勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース

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    ロシアのウクライナ侵攻から、すでに満2年を経て戦線は膠着状態である。ウクライナ支援の米英やEU(欧州連合)は、西側に預けられていたロシア中央銀行の約3000億ドルを巡って、没収論(米英)と利子利用論(EU)で意見が対立している。

     

    国際法上、国家資産は原則没収できないことになっている。ロシア資産を例外とする論拠にしたのは、国連の国際法委員会が2001年にまとめた文書が論拠である。それによると、違法行為によって特別に影響を受ける国は、加害国の責任を追及できると記した。米国はこれに基づき、予算の面などで影響を受けるG7も対抗措置が可能だと主張した。英国は、米国の意見に賛成している。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの凍結資産そのものの活用を求めている。資産没収には各国の国内手続きも必要になる。旗振り役の米国も、没収を可能にする国内法の成立は見通せていないのだ。独仏は、没収できるとする米国の解釈に真っ向から反論する。交戦状態にない第三国の資産を没収すれば、異例の措置となるからだ。国際法違反の悪しき前例になると訴えている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月11日付)は、「ロシア凍結資産の没収論。民間投資に逆風 歴史学者」と題するインタビュー記事を掲載した。米コーネル大ニコラス・ミュルデル助教授へのインタビューである。

     

    ウクライナ侵攻から2年がたち、主要7カ国(G7)はロシア向けの経済制裁の強化を模索している。凍結資産の没収といった踏み込んだ対応は、世界経済にどのようなリスクをもたらすのか。制裁の歴史に詳しい米コーネル大助教授(欧州近現代史)のニコラス・ミュルデル氏に聞いた。

     

    (1)「(質問)ロシア向けの経済制裁は歴史的にみて異例か。(答え)「これまでとは量的にも質的にも違う。イランやベネズエラのような小国ではなく、世界で10〜11番目の経済大国に制裁を科した例は1930〜40年代以来だ。エネルギー市場での存在感が強いため、ロシアに原油供給を続けさせながら値段を下げる上限価格措置が導入された点も新しい。ロシアの中央銀行の資産凍結までは一般的な対応だ。アフガニスタンやイランでも凍結した。ただ、資産を没収すれば大きな影響がある。通常は戦争後に勝利した国が実施するものだ。欧州にとって凍結資産はロシアに和解させる際の交渉材料にもなるはずだが、その影響力もなくなる

     

    ロシアの資産凍結は、過去の例でもみられた案件だ。だが、没収となると事態は複雑になる。ロシアが、永遠に戦争が可能でない以上、どこかで和平が求められる。凍結資産は、和平交渉の材料に使える、としている。

     

    (2)「(質問)G7の力は金融市場で圧倒的ですが、GDPのシェアは低下している。経済を武器として使うやり方は持続可能か。(答え)「重要な問いだ。米国が非常にユニークなのは、世界最大の経済大国でありながら産油国である点だ。ドイツはエネルギーを輸入に依存しているため、経済を武器として使えない。日本もロシアでの石油・天然ガス開発事業『サハリン2』のような事例があり、限界がある。経済を武器に使えるかどうかという観点でみると、米国は世界の歴史でみても特異な存在であり、他のほとんどの国にはまねができない」

     

    米国の没収論は、米国経済の特異性にある。米国が、世界最大の経済大国であり同時に、産油国であることだ。米国には、こうして強気の姿勢で交渉できる強みがある。ただ、他国はこれを鵜呑みにすると、後からロシアの「しっぺ返し」を受ける危険性を抱え込む。

     

    (3)「(質問)ロシア原油の価格上限のようにドルを武器として使うやり方は、ドル離れを加速させるのでは。(答え)「世界経済が、急速に脱ドルに向かう現実的な見通しは存在しない。ドルは、非常に重要な基軸通貨であり続ける。アジアの貿易取引では、ドルが人民元におされ始めているが、金融資産や外貨準備という点では人民元の量が足りないためドルの地位は維持される」

     

    米国が基軸通貨国である理由は、前述のように世界最大の経済大国であり、世界最大の軍事力を擁することにある。他国が、米ドルを資産として持つことに何らの不安もないのだ。ふらつく中国経済とは、比較にならない強みを持っている。

