勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース

    a0960_005041_m
       

    第二次世界大戦後のドイツ経済は、日本にとってモデルであった。ドイツは、自力で戦後インフレを収拾し、安定成長への道を着実に歩んできた。日本の戦後は、米国シャウプの力でインフレを収束する「他人まかせ」であった。そのドイツが今、躓いている。主力の自動車産業がEVへ依存しすぎて「転覆」したのだ。国家の運命とは、分らないものだ。

    ドイツ社会は、35年前(1989年)のベルリンの壁崩壊後、旧共産圏の東ドイツ統合のための莫大な支出で一致団結した。今は、国が厳しい分裂状態にあり、有権者は二極化している。極右勢力が、国民にナチスの被害を忘れさせ再び力を得ている。

    『ブルームバーグ』(12月17日付)は、「ドイツ『緩慢な衰退』の衝撃シナリオ、東西再統一以来で最大の危機か」と題する記事を掲載した。

    ドイツが引き返せない地点に踏み込もうとしている。ビジネスリーダーはそれを理解し、国民も実感しているが、政治家は答えを見いだせていない。欧州最大の経済大国が衰退の道に向かい、後戻りできなくなる危険がある。ドイツ経済は停滞が5年続いた結果、新型コロナ禍前の成長トレンドが維持された場合と比べ、今や5%縮小している。

    (1)「ドイツ企業に戦略アドバイスを行うフューチャー・トゥデー・インスティテュートの創業者エイミー・ウェッブ氏は、「ドイツは一夜にして崩壊するわけではない。だからこそ、このシナリオは衝撃的なほど恐ろしい。非常に緩慢で、極めて長期にわたる衰退だ。企業や都市ではなく、国全体と欧州が一緒に引きずり込まれる」と警告する。低い生産性や不十分な投資を背景にEU諸国の成長は失われ、フランスとドイツは政治危機に直面する」

    ドイツ経済の不振は、財政赤字を極端に減らす財政保守主義にある。必要なインフラ投資まで制限して、健全財政に固執している。膨大は経常黒字の存在は、「過剰貯蓄」に陥っている証拠である。この貯蓄を取り崩してインフラ投資や社会保障へ回せば、極右勢力など生まれるはずがない。要するに、融通が効かない「石頭」状態に陥っている。

    (2)「中国に後れを取ることなく、ロシアのウクライナ侵攻に対処し、孤立主義を深める米国に対応するため、他の欧州諸国はドイツの産業力を必要としている。まさにそのタイミングで、数年にわたる誤った判断と不運が重なり、ドイツの経済モデルは崩壊し、東西再統一以来で最大の危機に直面している」

    有り余る経済力を、健全財政の罠によって使えない、世にも不思議な話である。ドイツ社会は、未だに第一大戦後の天文学的インフレを恐れている。

    (3)「キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首が、次期政権を担う最有力候補だ。だが、安全策を取る改革手法が人口8400万人を擁する経済の立て直しに十分とは考えにくい。メルツ氏は低い税負担や限定的な規制、ベーシック社会保障給付を含む戦後のドイツ復興を後押しした政策的枠組みへの回帰を目指している。それは、全体として国家の役割縮小を意味し、「債務ブレーキ」として知られる公共支出制限の大幅緩和には消極的だ」

    後継首相として有力なCDUメルツ党首は、税負担や限定的な規制、ベーシック社会保障給付を含む、戦後ドイツ復興を後押しした政策的枠組みへの回帰を目指している。「債務ブレーキ」と言われる財政赤字拡大阻止を忠実に守ろうとしているのだ。財布に一杯現金がありながら、それを使う意思がないという「もったいない」話なのだ。

    (4)「ドイツ経済諮問委員会(5賢人委員会)によれば、インフレを生じさせることなく経済が拡大可能な潜在成長率はわずか0.4%まで縮小している。競争力を回復させるには、結局支出を増やす必要がある。BEによると、他の先進諸国に追い付くだけでも、インフラなどの公共財への年間投資額を1600億ユーロまで約33%引き上げなければならない。これは国内総生産(GDP)の1%余りに相当する額だ。ドイツの困難な課題を取り繕うことはできない」

