庫(KfW)のチーフエコノミスト、ディルク・シューマッハ氏は、「ドイツは確かにグローバル化の勝者だった」と述べた上で、「しかし相互依存関係は武器として利用される可能性がある。ルールに基づく秩序がもはや保証されない世界では、グローバル経済に高度に統合されていることが、かえって脆弱性を高めることになる」と指摘した」
ドイツの弱点を見事に言い当てている。余りにも中国市場へ特化し過ぎたことだ。それが、結果として中国に振り回される結果になった。その点、日本は深入りを避けて傷が浅くて済んだ。ドイツは、中国社会の特質を理解していなかったのであろう。
(2)「メルツ首相率いるドイツ政府は、企業への減税やエネルギー価格の引き下げ、国防費やインフラ投資の拡大などで成長を後押ししようとしたが、世界的な逆風の中でこれらの取り組みはいまだ実を結んでいない。同国政府は最近、定年を67歳から70歳に段階的に引き上げると発表した。雇用主と従業員が負担する制度を見直すことで、最終的には競争力の向上につながる可能性がある」
定年が、2030年代半ばまでに延長することで労働供給を増やして、 企業の人材不足を緩和し、競争力を維持する狙いだ。ただ、労働供給増は微々たるもので2~3%増と見積もられている。最大の産業政策は、日独共同で「合成燃料」(二炭化酸素ゼロ)の商品化である。EV(電気自動車)によって数十万人の雇用が失われると予測されるだけに、現在の内燃機をそのまま使える合成燃料開発に邁進することだ。一刻の猶予もできない。
(3)「比較的低水準にとどまっている失業率や公的債務を除けば、ドイツ経済の主要指標は明らかに不健全な状態にある。大半のエコノミストと政府は、今年の国内総生産(GDP)成長率が1%以下にとどまると予想している。GDP成長率は2019年以降、ユーロ圏全体の成長率を下回っている。投資はフランス、イタリア、スペインで増加する一方、ドイツでは2020年以降減少している。シンクタンクのドイツ経済研究所が今月発表した調査によると、製造業の雇用者数は660万人まで減少し、10年ぶりの低水準となった」
雇用事態は、窮迫している。インフラ投資増も必要だが、産業政策が、企業の活性化を実現する上で最善の政策である。
(4)「ドイツ経済が、これほどの深刻な低迷に陥ったのは2000年代初頭以来のことだ。当時は東西ドイツ統一に伴うコストの吸収に苦慮し、厳格な労働法と世界で2番目に高い人件費によって失業率は現在のほぼ2倍にまで上昇していた。2003年、当時のシュレーダー首相率いる政府は失業給付を大幅に削減し、賃金設定における雇用主の発言権を拡大し、減税を実施した。
その結果、わずか2年で失業率は低下し、輸出は急増し、財政は潤った。ドイツは6年連続で、一人当たり輸出額だけではなく、輸出総額でも世界トップとなった」
2003年当時の不況対策は、賃金引上げの弾力化である。つまり、労組の硬直的な賃金引き上げ策でなく、企業の支払能力を加味した柔軟な取組みのほかに、減税を組み合わせた。こういう政策も有効であろう。
(5)「複数の調査によると、企業は米国の関税よりも官僚主義を事業活動の最大の足かせと考えている。ドイツ政府は、この分野で一定の前進を示しているが、需要に応じた採用・解雇を困難にしている硬直した労働法制の緩和を求める経済界の声には依然として抵抗している」
ドイツは、制度的に労組の賃金要求など労働条件の改善策で主導権を認めている。ただ、硬直的な傾向もあるので、そこは弾力的にしないと、賃金コストの引上げが経済全体の調和を乱すリスクもある。
(6)「KfWのシューマッハ氏によると、ドイツ政府が戦略的産業を守りながら新産業を育成する上で直面する優先課題は三つある。それは、重要な原材料の供給源を増やすこと、新興企業を大企業へと成長させるために利用可能な資本を増やすこと、そして安価な中国製品の流入から自国を守ることだ。ドイツ政府は、国家が支援する中国製品の規制を強化するという欧州連合(EU)の提案に歩み寄る姿勢を示している。しかし、多くの企業が依然として中国からの調達に大きく依存しているため、ドイツは潜在的な報復措置に耐えられる準備がまだ整っていないと当局者らは述べている」
合成燃料こそ最適である。ドイツ最大の産業は、自動車産業である。ここをEVで荒らされると既存の内燃機が潰される。目的は、二酸化炭素ゼロ化である。合成燃料は、大気の二酸化炭素を吸収し、これに「グリーン水素」を加えれば新燃料が完成する。日本においては、技術的な見通しが立っている。後は、頭の切替えだけだ。