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    ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって、間もなく3年目を迎える。ウクライナは、多大な被害を受けながらも、国土を守り抜く強い意志を示している。だが、世論調査ではそういう強い意志をみせる国民は8割を下回っており、「休戦」の二文字がちらつき始めている。

     

    『毎日新聞』(2月15日付)は、「対露戦争3年目を前に疲弊漂うウクライナ 徴兵逃れや関心低下も」と題する記事を掲載した。

    ロシアの侵攻が続くウクライナ。昨年2月以来、1年ぶりに現地入りした記者(鈴木)が感じたのは、人々の間にじわりと広がる疲弊ムードだ。24日で3年目に突入する戦いは終わりが見えない。捕虜への関心低下や、兵員不足の深刻化など重い課題が浮き彫りとなっている。

     

    (1)「前線で戦った兵士のことを忘れるな!」「捕虜を解放させろ!」――。11日、首都キーウ(キエフ)市内の大通りの交差点。冬曇りの下で、ウクライナ内務省傘下の戦闘部隊「アゾフ大隊」の隊員家族ら約200人がプラカードを掲げてデモを行った。アゾフ大隊は開戦当初に、南東部の要衝マリウポリの製鉄所などを拠点としてロシア軍と激戦を繰り広げた部隊だ。製鉄所に立てこもった隊員たちは2022年5月中旬に投降し、ロシアの捕虜となった」

     

    南東部の要衝マリウポリの製鉄所は、激戦地で多数の犠牲者が出た場所だ。多くの兵士が、ロシア軍の捕虜となった。

     

    (2)「デモに参加したカトリーナさん(25)の婚約者の男性(27)は、今もロシアの収容所に捕らわれている。カトリーナさんは昨年6月にテレビ番組のニュース映像でロシアの法廷に姿を現した婚約者を見たというが、それ以降の消息は不明だ。「映像を目にしたときは驚きで息が止まるかと思った。痩せこけていて心配だ」と目に涙を浮かべる。ロシア側との捕虜交換で解放された隊員もいるが、現在でも700人以上が拘束されているとされる。手詰まり状態の戦況に、カトリーナさんは「兵士ではない私が無責任なことは言えない。ただ早く戦争が終わって婚約者が無事に帰ってきてほしい」と声を落とした」

     

    捕虜の解放を待つ身にしてみれば、早い戦争終結を待ちわびている。 

     

    (3)「毎週日曜に続けるこのデモの企画者の一人、ターニャさん(44)は「ウクライナの人々も戦争状態に慣れたり疲れたりしてきている」と指摘する。捕虜の存在にも関心が薄れてきているといい、「彼らは英雄だ。忘れてはならないと訴え続ける」と力を込めた。総動員令が出ているウクライナでは、18~60歳の男性は出国が原則禁止されている。地元メディアによると、侵攻開始後の数カ月間は何万人もの男性がこぞって兵役を志願したが、熱意は次第に低下。前線では兵員不足が深刻化している。ゼレンスキー大統領は昨年12月、最大50万人の追加動員を検討中と明かした」

     

    ゼレンスキー大統領は昨年12月、最大50万人の追加動員を検討している。18~60歳の男性は、すでに全員が出国禁止されている。そのなかで、50万人を動員できるのか。

     

    (4)「こうした状況の中、徴兵逃れが大きな問題となっている。英公共放送BBCは昨年11月、これまでに約2万人の男性が国外に出国したと報道。また、約2万1000人が出国に失敗してウクライナ当局に拘束されたという。徴兵事務所から数回にわたって兵役を呼びかける手紙を受け取ったという男性(31)は匿名を条件として取材に応じ、「適切な装備も訓練もなく前線に放り込まれるのは絶対にごめんだ」と語気を強めた。軍の徴兵担当者らが街頭で対象者をチェックしている場合があるといい、外出の際には、仲間らとネット交流サービス(SNS)で情報交換をするなど警戒しているという。「強制的に徴兵事務所に連行されるのではないかと恐怖を感じている」と話すこの男性。「2年前は国の未来を守るために兵役を志願する人々がいた。今、私は妻と6歳の長女を守るため、戦場へ行くことを拒否する」と断言した」

     

