勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース

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    ドイツのショルツ首相は25日、訪問先のインドでモディ首相と会談し、安全保障政策で協力を深めることで合意した。ドイツ製潜水艦のインド輸出も視野に入れている。ドイツ海軍の艦隊が9月に、台湾海峡を通過した。ドイツは、アジアの安保体制にかかわり、中国をけん制する姿勢が一段と鮮明にしている。

     

    インドのモディ首相は10月24日、中国の習近平国家主席と会談した。両首脳の正式会談は5年ぶり。2020年にインド北部ラダック周辺で衝突して以来、冷え込んでいた両国の関係が改善し始めたことを示唆した。

     

    インドは、中国との緊張緩和を進める一方で、ドイツの軍事協力も強化する「二刀流」外交を行っている。インドは、非同盟が外交原則であるものの本質的な「中国警戒」が外交基本にある。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月25日付)は、「ドイツがインドと安保協力、首脳会談 潜水艦輸出も」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「独印両国は25日、ニューデリーで「政府間協議」を開いた。両国首相のほか、経済・気候相など主要閣僚のほぼ全員が参加する実質的な合同閣議となった。安保・通商・気候変動・人材交流など広範な分野での協力を確認し、双方が合意文書に署名した。具体的には、外交・安保での連携強化に加え、欧州連合(EU)とインドの自由貿易協定(FTA)の交渉加速や、高度人材のEUでの受け入れなどが盛り込まれた」

     

    ドイツは、インドとの幅広い交流を進める基本方針を立てている。日独協力の輪をさらにインドへ広げる戦略である。ドイツ海軍艦艇が、台湾海峡を通過するなどインド太平洋戦略へ肩入れしている。

     

    (2)「ショルツ氏は協議前、中国の南シナ海などへの海洋進出を批判し「対立が沈静化することを願う」と語った。モディ氏も「インド太平洋は世界の安定にとって極めて重要だ」と応じた。ドイツは協議に先立って、対インド政策の基本指針となる「インド集中」と題する文書を閣議決定した。インドを「地域安定に影響力のある国」と位置付け、「緊密に協力」すると公約した。さらにドイツは「信頼できる安全保障上のパートナー」であるとも明記した」

     

    ドイツは、インドを「信頼できる安全保障上のパートナー」であるとも明記した。ドイツの並々ならぬインド接近政策の表れである。ドイツにとって、インド太平洋地域は経済発展の重要地域である。それだけに、独印関係の強化は重要である。

     

    (3)「ドイツ海軍は現在、インド太平洋に展開中で、26日はインド南部ゴアに寄港する。こうした軍事交流を拡充するほか、潜水艦のインド輸出を視野に入れる。ドイツはスペインとともに通常型潜水艦6隻の受注を目指しており、交渉は最終局面とされる。ドイツは冷戦中にインドに潜水艦を納入した実績がある。再度の輸出なら軍事面での協力が一気に深まるとドイツ側は期待する」

     

    ドイツ海軍は26日、インド南部ゴアに寄港する予定だ。こうした、セレモニーを通して関係強化を図る。ドイツは、潜水艦のインド輸出を視野に入れている。

     

    (4)「ドイツのインド接近には3つの狙いがある。まず、アジア安保に積極的にかかわり、中国をけん制する。2つ目は中国に依存する経済のデリスキング(リスク低減)だ。今回は独企業の経営陣が一堂に会する「アジア・パシフィック会議」をインドで同時開催した。ハベック副首相兼経済・気候相は日本経済新聞などに対し「独企業は進出先を多様化させる必要がある」と語った」

     

    ドイツのインド接近目的は、これまでのドイツの中国依存度を減らして、インドとの関係構築にある。インドは自由主義圏であり、政治リスクがないのだ。

     

    (5)「3つ目は、インドとロシアの軍事交流にくさびを打ち込むことだ。ドイツが、フランスやスペインなどと協力しながら、インドへの武器輸出を拡大すれば、インドがロシア依存を減らすのではないかとの思惑がある。もっともグローバルサウスの中核であるインドには、EUになびくつもりはない。モディ氏はショルツ氏に会う直前までロシアに滞在し、主要新興国で構成するBRICS首脳会議に出席していた。印シンクタンクORFのスワティ・プラブ研究員は「典型的なインドのバランス外交」と説明する」

     

