勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース

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    ドイツ経済は、1990年の東西ドイツの統合後、経済成長失速に見舞われた。だが、EU(欧州連合)発足の1993年を機にして、ドイツにとって割安なユーロを武器に輸出急拡大を実現した。特に、ロシアや中国への接近が、ドイツ経済の起死回生につながった。

     

    その中ロが、西側諸国にとって安全保障上のライバルになった以上、ドイツのロシアや中国への政策は抜本見直しを迫られている。大きな衝撃である。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月28日付)は、「ドイツの牧歌的状況の終わり」と題するコラムを掲載した。

     

    先週末、ドイツは平常通りに見えた。柔和なオラフ・ショルツ首相は他の先進7カ国(G7)首脳やゲストたちを、バイエルン州のアルプス山脈に囲まれた豪華なエルマウ城に迎え入れた。しかし、外見は当てにならない。ドイツは第2次世界大戦後の連邦共和国の建国以来、最大の試練に直面している。

     


    (1)「これは突然起きたことだ。2020年の時点では、ほぼ全世界がドイツの独善的な自己評価に同意していた。つまり、ドイツは世界で最も成功した経済モデルを構築し、世界で最も野心的な気候変動対策に着手しておおむね成功し、極めて低コストで自国の安全保障と国際的な人気を確保する「価値に基づく外交政策」を完成させた、というものだ」

     

    これまで、ドイツの経済成長は順風満帆であった。対米外交では、独自性を主張して「我が道を行く」スタイルであった。中ロに太いパイプを築いてきたからだ。防衛費も対GDP比1%と最低に抑制してきた。この状況が、ロシアのウクライナ侵攻で、根本から引っ繰り返った。

     


    (2)「そのいずれも真実ではなかった。ドイツの経済モデルは世界政治に関する非現実的な想定に基づいており、現在の混乱を乗り切れる可能性は低い。ドイツのエネルギー政策は大混乱しており、他の国々にとって何をすべきでないかを示す格好の例となっている。ドイツの「価値に基づく外交政策」への評判は、ウクライナ支援をめぐる煮え切れない対応によって大きく傷ついた。そして、ドイツの安全保障専門家らは、非常に不愉快な真実を受け入れつつある。攻撃的なロシアと対峙(たいじ)すると、ドイツは欧州全体と同様に、安全保障面で米国に完全に依存するということだ」

     

    ドイツは、ウクライナ侵攻後に大慌てで米国から防空システムを購入した。防衛費も対GDP比2%へ引上げると発表し、「歴史的転換点」と国際情勢急変に驚愕した。日本と比べて、極めてナイーブであり過ぎたのだ。それまでのドイツは、日米一体化を日本外交の独自性喪失とみていたほど。ドイツは、目を覚ましたのだ。

     


    (3)「ショルツ氏と同氏の連立政権は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻を受け、ドイツの基準で見れば一連の「革命的な変化」で対応してきた。ドイツは再軍備を始めているほか、出だしでつまずきながらもウクライナに兵器を供与している。野心的な気候変動政策を犠牲にしてまでも、ロシアからエネルギー面で独立するための第一歩を踏み出した。石炭火力発電所を徐々に復活させ、新たな天然ガス処理工場を建設する予定だ。欧州全体に対しては、もはや現実的に思えなくなった脱炭素の義務化の先送りを求めている」

     

    このパラグラフのように、ドイツは空想的世界でうたた寝を愉しんでいた。エネルギー政策は、ロシア(天然ガス)とフランス(原発)に依存し、自らは手を汚さずに気候変動政策に熱中してきた。これらの人任せのエネルギー安保政策が破綻したのだ。かねてから、米国が厳しく批判して来た点である。

     

    (4)「しかし、本当の仕事はまだなされていない。現代ドイツの国づくりは、何よりも経済プロジェクトだった。1949年に再建された瞬間から、中心的な目標は経済成長だった。経済成長は戦争による破壊を修復し、平和的な西欧への統合を促進し、共産主義の魅力を低下させた。国民の多大な努力、政治家の現実的な政策、企業経営陣の技能と決意、そして米国主導の世界秩序の形成がもたらした望ましい国際環境により、ドイツ経済は最高潮に達した」

