勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース

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    中国企業の不況は深刻な事態に陥っている。ドイツの先進ロボット企業と合弁契約を結んだものの、資金不足で必要な投資ができず、これを不服としてドイツ企業が契約を解除して撤退した。中国にとっては、後味の悪い結果だ。

     

    『レコードチャイナ』(2月26日付)は、「ドイツの先進ロボット企業 中国との合弁解消し生産拠点をドイツに戻すー独メディア」と題する記事を掲載した。

     

    独国際放送局『ドイチェ・ヴェレ 中国語版サイト』(2月22日付)は、ドイツのロボット企業が中国企業との合弁をやめ、生産拠点を中国からドイツに戻すと報じた。

     

    (1)「記事は、ドイツのバーデン・ビュルテンベルク州に本社を置くスタートアップ企業Neura Roboticsが先日、現在ロボット4機種を生産している中国工場を引き払い、すべてドイツ国内で生産する意向を示したと紹介。創業者が、「ドイツにはエネルギー価格の高止まりなど多くの問題があるが、転ばぬ先の杖ということで生産拠点を自国に戻すことにした」と理由を説明するとともに、「ドイツ製品の品質は今なお世界で広く認められているので、ドイツでの生産には自信を持っている」と語ったことを伝えた」

     

    ドイツの先端ロボット技術が、中国へ流れることに疑問も多かった。それが、今回の契約違反で解除となった。ドイツでは、胸をなで下ろしているであろう。

     

    (2)「同社は、中国広東省深セン市のロボット会社との合弁により運営していたものの、中国側が約束していた投資がしっかりと行われないなど双方の提携が順調に進まなかったことを理由に合弁を解消し、西側企業を新たな株主に迎えたとした。記事によると、同社は先進的な感覚機能を備え、世界で初めて人工知能(AI)とロボット技術を融合した認知機能付き協働ロボット「Maria」を生産しているという。同社の新たな株主となったHVキャピタルのグルーナー氏は、生産拠点をドイツに戻すことについて「ドイツの技術の自主性や世界市場における競争力を高めることにつながる」と歓迎の姿勢を示している」

     

    協働ロボット「Maria」は、世界で初めて人工知能(AI)とロボット技術を融合した、認知機能付き協働ロボットである。中国は、AI半導体製造が米国の輸出規制によって困難ゆえに、合弁事業への融資を渋ったのであろう。

     

    (3)「記事は、ドイツの多くの中小企業が中国とのビジネス縮小、あるいは中国市場から撤退を模索していることが最新データで明らかになったと指摘。在中国ドイツ商工会議所が1月に実施した調査では、中国市場から撤退した、あるいは撤退を検討しているドイツ企業の割合が9%と4年前の2倍以上に増え、44%の在中国ドイツ企業が地政学の変化やサプライチェーン問題など起こりうるリスクへの対策を講じたと回答する結果が出たと紹介した」

     

    ドイツ企業は、徐々に中国からの撤退を始めている。今のところはまだ、大きな流れでないが、中国の少子高齢化の進行とともに中国の魅力は低下する。

     

    『ロイター』(1月25日付)は、「中国市場から撤退もしくは撤退検討の独企業が増加ー商工会議所」と題する記事を掲載した。

     

    在中国ドイツ商工会議所の調査によると、中国市場で事業を展開しているドイツ企業のうち、同市場からの撤退を「進めている」もしくは「検討している」企業が占める比率は9%となり、4年前の4%から2倍強に上昇した。調査は昨年9月5日から10月6日にかけて566社を対象に実施した。

     

    (4)「ドイツ企業が中国市場で直面する地元企業との競争激化、不公平な市場参入条件、経済的逆風、地政学リスクといった試練が浮き彫りになった。調査では、中国事業の売却を進めているドイツ企業は全体の約2%、売却を検討している企業は7%を占めた。さらに全体の44%は、中国に依存しないサプライチェーン(供給網)を構築するなど、中国での事業運営に関連したリスクへの対応策を講じている。また中国経済が下振れ方向の軌道に直面していると答えたドイツ企業は全体の約86%を占めた。だが大半の企業は、こうした状況は一時的であり、向こう13年で景気は回復すると予想した」

