勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済

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    インドの対中防衛戦略は、クアッド(日米豪印)からNATO(北大西洋条約機構)まで幅広く網を張っていることが分かった。インドは、ここまで重層的な防衛戦略を組立てており、中国を慎重に対応させる狙いであろう。

     

    インドは独立後、非同盟主義を貫いてきた。だが、中国の向う見ずな軍事的な動きを見ると、理想論ばかりに頼ることもできない現実に直面している。昨年6月、ヒマラヤ山中で中国軍の急襲に遭い、20名の兵士が犠牲になった。以後、中国への警戒心が一段と高まっている。

     

    『大紀元』(8月12日付)は、「NATOと関係強化に取り組むインドと題する記事を掲載した。

     

    インド海軍は、北大西洋条約機構(NATO)同盟国4ヵ国と合同軍事演習を実施することで、相互運用性の向上および海洋脅威に対抗する複合作戦の強化に取り組んでいる。これは、「共通の価値観」が脅かされているとして、インドと北大西洋条約機構の間の協力体制強化を呼びかけた北大西洋条約機構のイェンス・ストルテンベルグ事務総長により推進された動きである。

     


    (1)「協力強化を目的とした今回の取り組みは、アラビア海で2021年4月25日から27日にかけて実施された仏印合同演習「ヴァルナ21」を皮切りに、7月21日から23日にかけてインド北東部のベンガル湾で実施されたインド海軍と英国海軍による「コンカン」演習で一応の完了を迎えた。インド海軍が発表したところでは、ヴァルナ演習ではインド海軍が駆逐艦1隻、フリゲート2隻、補給艦1隻、潜水艦1隻を派遣し、フランス海軍の空母、駆逐艦、フリゲート各1隻と共に訓練に臨んでいる。また、両軍隊のヘリコプターと哨戒機がフランスのジェット戦闘機に加わり、高度な防空訓練と対潜戦訓練に焦点を当てた演習も実施された」

     

    インド海軍は、フランス海軍と合同演習を行っている。

     

    (2)「ヴァルナ演習実施前の2021年4月中旬に仮想形式で実施されたインド政府主催の国際会議「第6回ライシナ対話」で、ストルテンベルグ事務総長は北大西洋条約機構とインドの協力関係を再確認している。同事務総長は中国に言及しながら、北大西洋条約機構とインドが共有する自由、民主主義、法の支配といった価値観が「権威主義の台頭および同盟・提携諸国とは価値観を異にする諸国」により脅かされていると発言した。同事務総長はまた、「同じ価値観と志を持って法の支配に基づく秩序を支持する民主主義のインドのような諸国とより緊密に協力することができる」とし、「インドは同地域だけでなく国際社会においてもまさに重鎮である」と述べている」

     

    NATOは、インドとの協力関係を再確認している。下線部は、日本や豪州との緊密な関係をも想定していることを覗わせている。将来は、クアッドとNATOが連携する事態も予想されている。NATOが積極的になっているのだ。

     

    (3)「インド国防省の発表によると、2021年6月13日に地中海に向けて出航したインド海軍のフリゲート「タバール」は、74日から5日にかけてイタリアと、7月15日から16日にかけてフランスと演習を実施している。演習には防空作戦、海上補給、通信訓練、ヘリコプターを用いた飛行甲板間移動が含まれていた。 インドのPTI(Press Trust of India)通信が報じたところでは、今回の取り組みの一環として、ジブラルタル海峡西端に位置するスペインのトラファルガー岬付近まで航行したフリゲート「タバール」は、78日にスペイン海軍とも演習を実施している。スペイン海軍は同演習で「セスナ(Cessna)」海上哨戒機と「シーキング(Sea King)」哨戒ヘリコプターを展開した」

     

    インド海軍は、イタリア海軍やスペイン海軍とも合同演習している。

     

