勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース

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    経済目標すべて的外れ

    中国除外でリスク軽減

    外貨準備3兆ドル攻防

    驚愕の海上運賃の暴落

     

    10月に終わった中国共産党大会で、習近平氏は国家主席3期目を決めた。憲法を改正してまで強行した、3期目の国家主席就任だ。新たに選任された最高指導部6人の中に、次期国家主席を予想させる人物は登用されなかった。このことから、習氏は4期目の国家主席を狙っていると見られる。習氏は現在、69歳である。最低限、79歳まで政権を担う決意であろう。

     

    今回の共産党大会では、習氏の世界政策が明らかになった。

    1)最終的に、武力による台湾統一を実現する。

    2)2049年(建国100年)に、米国と対抗する経済力・軍事力・外交力を備える。

     

    前記の目標が明らかにされたことで、西側諸国は緊張している。ロシアのウクライナ侵攻が、中国の台湾侵攻で再現すると受け取ったからだ。西側にとっては、台湾侵攻をいかに抑止しするか。それが、喫緊の課題になってきた。

     

    対中国への取り組みは、インド太平洋戦略対話の「クアッド」(日米豪印)のみに止まらず、欧州が関わる姿勢を明確にし始めていることは新たな展開である。中国にとっては、想定外の事態であろう。NATO(北大西洋条約機構)が、「戦略概念」で中国をロシアに次ぐ警戒対象にしたのだ。これを背景に、英国とドイツは日本と「外交・防衛2プラス2」の会合を持っている。いずれも、日本と「準同盟国」の役割を担うことになった。

     

    経済目標すべて的外れ

    習氏は、共産党大会で次の点も明らかにした。中国を2035年までに近代的な社会主義大国とし、1人当たり所得(名目GDP)を引き上げ、軍を近代化させる目標を明確にした。これによって、前述の通り中華人民共和国の建国100年を迎える2049年までには、中国が「総合的な国力と国際影響力において、世界をリードする」国にしたいと言うのである。

     

    2035年までに、1人当り名目GDPを2020年比で倍増させるには、年平均5%弱の経済成長率が不可欠である。だが、習氏が行なおうとしている「共同富裕論」は、逆に潜在成長率を引下げるので、実現不可能である。このことは、本欄で繰り返し指摘しているところだ。

     

    2035年に軍を近代化させるとしている。この軍拡路線は、経済成長率が低下しても行なわれるのであろう。これでは、北朝鮮並みの「先軍政治」に陥らざるを得ない。この延長で、2049年に軍事力だけでも米国へ対抗しようというものである。習氏が、政治の優先課題を経済発展から安全保障に移す考えであることは間違いない。

     

    共産党用語を用いて解釈すれば、専門家は「中国が、米国をたたき落として一番になり、世界を中国の利益と価値観に沿うような体制にする」ことだと指摘する。世界覇権の争奪戦が、これから始まるというのだ。こうした解釈は、これまであからさまにされたことはない。それが、こうして公然と語られるようになっている。世界情勢が、一挙に動き始めた不気味さを感じるのだ。

     

    中国は、世界戦略論の一環として「台湾解放」を位置づけている。台湾解放なくして、米国をたたき落とすことは不可能であるからだ。こう見ると、台湾解放が直近で行なわれるであろうとの差し迫った観測が出てくるのだ。

     

    ロシアのウクライナ侵攻によって、中国の台湾侵攻への壁が低くなったとする見方が増えている。中国は、ロシア軍の戦い方を反面教師にし、「速攻戦」を挑むであろうとされている。常識論で言えば、ロシア軍が手こずっているから、中国は台湾侵攻を断念するとの期待が強かった。先の共産党大会で、こういう甘い常識論が完全に否定された。

     

    特に危険なのは、中国最高指導部が全員、習氏の息がかかった人物であることだ。「イエス・マン」が揃えられたことは、「一夜の内に」台湾侵攻を決定する点で速攻戦にうってつけの構成になった。もはや、最高指導部内に開戦反対論を唱える人物もいないのだ。戦前の東条内閣のようなものである。

