勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済

    a0960_008527_m
       

    IMEC(インド・中東・欧州経済回廊)構想が、関係国の覚え書き署名によって動き出す態勢ができあがった。IMECは23年9月、ニューデリーで開催した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、モディ首相とバイデン米大統領が明らかにした巨大インフラプロジェクトである。中国の「一帯一路」へ対抗するもので、インド経済が欧州・中東と結びつく上で欠かせないルートになる。

    このほどIMECは、インド、米国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、フランス、ドイツ、イタリア、欧州連合(EU)が参加を表明し覚書に署名した。インド洋からアラビア半島に向かい、UAE、サウジアラビア、ヨルダン、イスラエルを通過して地中海や欧州に至る経済回廊を築く。総距離は、陸上と海上を含めて7000~8000キロメートルとされる。一帯一路は、8000~1万キロメートルとみられるのでIMECが有利な立場とされる。

    IMEC構想が実現すれば、インドとヨーロッパの間の貿易が大幅に改善される。中国にとって脅威なのは、欧州がインドと直結して将来、欧州市場喪失リスクが高まることだ。

    『日本経済新聞 電子版』(1月13日付)は、「インド・欧州、経済回廊が始動 中国の『一帯一路』に対抗」と題する記事を掲載した。

    中東を経由してインドと欧州を結ぶ「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」の計画が動き始めた。構想自体は2023年に持ち上がったが、その後の中東情勢の混乱で協議は棚上げになっていた。インドのシン外務担当相は24年12月20日、「東回廊はインドと湾岸地域を結び、北回廊は湾岸地域と欧州を結ぶ。アジア、欧州、そして中東の画期的な統合を呼び込むだろう」。国会でIMECの役割を問われこう自信を示した。

    (1)「IMECは、湾岸地域とアラビア海の港湾からイスラエルのハイファ港までを結ぶ鉄道路線など、物流網の他に送電網、通信網、水素輸出に用いるパイプラインなども構築する。インドは、サプライチェーン(供給網)を強化し、持続的な経済成長につなげたい考えだ。この構想は米印の発表からわずか1カ月後に失速の憂き目に遭う。イスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘が激しくなり、中東各国の協議が遅れてきた。一連の計画はここにきて具体化し始めた。24年12月にはUAEのアブドラ・ナハヤン副首相兼外相が訪印し、モディ氏との間で「歴史的な取り組み」とうたいIMEC計画の推進で合意した」

    IMECは、中国とロシアには不気味な存在になる。中国は、欧州市場を失いかねないこと。ロシアは、自国天然ガスが湾岸諸国産に代替されるリスクである。

    (2)「IMECに、中国の広域経済圏構想「一帯一路」に対抗する狙いがあるのは明らかだ。中国は、イランとサウジの国交回復で仲介役を演じるなど、中東に触手を伸ばしてきた。米国はその影響力を封じ込めたいと考えている。インドは、近海で拡張主義をみせる中国海軍の存在に脅威を感じており、IMECが海洋安全保障にも機能すると期待する面がある。ロシアのウクライナ侵略が長引いたことで、欧州によるIMECへの関心は高まった。ロシア産天然ガスのEUへの供給が減少し、その代替として湾岸諸国産の液化天然ガス(LNG)に注目するためだ」

    IMECが完成すれば、中ロは欧州や湾岸諸国との経済的な結びつきが弱体化する。外交面でも弱点を抱えることになる。

    (3)「中東との距離感は複雑だ。インド側には「UAEやサウジアラビアなどが進める経済開発にインドも一枚かみたい」(印シンクタンクORFのカビール・タネジャ氏)という考えがある。一方、トルコ政府の視線は冷たい。トルコは、欧州とアジア間の物資輸送で中心的な役割を果たしてきたとの自負があり、IMECを脅威とみなす。エルドアン大統領は「トルコ抜きの回廊はありえない」と述べた。スエズ運河の通航料で外貨を稼ぐエジプトも心穏やかではない。欧州とインドが運河への依存度を減らせば、エジプトの財政状況には大きな打撃になるからだ。思惑の不一致や主導権争いはプロジェクトの遅延などを誘発する要素になる」

