勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース

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    昨年のドイツ名目GDPは、日本を抜いて世界3位になったものの実態はふらついている。円の異常安が生んだGDP3位交代であったことが、ますます明確になっている。 

    ドイツの欧州経済研究センター(ZEW)が、17日発表した9月の先行指数は3.6と、8月の19.2から急低下した。エコノミスト予想では、17への小幅な低下が見込まれていた。これほどの大幅悪化を予想したエコノミストは1人もいなかった。一致指数もマイナス84.5へ低下した。 

    『ブルームバーグ』(9月17日付)は、「ドイツの景気見通しは『著しく悪化』、ZEW先行指数が急低下」と題する記事を掲載した。 

    (1)「ZEWのバンバッハ所長は発表文で、「景気の早期改善への期待は目に見えて薄れつつある」と述べ、「ユーロ圏景気見通しの後退は悲観的な見方が総じて強まっていることを示唆するが、ドイツの見通しは著しく悪化している」と指摘した。ドイツの4ー6月(第2四半期)国内総生産(GDP)はマイナス。工業界の不振が影響した。ここ最近は、自動車メーカーのフォルクスワーゲン(VW)が国内工場の閉鎖検討や雇用保障協定の破棄を明らかにしたほか、BMWは業績予想の下方修正を強いられるなど、厳しいニュースが相次いでいる」

     

    ドイツ経済は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーコストの急上昇で製造業が窮地に立たされている。景気の半年から1年先を示す先行指数が、たったのプラス3.6では、10月はマイナス転落が不可避だろう。一致指数は、すでにマイナスである。ドイツ経済は正直正銘の危機状態にある。 

    『ブルームバーグ』(9月6日付)は、「ドイツ激震、VW工場閉鎖は『氷山の一角』 工業力衰退の象徴に」と題する記事を掲載した。 

    ドイツ最大のメーカー(VW)が工場閉鎖という引き返せない「ルビコン川」を渡ろうとしていることで、ドイツは工業力衰退という物語の中で最も象徴的な瞬間に直面している。VWの発表は、ビジネスの現実を遅ればせながら認識したというだけではない。自動車大国としてのドイツのイメージと、かつて輸出世界一だった経済への打撃だ。

     

    (2)「VWの発表は、ビジネスの現実を遅ればせながら認識したというだけではない。自動車大国としてのドイツのイメージと、かつて輸出世界一だった経済への打撃だ。1989年にベルリンの壁が崩壊すると、東西ドイツの統一が急がれたが、文化や経済面での格差は残った。9月1日に投開票された独東部2州の州議会選では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進した。東西の分断を浮き彫りにしているAfDや左派ポピュリストの勢いを止める力は、主流派の政党にはない」 

    旧東ドイツの2州は、景気が停滞しており極右政党が州議会選で躍進している。不況期の極右政党の進出は、旧ナチスを連想させるだけに不気味である。 

    (3)「AfDの台頭は、ショルツ首相の連立政権にとって痛手となるだけではない。2025年の総選挙が迫る中で有権者が抱く不満の根本原因に向き合うよう迫っている。そうした中で多くを左右するのが、輸出主導の自動車製造大国から、半導体やEVバッテリーといった先端を行くクリーンエネルギー大国への速やかな移行という新たな経済の奇跡をドイツが成し遂げられるかどうかだ」 

    かつての自動車大国ドイツが、VWの工場閉鎖問題が象徴するように、行き詰まっている。日本は、トヨタが世界一の座を堅守してくれている。ありがたいことだ。

     

    (4)「VWの失速は、時代に乗り遅れた企業を巡る警告であり、ドイツの成功モデルに潜んでいた陥穽(かんせい)だ。欧州経済の原動力となってきたドイツが、今後も欧州をリードし続けることができるのか疑問に疑問が投げかけられている。INGのマクロ部門責任者カルステン・ブルゼスキ氏は「VWの問題は誤った経営判断による自業自得という側面もあるが、VWはビジネス拠点としてのドイツが直面している難題の一例を突き付けている」と指摘。ドイツは長年にわたり競争力を失い続けており、これがかつての独経済の至宝、VWにも影響を及ぼしている」と述べた」 

    VWの失速は、EV(電気自動車)へ賭けすぎたことだ。EVが、未だ技術的に完成していないことに気付かず勝負した結果である。トヨタの判断とは、全く異なっていた。経営判断の失敗である。 