     

    ドイツ企業は、売却を進めている企業が2%。検討中は7%もある。実に、9%が撤退構えである。さらに41%は、中国に依存しないサプライチェーンを構築するとしている。ドイツ企業の「中国熱」は完全に冷めてしまった。

     

    (5)「中国では新型コロナウイルスのパンデミックからの回復の足取りが想定よりも弱いことが判明。不動産危機の深刻化やデフレリスクの増大、需要の低迷により、今年の見通しが不透明になっている。それでも回答社の約54%は、競争力を維持するため投資を増やす方針を示した」

     

    54%の企業は、競争力を付ける投資を行うという。全体からみれば半分である。ドイツ企業は、中国に対して「半身」の構えである。変われば変わったものだ。

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    IMF(国際通貨基金)によると、23年のドイツ経済は世界の主要国の中で最も低迷(マイナス0.3%成長)した。IMFは最近の経済見通しで、先進国の23年の経済成長率は平均1.%、新興・発展途上国は4%と予測した。ドイツの出遅れは明白である。この裏には、エネルギーコスト増大という致命的な問題を抱えている。ロシアのウクライナ侵攻へ抗議して、割安なエネルギー輸入を打ち切った跳ね返りである。こうした要因は、早急な解決が難しく、構造的危機という認識が生まれている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月16日付)は、「ドイツ経済、壊れた欧州の成長エンジン」と題する記事を掲載した。 

    ドイツは閉塞状況にあり、手っ取り早く抜け出す方法はない。ドイツ経済は欧州大陸で最も大きく、昨年は縮小した。6年にわたって続く不振は産業空洞化の懸念を引き起こし、欧州全域で各国政府への支えが失われる状況を招いている。

     

    (1)「ドイツの景気悪化は、ドイツの輸出中心のビジネスモデルを一変させつつある逆風が重なっている状況を反映している。逆風には、中国の成長減速からエネルギー価格や金利の上昇、世界貿易を巡る緊張の高まり、グリーンエネルギーへの移行の難しさに至るまでが挙げられる。こうした周期的で構造的な要因のいずれもが直ちに改善される兆候がまったくないことから、ドイツの見通しは良好ではなさそうだ」 

    ドイツ経済は、23年に名目GDPで日本を抜いたとされるが、実態は極めて深刻である。グリーンエネルギー転換と原油や天然ガスの価格上昇で、生産コストが急増している。 

    (2)「フランクフルトを拠点とするナティクシスのエコノミスト、ディルク・シューマッハ氏は「これほどドイツの中期的な見通しを懸念したことは今までにない」と述べた。同氏は数十年にわたってドイツ経済を追跡してきた。ドイツの実質GDPは、2017年末比でわずか1%増にとどまった。米経済が同時期に13%成長したのとは対照的だ。ドイツは今年、不動産市場の崩壊や中東の紛争によるアジア・欧州間の通商航路寸断など、新たな経済的脅威に直面している。失業率が上昇し、移民の数が過去最多になっているにもかかわらず、企業は労働力不足を訴えている。憲法裁判所が予算外の基金の使用を制限する判断を下したため、政府の歳出計画は混乱に陥っている」 

    ドイツの実質GDPは、2017年末比でわずか1%増である。米経済が、同時期に13%成長したのとは対照的だ。ドイツ経済の停滞が明らかである。

     

    (3)「こうした(財政支出削減)問題を受けて、幅広い人々が怒りを強めている。農業従事者らは15日、補助金削減に抗議し、ベルリンで道路を封鎖するデモを行った。世論調査の結果によると6月の欧州議会議員選挙とその後の年内に予定される州議会議員選挙では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」がドイツの最大政治勢力となる可能性がある。これらすべてを受けて、「欧州の病人」との呼び名が復活しつつある。この名は1990年代終わりから2000年代初めにドイツに付けられた。当時の同国は、東西統一の後遺症で競争力を失っていた」 

