勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: 欧州経済

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    ロシアのウクライナ侵攻は、日本の安全保障問題に新たな視点を与えている。中国が、ロシアを支援したことにより、台湾が第二のウクライナ化する潜在的な危険性を告知しているからだ。ロシアと中国が一体化すれば、これまで欧州とアジアの安全保障が別領域と考えられてきた考えはご破算だ。欧州とアジアの安全保障は、同一視点で捉えられるべきであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月4日付)は、「頼れぬ米国、日本の覚悟は『ミドルパワー』が担う国際秩序」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の菅野幹雄編集委員である。

     

    2カ月半近いウクライナでの戦乱は、戦後にできた国際秩序の亀裂を決定づけ、安全保障に関する新たな現実を我々に突きつけた。日米欧の民主主義勢力と中国、ロシアなどの強権主義勢力は交わることなく、それぞれの道を歩み始めている。

     


    (1)「5月22日、バイデン米大統領が就任後で初めて来日する予定だ。ロシアの侵攻に対抗した制裁やウクライナ支援、インド太平洋で脅威を増す中国へのけん制など、強固な日米同盟を確認する場となるだろう。そのうえで留意すべき点がある。我々は米国にどこまで頼れるのかという根源的な問いだ。国際情勢の厳しさを考慮すれば、日米同盟の維持と強化の歩みを止めることは考えられない。だが同時に「頼れない米国」という時代の到来に賢く備えることも、日本が留意すべき点ではないか。トランプ前大統領が17年の就任後、米国と欧州の同盟関係を自ら壊した前例もある」

     

    世界の安保条件は大きく変わった。権威主義国の中ロが一体化して現行の世界秩序へ挑戦する姿勢をはっきりさせた。こうなった以上、米国という大黒柱を中心にするものの、「四天王」である日英独仏がしっかりとスクラムを組んで民主主義の価値を守ることが重要になってきた。

     


    (2)「中間選挙で動けなくなる米国、ゼロコロナ政策の難航や秋の共産党大会の準備に追われる中国の習近平(シー・ジンピン)指導部……。新興国もインフレ抑止に動く米連邦準備理事会(FRB)の金利引き上げの余波で、自国経済にストレスがかかる。ウクライナ危機は、国連など国際機関の限界もあぶり出した。厳しい環境のなかで追求すべき視点がある。「ミドルパワー」の結束だ。超大国には及ばないものの、日本やドイツ、フランスといった一定の経済力と外交力を持ち価値観や理念を共有する勢力だ。国際秩序の安定を担う数少ない存在といえるのではないか」

     

    日英独仏のいわゆる「ミドルパワー」が、米国を支えることで体制は安定したものになろう。今回のロシアによるウクライナ侵攻への対抗では、米英協力が見事である。今後、この息の合った米英コンビは、日独仏へも拡大して行くべきだ。将来、日本もNATO(北大西洋条約機構)へ加盟する準備をしておくべきだろう。これは、私の一貫した主張である。そうなれば、日本の安全保障は数段、高いレベルへ引き上げられる。

     


    (3)「前進を示す材料がある。4月24日のフランス大統領選挙の決選投票では現職マクロン氏が極右のマリーヌ・ルペン氏を下し、02年のシラク氏以来の再選を果たした。得票の差は5年前の同じ顔合わせに比べてほぼ半減した。フランス社会の分断は一段と深まっている。6月の議会選挙は地方レベルでのマクロン氏の信任投票となるだろう。それでもマクロン氏が勝利したことで世界情勢の風景は大幅に好転した。欧州連合(EU)を軸とした域内連携の強化の路線が維持され、日本と欧州の有力国が協力する下地ができた」

     

    英国の政治状況は、やや不安定さが見られるが、日独仏は、安定した政権が約束されている。こういう背景を利用して、新たな安保体制を築くことである。フランスも大統領決戦投票で、マクロン氏が超右派を破った。政治的には安定している。

