勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース

    テイカカズラ
       

    ロシアのプーチン大統領は13日、米国提案のウクライナ停戦案について「紛争の根本的な原因を取り除くものでなければならない」などと述べ、現在の一時停戦案の受け入れに条件を付けた。プーチン氏は、ウクライナが受け入れた30日間の停戦案について「戦闘を停止する提案に同意するが、長期的な平和につながり、紛争の根本的な原因を取り除くものでなければならない」と述べた。即時の停戦の受け入れには難色を示し、今後の米国との協議に向けて注文を付けた。

    ロシアは、米国案に対して「全面拒否」でなく「協議継続」を申し入れているが、引き延し戦術が通用しない切羽詰まった難題が突きつけられている。ロシアの最も恐れている米銀とのアクセスが、すでに切断されていることだ。これは、ロシア経済の「心臓」を突かれたのも同然の強い負の影響をもたらす。


    『ブルームバーグ』(3月14日付)は、「米政権、対ロ制裁ひっそり強化-ウクライナ巡り和平交渉進めるも」と題する記事を掲載した。

    ウクライナでの戦争を巡り、米国はロシアと和平交渉を進める一方、エネルギー関連の決済制限を通じて対ロ制裁を強化している。

    (1)「トランプ政権は、ロシアの一部銀行とのエネルギー関連決済に関する許可を失効させた。2022年2月のウクライナ侵攻開始後に導入されたこの「一般許可8」を通じ、これらの銀行はドルでの資金受け取りが引き続き可能だった。トランプ政権から発表や公式な確認はない。失効はバイデン前政権が1月に実施した制裁措置の一環で、失効は3月12日午前0時と、通常6カ月の有効期間が短縮されていた」


    トランプ政権は、ロシアの金融機関とのエネルギー取引を認めるライセンスの期限が切れることで、ロシアの銀行が米国の決済システムにアクセスできなくなると発表した。これにより、ロシア経済に大きな影響を与えることが予想される。特に、エネルギー取引が制限されることで、ロシアの収入源が減少し、経済的な打撃を受けるとみられる。

    ロシアの銀行が、米国決済システムにアクセスできなくなることは重大問題である。国際取引が困難になり、ロシア経済は世界経済から遮断されるに等しい状況に追込まれる。ロシアのウクライナ侵攻直後、この米銀アクセス切断を検討したが、西側も影響を受けることで棚上げになった経緯がある。ついに、そのマイナスを乗り越えて米銀アクセス切断が始まる。

    エネルギー部門に対する制裁は、ロシアの主要な収入源である石油と天然ガスの輸出に大きな打撃を与える。これにより、ロシアは毎月数十億ドルの損失を被ると予想されている。


    (2)「14年の対ロ制裁に携わった元国務省高官のエドワード・フィッシュマン氏は、許可失効によって「ロシアの石油・ガス収入を巡る業務で大きな支障が出るだろう」とし、「もしあなたが外国の石油精製業者や石油トレーダー、ロシア産ガスの購入業者で、取引銀行がロシアへの石油・ガス代金支払いをドルなど西側諸国の通貨で決済しようとする場合、かなり難しくなるだろう」と指摘した。ベッセント米財務長官は経済専門局CNBCとのインタビューで、ロシアを交渉のテーブルに着かせるため米国は対ロ追加制裁をためらわないとし、トランプ大統領は「双方に最大限の圧力をかける意向だ」と述べている」

    ロシアは、主力輸出商品の石油・ガス輸出で大きな障害が生じる。西側が代金支払でドル決済することが困難になるからだ。すでに、ロシア経済は3年を上回る戦争で疲弊しきっている。そこへ、毎月数十ドルの輸出代金決済が滞れば、さらなる重圧を受けることになる。


    (3)「許可失効の影響は不明だ。ロシア産エネルギーの大口購入者は失効を見越して既に制限に対応したか、西側諸国の制裁を回避する代替の決済手段を確保した可能性がある。元財務省高官でオリバー・ワイマンのパートナーであるダニエル・タネバウム氏は「締め付けであることは間違いないが、問題は実際の石油取引に関する現金での支払いや価値にどれほど影響があるかだ」とした上で、「実際にそのルートでどの程度の資金フローがあったかは非常に不透明だ」と分析した」