    (4)「2021年7月21日、ベンガル湾で毎年実施されるコンカン演習で、インド海軍が英国の空母「クイーン・エリザベス」を中核として構成された「英国空母打撃群21(CSG21)」と共に訓練を実施した。英国のアレックス・エリス在インド高等弁務官によると、今回の英国空母打撃群を率いる展開が本格的な初航海となった満載排水量6万5000トンのクイーン・エリザベス空母が同演習に参加したことで、これは「インドとインド太平洋の安保に対する取り組みを強力に実証する事例となった」

     

    英国空母「クイーン・エリザベス」が打撃群21を伴い、初の海外演習の航行を続けており、9月に日本へ寄港する。英国は今年の年末に向けて、哨戒艦2隻をインド太平洋地域に恒久的に展開する方針であることを発表した。英国は、海軍艦船の事実上の母港となる港湾について、現在のところ言及を避けている。港湾施設から見て、日本が有力視されている。

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    中国軍は昨年6月15日、習近平氏の67回目の誕生日にヒマラヤ山中でインド軍を急襲し、20名のインド兵を殺害した。以降、中印関係は悪化している。インドは、中国製のスマホやソフトなどを使用禁止措置にして対抗している。これは、中国にとって大きな誤算になった。14億の人口を擁するインド市場から閉出されたことを意味するからだ。中国は、愚かなことを行ったものである。

     

    『大紀元』(8月1日付)は、「インド、中国との平和的共存は『ない』、専門家」と題する記事を掲載した。

     

    米国のブリンケン国務長官は7月28日、インドのジャイシャンカル外相、ナレンドラ・モディ首相と訪問先のニューデリーで会談した。両国は中国の名指しは避けたものの、日米豪印による協力枠組み「クアッド」の連携を深め、防衛協力を深めることで一致した。モディ首相はブリンケン氏との会談後、「印米戦略パートナーシップを強化するというバイデン大統領の強いコミットメントを歓迎する」とツイッターに投稿した。

     

    (1)「印シンクタンクCentre for Land Warfare StudiesCLAWS)の研究員で、アムリタ・ジャッシュ氏は、大紀元のインタビューで、権威主義体制を敷く中国の脅威の高まりに連帯することは、米印をはじめとする地域内外の国々を結び付ける「大義」であると述べた。また同氏は、2020年に起きた、インド北部と中国西部の国境地帯に位置するガルワン渓谷での中印衝突により、「(インドと中国の)平和的な共存は失われた」と語った。

     

    インドは、昨年6月15日深夜、ヒマラヤ山中での中国軍急襲によって、根本的な中印間の信頼関係が失われた。

     

    (2)「インドと中国の間には、実効支配線(LAC)が引かれており、中国はLACで「常にインドの心意を試し、挑発しようとしている」とジャッシュ氏は指摘する。両国国境を巡る対立は1962年の軍事衝突に端を発する。それ以来、LACで続いていた緊張状態が、ここ数年著しく高まっている。2017年には、ブータンの国境付近のドクラム地域で、中印両軍の一触即発のにらみ合いが1カ月以上にわたって続いた。きっかけは、中国軍がインドの同盟国ブータンの主張する実効支配線を越えて、道路を建設したことだった」

     

    中国の領土欲は尋常なものでない。旧植民地が盛行した当時の意識そのものである。中国は100年以上も遅れた国際意識を振りかざしている。こういう中国には、同盟を結成して対抗する以外に道はない。残念ながら、力には力で対抗するという原始方式の採用である。

     

    (3)「中印両軍は2020年6月にもガルワン渓谷で衝突し、双方に死者が出た。これまで両軍の間には銃器を使用しないとの合意があったが、中国兵は有刺鉄線を巻いた金属バットや釘を埋め込んだ棍棒を用いた。「中国が扇動したということは、非常に明白である」とジャッシュ氏は述べ、中国共産党政権の武器使用はLAC沿いにおける中印間の「すべてのプロトコルを破った」と指摘した。同氏は著書の中で、「インドと中国の国境沿いでの中国の行動パターンは、南シナ海で見られるような、紛争地域を侵食して支配する『サラミ・スライス』戦略に準拠している」と述べ、中国は漸進的な小さな行動を積み重ね、目標を達成しようとしていると指摘した」