    インフラなどの公共財への年間投資額は、約33%引き上げる必要性が指摘されている。GDPの1%の財政赤字拡大で経済基盤を固められるとしている。

    (5)「バントレオンのエコノミストらは、かつて世界に名をはせたドイツの自動車産業について、市場シェアを失い、生産の海外移転が加速する結果、今後10年でドイツでの付加価値の最大40%を失うと予測する。VWは国内工場の閉鎖計画に反対する労組が時限ストを行い、シェフラーやロバート・ボッシュ、コンチネンタルを含むサプライヤーも人員削減を迫られている。フォーチュン欧州500社に入るドイツ企業は、今年これまでに全体で6万人余りのレイオフを発表した」

    ドイツ自動車産業は今後、10年でGDPの40%を失うという。需要不足とEV経営の失敗が尾を引くのだろう。

    (6)「ドイツ最大の鉄鋼メーカーを傘下に置くティッセンクルップのミゲル・ロペス最高経営責任者(CEO)は、「われわれが何十年も知っているドイツ経済システムの安定が崩壊しつつある。今行動しなければならない。疑う余地はない」と訴えた」

    鉄鋼は、インフラ投資と自動車が二大ユーザーである。この両者がじり貧である。いずれ、鉄鋼へ波及する。

    テイカカズラ
       

    日本にとっては、何かと縁の深いドイツが政治的な混迷のほかに、経済面で急速に競争力を失ってきたことが判明した。すでに100兆円以上の設備投資が海外で行われるという惨状である。財政赤字は、「債務のブレーキ」によって規制されているが、これによって機動的な財政出動を阻むという思わぬマイナス効果を生んでいる。こうした状況変化によって、ドイツの経済環境は急速に悪化している。

     

    『ブルームバーグ』(11月9日付)は、「ドイツの混乱、背景に100兆円超える資本流出 競争力喪失で経済衰退」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ経済の競争力喪失が顕著だ。それが経済から活力を奪ってもいる。ドイツ連邦銀行(中央銀行)のデータによると、化学品メーカーのBASFや自動車部品のZFフリードリヒスハーフェン、家電のミーレなどの企業が国外に資源を移し、2010年以降の純資本流出額は6500億ユーロ(約107兆円)を超える。しかも、この約4割は、ショルツ首相率いる連立政権が発足した21年以降に発生した。 

     

    (1)「米大統領選挙でトランプ前大統領が歴史的勝利を収めたことにより、ドイツ企業には関税回避の目的で米国への投資を増やすよう圧力がかかる。これが資本流出を加速させる恐れもあるだろう。選択肢に乏しく次期総選挙の予定まで1年を切っていた中、経済再生を巡る論争がもとでショルツ首相はリントナー財務相を更迭。ドイツは05年以来の早期総選挙に向かう見通しとなった」

     

    トランプ氏の米国大統領復帰で、ドイツ企業はますます米国内の投資を迫られる。

     

    (2)「連立政権が劇的に崩壊した核心には、高いエネルギー価格と時代遅れの技術、過大な負担を課す官僚制度などドイツの問題がある。これが国内優良企業を外へと追いやり、外国資本の呼び込みを頓挫させてきた。世論調査でリードするキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のメルツ党首は今週初め、「経済は機能していない。巨額の資本が流出している」と指摘し、早期総選挙を呼びかけた」

     

    連立政権崩壊は、経済破綻が引き金を引いている。高いエネルギー価格と時代遅れの技術、過大な負担を課す官僚制度などが「ドイツ問題」という。

     

