勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: クアッド(日米豪印)

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    中国包囲網が、ジリジリと狭まってきた感じである。「クアッド」(日米豪印)は、中国の海上における不法行為を取り締るべく、リアルタイムで中国船舶の動向を把握して、即刻対応するシステムを構築することになった。

     

    これまでの中国は、他国領有の島嶼を奪い取る手法として、漁民を装った部隊を上陸させ、後から正規の中国軍が「漁民保護」名目で上陸する巧妙な手法をとってきた。こういう不法行為を断ち切るには、海上での24時間監視システムが必要である。南シナ海で、中国と領有権を争うベトナムやフィリピンなどとの連携を想定したものだ。

     


    韓国紙『東亞日報』(5月25日付)は、「クアッド、インド太平洋の船舶をリアルタイムで追跡監視へ 海上の中国包囲網を構築」と題する記事を掲載した。

     

    米国主導のインド太平洋安全保障協力枠組み「クアッド(Quad)」が24日、東京で行われた首脳会議で、中国の海上活動に対するリアルタイムの監視システムを導入することにしたことは、中国の海上覇権の追求を遮断するという明白な信号とみられる。

     

    (1)「台湾海峡と尖閣諸島(中国名・釣魚島)がある東シナ海、中国と東南アジア諸国が領有権で争う南シナ海や太平洋など、中国周辺の海で包囲網を構築するということだ。特に、中国が海上領有権紛争地域に、事実上の準海軍部隊である海上民兵隊を派遣する「グレー戦術」を展開しており、クアッドはこれらの活動を阻止する計画だ」

     

    中国は、漁民を準軍事組織に組入れている。他国所有の島嶼奪取の先兵に利用しているのだ。一見、漁船に見えるので安心していると、実際は武装した漁民である。昨年は、長期にわたりフィリピン所有の島嶼付近に何十艘もの漁船を停泊させて威圧した。フィリピン軍が、立ち去れば占拠する計画であったと思われる。

     


    (2)「クアッド首脳たちが合意した人工衛星基盤のリアルタイムの海洋追跡システムは、自動船舶識別装置(AIS)を消して移動する中国船舶の不法操業だけでなく、中国海軍の活動を支援する海上民兵隊の活動をリアルタイムで追跡し抑制する。南シナ海ではシンガポール、インド洋ではインド、南太平洋ではソロモン諸島とバヌアツに設置された拠点基地を通じて衛星基盤海洋追跡システムを構築すると、バイデン政権は明らかにした」

     

    下線のように、シンガポール、インド、ソロモン諸島、バヌアツに設置される拠点基地を通じて衛星基盤海洋追跡システムを構築する。海上における中国の不穏な動きを即時、キャッチするというもの。中国への海上包囲網である。

     

    (3)「中国の海上民兵隊だけでなく、中国軍艦の移動もリアルタイムの追跡と監視が可能になる見通しだ。青い制服を着て「リトル・ブルーマン」と呼ばれる海上民兵隊は、中国海軍の教育と支援を受ける準海軍部隊だ。中国は、南シナ海など領有権紛争地域に海上民兵隊を不法操業の船舶と共に投じ、他国の海域への進入を阻止する戦術を展開している。中国の黙認の下、東シナ海などで対北朝鮮制裁を違反し、洋上で違法に物資を積み替える「瀬取り」を行っている北朝鮮船舶に対する監視も一層強化されるものとみられる」

     

    海上を移動する中国の「物体」は、すべて監視対象になる。中国は、海の上だから発見されまいと高を括っていると、衛星からキャッチされることになる。北朝鮮による「瀬取り」も監視されて、現場を押さえられることになろう。

     


    (4)「バイデン大統領はクアッド首脳会議で、「世界が転換的な瞬間を迎えた」とし、「私たちは暗い時代を生きている」と述べた。また、「民主主義対権威主義の構図であるウクライナ戦争は欧州だけの問題ではなく世界の問題だ」と強調した。岸田文雄首相は、「インド太平洋で同じようなことを決して起こさせてはならない」と述べた」

     

    クアッドは、中国問題を民主主義対権威主義の構図として捉えている。中国は、中ロ首脳会談における共同発表「限りない友情」が、「中ロ枢軸」を裏づけるとして警戒感を強めているのだ。現に、中国は次々と勢力圏拡大に動いており、クアッドの警戒心を高めている。



    (5)「クアッドはまた、中国の華為技術(ファーウェイ)などが主導している第5世代(5G)移動通信装備の市場からの中国排除に向けた先端技術協力の強化にも合意した。インド太平洋経済枠組み(IPEF)発足に続き、クアッド首脳会議を通じて、中国に対する貿易・技術・海上安全保障など全方向の牽制体制を構築したのだ。クアッドは、核心技術のサプライチェーン(供給網)に対する共通原則を発表し、5G移動通信供給業者の多様化はもとより、中国が掌握した通信装備に依存しないよう無線接続網を開放型に変える「オープンRAN(Open Ran)」に向けて協力に乗り出す計画だ」

    中国は、ファーウェイの5Gを使って世界的に諜報活動を展開する予定であったが、米国を中心とする西側諸国によって事前に遮断された。なぜこのような、姑息な手段を用いて対抗しようとするのか。共産主義に名を借りた権威主義によって、一党独裁を世界に広める動機に基づくものだが、世界史の動きに逆行する「あがき」に見えるのである。共産党員だけが、栄耀栄華の生活を保障される共産主義に、未来永劫性を求めるのは、余りにも幼稚な動きに映るのである。

     

     

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    米国民は、かつてないほど中国への印象を悪化させた。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが3月4日公表した調査では、米国民の9割が中国についてライバルか敵だと回答した。また、米政府は中国の影響力を抑制すべきだとの答えが半分近くを占めたのである。