    このパラグラフは、米銀アクセス切断の重要性をどこまで理解しているか疑わしい内容だ。ドルが世界の基軸通貨であり、世界中のドル決済はすべて米国が把握している。こういう事情が分れば、軽々な判断はできないであろう。





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    ロシアは、ウクライナ戦争終結をにらんで米国との接近を窺わせるような動きを見せ始めた。これまで、大量の中国製自動車を輸入してきたが、「リサイクル料」名目で大半の乗用車で66万7000ルーブル(約110万円)へ引き上げた。今後も引上げられる見通しで、事実上の関税の役割を果す。ロシアは、米国製自動車輸入再開へ道を開こうとしているとみられる。変わり身の早いロシアの行動に驚きである。

    『フィナンシャル・タイムズ』(3月10日付)は、「ロシア、中国車の輸入急増阻止 実質的な関税を引き上げ

    ロシア政府が中国車の大量輸入の抑制に乗り出し、友好的な対ロ関係への依存を強めてきた中国の自動車メーカーと輸出業者に打撃を与えている。


    (1)「中国乗用車協会(CPCA)によると、2024年にロシアへ輸出された中国車の数は、22年の7倍に達した。ウクライナ戦争で制裁を受けているロシアは、西側諸国のブランドの自動車を輸入できなくなっている。米国、欧州連合(EU)、カナダ、トルコ、ブラジルといった市場で反ダンピング(不当廉売)措置を課され、販売が下押しされている中国メーカーにとっても、ロシアでの需要は好都合だった」

    中国自動車メーカーにとって、西側から経済制裁を受けているロシアは、最高の輸出市場であった。それが今、急変しようとしている。ウクライナ戦争終結を見込んだ米ロ接近が、中国車を阻もうとしているようだ。

    (2)「CPCAの崔東樹・秘書長は「(ロシアで)海外ブランドが中国車にすっかり置き換わった」と話し、「ロシア・ウクライナ間の危機が終わると、中国車メーカーにかかるプレッシャーが劇的に強まるだろう」と続けた。ロシアは24年、100万台を超える中国車を輸入した。これは中国全体のガソリン車輸出の約3割に上る。CPCAのデータによると、ロシア市場では中国ブランドのシェアが63%に伸びた一方、国内ブランドのシェアが29%にとどまった」

    ロシアは24年、中国車100万台超を輸入した。中国全体のガソリン車輸出の約3割に上がる。これだけの規模だけに、中国にとっては「ロシアの心変わり」が大きな痛手になる。


    (3)「ロシア政府は、この流れに歯止めをかけようとしている。1月には、関税と同様の効果がある「リサイクル(再利用)料」を大半の乗用車で66万7000ルーブル(約110万円)に引き上げた。この金額は24年9月時点に比べて2倍を超える。今後も30年まで、年10〜20%の値上げが実施される見通しだ。米コンサルティング会社ロディアム・グループの自動車アナリスト、グレゴール・セバスチャン氏は「安価な中国車の大量流入が国内での生産に悪影響を与えている」という国際的な認識をロシアも共有するようになったと指摘する」

    日本では、普通乗用車のリサイクル料は、約1万円~1万8000円程度とされる。ロシアでは、何と110万円という。これは、輸入禁止的な高関税になる。

    (4)「セバスチャン氏は、ロシアが中国各社に「現地生産の拡大を求めている」と説明した。「しばらくは仕方がないと感じていたものの、(ロシア側が)ここにきて自らの交渉力に気づきつつある。中国の自動車メーカーにとってのかなり重要な市場になってきた」。さらにロシアでの最近の調査により、中国の主要トラックメーカー3社の安全基準違反が発覚し、1つのモデルがロシアでの販売を禁じられた。ロシア政府関係者は、輸入車に対して新たな法令順守状況チェックや検査を導入する構えを見せている」

    ロシアの自動車産業は、今回のウクライナ戦争で大きな影響を受けている。それだけに、中国車の輸入が急場を救った形であるが、再び国際情勢が変わり始めたことをロシアは肌身で感じ取っているのであろう。


