勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: NATO

    テイカカズラ
       

    中国は、中ロ枢軸を形成して欧米へ対抗する姿勢を見せたことから、NATO(北大西洋条約機構)が「体制上の挑戦国」と位置づけ、世界包囲網形成へ着手した。中国にとっては、経済的にも取引範囲を狭められることから、失うものの余りにも大きいことに愕然としているはずだ。

     

    主要7カ国(G7)首脳が、中国に対しロシアへの影響力を活用しロシアによるウクライナ侵攻を阻止するよう要請したことに対して、挑戦的な姿勢を取った。中国外務省の趙立堅報道官は、29日の定例会見で「G7は世界の人口の10%を占めるに過ぎず、世界を代表する権利も、自分たちの価値や基準を世界に適用すべきと考える権利もない」と述べたのだ。こういう傲慢な姿勢が、中国をジリジリと追い込んで行くだろう。

     


    『日本経済新聞 電子版』(6月29日付)は、「NATO『中国は体制上の挑戦』、戦略概念で初言及」と題する記事を掲載した。

     

    北大西洋条約機構(NATO)は29日、今後10年の指針となる新たな「戦略概念」を採択するとともに、首脳宣言を発表した。NATOの戦略概念として初めて中国に言及。中国が「体制上の挑戦」を突きつけていると明記した。

     

    (1)「2010年に採択した戦略概念はロシアとの関係を「戦略的パートナーシップ」と呼ぶ一方、中国には触れていなかった。新しい戦略概念はロシアを「最も重要で直接の脅威」と定義。ウクライナに侵攻し、NATOと対立を深める現状を反映した。中国について、核兵器の開発に加え偽情報を拡散したり、重要インフラ取得やサプライチェーン(供給網)を支配したりしようとしていると分析。宇宙やサイバー、北極海など海洋で、軍事的経済的な影響力を強めていると主張した。中ロが、ルールに基づく秩序を破壊しようとしていることは「我々の価値と利益に反している」と強調した」

     

    中国が、NATOから警戒される存在になった背景に、ロシアのウクライナ侵攻へ精神的な支援を送っていることがある。侵略行為を是認する中国は、自らも侵攻するであろうと疑われたのだ。

     


    中国海軍が北極海にまで出没する事態に、欧州各国も神経を尖らせている。さらに、一帯一路による途上国への債務漬けによって、担保として港を取り上げるなど大胆な振る舞いを始めている。これは、「第二のロシア」として領土拡張に動く前哨戦と見られたのだ。NATOは、中ロ枢軸として一括して警戒対象に加えた。

     

    中国が、受ける経済的打撃は極めて大きい。米中関係が悪化しているだけに、欧州とは良好な関係維持を願ってきた。その最後の望みを絶たれたのだ。中国は、技術的にもEUに大きく依存してきた。EU関係の悪化は打撃である。日本とはすでに溝が深まっている。中国は今後ますます、ロシアとの関係を深めて袋小路に嵌り込むのだろう。

     

    中国は歴史上、一度も覇権を求めたことがないと主張している。現実には、南シナ海の他国所有の島嶼を占領して軍事基地をつくっており、言行不一致の面が多多あるのだ。最近は、空母3隻態勢にして、「侵攻作戦」への準備に余念がない。先進国で、中国の発言に信頼を置く国はあるだろうか。

     


    (2)「ストルテンベルグ事務総長は記者会見で、「中国の威圧的な政策は、我々の利益、安全、価値に挑んでいる」と戦略概念と同様の表現で訴えた。中ロの位置づけを大きく変えたことで、米欧の軍事同盟であるNATOは歴史的な転換点を迎えた。首脳会議には、日本などアジア太平洋の4カ国を招いた。戦略概念はインド太平洋地域の情勢が「欧州・大西洋に直接影響することを考えると、同地域は重要だ」として、対話と協力を深める方針を明記した」

     

    中国が、空母3隻態勢にしたことも警戒感を深めている、戦術的には、潜水艦とミサイルの好餌とされているが、軍事的弱小国には脅威であろう。中国は、余りにも無神経である。国内対策で軍事力を強化して「強い中国」を演出している。それが、対外的には危険な存在に映ってきたのだ。現実は「張り子の虎」だが、NATOは本物の虎と見たのだ。自業自得と言うべきだ。

     