     

    中国軍に襲われたヒマラヤ山中の現場は、凄惨を極めていたという。モディ首相は、現地で中国への復讐を誓うという異常事態を現出させた。その責任は、全て中国にある。

     


    (4)「ジャッシュ氏は、権威主義的な中国は、インドと中国の国境沿いで強さを誇示しようとしている。いっぽう、中国共産党の一党支配を根本的に脅かす国内外の大きな問題に直面しているという。中国国内では、経済成長の鈍化や、チベット、新疆ウイグル自治区、香港における中国共産党の支配に対する広範な抵抗が挙げられる。対外的には、米国、インド、日本、台湾など世界の自由民主主義諸国や、「一帯一路」構想に参加して多額な負債を抱えた国々との経済的・軍事的な緊張関係が生じている」

     

    中国の権威主義が生み出す内外の矛楯は、明らかに中国共産党への批判の度合いを高めている。中国経済の減速度合い大きくなるとともに、習近平氏は一層の困難に直面し「横暴化」するであろう。それは、破局への道にほかならない。

     

    (5)ジャッシュ氏は、2002~20年にかけて米印間で結ばれた軍事情報保護、軍事ロジスティックス共有、通信の安全保障、標的と航行情報の提供に関する「4つの基本合意」 を挙げ、米印関係は「時間とともに強化されている」と述べた。同氏は、米印関係に貢献しているもうひとつの大きな要因は、「自由で開かれたインド太平洋」を支持する日米豪印4カ国による、安全保障協議の枠組み「クアッド」にあると述べた。さらに同氏は、中共ウイルスの大流行を受け、4カ国の関係は「かつてないほど強固になった」と強調し、「英国、カナダ、フランス、ドイツなどの国々が、インド太平洋のビジョンに少しずつ賛同するようになってきている」と語った」

     

    インドは、ネール時代以来の「非同盟主義」を貫いてきたが、中国の横暴が強まると共に、日米豪印4ヶ国の「クアッド」への依存を深めている。インドにとっては、日本という得がたい友好国がクアッドに存在するので、心置きなく全てを託せる気持ちになっていると思われる。インドにおける日本の信頼度は、これほど高いのだ。

     

    テイカカズラ
       


    中印関係の険悪化を象徴するニュースが伝わってきた。インドのモディ首相がチベットの精神的指導者であるダライ・ラマに直接電話をかけて誕生日を祝ったもの。ダライ・ラマは1959年インド北部にチベット亡命政府を樹立、中国からの独立運動を導いている最高指導者である。

     

    インド政府は、これまで中印関係を考慮して、ダライ・ラマとの接触を避けてきた。ところが今回、モディ首相自らが電話して祝意を伝え、この事実を公開した。中印関係が、最悪事態にあることを改めて示している。トニー・ブリンケン米国務長官も、声明を通じて祝意を表した。

     


    『中央日報』(7月8日付)は、「ダライ・ラマ誕生日を公開祝賀、習主席に一発食らわした印モディ首相」と題する記事を掲載した。

     

    7月6日(現地時間)、印メディア『エコノミック・タイムズ』は、「モディ首相が中国と紛争中にもかかわらず、ダライ・ラマに電話をかけて彼の86歳の誕生日を祝った」とし「異例」と伝えた。この日、モディ首相はツイッターにも「ダライ・ラマの誕生日を祝うために彼と電話で話をした」とし「彼が元気に長生きできるよう祈っている」とコメントした。ダライ・ラマは1959年インド北部にチベット亡命政府をたてて中国からの独立運動を導いている。

     

    (1)「この間、モディ政府は2019年まで中国との関係を考慮してチベット亡命政府とは距離を置いていた。これに先立ち、チベット亡命政府が2018年亡命60周年事前記念行事を大々的に進めようとした時もインド政府は難しい表情だった。ところが今回はモディ首相がダライ・ラマに直接電話をかけて話をし、また、祝賀事実を公開した。モディ首相が中国に「一発」食らわせたのも同然だという反応が外交界から出ている」

