勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: ロシア経済ニュース

    テイカカズラ
       

    トランプ米大統領は10日、米NBCテレビのインタビューで「14日にロシアに関する重大な声明を発表するつもりだ」と述べた。詳細は明かさず「ロシアには失望しているが、数週間で何が起こるか見ていく」と語った。

     

    トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)を通じて、ウクライナへ新たな武器を供与する方針を示した。「米国はNATOに武器を送り、NATOがその費用を100%負担する。NATOが武器をウクライナに渡してNATOが費用を負担する」 と表明した。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月10日付)は、「プーチン氏『口先だけ』平和戦略、トランプ氏は忍耐切れ」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ氏は、ロシアによる空爆が続いていることを批判し、ウクライナへの兵器供与を再開する方針を示している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)は8日、トランプ氏がウクライナに地上配備型長距離防空システム「パトリオット」を追加で供与することを検討していると報じた

     

    (1)「ロシアのプーチン大統領は、厳しい選択を迫られている。戦場での優位を追求して米国から一段と大きな対応を招くリスクを取るか、それとも要求に関して一切妥協しないというこれまでの立場を後退させるのか。トランプ氏は8日、プーチン氏と関係が悪化していることを、これまでで最も明確に示した。閣僚会議でプーチン氏について「でたらめばかり並べ立てている」と述べ、「感じは良い」が、発言の多くは無意味なことが分かった、と続けた」

     

    プーチ氏は、口先で適当な発言をしている。本心では、戦争を止める意思がない。トランプ氏は、こう見抜いている。

     

    (2)「ここ数週間、ロシアはウクライナ東部での領土拡大に向けて攻撃を強め、同国の都市への空爆を激化させている。戦争を終結させると表明し、ウクライナとロシアに和平交渉開始を促してきたトランプ氏は、不快感を強めている。7日には、ロシアの攻撃に耐えられるようウクライナに兵器を供与すると述べた。ロシア政府は8日、米国との対話の余地を残したい意向を示した。米国がウクライナに供与する兵器について確認中だとし、トランプ氏の和平仲介への取り組みを評価していると強調した」

     

    ロシアは、なんとかしてトランプ氏を引きつけておきたいと必死だ。それだけに、14日のトランプ重大発表をどう受け取るか。

     

    (3)「ロシアのペスコフ大統領報道官は、米国と欧州を区別しようとした。「欧州もウクライナへの兵器供与に積極的に参加していることは明らかだ」とし、「こうした行動は、平和的解決を促そうとする試みとは、おそらく合致しないだろう」と述べた。一方で、ロシア政府内では米国のことは忘れて戦争への取り組みを強化すべきとの声も上がっていた。ロシアのタカ派で過去に大統領を務め、現在は安全保障会議副議長のメドベージェフ氏は、トランプ氏が大統領2期目に就任する前からプーチン氏が主張している立場を指摘した。それは、ロシア政府の要求を認める和平合意に至らなければ、同国は戦闘を続けるというものだ」

     

    ロシアの本心は、ロシアの要求を認めなければ、戦闘を続けるというものだ。トランプ氏は、こういうロシアへどう対応するのか。

     

    (4)「ロシアは、これまでのところ交渉で強硬姿勢を崩しておらず、戦争の解決には「根本的な原因」に対処する必要があると主張している。これはウクライナの非武装化と同国の政治に対する支配力を再び確立したいというロシアの意向を指している。アナリストらによると、プーチン氏は当初、外交を通じてこうした目標を達成できる相手としてトランプ氏を見ていた。こうした取り組みは、ロシアと関わろうとするトランプ氏の意欲と相まって、当初は成果を上げているように見えた」

     

    ロシアは、ウクライナの非武装化と、ウクライナへの政治的支配力の確立が狙いだ。ウクライナの属国化である。応じられるはずがない。これでは、決裂である。

     

    (5)「トランプ氏のロシアに対する姿勢は、ここ数週間で変化している。プーチン氏がイスラエルとイランの対立を巡って仲裁支援を申し出た際、トランプ氏はそれを退けた。「私は言った。『頼むから、自分自身のことを仲裁してくれ。まずはロシアのことを仲裁しよう』と」。先週の両首脳の電話会談で、トランプ氏は後に失望を表明した。「彼はその気がないと思う」とプーチン氏について語った。「彼が止めようとしているとは思えない。それは残念なことだ」。ここ数日間でプーチン氏に対するトランプ氏の口調は大きく変化したものの、トランプ氏はウクライナ支援にどこまで踏み込むつもりなのかは示していない」