    (5)「VWは昨年、東部の中規模都市ツウィッカウでフルEV247000台と、「ランボルギーニ」と「ベントレー」向けに1万2000の車体を生産したが、工場閉鎖の可能性が浮上する前から、コスト削減がすでに進んでいた。EVが依然として高価でEV購入を促す奨励策が縮小されつつあり、欧州でのEVの普及がなかなか進まないという状況にツウィッカウ工場は全面的にさらされている。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のエコノミスト、マーティン・アデマー氏は、「ドイツ経済における自動車産業の重要性は近年低下しているが、引き続き非常に重要なセクターであることに変わりはない」と語った」 

    自動車産業は、雇用の受け皿である。工場閉鎖は、大変な失業者を生む。

     

     

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    ドイツ社会といえば、融通が効かぬほどの「堅物」とされている。一度決めたルールは、どんなことがあっても変えない。この頑固さが、財政赤字を少額にする一方で、インフラ投資不足を招くという、予想もつかない事態を招いている。 

    最近は再び、「欧州の病人」とまで呼ばれているほど。国内貯蓄は、「腐るほど」持っていながら、国債を発行しないで宝の持ち腐れになっている。これは、第一次世界大戦で天文学的インフレに陥った反省から来ている。あの苦しみが、骨の髄まで染みこんでいるのだ。ドイツのGDPは昨年、日本を抜いた。日本が、再び抜き返すチャンスはありそうだ。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月17日付け)は、「ドイツは再び『欧州の病人』か」と題する記事を掲載した。 

    国際通貨基金(IMF)の欧州部門が、3月27日に公表したブログの冒頭部分で「ドイツは苦しんでいる。昨年は主要7カ国(G7)で唯一、マイナス成長となり、今年の成長率も7カ国中最低となるだろう」と指摘した。

     

    (1)「IMFによると、ドイツの1人当たり国内総生産(GDP)は2019〜23年の4年で1%低下した。これは41カ国の高所得国中34位に位置付けられる。G7でドイツより悪かったのはカナダだけで、マイナス0.%の英国や0.%のプラスとなったフランスより悪い。6%の伸びを示した米国は別格だ。ドイツ経済が病んでいるとすれば、それは一過性の現象か、それとも慢性疾患なのか。以下の点からみると、前者であると論じることは可能だ」 

    ドイツ経済は、ここ数年低調である。日本は、このドイツに名目GDPで抜かれた。ひとえに円安が原因である。ドイツは、「ユーロ」という共通通貨によって守られている。幸運だ。 

    (2)「IMFブログで指摘するように、ドイツの交易条件はロシアによるウクライナ侵略で天然ガス価格が高騰したことで大幅に悪化したが、天然ガス価格が再び下落すると18年の水準に戻った。同時に起きた急速なインフレ高進も落ち着き、欧州中央銀行(ECB)は金融緩和に転じた。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後に製品からサービスへと世界的な需要のバランス再調整が起きたこともドイツ経済に不利に働いたが、これも反転しそうだ」 

    ドイツのエネルギー・コスト高は、ようやく収拾段階を迎えている。

     

    (3)「今のドイツ経済は5つの逆風にさらされている。第1に、ドイツの労働力人口(15〜64歳の人口)の比率は19〜23年には上昇していたが25〜29年には0.66ポイント低下すると予想されている。これはG7では過去最大の下げ幅だ。第2に、18〜22年の総公共投資のGDP比率は2.%で、主要な高所得国の中でスペインを除いて最も低い。英国も3%と低いが、それをも下回る」 

    ドイツ経済は,5つの逆風に遭遇している。第1が、生産年齢人口の減少だ。日本を上回る落込みである。第2は、インフラ投資不足である。ドイツの道路を見ると、舗装道路の至る所が必要箇所だけしか「布を当てたような」修繕しかしない「ケチケチ」ぶりだ。 

    (4)「第3に、ドイツの1人当たりGDP(購買力平価ベース)は17年には米国の89%だったのが23年には80%に低下し、同期間でG7中最大の低下率を記録した。第4に、ドイツはデジタル経済で重要な役割を果たせない状況が今後も続く。ドイツは欧州最大の経済であるため、その影響は欧州連合(EU)全体にも及ぶ。第5に、世界は分断の時代に入りつつある。これは貿易への依存度が高いドイツ経済にとって大きな痛手となる」

     