     

    インドが、中国の敵であるダライ・ラマへ電話して祝意を伝える挙に出た。モディ首相は、インド太平洋戦略における「クアッド」(日米豪印)というつながりをバックに、中国へ厳しい姿勢を示した形である。

     

    (2)「AP通信は、「モディ首相が2014年就任後、ダライ・ラマと話をしたことを公開的に確認したのは今回が初めて」と説明した。ジャワハルラル・ネール大学のスリカント・コンダパッリ教授(中国学)もロイター通信とのインタビューで「昨年までは政党の人さえ(ダライ・ラマの誕生日を)公開的に祝うことが許されなかった」と話した」

     

    インド政府は、ダライ・ラマとの関係強化で中国へ妥協しない強硬姿勢を見せている。

     

    (3)「昨年5月パンゴン湖乱闘事件、1カ月後の6月にインド軍と中国軍からそれぞれ20人と4人の死者を出したガルワン渓谷「棍棒衝突」など、中印間の国境衝突はその後、新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)事態と冬季の寒さなどで小康状態だった。しかし、インド現地のタイムズ・オブ・インディアは「天候が暖かくなり、中国政府が今年1万5000人水準だった駐留兵力を5万人に増やしたことに伴い、インド軍も5万人の兵力を急派した」と報じた。モディ首相の異例の行動にインド現地メディアも「今回の通話事実の公開は中国からの強い反発はもちろん、境界隣接地域における両者の緊張感を誘発している」と伝えた」

     

    中印国境をめぐる紛争は、緩和化に向かうどころか悪化している。昨年6月夜半、中国軍がインド軍を襲った事件は、インド側に強い怒りと警戒心をもたらしている。インドが、クアッドへ参加したきっかけは、この中国による夜襲事件にあった。

     


    (4)「中国政府はダライ・ラマを「祖国分裂活動家」と規定し、これに対する言及そのものに敏感に反応してきた。1959年、中国政府はチベット地域に対する一国二制度を終わらせて直接統治を始めたが、長く「祭政一致」(宗教と政治的権力が分立しない)の伝統を守ってきたチベット人にはダライ・ラマが今も精神的柱の役割を果たしている。1959年3月、チベット人は中国政府の宗教弾圧に対抗して2万人余りが参加した大規模武装デモを起こして鎮圧された。その後ダライ・ラマはインド北部ダラムサラにチベット亡命政府の拠点を置いて非暴力独立運動を率いてきた」

     

    中国は、ダライ・ラマに強い圧力を加えている。中国が、多民族の宗教にまで干渉しているのは、新疆ウイグル族への弾圧と同じ理由である。



    (5)「チベット人は、ダライ・ラマが「観世音菩薩」の化身であり、死なずに生まれ変わり後継者の身体を探して果てしなく生まれ変わると信じている。現在のダライ・ラマ14世は先立って「90歳になったら生まれ変わるかを決める」と明らかにした。中国政府は2010年、外信記者に「ダライ・ラマの後継者選びには中国中央政府の承認が必ずなければならない」と釘をさした状況だ。だが、今年86歳を迎えたダライ・ラマが後継者を選んで中国の承認を素直に受け入れる可能性は高くない」

     

    ダライ・ラマは、チベット信仰の象徴である。インド政府が、このダライ・ラマとの関係強化に乗出したのは、中国への強い反撃を意味している。

    (6)「誕生日を迎えたダライ・ラマはYouTube(ユーチューブ)の映像を通じて「私に本当の愛と尊敬、信頼を寄せてくれているすべての友人たちに心からの感謝を伝えたい」とし「死に至るまで非暴力と慈悲の心を掲げていくことを約束する」と話した。続いてインド政府に対して「私が難民となってインドに定着して以来、私はインドの自由と宗教間の調和を最大限に享受してきた」として感謝を伝えた」