     

    ロシアは、プーチン氏へ手を回してウクライナを支配する意図だ。これは、不可能であろう。トランプ氏が、応じるはずがない。

     

    (6)「米国との関係が明らかに後退しているにもかかわらず、ロシアは目標を諦めていない。それどころか、長期戦に向けて態勢を整えている可能性が高いとアナリストらは指摘する。カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのタチアナ・スタノバヤ上級研究員は、25年にわたって米国の大統領たちと交渉してきた経験を持つプーチン氏は、トランプ氏が見解を変える傾向があることを知っていると述べた。トランプ氏は現在、ウクライナの決意を称賛し、苦境に立つ同国への支援拡大を約束しているかもしれないが、すぐに再びプーチン氏の主張を支持する可能性がある」

     

    ロシアは、プーチン氏の心変わりを待っている。

     

     

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    中国軍は、近代戦の経験ゼロという希有の軍隊である。ロシアのウクライナ侵攻で、武器がどのように使われているかに興味津々という。前線での情報収集に、全力を注いでいるととみて間違いない。これを裏付けるように、中国はロシアと戦闘用ドローン製作で協力している。ロシア企業の文書でそれが確認された。

     

    『ブルームバーグ』(7月8日付)は、「中ロが戦闘用ドローンで協力-ロシア企業の文書で判明」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領がウクライナへの本格的な侵攻を開始して間もなく、戦闘用ドローン(無人機)の不足という差し迫った課題に対処するため、ロシアの無名企業が中国企業との連携を図る計画を立てていた。ブルームバーグは、ロシア政府から資金提供を受けているドローン製造企業、アエロHITの社内文書を検証した。ロシア政府関係者とのやり取りなども含まれているこれらの文書は、プーチン政権が中国政府との友好関係を利用して西側の制裁を回避し、ウクライナを攻撃するドローンの製造に必要な技術や能力をいかにして手にしたのかが示されている。

     

    (1)「ロシアが、ウクライナで始めた戦争を巡り、中国の習近平指導部はいずれの側にも武器を供給していないと主張している。だが、センシティブな技術が中国からロシアへと移転している実態をこれらの文書は明らかにした。ロシアと中国の企業によるこれまで報じられてこなかった防衛技術分野での連携の詳細が2022年後半から25年6月までの企業文書から浮かび上がった」

     

    中国が、ドローン製作でロシアへ協力している動かせぬ証拠がみつかった。

     

    (2)「アエロHITは、ロシア極東のハバロフスク空港近くにある自社工場で、今年中に月産最大1万機のドローン生産が可能になるとしている。より高度な機種投入に向けた生産拡大も計画している。同社は急速に成長。ウクライナ南部ヘルソン州での軍事作戦において、ロシアの主要なドローンサプライヤーの1社だ。プーチン氏は戦争終結に向けた合意には、同州全域をロシアの支配下に置くことが不可欠だとしている。アエロHITの製品には、一人称視点(FPV)ドローン「Veles」が含まれている。操縦者が画面や仮想現実(VR)ゴーグルを通じて機体搭載カメラの映像をリアルタイムで確認できるFPVドローンは、戦争の両陣営にとって極めて重要な兵器となった」

     

    アエロHITは、ロシア極東のハバロフスク空港近くにある自社工場で、今年中に月産最大1万機のドローン生産が可能になる。

     

    (3)「複数の報道によれば、ロシアはFPVドローンでヘルソン市の民間人を意図的に標的にしている。ウクライナは同市を22年後半に奪還した。FPVドローンの価格は仕様によって数百ドルから数千ドルまで幅がある。ブルームバーグが確認した24年3月の注文書によると、Veles100機の発注価格は総額800万ルーブル(現在の為替レートで約1500万円)、1機当たり約15万円だった」

     

    FPVドローンの価格は、仕様によって数百ドルから数千ドルまで幅がある。Veles1機当たりは、約15万円だった。

     

