勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 豪州経済

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    中国は、豪州に対して酷い仕打ちをした。自ら発注した石炭輸入を、豪州との政治的対立を理由に陸揚げさせず、中国の港外に放置させたのである。昨年4月以降のことだ。ところが、昨年10月からこっそりと陸揚げ作業を始めさせたという。ただ、中国からは新たな発注がないので、中国の港に停泊する石炭船の陸揚げが済めば、石炭取引も終了となりそうだ。

     

    中国が、豪州産石炭を輸入した最後は2020年11月だった。豪政府が21年3月、新型コロナウイルスの発生源に関する独立調査を求めて以降、中国当局は豪州産石炭などの輸入を禁止した。中国の港では21年10月現在、豪州産コークス約500万トンと一般炭300万トンが理由もなく通関手続きで待たされた。これが、中国の経済制裁である。

     

    『大紀元』(1月28日付)は、「中国税関、一部の豪州産石炭に輸入許可 高官『経済脅迫は効かない』」と題する記事を掲載した。

     

    中国当局による非公式の豪州産石炭に対する禁輸措置は依然として解除されていないが、昨年第4四半期(10~12月期)において、中国の港で1年以上足止めされていた豪州産石炭約1200万トンの輸入が許可されたことが明らかになった。豪全国紙『オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー』(AFR)が27日、同国の石炭輸出業界関係者の話を引用して報じた。関係者によると、中国から新たな石炭の注文は入っていない。「中国当局の禁輸措置が完全に解除されたわけではないことを意味する」と関係者は示した

     

    (1)「昨年第4四半期において、中国当局が輸入を承認した豪州産石炭の量は毎月増加傾向にあった。市場調査会社Fengkuang Coal Logisticsは、中国税関当局のデータを引用し、昨年第4四半期に製鉄用コークス620万トンと発電用の一般炭550万トンの通関手続きが行われたとした。月別で見ると、10月は77.8万トン、11月に267万トン、12月には272万トンとなっている。昨年、中国の豪州産コークスの輸入量は、総輸入量の11.3%を占めた」

     

    豪州炭は、品質も良いことから各国から「引っ張りだこ」である。中国は、豪州炭の輸入禁止をしたことから、国際的な石炭価格の上昇に見舞われ、とんだ「貧乏くじ」を引く結果になった。中国は、感情に任せて行なった暴挙によって、自国の首を締めたのだ。豪州側にして見れば、手を叩いて笑ったはずだ。

     


    (2)「昨年、豪州政府が新型コロナの発生源をめぐって国際機関による独立調査の必要性を訴えた後、最大貿易相手国である中国は、報復措置として、豪州産の石炭やワイン、ロブスター、牛肉、乳製品などを輸入制限の対象に指定した。豪政府機関、オーストラリア貿易投資促進庁(Austrade)は、同国の農業や鉱業における貿易多様化戦略が功を奏し、中国当局の経済報復に対抗できたとの認識を示した。石炭価格の高騰や他国からの強い需要により、豪州産石炭の輸出量はこれまでの2倍以上に増えたという」

     

    中国は、石炭だけを輸入禁止にしたのではない。ワインなどにも制裁を科した。だが、中国に代わる輸出市場が開拓されて、豪州は無傷であった。中国に対して高笑いしたい心境だろう。豪州は、こうした中国の敵意を封じ込めるために昨年9月、「AUKUS」(米英豪)の軍事同盟を結び、新型攻撃型原潜8隻を建艦することになった。中国は、痛い「取りこぼし」となった。AUKUSによって今後、中国封じ込め作戦が展開されるのだ。

     


    (3)「ダン・ティーハン豪貿易相は27日、AFRに対し、「より多くの国が豪州に追随して中国に立ち向かおうとしている」と話し、「多くの証拠から(中国側の)経済的脅迫は全く効かないと示された」と指摘した。貿易相は、中国当局の石炭輸入禁止令は中国国内のエネルギー不足を招き、中国人の生活や企業の生産活動などに悪影響を与えたと非難した」

     

    中国は、豪州へ傲慢な態度を取って手痛いしっぺ返しをされることになった。自らの意思で輸入先を失うことは、代替輸入先を確保するまでに時間もかかり混乱するもの。中国が、この例に該当するのだ。

     