    (5)「ロシアへと次々と運ばれる中国車の多くは、綏芬河(すいふんが)をはじめとする中国東北部の国境地帯を通る。いてついた道路に出荷待ちの自動車が並ぶ綏芬河で、ある中国の業者は「関税と、それがわれわれにとって何を意味するかについて、懸念も不満もたくさんある」と語った。「欧州と米国に制裁を科されたから、こちらに頼ってきたくせに」。CPCAによると、ロシア市場で中国勢のトップを走るのは、国有の奇瑞汽車(チェリー)だ。24年1〜3月期にはロシアで43万台を売り上げ、同社の総販売台数の28%を占めた。香港上場を目指す奇瑞汽車は「対ロ販売によって相当な売上高がもたらされた」と新規株式公開(IPO)の書類に記しつつも、「制裁リスクの緩和」に向けてロシアへの販売を減らしていく計画を打ち出している」

    中国側には,ロシアの「心変わり」が恨めしいようである。ウクライナに平和が戻れば、中国自動車メーカーには市場喪失危機が高まる。

    (6)「ロシアでの中国車ブームは、中古車とガソリン車の販路を開くことにもなった。いずれも中国内では電気自動車(EV)人気に押され、売り上げが振るわない。24年はロシアに輸出された中国車のうち、97%がガソリン車だった。綏芬河の地元当局者によると、中古車の輸出は24年に612%増加した。中古車の対外販売を促進する政策に加え、国内の需要喚起を目的とした自動車買い替え促進策を受けて多くの人が、古いガソリン車を手放したという背景がある」

    中国にとって、ロシアへのガソリン車と中古車輸出は、国内EV化促進の上で欠かせない「バッファー」であった。それが、これから急速に縮小するとすれば、中国の自動車生産に影響する。


    テイカカズラ
       

    ロシアは兵士募集で限界
    軍事費が歳出の3割強へ
    停戦がロシア経済を救済
    米国の狙いは対中包囲網

    ロシアのウクライナ侵略は、2月24日で満3年を経た。ロシア軍とウクライナ軍は、おびただしい死傷者を出す消耗戦を続けている。21世紀で初めての不毛な戦争であり、トランプ米国大統領が就任直後から停戦への動きを始めた。停戦交渉の一環として行われた、先の米トランプ大統領とウクライナ・ゼレンスキー大統領の会談は、激論で物別れというハプニングを生んだ。だが、いずれ再会談によって、ウクライナの鉱物資源開発協定は調印されよう。米国に、その必要性があるからだ。その理由は、おいおい説明する。

    ロシアは、トランプ氏が大統領就任直後に行った「和平提案」に対して、強い拒絶反応をみせた。さすがのトランプ氏も弱気になって、停戦実現までには長時間を必要とする発言を行うほどであった。だが、2月に入ってからロシアの強硬姿勢は急に変化を見せ、トランプ和平提案を受入れる姿勢に変わった。


    この間、ロシアで何が起こったのか。ロシア軍の兵士・装備の消耗が激しく、これ以上の継戦が不可能という事態を再認識したとみられる。ロシアが、3年間の戦時経済によって疲弊しきっている結果が表面化したのだ。

    戦争経済が現在、ロシア経済を支える異常事態へ突入している。GDP統計では、24年成長率は4%未満と他国と遜色ないが、25年は0.5%へと落込む。ロシア経済の持続性に、大きな疑問付がつく事態となったのだ。

    ロシア国防相のベロウソフ氏は、24年5月に就任した国防と無縁の経済学者である。プーチン氏の信任厚いベロウソフ氏が、トランプ氏の「和平提案」を受入れるように進言したとしても不思議でない状況が生まれていた。これには、次のような背景がある。

    ベロウソフ氏は、もともと国防相就任前に「消耗戦を制するのは経済」と指摘していた。こうして、「軍事支出を削減せず増やした」結果、ロシア経済の激しい消耗化が進んで、身動きできない事態へ追込まれた。ベロウソフ氏が、この事態を認識しプーチン氏へ、「トランプ和平提案」受入れ工作したとしても不思議のない流れとなっている。