    (4)「アエロHITは、23年前半からオーテルのエンジニアと協力関係を築いている。制裁の影響で一時中断したものの、24年末ごろには再び連絡を取り合い、25年5月からドローンのロシア生産に向けた交渉をしていることが書簡で示されている。書簡にはEVO MAX 4Tが民間用に設計されたものの、電子戦に強い無線モジュールなどの特性により戦闘で高い効果を発揮しているとの説明がなされ、最大で年3万台を生産する計画が描かれている」

     

    オーテルは、ドローン企業で名門だ。ロシアと密接な関係を築いていている。

     

    (5)「ロシア軍が、ウクライナ侵攻を開始した22年2月時点で、オーテルはロシア企業との取引や関係を一切否定し、アエロHITとの協力やEVO Max 4Tの現地生産計画についても認識していないとしている。ロシアとの直接・間接的な取引を同月に全面的に停止し、厳格な社内コンプライアンス(法令順守)を導入したというのがオーテルの言い分だ。オーテルは、24年11月に英国が制裁対象とし、今年1月には米国防総省が中国軍との関係を理由にブラックリストに指定した」

     

    オーテルは、すでに英国と米国でブラックリストに乗っている。証拠を掴まれたのだ。

     

    (6)「中国政府は、軍事転用可能なドローンのようなデュアルユース(軍民両用)製品の輸出を管理していると繰り返し表明している。ただ、一部の中国企業がロシア企業と取引を続けていることについて、中国政府がどの程度把握しているかは、今回検証した文書では分かっていない。中国外務省は取材要請に応じなかった」

     

    ドローンは、軍事転用可能だけにデュアルユース(軍民両用)製品の線引きは困難である。中ロは、こういう「曖昧」な隙を突いて協力しているのだろう。

     

     

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    イラン政府は23日、アラグチ外相をロシアに派遣した。米軍による大規模な攻撃を受け、プーチン大統領にさらなる支援を要請することが目的だ。関係筋が、ロイターに語ったところによると、アラグチ氏は最高指導者ハメネイ師からの親書をプーチン氏に手渡し、支援を求めるもの。イランの関係筋は、イランはこれまでのところロシアの支援に満足しておらず、イスラエルと米国に対抗するためプーチン氏による支援強化を期待していると述べた。『ロイター』(6月23日付)が報じた。

     

    プーチン氏の対応は、冷たかったようだ。プーチン氏は、米国やイスラエルによるイランへの攻撃を非難し、同国を支援する姿勢を示したものの具体的な内容には踏み込まなかった。ウクライナ侵略で仲介役を務める米国との関係改善に取り組むなか、中東への積極的な仲介に距離を置いているのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月24日付)は、「プーチン氏、イランに支援策示さず 米国との関係改善を重視」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア大統領府によると、プーチン氏は会談の冒頭でイランへの攻撃について「いかなる根拠も正当性もない」と述べ、米国やイスラエルを非難した。ロシアとイランの信頼関係に言及し「イラン国民を支援する」と強調した。

     

    (1)「プーチン氏は、同日にイラクのスダニ首相とも電話協議した。米国によるイランへの核施設攻撃などについて意見交換し、武力対立の早期終結と政治・外交的解決を求めていくことで一致した。プーチン氏は武力衝突に揺れる中東諸国の首脳や高官と相次ぎ会談や協議を開き、中東でのロシアの存在感を維持しようとしている。ロシアが肩入れしてきたシリアのアサド政権は反体制派の攻撃で2024年12月に崩壊し、アサド前大統領はロシアに亡命した。これ以上の中東での影響力低下は避けたいとの焦りも透ける」

     

    プーチン氏は、相手の苦衷を聞くだけの役割に止めている。それ以上は、行動しないという姿勢である。

     

    (2)「プーチン氏は、軍事支援を含むイランへの具体的な支援の内容には踏み込んでいない。「現時点ではロシアはイランへの政治支援以上のことはしないだろう」(ロシアの政治評論家)との見方が強まっている。ロシアはウクライナ侵略を巡ってイランから攻撃型無人機(ドローン)などの供給を受けてきた。25年1月には同国と「包括的戦略パートナーシップ条約」を結び接近を強めてきたが、プーチン氏は19日に外国通信社との会見でイランへの軍事支援やパートナーシップ条約について問われた際、「この条約には防衛分野に関する条項はない」と話した。ロシアとしては軍事支援する理由がないとの考えを強調した」

     