     

    ドイツは、米国主導の世界秩序(NATO)の下で、経済的繁栄を謳歌してきた。この批判は、安倍政権登場までの日本へも向けられた批判である。世界の安全保障政策に責任を分かち合わないという共通の批判だ。

     


    (5)「近年のドイツの経済的な奇跡は、工業力、ロシアから調達する安いエネルギー、世界市場(とりわけ中国市場)へのアクセスという三つの要素に依拠してきた。現在、これらの全てが脅威にさらされている。1世紀にわたる産業界の取り組みを通じてドイツが身に付けてきた自動車の技術は、電気自動車(EV)へのシフトによる挑戦を受けている。19世紀以降、自国の技術で世界をけん引してきた化学業界は、世界的な競争が激化する中、環境面での試練に直面している」

     

    ドイツの経済的な奇跡は、次の三つの要素に依存してきた。

    1)高い工業力水準

    2)ロシアから調達する安いエネルギー

    3)中国市場へのアクセス

     

    ドイツは、前記の「成長三要素」のうち、ロシアを失い、中国はセーブされる。大きな痛手になることは避けられまい。

     

    (6)「ショルツ氏は、リベラルな価値観の重要性や気候変動の危険性に関して、理論上はジョー・バイデン米大統領に賛同するかもしれない。しかし、ドイツの実情を踏まえて計算するはずだ。当然ながら、それはロシアや中国との関係をいかに修復すべきか、という考え方につながる。バイデン氏の仕事は、ショルツ氏とともに西側の価値観を賛美することではなく、米国による安全保障の傘には代償が伴うことを独政府に理解させることだ。世界中で危機が拡大し深刻化している今、米国の政治的現実を考えれば、ドイツは米国を支えるためにさらに行動しなければ米国からの支援継続を期待することはできない」。

     

    ドイツは、いずれ自国の国益追求でロシアや中国の関係修復に動き出すかも知れない。だが、ドイツは安全保障で米国を助ける行動が求められる。そうでなければ、米国から安保上のメリットを受けられないことを知るべきである。日本は、すでに日米安全保障で同一歩調を取っている。ドイツも、同じことが求められるであろう。

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    EU(欧州連合)は最近、中国の新疆ウイグル族弾圧にからむ警察の秘密資料が流出した以降、中国への警戒感を強める。ドイツ政府は、ドイツ企業の対中投資について保証を拒否するなど、厳しい対応を見せているのだ。

     

    ドイツ企業は、すでに2年前から対中投資について慎重な姿勢を見せていたことがわかった。ナチスヒットラーのユダヤ人虐殺事件の連想から、素早く他国へ分散投資に動いていたのだ。この動きは、他のEU企業にも影響を及ぼす可能性が出てきた。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月11日付)は、「独中企業の蜜月関係にすきま風、投資にも変調」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツと中国の企業は長らく、これ以上は考えにくいほど緊密な関係を維持してきた。だがここにきて、友情と利害関係で結ばれた絆にほころびが生じてきているようだ。

     

    (1)「最近の例では、中国で企業が政治絡みの理由で損失を被った場合に補償する保険について、自動車大手フォルクスワーゲン(VW)がドイツ政府から更新を拒否されたとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が先週報じた。独政府は、中国新疆ウイグル自治区での人権侵害を巡る懸念が理由だと説明しており、新疆地区にはVWの工場がある。同社は、自社の工場で強制労働は行われていないとした上で、中国が世界の経済成長をけん引するとの見方に変わりはないと述べた」

     

    VWは、中国市場が稼ぎの筆頭になるほど,中国へ傾斜している。外資の自動車企業では、最も早く中国へ進出した経緯がある。その点で、日本車は最後発であったが、今やドイツ車全体を追い抜く勢いである。

     

    ドイツ企業は、中国で人権問題が言及されると、直ぐに反応せざるを得ない歴史の十字架を背負っている。中国へは、これ以上の深入りをセーブせざるを得ないのであろう。

     