    一般的に、輸出市場を失うのと、輸入先から輸入禁止処分を受けるのでは、どちらが痛手か。輸出は、もともと競争力があるから海外へ進出できるという優位性を持っている。ところが、輸入先を失う(相手国の輸出禁止を含め)ケースは、輸入国にとっては一時的に大きな痛手を受ける。すぐに輸入代替先が見つからないためだ。ましてや、国産化は困難である。

     

    前記のような一般論に立てば、中国は豪州に比べてもともと「劣位の関係」にあったのだ。それを、「買い手」という錯覚で優位に立っていると誤解したのだ。中国は、この錯覚を豪州から突かれ、ものの見事に優位関係が逆転した。ゲームを見ているような可笑しさだ。中国は感情論に突き動かされて、合理的な判断ができなかったのである。


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    日豪両国は5日、インド太平洋で見せる中国軍の不穏な動きを抑制すべく、自衛隊と豪軍が互いの国で共同訓練をしやすくする「円滑化協定」に署名した。日本が同様の協定を結ぶのは日米地位協定に次ぐ2例目となる。

     

    日米地位協定とは、日米安全保障条約の目的達成のため、日本に駐留する米軍との円滑な行動を確保するために結ばれたもの。具体的には、米軍が日本の施設・区域の使用と、日本における米軍の地位について規定している。日米安全保障体制にとって極めて重要なものだ。

     

    こういう重要な日米地位協定に次ぐものが、日豪両国で結ばれたことは日豪間が一段と強いつながりを持つことを意味する。豪州は、対中国で強硬姿勢を取っている。豪国防相は台湾有事の際、米軍とともに戦うとまで発言している。中国にとって、今回の日豪「円滑化協定」は、戦狼外交がもたらしたブーメランというしかない。

     


    日米豪が、防衛面で強い連携を深めている一方、韓国は「蚊帳の外」である。中国との二股外交にうつつを抜かしている以上、日米豪の仲間には入れられないという判断であろう。機密情報が、中国へ漏れる懸念があるからだ。

     

    『大紀元』(1月5日付)は、「安定性が脅かされる中、防衛強化を加速する日本」と題する記事を掲載した。

     

    当局の発表や専門家の見解によると北朝鮮、中国、ロシアから継続的な軍事挑発に直面している日本は、追加歳出を盛り込んだ補正予算案を閣議決定し、「敵基地攻撃能力」も含めた選択肢を排除せず現実的に議論する姿勢を取るなど、防衛能力の強化に努力している。 

     

    (1)「追加歳出により、日本と地域周辺の安定性に対する脅威を阻止する機能が向上すると考えられている。 岸信夫防衛相は2021年12月7日の記者会見で、日本防衛省が「防衛力強化加速会議」を立ち上げてこれまでに会議を2回開催したと発表した。岸田文雄首相が発表した新たな国家安全保障戦略などの策定については、「厳しさを増す安保環境の中」では防衛力の強化が不可欠と説明している。

     

    日本は、中国と北朝鮮の軍拡に備えて防衛費を増加させなければならない。「安全保障のジレンマ」とは、こういう現象を指すものである。中国と北朝鮮は、墓穴を掘っていることに気付かないのだ。

     

    (2)「ジャパンタイムズ紙の報道では、2021年半ばに中国海警局船舶が尖閣諸島周辺の日本領海に毎日のように侵入している。AP通信によると、2021年10月には中国人民解放軍海軍とロシア海軍の艦艇併せて5隻が日本本土をほぼ一周して太平洋と東シナ海に向かった。2021年11月に入ってからは、中露の爆撃機数機が日本空域を編隊飛行したことで、航空自衛隊(JASDF)が戦闘機をスクランブル(緊急発進)するという事態が発生している。ジャパンタイムズ紙が伝えたところでは、日本ほぼ全土を射程に収める新型の核搭載型巡航ミサイルの実験を実施してからわずか数日後の2021年9月15日、北朝鮮はまたしても日本海に向けて弾道ミサイルを2発発射した」

     

    中国は、ロシア海軍を誘って日本列島を一周する威嚇行為を行なった。無益なことを行なっているのだ。今回、日豪が「円滑化協定」を結んで対抗措置を取らせた遠因になっている。

     


