勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース

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    EU(欧州連合)は、トランプ氏の相互関税で大きな痛手を被る見通しが濃くなってきた。米中が、二大輸出市場であるだけに両国の貿易戦争の影響を真っ正面から受けるからだ。4年間で120兆円規模の損失になるという。こうして、EUは米国との話合いを早急に始める意向だ。EU経済の核であるドイツは、今後4年間でGDPが、1.5%押下げられるという。25年のGDPマイナス成長が不可避の見込みとなってきた。

    『日本経済新聞 電子版』(4月13日付)は、「欧州経済、米関税で損失120兆円 独はGDP1.5%押し下げ」と題する記事を掲載した。

    欧州経済の回復シナリオがトランプ米大統領の「相互関税」で狂い始めている。欧州連合(EU)が被る経済損失は今後4年間で7500億ユーロ(約122兆円)規模に膨らむ見通しだ。ドイツは東西統一後で初めて3年連続のマイナス成長となるかどうかの瀬戸際に立つ。


    (1)「次期独首相に就任する見通しとなった中道右派キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首は9日、「ドイツだけでなく、欧州諸国を代表してワシントンで話し合いたい」と述べた。独公共放送でトランプ氏との早期会談に意欲を示した。欧州と米国をまたぐ「大西洋横断の関税ゼロ」をめざす。ドイツ経済研究所(IW)の試算によると、トランプ氏の大統領任期である4年間でEUに与える域内総生産(GDP)の損失は7500億ユーロ規模に達する恐れがある。世界からの輸入品に課す相互関税の表明を踏まえて公表したもので、トランプ氏はEUの税率を原則20%とした」

    ドイツ次期首相は、EUを代表して米国と話し合う方針を固めた。4年間でEUに与えるGDPの損失は7500億ユーロ規模に達する見込みだという。

    (2)「当面90日間は、上乗せ分の一時停止で10%に下がるものの、EUとの交渉は成否が読めず、トランプ政権の政策も二転三転する。IWの分析は、他国の報復措置を含めておらず、中国が米国製品への報復関税を125%に引上げると表明したため不透明感は一段と増した。特に深刻なのが欧州最大の経済大国ドイツだ。累計の経済損失はおよそ2000億ユーロになり、関税がない場合と比べて28年時点の独GDPを1.5%押し下げる。IWで国際経済に詳しいユルゲン・マテス氏は、「EUは貿易紛争の新局面を迎えた」と指摘する」

    ドイツ経済は、輸出依存度が37.31%(2023年)と先進国では最も高い。それだけに、受ける影響が大きくなる。


    (3)「世界でも欧州は、景気回復が遅れてきただけに影響は大きい。ロシアのウクライナ侵略でエネルギー不安が高まり、歴史的なインフレが猛威を振るった。新型コロナウイルス禍からの景気回復シナリオを狂わせ、ドイツ経済は24年まで2年連続のマイナス成長に転落した。英HSBCによると、EUから米国への輸出にかかるモノの関税率は、23年時点で平均3%強だった。大幅な関税引き上げは製品の値上がりを通じて、ドイツ企業の米国での販売減少に結びつく。独自動車工業会のミュラー会長は一連の追加関税で「雇用にも影響が出るだろう」と懸念する」

    EUは、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー供給遮断で大きな被害を受けた。ようやく、この被害から回復しようという矢先にトランプ関税の圧迫を受ける。

    (4)「実際、欧州各国で景気見通しの下方修正が相次ぐ。IFO経済研究所など主要な独研究機関が10日公表した共同の景気予測で、25年のドイツ実質成長率は0.1%と24年秋時点から0.7ポイント引き下げた。輸出の下振れで再び成長が止まり、東西統一後で初となる3年連続のマイナス成長も現実味を帯びる。フランス政府も25年の成長率予測を0.7%と0.2ポイント下方修正する。イタリアは0.6%程度の成長にとどまりそうだ。景気の急減速は想定外の税収下振れを招きかねず、国防費の引き上げやウクライナの軍事支援にも影を落とす」