    ロシアは兵士募集で限界
    ロシア軍は、この半年の間に米ロードアイランド州程度のウクライナ領土を制圧したが、数万人の兵士が犠牲になった。これを補充する新兵の募集は、ますます困難になっている。ロシアは、受刑者を含めた志願兵を集めるために報酬を引き上げざるを得ない状況にまで人集めが悪化している。

    ロシアは24年9月、ロシア軍の定員を18万人増やし150万人とすると発表した。入隊する際に兵士が受け取る一時金は、これまでのほぼ倍にするなど、兵士確保のための財政負担が大きくなっている。一方では、激増する死亡した兵士の遺族には、生涯収入を超える補償金も用意せざるをえず、軍事予算を膨脹させる要因になっている。ロシア経済にとって、ウクライナ侵略の人的な消耗による経済負担が限界点になろうとしている。


    ロシア軍の消耗は、軍事装備でも多大の損害を被った。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月18日付)は次にように指摘している。

    1)ロシアは3年間の戦争で、主に旧ソ連時代に備蓄された膨大な数の戦車と装甲車のうち約半分を使い果たした。また、残された装備品の多くは、さらに旧式で手入れの悪い状態である。これは、ロシアの兵器備蓄の衛星画像を調査する、オープンソースの情報アナリストグループによる分析で明らかになった。

    2)この巨大な損失は、ロシアの侵攻に伴うコストや、今後、戦争を維持していくことの難しさを浮き彫りにする。装甲車の在庫が減りつつある中、ロシアは民間車両やオートバイを攻撃に用いている。攻撃の大半は、無防備な歩兵に依存しており、多数の死傷者を出している。

    3)現在のペースでは、ロシアは2025年の終わりには戦車と装甲兵員輸送車が決定的に不足すると、米首都ワシントンのシンクタンク、戦争研究所のアナリスト、ジョージ・バロス氏は指摘する。同氏によると、ロシアと協力する国々、特に北朝鮮などが自国で備蓄する装甲車を提供することで支援される可能性もある。

    4)歩兵が不足するウクライナ軍は、主に爆撃ドローンを使用して進軍を目指すロシア兵を狙撃している。ウクライナと西側同盟国によると、2024年8~12月にロシア軍の1日当たりの死傷者数は毎月増加した。

    これら情報を総合すると、ロシア軍が多大な損害を受けていることが分る。装甲車の在庫が減った結果、ロシア軍は民間車両やオートバイを使い攻撃作戦へ出ている。大半の歩兵が、ウクライナ軍によるドローン攻撃で死傷している理由だ。北朝鮮兵のウクライナ軍捕虜が、『朝鮮日報』のインタビューに対して、「ドローンが上から狙う逃げ場のない攻撃であった」と述べているほど。同僚の北朝鮮軍兵士は、全員が死亡したと答えた。

    以上の通り、ロシアがトランプ氏の和平提案を受入れざるを得ない、ロシア軍の内情が明らかにされている。(つづく)

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    米国の対ソ戦略の基本は、ロシアによる中国への完全依存度を剥がすことにある。中ロ蜜月関係に杭を打ち込むとしているが、中国は早くも警戒姿勢を強めている。ロシアは、3年間のウクライナ戦争で疲弊しきっており、中国の支援なしには経済が円滑に回らない状態へ落込んでいる。米国は、このロシアの窮状を「救うべく」中国に代わって支援する姿勢をみせている。

    『ブルームバーグ』(2月27日付)は、「ロシアは中国に『完全に依存』、引き剥がし狙うールビオ米国務長官」と題する記事を掲載した。

    米国のルビオ国務長官は、ロシアと中国との間に不和の種をまくことなく両国の関係を希薄化させたいと述べ、ロシアの中国との緊密な関係を管理する米国の戦略を打ち出した。


    (1)「ルビオ氏は、保守系メディアのブライトバート・ニュースに対し、ロシアについて「中国との関係から引き剥がすことに完全に成功するかはわからない」としつつ、「中ロを対立させることが世界の安定に有益だとも思わない。両国とも核大国だからだ」と語った。一部のアナリストは、トランプ大統領のロシアに対する最近の歩み寄りを、ニクソン元大統領とは逆のやり方で中ロを分断させる試みだと捉えてきた。ニクソン氏は約53年前に歴史的な中国訪問を果たし、ソ連の世界的な影響力を突き崩すとともに中国を米国に引き寄せ、その後数十年にわたって国際的なパワーバランスをシフトさせた」