    (3)「IHSのJDW(ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー)の報道では、日本の当初の防衛費予算は過去最大の5兆3422億円(469億米ドル)であったが、日本防衛省が2021年11月下旬に2021年度補正予算案を発表し、これにさらに防衛費7738億円(約68億米ドル)の追加歳出が盛り込まれた。追加歳出は空自高射部隊の迎撃装備である新たなパトリオットミサイル分野の強化、P-1対潜哨戒機3機とC-2輸送機1機、99式空対空誘導弾(AAM-4)と04式空対空誘導弾(AAM-5B)、12式魚雷と18式魚雷、UH-2多用途ヘリコプター13機などの調達に支出やされる」 

     

    日本が、中国や北朝鮮の圧力に対抗するのは当然のこと。中国は、こうやって日本を「敵側」に追いやっているのだ。愚かな選択をしていることに気付かないのであろう。

     


    (4)「米国ランド研究所の上級国際/防衛研究者であるブルース・ベネット博士がFORUMに語った見解によると、今後も軍事力による威嚇を計画している中国政府と北朝鮮政府は、日本政府による防衛力増強に目を向けざるを得なくなる、としている。ベネット博士は、「中国が狙っているのは、それほど征服に労力をかけずに、単に影響力を行使するだけで世界の大部分を手中に収めることである」とし、「しかし日本は中国の影響力に対抗できるだけ十分な軍事力を備えている。中国人にとっては厄介な相手である」と説明している。 また、日本はミサイル攻撃にも同種の対抗手段で応酬できることから、これにより北朝鮮も阻止できる可能性があると付け加えている。同博士は、「増強された日本の軍事力を北朝鮮政府が賢明に捉えるならば、北朝鮮はミサイル実験を止めるはずである」と述べている」

     

    下線のように軍事専門家になるほど、日本の防衛力を高く評価している。中国軍は軍備だけ増やしているが、一度も戦争に勝った経験がない珍しい軍隊である。この中国軍が、百戦錬磨の米軍に率いられた同盟軍と対峙したとき、精神的な圧迫は極めて大きいはずだ。日清戦争では、戦場から逃亡した艦船も出たほどである。その二の舞いにならないだろうか。

     

    日本のメディアは、単純に中国と日米の戦力を比較して、中国優勢という誤った見方を流布している。日米には、同盟軍が存在するのだ。豪州・英国が支援する筈である。この同盟国の軍事力を無視した「戦術論」ではなく、外交を含む広範な「戦略論」に立つべきなのだ。そうなれば、結論は自ずと変わるに違いない。

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    中国は、米中デカップリングによって壁が作られつつある中で、TPP(環太平洋経済連携協定)への加盟実現に力を入れている。11月12日閉幕した、日米中や台湾など21カ国・地域でつくるアジア太平洋経済協力会議(APEC)は、TPP加盟国がすべて揃う場所でもある。中国と台湾は、TPP加盟を申請しており、双方が支持を訴える場となった。TPPへの新規加盟には、既存加盟国による全会一致の承認が必要である。それだけに、中台双方にとってTPP加盟に向けてアピールする好機となったもの。

     

    この席で、岸田首相はTPPについて「不公正な貿易慣行や経済的威圧とは相いれない21世紀型のルールを規定する協定だ」と強調した。TPPに加盟申請した中国について、やんわりと「拒否」回答を行なった形だ。中国は、不公正な貿易慣行や経済的威圧を行なう常習犯的な国家である。

     

    『大紀元』(11月24日付)は、「豪首相、経済的脅迫行なう国はCPTPP加盟条件満たさず 中国念頭に」と題する記事を掲載した。

     

    豪州スコット・モリソン首相は11月22日、首都キャンベラで行われた記者会見で、中国を念頭に、貿易相手国に対して経済的脅迫を行う国は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の加盟条件を満たしていないと強調した。

     

    (1)「モリソン首相は、CPTPPの加盟条件は非常に厳しい。新規申請国は(これらの条件を)満たす必要がある。他の貿易相手国を脅かしたという記録が残らないことが重要だ」と述べている。モリソン氏はまた、この問題に関して日本の岸田文雄首相と緊密に協力していると述べた。岸田首相は、12日に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議で、CPTPPは不公正な貿易慣行や経済的強制を容認しないと警告した」

     

