米英豪の3ヶ国が結んだ「AUKUS」(オーカス)は、米英の攻撃型原潜技術を豪州へ移転するだけでない。先端技術でも3ヶ国は協力するという広範な取極である。
インド太平洋戦略では、すでに日米豪印4ヶ国が参加する「クアッド」が存在する。これとは別に、「AUKUS」を結成したのは、より密度の濃い協力姿勢を構築するためだ。米英が、対中国戦略を重層的に組立てていることがわかる。これまで、非同盟であったインドをクアッドに繋ぎ止めた意味は大きい。ただ、それには自ずと限界もある。そこで、AUKUSで核心部分の結束を図るというもの。ここへは将来、日本と台湾を参加させる意図も見え見えだ。ただ、韓国の名前はないのだ。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月28日付)は、「AUKUSは未来の『インド太平洋条約』」と題する記事を掲載した。
AUKUSは深く根差しながら柔軟性も併せ持った技術大国間の連携枠組みであり、21世紀の世界像を描き出し、米国のインド太平洋域での協力関係のモデルにもなり得るものだ。
(1)「モリソン豪首相が最近のワシントン訪問の際、インタビューに応じ筆者に語ったところによれば、AUKUSの枠組みは、オーストラリアの人々の考えが起点になったという。何年にもわたってオーストラリアへの圧力を強めてきた中国は、昨年11月にはキャンベラ駐在の外交官の口を通じて、豪州が中国政府との関係を改善するためには、14分野の中国の不満を解消しなければならないと警告した」
豪州が、安保面で日本を頼りにしていることは確かだ。中国の圧力を強く受けており、意地でもこれをはね返すという強い意志が滲み出ている。
(2)「この中で中国側は、豪州が取るべき措置として、「反中国」的な研究への資金援助の停止、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生源に関する世界保健機関(WHO)のより徹底した調査を求めるような挑発的行動の抑制、中国による豪州への戦略的投資に反対する動きの停止、民間メディアによる中国関連の「非友好的」ニュース報道の阻止などを挙げた」
中国は昨年11月、豪州が14分野で中国の不満を解消しなければならないと警告した。戦狼外交の典型例である。主権国である豪州が受入れるところでなく、今回のAUKUS結成が豪州の回答である。やぶ蛇となった。
(3)「中国の海軍力強化の規模とスピードを目にした豪州の国防計画担当者らは、国防戦略の見直しを強いられた。この見直しで犠牲になったのが、フランスとの戦略的パートナーシップへの信頼感だ。豪仏間の協力の基盤となっていたのが、先にキャンセルされた潜水艦開発計画だった。とどまるところを知らない中国の台頭を受けて豪州は、自国が必要とする抑止力、防衛力を保証できるのは、米国との関係緊密化だけだと結論付けた」
豪州が、フランスとのあいだで結んだ潜水艦開発は頓挫していた。これに嫌気した豪州が、米英という馬に乗り換えたもの。フランスの怒りは、「共通の敵」に向かい合うため、いずれ氷解するであろう。
(4)「モリソン政権は中国政府に歯止めをかける方法を模索する中、斬新なアプローチを思いついた。インド太平洋地域には、北大西洋条約機構(NATO)のような、正式な安全保障協定を求める声がほとんどない。だが、豪州は、米国の外交官リチャード・ハース氏が「posse(民警団)」と呼んだことで知られる、緩やかな有志連合ではなく、より強固で耐久性のあるものを求めていた。豪州は、英米のパートナーを説得し、情報共有のパートナーシップであるファイブアイズ(米国、英国、カナダ、豪州とニュージーランド)が第2次世界大戦以降何十年をかけて築いてきた深い信頼を利用して、posseとは違う新しいものを創設しようと考えた」
豪州は、中国の強い圧力を受けて、「緩やかな有志連合でなく、より強固で耐久性のあるものを求めた」のである。中国も豪州を怒らせる愚かなことをしたものだ。
(5)「9.11以後のテロに関する情報共有から最近の中国をめぐる協力の間に、ファイブアイズの関係はかつてないほど強固になった。豪州はこのパートナーシップを情報分野から研究および防衛計画を含めるまでに拡大しても良いのではないかと考えた。こうした協力のモデルは既に存在していた。米国は核を推進力とする機密技術を英国の潜水艦計画と共有していた。豪州はこの計画に加わり、量子コンピューターから人工知能(AI)、電子戦争、ミサイル、サイバーに至るまでの分野で3カ国が一層協力することを提案すれば、軍事および外交的な利益とともに、経済的利益がもたらされる可能性があると考えた」
豪州は、自動車産業もないほど製造業で弱体だ。それだけにAUKUS戦略で最先端技術を手に入れられれば「願ったり叶ったり」である。豪州が、これ以上のパートナーを得るのは難しいであろう。このAUKUSに、日本が欠けていては「絵」にならないのだ。
(6日)「インド太平洋諸国は多くの欧州諸国に比べ、主権の共有や、規則中心で官僚的な機構を構築することへの関心が薄い。東南アジア諸国連合(ASEAN)は欧州連合(EU)よりも緩く、日米豪印で構成されるクアッドは北大西洋条約機構(NATO)よりも緩い。中国の行為が、近隣諸国・地域を米国との一層緊密なパートナーシップに向かわせ続けるならば、日本や台湾が、よりAUKUSに近い取り決め、そしておそらくはAUKUSそのものに加わる可能性がある。日本、インド、台湾、AUKUS参加国を含む諸国が技術を共有し、防衛政策で協調するブロックとなれば、強大な力となるだろう」
AUKUSには、日本と台湾が加わって強固な軍事同盟を結成する可能性を示唆している。日本には憲法上の制約がある。ただ、将来の憲法改正で自衛隊が明記されれば、軍事同盟に参加する道も開かれるであろう。
韓国は、このAUKUS拡大構想に入っていないのだ。韓国のような「宙ぶらりん国」は、中国への情報漏洩リスクを抱えて危険なのであろう。