日本・ドイツ・イタリアは、第二次世界大戦を「枢軸国」として戦ったが、共に敗戦の憂き目にあった国々である。いずれも戦争で多くの死傷者を出したので、戦後のベビーブームも同じ様相を呈した。それが今、「団塊の世代」の退職期を迎えている。ドイツでも、ベテラン従業員の後を継ぐ人材不足に直面し「ロボット」が代役を果す時代を迎えている。
『ロイター』(11月2日付)は、「『団塊世代』退職で人手不足、ロボット導入急ぐドイツ中小企業」と題する記事を掲載した。
機械部品メーカーのS&Dブレヒでは、研削加工部門長が退職の時期を迎えようとしている。深刻な人手不足に悩むドイツでは、こうした熟練を要する一方で危険で手を汚す仕事を引き受ける人はほとんどいない。S&Dブレヒは、このベテラン従業員の後継にロボットを起用する予定だ。
(1)「S&Dブレヒでマネージングディレクターを務めるヘニング・シュレーダー氏は、同社がここ数年自動化とデジタル化を推進している理由として、こうした人手不足の深刻化を挙げた。「特に製造分野や専門技能職において、ただでさえ困難な熟練労働をめぐる状況さらに悪化させる」。新たに研削加工部門のトップを探してくるのは難しい。シュレーダー氏はロイターに対し、「退職者の経験値が高かったからというだけでなく、こういう辛い仕事はもう誰もやりたがらないからだ」と語った。機械による研削加工には高熱と騒音が伴い、飛び散る火花による危険もある」
ロボットの能力が高まると同時に、人手不足が重なってロボットはなくてはならない存在である。
(2)「ドイツでは、働く女性の増加と移民の急増が近年の人口構成の変化を補ってきた。だが、ベビーブーム世代が引退していく一方で、労働人口に新たに加わる若い世代は出生率の低下によりはるかに少なくなっている。連邦雇用庁では、労働人口は2035年までに700万人減少すると予測している。給与・人事関連サービスをグローバル規模で提供するADPでチーフエコノミストを務めるネラ・リチャードソン氏は、これに似た変化は他の先進諸国にも影響を及ぼしていると指摘し、ロボット工学から人工知能(AI)に至るまで、高度な自動化技術の影響が広がっていくだろうと語る。リチャードソン氏はロイターに対し、「長期的には、こうした技術革新全般が労働の世界におけるゲームチェンジャーになる。あらゆる人の働き方が変わっていく」と述べた」
ロボット工学から人工知能(AI)に至るまで、高度な自動化技術の発展が、労働の世界のゲームチェンジャーとして人間の働き方を変える時代になった。
(3)「自動車メーカーやその他の大手工業企業は、自動化に莫大な投資をしているため、ドイツのロボット市場の規模はすでに世界で4番目、欧州では最大となっている。ロボットの価格が低下し操作も容易になっているため、S&Dブレヒのような製造業からパン製造、クリーニング、スーパーマーケットに至るまで、ドイツ経済の屋台骨であり、家族経営の多い中小企業「ミッテルシュタント」でもロボットの活用が進んでいる。国際ロボット連盟によると、昨年ドイツで導入されたロボットは約2万6000台。過去にこれより大きな数字となったのは2018年だけで、その後はコロナ禍のため、かつての平均年4%という増加ペースは減速していた」
ドイツは、家族経営で行う企業比率が高い國だ。それだけに、人手不足に直面するが、その代役をロボットがこなす時代になった。その意味では、ロボットが家族に加わるのだ。
(4)「ファナック・ジャーマニーでマネージングディレクターを務めるラルフ・ウィンケルマン氏は、「ロボットは、人手不足で将来を危ぶまれていた企業の生き残りを可能にした」と語る。同社が販売する日本製ロボットの約半分は中小企業向けだ。ラルフ・ハートデーケン氏が経営するコンサルティング会社では、こうしたロボット活用へのシフトについて企業へのアドバイスを提供している。同氏によれば、自動化は進めたいが従業員の解雇はしたくないという企業では、定年退職による従業員減少を機にロボット導入を進める例が増えているという」
下線部は、ドイツの家族経営の一端をのぞかせている。従業員がいる限りロボット導入を控え、その従業員が退職すればロボットへ切り替える。ドイツ中小企業の雰囲気が伝わる。
(5)「産業用エレクトロニクス機器や制御装置の保護ステムを製造している家族経営のローレックでは、昨年初めてロボットを購入し、夜間も生産を続けられるようになった。すでに2台目のロボットも調達しており、自動化への投資を続ける計画だ。「朝、工場に来て電気をつけると、加工済みの部品が保管コンテナに収まっているというのは素晴らしい」と、マシアス・ローゼ最高経営責任者(CEO)はロイターに語った。自動化が普及する背景には、ロボットの操作が簡単になり、プログラミングのスキルを必要としなくなったことがある」
下線部は、微笑ましい雰囲気だ。こういう形で、ロボットがドイツ中小企業へ浸透していくのであろう。
(6)「従業員20~100名の企業をターゲットとするスタートアップ、シェルパ・ロボティクスの共同創業者フロリアン・アンドレ氏によると、ほとんどのロボットにはスマートフォンのタッチパネルのようなヒューマン・マシン・インターフェースが備わっているという。かつてはロボット導入による失業を警戒していた労働者や労働組合でさえ、前向きになりつつある。ロボットの国際見本市オートマティカが6月に発表したアンケート結果では、ドイツの労働者の半数近くが、ロボットを人手不足対策に役立つものと見ていると回答した」
産業革命(18~19世紀)初期は、労働者が職を奪うとして反対し、「機械打ち壊し」が行われた。現代は、ロボットを敵視せず仲間として受け入れる。高度産業化時代の大きな変化である。AI(人工知能)もチャットGPT(生成AI)も、弊害を抑制しながら活用するのであろう。