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2月1日、ミャンマーで軍事クーデターが起こった。軍部が、10年ぶりに政権を握ったもの。民間の抗議活動が盛んになっている。国民から強い信頼を受けている僧侶が、ついに英語のプラカードを掲げて「軍事政権ストップ」を訴えている。

 

僧侶の抗議デモ参加で、国民の怒りがさらに拡大する気配である。同時に、市民の間では、クーデターの裏に中国が絡んでいるとの噂が根強く流れている。事実、国軍総司令官としての任期切れが迫っていたミン・アウン・フライン氏は、頻繁に中国を訪問して中国高官との関係を築き維持してきた。

 

このためミャンマー国軍が、中国に事前通告せず、クーデターを起こしたはずがないと多くの専門家は見るという。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は、わずか数週間前の1月にミャンマーを訪問し、ミン・アウン・フライン氏、スー・チー氏とそれぞれ会談しているのだ。こうして、中国「黒幕説」がミャンマー市民の間では根強い。

 


『フィナンシャル・タイムズ』(2月17日付)は、「
ミャンマー抗議デモ、中国にも批判の矛先」と題する記事を掲載した。

 

ミャンマーの軍事クーデターに全土で抗議する「市民不服従運動」の参加者が、中国に怒りの矛先を向けている。ミャンマーの国軍幹部が、アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる政権を転覆させるのを支援したと主張している。抗議活動の参加者は、中国政府を非難する文言や、習近平(シー・ジンピン)国家主席が国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官の人形を糸で操るイラストが入ったプラカードを手に、最大都市ヤンゴンにある中国大使館前にこの1週間ほど集結している。

 

(1)「ここ数日は中国製品の不買を呼びかけるオンライン活動が広がっている。一部では、中国雲南省とミャンマー西部のチャオピュー港を結ぶ基幹インフラである天然ガスパイプラインを攻撃すべきだと求める声が上がっている。国軍は3夜連続で夜間のインターネット接続を遮断するよう通信事業者に命じている。これを受け、軍は中国の助けを借りてネット検閲システムを設置しているとの観測が強まっている。「中国よ、ミャンマーにインターネットを遮断するファイアウオールを作るな」。大使館前の最近のデモで参加者が掲げていたプラカードの1つにはこう書かれていた」

 

中国黒幕説が、ミャンマー市民の間で浸透すると、中国への反感は一層強まることになろう。中国大使館前が、抗議活動の拠点になっている。

 

(2)「クーデターの発生以来、中国当局は曖昧かつ時に矛盾したシグナルを発している。しかし、クーデターの失敗を願ってミャンマーの街頭やソーシャルメディアで活動する若者たちは、中国が関与していると決めてかかっている。米シンクタンク、スティムソン・センターでミャンマー・中国関係を専門とするユン・スン氏は、「中国が『ザ・レディー(スー・チー氏の愛称)』を見捨てたという理由から、中国人や中国の事業を攻撃するよう呼びかける反中のヘイトスピーチが横行している」と指摘する」

 

ミャンマー市民によるクーデターへの憎しみは、中国へ向けられている。反中のヘイトスピーチが横行しているほどだ。こういう黒い噂が高まること自体、中国にとってはマイナス材料である。周辺国では一層、中国を警戒することになろう。

 

(3)「反中感情が再び表面化したため、ミャンマー最大の貿易相手国である中国は、地政学的に重要な同盟国との関係で微妙な立場に立たされている。その上、1967年の反中国暴動をはじめ犠牲者を伴う人種間対立に苦しんできた国での抗議活動に、予断を許さない要素が加わった形だ。上海国際問題研究院の外交専門家、趙干城氏は、中国にとって喫緊の懸念は依然として、混乱が広がってミャンマーが一段と不安定になることだとみる。「中国は当然ながら、政治情勢が手に負えなくなることを最も心配している」という」

 

ミャンマーで反中感情がさらに高まれば、かつての反中国暴動の後遺症が浮かび上がってくる。中国は、ミャンマーを手なずけてきた思いかも知れないが、ミャンマー市民の怒りを全身で受け止めなければならない損な役回りになりかねない事態だ。

 


(4)「中国の雲南省昆明市を飛び立った一連の貨物機が、ミャンマーの空域制限下でヤンゴンに着陸した(航空機の航路追跡サイトで確認された)ことを受け、ミャンマーのソーシャルメディアは先週来、うわさ話であふれている。クーデターに反対する人々の間では、この貨物機で運ばれたのはインターネットを遮断するためのソフトウエア、あるいは中国人兵士だったなどと臆測が飛び交っている」

 

在ミャンマー中国商工会議所も広まるうわさを沈静化できず、「デマ」を拡散しないよう訴えたことで反クーデター派の批判を浴びた。貨物機の往来は通常の輸出入の一環で、海産物などの物資を運んだと説明している。クーデター発生前、ミャンマーは中国にとって、自国製品が消費される市場として、育ちつつあった。そして中国は、ミャンマー国軍と数十年に及ぶ武器取引の実績があるうえ、軍上層部とビジネス面でひそかにつながっている。こういうミャンマー国軍と中国との「黒いつながり」が浮き彫りになると、ミャンマー国民の怒りが沸騰するに違いない。

 

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