     


    (4)「21年12月に就任したドイツのショルツ首相と岸田文雄首相は4月28日、東京で会談した。巨大な輸出市場の中国でなく日本を優先して訪れたことは、ドイツ外交の構造変化を示す。ショルツ氏はエネルギー調達でロシアへの依存度を急速に引き下げ、国内に慎重論が強かった重火器のウクライナへの支援も打ち出した。「質的に日独関係を新たなレベルに引き上げる」という同氏の発言は単なるリップサービスではないだろう」

     

    ドイツのショルツ政権は、反中ロ路線へと大きく舵を切っている。ウクライナ侵攻によって、過去の「親中ロ」は清算されたと見て良い。それほど、ロシアのウクライナ侵攻は衝撃であったのだ。

     


    (5)「日本はどうか。夏の参院選の結果は先取りできないものの、岸田内閣の支持率は60%台と比較的安定している。劇的な失点がない限りは、自民党を軸とする政権の優位は動きがたい。その後には、衆院議員の任期となる25年まで大きな国政選挙がない、いわゆる「黄金の3年間」が訪れる。選挙を経た日独仏の首脳がともに当面は安定した政権基盤を保つことは前向きな材料だ。気候変動や新型コロナなどの疫病対策、経済や通商のルール形成といった多国間による協議をけん引できるのは、ミドルパワーしかないのではないか」

     

    岸田政権は今夏の参院選で勝利を得られそうで、今後3年間、選挙なしの恵まれた条件にある。思い切った政策転換が可能な政治情勢が生まれる。

     

    (6)「機能不全がいわれる国連の改革、20カ国・地域(G20)の今後の運営などにも、もっと主体的に関わるべきだろう。ロシアのウクライナ侵攻が世界中に知らしめた戦闘行為の悲惨さを顧みれば、中長期的な戦争の抑止や核の不拡散についても、ミドルパワーが議論を主導する余地がある。今年と来年はそれぞれドイツと日本が主要7カ国(G7)議長国を務める。米国、中国、そしてロシアが内向きですくみ合うなか、ミドルパワーが支え役にならなければ、世界の秩序は糸の切れた凧(たこ)のように乱れてしまいかねない。その意味で岸田首相の国際的な責任は想像以上に重い」

     

    日英独仏のミドルパワーは、国連改革へ取り組むべきだ。中ロの「武闘派」をいかにして棚上げするか。こういう改革なしには,世界の平和を確立できない。経済制裁で、ロシアの武器生産が間もなく停滞する。そうなれば、新興国でロシア製武器を購入している国々の「中ロ感情」も変って来るであろう。そこが、狙い目であるのだ。

     

     

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    中国の「戦狼外交」は、確実に自国企業の対外直接投資を減少させている。「お行儀の悪い」中国企業の直接投資を受入れようとする国が減っているのだ。とりわけ、先進国での中国企業への警戒感が強い。スパイ行為を警戒しているのであろう。

     

    昨年のEU(欧州連合)と英国では、中国企業の直接投資が45%も減った。2016~19年までの累計では、すでに約30%の減少である。いかに中国企業が不人気であるかを示している。ちなみに、米国の2016~19年までの累計では約48%の減少である。欧米での業種別動向では、不動産、娯楽・観光、テクノロジーでの投資減少が目立っている。

     

    『大紀元』(6月21日付)は、「中国の対EU投資、10年ぶりの低水準 要因はパンデミックのみならず『政治関係の悪化』も―報告」と題する記事を掲載した。

     

    中国からEU27加盟国および英国への投資は、2020年に10年ぶりの低水準に落ち込んだ。専門家の分析によると、要因は 「政治的な関係の悪化 」で、今後も減少傾向が続くとみている。調査会社ロジウム・グループとドイツのシンクタンク「メルカトル中国研究所(MERICS)」の報告で明らかになった。