    ロシアは、イランと「包括的戦略パートナーシップ条約」を結んだが、単なる精神論に止まっている。

     

    (3)「ロシアは、北朝鮮とも24年6月に包括的戦略パートナーシップ条約を締結している。こちらの条約では一方の締約国が武力侵攻を受けた際の軍事援助を規定しており、ロ朝の関係は事実上の軍事同盟に格上げされた。北朝鮮からはウクライナ侵略を巡って砲弾や兵士の支援も受けており、足元ではイラン以上に結びつきは強まっている」

     

    ロシアは、北朝鮮との「包括的戦略パートナーシップ条約」では、軍事援助を規定している。北朝鮮から兵士を派遣してもらっている間柄だ。

     

    (4)「イランの核施設を攻撃した米国のトランプ政権は、ウクライナ侵略を巡る仲介役だ。ロシアは、ウクライナ東・南部4州からのウクライナ軍の撤退など自国に有利な条件での停戦を目指しており、米国との関係改善の優先度は高い。18〜21日まで開催されたサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでは、米ロ関係について協議するプログラムを設けた。同フォーラムに参加したロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁は18日、「(米ロ間の)直行便の再開が非常に重要」だと強調し25年中の再開に期待を示した。ドミトリエフ氏は米国との経済協力を担当し、4月に訪米して首都ワシントンのホワイトハウスで米国のウィットコフ中東担当特使と会談した」

     

    ロシアにとっての米国は、ウクライナ侵攻での大事な仲介役である。その米国を怒らせる訳にいかないのだ。イランへは、リップサービスに止まっている。

     

    (5)「米国との関係にも配慮し、積極的な介入から距離を置いているもようだ。プーチン氏は20日の同フォーラム本会議の質疑で「仲介を目指しているわけではない」と強調し、解決に向けたアイデアを提示しているだけだと「及び腰」ともとれる発言が目立った。中東を巡る武力衝突が激化する中、ロシアはウクライナの前線で攻勢を強めている。ロシア軍はウクライナが越境攻撃を仕掛けたロシア西部クルスク州と国境を接するウクライナ北東部スムイ州で攻勢をかけている」

     

    ロシアにとってのイランは、北朝鮮と比べて劣位の関係にある。イランが泣きついてきても、支援できない事情にあるのだ。

     

     

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    ロシア大統領プーチン氏は、イスラエル・イランの紛争解決で米国へ仲介を申し入れ断られる醜態を演じた。トランプ氏が、「ウクライナ問題を解決せよ」と撥ねつけたのだ。自分の頭のハエも追えない状況で、他国紛争へ介入しようとは不思議な感覚である。ロシアは、イラン盟友国として少しでも動かねばならない「義務感」を持ったのだ。

     

    ロシアは、ウクライナ侵略が長引いて戦時経済の減速が鮮明であり、アジアや新興・途上国のグローバルサウスとの連携を強めようとしている。この最中に、イスラエルのイラン急襲が始まった。核開発阻止という大義名分である。

     

    これまでロシアは、ウクライナ侵略が続くなか、兵器生産など軍需が主導し経済成長を牽引してきた。最近は、経済の減速基調が鮮明になっている。ロシア政府に近い経済調査機関は17日公表の報告書で、ロシア経済について「製造業で停滞が続いている」などとし、特に民間部門の減速を指摘した。こういう状況下で、イラン支援余力がないのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月20日付)は、「ロシアはイラン支援困難か 仲介関与見通せず、中東で影響力低下」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがイスラエルからの攻撃を受けるイランの支援に動けずにいる。ウクライナ侵略でイランから兵器を供与されたにもかかわらず、イスラエルへの非難にとどまる。ウクライナとの戦争に力をそがれ、中東情勢への影響力低下が露呈した。

     

    (1)「ロシアのプーチン大統領が、仲介役に意欲を示すもトランプ米大統領は否定的な考えを示した。戦闘停止に向けた調整に関与する道筋もみえない。プーチン氏は19日、イランへの軍事支援の用意があるかを問われ「頼まれていない」と述べた。両国が1月に結んだ「包括的戦略パートナーシップ条約」に有事の軍事支援は含まず、防空ミサイルなどを供与する予定はないとの認識を示した」

     

    ロシアは、条約がない以上イラン支援をしない。当然と言えば当然だが、盟友国へ冷たい態度だ。

     