    ダライ・ラマは、これでインド政府からのさらに温かい支援を受けられることになった。同時に、中国の非人道的行為への批判の輪を広げることになった。



     

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    インドは独立後、一貫して非同盟主義を貫いてきた。そのインドが、クアッド(日米豪印)へ参加したことは、異例中の異例である。それだけ長年、対中国との間で国境紛争を続けてきた怒りが背中を押したのであろう。この背後には、日本の存在があった。特に、安倍首相時代にインド・モディ首相と強い信頼の絆で結ばれていたが、クアッド参加のテコになったと見られる。外交も人間の信頼関係が基本であることを示している。

     

    『日本経済新聞』(5月18日付)は、「インド首相、対中不信鮮明」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルスの爆発的な感染に苦しむインドでは1日あたりの死者数が4000人を超え、首都ニューデリーでは医療用酸素が足りない惨状が続く。40カ国以上がインドの医療支援に名乗りをあげ、モディ首相も日米英、ロシアなど主要国の首脳に電話や対外的なメッセージで支援への謝意を伝えている。

     

    (1)「中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席に対しては、冷淡な姿勢が目立つ。電話協議も控え、習氏が4月30日に送った見舞いのメッセージにも反応しなかった。モディ首相はこれまで、世界のどの主要国にも大きく肩入れしない「等距離外交」を展開してきた。ただ、最近の習氏への態度からは、中国に関してはその外交姿勢が難しくなっていることをうかがわせる。インドと中国は国境が約3000キロメートル画定しておらず、2020年5月から印北部の国境係争地域で対立を始めた。ただ、両国は今年2月に一部の部隊の引き揚げで合意。インドメディアは2月下旬、緊張緩和に伴ってインド政府が凍結していた中国企業の投資も容認する可能性を報じた」

     

    インドのモディ首相は、習近平氏の見舞いメッセージにも反応せず無視した。中印関係がいかに悪化しているかを示している。中国は、間もなく総人口で世界トップの座をインドに譲る。国連見通しでは、これまで2027年がその時期と見られていたが、最近の中国人口動態から見て、かなり前倒しになる可能性が強まった。インドが人口世界一になると、中国は焦りの色を見せるであろう。

     


    (2)「モディ氏は3月中旬、日米豪との4カ国での枠組み「クアッド」の首脳会議に出席。インド太平洋構想をもとに中国包囲網を敷くことに参画した格好となった。モディ氏がクアッドに前向きな姿勢に転じた背景には、国境で対立する中国の勢力伸長に歯止めをかける思惑があったのは間違いない」

     

    中国は、インドを怒らせたデメリットでこれから悩まされるであろう。中印国境線は、3000キロもある。そこへ、クアッドに参加しているインド軍が装いを新たにして登場するのだ。また、将来はクアッドとNATO(北大西洋条約機構)と同盟関係を結ぶ事態になると、陸と海の両面で世界包囲網に取り囲まれることになる。中国は、これからインドとの対立で思わぬ代償を払わせられることになりそうだ。

     

    (3)「モディ氏はクアッドだけに傾斜するつもりはない。ロシアのプーチン大統領との4月28日の電話協議では、軍事関係を深めるために外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を新設することでも一致した。印シンクタンクのオブザーバー・リサーチ・ファンデーションのハーシュ・パント氏は「伝統的に関係が深いロシアとも安定した関係を続ける方向だ」と指摘する。ただ、クアッドの首脳会議を機に、中国との緊張緩和に向けた協議は停滞。インド政府は高速通信規格「5G」の実証実験を巡っても、中国企業の排除を決めた」

     

    インドは、伝統的にロシアとの関係も深い。インドの武器はロシア製である。インドは、ロシアと外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を新設することでも一致した。これは、中国にとっては、極めて不気味なことになってきた。中国は、ロシアとも長い国境線で接している。インドは、中国圧迫手段としてこれを利用するのであろう。

     