     

    (1)「両組織による共同報告書「Chinese FDI in Europe: 2020 Update(欧州における中国の海外直接投資、2020年更新版)」によると、中国から欧州への海外直接投(FDI)は、2019年の139億ドルから77億ドルに減少し、10年ぶりの低水準となった。新型ウイルスによる渡航規制や、中国国内の経済状況も要因だが、「パンデミックが唯一の原因ではない」と報告書は指摘する。投資の低下は、欧州諸国の人々にとって中国からEUに対する「報復的な制裁措置」は受け入れ難いとの拒否感が強まっていること、また、中国当局の海外投資規制や、EUのFDI審査の強化なども理由に並べた」

     

    EUが、中国への警戒姿勢を強めていることでFDIが減っている。背景は、政治的な理由である。

     

    (2)「EUは3月、ウイグルのイスラム教徒に対する人権侵害に関与したとみられる4人の中国政府関係者に制裁を科した。その数日後、中国共産党政権は英国側の9人の個人と4つの団体への報復制裁を発表した。また、紛争中の南シナ海や台湾をめぐるEUの関心の高まりも、西側諸国と中国の政治的緊張を高める要因となっている。報告書は、中国による対米投資が激減したのは「FDI審査ではなく、政治的な関係の悪化によるもの」と分析している。この前例から、中国による対EUや英国投資も同様に減少に傾くと見ている」

     

    中国とEUが昨年12月末、包括投資協定で7年越しの交渉が署名にまでこぎつけた。だが3月に、中国によるEU側への報復措置で批准に必要な欧州議会の審議が棚上げになった。署名から2年以内に批准されなければ「失効」する。中国にとっては、大きな代償を払わされている。

     


    (3)「ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は6月15日、EUと中国を隔てる主な問題は人権問題であり、中国はEUにとって「ライバル」であり、「経済的に強力な競争相手」だと述べた。報告によると、中国の対EU総投資額の50%以上はインフラ、ICT、電子装置が上位3分野を占める。

     

    ライエン欧州委員会委員長は、人権問題が対中国との争点であることを認めている。この問題が解決しない限り、包括的投資協定の批准手続きを進めないというニュアンスである。

     

    (4)「ライエン委員長によれば、EUは最先端技術を確保して国家安全保障上の脅威に取り組み、投資審査のプロセスを強化している。「機密分野の取引は審査され、ブロックされる可能性が高くなる」と語った。また、中国企業による買収やM&Aは、2016年以降、毎年減少している。2020年には13年ぶりの低水準に縮小し、同年までに完了した案件の総額でみれば、前年比45%減の約400億ドルとなったことがわかった」

     

    中国企業による買収やM&Aは2016年以降、毎年減少している。これによって、中国への技術移転件数が減るわけだ。EUが、最先端技術を守り国家安全保障上の脅威に取り組んでいる結果である。

     

    中国は、EUから閉出された。新技術導入で、大きな痛手は必至である。戦狼外交のもたらす高いコストを払わされているのだ。

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    EU(欧州連合)は、異分子排除で全力を挙げている。すでに中国は、人権問題でEUの標的にされている。これに加え、「脱炭素」を基準にするEU域外からの輸入品に対して、国境炭素税措置を科す。中国は、世界一の二酸化炭素排出国である。それだけに狙い撃ちしやすいのである。

     

    日本とEU(欧州連合)は5月27日の定期首脳協議で、気候変動対策の連携を深めるグリーン・アライアンス(同盟)の立ち上げに合意した。世界の脱炭素化を日欧で主導するという目的だ。日本とEUの二酸化炭素削減目標は、次のようなっている。

     

    EUは、2030年に55%減(1990年比)を掲げる目標設定である。日本も、昨秋にEU同様に50年の実質ゼロを表明した。今年4月には30年度に46%削減(2013年度比)すると発表。EUは「日本と政策目標が非常に似てきた」と歓迎している。