     

    中国除外でリスク軽減

    世界の証券市場では、「中国リスク」が全面的に登場したことで、中国を組み入れから除外する金融商品の販売を始めている。世界の投資家は、中国の政策や地政学面のリスクの高まりを警戒して、「脱中国」への需要が高まっているためだ。これまでと状況が一変したことで、中国への資金流入に大きな壁ができるであろう。中国の世界覇権戦略は、金融面ですでに大きな障害ができた形だ。

     

    中国株は、当局のハイテクセクターへの締め付け、不動産危機、米中関係緊張を背景にここ2年低迷している。新興国市場に投資するファンドの成績も不振を極めている。世界の投資家の間で、「中国離れ」が起きている結果だ。関係者によると、アジア投資を専門とし、140億ドル以上を運用する米国の資産運用会社マシューズ・アジアは、中国を除くアジア投資の新商品を発売した。(つづく)

     

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    ロシアは、西側諸国にエネルギー販売で「外濠」を埋められつつある。ドイツが、天然ガスで「脱ロシア」を進めており、10月の予定貯蔵量は1ヶ月繰り上がって9月に達成できる見込みとドイツ経済省が発表した。G7が進めているロシア産原油の上限価格引下げは、米国がインドへも話を持込んでおり、「建設的な話合い」であったという。

     

    こうして、ロシア産エネルギー輸入ボイコットの準備は順調に進んでいる。こういう西側の動きを睨み、ロシア中央銀行は来年の原油輸出価格について慎重になっている。

     


    ロシア財務省は、1バレル=60ドルの原油価格と日量950万バレルの石油生産量を政府系ファンド収入へ繰り入れことを提案した。しかし、中央銀行のアナリストは、「原油価格と生産量の基準が高すぎるようだ」と指摘し、難色を示している。ウクライナ侵攻以前の財政規則では、1バレル=40ドルが基準となっていた。『ブルームバーグ』(8月29日付)が報じた。

     

    『ブルームバーグ』(8月29日付)は、「ドイツのガス貯蔵率、10月の目標を来月に前倒し達成へー経済省」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ経済省は28日、ロシアからの主要パイプラインを経由した天然ガス供給は不透明だが、ガス貯蔵施設の貯蔵率は予定を上回るペースで上昇していると指摘し、10月に85%という目標を9月初めには達成するとの見方を示した。

     


    (1)「ハーベック経済相は電子メールで配布した声明で、ロシア産ガス輸入を終わらせる取り組みは「かなり」順調だとした。浮体式天然ガスターミナル設置作業は計画通り進んでいる上、オランダとベルギーからの供給は増加する見通しで、フランスもドイツにガスを供給する意向だと説明。「非常に厳しい状況にあり、膨大な貯蔵はなお確実に必要だが、国家として備えている」と語った」

     

    ハーベック経済相の声明が出る前に、電気やガスなど社会インフラを管轄する独連邦ネットワーク庁のミュラー長官が8月17日、やや悲観的な見通しを発表していた。それによると、ドイツのガス貯蔵率が11月までに目標の95%を達成できるとしても、ロシアが供給を全て止めてしまえば、暖房・電力・鉱工業需要の約2カ月半分にしかならないだろうと指摘。現在の貯蔵率は77%で、予定より2週間早く貯蔵が進んでいると付け加えた。経済省は、こういう「暗いニュアンス」の発表を打ち消して、明るさを強調したもの。

     


    (2)「ロシアが主要パイプライン「ノルドストリーム」を通じた供給を大幅に絞ったことでガス価格が上昇し、数十年で最悪の欧州エネルギー危機が深刻化する中で、ドイツの連立政権は10月までに85%、11月までに95%のガス貯蔵率を求めている。ロシア国営天然ガス会社ガスプロムは8月、ノルドストリーム経由の欧州へのガス供給を31日から3日間停止すると発表した。ただハーベック経済相は、ドイツはそれまでに10月の目標をほぼ達成しているだろうとの見解を示した」