    第4は、ドイツがデジタル経済と最も遠いところに位置している。古風なのだ。第5は、貿易依存度が高いことである。EU他国への貿易量が多いことの必然的結果である。 

    (5)「ドイツの債務嫌いは誤りか、それ以上に偽善的だ。ドイツの貯蓄過剰は他国の貯蓄不足と債務でバランスが保たれなければならない。さらに、ユーロ圏諸国に財政赤字の削減を呼びかけても、ユーロ圏の経常黒字がさらに拡大するか、他のユーロ加盟国(例えばフランス)の民間部門が赤字に転じることを余儀なくされない限り、うまくいかない。こうした調整はドイツによる「近隣窮乏化策」と捉えられ、景気後退を引き起こす危険がある」 

    ドイツ人は、独特の金銭感覚で無駄な失費と無縁な生活だ。1517年、世界で最初に宗教改革を始めた国である。無駄な失費をとことん嫌う感覚が、プロテスタンティズムを生んだと思える。この精神が、連綿として受け継がれている。かつて、ドイツ南部の時計職人は自分でつくった柱時計を背負ってスイスまで行商に出かけていた。この堅実さが、今もドイツ人の血の中に流れている。

     

    (5)「ドイツの純公共投資額は今世紀初め以来ほぼゼロだと記されている。従って公共資本のGDP比率は一貫して低下を続けている。民間部門にこれだけの余剰貯蓄を抱える国であれば、ドイツとユーロ圏が必要とするより強力な供給サイドと需要の両方を生み出すため余剰貯蓄を国内投資に振り向けない手はない。ドイツが直面する短期的な問題はいずれ過ぎ去る。それよりも長期的な問題の方が深刻だ。中でも最も不必要な阻害要因は必要とされる公共投資の財源を国内で賄うことへの抵抗感だ。憲法に相当する基本法で財政赤字に上限を設ける不条理な「債務ブレーキ」を解除すべき時が来たようだ」 

    ドイツの純公共投資額は、今世紀初め以来ほぼゼロだという。いかにもドイツ人社会の堅物さを示している。インフラも、ボロボロになっても補修を続けて使っている。およそ、「使いずて」とは無関係な生活である。インフラ投資へもっと資金を使えという要求だ。

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    ドイツは、欧州経済の王者を自任してきたが、高電力料金で海外企業はドイツへの直接投資を敬遠してフランスへ流れている。フランスは、言わずと知れた原子力発電国である。低電力料金を「売り」にして対内直接投資では、ドイツのお株を奪っている。「工業国ドイツ」は危機感を強めているが、対抗策はゼロだ。ドイツ企業自体が、「脱ドイツ」を急いでいるほどである。

     

    『ロイター』(5月25日付)は、「企業投資はドイツからフランスへ、マクロン氏の改革が成果」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツの電子部品メーカー、ハーガー・グループは事業拡大に向けた新工場の建設場所を国内とフランスのどちらにするか迷った結果、フランスを選択した。グループ会長のダニエル・ハーガー氏はロイターに、フランスの法人税軽減措置や、工場立地探しに対する地元当局の支援、さらに企業にとって悪名高い同国の厳格な労働規制を柔軟に運用できる余地ができたことなどが、決め手になったと明かす。

     

    (1)「これはまさに、マクロン大統領が就任から7年かけて打ち出してきた企業寄りの改革が、ユーロ圏の経済規模ビッグ2であるフランスとドイツの経済的な力関係を変えたことを物語っている。もはやフランスの高い税率や、ドイツの週40時間よりも少ない週35時間の労働制に外国投資家が不満を唱えていた時代は遠い昔となり、フランスへの外国からの直接投資は記録的な水準に達しつつある。ハーガー氏は「マクロン氏が大統領に就任して以来、企業にとって事業環境ははっきりと改善し、歓迎されている」と語った」

     

    フランスは、マクロン氏が大統領へ就任以来7年間、取組んできた企業寄り改革が実を結び、海外からの直接投資は記録的な増加率になっている。

     

    (2)「ドイツの雇用の55%を占め、家族経営型が多い中堅・中小企業の典型と言えるハーガー・グループは、引き続き国内にも投資しているが、結局フランス東部のアルザス地方に1億2000万ユーロ(1億3000万ドル)を新たに振り向けることになった。26日にフランス大統領として2000年以降で初めてベルリンを公式訪問するマクロン氏は、前任者たちのように外資誘致競争で置き去りにされることをあまり心配せずに済む。000年当時、フランスは週35時間労働制を導入したばかりで多くの外国投資家にそっぽを向かれていた一方、ドイツは労働改革を強化し、06年から10年間にわたる力強い輸出拡大基調の土台を築いた