    テイカカズラ
       

    6月29~30日スペイン・マドリードで開かれるNATO首脳会議は、中国の軍事的脅威を論議し対応方案を初めて盛り込んだ「新たな戦略概念」が採択される予定である。岸田首相は、G7サミットへ後にNATO首脳会談へ招待されているので、出席すると見られる。

     

    自民党の茂木敏充幹事長は6月5日、6月下旬にスペインで開く北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に岸田文雄首相が参加する可能性が高いとの見方を示した。松山市での街頭演説で語った。「首相は今月後半にG7サミットでドイツに行く。おそらくその後、日本の首相として初めてNATO首脳会議に出席する」と述べた。首相が実際に出席した場合について「揺れる国際社会の中で、日本の存在感はますます高まっていく」と強調した。『共同通信』(6月5日付)が伝えた。

     


    韓国紙『WOWKOREA』(6月3日付)は、「NATO『新たな戦略概念』の採択を予定 『中国脅威への対応方案』が盛り込まれる模様」と題する記事を掲載した。

     

    「NATO(北大西洋条約機構)は6月の首脳会議で、中国の脅威への対応方案を盛り込んだ ”新たな 戦略概念(Strategic Concept)”を採択する予定だ」と、米国防専門メディア『ディフェンス・ワン』が報道した。

     

    (1)「6月1日(現地時間)の報道によると、今月29~30日スペイン・マドリードで開かれるNATO首脳会議では、中国の軍事的脅威を論議し対応方案を初めて盛り込んだ「新たな戦略概念」が採択される予定である。「戦略概念」とはNATOの安保環境の評価と中長期の戦略を盛り込んだ文書で、最新バージョンは2010年に出されたものである」

     


    NATOが、10年に1度作成する次の「戦略概念」では、中国を新たな脅威に加えることになった。すでに一昨年あたりから、NATO内で中国脅威論が指摘されるようになっていた。昨年6月、NATO加盟30カ国の首脳会合が開かれた。去年のNATOサミット・コミュニケで異例だったのは、次のように中国の核兵器に言及したことだ。

     

    「中国は、核の三本柱(ICBM、SLBM、重爆撃機の三種類)を確立するために、より多くの弾頭とより多くの発達した運搬手段を備えた核兵器を急速に拡大している。その軍事的近代化と、公知となっている軍民融合戦略の実施に関して不透明である。…我々は中国の透明性の欠如と偽情報(を使ったサイバー攻撃)の頻用に懸念を抱いている」と表明した。こういう背景で、中国脅威論がNATOの「新たな戦略概念」に取り挙げられることになった。

     


    (2)「ジュリアン・スミスNATO駐在米国大使は、国防記者団の主催したイベントに出席し、新たな戦略概念について説明した。スミス大使は「新たな戦略概念には、次世代の懸案である中国の脅威に対する内容を初めて盛り込み、サイバー攻撃などハイブリッド戦争への対応方案も扱う予定だ」と語った。つづけて「戦略概念には、中国とロシアの協力関係とその関係が同盟国に及ぼす影響に対する評価も盛り込まれる」と伝えた。また「戦略概念は10年後を見通す長期計画であることから、中国に関する内容が盛り込まれることになるだろう」と説明した」

     

    今年2月の中ロ共同声明によって、中ロは「限りない友情」を誓い合っている。この中ロ枢軸が、NATO同盟国に及ぼす影響が議論される予定という。中国は、飛んで火に入る夏の虫である。NATOから公然と警戒相手国として烙印を押されるマイナスは大きい

     


    (3)「特に今回の首脳会議では、NATOの加盟国以外に日本・韓国・オーストラリア・ニュージーランドなどアジア・太平洋諸国も招請されている。スミス大使は「NATOにおいて、インド・太平洋地域の懸案に焦点を合わせた別途の委員会を設置方案は、現在論議されてはいない」としながらも「地域の友邦国たちを招請し共に論議することにより、中国とロシアのサイバー攻撃と虚偽情報の心理戦に対応するノウハウを共有することができるだろう」と推測した」

     

    今回のNATO首脳会談には、日本・韓国・オーストラリア・ニュージーランドなどが招待されている。今回だけでなくこれから毎年、出席できるように配慮すべきであろう。それが将来、前記4ヶ国のNATO加盟へ道を開くきっかけになる。

     