    (2)「ロシアとイランは、反米姿勢で結束を強めてきた。イランは侵略を続けるロシアに攻撃用のドローン(無人機)や弾道ミサイルを供与し、無人機の量産体制の確立も後押しした。英国防省は中東情勢がロシアへの兵器供給に影響を与える可能性を指摘する。ロシアは、イスラエルとイランの衝突が長引くことでイランの体制が崩壊しかねないと警戒する」

     

    ロシアは、イランの政治体制崩壊を警戒している。ロシアにとっては、イランが数少ない親近国である。

     

    (3)「中東では、ロシアとイランが支えたシリアのアサド政権が2024年に崩壊した。ロシアは、15年にシリアに軍事介入して中東で影響力を強めた。イランまで失えば中東でのロシアの力はさらに弱まる。プーチン氏は19日、イランの最高指導者ハメネイ師殺害の可能性について「話したくもない」と不快感をあらわにした。とはいえ、イスラエルとイランの戦闘停止に向けた仲介役として関与する試みも実現の見通しはない」

     

    イランに政治異変が起れば、ロシアはアラブでの足場を失うことになる。それだけに、心中は複雑な思いであろう。

     

    (4)「プーチン氏は19日の中国の習近平国家主席との電話協議で仲介の用意があると伝えた。ロシア大統領府は、習氏が賛同したと発表したが、具体的な措置を示せずにいる。仲介はかねてプーチン氏が米国に提案してきた。イランとの関係をテコに情勢に関わり、トランプ氏を懐柔する余地を探った。ウクライナから注意をそらす狙いもあったとみられるが、思惑通りにはいかなかった。トランプ氏は「まずは自分のところを仲裁しろ」とウクライナとの停戦を主張し、プーチン氏の提案を断ったという」

     

    中ロは、口先だけのイラン支援にとどまっている。米国との全面対決を避けたいからだ。

     

    (5)「侵略を続けるロシアが、イランの支援に使える選択肢は限られる。一方で「イランを見捨てた」との印象が広がれば、ロシアと協力してきた体制維持を優先する強権的な国が対ロ関係を再考することも考えられる」

     

    イランが、イスラエル・米国へ屈する事態になると、ロシアの仲間である権威主義国家には無力感が強まろう。ロシア支持勢力が減る事態となる。

     

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    米国トランプ大統領の朝令暮改が、「TACO」(Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビって退く)」という造語まで生んでいる。相互関税で、金融市場で不評を呼ぶとすぐに取下げるからだ。

     

    「柔軟」と言えば聞こえは良いが、逆に言えば「定見のなさ」が目立つのだ。こういう事情から、「トランプのTACO現象」という揶揄が飛び交っている。こともあろうに、ホワイトハウスの記者会見でこの言葉について感想を求められたトランプ氏は、いたってご機嫌な斜めであった。「二度と聞きたくない言葉だ」と吐き捨てた。

     

    『ブルームバーグ』(6月5日付)は、「トランプ流ディールの極意不発-ロシア・中国・イラン指導者なびかず」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ米大統領はかねて、世界の強権的指導者とディール(取引)をまとめる自身の手腕を豪語してきた。こうした指導者への敬意を明言してやまないトランプ氏だが、これまでのところ目立った効果に乏しいのが現実だ。

     

    (1)「トランプ氏は、過去48時間だけでロシアと中国、イランの指導者に袖にされた。いずれも昨年の米大統領選でトランプ氏が早急に合意をまとめると公約していた国々だ。ウクライナでの戦争終結や中国の習近平国家主席との貿易合意、イランとの核合意に向けた取り組みはどれも成果を上げていない。トランプ氏は4日未明の自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「習主席のことは好きで、これからもそうだが、交渉するには彼は極めてタフな相手だ」とラブコールを送った」

     

    従来のトランプ大統領は、「予測不可能性」が強みとされてきた。最近は、得意とするディールが朝令暮改となっている。待っていれば、変わるだろうという予測を生むに至った。こうなると、外交交渉の「ディール力」はガタ落ちである。中国・ロシア・イランが、トランプ氏の警告を聞き流すようになっている。

     

