トヨタ自動車とドイツのBMWが水素を使い発電時に二酸化炭素(CO2)を出さない燃料電池車(FCV)で全面提携する。トヨタが水素タンクなど基幹部品を供給し、BMWが数年内にFCVの量産車を発売する。両社で欧州の水素充塡インフラも整備する。
トヨタ自動車の水素戦略は、(1)量産化、現地化、(2)有力パートナー連携、(3)技術革新の3つの施策に成り立っているとされる。要するに、自社の革新技術をバネにして、世界へFCVを普及させる手堅い戦略である。トヨタは、EV(電気自動車)でも同様の経営戦略である。
『日本経済新聞 電子版』(8月27日付)は、「トヨタとBMW、燃料電池車で全面提携 部品や水素充塡」と題する記事を掲載した。
次世代エコカーの選択肢として日欧大手がFCVで手を組む。販売が減速する電気自動車(EV)以外の戦略が必要となっている。両社は9月3日にもFCVの全面提携に向けた基本合意書(MOU)を交わし、5日に予定しているBMWのメディア説明会で公表する。 FCVは、水素と酸素の化学反応で作った電気で動く。発電時に水しか出ないため「究極のエコカー」と呼ばれている。エンジンに当たるのはモーターで、電力で駆動する点はEVに近い。
(1)「今回、トヨタはBMWのFCV向けに水素タンクのほか、水素を使って発電する「燃料電池」など水素関連の基幹部品を全面供給する。駆動システムなどEV技術を活用できる領域はBMWが主体となって手がける。トヨタとBMWは2012年6月からFCVで協業関係にあった。ただこれまではトヨタ側からは燃料電池部品のセルを供給するだけで、水素タンクや駆動システムなどはBMWが独自開発していた。トヨタは、世界に先駆けて14年にFCV「ミライ」の一般販売を始めるなど、FCV量産化で世界をリードしている」
トヨタが、ドイツの高級車BMWとFCVで全面提携することは、トヨタのFCV生産コストの引下げに寄与するほか、FCV需要を拡大させるという二つのメリットがある。
(2)「現在、BMWは多目的スポーツ車(SUV)の「X5」をベースに、FCV「iX5 ハイドロジェン」を研究開発する。2本で容量計6キログラムの水素タンクを搭載。3〜4分でフル充填でき、航続距離は500キロメートルを超える。日本を含む各国で実験走行を展開している。今後、トヨタの水素システムを全面的に取り入れることでコストを抑え、数年内の販売開始を目指す」
BMWは、トヨタとの全面提携によって数年内にFCV発売へ漕ぎつける。トヨタは、2030年以降にFCVの全面展開を意図してきただけに、予定取りの進捗である。
(3)「包括提携では、BMWとトヨタが欧州での水素インフラ整備について協力関係を構築することも盛り込まれる見通しだ。欧州自動車工業会(ACEA)によると、欧州連合(EU)域内のEVなど向けの公共充電ポイントは23年末時点で63万2000カ所を超えた。一方、水素ステーションは欧州全体でも270カ所にとどまる。マークラインズによると、トヨタの「ミライ」の累計販売台数は約2万6000台にとどまっている。販売価格が700万円以上と高額であることが普及の足かせになっている。トヨタとBMWはコストの多くを占める水素関連システムの基幹部品を共通化することで、FCVの価格を抑えたい考えだ」
FCVが、排ガス規制の厳しい欧州で需要を集められることは確実である。しかも、BMWという超一流ブランドでFCVが発売されれば、爆発的人気を得られるであろう。トヨタらしい「迂回戦略」である。
(4)「EVの失速でFCVに追い風が吹いている。急速充電器を使ってもフル充電に数十分かかるEVと比べ、充填時間の短さも長所だ。ホンダは7月、新型FCV「CR-V e:FCEV」を国内と米国で発売した。同社は21年8月にFCV生産から撤退していた。BMWもiX5 ハイドロジェンを発売した後、30年代には複数のFCVをそろえる計画で、EV一辺倒からの脱却を目指す」
EV失速は、数年間は続くとみられる。FCVは、その間に販路拡大のチャンスを生かせる。手堅いトヨタの計算通りの動きであろう。