    (4)「アントニー・ブリンケン米国務長官は、「新たな戦略概念には、サイバー空間で行なわれる悪意的な攻撃行為と中国による急速な軍事化・中国とロシアの無制限的な癒着関係・規則に基づいた国際秩序を瓦解させようとする試みなどに対する内容を盛り込む予定だ」と語った」

     

    中国は、中ロ枢軸として警戒される対象になった。これがどれだけ、中国経済の発展にマイナスニなるか分らない。中国は、習氏の個人的な栄達目的(国家主席3期目)が、国家運命を狂わしているのだ。

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    ウクライナ侵攻を機に、国際情勢は急変している。「第三次世界大戦」という言葉まで登場しているのだ。中ロの親密化が、こうした懸念を深めることになった。

     

    フィンランドとスウェーデンが、北大西洋条約機構(NATO)加盟申請という歴史的な決断を生んだ。6月1日には、デンマークの国民投票で欧州連合(EU)の共通安全保障・防衛政策への参加を決めた。デンマークは、これまで欧州統合に批判的な姿勢を見せていた。今回の決定には、そのようなEU加盟国が考えを180度変えたことになる。

     


    こうして、欧州では「共同防衛」に向かった結束するという地殻変動が起こっている。アジアでも、中国が地域覇権を目指して空母3隻を配置して常時、戦闘態勢を取るという「異常な時代」へ向かう。日本は、NATOへの加盟を真剣に検討する段階に来ている。

     

    『日本経済新聞』(6月5日付)は、「首相、中ロにらみNATOに接近 首脳会議初出席へ調整 『台湾』意識、関与つなぐ」と題する記事を掲載した。

     

    岸田文雄首相は29~30日に北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席する調整に入った。それに先立ち、シンガポールで開くアジア安全保障会議で日本の安全保障政策について演説する。中国やロシアをにらみ、アジア各国の理解を得ながら米欧の軍事同盟との関係を強化する。

     

    (1)「6月26~28日にドイツで主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席した後、NATO首脳会議を開くスペインの首都マドリードに向かう日程を想定する。実現すれば日本の首相として初参加となる。ロシアによるウクライナ侵攻後、欧州でNATOの重みは増した。NATOはウクライナへの無制限の軍事支援を約束している。北欧のフィンランドやスウェーデンは5月に相次ぎNATO加盟を申請した」

     


    これまでも、G7サミットの後にNATO首脳会談が行なわれている。岸田首相が、G7に出席してNATO首脳会談を欠席するのは、説明がつかないことである。一日ぐらいの日程をスルーするのは、国際社会から笑い者になるだけだ。

     

    (2)「岸田首相は、NATO首脳会議で「いかなる地域でも力による一方的な現状変更は認めない」と強調する見通しだ。ロシアだけでなく、アジアでも中国が南・東シナ海などで覇権主義的な行動を強めている現状などを訴え、理解を促す狙いがある。日本がNATOに接近するのは台湾有事の可能性を意識したものだ」

     

    私は、これまで一貫して日本のNATO加盟論を唱えてきた。同盟という大きな傘に入れば、侵略されるリスクが減る。それこそ、「戦わずして勝つ」ことになるのだ。NATOもそれを望んでいる。地球規模で、権威主義国家から身を守る時代になった。

     


    (3)「東アジアやインド太平洋地域の安保体制は、米国をハブとして米国と同盟国との個別の連携を基盤とする。米欧のNATOと異なり、集団防衛の体制はない。日本としては台湾有事を見据えると、米欧の軍事同盟であるNATOのアジアへの関心をつなぎとめておく必要がある。日本はロシアのウクライナ侵攻後、NATOとの関係を強めてきた。首相は3月にブリュッセルで日本の首相として4年半ぶりにNATO事務総長と会った。4月には林芳正外相がNATO外相会合に、5月には自衛隊「制服組」トップの山崎幸二統合幕僚長がNATO参謀長会議に、それぞれ初めて出席した」

     

    アジアに幅広い軍事同盟をつくることは、中国との対立を浮き彫りにするというマイナス面がある。かえって、中国へ開戦のきっかけを与えるようなものだ。ならば、日本が先ずNATOへ加盟して、豪州やNZ(ニュージーランド)も加盟すればよいであろう。

     