    ドイツは、インドへ武器輸出を増やす狙いもある。印ロの固い関係の裏には、インドのロシアへの武器依存がある。ドイツには、時間をかけてインドへ武器輸出を強化する狙いが込められている。

     

    (6)「インドは、国連での対ロシア非難決議案で棄権に回るなど「中立」の立場を貫く。また割安なロシア産石油を買い増し、西側の対ロ制裁の効果を薄めている。今回の独印会談でウクライナ支援を続ける欧州勢との関係を重んじていることを示し、外交上の均衡を保つ狙いがある」

     

    インドは、外交巧者である。非同盟を旗印にしており、外交的利益を得る目的だ。

     

     

     

     

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    ドイツは周縁国から遅れ

    今後5年は労働力不足へ

    通貨はユーロ圏の保護下

    日独象徴トヨタvsVW

     

    EU(欧州連合)経済の牽引車であるドイツが、23年のマイナス成長(-0.31%)からの脱却に手間取っている。現状では、24年もマイナス成長に陥りそうだ。衝撃的であったのは、ドイツ最大の自動車メーカーVW(フォルクスワーゲン)が、創業(1937年)以来初めて、複数の工場閉鎖を迫られていることだ。VWは、トヨタ自動車に次いで世界2位である。この巨大企業が一部の工場を閉鎖とは、ドイツ経済が大きく揺れている証である。ドイツ政府は、何らかの支援策も検討する、としている。 

    VWが、工場閉鎖を迫れている背景は、EV(電気自動車)需要の失速にある。VWは、EV需要が一気に高まると予測して新工場まで建設した。だが、EV需要は世界的に失速し、各国メーカーも減産を迫られている状況だ。問題は、EV需要の失速がEV製品の価格面と品質面で競争力に欠けている点にある。VWも、実用化可能なEV電池技術を開発していないのだ。このままでは、閉鎖予定のEV工場再開のメドが立たない深刻な事態に陥っている。

     

    トヨタ自動車は、EV次世代技術を開発し終えて、26年から世界市場へ投入する。EV電池の性能を倍加して走行距離が1000kmで、コストは2割減を見込んでいる。車体は、一体成型する「ギガキャスト」を採用する。車体は3分割して自動走行させ、コンベアを不要にする。こうして、量産車の生産準備期間・生産工程・工場投資などは、従来の2分の1に削減でき、大幅な固定費の削減が可能だ。EV車体コストは、単純に言えば半分以下に切下げられる計算であろう。これに加えて、前記の電池コスト削減が加わる。 

    トヨタは、こういう具体的な技術進化を実現する。VWは目先、実現可能な技術展望のないことが今後の経営を不透明にしている。ドイツ経済は、自動車産業の帰趨によって影響を受ける局面になった。 

    ドイツは周縁国から遅れ

    ドイツ経済は、不名誉にも再び「欧州の病人」と呼ばれる事態を迎えている。前回は、東西ドイツ合併負担によるもので、1990年代から2000年代初頭にかけてであった。今回は、ドイツ製造業が競争力を失ってきたことが背景にある。2022年のロシアによるウクライナ侵攻が、ドイツの燃料コストを引上げたからだ。脱原発政策が、低廉なエネルギー確保を困難にしたという事情も加わった。

     

    欧州では現在、かつて財政が放漫で成長が遅いと批判されていたポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインのいわゆる「PIGGS」諸国が、これまで強国とされていたドイツよりも速いペースで成長している。EU経済で「主役交代」となったのだ。ドイツ病人説にはこういう背景がある。これら「周縁国」は2019年以降、経済成長率でドイツを追い越した。経済成長ペースが、ドイツを20%も上回るほどである。 

    ドイツ経済が、「周縁国」から出遅れた裏には、次のような事情がある。

    1)超堅実の財政政策を維持した需要不足

    2)インフラ・デジタル・教育などの投資不足 

    ドイツ基本法(憲法)では、財政赤字をGDPの3%以内に抑えることを求めている。この規定は、財政の健全性を保つために導入されたが、一方で公共投資などの不足を招いている。特に、インフラ整備や教育面、デジタル化などの分野の投資が遅れていると指摘されている。これが、ドイツ経済の潜在成長率を押下げている。

     