     

    日本とEUでは、最大の二炭化炭素排出国である中国に厳格な削減を促す「包囲網」を築く。EUは、その一環として脱炭素の「考え方が同じ」である民主主義国を中心に、「グリーン同盟」を結ぶ方針だ。第一号が日本となった。

     


    EUは、日本との合意をモデルにして米国などにも、「グリーン同盟」を拡大させる構想を抱いている。合意文書には、中国を念頭に「主要新興国に対し、野心的で具体的な短期、中長期の目標や政策策定を共同で働き掛ける」と明記した。

     

    中国を「グリーン同盟」に引入れようという狙いは、中国が2030年までCO2排出量増加を宣言しているためだ。

     

    中国が、それまでは経済成長優先策を貫くという意味である。これは、一人当たり名目GDPを2021~2035年までに先進中等国(約2万ドル)並みに引き上げる目標を立てている結果でもある。そのためには、目前にある「中所得国のワナ」を何としても乗り越えたいというのが願望だ。「中所得国のワナ」に陥れば、経済成長率が停滞して米国覇権への挑戦などはたんなる「寝言」になる。

     


    その意味で、今後の10年間が中国経済にとって最重要期になる。だからと言って、二酸化炭素の排出を増やし続けることは許されない。はっきりと、「ケジメ」を付けさせなければダメである。

     

    西側民主主義国が、中国の覇権挑戦に手を貸すほどお人好しであるはずがない。世界を騒がす危険因子である中国の野望は、一国も早く排除することが暗黙の合意だ。当然、2030年までのCO2排出量増加を認められるはずもない。

     

    『ロイター』(6月4日付)は、「EUの国境炭素税 鉄鋼・セメント・電力などが対象=素案」と題する記事を掲載した。

     

    EU欧州委員会は7月14日に「国境炭素税」について提案を行う。ロイターが入手した素案によると、域外から輸入する鉄鋼・セメント・電力などが課税対象となる。

     

    (1)「国境炭素税は、EUよりも環境規制が緩い国からの輸入品に事実上の関税を課して公平な競争を確保する狙いである。2026年から全面的に導入されるが、23年から「移行期間」を設ける可能性がある。素案は修正される場合もある。国境炭素税の対象となるのは鉄鋼・アルミニウム・セメント・肥料・電力など。輸入業者は「デジタル証明書」を購入する必要がある。証明書1枚が二酸化炭素(CO2)排出量1トンに相当する。証明書の価格はEU排出権取引制度での排出枠の価格に連動する。この措置は世界貿易機関(WTO)のルールに完全にのっとっていると指摘した」

     

    中国は、2030年まで二酸化炭素の排出総量が増え続けるという。これで2060年に排出総量をゼロにするという目標が達成できるのか、口先だけであろう。こういう中国に対しては、EUが考案した国境炭素税が大きな効き目を持つはずだ。中国企業も真面目に対応するであろう。

     

    (2)「輸入業者は、毎年5月31日までに前年に欧州へ輸入した商品について排出量を報告し、国境炭素税の徴収証明書を提出するよう求められる。提出を怠った場合には証明書の費用の3倍の罰金が科せられる。素案によると、既に排出量取引が行われている国に拠点を置く輸入業者は国境炭素税の減額を要求できる可能性がある。こうした国・地域には中国や米カリフォルニア州などが含まれる」

     

    国境炭素税の徴収証明書提出を怠った企業は、3倍の罰金を科されるという。具体的に、中国企業の脱法行為を防止する目的である。

     

    中国の産業構造とCO2排出量の関係を調べると、次の事実が浮かび上がる。鉄鋼部門は、国内産業の中でも断トツの規模でエネルギーを消費している。2018年には、国内のエネルギー消費合計の13%を占めた。また、非鉄金属やセメント、ガラス、化学品などの重工業部門は、鉄鋼と同様に住宅需要の後に続く傾向がある。合計すると、鉄鋼・非鉄部門がエネルギー消費量の約4分の1を占めている。