     

    ドイツは、フランスが週35時間労働制を導入した結果、2006年から10年間にわたりドイツの優位性が目立ち輸出拡大基調の基礎を築いた。フランスの「敵失」に救われた形だ。

     

    (3)「近年、そのドイツの経済成長モデルには疑念が生じている。中国向け輸出や安価なロシア産天然ガスに依存し過ぎた上に、インフラの老朽化や電力価格の高騰、緊縮財政などが重くのしかかっているからだ。対照的にフランスは、原子力エネルギーを長期的に推進してきた経緯もあり、外国のハイテク企業からの投資も増えている。例えばマイクロソフトは、膨大な電力を消費するデータセンターを同国に建設する」

     

    今やドイツに逆風が吹いている。原発抑制とロシア産天然ガスに依存しすぎた結果、エネルギーコストが高騰している。ドイツは、インフラの老朽化や憲法上の規定による緊縮財政も重なり、欧州の病人とまで言われる事態だ。フランスとは、立場が入れ替わった。

     

    (4)「コンサルティング会社EYの年間調査によると、ドイツが勢いを失い、英国も欧州連合(EU)離脱による逆風が依然尾を引いている中で、フランスは2019年から欧州で外国からの直接投資が最も多くなっているマクロン氏が企業投資誘致のためにベルサイユ宮殿で毎年開催している会議では今年、過去最高となる150億ユーロ相当の投資の約束を獲得。また同氏は法人所得税率を25%に引き下げることなどで、企業の年間の税負担を250億ユーロ圧縮したほか、他の事業関連税を軽減したり撤廃したりしている。

    ドイツ貿易・振興機関によると、同国の平均的な法人税率は30%弱だ」

     

    ドイツへ集中した対内直接投資は、2019年からフランスへ流れが変わった。フランスの改革が軌道に乗ったからだ。

     

    (5)フランスは企業寄り政策が実を結び、マクロン氏が初当選した17年以降の経済成長率はドイツの2倍以上に達していることが、ロイターの計算で分かる。フランスの雇用数も過去最高水準だ。EYの調査によると、外資が創出した雇用数は昨年4%増加したただ外国投資家の人気を集めているこうしたマクロン氏の改革は、しばしば有権者の感情を逆なでし、同氏の支持率は低迷している。フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままだ。ハーガー氏は、外国投資がフランスに大きく流入しているとしても、同国の工業セクターがドイツに追いつくまでの道のりはなお非常に長い、と話している

     

    マクロン氏が、フランス大統領に就任以来のGDP成長率は、ドイツの2倍になっている。だが、国内の評判はよろしくなく世論との紛争が絶えない。フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままである。フランスが、ドイツの工業部門の水準へ到達するのはまだ先の話だ。

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    ドイツ経済が、低成長で苦しんでいる。エネルギーコストの上昇で、国内企業が国外へ脱出して空洞化が進んでいるからだ。事態は、構造的な問題を抱えるだけに深刻だ。

     

    IEA(国際エネルギー機関)は、欧州がエネルギー政策で「歴史的に見て重大な誤りを犯した」と指摘する。その典型例がドイツだ。ロシア産の天然ガスに依存し、脱原子力発電政策を進めたことを指している。かつては、「脱原発」の模範国とされたドイツが窮地に立たされている。

     

    『日本経済新聞』(4月29日付)は、「ドイツ成長率、日本下回る 今年0.3%見通し G7で最低 政治不信で投資手控え」と題する記事を掲載した。

     

    欧州最大の経済大国ドイツは、景気回復の遅れが目立っている。ドイツ政府の試算では2024年の実質成長率は0.%と振るわず、日本を含む主要7カ国(G7)で最低になる見通しだ。ショルツ政権への不信から産業空洞化の懸念も影を落とす。

     

    (1)「ハベック経済・気候相は4月24日、「生産性と潜在成長率の見通しが非常に低い。中長期的に高成長を実現するには構造変化が必要だ」と春の景気予測の発表で危機感を訴えた。景気は、底打ちして緩やかに持ち直す想定だが、24年の実質成長率の見通しは0.3%と従来の2月時点から0.%の上方修正にとどまる。想定より長引く低空飛行はショルツ政権にとって大きな誤算だ。ロシアがウクライナに侵略した後、22年秋の時点では成長率が24年に2%台まで戻る姿を描いていた」