    トランプ氏は、ニクソンを尊敬している。ニクソンが行った中ソ離間作戦を、今度再び行おうとしているのだ。ニクソンは、米国から中国へ接近してソ連を孤立させた。トランプ氏は、米国がロシアへ接近して中国を孤立させる戦術である。

    (2)「中国政府は、ウクライナでの戦争終結を巡り米国と協議したロシアを称賛したが、米ロの雪解けが中国にとって何を意味するかは明らかでない。中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は、2022年のウクライナ全面侵攻開始直前に「制限のない」友好を宣言し、国際舞台での対米姿勢で団結している。中国外務省の林剣報道官は、ルビオ氏の発言に反論し、中ロの関係はいかなる第三者によっても影響されないと主張した」

    ロシア経済が、これから苦境に向う中で、中国はどれだけ支援できるかだ。従来のロシアは、中国に対して上位であった関係が完全に崩れている。ロシア社会では、受入れがたい事態の到来である。ここへ、米国が割って入ろうとしている。


    (3)「同報道官は27日、北京で開いた定例記者会見で「中ロの間に不和の種をまこうとする米国の試みは失敗に終わる」と述べ、「中国とロシアは、いずれも長期的な発展の戦略と外交政策を持つ。国際情勢がどう変化しようとも、中ロ関係は独自のペースで前進していくだろう」と続けた」

    中国外務省は、米国の動きに反発している。当然であろう。習近平にとっては、プーチン氏は無二の盟友である。その盟友が、米国と握手する事態は想像もできないであろう。

    (4)「ルビオ氏は、ロシアが中国の「恒久的なジュニアパートナー」となり、2つの核大国が米国に立ち向かってくるようになるのなら、中ロ関係の緊密化は米国にとって問題になると警告。米国主導の制裁で孤立するロシアはここ数年、中国市場へのアクセスによって経済を維持することができ、習氏はプーチン氏に外交的なシェルターを提供している。「ロシアは、対米関係の改善を望もうが望むまいが、同国は完全に中国に依存するようになってしまったためにそれができない状況に陥っているかもしれない。それは、われわれがロシアを切り離したからだ。米国にとってより良い結果は、関係を築くことで生まれる」とルビオ氏は論じた」

    米国が、中国からロシアを引離すには、ロシアへ経済的便益をどれだけ提供できるかにかかっている。その意味で、欧州がロシアに対して「寛容」になれるかも大きな要因だ。ロシアが、今のように欧州を威嚇し続けていては、欧州のロシア警戒論は続くであろう。



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    フランスのマクロン大統領は2月24日、ウクライナとロシア間の停戦が数週間以内に合意される可能性があると述べた。ホワイトハウスで、トランプ米大統領と会談した後にFOXニュースのインタビューで明らかにした。ロシアにとって、米国による和平交渉斡旋が渡りに船である。

    ロシア経済は、破綻の一歩手前まで追込まれている。政策金利は21%、軍需支出が国家予算の3分の1に達している。今年1月の財政赤字は、前年の14倍にもなった。スタッグフレーションへの道が、待っていたのである。プーチン大統領は、夜も眠れなかったであろう。「盟友」トランプ氏が、プーチン氏へ助け船を出したのである。

    『ロイター』(2月25日付)は、「苦境のロシア経済、トランプ米大統領の早期終戦案は助け船か」と題する記事を掲載した。

    ロシア経済はウクライナ戦争の膨大な軍事支出で過熱状態だが、深刻な冷え込みに転じる瀬戸際にある。大規模な景気刺激策や金利の急上昇、インフレの高止まり、そして西側諸国による経済制裁の影響が浸透しつつあるからだ。それだけに、戦争の早期終結を目指すトランプ米大統領の方針はロシアにとって助け船になりそうだ。