    25年のドイツ経済は、憲法上の財政赤字規制が緩和されることから、回復が見込まれていた。それが一転、3年連続のマイナス成長の気配が濃くなっている。


    (5)「金融市場は欧州中央銀行(ECB)の利下げ終了が遠のくとの見方を強める。米ゴールドマン・サックスは欧州経済の下振れリスクを踏まえ、4月と6月に続いて9月まで連続利下げに動くとの予測に切り替えた。政策金利は現在の2.5%から1.5%まで下がると想定する。市場で景気浮揚への期待を呼んでいたドイツの財政出動も、効果をそがれる恐れがある。メルツ氏は憲法改正で厳格な債務抑制策を見直し、巨額の財政拡張へ道筋をつけた。今後10年あまりで国防費やインフラ投資に充てる追加の財政支出は1兆ユーロ規模になる見通しだ」

    政策金利は、現在の2.5%から1.5%まで下がると想定する。この効果は、相互関税で帳消しになりそうだ。




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    ドイツは、規則を好む社会である。財政赤字にブレーキをかけるべく、憲法(基本法)で財政赤字をGDP比0.35%に制約(「債務ブレーキ」)する項目を設けている。だが、これがガンになって不景気でも財政赤字を増やせないという「財政の弾力性」が失われている。これも、ドイツの「官僚主義」の現れとみられる。やたらと規制を作って手続きを煩雑にしているのだ。

    『ロイター』(3月14日付)は、「『官僚主義』が阻む景気回復、ドイツ企業が改善訴え」と題する記事を掲載した。

    ドイツが国内工業の回復を急ぐのであれば、新政権は思い切った公共投資拡大策だけでなく、官僚主義的な手続きを劇的に減らす必要がある、と企業関係者は主張している。


    (1)「ロイターが自動車、エネルギー、物流といった産業を代表する業界団体のトップ幹部らにインタビューを行ったところ、ドイツの官僚主義的な手続きのコストや手間のせいで、本来であれば事業の現代化に投資すべきリソースが食い潰されている、という声が上がった。自動車メーカーなど産業界のクライアント向けにボルト・リベット類を製造する従業員450人のメーカー、メカニンドゥス・フォーゲルサングを率いるウルリッヒ・フラトケン氏もその1人だ」

    ドイツは、官庁への手続きが煩雑であると指摘されている。これは、AI(人工知能)でカバーできる問題だ。ドイツは、デジタル化が遅れている。

    (2)「ここ数カ月、欧州連合に対して規制枠組みの緩和・簡素化を求める企業幹部からの声が高まっている。米国市場の閉鎖性が強まり中国企業が海外事業を拡大する中で、どのように競争していくべきか企業が模索しているからだ。ドイツでは先週、銀行業界のトップが、インフラや国防の分野で予定されている大規模な歳出計画が十分に効果を発揮するには、並行して官僚主義的な煩雑さを解消する必要がある、と釘をさした。ドイツ企業5000社が加盟する鉄鋼産業の業界団体WSMのクリスチャン・ビートマイヤー代表は、欧州最大の経済大国ドイツでは、規制面での負担によりイノベーションが阻害されていると指摘する」

    インフラや国防の分野で、大規模な歳出計画が十分に効果を発揮するには、並行して官僚主義的な煩雑さを解消する必要と指摘されている。手続きが煩雑であるのは、規制が強すぎる結果である。


    (3)「欧州委員会は2月、サステナビリティー報告基準の一部を緩和し、2029年までに報告義務を25%、中小企業に関しては35%縮小すると宣言した。管理コストに換算して375億ユーロ(400億ドル)の削減に相当する。先日のドイツ総選挙で最多得票を得た保守派のキリスト教民主同盟(CDU)は連立政権の発足に向けて協議を進めているが、優先すべき政策課題15項目のうち、2番目に官僚主義の解消を挙げている。だが現実には、企業幹部らはこうした公約に対して半信半疑で、政府が単に新たな要件を課すことになるのではないかと危ぶんでいる」