    中国のエネルギー需要と住宅建設や鉄鋼生産量を比較すれば、前記3者の間に相関関係のあることが分かる。つまり、中国では住宅建設を抑制することが、二酸化炭素排出抑制に繋がるのである。中国の住宅建設は現在、実需よりも投機需要を満たす形になっている。都市部の住宅は、約2割が空き家である。値上り期待の投機目的である。

     

    中国では、不動産バブルが二酸化炭素を余計に排出させるという逆立ちした現象をもたらしている。

     

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    習近平氏は、国内の政敵をことごとく追放して無敵の状態である。だが、海外では逆風が吹きまくっている。米国にバイデン政権が登場以来、西側諸国は対中の同盟意識を取り戻してきたからだ。中国が、米欧対立の隙間を突いて暗躍できる余地がなくなった。

     

    アジアでは、クアッド(日米豪印)四ヶ国が結束して中国に対応する姿勢を明白にしている。韓国までがクアッドの準会員になって、半導体・バッテリー部門でサプライチェーンの一角を担う姿勢を明確にした。こう見ると、中国はロシアとイラン・北朝鮮を除けば、親しい国がないという絶望的な事態を迎えることになりそうだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(5月26日付)は、「中国を遠巻き環視する米欧、『新常態』に動けぬ習近平氏」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の
    中沢克二編集委員である。

     

    欧州議会が欧州連合(EU)と中国の投資協定の批准に向けた審議の停止を決めた。中国が受けた衝撃は大きい。共産党創設100年という習近平(シー・ジンピン)時代になって最も重要なイベント(71日)まで1カ月余りしかないからである。「米国に続いてEUともうまくいかない。(周りが全て敵になる)四面楚歌(そか)をどうにかしないと100周年の喜びも半減する」。共産党関係者からこんな声が出るほど中国からみた国際情勢は厳しい。

     

    (1)「対米関係に悩む中国は2020年末、EUと投資協定の締結で大筋合意した際、「経済面の利益以上に大きな戦略的な意味を持つ国際政治上の大勝利だ」と大々的に宣伝した。ギクシャクしていた米国とEUの関係を利用し、米欧間に横たわる大西洋に楔(くさび)を打ち込む計略は成功したかに見えた。ところが投資協定の批准には欧州議会の同意が必要で、早期の発効は難しくなった。7年もの交渉の末にようやくこぎ着けた戦略的な大勝利が一転、暗礁に乗り上げた」

     

    中国は、ドイツとフランスとの関係を上手く維持できれば、EUとの関係が円滑にいくと見ていた節がある。それゆえ、「小国」を侮辱する発言が見られた。こういう外交上のミスによって、「反中国」の勢いを増している。

     


    (2)「中国は直前まで最後の努力をした。首相の李克強(リー・クォーチャン)が、イタリア首相のドラギと電話で協議し、EUとの投資協定の早期調印・発効を促した。イタリアは10月末に開く20カ国・地域(G20)首脳会議の主催国で、中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」にも主要国(G7)で唯一、正式に参画する「親中」の国でもある。中国はイタリアG20までには欧州議会での審議が進むとみていた」

     

    中国・EUの包括投資協定は、昨年末にドイツのメルケル首相がEU議長国の権限を生かして署名に持込んだ曰く付きの協定である。EU内の「小国」は、中国の横暴に反発しており、中国企業のEU進出に否定的姿勢を強めている。新疆ウイグル自治区の人権弾圧が、格好の「反中」で結束させている。中国は、こういうEUの底流の流れを無視して今、苦杯をなめている。

     