    IMEC構想では、トルコとエジプトの利益が損なわれる問題が出てくる。この二国への経済的配慮が必要になろう。

    (4)「IMECの最大の問題は資金調達だ。当初の試算では輸送回廊の各ルートの費用は30億ドル(約4700億円)〜80億ドルになるとされているが、さらに膨らむとの指摘がある。中国が単独で資金調達と監督を行う一帯一路とは異なり、国境を越えた多様な国家や企業の協力が必要で、それゆえに大きなリスクを伴う。インド経済に詳しい国際貿易投資研究所の野口直良専務理事は、「民間投資の誘致を呼び込むためにも、開発銀行など国際的な金融機関の参加が欠かせない。日本も経済安全保障上のインフラとして活用の機会を探るべきだ」と指摘する」

    IMECの資金は、30億ドル(約4700億円)〜80億ドル(約1兆2500億円)程度だ。その気になれば、簡単に捻出可能な規模である。それだけ、工事も簡単という意味だ。





    a0960_004876_m
       

    ロシアは、経済制裁によって欧州への原油輸出が先細りになってきた。このマイナス分を埋めるべくインドへ接近している。3月31日には、ロシア外相が訪印したので、この問題が議論されると見られる。

     

    インドは、対中国への安全保障のため「クアッド」(日米豪印)に参加している。西側諸国が一致してロシア制裁を行なっている中で、インドがロシアを救済するような取引を行なうのは批判を呼んでいる。インドは、国連における「ロシア非難決議」で棄権した。

     


    『ブルームバーグ』(3月31日付)は、「ロシア、インド向けに原油の大幅な値引き販売を提案-関係者」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアは国産原油を大きく値引きしインドに直接販売することを提案している。事情に詳しい関係者が明らかにした。

     

    (1)「ウクライナに侵攻したロシアに対し国際社会が制裁を強める中で、ロシアはインドによる原油購入を促そうと、ウラル原油を侵攻前の価格と比べ1バレル当たり最大35ドル安く提供しようとしている。極秘に交渉が行われているとして関係者が匿名を条件に語った。ウクライナで戦争が始まってから、原油価格の指標である北海ブレントは10ドルほど値上がりしており、ロシアが提示する値引きは現行水準からみると極めて大きなものとなる見込み。原油の売買交渉は政府間で行われていると関係者は説明した」

     


    インドは、ロシアからの武器輸入でトップになっている。国連決議で「ロシア非難」に参加しなかった理由として、この武器輸入が上げられている。インドは,ここでロシアへ恩を売れば、武器輸入でメリットがあると期待しているのであろう。

     

    (2)「国際的な圧力や制裁を無視し、ロシア産原油への購入を増やそうとしている国は少ないが、アジア2位の石油輸入国であるインドは原油調達でロシアに傾斜。二国間の直接売買は、ロシアのロスネフチと石油精製でアジア最大手のインド石油が関与する見通し」

     

    インドは、西側諸国が結束してロシアへ圧力をかけている中で、大幅なディスカウントで原油を輸入しようとしている。一種の「火事場泥棒」のようなものだ。インドの品格を傷つける行為である。

     


    『ブルームバーグ』(3月30日付)は、「
    ロシア、インドにSWIFTに代わる決済手段の利用提案-関係者」と題する記事を掲載した。

     

    インド政府はロシアとの2国間決済について、国際銀行間通信協会(SWIFT)国際決済ネットワークに代わりロシア中央銀行が開発したシステムを利用するよう同国側から提案を受け、それを検討している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

     

    (3)「インドは、厳しい国際的制裁を受けるロシアから原油や武器を引き続き購入したい意向。ロシア側の提案には、メッセージシステムSPFSを利用するルピーとルーブル建ての決済が含まれるという。最終的な決定は下されておらず、ロシアのラブロフ外相が3月31日から2日間の日程でインドを訪れる際にこの問題が議題に上る可能性がある。ロシア中銀の当局者が詳細を詰めるため来週インドを訪問する公算が大きいとも、この関係者は述べた」

     