    ドイツが、憲法で財政赤字拡大抑制を規定しているのは、第一次世界大戦の敗北で天文学的なインフレに陥った反省からだ。これが遠因で、ドイツはヒトラーという極右政治家を生んで第二次世界大戦を始めた反省に立っている。だが、この財政赤字拡大抑制によって、予想外の事態に陥った。 

    ドイツの純公共投資額は、2000年以来ほぼゼロであることだ。公共資本のGDP比率は一貫して低下を続けている。この結果、民間部門が余剰貯蓄を抱える国になっている。この持て余している余剰貯蓄を国債で吸収し、インフラ整備・教育・デジタル化などの分野へ投資すれば、どれだけ国内はもとよりユーロ圏も潤うことか。ドイツは、そういう知恵を働かさないで「祖法」を御所大事に守っている。 

    皮肉なことに、民間部門が余剰貯蓄を抱える一方で、生活苦に喘ぐ旧東ドイツの3州は、排外主義を掲げる極右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への支持率が高まっている。最近の州議会選挙の結果は、AfDがブランデンブルク州で僅差の2位。チューリンゲン州は1位。ザクセン州も僅差の2位である。景気不安や移民流入でショルツ政権への不満が高まり、有権者は「反ナチス」という国是を無視して危険な選択をした。ドイツは現在、政治的危機と受け取るべきだろう。これを招いた遠因が、財政赤字の拡大阻止にある。(つづく)

     

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    昨年のドイツ名目GDPは、日本を抜いて世界3位になったものの実態はふらついている。円の異常安が生んだGDP3位交代であったことが、ますます明確になっている。 

    ドイツの欧州経済研究センター(ZEW)が、17日発表した9月の先行指数は3.6と、8月の19.2から急低下した。エコノミスト予想では、17への小幅な低下が見込まれていた。これほどの大幅悪化を予想したエコノミストは1人もいなかった。一致指数もマイナス84.5へ低下した。 

    『ブルームバーグ』(9月17日付)は、「ドイツの景気見通しは『著しく悪化』、ZEW先行指数が急低下」と題する記事を掲載した。 

    (1)「ZEWのバンバッハ所長は発表文で、「景気の早期改善への期待は目に見えて薄れつつある」と述べ、「ユーロ圏景気見通しの後退は悲観的な見方が総じて強まっていることを示唆するが、ドイツの見通しは著しく悪化している」と指摘した。ドイツの4ー6月(第2四半期)国内総生産(GDP)はマイナス。工業界の不振が影響した。ここ最近は、自動車メーカーのフォルクスワーゲン(VW)が国内工場の閉鎖検討や雇用保障協定の破棄を明らかにしたほか、BMWは業績予想の下方修正を強いられるなど、厳しいニュースが相次いでいる」

     

    ドイツ経済は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーコストの急上昇で製造業が窮地に立たされている。景気の半年から1年先を示す先行指数が、たったのプラス3.6では、10月はマイナス転落が不可避だろう。一致指数は、すでにマイナスである。ドイツ経済は正直正銘の危機状態にある。 

    『ブルームバーグ』(9月6日付)は、「ドイツ激震、VW工場閉鎖は『氷山の一角』 工業力衰退の象徴に」と題する記事を掲載した。 

    ドイツ最大のメーカー(VW)が工場閉鎖という引き返せない「ルビコン川」を渡ろうとしていることで、ドイツは工業力衰退という物語の中で最も象徴的な瞬間に直面している。VWの発表は、ビジネスの現実を遅ればせながら認識したというだけではない。自動車大国としてのドイツのイメージと、かつて輸出世界一だった経済への打撃だ。

     

    (2)「VWの発表は、ビジネスの現実を遅ればせながら認識したというだけではない。自動車大国としてのドイツのイメージと、かつて輸出世界一だった経済への打撃だ。1989年にベルリンの壁が崩壊すると、東西ドイツの統一が急がれたが、文化や経済面での格差は残った。9月1日に投開票された独東部2州の州議会選では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進した。東西の分断を浮き彫りにしているAfDや左派ポピュリストの勢いを止める力は、主流派の政党にはない」 

    旧東ドイツの2州は、景気が停滞しており極右政党が州議会選で躍進している。不況期の極右政党の進出は、旧ナチスを連想させるだけに不気味である。 

    (3)「AfDの台頭は、ショルツ首相の連立政権にとって痛手となるだけではない。2025年の総選挙が迫る中で有権者が抱く不満の根本原因に向き合うよう迫っている。そうした中で多くを左右するのが、輸出主導の自動車製造大国から、半導体やEVバッテリーといった先端を行くクリーンエネルギー大国への速やかな移行という新たな経済の奇跡をドイツが成し遂げられるかどうかだ」 