     

    ロシアは、8月31日から3日間ノルドストリーム経由の欧州へのガス供給を停止する。ドイツはその前に、10月目標の貯蔵率を達成できるとしている。ロシアの「脅迫」に屈しないという姿勢を鮮明にした。

     

    主要7カ国(G7)は、ロシア産原油輸入について欧州連合(EU)が海上輸送されるロシア産原油への禁輸措置を発動する12月5日までに、価格上限制のメカニズムを導入したい考えである。これは、米国が主体になって取り組んでいる。

     


    『ロイター』(8月26日付)は、「米、ロシア産原油価格の上限案巡り印と建設的協議ー財務副長官」と題する記事を掲載した。

     

    インドを訪問中のアデエモ米財務副長官は26日、ロシア産原油の価格に上限を設ける案について、インド政府高官らと「非常に建設的な協議」を行ったと明らかにした。

     

    (3)「アデエモ氏は、ニューデリーで開かれた記者会見で、上限設定はロシアがウクライナ侵攻に使用できる石油収入を抑えるとともに、世界的に手頃な価格で原油供給を十分に確保することを目的としていると述べた。「12月5日に世界にとって利用可能なロシア産原油が減少し、価格上昇につながることを非常に懸念している」と述べた。上限が設定されれば、ロシア産原油の購入と輸送に引き続き欧米のサービスを使うことが可能になるとした」

     

    G7は、12月の石油需要期入りに当り、ロシア産原油価格の引下げを図る計画である。上限価格制を敷いて徐々に引下げて行く狙いだ。G7は、この上限制を推進するが、インドへも呼び掛けている。インドが、これに賛同すれば海上保険サービスを付与するとしている。欧州は、世界の海上保険で圧倒的支配権を持っている。原油輸送に海上保険が付かないと、海外港湾への入港が拒否されるリスクを抱える。こうして、ロシア産原油の輸出を阻止する構えだ。

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    ドイツのメルケル氏は昨年末、16年間務めた首相を退いた。その直後に起こったロシアのウクライナ侵攻で、メルケル氏の親ロ政策が批判の矢面に立たされている。ドイツのエネルギー政策が、ロシアへ依存しすぎていたからだ。

     

    メルケル首相が退任した時点で、ロシアからの輸入がドイツのガス消費量の55%、石炭消費量の50%、石油消費量の35%以上を占めるまでになった。ドイツはロシア産ガスの世界最大の買い手であり、ロシアのエネルギーへの依存度はEU内でも屈指となっていた。

     


    ドイツが、ここまでエネルギーでロシア依存を強めた狙いは二つある。第一は、安いエネルギーを確保して、ドイツ産業の国際競争力をつけること。第二は、貿易を通してロシアの民主化を促進することにあった。メルケル氏は、旧西独生まれだが、父親が牧師で東独へ移り住んだ経緯から、ロシアの民主化に関心を持っていた。

     

    こうした、メルケル氏の政治目的は、ウクライナ侵攻で裏切られる結果になった。政治が結果であるとすれば、メルケル氏は自身への批判を甘受せざるを得ない立場だ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月9日付)は、「メルケル前独首相に後悔の念なし」と題する社説を掲載した。

     

    ドイツのアンゲラ・メルケル前首相ほど、その外交政策のレガシーに対する評価が急速かつ徹底的に落ちた例は極めて少ない。メルケル氏は、ドイツ政府を率いた16年間、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の帝国主義的野心を抑えることができると考え、その過程で、プーチン氏のエネルギーをめぐる脅迫に対してドイツと欧州全体を脆弱(ぜいじゃく)にした。

     


    (1)「メルケル氏に後悔の念はあまりない。それは、昨年の辞任以来初めて公の場に姿を現す主要な機会となった際の発言から明らかだ。メルケル氏は7日、首都ベルリンにあるベルリーナー・アンサンブル劇場で、「私は自分を責めていない。私は悪事を防ぐ方向で取り組もうとしていた。また、外交が成功しないからと言って、それが間違っていたということにはならない。したがって、『あれは間違っていた』と言うべき理由が分からない。よって、私は謝罪しない」と聴衆に述べた」

