勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 欧州経済

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    一帯一路は、2013年に習近平政権が世界覇権の一環として始めた。当時の中国は、国際収支の膨大な経常黒字を抱えていた。2014年の経常黒字は2360億ドル、15年は3041億ドルにも達した。これをファンドにして、中国マネーで発展途上国を支配しようという隠れた意図を持っていたのである。

     

    中国は、いわゆる「債務漬け」を始めた。融資先国の有力担保を取り上げる「国際高利貸し」になって、大きな批判を浴びることになった。先進国は、こうした弊害を目の当たりにして、反「一帯一路」の動きが強まっている。

     


    『フィナンシャル・タイムズ』(4月22日付)は、「EU・インド、インフラ投資で連携 一帯一路に対抗」と題する記事を掲載した。

     

    EU(欧州連合)とインドが世界各地のインフラ整備で協力する方向で交渉を進めている。中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」に対抗する狙いがある。

     

    EUとインドは昨年7月、「インド太平洋地域などで第三国との連携構築に向けて協力し相乗効果を探る」独自の計画を模索することで合意した。EUは19年に日本とも同様のパートナーシップを結び、当時の安倍首相が「インド太平洋から西バルカン、アフリカに至るまで、持続可能で偏りのない、ルールに基づいた連携をつくれる」 と表明した。

     

    (1)「複数の外交筋によると、この計画はエネルギー、デジタル、運輸セクターなどにおける「コネクティビティー(連携)」パートナーシップとうたわれている。中国政府が進める一帯一路では、受入国にとって法的保護が不十分で融資の返済条件が不利だが、EUとインドの計画ではこの点を改善する考えのようだ」

     

    EUは、一帯一路が発足した際、米国の警告にも関わらず大挙して参加した。先進国では日米二ヶ国だけが参加しなかった。いかがわしさを感じ取っていたからだ。EUは、一帯一路の恩恵を期待したが、結果は全て中国企業のみ。EUは、この実態を知って手を引くことになった。

     

    (2)「インドとEUは58日に開くオンライン首脳会議でこの計画を発表する意向だ。米国も中国の影響力拡大に対抗するため、同様の計画を進める機会を模索している。EUとインドは中国の動きに反対する陣営と名乗るわけではない。しかし、欧州、アフリカ、アジア向けの構想として、一帯一路に代わる選択肢になりうるかどうかが注目される。インフラ整備の資金は官民両セクターから調達する計画だが、資金源などのプロジェクトの詳細はまだ最終決定には至っていない」

     

    インドが、EUと組んで発展途上国のインフラ投資へ参加するのは、中国の勢力拡大を阻止するという狙いであろう。

     


    (3)「あるEU外交官は、「中国が提供するよりも魅力的で、パートナーシップに基づいてグローバル化を推進できる機会がこれから開けてくる」と述べた。さらに、「EUと同盟国にとっては、中国の投資が世界各国で支配力を強めるのではなく、一帯一路に代わる選択肢を提供することが共通の利益だ」という。外交筋によると、インドとEUのインフラ投資構想の焦点は、それぞれの地域における共同プロジェクト、第三国における計画推進、金融安定や法基準などの分野の標準策定だという。研究開発や技術開発での協力改善にも力を入れる」

     

    EUの欧州委員会(執行機関)は4月13日、ヨーロッパ南東部にあるモンテネグロ共和国が、対中債務の支援として10億ユーロ(約1300億円)超える要請を拒否した。中国の「一帯一路」による高速道路建設プロジェクトの支払いが滞っているためだ。中国はこのプロジェクトを通じて、同国が位置する西バルカン半島で影響力を発揮しているという。モンテネグロ共和国が、中国の「餌食」にされているだけに、深刻な問題になっている。EUの欧州委員会が支援要請を拒否したのは、最初からこのプロジェクトの不採算性を理由に挙げていた。

     

    (4)「アジアでは、巨額のインフラ投資が必要とされている。EUは、アジアとの連携強化に向けて数百億ユーロを投資する計画を大筋で発表していた 。インドも国際的プロジェクトに多額を投じる計画を表明していた。だが、ある外交筋によると、EU大使が幅広い戦略を練るために21日に開いた非公開会合で議論が2時間近くに及び、この分野を強化していかなければならないと「警鐘」が鳴らされたという。EUは中国の影響力拡大に対抗しようとする一方で、20年12月には中国と投資協定を結ぶことで大筋合意するなど、中国との経済関係を強化しようとしている」

     

    EUは、モンテネグロ共和国が一帯一路によって犠牲を強いられているので、インドと協力して新たな犠牲国を出さない努力を始めることになった。EUとインドが共同で構想を進めるなか、米バイデン政権も中国の影響力拡大の抑止策として、民主主義国家との同盟構築を目指している。バイデン米大統領は3月、そうした国家によりインフラ整備で連携し、一帯一路に対抗する構想をジョンソン英首相に提案した。この構想は、6月にジョンソン首相が議長を務める主要7カ国首脳会議(G7サミット)で議論されよう。

