勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース

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    ドイツは、ヒトラーという破壊者を生んだ暗い過去を持つ。23年の経済成長率はマイナス予測で、極右勢力が支持率を高めている。ウクライナ戦争では、ロシアへ接近するという危険な要素を持っているのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月24日付)は、「独ショルツ政権、支持率低迷 ウクライナ支援に影響も」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツでショルツ政権の支持率が低迷している。10月のバイエルン州議会選挙を前に政権浮揚を描けず、極右政党に台頭を許す。景気の悪化で国民の内向き志向が強まり、ウクライナ支援の先行きに影を落としている。

     

    (1)「欧州ではフランスやフィンランドでも極右政党が支持を伸ばしてきた。7月に総選挙を実施したスペインでは一定の議席を獲得。ドイツではロシアとの関係改善を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭している。独公共放送ARDの世論調査によると、政党別の支持率は国政最大野党で中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)などが首位の28%で、次いでAfDが22%と差を縮める。ショルツ首相が率いてきた中道左派のドイツ社会民主党(SPD)は16%どまりである」

     

    ドイツ国民の間に、「ウクライナ支援疲れ」が出ている。肝心の経済成長率は今年、EUで唯一のマイナス成長という苦境にある。こうした中で、極右勢力が国民の不満を吸収して支持率を高めてきた。ヒトラーの出現も、第一次世界大戦敗北と膨大な賠償金を課された不満が背景にあった。油断は禁物である。世論調査で、ショルツ首相のSPDは極右勢力AfDの支持率を下回っている。

     

    (2)「有権者の支持離れは鮮明だ。ショルツ政権に「満足」との回答は19%で、2021年の政権発足以降で最低を更新した。「不満足」は79%だった。ウクライナ侵攻直後は50%を超える高い支持を得ていた。新型コロナウイルス禍などに対処した第4次メルケル政権と比べても低迷する。支持率低迷の一因が「暖房法案」を巡る混乱だ。24年1月から新設の暖房システムで再生可能エネルギーの利用を義務付ける内容で、導入が拙速として議論が紛糾。設備投資の負担増を強いられるとして国民の反発を招いた」

     

    ショルツ政権の経済政策の不手際が、国民の不満を買っている。24年1月から新設の暖房システムで再生可能エネルギーの利用を義務付けることが、不評を買っている。割高になっているのであろう。ショルツ政権は、クリーンエネルギーに拘っている。

     

    (3)「さらに景気不安が国民の動揺を招く。欧州委員会が9月に公表した夏の経済見通しで、ドイツの23年の実質成長率はマイナス0.%と景気後退に転じる想定になった。従来の成長率はプラス0.%で、欧州主要国のフランス(1.%)やイタリア(0.%)を大幅に下回る。問題は世論の内向き志向が強まりつつある点だ。ARDの世論調査では、政治の優先課題として経済状況を挙げた回答が28%と最も多く、移民問題の26%を上回った。ウクライナ侵攻の9%を大幅に上回る水準だ」

     

    ドイツは、経済問題で混乱している。ドイツ連邦銀行(中央銀行)は19日、ドイツ産業界の中国依存による経済的リスクに警鐘を鳴らした。重要な材料の調達先として中国に依存しているドイツ企業の40%余りは、自国での生産に不可欠な材料・部品への依存度低減策を何も講じていないため、供給が途絶えれば生産は停止するとしたのだ。これは、驚く事態だ。ドイツ企業は、すっかり敏捷性を失っている。中国リスクを真面目に考えないのは、企業として失格である。

     

    (4)「目先の焦点は、10月8日のバイエルン州議会選挙に向かう。ショルツ政権は21年に発足し、SPDと環境政党「緑の党」、自由民主党(FDP)の3党連立だ。次の国政選挙は25年で、人口1300万人を抱える南部バイエルン州での大型地方選が事実上の中間選挙と位置付けられる。調査会社シベイが実施した政党別の支持率は、CDUと姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)が38%と、第1党を維持する見込みだ。緑の党が14%で続き、AfDは13%とほぼ並ぶ。SPDは9%にとどまっている。SPDとCSUの両党は前回18年の州議会選から支持を伸ばせず、AfDに票が流れる可能性がある。AfDはロシアとの関係改善を訴えるだけでなく、支持者の間ではウクライナへの軍事支援に反対する声も上がる」