    戦争忌避する人々もいる。中には、不正手段で出国するという事態も発生している。こういうなかで、ゼレンスキー大統領は今後の展望をどのように描いているのか。戦闘機の導入が本格化すれば、新たな展開も期待できるのであろう。

     

    (5)「ウクライナの世論調査機関「キーウ国際社会学研究所」が23年12月に公表した世論調査によると、「どんな状況の下でも領土を諦めるべきではない」と回答したのは74%。多数派ではあるが、22年5月からの調査で初めて8割を下回った。また、「平和のために領土を諦めてもよい」と答えたのは全体の19%で、昨年5月の10%から9ポイント上昇している。回答者の居住地域別にみると、激戦が続くウクライナ東部では25%が「諦めてもよい」と回答。南部、中央部、西部よりも領土放棄を容認する割合が高くなっている。一方で、「領土を諦めてもよい」と答えた人のうち71%は「西側諸国からの適切な支援があれば(露軍の撃退に)成功できる」と回答。「領土を諦めるべきではない」と答えた人では93%が同様の回答をしている。市民レベルでも、欧米の軍事支援が戦況のカギを握ると強く意識している模様だ」

     

    最終的には、ウクライナ世論が停戦=和平案を決めることだ。その時期は、24年中に来るであろうか。

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    ウクライナのゼレンスキー大統領が8日、ザルジニー総司令官を解任した。後任のシルスキー氏は、これまで陸軍司令官を務めてきた。シルスキー氏は、ザルジニー氏よりも年長者であらが、ザルジニー総司令官の補佐を快く務めるなど軍人らしい「度量」の大きさをみせてきた。あくまでも、「国家防衛」という任務に徹する軍人タイプである。

     

    世上では、今回の交代人事についていろいろ取り沙汰されている。ザルジニー氏の国民的な人気が高いことから、ゼレンスキー大統領にとって次期大統領選でライバルになる恐れがあるので交代させたというものである。

     

    こういう「陰謀説」は説得力を持つが、ウクライナ防衛が行き詰まっている現在、総司令官交代は当然である。米国では、作戦に失敗すれば司令官を交代させるのは常識である。旧日本軍の常識では、勝ち戦まで「司令官を変えない」が、これこそ異常である。旧日本軍は、この悪弊のために多くの将兵が命を失う羽目になった。新しい司令官の下で作戦計画を立て直すことだ。

     

    『ロイター』(2月9日付)は、「ウクライナ大統領、国民に人気の軍総司令官更迭 米『決定を尊重』」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、ウクライナ軍のザルジニー総司令官の更迭を発表した。後任に陸軍のオレクサンドル・シルスキー司令官を充てる。国民的英雄と見られているザルジニー氏と大統領の間に亀裂があるとの憶測が出ていた中、同氏の解任は前線部隊の士気に影響を与えるほか、大統領の評価にも傷がつく可能性がある。

     

    (1)「ゼレンスキー氏は、声明で「きょうから新しい指導部がウクライナ軍を引き継ぐ」と表明した。ウメロフ国防相も、軍の指導者を交代させる決定が下されたと声明で発表した。ゼレンスキー氏は声明で、ザルジニー氏とウクライナ軍に必要な刷新について協議したとし、誰が軍の新たな指導者に得るかについても話し合ったと表明。ザルジニー氏に自身のチームにとどまるよう要請したとした」

     

    ウクライナにとっては、西側諸国の軍事支援に陰りが出ている中で、効率的な戦い方を迫られている。総司令官を交代させることは、作戦の見直しに結びつく。

     

    (2)「ザルジニー氏は、自身の声明で大統領と「重要かつ真剣な対話」を行い、戦術と戦略を変更することを決定したと表明。「(ロシアによる全面侵攻が始まった)2022年の課題と24年の課題は異なる」とし、「勝利するために、誰もが新しい現実にも適応しなければならない」と述べた。ゼレンスキー氏は、軍を率いたザルジニー氏への謝意を示し、2人が笑顔で握手している写真を投稿した。発表後、「鉄の将軍」として知られたザルジニー氏への感謝のメッセージがソーシャルメディアにあふれた。昨年終盤の世論調査では、国民の90%以上がザルジニー氏を信頼していると回答。ゼレンスキー氏の77%を大きく上回った」