    ロシアとインドは、SWIFTを逃れロシアのメッセージシステムSPFSを利用するという。このシステムは、SWIFTから取引情報を得ている筈だから、無傷で「スルー」は無理であろう。米国が、インドを制裁するよりもロシアを制裁する形で、何らかの行動に出ると見られる。

     

    『ブルームバーグ』(3月31日付)は、米国と豪州、インドを批判-対ロ制裁を骨抜きにする提案検討で」と題する記事を掲載した。

     

    米国とオーストラリアは、対ロシア制裁の骨抜きにする同国案を検討しているとしてインドを批判した。日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」の溝の深まりが浮き彫りになった。ロシアのラブロフ外相は31日にインドのニューデリーに到着する。

     


    (4)「ブルームバーグはインドが国際銀行間通信協会(SWIFT)国際決済ネットワークに代わり、ロシア中央銀行が開発したシステムを利用するよう同国側から提案を受け、それを検討していると、事情に詳しい関係者を引用して伝えていた。レモンド米商務長官は30日、ワシントンで記者団に、「今こそ歴史の正しい側に立って米国および他の多数の国々と連帯するとともに、ウクライナ国民と共に自由と民主主義、主権のために立ち上がり、プーチン大統領の侵略への資金供給や後押し、支援を控えるべきだ」と語った。同長官はインドとロシアの協議の報道について「極めて遺憾」とした上で、詳細は見ていないと説明した」

     

    インドには、インドの事情があるとしても、自由陣営の一員で中国と鋭く対立している現在、自国の利益だけ考慮した行動は控えるべきだ。

     


    (5)「オーストラリアのテハン貿易・観光・投資相は記者ブリーフィングで、「第2次世界大戦以降、われわれが堅持してきたルールに基づくアプローチを守るため」、民主主義諸国が協調することが重要だと述べた」

     

    インドが、ロシア産原油を直接取引するならば、米国も見逃す訳にはいくまい。ロシア制裁という形を取るのだろう。

     

    ムシトリナデシコ
       


    習近平氏は、過激な民族主義者であり、「中華再興」を掲げている。失われた清国時代の誇りをとり戻すというのである。当時の清国は、世界一の経済規模であったという推計がある。当時は農業社会である。国土が、広ければ農地にも恵まれている筈。中国が、農業で世界一であったというのも、あながちウソとは言えない。

     

    現在は、工業社会であり高度サービス社会である。中国が、過去の科学空白時代を乗り越えて世界一になるのは極めて困難な条件を抱える。中国は、科学立国を目指すならば、解放体制を継続しなければならない。だが、習氏は「第二の長征」を標榜している。長征とは、毛沢東が国民党軍との戦いを回避した、1934年10月から1年余、江西省瑞金から陝西省北部まで約1万2500キロの大行軍である。

     

    習氏は今後、この大行軍に匹敵する苦難を厭わず、米国と対抗するというのである。それが、中国国民を幸せにする保証はない。そういう対抗を挑むより、平和的な手段による共存共栄を図るのが効果的である。習氏は、それを拒否して戦いを挑むようである。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(2月2日付)は、「過度のナショナリズムは『経済回復』の足を引っ張る、それは歴史からも明らかだ」と題する記事を掲載した。筆者は、カウシク・バス米コーネル大学教授である。

     

    世界銀行は1月11日、年2回発表する「世界経済見通し」報告書の最新版を公表した。それによると、世界経済成長率は昨年の5.5%から、今年は4.1%に減速する。債務負担が増大し、サプライチェーンの問題が物品・サービスの流れを妨げインフレ率が上昇するなか、各国は追加の財政支援を行う力を失っている。「債務返済が困難な状態に陥るリスクが高い」国が複数あると、世銀は警告する。さらに、昨年後半に急騰したエネルギー価格がさらに跳ね上がり、その上昇率は世銀の半年前の見通しを上回るという。

     


    (1)「報告書の統計表に盛り込まれた情報の中で、特に興味深いのは主要経済国の最近のGDP成長率と今後2年間の成長予測だ。昨年、主要経済国のうちで実質GDP成長率がトップクラスだったのはアルゼンチン(10%)、トルコ(9.5%)、インド(8.3%)だ。ただし、危機の後の成長率は注意深く解釈する必要がある。昨年の成長の大部分は、パンデミックによる2020年の景気減速の深度を反映したものにすぎない。アルゼンチンの20年の成長率は前年比9.9%減で、インドは7.3%減。メキシコと並び、主要経済国中で最低水準だった」。

