ドイツは2024年に、34年ぶりに日本を抜いて世界最大の対外純資産国となった。だが、ドイツの対外投資は証券投資が主体。日本の対外投資は、直接投資で相手国へ根付いたもの。証券投資とは性格が異なるのだ。こうした結果、ドイツの世界1は長続きせず、日本が首位へ復帰するとみられている。
『ロイター』(5月30日付)は、「ドイツ、日本に代わる対外債権国首位の座はつかの間か」と題する記事を掲載した。
米国が、世界の貯蓄の大半を吸い上げる中で、世界貿易と投資の巨大な不均衡を安定させることは、市場にとって最大のテーマの1つとなってきた。貿易戦争が繰り広げられている今は、なおさらだ。日本の財務省が今週発表したデータは、世界を俯瞰(ふかん)する人々にとって注目すべき節目を示すものだった。ドイツが24年、日本に代わって世界最大の債権国の座に就いたことを浮き彫りにしたのだ。
(1)「首位交代には、為替レートも影響しているとは言え、これは世界の貯蓄、投資、人口動態について多くを物語っている。債権国首位の座は、低成長と国内の投資機会の欠如が生み出したものであり、ドイツにとってありがたくはない。債権国トップ3のドイツ、日本、中国には重要な共通点がある。いずれも高齢化が進む大国であり、人口はピークを越えて今世紀末まで減少し続ける見通しだという点だ。それに伴い内需は圧迫され、過大な貯蓄プールが生み出されるだろう」
債権国首位の座は、低成長と国内の投資機会の欠如が生み出したものだ。ドイツ、日本、中国には、重要な共通点がある。高齢化が進む大国であり、人口はピークを越えて今世紀末まで減少し続ける見通しだ。
(2)「ドイツ銀行のチーフエコノミスト、ロビン・ウィンクラー氏が指摘する通り、ドイツと日本の投資は、性質を大きく異にする。ドイツと日本はいずれも、米国および諸外国に対する慢性的な貿易黒字国であり、内需が低迷する中で輸出に成長を頼ってきた。そして両国とも、その結果生じた貯蓄の大半を国外投資、特に成長の速い米国に投じてきた。この資金フローは、その過程で10年以上に及ぶ米国の資産ブームとドル高を生んだ。トランプ政権は、ドル高のせいで米製造業の競争力が打撃を被り、高給の職が奪われたと主張している。トランプ氏によれば、輸入関税、そしてドルの下落がこの不均衡の是正に役立つ見通しだ」
ドイツと日本の対外投資は、性質を大きく異にする。ドイツは、証券投資である。日本が、直接投資である。ドイツは、相手国へ根付かない投資で、金融情勢の変化で変わり身が早いのだ。
(3)「ウィンクラー氏によると、長年にわたる日本の貿易黒字の大半は企業買収や海外での工場建設、雇用創出といった直接投資に振り向けられてきた。これに対してドイツの貿易黒字は、主に株や債券などの証券投資に回っている。これは直接投資に比べてはるかに「粘着性」が弱く、容易に反転し得る。ドイツにとって、このことは諸刃の剣だ。ウィンクラー氏は「ドイツは、特定の国々に対する貿易黒字がその国々で直接雇用を創出していないとの批判にさらされやすい」と記し、目下の貿易交渉において問題にされかねないと指摘している」
日本は、貿易黒字の大半を企業買収や海外での工場建設、雇用創出といった直接投資に振り向けている。相手国経済へ貢献している。ドイツは、証券の利回りや相場推移で居所を変えていく投資だ。
(4)「ウィンクラー氏は、「直接投資の割合が低いことにより、ドイツの対外純資産は日本よりも流動的で代替可能性が高い」とし、「このことは、地政学的な分裂が進んでいる時期には有利に働く。必要となれば、対外資産を速やかに再配置したり、場合によっては引き揚げたりすることが容易だからだ」と説明した」
ドイツは、地政学的変化に合せて簡単に撤収できる身軽さがある。このことが、ドイツの対外純資産残高に流動化をもたらす。
(5)「欧州の資本ニーズは急速に高まっており、それに伴って投資家と貯蓄者にとって域内に投資するインセンティブも強くなった。これは、米国の金融市場に重大なリスクを生じさせる。そのリスクは、トランプ政権が後押ししているとみられるドル安だけではない。米国債の外国投資家の中で、最大グループは日本の投資家だが、欧州も2012年以来、海外の株式に7兆ドルを投資している。多くの争点を抱える米国と欧州の貿易交渉は、期限がわずか6週間後に迫っているが、その結果がもたらす影響は双方ともに非常に大きいだろう」
欧州の資本市場が注目されている。米国金融市場が、トランプ関税で流動化している結果だ。ドイツは、この機会を捉えて、欧州市場への証券投資を増やす可能性もある。日本は、これまでの超低金利で海外へ流出していた資金が、国内へ還流している面もあろう。これが、日本の対外純資産残高で2位へ後退した面もあろう。