    (2)「ドイツに限らず欧州企業の幹部からは最近、中国についてさまざまな発言が出ている。独化学大手BASFの最高経営責任者(CEO)は、英誌『エコノミスト』とのインタビューで中国について強気の見方を示した。一方、欧州連合(EU)の在中国商工会議所が4月に行った調査では、既存もしくは計画中の投資を他国に移すことを検討していると回答した企業が4分の1近くに達した。この割合はここ10年で最も高い水準だ。こうしたセンチメント調査はうのみにしない方が賢明だが、投資支出に関する実際のデータも同じような傾向を示している。しかもこのデータは、春先に始まった上海のロックダウン(都市封鎖)の混乱ぶりを受けて中国への懐疑的な見方が広がり始めるより前のものだ」

     

    ドイツ企業の対中投資は、すでに曲がり角を回った。中国市場を絶対視する雰囲気ではない。中国の暗黒部分に気づき始めたのだろう。

     


    (3)「ここ10年の大半は、ドイツの海外直接投資に占める中国の割合が、欧州を除くと1位か2位で、2008年の金融危機以降はこの流れが加速した。特に2010年代半ばには、アジアの他の国々は存在感が薄かった。ドイツの対中投資は20年前半にいったん落ち込んだが、その後は力強く盛り返した。ドイツ連邦銀行(中央銀行)のデータによると、ドイツから中国本土および香港への直接投資は21年末までにネットベースで64億ユーロ(約9030億円)に回復し、新型コロナウイルス流行前の19年の2倍近くに達した。だが同時に、奇妙なことが起きていた。それは、同じ時期に、他のアジア諸国向け投資が142億ユーロと、19年の3倍以上に急増していたことだ」

     

    ドイツ企業は、対中投資を増やす中で他のアジア諸国向け投資をそれ以上に増やしている。その増加幅は、他のアジア諸国向け投資が対中投資をかなり上回っていることだ。

     

    (4)「このことから、デカップリングとは言わないまでも、こうした投資分散の傾向は、ゼロコロナ政策やウクライナでの戦争を巡るロシアへの黙認姿勢で中国との緊張が高まる以前から始まっていたことがうかがえる。新疆地区の問題を巡りEUが21年前半に対中制裁を科すと、中国は対抗措置として欧州議会のメンバー数人に制裁を科し、EUと中国の投資協定は事実上とん挫。これが尾を引いている可能性がある」

     

    21年までに、ドイツ企業は対外投資国の選別を始めていたことが分る。中国からASEAN(東南アジア諸国連合)の発展性に注目していて、対外投資の軸足を動かしていたのだ。新疆ウイグル族弾圧事件の表面化に反応していることを覗わせている。

     


    (5)「ドイツ政府が(中国へ)圧力を強めたのは20年からで、サプライチェーン(供給網)問題をきっかけに、経済相が中国への過度な依存に警鐘を鳴らした。さらにドイツでは21年に連立政権が誕生し、中国の人権問題を声高に批判している緑の党が政権に加わった。ドイツの企業は中国に多額の投資を行っており、撤退することは考えにくいが、国としては脱中国を進めている。世界貿易においてドイツは大きな影響力を持つ。世界銀行によれば、20年のドイツの物品貿易額は同国国内総生産(GDP)の66%に相当する。ドイツが行くところには、他の国々もすぐについていくかもしれない」

     

    ドイツで、21年末に新たな連立政権が誕生した。中国の人権問題を声高に批判している緑の党が、対中批判の先頭に立っている。外相は、緑の党代表が務めており将来、対中投資の禁止まで検討しているほど。現在の連立政権が長続きすれば、ドイツの対中関係はかなりの変化が起こりそうだ。

     

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    中国政府は、長年にわたり行なっている新疆ウイグル族弾圧に関する秘密資料が、世界14のメディアで5月16日、同時公開されて大きな波紋を呼んでいる。

     