    (3)「追い打ちをかけたのが、バルト3国の一つであるリトアニアの動きだ。リトアニア外相のランズベルギスはこのほど、中国と中・東欧諸国の協力の枠組みである「17プラス1」からの離脱を明らかにした。
    「17プラス1」は中国がバルカン半島や中・東欧地域の国々に影響力を行使するのに重要な枠組みで、「一帯一路」と補完関係にある。2月にオンラインで開いた「17プラス1」首脳会議で中国は、李克強に代えて初めて習近平が自ら出席するなど、この会議を一段と重視していた。「17プラス1」の構成国の一部はEUに加盟する。このため経済力に勝る中国が「17プラス1」を利用してEU内の動きに介入する狙いがある、という見方も出ていた。ところが、この枠組み自体に綻びが出てしまった」

     

    リトアニアは、チェコに続く「反中」である。チェコ上院議長が昨年8月、台湾を訪問した際、中国は口汚くチェコを罵った。これが、皮肉にもEUでの「反中派」を増やす結果になった。リトアニアは今年、台湾に通商代表事務所を開設する方針を明らかにした。経済イノベーション省の報道官はロイターに、台湾事務所開設はアジアでの経済外交強化が狙いと述べたもの。『ロイター』(3月3日付)が報じた。

     


    (4)「リトアニアは人口300万人弱の小国だが、EUと中国の応酬で意外に大きな役割を果たしている。3月、中国はEUの対中制裁に報復するため、リトアニアの議会議員を含むEU側10人と組織を対象に、中国本土や香港への立ち入り禁止といった制裁を発動した。これが裏目に出る。投資協定の批准に向けた審議を凍結する欧州議会の決定は、中国によるリトアニアの議員も対象にした対EU報復措置が解除されない限り覆らない。リトアニアは先に台湾へ貿易代表所を置く方針を打ち出し、議会が中国によるウイグル族の弾圧を「ジェノサイド」と認定する決議を可決した。」

     

    人口300万人のリトアニアが、14億人の中国へ堂々と立ち向かっている。正論を掲げて対抗する姿勢は、韓国に学ばせたいほどである。

     


    (5)「米バイデン政権と対峙する中国の習近平が、安全保障上もロシア大統領のプーチンに接近するなら、中国を通じてリトアニアの動きがロシアに筒抜けになりかねない。サイバー空間での目に見えない攻防が激しい今、情報戦への対処は国の命運を左右する。危うさを察知したリトアニアは本能的に中国の影響下から脱しようと動き始めた。そんな解釈が可能だ。この動きはエストニアやラトビア、そして他の「17プラス1」の構成国にもなんらかの影響を与えるかもしれない」

     

    中国は、米国との対抗上、ロシアへ接近している。このロシア(旧ソ連)は、かつてリトアニア・エストニアなどを冷戦下に占領して人権弾圧した張本人である。こうして、中国の裏にはロシアがいるという警戒感を強め、「反中」意識を強めている、と指摘している。

     

    こう見ると、中国はロシアとワンセットでEUから敬遠される要因を持っている。中国が、米国と対決すれば自動的にEUとも疎遠になるという構図が描けるのだ。

     

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    人権重視の元祖であるEU(欧州連合)は、これまでの中国経済依存を脱して、インド太平洋戦略の重要性を認識し始めている。中国による新疆ウイグル族への人権弾圧は、絶対に放置できないという強い信念を見せているのだ。

     

    『大紀元』(5月10日付)は、「インド太平洋戦略構想を打ち出したEU、印太の安保・外交関与を強化」と題する記事を掲載した。

     

    EU(欧州連合)は2021年4月、インド太平洋地域における欧州諸国の利益を保護し、安保から衛生・健康に至るまでの分野を通じて同地域での影響力を強化することで中国の覇権に対抗する新戦略構想に合意した。

     