    (3)「送電網や路面電車、長距離電話線などドイツの革新を主導してきたエンジニアリング会社シーメンスは、2020年以降の投資額が300億ユーロに上るが、そのほとんどは国外での買収と事業拡大に振り向けられた。国内最大のプロジェクトは100年の歴史を持つベルリンの地区再開発だが、投資額は7億5000万ユーロ(約1222億円)ほどでしかない。「実際、ドイツへの投資を支持できる材料は何もない」と、シーメンスの税務担当グローバルヘッド、クリスティアン・ケーザー氏は10月半ばに同国議会の公聴会で述べ、低成長と重税を挙げた。「当社の最近の投資が外国で行われているのは、それが理由だ」と説明した。シーメンスは先週、米ソフトウエアメーカーのアルテアエンジニアリングを100億ドル(約1兆5300億円)で買収する合意を締結。同社にとって過去最大級の買収で、外国志向の姿勢が表れた格好だ」

     

    シーメンスは、国内事業よりも海外展開へ力点を置いている。

     

    (4)「資本流出は弱まる兆しが見えない。ケルン経済研究所のエコノミスト、クリスティアン・ルシェ氏は指摘する。ドイツが国内外の投資家を引きつけ流れを変えることができなければ、停滞は長引き、他の先進国にいっそう後れを取る恐れが生じる。それが有権者を動揺させ、政治的な混乱を繰り返すという悪循環も生まれる」

     

    ドイツが、国内市場の魅力を失えば経済停滞は長引き、政治的な混乱を拡大させる悪循環に陥る。財政支出抑制の「債務のブレーキ」が、政治波乱を招くという悲劇になりかねない。

     

    (5)「巨額の資本流出を食い止めるには、行動を急ぐ必要がある。連銀によると、ドイツ企業が2010年以降に外国に投資した額は1兆7000億ユーロ(約277兆円)に上る。流出は脆弱なセクターで強まっている兆しがあり、エネルギー集約型の企業は22年の対米投資額が約700億ユーロと、10年前の3倍余りに増加した。近く退任するBASFのマーティン・ブルーダーミュラー最高経営責任者(CEO)は「他地域に比べて、欧州は競争力を失ったと実感できる」と、今年前半の決算発表で述べ、「欧州の中でも、ドイツはとりわけ競争力を失った」と続けた」

     

    欧州全体が競争力を失ってきたが、とりわけドイツにそれが目立つという。

     

    (6)「特に問題視されるのは官僚制度だ。何度となく簡素化の試みはあったものの、ドイツ企業が影響を受ける規制はおよそ5万ページと、10年前の3万4000ページからかえって増加した。Ifo経済研究所による1700社余りを対象とした最近の調査では、この問題を理由に過去2年間で約半数の企業が国内でのプロジェクトを延期した」

     

    ドイツ政府の規制強化によって、ドイツ企業は設備投資を延期している。規制緩和に逆行する動きが理由だ。

    a0070_000030_m
       

    トヨタ自動車とドイツのBMWが水素を使い発電時に二酸化炭素(CO2)を出さない燃料電池車(FCV)で全面提携する。トヨタが水素タンクなど基幹部品を供給し、BMWが数年内にFCVの量産車を発売する。両社で欧州の水素充塡インフラも整備する。

     

    トヨタ自動車の水素戦略は、(1)量産化、現地化、(2)有力パートナー連携、(3)技術革新の3つの施策に成り立っているとされる。要するに、自社の革新技術をバネにして、世界へFCVを普及させる手堅い戦略である。トヨタは、EV(電気自動車)でも同様の経営戦略である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月27日付)は、「トヨタとBMW、燃料電池車で全面提携 部品や水素充塡」と題する記事を掲載した。

     

    次世代エコカーの選択肢として日欧大手がFCVで手を組む。販売が減速する電気自動車(EV)以外の戦略が必要となっている。両社は9月3日にもFCVの全面提携に向けた基本合意書(MOU)を交わし、5日に予定しているBMWのメディア説明会で公表する。  FCVは、水素と酸素の化学反応で作った電気で動く。発電時に水しか出ないため「究極のエコカー」と呼ばれている。エンジンに当たるのはモーターで、電力で駆動する点はEVに近い。

     

    (1)「今回、トヨタはBMWのFCV向けに水素タンクのほか、水素を使って発電する「燃料電池」など水素関連の基幹部品を全面供給する。駆動システムなどEV技術を活用できる領域はBMWが主体となって手がける。トヨタとBMWは2012年6月からFCVで協業関係にあった。ただこれまではトヨタ側からは燃料電池部品のセルを供給するだけで、水素タンクや駆動システムなどはBMWが独自開発していた。トヨタは、世界に先駆けて14年にFCV「ミライ」の一般販売を始めるなど、FCV量産化で世界をリードしている」