    米国務省のプライス報道官は5月24日の記者会見で「衝撃を受けた」と述べた上で、「今回の新たな報道は、中国当局による残虐行為の証拠をさらに追加するものだ」と指摘。収容政策に関する習近平国家主席ら指導部の指示について「組織的な取り組みが中国政府の最高レベルの承認なしに実施されるとは考えにくい」と話した。

     


    英国のトラス外相は24日の声明で「新たな証拠は、強制労働や宗教の自由への厳しい制限、親子の分離、強制的な出産制限や大規模投獄など、中国政府がウイグル族を並外れた規模で標的にしていることを示している」とし、引き続き中国に説明を求めていくと表明。

     

    AP通信などによると、ドイツのベーアボック外相は5月24日に行った中国の王毅国務委員兼外相とのオンライン会談で、報道を引き合いに出し「人権は国際秩序の原理の一部だ。こうした告発に、中国側が対応することが重要だと考えている」として「透明性のある調査」を求めた。以上の報道は,『毎日新聞 電子版』(5月25日付)から引用した。

     

    ドイツは、ナチスによるユダヤ人弾圧の生々しい記憶を抱えているだけに、敏感に反応している。これまでドイツは、中国融和路線を貫いてきた。今回の一件では、中国と訣別するほどの強い姿勢を見せている。

     

    『大紀元』(5月31日付)は、「独首相、『中国融資は危機の源』と批判 対中依存軽減する考え」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツのオラフ・ショルツ首相は5月27日、中国が世界中で行っている「不透明な融資」は、新たな債務危機を引き起こす恐れがあると警鐘を鳴らした。

     

    (1)「ショルツ首相はシュツットガルトで開催されたカトリック教会の討論会で、「中国の不透明な融資が発展途上国や新興国への脅威となっている。新たな債務危機を引き起こしかねない」と批判した。中国は、巨大経済圏構想「一帯一路」を通して低所得国に巨額の融資を提供し、「債務のワナ」を仕掛けていると批判を受けている。ショルツ氏は、欧州連合(EU)が昨年12月に発表した3000億ユーロ(約41兆1000億円)規模の世界投資構想「グローバル・ゲートウェイ」についても言及した。同構想は、中国の「一帯一路」に対抗する「真のもう一つの選択肢」になるとしている」

     


    ドイツは、中国の「一帯一路」融資が発展途上国を「債務の罠」に陥れていると批判、EUが、中国搾取を阻止すべく約41兆円規模の世界投資構想について言及した。

     

    (2)「ショルツ氏はさらに、「ドイツは経済的な懸念から中国の人権侵害への批判を避けるべきではない」、「ドイツ経済は多角化を進めて中国への依存を弱めるべき」と指摘した。同氏は、中国政府による新疆ウイグル自治区での人権迫害についても言及し、「我々はこの問題で沈黙することはない」と強調した。中国はドイツの主要な貿易相手国であるが、「独ショルツ首相の対中態度は同国の対中政策の変化の一部である」とブルームバーグは指摘した」

     

    ドイツは、中国政府による新疆ウイグル自治区での人権弾圧を看過しないと強調した。具体的には、次のパラグラフで指摘されている。

     


    (3)「ドイツ経済省は5月27日、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の中国での新規投資に対する保証を拒否した。中国の新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由に挙げている。ドイツ誌「シュピーゲル」が報じた。同国のロバート・ハーベック経済・気候保護相(緑の党)は24日、新疆の人権侵害に関する新たな報道を受け、「人権問題の優先度を高めていく」と述べた」

     

    ドイツ自動車企業は、中国自動車市場で牽引力になり、成長によって大きな果実を得てきた。しかし、中国政府による新疆ウイグル族弾圧を巡る極秘資料が、世界中に公開された現在、ドイツ政府は、VWの新規投資に対する政府保証を拒否することになった。

     


    (4)「ハーベック氏は、「経済の多角化を図り、中国への依存を弱める。また、ドイツ企業の中国投資申請の際には、人権侵害や強制労働などを排除すべく綿密な審査を行う」としている。人権を理由に投資保証が拒否されたのは今回が初めて。ドイツは今後、人権をより優先させる。中国の投資プロジェクトはいずれ禁止になるだろう」とハーベック氏は明かした」