    経済停滞が、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を最大政党に押し上げる危険性が出てきた。ドイツの政治土壌には、ヒトラーを生んだ極右思想が潜んでいる。日本には見られない政治現象である。 

    (4)「ドイツ東部ザクセン州にある創業175年の鋳物メーカーGLギーセライ・レースニッツのマックス・ヤンコフスキー最高経営責任者(CEO)は「産業空洞化の脅威があることは事実だ」と述べる。エネルギー価格は一時より下がったが、ヤンコフスキー氏によれば、それでも電力価格はロシアのウクライナ侵攻開始前と比べて3~4倍になっており、米国の競合企業が払っている額との比較では5倍以上になる。同氏は、この問題の解決に向けた政府の対応について「依然として戦略の全体像が見えない」と語った。また、「われわれは、コスト上昇分を自動車メーカーに転嫁することができない。そうすればメーカー側が、トルコや中国に乗り換えると言うからだ」と語った」 

    ドイツは、エネルギー価格の急上昇で「産業空洞化」の恐れが出てきた。電力価格は、ウクライナ侵攻前の3~4倍へ、米国の5倍以上になっている。大変な事態だ。

     

    (5)「歴史あるドイツの自動車産業は現在、欧州で電気自動車(EV)販売を強化しつつあるテスラや中国の新興ライバル企業との競争で苦境に陥っている。ロビー団体の独自動車工業会によると、同国の乗用車生産台数は、2010年代半ばの水準を25%余り下回っている。また、経済協力開発機構(OECD)によれば、ドイツの製造業全体の生産高は2019年の水準を下回っており、減少傾向にある。ドイツ商工会議所(DIHK)が最近、工業分野の同国企業2200社以上を対象に行った景況感調査は、2008年の調査開始以降で最悪の結果となった。DIHKのマルティン・バンスレーベン会長は、「工業やその関連業界にとってドイツの魅力は急速に低下している。その結果、必要な投資が行われなかったり、他の場所で行われたりしている」と述べた」 

    ドイツ商工会議所は、工業関連業界にとってドイツの魅力が急速に低下していると指摘する。企業は、必要な投資が行われなかったり、他の場所で行われたりしているのだ。ドイツは、GDP世界3位の位置を長く維持できそうにないのだ。

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    IMF(国際通貨基金)の予測によれば、23年の名目GDPはドイツが僅差(4.7%)で日本を抜くという。円安がもたらした事態である。この状態が、定着化するわけでない。24年の円相場は、世界的に「上昇する通貨」として注目されている。1ドル=130円見当の円相場が見込まれるのだ。現在の141円台かれみれば7~8%の円高になる。円高になれば、ドイツに譲った「名目GDP3位」は日本へ戻るであろう。 

    ドイツ経済は、日本以上に深刻な事態に見舞われている。ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアからの割安な原油や天然ガスの輸入が止まったことだ。エネルギー価格の上昇が、インフレ率を高めている。これが、皮肉にもドイツの名目GDPを押し上げたのだ。ドイツが、名目GDP3位になったことに無関心である理由でもある。こういう事情である以上、日本が名目GDP3位でなくなったことを取り立てて騒ぐ必要もない。ただ、「失われた30年」の帰結が、ここに現れたという認識は持つべきであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月2日付)は、「ドイツに迫る『日本化』、GDP逆転も潜在成長率ゼロ%台」と題する記事を掲載した。 

    欧州最大の経済大国ドイツが、名目の国内総生産(GDP)で日本を超える。ウクライナ危機が直撃したドイツ経済は、本当に成長しているのか。実は長期停滞に陥る「日本化」の根深い構造問題が待ち構えている。 