    2)「その数時間後にロシアのプーチン大統領とウクライナ問題で電話会談したトランプ氏は「直ちに和平につながるようなものではなかった」と認めた。一連の世界的課題を解決する唯一の方法はトランプ氏自身の直接的な関与だと、同氏やその側近は繰り返し述べてきた。だが、トランプ氏のSNSの内容はこうした主張とは相いれないものだ。ロシアや中国の指導者が予想ほど簡単には譲歩しないという現実にトランプ氏は直面している」

     

    トランプ氏は、戦争が嫌いな「平和主義者」と称している。ならば、米国の経済力を背景に不退転の決意でロシアへ臨めば良いのだが、いささか優柔不断な取組み方だ。ロシアとウクライナの間に入って、「ウロウロ」しているだけだ。トランプ氏に足下を見透かされているのだ。

     

    3)「トランプ氏はこれまで、ニューヨークの不動産業界という熾烈(しれつ)な競争の世界で鍛え上げられた抜け目なさと強硬さを武器に、前任者にはできなかった方法で習氏やプーチン氏のような指導者たちに立ち向かうことができると米国の有権者や世界に約束していた。アラブ首長国連邦(UAE)など米国の一部の同盟国は、大規模な投資の約束によって忠誠を保っている。一方でトランプ氏は、エルサルバドルやパナマなどの国には、圧力をかけたり歓心を買ったりすることで影響力を確保している」

     

    トラプ氏の交渉術は、相手国へ「吹っかけすぎ」て、現実味がないのだ。これは、外交戦略でチーム力を使わず、独断専行している結果である。衆知を集めた外交戦略でなければ駄目なのだ。

     

    4)「ワシントンの保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)上級研究員のコリ・シェイク氏は、大統領が強硬な態度に出られるのは、米国との関係悪化を望まない友好国であり、一方で米国の敵対国はそのリスクをいとわず、「むしろ喜んで受け入れる傾向にある」と話した。トランプ氏は対ロシア制裁強化の可能性を事実上排除しており、4日のSNS投稿では、週末にウクライナによるロシアの空軍基地へのドローン攻撃があったことを受け、プーチン氏が報復する権利を持つという主張を認めるかのような姿勢も見せた」

     

    不動産業で磨いた「ディール力」は、海千山千の外交戦術には使えないのだ。トランプ氏の場合、「戦争は嫌いだ」と明言している。こうなると、相手国はトラン発言を割引いて聞いているに違いない。

     

    5)「米国はまた、イランの核兵器取得を阻止しようとしているが、最高指導者ハメネイ師は4日、米国が提示した核合意案を批判し、同国にウラン濃縮の停止を求める米政府当局者を「傲慢(ごうまん)だ」と非難した。そしてトランプ氏は、中国に対する交渉の切り札の多くを失っている。中国は自動車用バッテリーや携帯電話に必要不可欠なレアアース(希土類)の輸出規制を強化。一方で中国は、貿易関係強化の機会があるとみて欧州に関心をシフトさせている」

     

    平和的手法で相手国を動かすには、トランプ氏の「単騎出陣」による限界が明白だ。同盟国と協力することでしか成果を上げられまい。トランプ・ディールの失敗が、ちらつき始めたのである。

     

    6)「貿易戦争が、中国に壊滅的な結果をもたらすというトランプ氏の確信とは裏腹に、習主席の指導部は形勢を逆転させている。レアアースの輸出規制を通じて米国の主要産業を締め付ける一方で、米国の関税引き上げや技術規制の強化、アジア太平洋の同盟国・地域を対中包囲網に組み込もうとするトランプ政権の動きに耐えようとしている。シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)米国プログラムのディレクター、ジェレミー・シャピロ氏はトランプ氏について、必ずしも権威主義的で強権的な指導者を好んでいるわけではないと分析する。ただ、トランプ氏はこうした指導者たちとの方が「うまく意思疎通ができ、敬意を抱いている。このため、彼らに対して脅しをかけることや、不平等な取引を強いることには一層慎重になる」とシャピロ氏は解説した」

     

    トランプ氏は、同盟国へも相互関税をかけたことで中国に足下を見透かされている。同盟国を巻き込んで対中戦略でなければ効果は上がらない。同盟国や友好国の相互関税はすぐに取り止めなければ、対中交渉も失敗するリスクをかかえる。日本へ圧力をかけるとは、逆立ちしている。本来ならば、日本を優遇して協力を求めるべきが筋なのだ。

     

     

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