    EU(欧州連合)の欧州委員会(内閣に相当)は、2029年までに政府への報告義務を25%、中小企業に関しては35%縮小すると宣言した。これによって、管理コストが375億ユーロ(400億ドル)も削減可能という。ドイツの次期首相を出すCDUは、重要政策の2番目に官僚主義の解消を挙げているほどだ。


    (4)「実際、世界経済フォーラムが2023年に行った調査によれば、EU諸国のうち、政府規制の遵守がそれ以前の4年間に比べてより複雑になったのは3カ国だけで、その1つがドイツだった。ドイツのIFO経済研究所は許認可の取得や納税申告の提出、商品の取引といった業務に要するコストを測定する指数をまとめているが、2024年のデータによれば、他の欧州諸国、OECD加盟国ではここ数年負担が軽減されている一方で、ドイツでは2006年以来、官僚主義スコアが横ばい状態であることが分かった。アディダスのビヨルン・グルデン最高経営責任者(CEO)は、規制要件が過剰になってしまったと話す」

    ドイツの規制要件は、過剰になっている。これは、市場経済のスムースな流れを阻害することでもある。米国のトランプ政権は、規制を外しすぎて問題になっているが、ドイツもこの流れの万分の一でも取り入れる必要がある。

    (5)「ドイツはこれまで官僚主義の解消に向けて多くの法律を制定してきた。その1つが今年施行されるもので、納税通知書のデジタル化や、企業の領収証保管年数を10年から8年に短縮することなどにより、9億4400万ユーロの節約を謳っている。CDUのマニフェストでは、報告義務を縮小し、中小企業については検査担当者の任命義務を免除する旨の単年度法案を提案している」

    業務のデジタル化は、日本も学ばなければならない。


    (6)「CDUは、「サプライチェーン法」の廃止を望んでいる。これは従業員数1000人以上の企業に対し、サプライチェーン内での人権・環境関連のリスク低減への取り組みを報告するよう義務付けるものだが、結局はより小規模なサプライヤーに説明義務を転嫁することになり、またEU全体を対象とした類似の法律と重複している。ドイツ緑の党や社会民主党、さらには複数の非政府組織(NGO)は、こうした報告義務を緩和すれば企業の説明責任が軽減され、サステナビリティー面で苦労の末に獲得した成果が帳消しにされてしまうのではないかという懸念を表明している。

    ドイツでは、緑の党や社会民主党などが規制撤廃にブレーキをかけている。すべてを民間に任せることが不安なのだ。ドイツのような「規制大国」には、こういう一面がある。


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    欧州の「病人」と揶揄されていたドイツが、憲法(基本法)の財政赤字条項を改正して国防費とインフラ投資を拡充する方向へ大きく舵を切ることになった。ドイツは、貯蓄過剰国にもかかわらず、憲法で財政赤字をGDP比0.35%に制約(「債務ブレーキ」)される矛盾を抱えてきた。この規程から、前記の2項目を対象外にする憲法改正に取組む。国会の3分の2の賛成を得なければならない。

    『ブルームバーグ』(3月14日付)は、「メルツ次期独首相候補、財政パッケージで緑の党と合意-関係者」と題する記事を掲載した。

    イツの次期首相候補のメルツ・キリスト教民主同盟 (CDU)党首は14日、防衛・インフラ支出のための財政改革パッケージを巡り、緑の党と合意に達した。来週の議会での採決に向け、大きなハードルを乗り越えたことになる。


    (1)「憲法上の債務制限改正に必要な議会3分の2の賛成を確保するため、CDUを中心とする保守系会派とショルツ首相の社会民主党(SPD)は、緑の党の支持を取り付けようと腐心していた。 緑の党は当初の財政パッケージを拒否し、気候変動対策への積極的な取り組みを求めていた」