     

    メルケル氏は、苦しい弁解をしている。「外交が成功しないからと言って、それが間違っていたということにはならない」と開き直った印象すら与えている。16年間の首相在任が、緊張感を奪ったかも知れない。メルケル氏が、プーチン氏の真の目的を把握できなかったとすれば、間違っていたことになる。その点、ポーランドはロシアの真意を見抜いていた。

     


    (2)「メルケル氏は、ロシアのウクライナ侵攻を非難した上で、貿易を通じたロシア関与政策でプーチン氏の行動を変えられるという「幻想に屈したことは一度もない。私は(そこまで)世間知らずではなかった」と述べた。しかし、もしそうなら同氏はなぜ、2021年になっても、ロシアからドイツに天然ガスを運ぶパイプライン「ノルドストリーム2」の完成をあれほど強く求めたのか」

     

    メルケル氏は、米国の反対を押し切って「ノルドストリーム2」の早期完成を求めていた。プーチン氏は、ウクライナ侵攻で欧州が一枚岩にならず分裂すると踏んでいた裏に、ドイツのエネルギー政策でロシア依存の大きいことを拠り所にした。

     

    (3)「2021年には、プーチン氏がウクライナとの国境近くに軍を集結させていた。メルケル氏は、任期終盤の政治的資本の一部を使い、同パイプラインに対する米国の反対を撤回するようジョー・バイデン大統領を説得した。メルケル氏の後任の首相となったオラフ・ショルツ氏は、ロシアによるウクライナ侵攻後にパイプライン計画の承認作業を停止した」

     

    メルケル氏は、ロシアがウクライナ国境近くに軍を集結させていた事態を看過した。メルケル氏は、プチー氏に直談判できるほど、親和関係が存在していたのだ。結果は失敗したにせよ、メルケル氏の眼力が鈍っていたことは間違いない。

     

    (4)「政府首脳というものは、難しい決断を下さなければならず、その時々の既知の事実に基づいて下す決断が、時として誤りとなることは避けられない。しかしメルケル氏は、プーチン氏による2014年のクリミア半島併合、ウクライナ東部地域侵略の後でさえ、プーチン氏への融和姿勢にこだわり続けた。メルケル氏は、原発の段階的閉鎖を進め、国内総生産(GDP)の2%相当の資金を国防に振り向けるという北大西洋条約機構(NATO)への約束の順守を拒むことで、ドイツをより脆弱にした」

     

    メルケル氏は、トランプ大統領(当時)と犬猿の仲だった。それだけに、プーチン氏へ傾いたのであろう。米独の対立は、一時的なもの。同盟関係を強固にしておくべきだった。

     


    (5)「プーチン氏は、今年キーウ(キエフ)の攻略を試みても欧州の反発は限定的だと考えていたが、メルケル氏の失策がその一因になったとの見方は否定し難い。米通信社ブルームバーグの報道によれば、ショルツ氏は現在、ウクライナ情勢とプーチン氏への対応について、メルケル氏の助言を求めているという。ショルツ氏がその助言に頼らないことを期待したい。謝罪するか否かにかかわらず、メルケル氏は、欧州の自由の理念を損なったのだから」

     

    下線部は、重要な示唆である。プーチン氏が、NATOは一枚岩でないと誤解していた裏には、米独の対立を過大評価したのであろう。同盟内では、対立もほどほどにしておかないと、今回のような誤解=侵攻をもたらすという危険性を生む。