     

    昨年の新興国の経済成長率が高かったのは、一昨年のマイナス成長の反動に過ぎない。

     

    (2)「新興国・途上国は通常、比較対象となる基数がより低いこともあって、先進国より成長率が高い。だが世銀の報告書によれば、23年末までの新興国・途上国の経済見通しは先進国を下回る。追加支援を行う政策余地が限られ、より大きな「ハードランディング」リスクに直面しているからだ。経済回復がばらつく主な理由の1つは、経済よりも政治に絡む。近年、先進国のアメリカでも新興国のブラジルでも、攻撃的なナショナリズムへの支持が急速に拡大している。この事実が、経済パフォーマンスの在り方を決定する上で、大きな役割を果たしているのは間違いない

     

    今年の経済は、先進国が新興国を上回る。新興国が、先進国に及ばないのは攻撃的ナショナリズムに傾斜している結果である。これは、言外に中国のナショナリズムへの動きを示唆しているのであろう。「ゼロコロナ」で欧米のワクチン接種を拒否する中国へのメッセージである。

     


    (3)「極度のナショナリズムは多くの場合、長期的に見て経済に大損害をもたらす顕著な例がアルゼンチンだ。20世紀に入ってしばらくは世界で最も急速に成長し、アメリカを追い越すとの見方がもっぱらだった。変化が起きたのは1930年。軍事クーデターによって、ウルトラナショナリスト政権が発足したときだ。開放的だった経済は世界に扉を閉ざし、すぐに停滞してアメリカに大差をつけられた。イギリスからの独立後のインドでは、初代首相ネールや詩人ラビンドラナート・タゴールらが、出どころが西洋であろうと最良のものを吸収しようとし、人間としての普遍的なアイデンティティーを擁護した。彼らの姿勢は世界的にも際立っていた

     

    ここでは、アルゼンチンの軍事クーデターが、経済発展を止めてしまった例を挙げている。中国も、国内は監視体制で身動きできないように圧迫している。こういう事態が、中国経済の発展を阻害する。その点、インドはナショナリズムに陥らず、普遍的価値観に沿って発展して来た。それが、インド経済を発展軌道に乗せたのである。

     


    (4)「私の子供時代、父のある友人はわが家を繰り返し訪れ、より急進的なナショナリズムが必要だと説いた。ある日、私たちを説得できないことにいら立った彼は大声でこう言い放った。「西洋がインドに倣わないのなら、インドは西洋に倣うべきでない」。こんな矛盾したことを言うのは、攻撃的なナショナリズムのせいで思考力が鈍っているせいだ。小学生だった私にも、それは明らかだった。公衆衛生危機は終わらず、同時に暴力的混乱の脅威を抱えている国もある。それでも極度のナショナリズムに屈すれば、国家の失敗を自ら招くことになる」

     

    インドは、英国の植民地であったが、独立後に英国へ対抗することもなく融和姿勢を続けている。中国は、列強に支配された屈辱を晴らすと、民族主義へ舵を切っている。印中、どちらが将来の発展性に富むか。そういう問題へ帰着するだろう。結論は言うまでもない。

     

     

    a0960_008407_m
       

    西側諸国は、中国の「龍」よりもインドの「象」に親しみを感じている。その「象」は、なかなか経済的に「龍」の代役を果たせないという失望を与えているのが現実だ。どうしたら、たくましい「象」が誕生するのか。

     

    日中韓など15カ国が昨年11月、東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名した。ただ、インドが離脱してしまった。RCEPは、もともとインドも含む16カ国で、2013年に交渉を始めたもの。関税の撤廃・削減などを巡る協議が難航し、交渉妥結の時期を何度も延期してきた経緯がある。挙げ句に、インドの離脱になった。

     

    インド離脱の理由については、対立関係を深める中国との経済関係を蜜にしたくなかったなどが取沙汰されている。だが最終的には、RCEPの関税ひき下げがインドに重荷になるという判断であった。日本は、インドと「クアッド」(日米豪印)による、半導体・医薬品・バッテリー・レアアースの4品目で協力体制を組んでいる。これを通して、インド経済の体質強化が進むように支援する必要がある。