     

    ドイツ政府の中国への怒りは、相当なものがある。今後、中国の人権弾圧を理由に、ドイツ企業の中国投資プロジェクトを禁止するというのだ。ナチスによる世紀の犯罪を抱えるドイツだけに、中国の人権弾圧に対して敢然と立ち向かう姿勢を見せている。この流れは他の西側諸国へ拡大するであろう。そうなれば、中国経済はパニックへ落込む。

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    ロシア経済は、資源輸出で支えているようなものだ。税収の4割が資源から得た利益である。その大黒柱を支えてきたのがドイツの旺盛な需要である。ロシアが輸出している天然ガスの内、ドイツは15.9%(2020年:米国エネルギー情報局調べ)と断トツである。ドイツが、ロシア経済制裁に最後まで慎重であった理由は、このエネルギー問題であった。

     

    そのドイツが、ウソのように「脱ロシア」で動いている。24年にロシアからの天然ガス輸入比率を1割までに下げるというのだ。ロシアにとっては恐怖であろう。ウクライナ侵攻の経済的代償は、これから「未来永劫」にわたりロシア経済を苦しめることになろう。

     


    『日本経済新聞』(4月10日付)は、「ドイツ、脱ロシア依存急ぐ」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツが化石燃料のロシア依存脱却を急いでいる。ショルツ首相は8日の会見で、ロシア産原油の輸入を年内に停止できるとの見通しを示した。当面は資源の調達先を分散しつつ、再生可能エネルギーの普及を急ぐが、安定調達へ課題も残る。

     

    (1)「8日、ジョンソン英首相と会談したショルツ氏は、「我々は原油のロシア依存脱却へ活動している。今年中にそれが実現できる」と共同記者会見で強調した。ドイツがロシアから天然資源を買い続ければ資金の供給を通じて経済制裁の効果を弱めるとの批判は国内外で強い。ただロシアからの調達が止まれば、独経済への打撃は大きい。ロイター通信によると、ドイツ銀行協会のゼービング会長(ドイツ銀行最高経営責任者)は今月、ウクライナ侵攻の影響で2022年の独成長率が2%程度に減速する見通しを示したうえで、ロシアからのガス・石油の供給が止まると「独経済は深刻な景気後退に陥る」と予測した」

     

    欧州世論では、ロシアから天然資源を買付けることが、ウクライナ戦争を長引かせるという批判に繋がっている。それだけにドイツ政府は、ロシアへの石油や天然ガス依存度引下げが、大きな課題だ。

     

    ロシアが、こうしたドイツの動きに先手を打って、輸出を止めるという「自殺行為」も予想できるが、プーチン大統領は「契約を守る」としている。厖大な戦費を稼ぐには、「輸出停止」はできない相談である。

     


    (2)「ドイツは欧州域内でロシア産原油の最大の輸入国だ。国際エネルギー機関(IEA)によるとドイツは21年12月時点で推計60万バレルの原油をロシアから輸入する。ウクライナ侵攻前まではロシアへの依存度は35%だったが、足元は25%まで低下した。中東などの主要産油国は大幅増産に消極的だ。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之首席エコノミストは「在庫も取り崩しながら、米国やアフリカ、南米など他の産油国も含めて少しずつ確保して穴埋めすることになろう」と指摘する」

     

    国連統計によると、ドイツは2021年に114億ドル(約1.4兆円)相当の原油をロシアから輸入し、対ロ依存度は29%だった。ウクライナ侵攻前まではロシアへの依存度は35%だった。冬場で需要が高まっていたのだ。これからその需要期も過ぎる。

     


    (3)「他の国にも禁輸の動きが広がれば、ロシア産の穴埋めはより困難さが増す。欧州全体では21年にロシアから原油を推計日量240万バレル、石油製品で115万バレルを輸入している。限られた石油資源の争奪戦となり、原油価格には上昇圧力が大きくかかることになる。24年夏にもロシア依存から脱却するとした天然ガスは、3月に有力生産国のカタールと長期の調達契約を結んだ。独政府によると、ロシアへの依存度はすでに5割を下回っているという」