    (1)「いまのドイツ経済に「日本超え」の高揚感は全くない。「我々は深く、長い谷の真ん中にいる」。23年12月中旬、独化学工業会のシュタイレマン会長は危機感を訴えた。会員企業の売上高が年2600億ユーロ(約40兆円)というドイツ有数の経済団体で、25年までは経営環境が好転しないと見込む企業が多くなっている。ウクライナ危機が直撃した業界の一つがドイツ経済の屋台骨である化学メーカーだ。ドイツはガス調達の過半を安価なロシア産に依存していたが、主要7カ国(G7)が経済制裁を強めると供給が遮断。ドイツ企業は割高な価格でエネルギーの代替調達を迫られた」 

    ドイツは、安価なエネルギーを求めてロシア依存を高めた。米国は、その危険性を忠告したが聞き入れず今日の事態を招いた。ドイツに燻る「反米」が、大きな蹉跌をもたらした。外交感覚が鈍かったのだ。ロシアの本性を見誤った結果である。

     

    (2)「欧州債務危機などを乗り越え、ドイツは世界有数の経常黒字国として成長を続けてきた。けん引役は自動車や化学製品に代表される輸出だが、単に人口8400万人の国と捉えれば見誤る。単一通貨ユーロの誕生でドイツにとって割安な通貨が輸出の追い風になり、米国とほぼ同じ規模の約3億人が暮らす豊かな通貨圏が広がった。独経済諮問委員会が取りまとめた超長期の景気予測は衝撃的だ。経済成長の巡航速度を示す潜在成長率は26年に0.3%と過去半世紀で最低になり、今後10年以上は1%に届かない。東西ドイツ統一後、景気低迷から「欧州の病人」と冷やかされた2000年代にかけては1〜2%を維持していた。今の日本以下の水準に沈むことになる」 

    ドイツ経済が、日本を追い上げた背景にはユーロの誕生がある。ドイツの輸出競争力が大いに高まったのだ。それも限界を迎えている。労働力不足が、潜在成長率を引き下げる。今後10年以上、潜在成長率は0%台に止まる。ドイツは、「欧州の老人」になる。

     

    (3)「最も厳しいのが労働力不足だ。日本と同様に女性や高齢者の就業が下支えしてきたが、退職者の増加に追いつかない。人口に占める65歳以上の比率である高齢化率は日本が29%で、ドイツは22%。ウクライナ危機で100万人規模の避難民を受け入れたものの「移民では相殺できず労働力の大幅な減少につながる」(経済諮問委)。実際、ドイツ経済は景気後退の瀬戸際でも労働市場は安定している。IMFによると独失業率は28年に3%弱と東西ドイツ統一後の最低を更新する見通しだ。失業者があふれた2000年代にかけて10%前後で推移していたのとは対照的で人手不足に起因する失業率の低位安定こそが皮肉にもドイツ経済の不安の源泉だ」 

    下線部は、日本と似通った状態を示している。労働力不足が深刻化しているのだ。 

    (4)「ドイツが再び成長力を取り戻すには、構造改革や公共投資の成否がカギになる。独ハンブルク商業銀行のチーフエコノミスト、サイラス・デラルビア氏は「保育施設の充実など女性の労働参加を増やす取り組みが解決策の一つだ」と指摘する。名目GDPで逆転を許す日本は学べる相手だ。「人手不足への対処でデジタル化を活用する知見がある」とした上で「ドイツの企業や政治家は日本の経験を参考にするのが急務だ」と訴える。成長戦略に位置付ける環境投資は切り札になりえても、ドイツの企業向け電力料金は米国などの2倍以上で拙速な環境規制には反発が避けられない。競争力低下に危機感が強まる内憂外患のドイツ経済。名目GDPは世界3位になっても、世界経済はドイツの構造問題に向き合うことになる」 