     

    『日本経済新聞』(8月29日付)は、「中国に取って代われないインド」と題する寄稿を掲載した。筆者は、カナダ・アジア太平洋財団特別研究員 ルパ・スブラマニャ氏である。

     

    オーストラリアのアボット元首相は、「好戦的な」中国よりも、民主主義国のインドとの経済・貿易関係を強化すべきだとの議論を展開する。欧米が、グローバル・バリューチェーン(GVC=国際的な価値の連鎖)の中心として中国に依存していることも強く批判している。

     

    (1)「欧米の多国籍企業にとって、法治国家であり労働人口の多いインドは、理想的なパートナーのはずだ。だがスイス金融大手UBSによると、こうした企業が中国中心のGVCから撤退しているかどうかははっきりしない。理由のひとつは、中国が圧倒的なスケールメリットによって競争力を維持していることかもしれない。アボット氏らは、中国に対する自国経済の脆弱性を誇張しすぎているようにもみえる」

     


    米国がTPP(環太平洋経済連携協定)へ復帰する事態になれば、否応なく中国に拠点を置く欧米の多国籍企業は移転せざるを得なくなろう。幸いというべきか。現在の米国は、インフレ問題が起こり始めている。米国がTPPへ復帰できるまたとない条件をつくっているのだ。物価を下げるためにも、TPP復帰は必要という論理が理解されるだろう。

     

    (2)「豪州のような国が、地政学的あるいは戦略的な理由から中国から離れることを望む場合、GVCの重要な部分をインドに移すだろうか。可能性はあまり高くない。インドは、環太平洋経済連携協定(TPP)と東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)に参加していない。世界最大の経済で、巨大な国内市場を持っているために余裕のある米国を除けば、唯一不参加の域内主要国といえる。TPPとRCEPは、世界の貿易と経済活動の大きな部分を占めている」

     

    インドがいつまでも、TPPやRCEPに背を向けていることはあり得ない。参加は、時間の問題であろう。日本は、インドの友好国としてなにか助言することがあれば積極的に行うべきだ。トヨタ自動車は、現地に技術専修学校をつくっている。こういう試みを拡大させることも有力な技術レベルの引き上げ手段となろう。

     

    (3)「インドが中国に取って代わって世界の製造業のハブになるというのは、経済学に基づいているというより、地政学から生まれた希望的観測に基づくものというのが本当のところのようだ。インドは既存のGVCへの統合レベルが低いため、スタートラインに立つことさえできない。世界貿易機関(WTO)の指標などによると、ベトナムのようなアジアの新興国は、中国から移転するGVCの獲得という点で、インドのペースを上回る。(こうした動きをみても)インドは世界最大の民主主義国かもしれないが、中国が当面、世界の工場であり続けるだろう」

     

    当面は、インドへの期待は地政学から生まれた希望的観測に基づくものとしても、中国の労働力不足は深刻である。特に、ブルーカラー不足が顕著である。逆に、ホワイトカラーが余剰という、雇用のミスマッチが起っている。この状態は、中国の李首相自身が2025年まで続くと見ているほどだ。

     

    必ず、西側の多国籍企業はインドへ労働力を求めて移転するはず。それが、経済常識というものなのだ。

    a0960_001611_m
       

    中国の急速な軍事力拡張に刺激され、インドも2隻目の空母を建艦した。こうして、一国の軍事力拡大は、周辺国の軍事力を拡大させる「安全保障のジレンマ」をもたらすことを立証している。諸悪の根源は、中国である。自国の思惑通りに、ことが進まないという現実を知るべきだろう。

     

    『大紀元』(8月21日付)は、「インド海軍、ミサイル駆逐艦など南シナ海に派遣」と題する記事を掲載した。

     

    一触即発の国境紛争の和解を目指して中印の交渉が進む中、提携諸国や近隣諸国との関係深化を図ることで継続的にインド太平洋における防衛態勢の強化に取り組むインドの姿勢には、中国を牽制したい同国の願望が如実に表れている。