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    中国政府による新疆ウイグル族弾圧は、ドイツ政府の対中政策を大きく揺さぶっている。ナチスのユダヤ人弾圧という暗い過去を持つドイツとして、中国政府へ毅然として対応することで、歴史への警鐘を鳴らしたいのであろう。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月3日付)は、「ドイツ『脱中国』鮮明、VWの投資保証拒否」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ政府は、自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の中国での投資に対する保証の更新を拒否した。このことは、国際関係において政治より貿易を長らく優先させてきた同国が転換点を迎えていることを示している。ドイツ政府がVWの申請を拒否した背景には、中国政府によるイスラム教徒の少数民族ウイグル族の扱いがある。中国はドイツにとって最大の貿易相手国だが、この動きは中国を含む権威主義政権に対して一段と厳しい姿勢で臨むとするドイツ新政府の約束に沿うものだ。

     


    (1)「この決定は公式に発表されたものではないが、事情に詳しい複数の人物が確認している。ドイツ企業が中国での活動をやめる可能性は低いとみられるが、事業のリスクは高まる。中国に投資するドイツ企業への支援と、中国政府によるウイグル族の扱いとをドイツ政府が関連付けたのは初めて。ドイツのロベルト・ハーベック経済・気候保護相は「ウイグルに対する強制労働と虐待を前にして、われわれは新疆でのいかなるプロジェクトにも保証を提供することはできない」と述べている」

     

    ハーベック経済・気候保護相は、非人道的行為を行なっている中国で、経済活動を行なうドイツ企業にいかなる保証も与えない、とした。これは、これまでのドイツ企業への「投資保証」に撤回を意味する。厳しい環境になった。

     


    (2)「VWのヘルベルト・ディース最高経営責任者(CEO)は1日、地元テレビ局とのインタビューで、今後も中国が世界にとって経済成長の主な原動力と同社は考えており、中国と新疆の工場に注力していくとの考えを示した。「われわれは現地で強制労働を行っておらず、わが社の基準に従って活動していると保証できる。この地域でプラスの貢献をしている。だからこそわれわれは問題視していない」とディース氏は語った」

     

    中国のような権威主義国家で行なう投資に、ドイツ政府の保証がつかなくなると、政治的リスクはいやが上にも高まる。慎重にならざるを得ないのだ。

     


    (3)「企業は、外国での政変によって事業や資産を失った場合の政府保証を申請することができる。そうした保証の大半は何年も、中国で活動する企業に提供されてきた。ロシアのウクライナ侵攻後の2月にそうしたように、政府が保証の提供をやめるなら、企業は自らリスクを負って外国で活動しなければならなくなり、そうした国々への投資を抑制しかねないとエコノミストは指摘する」

     

    このパラグラフは、重要な点を指摘している。いわゆる「カントリー・リスク」の問題である。中国で万一騒乱が起こっても、ドイツ政府の「保証」があれば、なんなくクリア可能だ。ドイツ政府は今後、中国投資での「保証」をつけない方針に切り替わる。

     


    (4)「ドイツ政府は、中国への戦略的・経済的な依存脱却を目指し、関係の見直しを図っている。この新アプローチの下で、政府は企業に対して国外進出先を多様化させ、巨大な中国市場への依存を減らすよう促している。これにより、国外事業に積極的な欧州企業の投資先が、中国の対抗勢力とみられている米国に一段と振り向けられるようになる可能性がある。調査会社ロジウム・グループのアナリスト、ノア・バーキン氏は、「ハーベック氏の決定は重大だ。なぜなら、こうした保証がVWにとって極めて重要だというだけでなく、政府が対中投資について以前よりもかなり懐疑的に見ているからだ」と述べた」

     

    欧州企業の対外投資先は、中国から米国へ振り向けられる公算が強まった。中国の評価が下がったのだ。

     


    (5)「習近平国家主席の下、国内では権威主義的、国外では攻撃的な姿勢を強める中国に対して西側の懸念が高まる一方、多くのドイツ企業は依然として中国を最も有望な市場と見なしている。ドイツの自動車産業を担うVW、BMW、メルセデス・ベンツ・グループの大手3社に加え、サプライヤーの多くは、年間売上高の4割、利益の相当な割合を中国から得ている。こうした中国への依存は、コロナ禍の2年間で見られたように政治的・経済的混乱が起きた場合、これら企業ばかりかドイツ経済全体を危機にさらすことになるとエコノミストは指摘する。中国のロックダウン(都市封鎖)で世界のサプライチェーン(供給網)はまひし、ドイツの工場を直撃した」