    ドイツは、人手不足への対処でデジタル化が必要としている。その点では、日本の経験を参考にするのが急務としているほど。そう言われると日本は恥ずかしくなるが、日本のキャッシュレス決済は33%(2021年)だ。ドイツは21%(2020年)に止まっている。ドイツ人は、生活が地味で古風である。新しいものを受入れない「古さ」がつきまとっている。一口で言えば、良い意味で「頑固」な民族である。

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    ドイツ憲法裁判所は11月15日、ドイツ政府が新型コロナ対策で未利用になった600億ユーロ(約9.8兆円)を気候変動対策の基金に転用した21年分の補正予算が、基本法(憲法)に違反するとの判断を下した。憲法裁が問題視したのは、緊急だったはずのコロナ対策の資金を数年かけて使える気候変動対策に組み入れた点にある。 

    この気候変動対策には、米国や台湾の半導体企業を誘致する補助金が含まれている。この予算が憲法裁によって違憲とされたので、新たに資金手当をしなければならない。だが、そのメドが立たないことから半導体企業誘致計画に赤信号が灯っている。 

    『フィナンシャル・タイム』(12月5日付)は、「ドイツの予算危機、半導体戦略にも影を落とす」と題する記事を掲載した。 

    欧州最大の経済大国であるドイツでは、国内に投資する国際的な半導体メーカーに対し政府が巨額の補助金の交付を約束してきた。ドイツ東部マグデブルクに300億ユーロ(約4兆8000億円)を投じて新工場を設立する米インテルは99億ユーロの補助金を受け取ることになっていた。海外からドイツへの投資プロジェクトとしては戦後最大の規模となる。だが、ドイツ憲法裁判所が下した衝撃的な判断によって、2024年度の予算編成が大混乱に陥り、半導体メーカーへの補助金も実際に支給されるかが危ぶまれている。

     

    (1)「政治家や業界の専門家、企業幹部らはこの判断が半導体プロジェクトに深刻な影響を与えかねないと憂慮し、その場合にはドイツ全体の評判を大きく損ねかねないと警鐘を鳴らす。インテルが工場設立の計画を進めているザクセン・アンハルト州政府のシュルツェ経済相は「(もし補助金が支給されない事態になれば)投資先としてのドイツのイメージにとってとんでもない悲劇だ。この国はもはや信用できないと世に示すことになる」と嘆く。さらに同氏は、『フィナンシャル・タイムズ』(FT)に対し「戦後ドイツでは前代未聞の、壊滅的な打撃を受けることになるだろう」と述べた」 

    ドイツは、半導体企業誘致計画で補助金支給を前提にして話合いを進めてきた。だが、ドイツ憲法裁による当該予算への流用が憲法違反とされ、大混乱に陥っている。24年に補助金支給予定の予算が「消えた」からだ。 

    (2)「米インテルや台湾積体電路製造(TSMC)など他の半導体メーカーへの補助金も、気候変動対策基金から拠出されるはずだった。憲法裁の判断で危機感を募らせたのは半導体メーカーだけではない。温暖化ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)の生産体制を目指して巨額の投資をしている鉄鋼メーカーなど、補助金を受け取る予定だった他の大企業にも広がっている。財政をめぐる今回の問題はドイツの最も重要な政策の一つである世界的な半導体生産国になるという構想を直撃した。この構想は、サプライチェーン(供給網)を強化し、経済のレジリエンス(回復力)を高め、台湾の半導体メーカーへの依存度を減らすという欧州連合(EU)のより広範な戦略の一部でもある。とりわけ台湾に半導体製造を依存する体質は中国と台湾の対立の行方によっては深刻な脆弱性をはらむ」 

    ドイツでの半導体供給体制の確立は、EUの広範な戦略の一部であることから、EU自身も困惑している。半導体の自給体制は、EUにとっても不可欠であるからだ。

     