     

    ドイツの天然ガス調達のロシア依存の割合は、調達先の切り替えなどでウクライナ侵攻前の55%から40%にまで下がっている。今後も調達の多様化や再生エネルギーの拡大などが進めば、24年夏にはロシアからの輸入割合を1割程度にまで下げられるというのがドイツ政府の見立てという。

     


    ドイツは、ウクライナ侵攻など予想もしていなかったので、ロシアへ全幅の信頼を置いてきた。米国は、こういうドイツの「能天気」な動きに、これまでしばしば忠告してきた。ドイツは、これまで聞き流してきた咎めに苦しんでいる。地政学的リスクを無視していたのだ。

     

    (4)「エネルギーの分散も進める。6日に新たなエネルギー戦略を策定し、35年までにほぼ全ての電力を風力や太陽光などの再生可能エネルギーで賄う方針を打ち出した。原子力発電については明確な言及を避けたが、引き続き再エネへの転換を電力源の軸とする立場を維持している」

     

    ドイツは、原発廃止で動いている。その穴埋めとして、ロシア依存を高めたという背景もある。フランスの原発重視と好対照である。

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    第7代のドイツ首相(1998~2005年)を務めたゲアハルト・シュレーダー氏が、ドイツ全土から猛烈な非難の声に曝されている。ウクライナを侵略したプーチン大統領と親密な関係にあって、未だにロシアとの濃密な関係を続けていることが理由である。

     

    シュレーダー氏は25日、ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムの取締役に指名された。この後の2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が発生。シュレーダー氏は侵攻発生後も、「ロシアとの関わりを断つべきではない」とSNSへの投稿を行い、またロシア国営企業の役員も辞さなかったのだ。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(3月28日付)は、「シュレーダー元ドイツ首相、ロシアとの関係絶てず」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナに侵攻した時、高額報酬でロシア政府系企業の取締役会に名を連ねていたかつての欧州首脳の大半は即座に、侵攻に抗議して辞任した。フィンランドからイタリア、フランスからオーストリアに至るまで、元首相がすぐさま取締役の職を辞した。辞任しなかった人物が1人だけいる。ドイツのシュレーダー元首相だ。

     

    (1)「ロシアのプーチン大統領を批判することを一切拒む態度に、元同僚とドイツ国民は当惑し、怒りを覚えている。「なぜ彼がこういうことをしているのか、とにかく分からない」とある元同僚はこう話す。「本当に理解しがたい」。この状況に対し、シュレーダー氏の事務所のスタッフが全員辞職し、同氏は地元ハノーバーから名誉市民権を剥奪された。同市が前回この処罰を下した相手は、死後のヒトラーだ」

     

    シュレーダー氏とプーチン氏との関係は、ソ連崩壊後からずっと続く盟友関係である。ドイツが、経済的にロシアへ深く食込むきっかけは、シュレーダー・プーチン両氏の親密関係に始まった。

     


    (2)「それでも、ドイツ社会民主党(SPD)元党首のシュレーダー氏は、クレムリンの支援を受けているロシア企業のポストを手放さなかった。今も国営石油大手ロスネフチと天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」運営会社の会長の座にあり、国営ガス大手ガスプロムでの最近の取締役候補指名を辞退していない。本人を知る人たちは、シュレーダー氏(がロシアとの縁を切らない)動機は極めて個人的なものでもあると主張する。1998年から2005年までドイツ首相を務めた同氏は、互いのトップ就任当初からプーチン氏と友情を築き、その関係が今日までずっと続いている」

     

    シュレーダー氏には、公私混同がある。プーチン氏がいくら親しい友人であっても、シュレーダー氏は決然とウクライナ侵略を非難すべきある。それが、元ドイツ首相を務めた人間の義務でもあろう。シュレーダー氏は、それをしなかったのだ。

     


