中国は、強烈な国である。一帯一路では途上国を「債務漬け」にした。外交では、フランスのマクロン大統領に対して4月6~7日、習近平国家主席が二度もマクロン氏と会食すると厚遇ぶりを見せた。一度は北京で、もう一度は広州だ。習氏が、北京を離れて外国の賓客を持てなすのは異例とされる。それだけ、米国包囲網の中で突破口を探そうという現れであろう。これからは、「外交漬け」を目指すのであろう。
マクロン氏は、この厚遇に応えて「台湾情勢の急変は欧州諸国にとって利益にならない」と指摘した上で、「最悪なのは、欧州がこの問題で米国のペースや中国の過剰反応に追随しなければならないと考えることだ」とも主張した。つまり、欧州は台湾問題では中立であるとまで言ってのけた。大変な「リップサービス」をしたものだ。
『ロイター』(4月10日付)は、「中国がマクロン氏異例の厚遇 米の包囲網に手札」と題する記事を掲載した。
中国の習近平国家主席は、4月6~7日に国賓としてフランスのマクロン大統領を招待、異例なほどの好遇でもてなした。米国に対抗しようとしている中国が、欧州連合(EU)内に重要な連携相手を確保するため外交攻勢を強めていることの表れだ、と複数の専門家はみている。
(1)「習氏とマクロン氏は4月7日、中国有数の商業都市、広東省広州を訪れ、習氏の父親が省トップ時代に使っていた公邸で茶会を開いた。複数の外交官は、習氏が中国に対する「全方位の封じ込めと抑圧」と呼ぶ米国の動きに反対する際に支持してくれる国を探す中で、EUの主要メンバーであるフランスとの関係を重視している姿勢が浮き彫りになったとの見方を示した。米デンバー大学のチャオ・スイシェン教授(中国問題・外交政策)は「中国が積極的な外交を展開する裏には、全て米中関係が絡んでいる。だから特に中堅国やフランスのような大国への働きかけは、米国に対する何らかの反撃という意味合いがある」と指摘する」
EU(欧州連合)の加盟国は、すべて対等な関係である。中国が、フランス一国を厚遇しても、他国の中国批判が沈静しなければ限界があるのだ。中国は、権威主義国家であるから、こういう微妙な点を理解できないのだろう。
(2)「ロジウム・グループのアナリスト、ノア・バーキン氏は、中国の主たる目的は欧州が米国とより緊密に足並みをそろえる行動をするのを防ぐことだと分析。「その意味で、マクロン氏は恐らく中国政府にとって欧州で最も大事なパートナーになる」と述べた。外交界でも、マクロン氏はEUの重要政策を主導する人物の1人との認識がおなじみになっている。今回マクロン氏は、EU欧州委員会のフォンデアライエン委員長とともに中国を訪れ、2人はいずれもウクライナ問題で習氏から従来の立場を軌道修正するという公的な言質を得ることはできなかったが、それでもマクロン氏は下にも置かない扱いを受けた」
ロシアのウクライナ侵攻が続き、中国のロシア支援が変わらない限り、EUは中国への警戒心を解かないだろう。中国は、こういう微妙な心理が分からないのだ。
(3)「訪中前に中国を「抑圧的」と批判したフォンデアライエン氏は、空港での出迎えもおざなりで、見方によっては独りぼっちで悄然としている印象を残すことになった。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は6日の論説記事で、「米国の戦略上の走狗であり続ければ行き詰まるということは誰の目にも明らかだ。中仏関係を中国と欧州の協力体制への架け橋とするのは、両国と世界のどちらにも有益だ」と主張した」
中国のこういう驕り高ぶった発言が、EUの加盟国を刺激しているはずだ。中国が、「井の中の蛙」という印象を強めるだけである。マクロン氏は、欧州の本音をプーチン氏と習氏に伝えたいとして意欲的とされる。そのためには、相手の心を開かせるべく、少しは「お世辞」も言ったのだろう。
(4)「米政府内では、中国によるフランスとの外交関係強化の取り組みが本格化するかどうか疑わしい面があるとみられている。ウクライナ問題が決着した後なら、中国は対米関係悪化の埋め合わせとして欧州との経済的な接近につながるような外交戦略の再編に動くだろうが、現時点ではその公算は乏しい、と米政府の考えに詳しい複数の関係者は話す。同関係者らによると、ウクライナ問題について欧州が中国に関与することには米政府は静観姿勢を貫いている」
マクロン氏は、訪中前に米国のバイデン大統領と事前の打ち合わせをしている。米国が、マクロン氏の発言を静観している理由だ。
(5)「もっともロジウム・グループのバーキン氏は、マクロン氏は今回の訪中で大した成果は得られなかったようだとの見方を示した。「マクロン氏はウクライナ戦争における習氏の姿勢を変えさせることができると信じていたようだ。彼は習氏にデカップリング非難、大規模なビジネス代表団の同伴、中国の戦略的独立性支持の再確認といった一連の贈り物をした。それに対する大きな見返りはほとんどなしだ」という」
中国は、マクロン氏から「快い発言」を引き出して満足しているかもしれない。これで安心して台湾侵攻へ踏み切れば、事態は一変する。米欧日の対中経済制裁の発動である。EUが、ロシアへ経済制裁して、中国を見逃すことなどあり得ないからだ。