     

    ザルジニー氏を総司令官へ抜擢したのは、ゼレンスキー大統領である。シルスキー氏という年長者を差し置いての起用が、見事に成功したと評されてきた。今度は、逆にシルスキー氏を総司令官へ起用して膠着した戦線を見直すのは、十分にあり得る戦術交代だ。

     

    (3)「ゼレンスキー氏は、ザルジニー氏更迭を決めた背景には昨年の失敗があったと示唆。「この戦争の2年目、われわれは黒海を制した。冬を制した。ウクライナの空を再び支配できることを証明した。しかし、残念なことに地上では国家の目標を達成できなかった」と述べた。「ユキヒョウ」のコールサインで呼ばれる後任のシルスキー氏(58)については、22年のキーウ防衛と同年のハリコフ反攻を指揮した際の功績を挙げた」

     

    シルスキー氏は、ロシア人である。両親や親戚は、ロシア在住でロシア国籍を持つ。父親はロシアの退役軍人であり、また兄弟もロシアに住んでいる。ロシア在住の両親は2019年、ウクライナで禁止されているゲオルギーリボンをつけて行進する等ロシア愛国者である。こういう家庭環境から、ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は9日、シルスキー氏を裏切り者だと批判した。

     

    シルスキー氏は、1965年7月に当時ソ連の一部だったロシアのウラジーミル地方で生まれ、同世代の多くのウクライナ軍関係者と同様、モスクワの高等軍事学校で学んだ。ソ連軍に5年間在籍し、1980年代からウクライナに住んでいる。ソ連崩壊後のロシア軍に在籍したことはない。こういうシルスキー氏の経歴をみると、筋金入りの「ウクライナ軍人」と言えよう。

     

     

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    米国政府は、ロシアの凍結資産3000億ドル(約42兆3600億円)相当を接収する方策について、主要7カ国(G7)の作業グループで検討するよう提案したと英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)が28日報じた。米国は、ロシアによるウクライナ侵攻から2年の節目となる来年2月24日に間に合うよう合意を急いでいるという。

     

    事情に詳しい複数の関係者がFTに語ったところでは、12月開かれたG7財務相のオンライン会合で協議されたが、決定には至っていない。FTによれば、欧州各国で引き続き活発に検討され、ウクライナ支援への活用に向け、ロシア資産接収に向けた作業が加速している。西側にとって、その重要性が増す状況を浮き彫りにすると同紙は伝えた。

     

    米国政府が、ロシアの凍結資産の接収について結論を急いでいるのは、米議会で共和党がウクライナ支援を渋っていることと関係があろう。共和党は、来秋の大統領選でバイデン大統領を破るためには、ウクライナ侵攻でロシアの勝利が打撃を与えられるという近視眼的な対応を始めているからだ。こういう事態を見据えて、米国政府は苦肉の策に出ている。

     

    『フィナンシャル・タイム』(12月13日付)は、「米共和党で広がるプーチン支持の影」と題する記事を掲載した。

     

    米国の外交政策において、ウクライナを巡る問題ほど議論の流れが大きく変わった例はあまりない。1年前にはロシアを分割し、プーチン大統領を戦争犯罪で裁くべきだと議論していた。ところが米議会は今、ウクライナ支援を継続すべきかどうかで分かれ、紛糾している。米政府はウクライナがロシアの手に落ち、それにより西ヨーロッパがロシアの脅威にさらされるようになるのではないかとのリスクにおびえている。

     

    (1)「客観的に分析すると、ロシアのウクライナ侵攻による地上戦は、西側諸国がウクライナ支援を継続できなければプーチン氏に有利に傾くことは明らかだ。プーチン氏は今、米国の「ウクライナ支援疲れ」につけ込み、同国のもう片方の腕をも無力化しようとしている。それは、ここへきて米国内でかつてないほど存在感を増しているプーチン氏に好感をもつ、あるいは共感する人々の力を活用しようという目論見だ。共和党は強力なウクライナ支持派と、孤立主義とあからさまなプーチン信奉者がない交ぜとなった勢力に二分している」

     

     

    共和党内には、プーチン支持派が増えているという。目的は、バイデン大統領を窮地に追込むことである。

     

