北大西洋条約機構(NATO)本部に駐在する約30カ国の加盟国大使は16日、茂木敏充外相と会談した。NATO本部の大使が30カ国規模で来日したことは、大きなニュースだが、日本では小さな扱いである。通常の二国間外交とは次元が違う動きなのだ。欧州の外交専門家の間では、「NATOが日本を“準パートナー”として扱い始めた象徴」と受け止められている。
『ロイター』(4月16日付)は、「NATO 大使らが茂木外相と会談、防衛産業などの連携強化を模索」と題する記事を掲載した。
茂木外相と会談し冒頭にあいさつしたノルウェーのネルガード大使は、NATO各国が防衛費増額に動いていることに触れ、防衛装備の生産と技術革新も強化していると説明。防衛産業などで日本と協力を深めていく考えを示した。
(1)「茂木外相は、中東とウクライナ情勢に言及した上で、「みなさんの訪日は日本とNATOの連携を強化する上で時宜を得たものだ」とし、「日本やインド太平洋を取り巻く厳しい安全環境についてさらに理解を深めてほしい」と話した。武器の主要供給国だった米国の生産能力が中東やウクライナ情勢でひっ迫する中、欧州諸国は近く武器輸出の規制緩和を決める日本の防衛産業をサプライチェーン(供給網)に組み込めないか関心を寄せている」
今回の訪日は、NATO本部の公式発表なしで、日本政府も簡潔な発表のみという極めて地味な扱いである。記者会見も短時間で終わった。日本の安全保障環境が、変わり始めた大きなサインである。NATOが、日本を「欧州外の重要パートナー」として扱い始めたという意味である。技術・防衛産業協力が、今回の訪日によって本格化させるであろう。欧州が、インド太平洋戦略に深く関与する糸口になるので、中国は強い警戒感を持っている。日本が、「欧州+米国」の二重の安全保障ネットに入ることは、戦後日本の安全保障構造で最大級の変化の一つである。
NATOは、30カ国大使の訪日目的についての表向きの説明は「意見交換」「協力強化」としている。実際には、次のようなNATOの戦略転換の一部と見られる。
1)日本を「インド太平洋のNATO拠点」として位置づけている。NATOは2022年以降、公式文書で「中国は体制的挑戦」と明記した。その後、日本、韓国、豪州、ニュージーランドを「アジアのパートナー」として扱い始めている。今回の30か国大使訪日は、「日本をその中心に据える」という意思表示と見られる。
2)日本と防衛産業・技術協力の本格化を目指す意図である。防衛産業の連携強化が訪日目的の議題とされている。NATO側の狙いは明確で、日本の精密技術、半導体、センサー、ミサイル防衛、宇宙・サイバーをNATO規格に組み込むことである。これは、日本技術を「西側標準」にする動きであり、中国・ロシアを平和的に圏外へ押し出す効果を狙っている。
3)インド太平洋の安全保障で「欧州の存在感」を確保する。欧州は、中国の海洋進出、台湾海峡の緊張、中東の不安定化を「自分たちの問題」と認識し始めている。そのため、
日本を窓口にしてインド太平洋へ関与を深めるという戦略的目的を立てている。
4)中国への静かな牽制を行う。NATOは、今回も中国を刺激しすぎないよう、公式発表を控えめにしている。しかし、30ヶ国大使が一斉に来日すること自体が強烈なメッセージとなっている。
今回の訪日が、「日本の安全保障の中長期的変化」をもたらすであろう。30ヶ国大使の訪日は、単なる外交イベントではなく、戦後日本の安全保障構造が「二層化」する転換点と読むべきであろう。
1)日本は「米国+NATO」の二重の安全保障ネットに入ることだ。これまで、日本の安全保障は米国単独に依存してきた。今回の動きは、欧州も日本の安全保障に関与するという構造変化を意味するであろう。日本は、「米国だけに頼らない」安全保障環境を得るということだ。
2)日本の技術が「西側標準」の中核になる。NATOが、日本の防衛産業に注目しているのは、日本の技術が半導体、センサー、材料、精密機械、宇宙・サイバーで不可欠であるからだ。これが進むと、日本技術=西側標準という構図が固まる。
3)日本は「欧州のインド太平洋戦略の中心」になる。欧州は、台湾海峡、南シナ海、東シナ海を自国の安全保障と結びつけ始めている。その際、日本が「欧州の足場」になる。これは、日本の外交的影響力が大きく増すことを意味する。
4)日本の防衛産業が、国際市場に組み込まれる。NATO規格に日本の技術が入れば、共同開発、共同生産、共同調達が可能になる。これは、日本の防衛産業が「国内市場依存」から脱却し、国際市場の一部として成長するようになる。
5)日本の安全保障政策が、静かに欧州化する。欧州は、多国間協力、技術標準化、共同調達を重視する。日本がNATOと深く関わるほど、日本の安全保障政策も欧州型に近づく。一方、日本は日米安全保障条約の米同盟国である。NATOと米国との中間に立って調整する場面も出てくるであろう。今回のNATO30ヶ国大使の訪日は、以上のような大きな転換点の出発点になりうる。それほど、大きな歴史的なイベントだ。



