ドイツの対ロ政策は、これから180度もの大転換になる。親ロシア政策を捨てて、親米政策へと大きく舵を切るからだ。第二次世界大戦で、ドイツは旧ソ連へ多大の被害を及ぼした。このこともあり、ロシア政策では米国の意見を聞かず,ロシアに顔を向けてきた。だが、ロシアによる無慈悲はウクライナ侵攻によって、ロシアへの幻想は完全に消え、逆に警戒感が高まるという逆転現象が起こっている。この変化は、余りにも劇的である。
『日本経済新聞 電子版』(3月19日付)は、「ドイツ『ロシアへの幻想』に幕 外交・安保を大胆転換」と題する記事を掲載した。
ドイツが冷戦後の外交・安全保障政策の大胆な転換に動いている。第2次大戦の反省もあり、ロシアとは対立よりも協力を優先してきたが、ロシアのウクライナ侵攻で警戒が急速に高まった。これまで米国に促されても拒んできた国防費の大幅な増額を決め、エネルギー調達でもロシア依存からの脱却を急ぐ。
(1)「ランブレヒト独国防相は14日、「我々は今日、重要な一歩を踏み出した」と、最新鋭ステルス戦闘機F35を35機購入する計画を明らかにした。F35は米国との「核共有」の枠組みの中で、核爆弾を搭載する役割も担う。これまで軍備増強に消極的だったドイツが、ロシアへの対抗を明確にした。ドイツの方向転換の起点は、ショルツ独首相の2月27日の演説だ。ショルツ氏は「民主主義者、欧州人として、我々はウクライナの側、歴史の正しい側に立つ」と表明。ロシア配慮の曖昧な外交を封印し、プーチン大統領が「欧州の安全保障の秩序を打ち砕こうとしている」と強く非難した」
これまで、米国との関係が疎遠であったドイツが、米国から最新鋭ステルス戦闘機F35を35機購入することになった。ドイツ国内に貯蔵されている米国の核を、万一の危機では搭載できるようにする準備だ。ドイツはトランプ前米国大統領時代、関係がギクシャクしていた。このことから見ると、現在の米独関係は良好なパートナーシップへと変貌する。
(2)「懸案だった独ロの新パイプライン計画(ノルドストリーム2)を凍結し、拒み続けてきた対ウクライナ武器供与にも応じると決めた。最後まで及び腰だった国際決済網、国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア排除にも同意した。ドイツは連邦軍を増強するために1000億ユーロ(約13兆円)を用意し、国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上に増やす。装備の老朽化が懸念されてきたが「平和と民主主義を守るため」(ショルツ氏)に大胆な投資に動く」
独ロ関係の象徴であった「ノルドストリーム2」計画は、米国が建設自体に反対していたものだ。ドイツは、それを退けて完工に向け最大限の努力を重ねてきた。すでに完工済だが、このパイプラインは稼働を見ることなく、「廃止」されることになった。これまでのドイツの態度から見れば、想像もできない変化である。
(3)「ショルツ氏を突き動かしたのが、何の大義もなくウクライナに攻め込んだプーチン氏への不信感だ。ショルツ氏は議会で「プーチンが(新たな)ロシア帝国を築こうとしていることにもはや疑いを持たない」と明け透けに語った。「ロシアへの幻想の終わり」。リントナー独財務相は侵攻が始まった2月24日の前と後で世界は変わったと語る。ロシアとの協力が平和につながるとの考えは色あせた。独誌『シュピーゲル』はここ数十年の対ロシア政策が「波にさらわれた砂の城のように崩れ落ちてしまった」と指摘した」
ショルツ氏は議会で、「プーチン」と呼び捨てにするほどの怒りを見せた。プーチン氏へは、裏切られたという感情すら持っているのだ。ロシアは、これからドイツという「親ロ国」を失った痛手を痛感することになろう。
(4)「ウクライナを見捨てれば、欧州で孤立しかねないとの焦りも背中を押した。決済網からのロシア排除では、同じ慎重派だったフランスのマクロン大統領とイタリアのドラギ首相が土壇場で賛成に転換。決定直前には、ポーランドのモラウィエツキ首相が「ドイツの良心を揺り起こす」とベルリンでショルツ氏に直談判した」
ドイツは、EU(欧州連合)で要の役を果たしている。経済でトップという重みを持っているからだ。それだけに、ドイツの意向がEUを動かしてきた。今後のEUは、「反ロ」色を強めていくに違いない。
(5)「ロシアに厳しい姿勢を貫くには、エネルギー政策の転換が避けられない。ショルツ氏はロシアへのガス依存から抜け出すため、ガスの備蓄の拡大を進めるとともに、液化天然ガス(LNG)ターミナルを新設すると表明した。ただ、エネルギー調達の転換は「今日明日でできることではない」(ショルツ氏)。ドイツは当面はロシアからのエネルギー輸入を続ける考えで、ロシア産原油の禁輸に動いた米国とは温度差も残る」
EU全体が、2027年までにロシアからのエネルギー輸入をゼロにする目標を立てている。これが実現すれば、ロシア産エネルギーは一大購入先が消えることになる。ロシア経済の受ける打撃は大きなものになるはずだ。
(6)「ドイツは冷戦後の30年、壁の消えた世界で輸出を伸ばし、経済的繁栄を築き上げた。国防費を最低限に抑え、平和の配当をもっとも多く享受した。退任したメルケル前首相はこの路線を貫くことで長期安定政権を実現したが、ロシアや中国の強権化が進み、危うさも指摘されていた。外交・安保政策の転換に踏み出したことで、メルケル時代は名実ともに幕を下ろすことになる」
メルケル前首相は、親ロ・親中の政策を貫いてきた。これにより輸出を伸し、経済成長の軸にしてきた。先に、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインによる演説をドイツ議会で行なった。その際に、「ドイツは経済、経済、経済と一途に追求してきた」と耳の痛い点をズバリ指摘した。今後は、ウクライナの自由と独立への助力を要請したほど。ドイツは、この悲痛な訴えを外交政策の基軸に据える。