    (3)「ある元高官によると、首相に就任したばかりの頃、シュレーダー氏は堅苦しい英語のせいで世界各国の首脳と親しい関係を築くことができなかった。だが、ベルリンの壁が崩壊した時に旧共産国の東ドイツに駐留するソ連国家保安委員会(KGB)工作員だったプーチン氏はドイツ語を流ちょうに話した。シュレーダー、プーチン両氏の家族はクリスマスに集まり、01年にはモスクワで一緒にそりに乗っているところを写真にとられている。よく似た幼少期も友情を育んだ。どちらも貧しい家庭の出身で、自らの才覚によってトップに上り詰めた」

     

    シュレーダー氏は貧しい家庭の生まれという。プーチン氏の場合、さらに複雑で出生の秘密を抱えている。こういう両氏が、互いの生まれ育った環境で理解し合い、刎頸の友になったのだろう。

     

    (4)「首相を退任して以来、シュレーダー氏は富豪になった。ロスネフチの決算報告は、同氏の報酬が年間60万ユーロ(約8100万円)であることを示している。ドイツメディアはノルドストリームでの給与が別途25万ユーロ(約3375万円)に上ると報じている。またシュレーダー氏はガスプロムの取締役候補に指名され、6月に承認が予定されている。さらに、ドイツ政府から月間約8000ユーロ(約1080万円:年間約1億2960万円)の年金も受給している。ウルシェル氏は言う。「60歳の誕生日に、政界を離れたら何をするか質問した。すると、ただ一言、『お金を稼ぐ』と言った。彼は自分の国に仕えたと感じている。今、そのお金を得る権利があると思っている」

     

    他人の懐を計算するのは悪趣味だが、シュレーダー氏は現在、相当の富豪になっている。ロシア企業の報酬が年間約8100万円、ノルドストリームが同約3375万円、ドイツの年金は同約1億2960万円である。合計すると、年間2億4435万円である。暮しに困ることはない。ロシア関連収入をすべて断っても、ドイツの年金だけで1億3000万円もあるのだ。

     


    (5)「
    今のところ、ウクライナについてシュレーダー氏が出した唯一の声明は、ビジネス向けSNS(交流サイト)のリンクトインのプロフィルに書き込んだものだ。「戦争と戦争に伴うウクライナの人々の苦しみは、できるだけ早く終わらせなければならない。それがロシア政府の責任だ」とある。シュレーダー氏の所属するSPD(社会民主党)は、元党首への対応でつまずいた。ショルツ首相は記者会見で、目に見えて腹を立てているようだ。4州のSPD支部はシュレーダー氏の党員資格を剥奪するよう求めた。だが、SPDに所属するニーダーザクセン州首相は同氏の名誉勲章を剥奪することを拒否し、今も連絡を取り合っている」

     

    シュレーダー氏の所属するSPDは、ショルツ首相の与党である。それだけに、ドイツ政府は、シュレーダー氏の振る舞いに困り果てている。SPD支部は、党員資格剥奪を求めるほど激昂しているのだ。

     


    (6)「政治的な反対勢力は、SPDのためらいに付け入った。CDU(キリスト教民主同盟)の人権問題担当の議会スポークスマン、ミヒャエル・ブラント氏は、シュレーダー氏に制裁を科すよう政府に求めた。「シュレーダー氏は元首相というよりも、プーチン氏の外国工作員だ」。シュレーダー氏が3月上旬にウクライナ危機を仲裁するためにモスクワを訪れたことが報じられた。会談からは何の成果も生まれなかった。ある元同僚は今、シュレーダー氏が事実上、プーチン支持に「追い込まれた」のではないかと考えている。「彼はいずれにせよ、もう政治的に終わった。もしかしたら今も昔も(プーチン氏の)親友なのかもしれない。だが今では、基本的にプーチン氏の従業員だ。同氏が過剰なお金を払うことでシュレーダー氏を堕落させた」と非難するのだ」

     

    野党CDUが、シュレーダー氏に制裁を科すべしと要求している。また、プーチン氏の外国工作員とまで罵倒される始末だ。ウクライナの人道被害が拡大されるほど、シュレーダー非難の声は高まる状況にある。

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