    かつての自動車大国ドイツが、VWの工場閉鎖問題が象徴するように、行き詰まっている。日本は、トヨタが世界一の座を堅守してくれている。ありがたいことだ。

     

    (4)「VWの失速は、時代に乗り遅れた企業を巡る警告であり、ドイツの成功モデルに潜んでいた陥穽(かんせい)だ。欧州経済の原動力となってきたドイツが、今後も欧州をリードし続けることができるのか疑問に疑問が投げかけられている。INGのマクロ部門責任者カルステン・ブルゼスキ氏は「VWの問題は誤った経営判断による自業自得という側面もあるが、VWはビジネス拠点としてのドイツが直面している難題の一例を突き付けている」と指摘。ドイツは長年にわたり競争力を失い続けており、これがかつての独経済の至宝、VWにも影響を及ぼしている」と述べた」 

    VWの失速は、EV(電気自動車)へ賭けすぎたことだ。EVが、未だ技術的に完成していないことに気付かず勝負した結果である。トヨタの判断とは、全く異なっていた。経営判断の失敗である。 

    (5)「VWは昨年、東部の中規模都市ツウィッカウでフルEV247000台と、「ランボルギーニ」と「ベントレー」向けに1万2000の車体を生産したが、工場閉鎖の可能性が浮上する前から、コスト削減がすでに進んでいた。EVが依然として高価でEV購入を促す奨励策が縮小されつつあり、欧州でのEVの普及がなかなか進まないという状況にツウィッカウ工場は全面的にさらされている。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のエコノミスト、マーティン・アデマー氏は、「ドイツ経済における自動車産業の重要性は近年低下しているが、引き続き非常に重要なセクターであることに変わりはない」と語った」 

    自動車産業は、雇用の受け皿である。工場閉鎖は、大変な失業者を生む。

     

     

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    ドイツ社会といえば、融通が効かぬほどの「堅物」とされている。一度決めたルールは、どんなことがあっても変えない。この頑固さが、財政赤字を少額にする一方で、インフラ投資不足を招くという、予想もつかない事態を招いている。 

    最近は再び、「欧州の病人」とまで呼ばれているほど。国内貯蓄は、「腐るほど」持っていながら、国債を発行しないで宝の持ち腐れになっている。これは、第一次世界大戦で天文学的インフレに陥った反省から来ている。あの苦しみが、骨の髄まで染みこんでいるのだ。ドイツのGDPは昨年、日本を抜いた。日本が、再び抜き返すチャンスはありそうだ。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月17日付け)は、「ドイツは再び『欧州の病人』か」と題する記事を掲載した。 

    国際通貨基金(IMF)の欧州部門が、3月27日に公表したブログの冒頭部分で「ドイツは苦しんでいる。昨年は主要7カ国(G7)で唯一、マイナス成長となり、今年の成長率も7カ国中最低となるだろう」と指摘した。

     

    (1)「IMFによると、ドイツの1人当たり国内総生産(GDP)は2019〜23年の4年で1%低下した。これは41カ国の高所得国中34位に位置付けられる。G7でドイツより悪かったのはカナダだけで、マイナス0.%の英国や0.%のプラスとなったフランスより悪い。6%の伸びを示した米国は別格だ。ドイツ経済が病んでいるとすれば、それは一過性の現象か、それとも慢性疾患なのか。以下の点からみると、前者であると論じることは可能だ」 

    ドイツ経済は、ここ数年低調である。日本は、このドイツに名目GDPで抜かれた。ひとえに円安が原因である。ドイツは、「ユーロ」という共通通貨によって守られている。幸運だ。 

    (2)「IMFブログで指摘するように、ドイツの交易条件はロシアによるウクライナ侵略で天然ガス価格が高騰したことで大幅に悪化したが、天然ガス価格が再び下落すると18年の水準に戻った。同時に起きた急速なインフレ高進も落ち着き、欧州中央銀行(ECB)は金融緩和に転じた。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後に製品からサービスへと世界的な需要のバランス再調整が起きたこともドイツ経済に不利に働いたが、これも反転しそうだ」 

    ドイツのエネルギー・コスト高は、ようやく収拾段階を迎えている。

     