     

    バイエルン州議会選挙では、極右のAfDが連立政権を組む緑の党に次ぐ第3位の支持率を得ている。ショルツ首相のSPD(社会民主党)は第4位である。不人気が明らかである。

     

    (5)「かねてショルツ政権は主力戦車の供与などで他国より先行する事態を避けてきた。欧州の盟主であるドイツの決断が遅れると再び国際的な批判が高まる恐れもある。世論の支援機運が下がったままでは二の足を踏み、追加支援に動く米国や欧州各国との間で隙間風も吹きかねない」

     

    ドイツ政治の動向には、目が離せなくなってきた。ウクライナ支援疲れが背後にあるだけに、極右の進出が世界政治へ微妙な影響を与えかねない事態も予測される。

     

     

     

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    ロシアの軍事侵攻の犠牲になっているウクライナが、TPP(環太平洋経済連携協定)への加盟を正式に申入れた。ニュージーランド(NZ)外務貿易省は7月7日、ウクライナから5月にTPPへの正式な加盟申請を受け取ったことを明らかにしたもの。TPP事務局の役割を担うNZ外務貿易省によると、ウクライナは55日に加盟を申請したという。同国のゼレンスキー大統領は、5月1日にTPP加盟交渉にあたる代表団を編成する政令を発表していた。

     

    ウクライナは、2030年開催の万博でも立候補したが予備選で敗れた経緯がある。ロシアの侵攻終了後を見据えており、その準備を着々と進めているところだ。TPP加盟申請もその一環である。実は現在、ウクライナ財務省顧問として、元日本銀行勤務でIMFへも派遣された人物が、経済再建の指南役になっている。ウクライナの行政改革や汚職撲滅で種々、アドバイスをしている模様だ。

     

    ウクライナは、EU(欧州連合)加盟を熱望しているが、行政改革や汚職撲滅が最大の課題となっている。旧ソ連式の行政が改まらない限り、EU加盟は困難とされている。TPP加盟には、先進国並みの明瞭な行政が要求されるので、EU加盟準備と同時並行で改革促進のテコにしようという狙いであろう。TPPへの加盟をテコに経済復興で支援を取り付けたい狙いがあるとの指摘もされている。こういう単純なソロバン計算よりも、ウクライナがEUにも加盟しTPPにも軸足を広げたいのであろう。これによって、ロシアを上回る経済発展の礎石を作り上げて差をつけたい。そういう「負けじ魂」も感じられるのだ。

     

    ウクライナは、旧ソ連時代に鉄鋼業や造船業・宇宙産業などを手がけてきたので潜在的な工業水準は高いものがある。欧州の「パンかご」というイメージで穀物生産国である一方、工業でも見逃せない力を持っているのだ。今回のロシアによる侵攻では、ITの潜在力を生かして機動的な戦い方を独自に編み出しており、NATO(北大西洋条約機構)に舌を巻かせている。

     

    ウクライナの国際競争力ランキング(2019年:世界経済フォーラム=WEF調べ)では、85位である。インターネット自由度は22位(2022年)と上位に食い込み、ロシア(53位)を大きく引離している。この差が、ロシアとの戦いでウクライナの敏捷さに現れているのであろう。ロシア大統領プーチン氏は、このウクライナの国民性を過小評価していたと見られる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月7日付)は、「ウクライナ、TPP加盟を正式申請 参加国の支援拡大狙う」と題する記事を掲載した。

     

    TPP事務局の役割を担うNZ外務貿易省によると、ウクライナは55日に加盟を申請したという。同国のゼレンスキー大統領は51日にTPP加盟交渉にあたる代表団を編成する政令を発表していた。

     