    (4)「中国との等距離外交が難しくなったのは、モディ氏が習氏に強い不信感を持っているからだとの見方がある。両首脳は貿易や投資での経済協力を目指し、18年春に中国、19年秋にはインドで非公式会談を開いた。国境係争地域の問題を棚上げすることで合意し、長期的な視点での関係構築を模索していた。しかしその約束も、インド側から20人の死者が出た20年6月の印中衝突で破られた。当時もコロナの感染拡大や経済対策などに追われていたモディ氏が、中国側の攻勢に激しく憤ったとされる」

     

    ヒマラヤ山中で昨年の6月、インド軍は中国軍の夜襲によって20名の兵士が犠牲になった。この直後、モディ首相は現地で中国への報復を誓ったのである。インド国民のプライドが許さない事件であった。中国が、国境係争地域の問題棚上げ合意を一方的に破棄したからだ。インドの不信感が、中国へ大きな代償を払わせ始めている。「クアッド」が、その具体的な答えである。

     

    (5)「中国はインドへの支援を申し出る一方で、インドの周辺国のスリランカやネパールなどにも「ワクチン外交」で影響力を強めようとしている。中印関係の悪化は、クアッドの今後の進展にも影響を及ぼしそうだ」

     

    中国は、インドへコロナ支援を申し込みながら、インド周辺国のスリランカやネパールなどにも「ワクチン外交」で影響力を強めようとしている。インドは、こういう中国の「天秤外交」にさらに怒りを増幅させている。中国外交は、誠意の一片もないことを示した。

     

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    中国は、新型コロナウイルスでパンデミックを引き起し、世界に大災害を与えた国である。中国は、コロナをWHOへ通報する前の一昨年10月から、ワクチン開発に着手する信じ難い行動を始めていた。これによって、中国のワクチン優位性を世界に宣伝しようとする戦略を練っていたことは間違いない。ワクチン外交の展開を狙っていたのだ。

     

    ところが、世界のワクチンの6割を生産するインドが、この中国の野望を打ち砕くべく、立ちはだかっている。インドのワクチン増産を促進すべく、クアッド(日米豪印)がタッグを組んで資金面や流通面で協力することになった。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月19日付)は、「ワクチン外交でインドが中国に勝利」と題する記事を掲載した。

     

    中国とインドはともに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応を、世界的な外交手段の中心に位置付けてきた。中国の習近平国家主席は、中国製ワクチンを「世界の公共財」と呼んできた。習氏は、野心的な「一帯一路」構想の一部である「ヘルス版シルクロード」と、医療関連物資の供給とを結び付けている。

     

    (1)「インドも中国と同様に、ワクチン外交に真剣に取り組んでいる。中印両国政府にとって、医療関連物資の寄付や輸出は、ソフトパワー面でのイメージアップを図り、優れた技術力をアピールし、新市場での自国企業の足場を確保し、国際舞台での主要プレーヤーとして地位を自国民に誇ることを可能にするものだ。西側諸国が自国民のワクチン接種で手一杯になっている中で、アジアの大国である両国は、この機会を最大限に活用しようと競い合っている」

     

    中印両国は、国境紛争で死者が出るほど緊迫した関係にある。それだけに、ソフトパワー面での競争も激しく、ワクチン競争は最適な「競争手段」となっている。

     


    (2)「インドの巨大な製薬業界は、世界のジェネリック医薬品市場の約20%、世界の全ワクチン製造の60%以上を占める。インド外務省のサイトには、インド製の新型コロナワクチン計約6000万回分を受け取った72の国名が掲載されている。民間企業のセラム・インスティチュート・オブ・インディアは、英・スウェーデンのアストラゼネカや米メリーランド州に本拠を置くノババックスとともに、世界の最貧国にワクチンを供給する世界保健機関(WHO)主導の取り組み「COVAX(コバックス)」に11億回分のワクチンを提供することを約束している」

     

    インドは、もともと製薬王国である。ワクチン製造では6割以上の世界シェアを握っている。中国のワクチン産業は過去、小児ワクチンでニセ物づくりをして評判を落としたこともあり、国際評価では「イマイチ」なのだ。