    豪州は、9月に米英豪三ヶ国で「AUKUS」なる名称の軍事同盟を結んだ。米英からの技術導入によって最新型攻撃原潜8隻の建艦計画を発表している。中国からの経済制裁に対して、軍事対抗する狙いである。これだけ、険悪な関係になりながら、平静を装ってTPPへ加盟したいという中国の神経は理解を超えている。中国は、まず経済制裁を解くことが先決であろう。

     


    (2)「中国は、豪州にとって最大の貿易相手国である。昨年4月、政府がウイルスの発生源について独立調査を求めたことを受けて、中国政府は年間200億ドル(約1兆7000億円)以上に相当する豪州の輸出品に対する貿易報復を開始した。貿易制裁の対象となったのは、牛肉、大麦、石炭、綿花、銅、水産物、砂糖、木材、ワインなど、幅広い豪州製品である。制裁措置としては、豪州製品への高額な関税、輸入停止、通関遅延などがある」

     

    豪州と中国の間は、2016年から悪化傾向が見られた。特に、豪州政府が2020年4月、新型コロナの起源についての独立調査を求めたことで、中国が激しく反発し急速に対立の度を深めた。中国は、経済制裁によって豪州を意のままに動かそうとしたに違いない。だが、「AUKUS」結成によって、事態は全く異なる方向へ発展。もはや、両国の修復は不可能になった。中国の「戦狼外交」が招いた外交破綻である。豪州による、中国のTPP加盟阻止は、報復外交の一環であろう。

     

    (3)「CPTTPへの加入には、全加盟国の同意が必要である。中国政府がCPTTPへの加入申請を発表した2日後の9月18日、豪州のダン・ティーハン貿易相は、中国の加盟に反対する姿勢を明確にし、中国当局にその旨を伝えた」

     

    豪州は、すでに中国へTPP加盟反対を伝えてあるという。TPP加盟では、一ヶ国でも反対があれば実現不可能である。日本も反対意向であるから、中国のTPP加盟不可は決定的である。中国は、それでも粘っているのは、台湾加盟を阻止すべく各国へ根回しするのであろう。この中国の働きかけを、どこの国が受入れるか。それが、これから浮き彫りになってくる。興味の焦点は、そちらへ移るだろう。

     

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    豪州とASEAN(東南アジア諸国連合)は、10月下旬にパートナーシップ協定を結んでいたことが分かった。豪州は9月、米英と「AUKUS」の軍事同盟を結び、新型原潜導入計画を発表したが、ASEANの一部でこれを脅威とする見方もあった。これに対して、豪州が脅威にならないことを保証して了解が得られたもの。これによって、AUKUSが対中国を防衛目標にしていることを間接的に表明した。

     

    豪州がフランスと契約していたディーゼル潜水艦12隻の開発を撤回し、AUKUSによって米英と協力して原子力潜水艦8隻を配備することにした。専門家によれば、アジアの地政学的・軍事的な勢力バランスは、劇的な変化を示すものと見られている。中国が支配的であった状況が、大きく改善されるのだ。ASEANは、中国の軍事的圧力に直面してきただけに、AUKUSによってこの圧力を軽減できればプラスである。ASEANは、こういう点を理解したのであろう。

     

    『大紀元』(11月9日付)は、「東南アジア諸国がオーストラリアとの戦略的協定を発表」と題する記事を掲載した。

     

    2021年10月下旬にオーストラリアおよび東南アジア諸国連合(ASEAN)が、「包括的戦略パートナーシップ」を結ぶことに合意した。

     

    (1)「これは、オーストラリアがこの地域でより大きな役割を果たすことを目指していることを示すものである。 この条約は、戦略的な戦場となった急速に成長している地域におけるオーストラリアの外交と安全保障の結びつきをさらに強めることになる。 パートナーシップの具体的な戦略目標は、すぐに発表されなかったが、オーストラリアのスコット・モリソン首相は同国が「実質的な支援を行う」と約束した。

     

    豪州とASEANの「包括的戦略パートナーシップ」は、中国にとって痛手である。豪州が攻撃型原潜を保有することをASEANが納得したことを意味するからだ。これによって、アジアで軍事的緊張関係を生み出しているのは中国であることを証明した。

     