    (1)「ウクライナ経済省は5月の声明で、TPP加盟の目的に穀物以外の貿易の多様化や加工産業への外資の誘致を挙げた。「ビジネス関係を広げ、包括的な国際支援を得ることはロシアの侵略に対抗するうえでも重要だ」と述べた。NZで15~16日に開くTPPの閣僚会合では承認済みの英国の加盟手続きが完了する見通し。ウクライナの加盟申請についても協議する可能性がある。後藤茂之経済財政・再生相は7日、都内で記者団に「ウクライナがTPPの高いレベルを完全に満たすことができるかどうかについて、まずはしっかりと見極める必要がある」と述べた」

     

    ウクライナは、英国がTPP加盟で2年間要したのと比較して、もっと短期間に加入条件をクリアできる自信を見せている。その根拠は不明だが、ウクライナはEU加盟に備えて国内条件を急ピッチで整備していることで自信を深めているのかも知れない。復興後の経済で、引き続き経済制裁を受けているだろうロシアに比較して急ピッチの回復を実現させ、見返したい気持ちが強いのであろう。

     

    (2)「TPPには中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイも加盟を申請中だ。加盟には全参加国の同意が必要で、英国は申請から承認まで2年以上を要した。貿易や投資、サービスなどの水準をウクライナがクリアできるかが焦点となる」

     

    TPP加盟先願組が、5カ国・地域もある。難物は中国の扱いだ。中国の産業構造は国有企業中心で、最初からTPP加盟資格を欠いている。中国は、これを承知での加盟申請である。本音は、台湾加盟阻止であろう。

     

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    ロシアの傭兵部隊ワグネルの創設者プリゴジン氏は、武装反乱が1日で失敗に終わった。これが、プーチン大統領の権力を弱めたことは疑いない。それだけでない。プーチン氏にとって最も重要な盟友である中国の習近平国家主席にも、実質的に後退を強いたことになろう。肝心の中国経済の低迷や、米国が主導する西側連合との対立激化という問題に直面しているからだ。

     

    「拙いことになったな」。これが、習氏の抱く個人的に正直な危機感であろう。現実は、強気の姿勢を崩さず扇動を続けている。焦点は、習氏がプーチン氏のウクライナ侵攻と傭兵部隊反乱から教訓を引きだせるかどうかだ。習氏の判断が、中国の命運を握っている。

     

    『ロイター』(7月5日付)は、「ロシア劣勢と習氏の打撃、西側は好機生かせ」と題するコラムを掲載した。筆者は、ロイター・コラムニストHugo Dixon氏である。

     

    ロシアによるウクライナ侵攻直前、習氏はロシアとの「無制限の」協力関係を築くと約束し、もしも、ロシアがすぐに戦争で勝利していれば、習氏は素晴らしい戦略を打ち出した形になったとみられる。この同盟は、西側諸国にとって「待った」をかける手段が乏しい、との印象をより強く与えただろう。現実を見ると、ロシアは戦争でしくじった。そして、ワグネルの反乱はプーチン氏のイメージを弱めた上、ウクライナの反転攻勢を後押しする可能性がある。それでも、実際に中国は自らの国際的イメージが損なわれるという代償を伴う形で、プーチン氏を支えている。

     

    (1)「今や西側の地政学的戦略を策定する上で基幹的な存在となりつつある主要7カ国(G7)は、中国経済との関係で「デリスク(リスク低減)」や、先端半導体など軍事転用の恐れがある技術の輸出規制を共同で推進している。米国は、人工知能(AI)向け半導体の対中輸出規制も検討しているところだ。これら全ての要素が、既に低調な中国経済の足をさらに引っ張るだろう。もっとも、中国が抱える最大の問題は、2008年の世界金融危機以降ずっと、借金に頼って成長てこ入れを図ってきたことにある。この間に公的部門と民間部門の合計債務は倍増して国内総生産(GDP)の3倍まで膨らんだ。平均すると年間でGDPの1割の規模で借り入れが増えた計算になる」

     

    中国経済が2008年以降、過剰債務によって支えられてきたことは明白である。債務残高の対GDP比が300%にも達する事態に陥っているからだ。この異常事態が、いつまでも続くはずがない。精算時期を迎える。それが、今から始まるのだ。

     