    (2)「ウクライナ支援に反対する主張のほとんどは精査すれば根拠に欠けることがわかる。米国からの支援金の大半は米国内での兵器製造に使われており、ウクライナに直接投入されるわけではない。ウクライナへの支援額は米連邦予算の1%にも満たない。金融支援としてウクライナ政府に送られる米ドルは厳しい監査を受けており、大型ヨットの代金などに使われることは決してない。また米国がウクライナで実際に戦っているわけではないので、米市民の間でウクライナ戦争に対する疲労感が生じているということもほぼない」

     

    ウクライナへの支援額は、米連邦予算の1%にも満たない金額である。それでも、共和党の一部は、バイデン大統領を困らせて大統領選で共和党の勝利に導こうという狙いであるという。

     

    (3)「よく耳にするのは、ウクライナ支援に1ドル支出するたびに台湾防衛のための資金が1ドル減るという議論だ。だが、実際はその正反対に近い。中国とロシアは「制限なき」協力関係を結んでおり、米国の弱体化を狙っている。それを達成するための最も効果的な取り組みはロシアがウクライナ戦争で勝利することだ。そうなれば北大西洋条約機構(NATO)の士気が下がり、欧州の穀倉地帯はロシアの手に落ちるだろう。軍事戦略家が100年以上前から指摘してきたように「ウクライナを制する者がユーラシアを制す」ということになるのだ。むしろ、米国がウクライナに兵器を送るたびにロシアはウクライナ戦争に勝つことが難しくなるわけで、そのことは中国に台湾問題について熟考させることにつながる

     

    ロシアがウクライナで勝利を収めることは、中国の台湾侵攻を促す口実になる。こういう関連性を共和党議員は、理解していないようである。

     

    (4)「なぜ、プーチン支持者がここまで米共和党内に広がるのだろうか。それはプーチン氏がバイデン氏の敵だからだ。「敵の敵は自分の味方」ということで、それ以上複雑な事情はない。米国の極右勢力には純粋にプーチン氏を支持する人もいるが、プーチンの肩を持つ大多数はトランプ米前大統領のような現金な日和見主義者だ。つまり、「バイデン氏にとって悪いことは共和党にとってよいこと」であり、従ってウクライナが負ければ、それは共和党にとって喜ばしいことを意味する

     

    米共和党の一部が、プーチン氏の肩を持つのはバイデン大統領を困らせることが目的である。米国政府は、こういう共和党の動きを封じるべく、ロシアの接収資産3000億ドルを、戦費に充てる案を大急ぎでまとめようとしているのであろう。

     

     

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    ロシア大統領のプーチン氏は3月、モスクワで開かれた中ロ首脳会談で、「5年間はウクライナで戦う」と習中国国家主席へ発言したという。この発言が、何を意味するかだ。単なる張ったりをかませて、中国が逃げ腰にならないように引き留めようとしたのか。その真意を巡って日本までが頭を悩ませいるのだ。5年間と言えば、2028年である。習氏が国家主席3期目の最後になる。習氏は、このプーチン発言に合わせて「台湾侵攻」計画を練るのか。 

    『日本経済新聞 電子版』(12月27日付)は、「『ウクライナで5年戦う』習氏動かすプーチン重大発言」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。 

    「(少なくとも)5年間は(ウクライナで)戦う」。ロシア大統領のプーチンは、中国国家主席の習近平(シー・ジンピン)を前にこう断言した。これは直近、10月にあった北京での中ロ首脳会談ではない。その7カ月前、ロシア・モスクワのクレムリンで両首脳が長時間、顔を付き合わせた3月の中ロ首脳会談である。ここが重要だ。

     

    (1)「このプーチンが口にした「重大発言」は、極東に位置する日本に無関係ではない。いや、日本の今後の国際政治、国家の在り方まで左右しかねないのである。一連の経緯を明かしたのは、中ロ両国の長く複雑な駆け引きをよく知る複数の関係者らだ。この3月の中ロ首脳会談には、多くの謎が残されていた。習の訪ロは、ウクライナ全面侵攻が始まってから初めて。しかも新型コロナウイルスを厳格に封じ込める「ゼロコロナ政策」の撤廃後、初めての大国訪問だった。それだけに、その後の中ロ関係を決定付ける大きな意味があった」 