    (1)「オーストラリア、インド、日本などの諸国との関係深化方針を最初に打ち出したフランス、ドイツ、オランダが主導した新戦略構想により27か国の加盟国から成るEUは中国共産党による権威主義の拡散に対応する構えである。EUの外相等は声明を通して、EUは「民主主義、法治、人権尊重、国際法の促進に基づきインド太平洋地域における戦略的焦点、存在感、行動を強化すべきであると判断した」と述べたが、同戦略は「反中国」を意図したものではないとも指摘している」

     

    インド太平洋戦略対話の「クアッド」(日米豪印)は、自由と民主主義を守るという共通認識で、今年2月にTV方式による第1回首脳会談を開催した。今秋には第2回会談が予定されている。このクアッドは、分科会を設けて、半導体・バッテリー・レアアース・医薬品のサプライチェーンを目指す準備を始めている。EUにとっては、こうした経済活動には興味があるはず。英国が、クアッドに加盟する動きもあるだけに、EUは乗り遅れまいという思惑も感じられる。

     

    (2)「今回は仮想外相会議での合意内容として10ページの文書が発表されたが、外相等は「志を同じくする提携諸国」と協力してインド太平洋地域の基本的権利の保護に取り組むことを目指しており、2021年9月に戦略の具体案がまとめられる予定である。同戦略により、インド太平洋地域の問題に対するEUの外交的関与の強化、EUからの同地域への人材派遣や投資の増加、南シナ海への艦船派遣、オーストラリアの哨戒活動への欧州人材の参加、安保を目的とした存在感の向上などが実施される可能性があるが詳細についてはまだ合意に至っていない」

     

    EUは、クアッドの動きに刺激されている。単なる安全保障という目的だけでなく、経済的な結束を目指していることに関心を深めているのであろう。EU経済の発展性に限度が見える。今後の最大の経済成長セクターは、インド太平洋地域である。それだけに、ここへコミットしておく必要性が高まっている。

     


    (3)「中国共産党の推進する技術的・軍事的近代化により、西側諸国とそのインド太平洋の貿易提携国が脅かされる可能性に対する懸念が高まっている。この中で今回、EUが発表した声明には中国についての直接の言及はないものの、これはジョー・バイデン米政権の中国対抗策への支持を思わせるものとなった。EUの外相等の発言によると、インド太平洋諸国側もとりわけ欧州諸国が同地域で積極的な貿易を維持することを望んでいる」

     

    中国の軍事的な膨張によって、将来のEUとアジア地域との貿易が脅かされる懸念も生まれてきた。そこで、インド太平洋戦略対話の「クアッド」と密接な関係を持つことの重要性を覚ったのであろう。

     

    (4)「EUを離脱した英国が、同様の計画を提示した後に発表された今回のEUの声明は、香港の民主主義運動弾圧、新疆ウイグル自治区のウイグル人イスラム教徒に対する政策、中国武漢市を震源地として発生した新型コロナウイルス感染症パンデミック対策の初動の遅れに関連して、中国共産党に対する欧州諸国の態度の硬化したことを示すものである」

     

    EUと中国との蜜月関係は終わったというべきだ。米国の同盟国重視戦略もあって、ようやく米欧が手を携えてインド太平洋地域に関与する姿勢が固まった。

     

    (5)「今回の声明は、「EUは安保と防衛において志を同じくする提携諸国や関連組織との協力体制をさらに発展させて相乗効果を強化する」とし、「これには海上安保を含む国際安保における課題への対応が含まれる」としている。インド太平洋を貿易の新天地と捉えるEUは、オーストラリア、インドネシア、ニュージーランドとの自由貿易協定(FTA)の締結についても意欲を示している」

     

    FTAは、安保と防衛の面での協力も必要になっている。EUは、その意味で「クアッド」が重要な足がかりになる。

     

    2020年下旬に中国を含むアジア太平洋諸国15か国が署名した世界最大級の自由貿易協定(FTA)「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」が2022年にも発効され得ることもあり、ドイツのハイコ・マース外相はEUが取り残されることへの危機感を訴えていた。

     

     

     

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