     

    ドイツ経済は、ロシアのウクライナ侵攻を機に始まった「脱ロシア」で大きな痛手を受けている。割安なロシア産原油依存を絶つほかなかったからだ。米国は、ドイツのロシア依存に対してかねてから警告してきた。それが現実化したのである。ドイツは、「脱原発」を進めている。こうして、ドイツのエネルギーコストは、米国より23倍高いと指摘されている。特に重工業は、コスト面で中国や米国など他の主要国と比べて著しく不利な立場にある。

     

    (2)「ドイツ経済の苦境は、先進国の中で際立つ。23年に名目の国内総生産(GDP)はドル建てで日本を超え、米国と中国に次ぐ世界3位に浮上したものの実質成長率では日本を下回る可能性がある。国際通貨基金(IMF)が4月に公表した24年の経済見通しでは、フランスとイタリアの0.%や日本の0.%を下回った。ユーロ圏全体の0.%より低く、ドイツの低迷が欧州経済の足を引っ張る」

     

    IMFが公表した経済見通しでは、今年のドイツ経済は0.3%成長である。日本の0.9%を大幅に下回り、G7では最低の見通しである。ドイツ経済の苦境ぶりを浮き上がらせている。

     

    (3)「景気低迷の主因は、インフレや欧州中央銀行(ECB)の利上げの影響だ。ドイツ連邦統計庁が30日発表する1~3月期のGDPは、市場予想で前期比0.%増と小幅なプラス成長になりそうだ。23年10~12月期は0.%減で、2四半期連続のマイナス成長となるかの瀬戸際にある。ドイツ経済が持続的に改善する兆しはまだ見えていない。今春にかけて鉱工業生産は持ち直したが、建設需要などは冷え込んだままだ。ドイツ政府は賃上げとインフレ鈍化による消費の持ち直しで景気回復のシナリオを見込むものの、直近2月の独小売売上高は前月比1.%減とユーロ圏20カ国で最も落ち込んだ」

     

    ドイツ経済にとっての重石は、高金利が続いていることもある。これが、国内経済を抑圧している。2月の小売売上高は、前月比1.%減とユーロ圏20カ国で最悪の状態である。

     

    (4)「より深刻なのは、ショルツ政権に対する政治不信の高まりだ。ドイツ連邦銀行(中央銀行)は「経済政策の不確実性の高まりが企業の投資を抑えている」と分析する。「失われた2年だった」。日本の経団連に相当するドイツ産業連盟(BDI)のジークフリート・ルスブルム会長は4月、南ドイツ新聞とのインタビューでショルツ政権を痛烈に批判した。欧州各国と比べた成長の遅れから、有効な経済対策を打てない独政府を非難する」

     

    ショルツ政権への支持率は低下している。次期総選挙では、保守党に政権が移るとみられるほど。こうした政治不安が、企業投資を抑制している。経済界からも支持を失っている。

     

    (5)「企業向けの電気料金は米国や日本より高く、産業界は立地拠点としての競争力低下に身構える。ドイツ経済研究所(IW)によると、ドイツへの直接投資額は23年に218億ユーロ(約3.7兆円)と14年以来の低水準だった。海外向け直接投資は5倍超の1159億ユーロで流出超過が続く。IWのシニアエコノミスト、クリスチャン・ルッシェ氏は「政治が現状のままであれば産業空洞化が大幅に加速する可能性がある」と指摘する」

     

    ドイツ経済は、大きな転換点に立たされている。従来からのロシアや中国へ傾斜した貿易政策が、根本から揺さぶられているからだ。ドイツは、過去のメルケル政権が敷いてきた路線が、大きく問い直されようとしている。

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    中国企業の不況は深刻な事態に陥っている。ドイツの先進ロボット企業と合弁契約を結んだものの、資金不足で必要な投資ができず、これを不服としてドイツ企業が契約を解除して撤退した。中国にとっては、後味の悪い結果だ。

     

    『レコードチャイナ』(2月26日付)は、「ドイツの先進ロボット企業 中国との合弁解消し生産拠点をドイツに戻すー独メディア」と題する記事を掲載した。

     