    (3)「今のドイツ経済は5つの逆風にさらされている。第1に、ドイツの労働力人口(15〜64歳の人口)の比率は19〜23年には上昇していたが25〜29年には0.66ポイント低下すると予想されている。これはG7では過去最大の下げ幅だ。第2に、18〜22年の総公共投資のGDP比率は2.%で、主要な高所得国の中でスペインを除いて最も低い。英国も3%と低いが、それをも下回る」 

    ドイツ経済は,5つの逆風に遭遇している。第1が、生産年齢人口の減少だ。日本を上回る落込みである。第2は、インフラ投資不足である。ドイツの道路を見ると、舗装道路の至る所が必要箇所だけしか「布を当てたような」修繕しかしない「ケチケチ」ぶりだ。 

    (4)「第3に、ドイツの1人当たりGDP(購買力平価ベース)は17年には米国の89%だったのが23年には80%に低下し、同期間でG7中最大の低下率を記録した。第4に、ドイツはデジタル経済で重要な役割を果たせない状況が今後も続く。ドイツは欧州最大の経済であるため、その影響は欧州連合(EU)全体にも及ぶ。第5に、世界は分断の時代に入りつつある。これは貿易への依存度が高いドイツ経済にとって大きな痛手となる」

     

    第4は、ドイツがデジタル経済と最も遠いところに位置している。古風なのだ。第5は、貿易依存度が高いことである。EU他国への貿易量が多いことの必然的結果である。 

    (5)「ドイツの債務嫌いは誤りか、それ以上に偽善的だ。ドイツの貯蓄過剰は他国の貯蓄不足と債務でバランスが保たれなければならない。さらに、ユーロ圏諸国に財政赤字の削減を呼びかけても、ユーロ圏の経常黒字がさらに拡大するか、他のユーロ加盟国(例えばフランス)の民間部門が赤字に転じることを余儀なくされない限り、うまくいかない。こうした調整はドイツによる「近隣窮乏化策」と捉えられ、景気後退を引き起こす危険がある」 

    ドイツ人は、独特の金銭感覚で無駄な失費と無縁な生活だ。1517年、世界で最初に宗教改革を始めた国である。無駄な失費をとことん嫌う感覚が、プロテスタンティズムを生んだと思える。この精神が、連綿として受け継がれている。かつて、ドイツ南部の時計職人は自分でつくった柱時計を背負ってスイスまで行商に出かけていた。この堅実さが、今もドイツ人の血の中に流れている。

     

    (5)「ドイツの純公共投資額は今世紀初め以来ほぼゼロだと記されている。従って公共資本のGDP比率は一貫して低下を続けている。民間部門にこれだけの余剰貯蓄を抱える国であれば、ドイツとユーロ圏が必要とするより強力な供給サイドと需要の両方を生み出すため余剰貯蓄を国内投資に振り向けない手はない。ドイツが直面する短期的な問題はいずれ過ぎ去る。それよりも長期的な問題の方が深刻だ。中でも最も不必要な阻害要因は必要とされる公共投資の財源を国内で賄うことへの抵抗感だ。憲法に相当する基本法で財政赤字に上限を設ける不条理な「債務ブレーキ」を解除すべき時が来たようだ」 

    ドイツの純公共投資額は、今世紀初め以来ほぼゼロだという。いかにもドイツ人社会の堅物さを示している。インフラも、ボロボロになっても補修を続けて使っている。およそ、「使いずて」とは無関係な生活である。インフラ投資へもっと資金を使えという要求だ。

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    ドイツは、欧州経済の王者を自任してきたが、高電力料金で海外企業はドイツへの直接投資を敬遠してフランスへ流れている。フランスは、言わずと知れた原子力発電国である。低電力料金を「売り」にして対内直接投資では、ドイツのお株を奪っている。「工業国ドイツ」は危機感を強めているが、対抗策はゼロだ。ドイツ企業自体が、「脱ドイツ」を急いでいるほどである。

     

    『ロイター』(5月25日付)は、「企業投資はドイツからフランスへ、マクロン氏の改革が成果」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツの電子部品メーカー、ハーガー・グループは事業拡大に向けた新工場の建設場所を国内とフランスのどちらにするか迷った結果、フランスを選択した。グループ会長のダニエル・ハーガー氏はロイターに、フランスの法人税軽減措置や、工場立地探しに対する地元当局の支援、さらに企業にとって悪名高い同国の厳格な労働規制を柔軟に運用できる余地ができたことなどが、決め手になったと明かす。