    (3)「ドイツのショルツ首相は11月、国際会議の席で半導体工場の建設を予定通り「進めたいことに間違いはない」と断言した。「欧州で半導体が生産されること、とりわけドイツ、特にドイツ東部で生産されることが未来とすべての人々への重要なシグナルだ」と強調。だが、ハベック副首相兼経済・気候保護相は先週、イベントの席上で補助金の問題が持ち上がった際、「カーボンニュートラルや経済安全保障の極めて厳密な基準を満たしていない一部のプロジェクトは優先順位を下げる」ことも考えられるとし、政府の構想を縮小せざるを得ない可能性を示唆した」 

    ショルツ首相は、強気の姿勢を貫き予定通りに進めるとしている。だが、予算上の制約を無視できない。ドイツの基本法(憲法)は、財政赤字をGDPの0.35%までに抑える「債務ブレーキ」を定めている。予算の流用が不可能になった以上、前記の財政赤字の制限が掛ってくるので、半導体プロジェクトの一部延期も持ち上がっている。

     

    (4)「TSMCと独政府とのやり取りについて知る複数の人物によると、ドイツ側が約束した補助金の額を引き下げればTSMCはドイツの合弁パートナー企業との契約を含むドレスデン新工場建設の契約条件を見直さざるを得なくなる可能性もあるという。そのうちの一人は「今から9ヶ月後になって補助金が一切出ないということになればプロジェクト自体を中止しなければならなくなる。これが最悪のケースだ」と指摘する」 

    台湾のTSMCは、予定通りの補助金支給が不可能になれば、計画見直しを迫られるとしている。TSMCの場合、ドイツ進出に消極的であったいう事情もある。TSMCは、日本進出によって素材や研究面でのメリットを受けられる。ドイツには、それがないのだ。 

     

    (5)「補助金問題に詳しいある企業幹部は、「ドイツでプロジェクトを抱えながら補助金交付の法的拘束力のある契約をまだ締結できていない半導体メーカーの人々は誰もが困り果てている」と言う。半導体メーカーの別の幹部の物言いはさらに率直だ。「ドイツは(東西ドイツ統一後の1990〜2000年代にかけて景気低迷が続いた) 『欧州の病人』に逆戻りしたのみならず、『欧州の愚人』になってしまったことが明らかになった。完全な失敗だ」と指摘する」 

    ドイツは、今回の半導体補助金問題を巡って評価を落としている。だが、ドイツ政府にも気の毒な面があるのだ。

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    2021年頃は、「コンクリートの流し込みが始まらないうちに、もう集合住宅地での工事話が来ていた」ほど、建設会社は活況を呈していた。それから2年たち、1世帯住宅の市場は「完全崩壊」の状態だという。ドイツ全土で、住宅建設業者は景況の急激な反転に直面し、住宅建設の減少がドイツ経済全体に波紋を広げてきた。建設業界は、倒産の広がりで逆風にさらされている。

     

    『フィナンシャル・タイム』(11月12日付)は、「冷え込むドイツ住宅建設市場、経済に深刻な影響も」と題する記事を掲載した。

     

    資材価格は新型コロナウイルス禍前の水準から40%以上高騰し、欧州諸国の中で最大の値上がり幅だ。金利動向に左右されやすい住宅業界は、欧州中央銀行(ECB)が行った10会合連続の利上げにも対処しなければならない。ドイツはなおも大都市を中心に手頃な価格の住宅が不足しており、住宅ローン金利の上昇で住宅購入を見合わせる人が増えている。こうした状況の中で住宅市場への信頼感が著しく悪化し、ドイツの住宅不動産市況は欧州で最悪レベルの状態にある。

     

    (1)「住宅価格は、23年4〜6月期に前年同期比で10%下落し、建築許可件数の減少が欧州全体を大幅に上回るペースで進んだ。10月には22.%の会社が、プロジェクトの中止を報告した。Ifo経済研究所が1991年に集計を始めて以降で最多となった。If0の調査部門を率いるクラウス・ホールラベ氏は、「悪化の一途をたどっている。住宅建設の新規受注はごく低水準のままで、建設会社の受注残が減っている」と言う。建設業の竣工高は2015年1〜3月期から22年初めまでの間に16%以上増加した。低金利と比較的緩やかな融資基準を追い風に需要が急増する中、欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)によると住宅価格は66%上昇した」