     

    中国への過度の依存が、危機を招くことはロックダウンによって証明済である。そこへ持ち上がった新疆ウイグル族弾圧事件の全貌が判明したことで、中国のカントリーリスクは無視できないものになった。

     


    (6)「アナレーナ・ベアボック外相と専門家は、新たな中国戦略を具体化するため、シンクタンクとワークショップを開いてきた。外相は5月初めには、中国で大規模に事業を展開する大手各社のCEOと会談している。ベアボック氏は必要なら数年内に中国から完全に脱却できるか尋ねたと、協議に詳しいある人物は明かしたウイグル抑圧を示す証拠が相次いで明るみに出ており、中国脱却への世論の支持は固まりつつある。人権団体「共産主義犠牲者記念財団」は先月、強制収容所に入れられているウイグル族の画像を含む、中国警察当局による弾圧とみられる関連資料を公表した。ベアボック氏はこの資料に言及し、独立かつ透明性のある調査を求めた」

     

    ベアボック外相は、下線のように数年内にドイツ企業が数年内に中国から完全撤退できるか聞いている。この動きは重要だ。中国政府の新疆ウイグル族弾圧は、大きな波紋を呼びそうである。

     

    (7)「オラフ・ショルツ首相が所属する社会民主党(SPD)の共同党首ラース・クリングバイル氏は5月初め、ウクライナ戦争を考慮するなら、ドイツは中国に対して「態度を変え、もっと批判的になる」必要があると述べた。ショルツ氏は5月に世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で行った演説で、中国を政治的に孤立させないようくぎを刺した上で、こう語った。『新疆で見られるように、人権が侵害されているときにわれわれは見ないふりをすることなどできない』」

     

    ドイツ首相は、ウクライナ侵攻と新疆ウイグル族弾圧が、同等の重みを持つとしている。中国にとって、厄介な問題になってきたと言うべきだろう。

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    ドイツは、これまで「親ロ政策」を基調としてきた。ショルツ首相も、その流れを引継いだが、先のプーチン大統領との会談で完全に認識を変えたという。会談中、延々とロシアの主張を繰返し、シュルツ氏の発言に耳を貸さなかったのだ。

     

    その上のウクライナ侵攻である。シュルツ氏は、「プーチンは、ロシア帝国を築きたがっている」とし、「プーチンのような戦争をあおる者と一線を引くために、われわれが力を奮い立たせることができるかどうか」が、現在直面している主要な問題だと、珍しく感情をあらわにして語ったという。

     


    ドイツが、プーチンのロシアへ強い警戒心を強めた結果、防衛費の増額・ロシア産エネルギー依存度への引下げなど、「脱ロシア」を鮮明にしている。第二次世界大戦後のドイツ外交が大きな転換点を迎えた。プーチン氏は、友人・ドイツを失ったのである。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月28日付)は、「ドイツの支えを失ったロシア」と題する社説を掲載した。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに対して行った血塗られた攻撃は多くの人々を驚かせたが、最もはっきりと目を覚ますことになったのは恐らくドイツだろう。ロシアのウクライナ侵攻は、ドイツの国防・外交政策にとって神の啓示のような変化をもたらした。

     


    (1)「ドイツのオラフ・ショルツ首相は2月26日、1000基の対戦車兵器、500基の地対空ミサイル「スティンガー」をウクライナに「できる限り早急に」送ることを明らかにした。これは、致死的な兵器を他国に供給しないという第2次世界大戦後の独政府の政策を反転させる対応だ。ドイツはまた、国際決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの一部銀行を排除する制裁措置について、数週間にわたった反対姿勢を覆して容認することに同意した。SWIFTからの排除に消極的だった態度を最初に変えたのはイタリアとフランスであり、それが最後に残った消極派の主要国ドイツを動かす役目を果たした」