     

    トヨタが、ドイツの高級車BMWとFCVで全面提携することは、トヨタのFCV生産コストの引下げに寄与するほか、FCV需要を拡大させるという二つのメリットがある。

     

    (2)「現在、BMWは多目的スポーツ車(SUV)の「X5」をベースに、FCViX5 ハイドロジェン」を研究開発する。2本で容量計6キログラムの水素タンクを搭載。34分でフル充填でき、航続距離は500キロメートルを超える。日本を含む各国で実験走行を展開している。今後、トヨタの水素システムを全面的に取り入れることでコストを抑え、数年内の販売開始を目指す」

     

    BMWは、トヨタとの全面提携によって数年内にFCV発売へ漕ぎつける。トヨタは、2030年以降にFCVの全面展開を意図してきただけに、予定取りの進捗である。

     

    (3)「包括提携では、BMWとトヨタが欧州での水素インフラ整備について協力関係を構築することも盛り込まれる見通しだ。欧州自動車工業会(ACEA)によると、欧州連合(EU)域内のEVなど向けの公共充電ポイントは23年末時点で63万2000カ所を超えた。一方、水素ステーションは欧州全体でも270カ所にとどまる。マークラインズによると、トヨタの「ミライ」の累計販売台数は約2万6000台にとどまっている。販売価格が700万円以上と高額であることが普及の足かせになっている。トヨタとBMWはコストの多くを占める水素関連システムの基幹部品を共通化することで、FCVの価格を抑えたい考えだ」

     

    FCVが、排ガス規制の厳しい欧州で需要を集められることは確実である。しかも、BMWという超一流ブランドでFCVが発売されれば、爆発的人気を得られるであろう。トヨタらしい「迂回戦略」である。

     

    (4)「EVの失速でFCVに追い風が吹いている。急速充電器を使ってもフル充電に数十分かかるEVと比べ、充填時間の短さも長所だ。ホンダは7月、新型FCV「CR-V e:FCEV」を国内と米国で発売した。同社は21年8月にFCV生産から撤退していた。BMWもiX5 ハイドロジェンを発売した後、30年代には複数のFCVをそろえる計画で、EV一辺倒からの脱却を目指す」

     

    EV失速は、数年間は続くとみられる。FCVは、その間に販路拡大のチャンスを生かせる。手堅いトヨタの計算通りの動きであろう。

     

    a0005_000022_m

       

    日本は、名目GDPでドイツに抜かれたが、そのドイツ経済がふらついている。これで、日本がドイツに追い抜かれ原因の多くが、異常円安にあったことを示している。ドイツは今や、周辺国にも成長率で抜かれる事態になった。ドイツ憲法(基本法)による財政赤字規制が、足を引っ張っている面も強い。

     

    『ロイター』(8月13日付)は、「成長率で周縁国に抜かれたドイツ タカ派からの転換必要か」と題するコラムを掲載した。

     

    聖書に「後の者が先になる」とあるが、欧州ではかつて財政が放漫で成長が遅いと叩かれていたポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインのいわゆる「PIGGS」諸国が、これまで強国とされていたフランスやドイツよりも速いペースで成長し、投資家もこうした「主役交代」から恩恵を受けている。ドイツが失った地位を取り戻すには、金融政策タカ派の従来姿勢を改め、緩和的政策を提唱する必要がありそうだ。

     

    (1)「ユーロ圏は今や、2010年代の欧州債務危機の際に不名誉な言い回しで呼ばれた周縁5カ国が経済を支えている。スペインは第2・四半期の年間成長率が2.9%と目を見張る数字で、ユーロ圏全体の0.6%を大幅に超えた。イタリアとポルトガルも他の国々を圧倒し、成長率で域内トップに立ったのはアイルランドだ。対照的にユーロ圏最大の経済国ドイツは0.1%のマイナス成長に沈んだ」