     

    (3)「日米豪印の4カ国による連携枠組み「クアッド」に属するインド以外の3カ国は先週、インドの取り組みの強化に乗り出した。4カ国の首脳が参加した初のバーチャル会合で、クアッドは来年末までに、少なくとも10億回分のワクチンをインド太平洋諸国に供給することを約束した。この中にはジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が開発したワクチンも含まれる。米日豪は、インドの民間企業バイオロジカルEによるワクチンの生産と供給に資金を拠出する。豪州は地域の物流の専門知識を生かしてそれを配送する」

     

    クアッド(日米豪印)は3月12日、オンラインで首脳会談を開き、「クアッドの精神」と題する共同声明を発表した。

    1)インド・太平洋地域における安全保障

    2)コロナワクチンの公平な配布

    3)新技術における協力

    4)気候変動への対応

     

    コロナワクチンの公平な配布では、すでに4ヶ国の協力を取り交わしている。

     


    (4)「クアッドの4カ国が力を出し合うことは理にかなっている。加えて、このワクチンの取り組みは、クアッドが話し合いの場に過ぎないとみている批評家たちを黙らせるはずだ。東南アジアに焦点を当てることは、同地域を支配しようとする中国政府の動きに直接抵抗することにつながる。この新たな取り組みとインド政府のワクチン外交の成功は、ともにインドに大きな教訓をもたらす。やみくもに「自給自足」を模索しようとするより、西側の民主主義国と緊密に連携した方が、目的を達成できる可能性がずっと高まるという教訓だ

     

    インドは、「自給自足」を旗印にしているが、クアッドの協力があれば、目的達成が早まるという教訓を得た。これはワクチン生産だけでないのだ。あらゆる面で先進国とのつながり強化が、中国との競争で優位に立てるという「モデル」を提供している。

     

    (5)「ナレンドラ・モディ首相の政権は、ナショナリズムの盛り上がりを背景に、ワクチン攻勢を「自給自足のインド」を目指す努力が実った一歩と位置付ける。政府は、国内の医薬品メーカー、バーラト・バイオテックが開発した国産ワクチンについて、第3相臨床試験の完了を待たず、非常に短い期間で緊急承認した。31日にはモディ首相が、まだ検証が不十分なワクチンの接種を看護師から受けた」

     

    インドの国産ワクチンは、厳密に言えば「国産」とは言いがたい。先進国の技術支援を受けているからだ。

     

    (6)「インド外交が自慢する「インド製」ワクチンは、アストラゼネカが英オックスフォード大学と協力し、米国からの資金支援も得て開発したものだ。(インド)セラム社はリスクを承知で、アストラゼネカのワクチンが世界保健機関(WHO)や英国、インドで承認を受けるめどが立つ以前に生産に着手した(同ワクチンは米国では未承認)。ただ、セラム社にはビル&メリンダ・ゲイツ財団が損失補てんを行うと約束し、リスクの一部を負担していた」

     

    インド国産ワクチンは、欧米の製薬企業と協力している。欧米製薬企業は、インドでの生産で協力を仰げるから協力しているもの。

     

    (7)「現時点でアストラゼネカのワクチンはWHOに承認され、多くの国で歓迎されている。これに対し中国製ワクチンは、データの透明性が低いと酷評されている上、効力が低いとの指摘もあり、国際的なお墨付きに乏しい。インド製のコロナワクチンが世界各地で歓迎されているとすれば、それは透明性や欧米の医薬の高い水準に裏打ちされているからでもある。欧米の非政府組織(NGO)による資金支援も、インド製ワクチンを受け入れやすくしている

     

    インドは、クワッド入りして欧米の信頼をさらに高めている。これは、中国との競争上において、極めて有利な点である。「中国製ワクチンは信用面で不安があるが、インド製なら西側技術であるから安心」という信頼を得ているのであろう。中印の比較で、この視点は極めて大きな差をもたらす。

     

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