     

    ドイツは、ウクライナへ武器を供与する。これまでのルールを変えたもので、「プーチン戦争」でウクライナが勝利を得るように後押しする。

     


    (2)「ドイツのこの決定は、ショルツ首相が2月27日に議会で行った演説につながった。この中でショルツ氏は、ドイツの安全保障・国防政策にとって1945年以降で最も劇的な見直しを発表した。独政府は、何十年も続いてきたロシア政府との協商関係から離れ、北大西洋条約機構(NATO)に完全に軸足を移そうとしている。ショルツ氏は、全てのNATO加盟国の目標とされている、国内総生産(GDP)の2%への国防支出増額を約束したほか、その前払い金として、今年の国防予算に1000億ユーロ(約13兆円)を追加する方針を示した。F-35戦闘機やイスラエル製ドローンなどといった実際の兵器に使われる」

     

    ドイツ政府は、防衛の軸足を完全にNATOへ置くことを表明した。これまでは、在独米軍に依存する「人任せ防衛」であった。それを改め、ロシアの脅威に対抗する気構えを見せている。

     

    (3)「ショルツ氏はまた、エネルギー政策を安全保障と結びつけ、同国がもはやエネルギーを国内経済や気候変動のみの問題として扱えなくなったと警告した。ドイツ政府は再レル生可能エネルギーへの投資を増やすが、戦略的な石炭や天然ガスの備蓄についても投資を行う。政府は2カ所の液化天然ガス(LNG)基地を早期に建設して、ロシア以外からの輸入ができるようにする」

     

    ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシア産天然ガスへの依存度を引き下げ、エネルギー政策を大きく転換する。このため、石炭火力発電所と原子力発電所の運用期限を延長する。エネルギーのロシア依存度を下げなければ、いつ「ロシア・リスク」に見舞われるかも知れないからだ。ロシア依存のエネルギー政策を転換する。

     


    (4)「ショルツ氏によると、ドイツは今後、ロシアとの間で外交のための外交を行わない方針だ。これは恐らく最大の変化になる。そのためには、政府がNATOにおけるドイツの役割を見直す必要があるからだ。ドイツは長年、自らのことを米国とロシアの架け橋となる存在だと認識してきた。それは、東西冷戦の前線というポジションから生じる不安と、第2次世界大戦の東部戦線でドイツが行った戦争犯罪に対する罪悪感が影響して生じた態度だ」

     

    ショルツ氏は、ドイツの主張がプーチン氏に対する警戒であり、ロシア国民に対するものではないと強調して、過去の歴史に対するドイツの反省を示している。ドイツが、過去に犯した戦争への責任を忘れないが、ロシアとの間で外交のための外交を行わない方針を明確にしている。

     

    これは、日本についても言えることだ。韓国は、日本の軍備増強に対して「戦争責任」を持出して批判する。だが、中国の軍備増強の前に「丸腰」はあり得ない。ドイツの歴史的転換は、日本に対してもそのまま当てはまる。

     

    (5)「ドイツ人が「転換点」と呼ぶこの変化について、与党3党および野党キリスト教民主同盟(CDU)の指導者は、いずれもショルツ氏の政策革命を支持している。市民は、プーチン氏の野心を阻止しないままでいれば、欧州がどんな代償を支払うことになるかをウクライナ情勢で目の当たりにした。そしてショルツ氏の演説の中で最も政治的に重要な転換の1つは、彼が防衛・エネルギー安全保障とその他の対応は、単に同盟国からの圧力に応じてではなく、自国の利益のために行う必要があると説明した点である」

     

    欧州のプーチン氏とアジアの習近平氏が、ともに領土拡大を狙っている。こういう危険な状況下で、国家の安全保障をいかに守ってゆくか。日本も防衛・エネルギー安全保障の再構築を迫られている。ドイツは、「外交のための外交」を捨てると宣言した。単なる友好増進でなく、それを裏付けるシステムの確立が不可欠である。

     

     

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