     

    ドイツは、24年第2・四半期の年間成長率でマイナス0.1%へ落込んだ。ユーロ圏経済の3割を占めるドイツ経済の不振が注目を集めている。

     

    (2)「「周縁国」による「中核国」経済への逆襲は一過性ではない。2019年以降、ドイツ経済はスペイン、ギリシャ、ポルトガル、アイルランドに追い越され、後者の国々の成長ペースはドイツを20%上回った。高齢化や硬直した企業セクター、役所での煩雑な手続きといった問題を抱えるイタリアでさえ、ドイツやフランス並みの成長を達成した」

     

    ドイツ経済は2019年以降、スペイン、ギリシャ、ポルトガル、アイルランドの周辺国に抜かれている。この状況で、23年名目GDPが日本を抜いたからと言って喜べるはずもなかった。異常円安がもたらした「悪戯」だったのだ。

     

    (3)「PIIGS諸国は、輸出や製造業への依存度が低く、新型コロナウイルスのパンデミックや、中国のような主要市場の景気減速による苦境を乗り越えるのに役立った。例えば、高級車や家電など製造業はドイツのGDPの約5分の1を占めるが、スペインでは11%にすぎない。さらにパンデミック後の観光業の復活もPIIGS諸国にとって大きな追い風となった。バルセロナやローマ、リスボンなどの都市は外国人にとって人気の観光地だ」

     

    周辺国のPIIGS諸国は、ドイツのような製造業強国ではない。観光業のウエイトが高い国だ。こういう業態の周辺国経済が順調である。皮肉なものだ。日本は、製造業を復活させ、同時にインバウンド(外国人観光客)が、30年に6000万人(現在、3000万人)、50年に1億人(フランス並み)まで拡大できれば、「文武両道」の強みを発揮できる。

     

    (4)「投資家は、こうした変化に注目している。過去2年間にPIIGS諸国の10年物国債利回りと同年限のドイツ国債の利回りスプレッドは縮小。今後、PIIGSの成長が強くなり、新たなEU財政規則でイタリアやスペインの財政規律の改善が進めば、スプレッドはさらに縮小する可能性がある」

     

    PIIGS諸国の10年物国債利回りは、ドイツ国債の利回りスプレッド(差)は縮小している。市場は、ドイツ経済の落込みを読み込んでいる。

     

    (5)「ドイツは、高齢化や老朽化するインフラ、国防への支出を拡大するための借り入れが憲法上の制約を受けている。ドイツが最も期待できるのはGDPの47%を占める輸出の拡大だが、それには金利の低下とユーロ安が欠かせない。ドイツと欧州中央銀行(ECB)のドイツ出身理事は長い間、インフレリスクを避けるためにタカ派の金融政策を支持してきた。しかし経済が「周縁」に転落するのを防ぐには、「何でもやる」可能性が高まりそうだ」

     

    ドイツ憲法(基本法)は、財政赤字の上限を対GDP比0.35%と制限している。変更するには上下両院で3分の2以上の賛成が必要である。ドイツは、第一次世界大戦の敗戦後に天文学的インフレに陥った。このときの教訓が、憲法に引き継がれている。IMF(国際通貨基金)は、この規制を緩めるように要請しているほどだ。

     

     

     

    テイカカズラ
       

    欧州最大のドイツ経済は、4~6月期GDPが再びマイナス成長へ転落した。インフレ鈍化でも賃上げが追いつかず、頼みの個人消費にも陰りが目立つのだ。GDPで日本を抜いたドイツだが、青息吐息の状態だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月11日付)は、「欧州経済『回復失速の兆し』賃上げ追いつかず消費不振」と題する記事を掲載した。

     

    オランダ金融大手INGのシニアエコノミスト、バート・コリーン氏は、「欧州経済はセーヌ川の水質に似ている。一見して良く見える日もあるが、全体では懸念が絶えないほど悪い」と皮肉る。11日に閉幕するパリ五輪では水質の悪化が問題となり、トライアスロンの公式練習が中止に追い込まれた。

     