    (4)「NATOは、北大西洋を挟んだ米欧30カ国でつくる軍事同盟だ。日本はG7で唯一の非加盟国にあたる。北大西洋条約は第5条で「締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす」と明記する。加盟国は自国領土への直接的な被害がなくても、他の加盟国が攻撃されれば共に反撃することになる。日本は、2015年成立の安保関連法で集団的自衛権の行使は容認されたものの、要件は厳格だ

     

    日本が、NATO参加となれば下線部のような法的に詰めなければならぬ点もあるはず。与野党で、議論すべき重要事項である。

     

    (5)「日本は、こうした法的制約からNATOに加盟しない。「パートナー国」との立場でサイバー防衛や海洋安保の分野を中心に連携してきた。14年に当時の安倍晋三首相がNATO本部で演説し、日本とNATOとの協力計画に署名した。日本は18年にNATOに政府代表部も開設している」

     

    日本とNATOの関わりを見ると、一歩ずつ距離を縮めてきたことが分る。NATOは、今年初めて「中国脅威論」を取り挙げることになっている。日本は、NATO「パートナー国」から加盟国へ昇格して、中国脅威を受ける当事国の立場を語らなければならない。

     


    (6)「首相のNATO首脳会議への出席を巡り、政府・与党内では賛否があった。参院選が6月22日公示―7月10日投開票になる見通しで、選挙期間が首相の訪欧日程と重なるためだ。首相の周辺には参院選に向けた選挙活動を重視すべきだとの声はあった。一方、ウクライナ侵攻で外交や安保への関心が高まり、選挙期間中の外国訪問は選挙に有利に働くとの判断もある。首相は与党との調整を踏まえ最終決定する」

     

    なんて、政府・与党内ではみみっちいことを心配しているのだろうか。岸田氏が、NATO首脳会談へ出席していると、参院選が不利になると懸念しているのだ。日本の運命が懸っている防衛問題で、首相が一日ぐらい日程をさくのは当然の義務である。

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    ウクライナは、ロシアの侵攻によって不利な情勢にもかかわらず踏ん張りを見せている。ウクライナ軍が、情報収集においてロシア軍より敏捷に動いている結果であろう。これを支える一つの柱は、NATO(北大西洋条約機構)6機による空からの情報収集結果が、ウクライナ軍へ即時に伝えられていることだ。ウクライナは、NATOへ未加入であるが、「客分」としての礼遇を十分に受けている。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月6日付)は、「上空からウクライナ周辺を監視するNATOの航空機」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ北西部にある遮蔽壕の奥深くで、欧州東部の空域図を映し出す大型スクリーンを前に北大西洋条約機構(NATO)の空軍要員十数人がコンピューターの周りをせわしなく行き交う。ロシア、ベラルーシ、ウクライナと接する東部地域の上空に、NATOの航空機を表す30個ほどの緑色の点が集まっている。戦闘機、偵察機、支援機が入り交じったその一群は、ロシアの侵略を抑止するための力を誇示すると同時に、ウクライナでの戦況に関して同国政府にフィードバックできる情報を収集している。「データは山のようにある」とNATOの防衛当局者は話した。「彼らは耳を澄まし、目を凝らしている」

     


    (1)「オランダ国境に近いドイツ・ウエーデムにあるNATOの統合航空作戦センターは、アルプス山脈以北の全ての航空作戦を調整している。平時はNATO域内への侵入を防ぐ空域監視が主な任務だが、約6週間前にロシアがウクライナに侵攻を開始してからは活動の規模と目的を拡大している。NATO加盟国によるウクライナへの武器供与と同じように、ポーランドとウクライナの国境周辺などの空域監視で得られる軍事情報は機密性が高い

     

    NATOは、ウクライナへ武器を供与している。当然、NATO機による軍事情報もウクライナへ伝えられていると見るべきだろう。

     


    (2)「NATOは、ウクライナ政府との機密情報共有の調整や促進には一切関与していないと強調する一方、加盟国が独自の判断でウクライナ軍の防衛に役立つ情報を流すことはありうるとしている。ウエーデムの作戦センターで司令官を務めるハロルド・ファン・ピー少将は、「情報をどのように扱うかは各国の判断による」と語った。「いくつかの国は恐らく、他の利害関係国と情報の一部を共有するだろう。そう言っておこう」と話す。米国の当局者は米政府がウクライナ政府と機密情報を共有していることを認めているが、ロシア側の標的を「リアルタイムで狙う」ことを可能にするデータは提供していないという」

     

