中国政府はウクライナ戦争以降、ロシアから欧米による制裁を回避する実例を学ぶなど熱心だ。中国は、ロシアによる全面侵攻後の数カ月間に複数の省庁を横断する組織を設置したほどである。欧米による制裁の影響を研究し、指導部に報告書を定期的に提出している。これは、米国とその同盟国が台湾を巡る紛争で中国に同様の制裁を科した場合に備え、その影響を緩和する方法を学ぶことが目的だという。
中ロの経済規模は段違いである。中国が、世界のサプライセンターで西側経済と密接に結びついていることから、ロシアでは通用する回避策も中国に使えない限界がある。中国は、早とちりしないことが肝心だ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月2日付)は、「中国、制裁回避はロシア手本に 台湾有事に備え」と題する記事を掲載した。
中国政府当局者らは、定期的にモスクワを訪れ、ロシア中央銀行や財務省、また制裁対策に関わるその他の機関と会合を持っていると関係者らは述べた。中国によるこの動きはこれまで報じられていなかったもので、経済政策と地政学的戦略の境界線がますます曖昧になる中、ロシアのウクライナ侵攻によって引き起こされた新たな経済戦争の時代を象徴するものでもある。またこの傾向は、交渉と強制の手段として関税を活用するとしているドナルド・トランプ次期米大統領の2期目でさらに強まる可能性が高い。
(1)「中国政府の意思決定に近い関係者らは、(ウクライナ侵攻後設置した)複数の省庁を横断する研究組織が(台湾)侵攻準備を意味するものではないと注意を促し、政府として武力紛争とその経済的影響という「極端なシナリオ」に備えている状況だと述べた。中国にとっては、世界最大の3兆3000億ドル(約494兆円)以上に上る外貨準備も大きな懸念の一つとなる。ウクライナ侵攻後に米国やその同盟国がロシアの国外資産を凍結したことを受け、中国政府は米国債などドル建て資産から準備金を多様化する方法をより積極的に模索するようになっているという」
中国政府は、ロシアのウクライナ侵攻後に経済制裁による影響と回避策を研究している。だが、中国とロシアでは、経済規模や西側との経済依存度で格段の違いがある。部分的には参考になっても、制裁回避の「決め球」はない。
(2)「中国指導部が、外貨準備関連の制裁リスクを警戒していることを示すかのように、習近平国家主席は2023年秋、国家外貨管理局(SAFE)を珍しく訪問した。中国政府の意志決定に近い前出の関係者らはそう話す。習氏はその際、外貨準備をどのようにして守るかについて質問したという。対ロシア制裁に関する中国の省庁間グループは、経済・金融問題を担当する何立峰副首相の監督下にある。習氏直属の何氏は、中国経済を西側諸国の制裁から守る防御策を主に立案する役割を担っている。中国の対ロ接近に詳しい関係者は、「(中国政府は)事実上、あらゆることに関心がある。その範囲は制裁回避の方法から、内製化を進めるためのインセンティブといった(制裁の)各種プラス効果にまで至る」と述べた」
外貨準備高3兆3000億ドルの一部でも、差し押さえられなくするためには、米国債を保有しないことも手段だろう。だが、外貨準備は輸入決済に必要であるから一定量(普通は3ヶ月分)を必要とする。問題は、必要物資の輸入ができなくなる事態だ。中国経済は大混乱するであろう。
(3)「米シンクタンクの大西洋評議会とロジウム・グループによる昨年の報告書によると、西側諸国が全面的な金融制裁を実施すれば、中国の金融システムは混乱し、貿易も滞り、さらに中国が国外の銀行に預けている資産や外貨準備金3兆7000億ドルが危険にさらされるだろうと分析する」
中国経済の首根っこを抑えるには、西側諸国が全面的な金融制裁を加えることだ。輸出入業務はストップする。
(4)「米国務省の元制裁担当官エドワード・フィッシュマン氏は、(中国が)「対ロ制裁から得られた教訓の一つは、大規模な経済に制裁を科し始めると、国内で経済的・政治的な影響が出るということだ」と述べている。製造大国である中国は、グローバル・サプライチェーン(供給網)とのつながりがもたらす潜在的な落とし穴についても、ロシアの経験から学んだ」
西側が、大規模な経済に制裁を始めれば、「世界の工場」と言われる中国は身動きできなくなる。西側諸国が、サプライチェーンの「脱中国」を図っている理由もここにある。
(5)「ロシアは長年にわたり、経済の自給自足を目指してきたが、ほとんど失敗に終わっていた。制裁が科された時、同国は突然入手できなくなった西側の部品に深く依存していることに気付いた。その結果、モノ不足が生じ、自動車製造など産業全体が一時ストップした。生産再開後、ロシアの自動車メーカーは必要な部品がなかったため、当初はエアバッグなどの安全機能なしで車を製造した。フィッシュマン氏は、「制裁は、グローバル・サプライチェーンに組み込まれている全ての生産部門にとって本当に破壊的なものになり得る」と述べる。「それは中国を非常に脆弱(ぜいじゃく)にする」
下線部は、中国経済が世界経済に組み込まれている以上、「謀反」が不可能ということだ。「台湾は中国領」ということで気ままに動き出せば、その反作用は極めて大きいことを知るべきだろう。