     

    (1)「これはまさに、マクロン大統領が就任から7年かけて打ち出してきた企業寄りの改革が、ユーロ圏の経済規模ビッグ2であるフランスとドイツの経済的な力関係を変えたことを物語っている。もはやフランスの高い税率や、ドイツの週40時間よりも少ない週35時間の労働制に外国投資家が不満を唱えていた時代は遠い昔となり、フランスへの外国からの直接投資は記録的な水準に達しつつある。ハーガー氏は「マクロン氏が大統領に就任して以来、企業にとって事業環境ははっきりと改善し、歓迎されている」と語った」

     

    フランスは、マクロン氏が大統領へ就任以来7年間、取組んできた企業寄り改革が実を結び、海外からの直接投資は記録的な増加率になっている。

     

    (2)「ドイツの雇用の55%を占め、家族経営型が多い中堅・中小企業の典型と言えるハーガー・グループは、引き続き国内にも投資しているが、結局フランス東部のアルザス地方に1億2000万ユーロ(1億3000万ドル)を新たに振り向けることになった。26日にフランス大統領として2000年以降で初めてベルリンを公式訪問するマクロン氏は、前任者たちのように外資誘致競争で置き去りにされることをあまり心配せずに済む。000年当時、フランスは週35時間労働制を導入したばかりで多くの外国投資家にそっぽを向かれていた一方、ドイツは労働改革を強化し、06年から10年間にわたる力強い輸出拡大基調の土台を築いた

     

    ドイツは、フランスが週35時間労働制を導入した結果、2006年から10年間にわたりドイツの優位性が目立ち輸出拡大基調の基礎を築いた。フランスの「敵失」に救われた形だ。

     

    (3)「近年、そのドイツの経済成長モデルには疑念が生じている。中国向け輸出や安価なロシア産天然ガスに依存し過ぎた上に、インフラの老朽化や電力価格の高騰、緊縮財政などが重くのしかかっているからだ。対照的にフランスは、原子力エネルギーを長期的に推進してきた経緯もあり、外国のハイテク企業からの投資も増えている。例えばマイクロソフトは、膨大な電力を消費するデータセンターを同国に建設する」

     

    今やドイツに逆風が吹いている。原発抑制とロシア産天然ガスに依存しすぎた結果、エネルギーコストが高騰している。ドイツは、インフラの老朽化や憲法上の規定による緊縮財政も重なり、欧州の病人とまで言われる事態だ。フランスとは、立場が入れ替わった。

     

    (4)「コンサルティング会社EYの年間調査によると、ドイツが勢いを失い、英国も欧州連合(EU)離脱による逆風が依然尾を引いている中で、フランスは2019年から欧州で外国からの直接投資が最も多くなっているマクロン氏が企業投資誘致のためにベルサイユ宮殿で毎年開催している会議では今年、過去最高となる150億ユーロ相当の投資の約束を獲得。また同氏は法人所得税率を25%に引き下げることなどで、企業の年間の税負担を250億ユーロ圧縮したほか、他の事業関連税を軽減したり撤廃したりしている。

    ドイツ貿易・振興機関によると、同国の平均的な法人税率は30%弱だ」

     

    ドイツへ集中した対内直接投資は、2019年からフランスへ流れが変わった。フランスの改革が軌道に乗ったからだ。

     

    (5)フランスは企業寄り政策が実を結び、マクロン氏が初当選した17年以降の経済成長率はドイツの2倍以上に達していることが、ロイターの計算で分かる。フランスの雇用数も過去最高水準だ。EYの調査によると、外資が創出した雇用数は昨年4%増加したただ外国投資家の人気を集めているこうしたマクロン氏の改革は、しばしば有権者の感情を逆なでし、同氏の支持率は低迷している。フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままだ。ハーガー氏は、外国投資がフランスに大きく流入しているとしても、同国の工業セクターがドイツに追いつくまでの道のりはなお非常に長い、と話している

     

    マクロン氏が、フランス大統領に就任以来のGDP成長率は、ドイツの2倍になっている。だが、国内の評判はよろしくなく世論との紛争が絶えない。フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままである。フランスが、ドイツの工業部門の水準へ到達するのはまだ先の話だ。

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