    メルツ氏のCDUを中心とする陣営と社会民主党(SPD)は3月初め、次期連立政権について協議し、防衛費をドイツの債務制限からほぼ切り離し、5000億ユーロ(約80兆円)のインフラファンドを立ち上げることで合意した。しかし、緑の党の指導者たちは、メルツ氏らが次期連立協議から同党をほぼ排除し、気候変動対策など同党の優先事項を無視する決定を下したことを強く非難し、財政パッケージを拒否する姿勢をみせていた。

    こうして、緑の党の合意を得なければ、議会で3分の2に達せず財政パッケージが成立しない恐れが出ていた。今回の合意によって、「債務ブレーキ」問題が解決する。


    (2)「メルツ氏は数週間後、ショルツ氏の後任となる見込みだ。メルツ氏は14日ベルリンで、同党議員らとの会談後、「ドイツは復活した」と記者団に語った。メルツ氏らは、防衛費を債務制限の対象外とし、5000億ユーロ(約80兆7600億円)のインフラ投資基金を設立するという大々的な計画について、両院の支持を獲得しようとしている。法案は18日、連邦議会(下院)で採決される予定だ」

    メルツ氏は「ドイツは復活した」と記者団に語った。これは、本音であろう。ドイツ経済のアキレス腱が「債務ブレーキ」にあっただけに、足かせの一つが消える。

    (3)「合意内容によると、インフラ基金は新規プロジェクトに充当されるが、緑の党の要求を受け、うち1000億ユーロは政府の既存の気候変動対策移行基金に充てられる。防衛費の枠組みも拡大され、ウクライナへの支援とインテリジェンスが含まれることになった。メルツ氏は、ウクライナへの30億ユーロの支援パッケージも、来週には署名される可能性が高いと述べた」

    インフラ基金「5000億ユーロ」のうち、1000億ユーロは政府の既存の気候変動対策に向けられる。環境政党である緑の党の要求に応える。


    メルツ次期首相は3月4日、ドイツは憲法を改正し、国防および安全保障支出を財政支出の制限から除外した上で、国を守るために「あらゆる手段を講じる」と述べた。今後10年で交通やエネルギー網、住宅などの優先分野に投資する5000億ユーロ規模のインフラ基金を設定することで主要政党が合意したとも明らかにした。

    メルツ氏は、「欧州は防衛を強化する必要がある」とも述べた。米国トランプ政権が、欧州防衛よりもアジア防衛へ力点を置いていることから、欧州最大の経済大国ドイツとしては、欧州防衛の責任を果さねばならない状況になっている。この点で、緑の党も合意したことは大きな前進である。





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    トヨタ自動車は1月30日、2024年のグループ世界販売が前年比3.7%減の10820000台と発表した。子会社のダイハツ工業の認証不正の影響などで過去最高だった23年の実績を割り込んだものの、独フォルクスワーゲン(VW)などを抑え5年連続の世界首位を維持した。トヨタの営業利益率は、24年に11.9%と跳ね上がり、23年の7.3%から大きく改善した。VWは、8.5%である。

    『日本経済新聞 電子版』(1月30日付)は、「トヨタ24年世界販売5年連続首位、不正影響もVWに大差」と題する記事を掲載した。

    トヨタ自動車が30日発表した2024年のグループ世界販売台数(ダイハツ工業、日野自動車含む)は、前年比4%減の1082万台だった。独フォルクスワーゲン(VW)グループの903万台に大差を付け、5年連続で世界首位となった。認証不正やリコール(回収・無償修理)の影響があったものの、強みのハイブリッド車(HV)が欧米で好調だった。