    (2)「経済の元気が衰えれば、中国が海外に軍事力を投入する力にも制約が加わる。防衛費の急拡大は無理だし、「グローバルサウス」と呼ばれる途上国に影響力を及ぼすための「債務のわな」も、積極的には展開できなくなる。こうした情勢変化を受け、中国がどう対応するかについては2通りの考え方がある。

    1)強圧的な態度を慎むというアプローチだ。

    2)国力が峠を越える前に早く影響力を行使しなくてはいけないという重圧を感じるというシナリオだ。プーチン氏の経験が、中国にとって「反面教師」になるのは間違いない。プーチン氏は、他国を侵略すればそのツケをどのように払わされるのか、身をもって示してくれた」

     

    中国が、経済衰退過程で取り得る道は二つある。これまでの強硬路線の修正か、強行突破かである。後者であれば、中国は破滅への道に転落である。

     

    (3)「G7は引き続き、台湾問題に関して最悪事態に備えなければならない。つまり同盟関係を強化しつつ、中国に対するデリスクの作業を加速させる必要がある。ただ、同時にG7は、最善の展開に向けた取り組みもできる。これは、先月のブリンケン米国務長官の訪中によって生まれた緊張緩和を土台として、共通の利益が得られる分野で、力を合わせる機会を探るという意味だ」

     

    G7は、中国に強硬路線(台湾侵攻)を諦めさせて、共通の利益が得られる融和路線への転換を誘導する必要がある。

     

    (4)「G7は、習氏に対してプーチン氏にウクライナの主権を尊重する形の和平協定を結べ、と働きかけるよう促し続ける必要がある。ある段階で習氏は、プーチン氏は敗北者なのでそうするべきだとの結論に達するだろう。中国と米国主導の同盟の対立は、依然として危うさをはらんでいる。それでも中国の力が落ちてきたことは恐らく、西側にとってマイナスよりもプラスを多くもたらすとみられる」

     

    中国の国力低下は、台湾侵攻への大きな障害になるはずである。だが、習氏はこうした合理的判断を受け入れる冷静さがあるかどうかだ。側近の民族主義者(王滬寧氏)が気がかりな存在である。王氏は、生粋の民族主義者であり党内序列4位に上がっている。

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    ロシアのプーチン大統領は、これまでウクライナ侵攻で核使用をほのめかし欧州を警戒させてきた。この問題が、欧州と中国との外交関係にも悪影響を与えてきた。中国の習国家主席は、3月の訪ロの際にプーチン氏へ核使用を警告したことが、『フィナンシャル・タイムズ』の報道で明らかになった。中国の外交関係者は、この警告を中国外交の成果として関係国へ喧伝しているという。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月5日付)は、「習氏、プーチン氏に核兵器使わぬよう警告 ウクライナで」と題する記事を掲載した。 

    中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は3月、ロシアのプーチン大統領に対し、ウクライナで核兵器を使用しないよう個人的に警告した。西側諸国と中国の当局者らが明らかにした。中国がロシアに暗黙の支援をしているにもかかわらず、戦争に懸念を抱いていることを示唆している。習氏が外遊をした時のことだ。

     

    (1)「中国政府のシニアアドバイザーは、核兵器使用をプーチン氏に思いとどまらせることは欧州との傷ついた関係を修復する中国の組織的運動の中心だったと語った。ロシアが2022年にウクライナに全面侵攻したことで、ロシアと中国は欧州の多くの国と対立することになった。中国は一貫して公式声明でウクライナでの核兵器使用に反対してきた。しかし、ウクライナを支援する多くの国は、このような抑止に対する中国政府の深い関与を疑ってきた。習氏がプーチン氏と「無制限」の協力関係を持ち、ロシアの主張と重なる「平和案」を掲げたことが背景にある」 

    中国は、ロシアのウクライナ侵攻で微妙な立場に立たされている。明確に「戦争反対」を発言しないことが、欧州との関係を悪化させているのだ。それだけに、中国はロシアへ核使用反対を明らかにして、欧州との関係改善を目指している。 