    NATO機が得た情報は、NATO加盟国の個別意志でウクライナへ伝えられている模様だ。NATOとして意志決定しているものでない。要するに、建前と実際は別であるが、裏では繋がっている。

     


    (3)「NATOは米ボーイング製の空中警戒管制機(AWACS)「E3A」を十数機保有・運用しており、広範囲を監視できる「空の目」として知られる同機を常時6機ほど飛行させている。これはウクライナ紛争の勃発を受けて東欧の空域監視を強化し、毎日約100機を出動させているNATOの活動の一部分だ。活動には加盟各国が運用する戦闘機や有人・無人偵察機も参加している。ストルテンベルグNATO事務総長は、NATOはウクライナの状況を「非常に注意深く監視している」と述べ、「大量の情報をもたらす監視能力」があるとしている」

     

    NATOは、空中警戒管制機6機を常時、出動させている。ロシア軍のすべてが、空から覗かれているのだ。ロシア部隊の動きは、空から見れば一目瞭然である。

     


    (4)「ストルテンベルグ氏はブリュッセルで5日、「現在、ウクライナで起きているような危険な状況では、もちろん情報と可能な限りの状況把握が極めて重要だ」と記者団に語った。ウエーデムのファン・ピー司令官は「もちろん、我々は国境の向こうをのぞき込んでいる。向こう側で飛んでいるものを我々はリアルタイムで知りたい」と話した」

     

    空には「壁」がないから、NATO機はロシアの動きは逐一、把握可能である。ロシア軍が今週中に、ウクライナ東部を攻撃すると言われている裏には、こういう情報収集も寄与しているのであろう。

     

    (5)「NATOは空域監視の強化と同時に、ロシアの侵攻を受けて防衛態勢の見直しに動く中、東欧の加盟国への地上・海上戦力の配備も増強している。配置済みの部隊の規模拡大と新たな指揮系統を設ける決定により、東部地域でのNATO指揮下の兵力は4万人となり、ロシア、ウクライナと国境を接する加盟国及び黒海に面する加盟国の全てに戦闘群が配備される。加えて、空母打撃群が北海と東地中海に展開し、140隻以上の艦船が出動している。敵の航空機やミサイルを迎撃できる米国製の地対空ミサイル「パトリオット」もポーランド南部とスロバキアに配備された」

     

    NATOは、ウクライナ周辺の情報収集を特別任務で行なわずとも、NATO加盟国の安全保障任務の一環である。ロシア軍は、こうしてNATOから四六時中、監視される仕組みになっている。

     


    (6)「ウエーデムの作戦センターは巡航ミサイルの探知や追跡も担う。かつてNATOが使用していたウクライナ西部の軍事訓練場を攻撃したロシアのミサイルも探知していた。3月のこのミサイル攻撃は、NATOの東欧での空軍力強化による防衛と抑止、監視が並び立つものであることを実地で示したとウエーデムの当局者は話した。ミサイルが12キロメートルしか離れていない国境を越えてポーランドに飛んできていたら、撃ち落とせていたという。「向こう側を深く見ることができればできるほど、いつかこちらに来るかもしれないものに警戒を強められる」とファン・ピー司令官は話した」

     

    ウクライナ軍は、情報収集面でもNATOの全面的な支援を受けている。この事実は意外と知られていないが、ウクライナ軍の戦闘行為において大きな力を発揮しているに違いない。

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    ロシア軍は、ウクライナ首都のキエフ近郊からすべて撤退した模様だ。ウクライナ軍から受けた損害部分を修復するには、数週間が必要と予測されている。これが済み次第、ウクライナ東部・南部へ集中的な攻撃を開始すると予測されている。

     

    この貴重な時間である数週間に、NATO(北大西洋条約機構)加盟国は、強力な反撃可能な武器弾薬をウクライナへ供与すべく、急ピッチな動きが始まっている。軍事専門家は、この武器弾薬の補給によって、ウクライナ軍が守勢から反撃へ移るとの見方もしている。

     

    『日本経済新聞』(4月7日付)は、「米欧、ロシア再攻勢に先手 チェコはウクライナに戦車供与 ロシア軍、東・南部へ再配置」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、米欧は従来より攻撃能力の高い兵器の供与に踏み込む。首都キーウ(キエフ)攻略に失敗したロシア軍は、ウクライナ東部・南部を制圧するための戦力再配置を続けており、先手を打ってこれを阻止する狙いがある。