    (1)「トランプ政権は、対ロシア交渉でウクライナや欧州の同盟国を除外し、侵攻の責任をウクライナに負わせるなど政治的にロシア寄りの姿勢を取っている。米国のこうした動きについて、元ロシア中央銀行副総裁のオレグ・ビューギン氏は、ロシアが2つの望ましくない選択肢に直面する中で起きていると分析。ロシアはウクライナ戦向けの軍事支出の拡大を中止するか、あるいは支出を拡大し続けてその代償として何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受するか、二者択一を迫られている。いずれの道も政治的リスクを伴うと指摘した」

    ロシア経済は、危機の分かれ道にある。このまま続けば今後、何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受する最悪状態へ向うところだった。

    (2)「財政支出は通常、経済成長を促進する。ロシアでは、民間部門を犠牲にする形でミサイル向け支出という、新しい価値創出につながらない軍事支出で経済が過熱し、中央銀行の政策金利は21%にまで達して企業の設備投資が鈍り、インフレは抑制できていない。ビューギン氏は、「ロシアは経済的な観点から外交的手段による戦争終結に向けた交渉に関心を持っている。これこそスタグフレーションを避ける唯一の方法だ」と話した。ロシアが国家予算の3分の1を占める軍事費をただちに減らすことはないだろう。しかし、和平合意の可能性が浮上すれば経済への圧迫が弱まり、制裁の解除や、最終的には西側企業の復帰につながることもあり得る」

    ロシアは、和平交渉が始まらなければ、スタグフレーションへ突入する瀬戸際であった。トランプ氏の和平交渉斡旋は、「神の声」にも等しいグッドタイミングであった。


    (3)「ロシアが軍需生産向けの支出を一夜にして止めることには消極的だろう。不況の発生を恐れているし、軍の立て直しが不可欠だからだ。ただ、兵士を一部復員させることで労働市場への圧力を多少なりとも和らげることができるだろう」と、欧州政策分析センター(CEPA)のアレクサンダー・コリアンドル氏は予想した。ロシアは徴兵や戦闘忌避の国外移住で深刻な労働力不足が発生し、失業率は過去最低の2.3%となっている。コリアンドル氏は和平の可能性が高まれば米国が中国などの企業に対する二次制裁を強める可能性が下がり、輸入がスムーズになり、その結果物価も下がる可能性があると見ている」

    ロシアは一時的に、軍需費削減は困難である。大不況の発生が不可避であるからだ。ただ、兵士の帰還で労働力不足は緩和の方向に向う。

    (4)「ロシア市場には既に好転の兆しが現れており、21日には制裁緩和の期待からルーブル相場が対ドルで約6カ月ぶりの高値を付けた。中銀のナビウリナ総裁は、政策金利を21%に据え置いた14日の会合で、長期にわたり需要の伸びが生産能力を上回っているため、成長は自然に減速していると説明した。経済成長を促しつつインフレを抑制するという中銀の課題は、大規模な財政刺激策によって複雑になっている。政府が2025年の財政支出を前倒したことで1月の財政赤字は1兆7000億ルーブル(192億1000万ドル)と前年比で14倍に膨らんだ」

    今年1月の財政赤字は、前年比で14倍にも膨らんだ。これこそ、ロシアがもはや継戦不可能な事態へ向っている証拠だ。


    (5)「多くの企業は、高金利にあえいでいる。「現在の貸出金利では新たな開発プロジェクトを立ち上げるのは困難だ。内部資料によると、ロシアが直面する主な経済リスクとして原油価格の下落、財政面の制約、企業の不良債権の増加などが挙げられている。また、トランプ氏はウクライナ問題で譲歩の可能性を示唆する「アメ」をぶら下げる一方、合意が成立しなければ追加制裁を科すと「ムチ」もちらつかせている。マクロアドバイザリーの最高経営責任者(CEO)クリス・ウィーファー氏は、「米国は経済的に大きな影響力を持っている。だからロシア側も交渉の席につくことを望んでいる」とロシアの立場を解説。「米国はこう言っているのだ。『協力するなら制裁を緩和できるが、応じなければ状況をさらに悪化させることもできる』と」

    ロシア企業は、21%という高金利に苦しんでいる。トランプ氏は、こうしたロシア経済の苦境を知っており、「和平へ協力するなら制裁を緩和できるが、応じなければ状況をさらに悪化させることもできる」と迫っているのだ。ロシアは、トランプ氏の言うことを聞くほかない事態へ追込まれている。


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