    (2)「習氏によるプーチン氏への警告は、中国が公の場での発言を密室で裏付けているという明るい期待を与えた一方、プーチン氏の核兵器使用を阻止するのに十分である関係性に悪影響が出る恐れもある。ある米政権高官は「中国はあらゆるレベルで、ロシアにメッセージを送ったことを手柄にしようとしている」と語った。中国外務省にコメントを求めたが、すぐには返答がなかった。しかし、ある元中国政府高官は、習氏がプーチン氏に核兵器を使用しないよう個人的に伝えたことを認めた。核兵器の使用に反対する中国の立場がウクライナ和平に関する政策提言書に含まれているとも指摘した」 

    中国外交関係者は、ロシアへの「核警告」を手柄にしているという。それだけ、警告効果があると認めているのであろう。

     

    (3)「共同声明で核兵器の使用を非難したのは、ほぼ間違いなく中国の意向で追加されたものだと、西側の安全保障当局者は付け加えた。もし、ロシアがウクライナで核兵器を使用すれば「中国にとってはマイナス面ばかりだ」とある当局者は語ったロシアのウクライナ侵攻は、中国からの支援に大きく依存しており、ロシアが重要な国際市場やサプライチェーン(供給網)から排除される経済制裁を乗り切ることに役立っている。昨年、中国によるロシアとの2国間貿易は過去最高の1900億ドル(約27兆5000億円)に達した。これは、中国がロシアのエネルギー購入を拡大し、ロシアが半導体を含む重要な技術を輸入できるようにしたためである」 

    ロシアが核を使用すれば、中国との関係悪化は必至である。経済面で中国の支援を受けているだけに、ロシア経済の窮迫は間違いない。

     

    (4)「中国政府のシニアアドバイザーによれば、この戦争は欧州と米国の間にくさびを打ち込もうとする中国の努力を台無しにする恐れがあるという。同人物は、ロシアがウクライナや欧州の協力国を核攻撃すれば、欧州が中国を敵対するリスクになると述べた。一方、中国がそのような行為を阻止するためにロシアに継続的に圧力をかけることは、欧州との関係改善につながるかもしれないという。北京の中国人民大学国際関係学院の時殷紅教授は「ロシアが核兵器を使用することを中国が承認したことは一度もないし、今後もないだろう」と述べた。もしロシアがウクライナに対して核兵器を使用すれば「中国はロシアからさらに距離を置くだろう」と付け加えた」 

    中国は、ロシアへ核攻撃させないことで欧州との関係を維持している面もある。それだけに、真剣であると指摘している。 

    (5)「ロシア大統領府に近い関係者によれば、ロシアの指導者は、戦術核兵器を使用した場合のシナリオを予測した結果、戦術核兵器がロシアに有利に働くことはないと独自に判断したという。核攻撃は、プーチン氏がロシアの一部と主張している地域を放射線で汚染された荒れ地に変えてしまう可能性が高いが、軍隊の前進を後押しすることはほとんどないと関係者は語った」 

    ロシア当局は、ウクライナでの核使用がロシアにプラスになることはないと認めている。

     

    (6)「ウクライナの反転攻勢が始まった6月、プーチンは再び核兵器について言及し、ロシアがベラルーシに戦術核弾頭を運搬したと述べた。しかしプーチン氏はすぐに、ロシア軍がウクライナの前進を食い止めているため、使用については「その必要はない」と付け加えた。この声明は中国でさえプーチン氏を使用に抑止することはできないかもしれないことを示唆していると米カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのアレクサンドル・ガブエフ氏は「核兵器は、プーチン氏がこの戦争に破滅的に負けることに対する究極の保険なのだ」と指摘する」 

    米国には、プーチン氏が核を破滅的敗北への「究極の保険」として認識しているのでないかと疑念を抱いている筋も存在する。

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    米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は7月1日、ロシアの傭兵集団ワグネルの武装反乱について、ロシア国家への挑戦であると指摘した。プーチン大統領によるウクライナ戦争が、ロシア社会を弱体化させたことを示したとも付け加えた。ロイターが報じた。こうしたロシアの混乱は、どのように後始末がされよとしているのか。ワグネル解体が、確実に進んでいるが、引受先がプーチン氏関連企業である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月3日付)は、「プーチン氏、ワグネル乗っ取りの難事業」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、首都モスクワの手前まで進軍する反乱に遭ったのに続き、史上まれに見る複雑な企業乗っ取りを指揮するという新たな試練に直面している。