    (2)「オーストラリアのマリズ・ペイン外務大臣との共同声明で、モリソン首相は「このマイルストーンは、インド太平洋におけるASEANの中心的な役割に対するオーストラリアのコミットメントを強調し、将来のパートナーシップを位置づけている。オーストラリアは、ASEANを中心とした平和で安定した回復力に富み、繁栄した地域を支援しています」と述べている。ASEANの議長国を務めるブルネイは、この合意は「新たな関係の幕開け」であり、「有意義で実質的で互恵的で」あると述べている

     

    ASEAN議長国のブルネイは、豪州との「包括的戦略パートナーシップ」が実質的で互恵的と評価している。

     

    (3)「この発表の後、オーストラリアは東南アジアでの保健とエネルギーの安全保障、テロ対策、国際犯罪対策に関するプロジェクトや何百もの奨学金に約120億円相当(1億2000万米ドル)を投資すると発表した。オーストラリアはすでにインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムなどと様々なレベルの二国間戦略的パートナーシップを結んでいる。モリソン首相はまた、2021年9月にオーストラリアが原子力潜水艦を購入することを可能にしたオーストラリアおよび英国と米国間の三国間安全保障協定は同地域の脅威とならないことをASEANに保証した」

     

    AUKUSは、ASEANにとって脅威でないことを保証した意味は大きい。これは、間接的にAUKUSの受入れを認めたからだ。中国にとっては、AUKUS反対の根拠を失う形となり敗北である。これが、「包括的戦略パートナーシップ」をすぐに発表しなかった理由であろう。

     


    (4)「AUKUSと呼ばれる新しい条約は、中国が東南アジア、特に南シナ海における影響力に挑戦する動きであると見なす懸念を東南アジアで提起している。国際法廷によって違法と判断されているが、中国がいまだに主張する南シナ海の大部分を含む領有権を確立するために海上艦隊を展開しているため、米国を含むインド太平洋の同盟国や提携国はパトロールを増やしている。モリソン首相は、「AUKUSは地域の安定と安全を支援するパートナーシップのネットワークに貢献します」と述べている」

     

    下線部は重要である。AUKUSが、ASEAN地域の安定と安全を支援するとしている。中国が、南シナ海を法的な根拠もなく占領している無法状態は是正の方向に向かう、というASEANの期待感が滲んでいる。 

     

     

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    米英豪は9月に、軍事同盟「AUKUS」を結んだ。三国同盟である。歴史上、三国同盟と言えば次の例が思い出される。いずれも「きな臭い」ものである。

     

    1)ドイツ・オーストリア・イタリア三国間に結ばれた秘密軍事同盟(1882年成立)。フランスへ対抗するためであった。イタリアは1915年、第一次世界大戦中にイギリスやフランスへ接近して破棄。

    2)日本・ドイツ・イタリア三国間に結ばれた軍事同盟(1946年成立)。第二次世界大戦への引き金になった。

     

    これら二例は、いずれも世界情勢が緊迫化している中で結ばれた。今回のAUKUSはどうであったか。米英豪の仮想敵国が中国であることは明白である。ただ、先に挙げた二例は侵略目的である。AUKUSは、防衛という全く逆の目的である点に注意しなければならない。中国の台湾侵攻を諦めさせるには、AUKUSという世界最強の潜水艦部隊をもって対抗することを予告したのである。

     


    『中央日報』(11月4日付)は、「米国を助けてこそ紛争が減って安全になると判断したオーストラリア」と題するコラムを掲載した。筆者は、イ・ベクスン国防大学招聘教授、元オーストラリア大使である。

     

    米国・英国・オーストラリアの3国首脳は今年9月にオンライン首脳会議を開催し、会議末に3国軍事同盟である「オーカス(AUKUS)」を発足させると発表した。

     

    (1)「オーカス同盟がどの国を狙っているかは問うまでもない。オーストラリアがなぜこのような電撃的な行動に出たのかを知るために時計の針を少し戻して見てみる必要がある。オーストラリアと中国の葛藤は最近になってさらに激化しているが、その前兆は2017年末オーストラリアが「外国干渉禁止法」を立法するころから始まった。この法はオーストラリアで中国の影響力がこれ以上大きくなることを遮断するのが目的だった」

     

    中国は、豪州へスパイなどを送り込み政治的影響力を高める露骨な動きが露見した。

     