    (1)「トヨタ単体(レクサス含む)の世界販売台数は1%減の1015万台と、2年連続で1000万台を上回った。地域別では北米と欧州がそれぞれ4%増で、「RAV4」「ヤリス」などのHVモデルが伸びた。中国は現地メーカーとの価格競争が激化しているが、7%減に踏みとどまった。国内販売は14%減と2年ぶりに前年実績を割り込んだ。車の量産に必要な「型式指定」の不正問題を受け、約4カ月にわたって「ヤリスクロス」の受注を停止した影響が出た。電気式スイッチの不具合により、「プリウス」の出荷を2カ月止めたことも響いた」

    トヨタ自動車単体では、世界販売台数は1%減の1015万台と、2年連続で1000万台を上回った。これで、トヨタの実力を遺憾なく発揮していることがわかる。中国市場では7%減になったが、他国市場で挽回している。24年営業利益率は、11.9%とここ数年では久しぶりに二桁を記録した。余力十分で世界市場を制覇していることが分る。


    (2)「世界での電動車販売は23%増の453万台と、全体の45%を占めた。HVは21%増の414万台で、初めて400万台を超えた。車両価格が手ごろで燃費が良いことから人気が高まっており、トヨタは一部地域でHV専用モデルを導入している。電気自動車(EV)は34%増の13万台だった。前年より大幅に伸びたが、先行する米テスラ(179万台)や中国・比亜迪(BYD、176万台)、VW(74万台)などとの差は依然として大きい」

    EVとHVの電動車が、売上全体の45%を占めている。HVは、すでに初期開発コストを完全に回収しており、今後は作れば作るほど利益率が高まる構造になっている。

    (3)「トヨタグループ全体での世界生産は8%減の1061万台、トヨタ単体では5%減の952万台だった。トヨタは25年の世界生産(単体)について、1000万台弱とする計画を仕入れ先に伝えている。内訳は海外生産が660万台弱、国内生産が約340万台とした」

    先に販売実績を発表していたVWによると、同社の24年の販売台数は同2.3%減の約903万台だった。VWが主力市場とする中国では、10%近い減少となったことが響いた。


    世界的なEV不振にも関わらず、トヨタは26年の世界生産が1040万台程度、27年に1070万台程度と増加基調である。これは、新型EVの投入が予定されている結果だ。EVは、25年が40万台強で、26年はさらに2倍以上へ増やす計画である。

    VWは、EVの販売戦略が大きく狂ったこともあり25年の世界販売台数の落込みが不可避となっている。トヨタとの差は、一段と開く状況になった。

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    第二次世界大戦後のドイツ経済は、日本にとってモデルであった。ドイツは、自力で戦後インフレを収拾し、安定成長への道を着実に歩んできた。日本の戦後は、米国シャウプの力でインフレを収束する「他人まかせ」であった。そのドイツが今、躓いている。主力の自動車産業がEVへ依存しすぎて「転覆」したのだ。国家の運命とは、分らないものだ。

    ドイツ社会は、35年前(1989年)のベルリンの壁崩壊後、旧共産圏の東ドイツ統合のための莫大な支出で一致団結した。今は、国が厳しい分裂状態にあり、有権者は二極化している。極右勢力が、国民にナチスの被害を忘れさせ再び力を得ている。

    『ブルームバーグ』(12月17日付)は、「ドイツ『緩慢な衰退』の衝撃シナリオ、東西再統一以来で最大の危機か」と題する記事を掲載した。

    ドイツが引き返せない地点に踏み込もうとしている。ビジネスリーダーはそれを理解し、国民も実感しているが、政治家は答えを見いだせていない。欧州最大の経済大国が衰退の道に向かい、後戻りできなくなる危険がある。ドイツ経済は停滞が5年続いた結果、新型コロナ禍前の成長トレンドが維持された場合と比べ、今や5%縮小している。