     

    今週公表のギャラップ調査では、中国に対して否定的な見解を持つ米国民の割合が79%に上り、調査を開始した1979年以来で最悪の水準となった。中国よりも悪かったのはイランと北朝鮮だけだった。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月5日付)が報じた。

     

    米国で中国への意識が悪化していることは、今後の対中国政策がより厳しくなることを示唆している。習近平氏が、さらなる人権弾圧や近隣国への侵略行為を行なえば、米国で一挙に「反中運動」に火が燃え移る危険性を示しているのだ。

     


    このような中国の「好戦性」をどのようにして食い止めるか。インド太平洋戦略を担う「クアッド」(日米豪印)は、互いに非軍事面での協力によって、中国の海洋進出を防げるというシンクタンク提案が出てきた。

     

    『大紀元』(3月5日付)は、米専門家、「『中共に包括的対抗案を』クアッド各国の強み統合を提言」と題する記事を掲載した。

     

    米シンクタンク、民主主義防衛財団(FDD)の専門家はこのほど、インド太平洋地域における中国当局の膨張主義に対抗するため、日米豪印の4カ国は各自の強みと役割を統合する必要があるとの見解を示した。

     


    (1)「同財団のシニアフェロー、クレオ・パスカル氏は、今月初めに開催された米保守政治行動会議(CPAC)で、大紀元英語版の取材を受けた。同氏は、中国当局はインド太平洋地域で挑発を繰り返していると批判した。パスカル氏は、昨年6月に中印両軍が国境地帯で衝突した後、インド政府は多くの方法で中国当局に対抗したと話した。「インド政府は、微信(ウィーチャット)やティックトック(TikTok)など、中国企業が開発した多くのアプリを禁止した。インドは、中国側が膨大な量のデータを吸い上げ、人工知能(AI)技術を改良して、軍事利用するとわかっているからだ」

     

    米中対立の長期化は、グローバル経済の終焉を意味する。安全保障において、グローバル経済が支障をもたらすという、これまでになかった事態が持ち上がってきた。今や、経済制裁は安全保障にとって不可欠な手段という「危険な時代」に移行している。これも、中国の好戦性がもたらした結果である。

     

    (2)「パスカル氏によると、インドがTikTokの利用を禁止した際、TikTokの運営会社であるバイトダンスの時価総額は60億ドル減少し、「中国当局に経済的な打撃を与えた」。トランプ前政権は、中国大手企業の多くは共産党政権の支配下にあると警告していた」

     

    インドが、中国への経済制裁として中国のTikTokの利用を禁止した。これが、中国へ経済的不利益を与え、軍事費の拡大阻止へなにがしかの貢献をしていると判断されている。

     

    (3)「オーストラリア政府は、世界各国の中で、中共ウイルス(新型コロナ)への中国当局の対応について独立調査の必要性を求めた最初の国である。「このため、オーストラリアは中国当局から激しい報復措置を受けた。しかし、オーストラリアは怯まなかった。さらにインド太平洋地域の他の国にも支援を続けている」とパスカル氏は述べた」

     

    豪州政府は、中国の報復に怯まない強い姿勢を見せ、日豪の軍事関係強化に努めている。モリス首相は、菅首相が就任直後に訪日して、日豪関係の強化を打ち合わせた。これは、中国への牽制であり、日米豪印が結束する姿勢の一端を見せた。

     

    (4)「パスカル氏は、日本の役割について「まず、エネルギー分野において、同地域の他の国に経済的協力を提供することだ。そして、中国の軍事的存在感を低下させるために、日本は太平洋の島国との友好関係をより強化する必要がある」と提案した。山上信吾・駐オーストラリア大使は2月末、豪紙『オーストラリアン』への寄稿で、北朝鮮の核問題で日豪両国が東シナ海で連携していることを強調した。また経済分野では、宇宙開発のほかに低排出エネルギー技術においても、両国の協力の機会は「無限大である」との見解を示した」

     

    シンガポールのシンクタンク「東南アジア研究所」のASEAN研究センター(ASC)が2月に発表した報告書によると、東南アジア諸国連合(ASEAN)のなかで、最も信頼できるパートナーは日本だと回答した国が多かった。米国に対する期待も上昇している。逆に、中国への期待は低下したのだ。中国からワクチン供与を受けながら、「軽蔑されている中国」の姿が垣間見える。

     


    ASEANにおける信頼度(2021年)

    日本 67.1%

    EU 51.0%

    米国 48.3%

    中国 15.6%

     

    日本の信頼度が抜群である。これは、ODA(政府開発援助)で相手国の立場に立つ低利・長期の融資が日本への信頼度を高める上で貢献している。また、いち早く日本企業が進出して、雇用増をもたらしたこともプラス要因だ。こういうバックグランドを生かし、日本の得意技である「水素エネルギー技術」(水素発電)を供与することも一案である。

     


    (5)「パスカル氏は、中国当局は総合的な国力で世界覇権を目指していると警告した。「そのため、中国当局に対抗するには、銃や軍艦、中国系アプリの禁止だけでは不十分だ。中国当局の資金が株式市場に流入するのをブロックし、各国の市場に進出するのも阻止すべきだ。対抗は包括的なものでなければならない」としてきする」。

     

    中国経済は、今やあちこちで欠陥を見せている。過去の無理した経済運営(不動産バブル利用)が限界に達したからだ。今後、その欠陥は一層大きくなる。中国のこうした脆弱性を突く戦略も必要である。「一帯一路」は、撤退するはずである。生産年齢人口の急減に伴う潜在成長率急低下は、「第二のソ連」に転落する危険性を内包している。

     

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