    独国際放送局『ドイチェ・ヴェレ 中国語版サイト』(2月22日付)は、ドイツのロボット企業が中国企業との合弁をやめ、生産拠点を中国からドイツに戻すと報じた。

     

    (1)「記事は、ドイツのバーデン・ビュルテンベルク州に本社を置くスタートアップ企業Neura Roboticsが先日、現在ロボット4機種を生産している中国工場を引き払い、すべてドイツ国内で生産する意向を示したと紹介。創業者が、「ドイツにはエネルギー価格の高止まりなど多くの問題があるが、転ばぬ先の杖ということで生産拠点を自国に戻すことにした」と理由を説明するとともに、「ドイツ製品の品質は今なお世界で広く認められているので、ドイツでの生産には自信を持っている」と語ったことを伝えた」

     

    ドイツの先端ロボット技術が、中国へ流れることに疑問も多かった。それが、今回の契約違反で解除となった。ドイツでは、胸をなで下ろしているであろう。

     

    (2)「同社は、中国広東省深セン市のロボット会社との合弁により運営していたものの、中国側が約束していた投資がしっかりと行われないなど双方の提携が順調に進まなかったことを理由に合弁を解消し、西側企業を新たな株主に迎えたとした。記事によると、同社は先進的な感覚機能を備え、世界で初めて人工知能(AI)とロボット技術を融合した認知機能付き協働ロボット「Maria」を生産しているという。同社の新たな株主となったHVキャピタルのグルーナー氏は、生産拠点をドイツに戻すことについて「ドイツの技術の自主性や世界市場における競争力を高めることにつながる」と歓迎の姿勢を示している」

     

    協働ロボット「Maria」は、世界で初めて人工知能(AI)とロボット技術を融合した、認知機能付き協働ロボットである。中国は、AI半導体製造が米国の輸出規制によって困難ゆえに、合弁事業への融資を渋ったのであろう。

     

    (3)「記事は、ドイツの多くの中小企業が中国とのビジネス縮小、あるいは中国市場から撤退を模索していることが最新データで明らかになったと指摘。在中国ドイツ商工会議所が1月に実施した調査では、中国市場から撤退した、あるいは撤退を検討しているドイツ企業の割合が9%と4年前の2倍以上に増え、44%の在中国ドイツ企業が地政学の変化やサプライチェーン問題など起こりうるリスクへの対策を講じたと回答する結果が出たと紹介した」

     

    ドイツ企業は、徐々に中国からの撤退を始めている。今のところはまだ、大きな流れでないが、中国の少子高齢化の進行とともに中国の魅力は低下する。

     

    『ロイター』(1月25日付)は、「中国市場から撤退もしくは撤退検討の独企業が増加ー商工会議所」と題する記事を掲載した。

     

    在中国ドイツ商工会議所の調査によると、中国市場で事業を展開しているドイツ企業のうち、同市場からの撤退を「進めている」もしくは「検討している」企業が占める比率は9%となり、4年前の4%から2倍強に上昇した。調査は昨年9月5日から10月6日にかけて566社を対象に実施した。

     

    (4)「ドイツ企業が中国市場で直面する地元企業との競争激化、不公平な市場参入条件、経済的逆風、地政学リスクといった試練が浮き彫りになった。調査では、中国事業の売却を進めているドイツ企業は全体の約2%、売却を検討している企業は7%を占めた。さらに全体の44%は、中国に依存しないサプライチェーン(供給網)を構築するなど、中国での事業運営に関連したリスクへの対応策を講じている。また中国経済が下振れ方向の軌道に直面していると答えたドイツ企業は全体の約86%を占めた。だが大半の企業は、こうした状況は一時的であり、向こう13年で景気は回復すると予想した」

     

    ドイツ企業は、売却を進めている企業が2%。検討中は7%もある。実に、9%が撤退構えである。さらに41%は、中国に依存しないサプライチェーンを構築するとしている。ドイツ企業の「中国熱」は完全に冷めてしまった。

     

    (5)「中国では新型コロナウイルスのパンデミックからの回復の足取りが想定よりも弱いことが判明。不動産危機の深刻化やデフレリスクの増大、需要の低迷により、今年の見通しが不透明になっている。それでも回答社の約54%は、競争力を維持するため投資を増やす方針を示した」

     

    54%の企業は、競争力を付ける投資を行うという。全体からみれば半分である。ドイツ企業は、中国に対して「半身」の構えである。変われば変わったものだ。

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