    (1)「ドイツ企業に戦略アドバイスを行うフューチャー・トゥデー・インスティテュートの創業者エイミー・ウェッブ氏は、「ドイツは一夜にして崩壊するわけではない。だからこそ、このシナリオは衝撃的なほど恐ろしい。非常に緩慢で、極めて長期にわたる衰退だ。企業や都市ではなく、国全体と欧州が一緒に引きずり込まれる」と警告する。低い生産性や不十分な投資を背景にEU諸国の成長は失われ、フランスとドイツは政治危機に直面する」

    ドイツ経済の不振は、財政赤字を極端に減らす財政保守主義にある。必要なインフラ投資まで制限して、健全財政に固執している。膨大は経常黒字の存在は、「過剰貯蓄」に陥っている証拠である。この貯蓄を取り崩してインフラ投資や社会保障へ回せば、極右勢力など生まれるはずがない。要するに、融通が効かない「石頭」状態に陥っている。

    (2)「中国に後れを取ることなく、ロシアのウクライナ侵攻に対処し、孤立主義を深める米国に対応するため、他の欧州諸国はドイツの産業力を必要としている。まさにそのタイミングで、数年にわたる誤った判断と不運が重なり、ドイツの経済モデルは崩壊し、東西再統一以来で最大の危機に直面している」

    有り余る経済力を、健全財政の罠によって使えない、世にも不思議な話である。ドイツ社会は、未だに第一大戦後の天文学的インフレを恐れている。

    (3)「キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首が、次期政権を担う最有力候補だ。だが、安全策を取る改革手法が人口8400万人を擁する経済の立て直しに十分とは考えにくい。メルツ氏は低い税負担や限定的な規制、ベーシック社会保障給付を含む戦後のドイツ復興を後押しした政策的枠組みへの回帰を目指している。それは、全体として国家の役割縮小を意味し、「債務ブレーキ」として知られる公共支出制限の大幅緩和には消極的だ」

    後継首相として有力なCDUメルツ党首は、税負担や限定的な規制、ベーシック社会保障給付を含む、戦後ドイツ復興を後押しした政策的枠組みへの回帰を目指している。「債務ブレーキ」と言われる財政赤字拡大阻止を忠実に守ろうとしているのだ。財布に一杯現金がありながら、それを使う意思がないという「もったいない」話なのだ。

    (4)「ドイツ経済諮問委員会(5賢人委員会)によれば、インフレを生じさせることなく経済が拡大可能な潜在成長率はわずか0.4%まで縮小している。競争力を回復させるには、結局支出を増やす必要がある。BEによると、他の先進諸国に追い付くだけでも、インフラなどの公共財への年間投資額を1600億ユーロまで約33%引き上げなければならない。これは国内総生産(GDP)の1%余りに相当する額だ。ドイツの困難な課題を取り繕うことはできない」

    インフラなどの公共財への年間投資額は、約33%引き上げる必要性が指摘されている。GDPの1%の財政赤字拡大で経済基盤を固められるとしている。

    (5)「バントレオンのエコノミストらは、かつて世界に名をはせたドイツの自動車産業について、市場シェアを失い、生産の海外移転が加速する結果、今後10年でドイツでの付加価値の最大40%を失うと予測する。VWは国内工場の閉鎖計画に反対する労組が時限ストを行い、シェフラーやロバート・ボッシュ、コンチネンタルを含むサプライヤーも人員削減を迫られている。フォーチュン欧州500社に入るドイツ企業は、今年これまでに全体で6万人余りのレイオフを発表した」

    ドイツ自動車産業は今後、10年でGDPの40%を失うという。需要不足とEV経営の失敗が尾を引くのだろう。

    (6)「ドイツ最大の鉄鋼メーカーを傘下に置くティッセンクルップのミゲル・ロペス最高経営責任者(CEO)は、「われわれが何十年も知っているドイツ経済システムの安定が崩壊しつつある。今行動しなければならない。疑う余地はない」と訴えた」

    鉄鋼は、インフラ投資と自動車が二大ユーザーである。この両者がじり貧である。いずれ、鉄鋼へ波及する。

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