    (2)「最近、数年間の中国の動向を見守っていたオーストラリアは、戦略的決断を下したとみられる。中国の進む先が、自由民主国家であるオーストラリアのアイデンティティとあまりにもかけ離れているため、2014年に締結した中国との戦略的協力パートナー関係をこれ以上維持することはできないという結論に達した。中国と距離を置くといっても衰退しつつある米国とはどのような関係を結ぶかという質問は依然として残る」

     

    豪州は、安全保障で中国と距離を置く決意をしたが、米国へ全面依存することが現実的かを検討した。

     

    (3)「戦略的な熟考の末、オーストラリアは衰退する米国一国で同盟国の安全保障を守っていくのは難しいと考えた。それならばということで、米国を助けて共に国際秩序を維持することが自国に有利だという判断を下したとみられる。米中の覇権競争が激しさを増す中で米国を助ければオーストラリアが米中紛争に巻き込まれるリスクが高まる点もよく認識している。しかし結局、米国一国で中国から守ってもらうように任せるよりは、同盟国が米国を助けるときに紛争の発生する確率が減少して自国の国益に符合するという結論に達した

    このパラグラフは重要である。豪州は、米国一国に安全保障を依存するより、豪州自らも米国の同盟国として対等の立場で協力して戦うことを選んだ。

     


    (4)「変化する中国を見て、オーストラリアは米国を助ければ中国から報復される可能性も予想していた。だが、中国の経済報復もオーストラリアの主権を守って同盟を維持するための費用とみなすことに対して、オーストラリア内部では論争がほぼない。オーストラリアは、同盟関係に「タダ乗りはない」という事実をよく知っているため、同盟に伴う費用も覚悟している。それが、同盟から放棄されるよりはましだと判断しているためだ。オーストラリアは「同盟の放棄」と「同盟の関与」の危険性の間で戦略的計算を綿密に行ったとみられる」

     

    同盟に、「タダ乗りはない」。そうであれば、同盟に伴うコストを覚悟して、同盟国として共に戦う決意を示す。こうすれば、同盟から捨てられるという「同盟の放棄」はない。「同盟の関与」によって同盟を共に担保することだ。豪州は、こういう決断を下した。

     

    (5)「オーストラリアは、このような国際秩序を維持していく努力を一人でするより、他の中堅国と連携するほうが望ましいと考えた。そのため力を合わせる対象国として、日本・インド・韓国・インドネシア4カ国を2017年外交白書に摘示した。その後、韓国との協力が期待に沿えなかったためかオーストラリアはベトナムを戦略的協力対象国に追加して関係を強化している。オーストラリアとベトナムは2013年習近平国家主席就任以降、中国が攻勢的対外政策を展開すると警戒心を高めて、中国からもたらされる危険を減らすために「カウンターバランシング(釣り合いを取る)政策」で対応している」

     

    韓国は、豪州の呼びかけ(「同盟の関与」)に応じなかった。中国への「二股外交」が邪魔している。現在は、日本、インド、インドネシア、ベトナムの4ヶ国が豪州と連携を強化した。すでに、日本、インドとは、「クアッド」関係国として深い協力関係を結んでいる。



    (6)「オーストラリアは最近、米英とオーカス同盟を締結することによって中国にさらなる一撃を加えた。第2次世界大戦以降、米国中心主義の時代に米国は「ハブ・アンド・スポーク体制」という二国間同盟を構築してきたが、オーカス同盟は過去にはあまり見られなかった3国同盟体制なので目を引く。外交史を振り返ってみると3国同盟が登場する時点には国際情勢が不安で戦争の影がちらついていたことから、そのような側面で懸念が先立つ。そしてこの同盟に参加した3国はすべてアングロサクソン国家であり海洋国家だ。アイデンティティがほぼ同じ3カ国が一つになるということは本当に信頼性のある国だけで手を握る流れが優勢なことを予告する」

    「AUKUS」は、アングロサクソン国家として中国の侵攻作戦を食止める決意を表明した。三国同盟は、開戦でなく戦争抑止という新たな役割を担っている。韓国は、中国の本音部分を嗅ぎ取り、開戦抑止へ向けて取り組むべきである。中国の鼻息をうかがう惨めな姿から脱却することだ。


     

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