     

    (1)「ロイター通信の報道では、インド海軍は2021年8月上旬に友好国との安保関係強化を目的として南シナ海に海軍任務部隊を派遣すると発表した。インド海軍が発表した声明によると、誘導ミサイル駆逐艦と誘導ミサイルフリゲートを含む4隻の艦船が東南アジア、南シナ海、西太平洋を2ヵ月間航行する予定である。同海軍は声明を通して、「今回のインド海軍艦船の展開は、海事領域における秩序の確保に向けて作戦範囲、平和的な存在感、友好国との連帯を強調することを目的としている」と述べている。2016年の常設仲裁裁判所の判定を無視した中国が現在も広大な海域の領有権を主張し、環礁や岩礁を軍事化していることで長年にわたり南シナ海は紛争の火種となってきた」

     

    下線のように、インド海軍は4隻の艦船で南シナ海を航行する。インドも「航行の自由作戦」に参加したことになる。インド海軍の実力を中国へ見せつける場だ。

     

    (2)「インド海軍艦船は南シナ海を航行するだけでなく、2021年8月下旬にはグアム島沖でオーストラリア、日本、米国と合同訓練を実施する予定である。合同海軍演習「マラバール」に参加する諸国は、通称「Quad(クワッド)」として知られる日米豪印戦略対話(4ヵ国戦略対話)に参加している。インドはまた、初の国産空母の試験航行を実施するなど海洋における存在感を強化している。最近、インド南部に位置するケーララ州沖で試験航行が開始された空母「ヴィクラント」が就役すれば、これがインド2隻目の現役空母となる」

     

    インド海軍は、実戦訓練をクアッド(日米豪印)海軍と行う。これとは別途に、初の国産空母「ヴィクラント」の試験航行を実施する。この就航によって、インドは2隻の空母を保有することになった。

     


    (3)「フランス通信社(AFP)によれば、インドは「空母を国内で設計・製造できる数少ない諸国の仲間入りができる。これはインド政府が推進する「インドでモノづくりを(Make in India)」イニシアチブの推進力を示す真の証となる」と、インド海軍は発表している。多国間の協力体制強化を目的として、インドとその防衛提携諸国は継続的に「航行の自由」作戦を実施している」

     

    国産空母「ヴィクラント」は、「インドでモノづくり」をというイニシアチブを実現したことになる。工業力において、インドは中国と同等であることを示した。

     

    (4)「2021年7月下旬、インドと英国がベンガル湾で演習を完了した後、満載排水量6万5000トンの新空母「クイーン・エリザベス」を中核として構成された「英国空母打撃群21」が南シナ海の紛争海域に入域した。中国は同空母打撃群を追い返すと脅しをかけていたが、CNNニュースの報道では、同空母打撃群は合法的に海域を航行して公海の最も直接的な航路を取って、演習が予定されているフィリピン海に向かったと、英国国防省が声明を通して発表した」

     

    中国は、英国の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」と打撃群の南シナ海航行を拒否する姿勢を見せていたが、「口先」に終わった。英国の原子力空母のほかに米国とオランダ艦船も随行しおり、「後難」を恐れた結果であろう。中国の「脅迫」は、こうして影響力を失っている。

     


    (5)「こうした海事紛争が続く一方で、インド軍は中印国境紛争の終結に向けて中国側と交渉を続けており、2021年8月上旬に両国が「迅速に」問題解決することで合意したとの声明を発表した。同声明は12回にわたる和解交渉の末の成果であるが、チベット地域の実効支配線に位置する汽水湖「パンゴン湖」沿いでは、衝突発生以来数千人に上る両国軍隊兵士が対峙している。ロイター通信によると、2020年6月に発生した衝突ではインドと中国の両軍に死者が発生した。長年緊張状態にあった国境において、これは過去40年あまりで初の中印軍隊間の流血乱闘となった事件である」

     

    昨年6月、中国軍によるインド軍へのヒマラヤ山中における奇襲攻撃は、真夜中に行われた。インド兵士20名が犠牲になりこれ以降、インドは中国への経済報復を行っている。中国は、何の意味もない奇襲攻撃で信頼を失う結果になった。

    このページのトップヘ