ドイツは、16年も続いたメルケル政権によって、中ロへの経済依存が極限まで高まった。現在、これらが経済安全保障の面で、ドイツ経済に大きな負担になっている。ロシアとは、エネルギーで大きく依存し、中国へも過度の企業進出によって中国経済の停滞で振り回されている。こうした事態を受けて、ドイツは経済安全保障を優先する方針へ転換した。
『日本経済新聞 電子版』(10月31日付)は、「ドイツ副首相、中ロへの経済依存『ドーピングだった』」と題する記事を掲載した。
ドイツのハベック副首相兼経済・気候相が日本経済新聞の単独インタビューに応じ、中国経済への依存度を減らすデリスキング(リスク低減)を「必ず継続する」と語った。景気低迷にもかかわらず、中国離れを進める強い政治的な意志を示した。ハベック氏は環境政党の緑の党出身。ドイツの連立政権内でショルツ首相に次ぐ実力者であり、欧州全体の通商・環境政策に大きな影響力がある。10月下旬にショルツ首相らとインドを訪問した帰路、ドイツ政府専用機内で取材に応じた。
(1)「ドイツ経済が低迷する中、デリスキングを断行するのかとの問いに対し、ハベック氏は「必ず、絶対にやる」と即答した。「経済安全保障という観点で、経済政策は景気と連動しない」とも断言し、「投資先を分散し(特定国への)強い依存を是正するのが私の目標」と述べた。ドイツ経済が「安価なロシア産ガスと永遠に拡大を続ける中国市場」に頼りすぎていたとの反省が底流にある。「ドーピングのようなものだった」と悔いる胸中を漏らした。エネルギー高騰などでドイツの国際競争力が低迷したのは「ツケを払っているから」と認めた」
ドイツ経済は、為替はドイツにとって割安なユーロの恩恵を受け、ロシアからは割安な天然ガスの供給に浴してきた。さらに、中国へは大量のドイツ企業が進出し、多額の補助金を得た。こういう「温室」状況が、一挙に変わってしまった。逆風の中で出直しを求められている。
(2)「投資優遇措置の見直しなどでドイツ企業に中国以外への投資を促すという。「中国から撤退すべきだということではない」と強調する一方、「すでに対中投資を減らした企業もある」と明らかにした。中国企業との公平な競争条件が確保されていないとの不満が高まっているとした。欧州連合(EU)とインドやインドネシアとの自由貿易協定(FTA)の交渉が進めば「分散を後押しすることになる」との認識も示した。代替市場としてベトナムにも注目する」
ドイツは、アジアとの関係強化が求められている。メルケル時代は疎遠であった日独関係が、今は密接な関係になっている。防衛面でも日独が協力関係を結んでいる。
(3)「今年のドイツ経済は、マイナス成長の見通し。屋台骨の自動車産業の業績は厳しく、フォルクスワーゲン(VW)は工場閉鎖を視野に入れる。米大統領選でトランプ氏が当選すれば、欧米の貿易摩擦が再燃し、景気がさらに減速する恐れがある。ただ、ドイツが構造不況に陥るとの見方は否定し、包括的な景気刺激策を講じたことで「来年には成長が戻る」と強調した。国防やイノベーション、デジタル化のために財政出動で投資を増やすのが望ましいと語った」
VWは、ドイツ国内3カ所の工場閉鎖を労組に通告する事態になっている。7〜9月期決算は、営業利益が前年同期比42%減という惨状である。中核のVW乗用車ブランドの1〜9月の売上高営業利益率は2.1%で、目標とする6.5%に届かなかった。まさに、SOS状況だ。
(4)「ハベック氏は、日本の新政権と経済安保で協力し、インド太平洋の秩序維持に貢献する意向も明らかにした。同氏の発言は欧州のアジア外交の変化を象徴する。ドイツ海軍の艦隊は9月、22年ぶりに台湾海峡を通過し、中国と領土を争うインドには潜水艦を輸出しようとしている。同氏は国際秩序の維持に積極的にかかわるべきだと考える。以前は紛争のある地域の安全保障にかかわることに消極的だったが「ロシアのウクライナ侵略でドイツは方針転換した」。欧州では中国への警戒感が強まり、日韓豪などインド太平洋の民主主義国家の重みが増す。新しい政権を探る日本を「価値観をともにするパートナー」と位置づけ、「経済安保政策について日本から学びたい」と述べた」
日本では、NATOアジア版構想も浮上している。日豪ニュージーランドなどが協力体制を組み、NATOとの協力関係を強化する方向へ進むのであろう。