     

    (1)「英国防省は4月6日、南東部マリウポリで激しい戦闘や空爆が続き、人道状況が悪化していると指摘した。北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は6日、ブリュッセルの本部での外相理事会開幕前に記者団に「ウクライナへの支援をどう拡充するか話し合う」と述べた。加盟国が高度な兵器システムの供与を進めていると明らかにした。戦車などが念頭にある

     

    下線のように、従来から一歩進めた高度の兵器システムが供与されることになった。米国では、ウクライナ兵に最新武器の訓練も行なっている。米軍トップが、ウクライナ戦争が数年かかるかも知れないと見ていることから、最新兵器の供与に踏み切るのであろう。

     

    (2)「米欧はこれまで、ロシアの進軍を阻むための対戦車ミサイル「ジャベリン」や燃料・弾薬、ヘルメットや医薬品などの供与にとどめてきた。ロシアとの緊張が高まることを避けるための判断だったが、ウクライナ側は戦闘機などより攻撃的な兵器の供与も求めてきた。

    戦車供与は従来方針からの転換となる。ウクライナ軍の戦力増強に直結し「ウクライナ側の反転攻勢につながる可能性がある」(防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長)」

     

    NATO加盟国は、ウクライナ戦争がウクライナ国内に止まらず、NATO加盟国へ飛び火する危険性を感じている。それだけに、戦線拡大を何としても阻止したいと強い意志を固めている。その表れが、武器弾薬の供与だ。

     


    (3)「NATO加盟国の一部はすでに先行している。ロイター通信によるとチェコ国防当局は5日、旧ソ連製戦車T72や歩兵用戦闘車両をウクライナへ供与したことを認めた。ドイツも、旧東ドイツ政府がかつて管理し現在はチェコの企業が保有する歩兵用戦闘車両について、ウクライナへの引き渡しを承認した。ウクライナの兵器システムは旧ソ連製のものが多い。実戦投入に訓練が必要な最新鋭兵器より、扱いに慣れた旧ソ連製の方が即戦力となる利点がある」

     

    旧ソ連支配下にあった東欧諸国は、旧ソ連製武器を保有している。これを、ウクライナへ供与するもの。ウクライナも武器の使用に習熟しているので、即戦力になる。

     


    (4)「多くの兵器はポーランド国境で引き渡され、陸路で前線に輸送される見通しだ。ウクライナ西部の防空システムは一定程度機能しており、外国からの物資輸送拠点である西部リビウ周辺では5日もロシア軍のミサイルを迎撃した。米欧がウクライナの戦力増強を急ぐのは、ロシア軍が再び攻勢に出る展開が見込まれるためだ。ストルテンベルグ氏は5日の記者会見で「ロシア軍の再配置には数週間かかるだろう」と分析した。再配置完了後に大規模攻撃を仕掛ける可能性があるとの見方を示した。東部ドンバス地域全域を占領すると同時に、南東部の港湾都市マリウポリを攻略し、2014年に併合したクリミア半島とロシア領を結ぶ回廊を築く狙いがあるとNATOはみる」

     

    ロシア軍の再配置には、数週間が必要と観測されている。西側諸国は、この貴重な時間を有効に使い、ウクライナへ強力な武器弾薬の搬入を目指している。

     

    (5)「米国防総省高官は6日、記者団に対してロシア軍がキーウ周辺からの撤退を「完了した」との分析を示した。4日時点で3分の2が撤退を始めたと推計していた。ベラルーシやロシアに移って補給をしているという。今後はドンバス地域での戦闘に加わる可能性がある。軍事当局者は長期戦を視野に入れ始めた。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は5日、下院軍事委員会の公聴会でウクライナ紛争について「少なくとも数年単位になる」と述べた。14年に始まったウクライナ東部紛争では、停戦合意に至った後も散発的に戦闘が続いた。今後の停戦協議で合意が結ばれても「ずるずると戦闘状態が継続する可能性がある」(防衛研の兵頭氏)との指摘もある」

     

    米軍トップは、ウクライナ侵攻が長期戦になる危険性を計算に入れ始めた。これによって、米国がウクライナへ質的に高度の兵器を供与する可能性を示唆したものだろう。戦争の長期化は、決して好ましいことでない。対ロ経済制裁が効果を上げて、ロシア国内で停戦ムードの高まりを期待するほかない。

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