    プーチン氏のウクライナ侵攻「5年継続発言」は、中国にとってどう受け取られたか、だ。台湾侵攻する上で、好機とみるかどうかである。「好機」とみるとすれば、習氏の浅慮が問題となろう。中国では、ロシア評価がきわめて低いからだ。

     

    (2)「その謎を解くカギとなる発言が、プーチンの「5年は戦う」という心情吐露だ。必ずしもロシアに戦況が有利ではない当時の状況下で、中国に対して「ロシアは必ず勝つ。間違えるな。決して逃げないように」と暗に釘をさしたとも言える。裏にあるのは、当面の間、ウクライナでの戦いが膠着し、不利に見えたとしても、超長期戦に持ち込めば軍事的な体力に勝るロシアに有利な状況が生まれるという冷徹な読みである。一方、習の中国は、3月段階のプーチン重大発言も踏まえながら、その後の戦略を考えた。ロシアとウクライナの戦いが超長期戦になるなら、中国共産党内で超長期政権へ地歩を固めた習の今後にも大きな影響がある。例えば、統一という大目標を掲げている台湾問題も含めてだ」 

    習氏にとっては、プーチン発言をどう捉えるかだ。中国経済が混乱している現状で、プーチン氏の尻馬に乗って台湾侵攻を始めれば、大変な結末を迎えかねないからだ。 

    (3)「習がプーチンの言葉をそっくりそのまま信じたとも思えない。なぜなら、その1年余り前だった22年2月4日の中ロ首脳会談を巡る「遺恨」があるからだ。それは北京冬季五輪開会式当日の出来事だった。22年2月の北京会談でプーチンは、ウクライナに全面侵攻する計画に関して、おくびにも出さなかった。ところが、その20日後からウクライナの首都、キーウ(キエフ)制圧を目指す電撃攻撃に踏み切った。だまし討ちである。この前段の経緯を理解するなら、23年3月のモスクワでの中ロ首脳会談で、プーチンの口から「5年は戦争を続ける」という趣旨の言葉が飛び出していたとしても、その内容をそのまますべて信じて、中国の行動を決めるわけにはいかない。それは当然だろう」 

    中ロは、同盟関係にない。この点を割り引くべきである。プーチン氏が、習氏へウクライナ侵攻について事前に語らなかったのは同盟関係にない限界によるであろう。

     

    (4)「中国としては、複雑な国際情勢の下、ウクライナ情勢がどう転んでも自国の利益を守る方策を考える必要があった。それが、3月のモスクワ会談から2カ月もしないうちに、ウクライナとロシア両国を含む欧州に送った中国による「平和の使節団」だった。中国の微妙なシフトチェンジが見てとれる。この行動は、「今、世界は『百年に一度』しかない大変局にある」と繰り返していた習の危機意識の延長線上にある。5年もの長い間、ウクライナでの戦争が続けばどうなるのか。侵略者と見なされているロシアと多岐にわたる軍事協力にまで踏み込んでいる中国にも、米欧からこれまで以上の様々な圧力がかかるのは必定だ」 

    中国経済は、西側諸国との協力を絶っては存続できないほど深い依存関係になっている。それが、台湾侵攻で全て消える事態になれば、習氏の政治生命へ大きな影響を与えることになろう。 



    (5)「プーチンが、ウクライナで「5年は戦う」と習に告げた経緯は、回り回って日本の今後の国家の在り方にも影響する。それは、長く武器輸出を禁じてきた大原則の見直しである。すぐ影響する大変化は、防衛装備移転3原則と運用指針の見直しにより、日本でライセンス生産された地対空誘導弾「パトリオットミサイル」の米国への輸出を認めたことだ。もし、ウクライナ侵攻が5年も続くなら、その間に、日本の武器輸出に関する考え方もさらなる変更を迫られかねないのである。そして、これは習の中国が武力行使を否定しない台湾統一問題に絡む諸情勢にまで関わってくる」 

    日本もプーチン発言から影響を受ける。防衛体制を固めなければならないからだ。武器輸出問題も緩和せざるをえなくなってきた。原理原則に拘っていると、自国防衛にとって逆効果になるという環境変化が起こっているからだ。

     

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