     

    住宅建設には、高金利は禁物である。現在のような高金利下では住宅需要が低下して当然であろう。欧州中央銀行は、金利を緩和する姿勢は全くみせていない。欧州中央銀行(ECB)は9月に10会合連続で利上げし、上げ幅は4会合連続で0.25ポイントとした。今回の決定で、政策金利は4.25%から4.50%になった。

     

    (2)「21年に国内総生産(GDP)の5%以上を占めた建設業の現在の苦境は、国際通貨基金(IMF)の経済見通しでドイツが主要先進国の最下位に転落する状況につながっている。英金融サービス会社ハーグリーブス・ランズダウンの上級投資アナリスト、スザンナ・ストリーター氏は、「不動産部門はドイツの成長エンジンなので、(同部門の問題は)良い前兆ではない」と言う。住宅建設の動向に業績が左右される企業も圧迫を感じている。1世紀以上にわたり浴室や台所の工事を手がけているバウマングループのマネジングディレクター、サビーネ・ブロックシュナイダー氏は、これより厳しい時期はほとんどなかったと語る。

    同氏は「販売の落ち込みとコスト増で、規模の小さい会社は深刻な困難に直面するだろう」と指摘し、1年前と比べて受注は15%減っていると話した」

     

    ドイツでは、建設業がGDPの5%以上を占めている。ドイツの成長エンジンである。それが、高金利でおおきな重圧を受けているのだ。

     

    (3)「バウマン社では、コスト増と需要減退の中で従業員1200人の人員整理とその他の従業員の一時帰休を余儀なくされそうだ。「来年はさらに厳しくなると見通しており、残念ながら臨時雇用の従業員は切らざるを得なくなるだろう」とブロックシュナイダー氏は語った。業界側は、多くの住宅建設業者が市場の失敗とみなす問題の是正に政府が介入すべきだとみている。1990年代や2000年代初めの下降期とは異なり、ベルリンやミュンヘン、ハンブルク、ケルン、フランクフルトといった大都市では依然、手頃な価格の住宅が足りない状況にあると業界側は訴えている」

     

    来年も、建設業は厳しい環境が続くと予想している。高金利が続くからだ。ただ、大都市には、手頃な住宅を求める潜在需要が多いという。

     

    (4)「建設業界向けに重機の販売・レンタルを手がけるBKLバウクラン・ロジスティクのヨルク・ヒゲストバイラー最高経営責任者(CEO)は、「建設費の大幅な増加と金利高という現在の状況が投資家と開発業者をおびえさせている」と話す。業界は9月、税優遇や魅力的な補助金制度、省エネ基準の引き下げ、計画・認可手続きの簡素化など14項目の行動計画について連邦政府と合意した。11月6日に発表された一連の施策について、ガイビッツ住宅・都市開発・建設相は行政手続きと法制上のハードルを低くして業界の回復を加速させると述べた。同相は、「手頃な価格の住宅をより速やかに建設するためには、計画と認可、建設にもっとスピードが必要だ」と語り、「連邦政府と各州政府が合意した協約により、確実に加速する」と強調した」

     

    業界は、11月の政府による一連の住宅政策に期待を賭けている。政策が効果を発揮するようになれば、底入れ期待も持てるからだ。欧州経済センター(ZEW)が、11月14日に発表した11月のドイツの景気期待指数(先行指数)はプラス9.8と、予想以上に上昇した。4月以降、初めてのプラスである。先行指数は、4カ月連続の改善だ。今後、半年経てば景気が回復するとの見方を示唆するものだ。『ロイター』(11月14日付)が報じた。

     

     

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