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    EU(欧州連合)が、新疆ウイグル族への人権弾圧に抗議する制裁措置を発表したところ、中国も即座に報復措置を発表した。独裁者・習近平氏が命令したのであろうが、これが「オウンゴール」になりそうだ。EUと中国の「投資協定」が棚上げになるからだ。これでますます、中国の行動範囲が狭められる。

     

    『ロイター』(3月24日付)は、「EU・中国の投資協定、人権問題巡る対立で欧州議会の承認遠のく」と題する記事を掲載した。

     

    中国・新疆ウイグル自治区の人権問題を巡り、欧州連合(EU)と中国による制裁の応酬が始まったことで、昨年末に双方が合意にこぎつけた包括的投資協定(CAI)の欧州議会での承認が遠のいた。

     

    (1)「EUと英国、米国、カナダは3月22日、中国が新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族への重大な人権侵害を行っているとして、中国政府当局者に対する制裁措置を発表。これに反発し、中国は欧州議会議員やEUの外交官などを対象に直ちに制裁を科した。欧州議会は23日、中国への抗議としてCAIの承認に向けた審議を先送りした。欧州議会の第2会派である中道左派の社会民主進歩同盟は、制裁解除がCAIの審議入りの条件だとしている。欧州議会の国際貿易委員会を率いるランゲ委員長(ドイツ)が明らかにした」

     


    中国政府の対応は、米国の同盟国に対する可能な限りの激しい反撃だった。EUが22日に制裁を発動したことを受け、中国はすぐさまEUの当局者や団体を対象とした報復制裁を打ち出し、EUの駐中国大使を呼び出した。中国の制裁対象となったのは各国の政治家や外交政策を策定するEUの主要機関、中国研究で欧州最大の研究機関などだ。

     

    中国の米国への報復は、EUに比べて軽かった。米国のさらなる報復を恐れたからだ。こういう差別をつけられた報復に、EUはさらに反発している。昨年末に双方が合意にこぎつけた包括的投資協定(CAI)は、欧州議会が怒っており批准しないで棚上げする意向である。

     


    EU内では、もともとCAIについて懐疑的であった。それでも、EU委員会が中国と調印したのは、独仏の強引なリードで結論を出した結果である。欧州議会は、このやり方にも反発しており、今回の中国の態度と相まって、批准の見通しはつかなくなった。

     

    (2)「欧州議会の議員は党派にかかわらず、以前から中国の強制労働問題に懸念を表明しており、CAIの承認前に中国に強制労働に関するILO(国際労働機関)条約を批准させるべきとの意見も出ている。欧州議会で対中関係代表団の団長を務めるラインハルト・ビュティコファー議員によると、CAIは当初、フランスがEU議長国を務める来年上半期に承認される見込みだった。今回中国の制裁対象になった同議員は、マクロン仏大統領は昨年末にCAI合意を支持したが、来年45月の大統領選が厳しいものとなる可能性があることから、態度を変える可能性があると指摘。「CAIの行方はまったく分からない」と述べた」

     

    EUの中でも規模の小さい国家は、これまでも中国の強引な態度に強い反発を見せてきた。中国は、そういう事情を理解しないで振る舞ってきた反動に悩まされることになろう。最後は、中国が制裁を解除し陳謝することになろう。まさに、オウンゴールである。

     


    (3)「フランス外務省高官によると、フランス政府は駐仏中国大使の盧沙野氏を呼び出し、報復措置の件に加えて、中国がフランスの政治家や研究者を侮辱しているのは受け入れ難いとの見方を伝えた。一方、中国外務省の華春瑩報道官は23日の定例会見で、中国は衝突ではなく協力を提唱していると表明。「制裁によって中国の利益を損なう一方で、協力への協議でEUが有利に立つことはあり得ない」と語った」

     

    フランスは、CAI賛成の態度を取り下げる可能性も指摘されている。そうなるとドイツだけが取り残されるので、最悪の場合、批准されない事態も想像される。中国の大損になろう。

     


    (4)「ブリュッセルのシンクタンクである欧州国際政治経済研究所(ECIPE)のディレクター、ホスク・リー・マキヤマ氏は、中国政府はEUに対し、中国への制裁を解除してCAIを承認し発効させるか、あるいは中国での成長機会を諦めるかの選択を迫っていると指摘。「中国へ市場を開放する必要はないというのがメッセージだ。明確な選択肢を示している」と述べた」

     

    中国は、感情にまかせて大変な事態になった。怒るEUをなだめる方法はない。EUは、中国へ市場を開放する必要がないというメッセージを送った。

     

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