    (1)「欧州連合(EU)統計局がまとめた46月期のユーロ圏の実質GDPは、速報値で前期比0.%増だった。プラス成長は2四半期連続で、成長率は年率換算で1.%だ。ウクライナ危機に伴う急激なインフレが峠を越え、景気底入れの薄明かりが差し始めた。個人消費などが堅調な米国と対照的に、欧州は景気後退の瀬戸際で推移してきた。ロシアのウクライナ侵略に伴う資源高で所得が流出し、一時は貿易赤字が定着。欧州中央銀行(ECB)はインフレ抑制へ急激な利上げを進め、金利負担が企業や家計の重荷になってきた」

     

    欧州経済は、パンデミックとロシアのウクライナ侵攻と二重の経済負担を負っている。急激なインフレも峠を越えたが、病み上がり経済の状態である。

     

    (2)「問題は景気回復の持続力だ。ユーロ圏GDPの3割を占めるドイツは前期比0.%減と、域内の主要国で唯一のマイナス成長に陥った。フランスの0.%増やイタリアの0.%増と対照的で欧州経済の足を引っ張る。独連邦銀行(中央銀行)もプラス成長を想定していた。国際通貨基金(IMF)は7月に改訂した世界経済見通しで、ユーロ圏の成長率が2024年に0.%、25年に1.%になると分析した。ECBもほぼ同様の分析で、成長率が1%台に戻るのは25年と時間を要する」

     

    ドイツは、ユーロ圏GDPの3割を占めるが、4~6月期は前期比0.%減とマイナス成長へ逆戻りである。フランスやイタリアの回復からは遅れている。

     

    (3)「先行きの景気回復シナリオは、不透明感が強まる。ECBのラガルド総裁は7月に「経済成長のリスクは下振れ方向に傾いている」と警鐘を鳴らした。米モルガン・スタンレーは25年の成長率予測を1.%と従来から0.1ポイント引き下げた。誤算を招きかねないのが、個人消費の不振 投資・生産の低迷 保護主義の高まり――という3つの不安材料だ。小売売上高は5月が前月比0.%増、6月が0.%減と一進一退が続く。EUの執行機関である欧州委員会はインフレ鈍化による個人消費の持ち直しが景気回復をけん引するとみていた」

     

    ユーロ圏経済の先行きは、ドイツの不調で不透明感が高まっている。個人消費の不振で、投資や生産の低迷を招いている。米国大統領にトランプ氏が復帰すれば10%の関税が負担になる。

     

    (4)「ドイツでは、ストライキによる賃上げで実質賃金が上向きつつあるが、歴史的なインフレに完全には追いついていない。消費回復が持続力を伴うかは不透明感が残る。独連邦統計庁によるとドイツの実質賃金指数は16月平均で102と、新型コロナウイルス禍前の19年の105をまだ下回る。コロナ前の購買力を取り戻すのは早くても25年となる見込みだ」

     

    ドイツの賃上げ率が、物価上昇率を下回っている。これが、消費回復の足かせになっている。コロナ前の購買力を取り戻すのは早くても25年の見込みという。景気回復は、来年までお預けだ。

     

    (5)「政治リスクの高まりも欧州経済の死角となる。11月の米大統領選では、共和党のトランプ前大統領が全輸入品に一律10%の関税を課すと唱えた。工業立国のドイツにとって米国は最大の輸出相手国で保護主義の高まりが直撃する。ドイツ経済研究所(IW)はトランプ氏が返り咲いた場合、4年間でドイツ経済に最大1500億ユーロ(約24兆円)の経済損失をもたらすと試算する。米中の貿易摩擦の激化に巻き込まれる。ハンブルク商業銀行のチーフエコノミスト、サイラス・デラルビア氏は北大西洋条約機構(NATO)の同盟関係やウクライナ支援が揺らげば「地政学上の不確実性が投資に悪影響を及ぼす」と警告する

     

    欧州は、トランプ氏が復活すると大揺れ必至である。米国から10%関税をかけられ、ウクライナ支援を打ち切られることになれば、経済への影響が大きいからだ。

    このページのトップヘ