     

    (1)「サンクトペテルブルクのガラス張り高層ビルにある民間軍事会社ワグネル・グループの本部は封鎖され、ロシア連邦保安局(FSB)の捜査官がその内部で捜索を続けている。先月起きた反乱を主導したワグネルの代表エフゲニー・プリゴジン氏に不利な証拠を集めるためだ。クレムリン(ロシア大統領府)の新たな支援を受ける複数の軍事会社がすでにロシアのソーシャルメディアに求人広告を出し、プーチン氏の長年の盟友だったプリゴジン氏がウクライナや中東、アフリカに配置していたワグネルの3万人の雇い兵やハッカー、資金管理者の一部を引き抜く勧誘活動を開始している

     

    ロシアの「汚れ役」を担ってきたワグネルは、プリゴジン氏の反乱で取り潰しが始まっている。ワグネルは消えても新たな傭兵部隊が、ワグネル兵士の残党を勧誘している。ロシアの傭兵依存体制は変わらない。

     

    (2)「従業員の話やウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認したテキストメッセージによると、プリゴジン氏の保有するメディア・グループ「パトリオット」のコンピューターやサーバーが、ロシアの法執行機関によって市内各所で押収された。パトリオットは、同氏のメディア帝国(かつてロシア政府の意向に沿ったメッセージを大量にソーシャルメディア・チャンネルに流し、2016年の米大統領選挙で混乱を巻き起こした情報工作組織「インターネット・リサーチ・エージェンシー」も含まれる)の重要な部分を構成している」

     

    プリゴジン氏の保有するメディア・グループ「パトリオット」は、2016年の米大統領選挙で混乱を巻き起こした情報工作も担った。これもロシア当局に押収された。

     

    (3)「テキストメッセージによれば、パトリオットの新オーナーとなる可能性が高いのは、ロシアメディア大手のナショナル・メディア・グループだという。同グループの会長を務める元新体操選手アリーナ・カバエワ氏は、米国が経済制裁の対象としており、プーチン氏の少なくとも3人の子の母親とみられている」

     

    「パトリオット」の新オーナーは、プーチン「夫人」とされているカバエワ氏が会長を務めるロシアメディア大手のナショナル・メディア・グループと見られる。プーチン氏は、ワグネルを解体しても、身内に利益が及ぶように配慮している。

     

    (4)「1858年に東インド会社を解散させた英国が、遠方の植民地を直接統治することにしたのを最後に、ワグネルに匹敵するほどの企業帝国を一国の政府がのみ込もうとする事例は世界中で他に類を見ない。ワグネルはロシアが国際的な影響力を高め、資金集めをするための手段であり、プリゴジン氏の持ち株会社「コンコルド」が全てを管理していた。プーチン氏は自らの支援で形成された企業モンスターを今、支配下に置こうとしている西側諸国・中東・アフリカの当局者やロシアからの亡命者の話、ワグネル傘下企業100社余りの詳細を記した文書からその実態が見えてきた」

     

    下線部は、重要な指摘である。プーチン氏が、プリゴジン氏に代わってワグネルの残した組織を丸抱えしようとしていることだ。これが、今後のプーチン氏の政治生命にどのように影響するかである。

     

    (5)「ロシアは6月24日、治安当局が複数のコンコルド子会社に家宅捜索に入った。当局はピストルや偽造パスポート、企業数百社の詳細な図表、4800万ドル(約69億円)相当の現金や金の延べ棒などが見つかったとしている。ワグネルの雇い兵に自国の治安を任せていたアフリカ・中東諸国は、ロシア当局からプロの殺し屋部隊がもう独立して活動することはないと告げられた

     

    アフリカ・中東諸国は、ワグネルへ治安を任せてきた。ロシア当局は、ワグネルがこれら諸国の意思に反した行動をしない、と通告したという。ロシア傭兵部隊が、追い出されることを警戒し、「恭順の意」を示した形である。権益は離さないという意思表示であろう。

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