勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース

    a0005_000022_m
       

    中国政府はウクライナ戦争以降、ロシアから欧米による制裁を回避する実例を学ぶなど熱心だ。中国は、ロシアによる全面侵攻後の数カ月間に複数の省庁を横断する組織を設置したほどである。欧米による制裁の影響を研究し、指導部に報告書を定期的に提出している。これは、米国とその同盟国が台湾を巡る紛争で中国に同様の制裁を科した場合に備え、その影響を緩和する方法を学ぶことが目的だという。 

    中ロの経済規模は段違いである。中国が、世界のサプライセンターで西側経済と密接に結びついていることから、ロシアでは通用する回避策も中国に使えない限界がある。中国は、早とちりしないことが肝心だ。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月2日付)は、「中国、制裁回避はロシア手本に 台湾有事に備え」と題する記事を掲載した。 

    中国政府当局者らは、定期的にモスクワを訪れ、ロシア中央銀行や財務省、また制裁対策に関わるその他の機関と会合を持っていると関係者らは述べた。中国によるこの動きはこれまで報じられていなかったもので、経済政策と地政学的戦略の境界線がますます曖昧になる中、ロシアのウクライナ侵攻によって引き起こされた新たな経済戦争の時代を象徴するものでもある。またこの傾向は、交渉と強制の手段として関税を活用するとしているドナルド・トランプ次期米大統領の2期目でさらに強まる可能性が高い。

     

    (1)「中国政府の意思決定に近い関係者らは、(ウクライナ侵攻後設置した)複数の省庁を横断する研究組織が(台湾)侵攻準備を意味するものではないと注意を促し、政府として武力紛争とその経済的影響という「極端なシナリオ」に備えている状況だと述べた。中国にとっては、世界最大の3兆3000億ドル(約494兆円)以上に上る外貨準備も大きな懸念の一つとなる。ウクライナ侵攻後に米国やその同盟国がロシアの国外資産を凍結したことを受け、中国政府は米国債などドル建て資産から準備金を多様化する方法をより積極的に模索するようになっているという」 

    中国政府は、ロシアのウクライナ侵攻後に経済制裁による影響と回避策を研究している。だが、中国とロシアでは、経済規模や西側との経済依存度で格段の違いがある。部分的には参考になっても、制裁回避の「決め球」はない。 

    (2)「中国指導部が、外貨準備関連の制裁リスクを警戒していることを示すかのように、習近平国家主席は2023年秋、国家外貨管理局(SAFE)を珍しく訪問した。中国政府の意志決定に近い前出の関係者らはそう話す。習氏はその際、外貨準備をどのようにして守るかについて質問したという。対ロシア制裁に関する中国の省庁間グループは、経済・金融問題を担当する何立峰副首相の監督下にある。習氏直属の何氏は、中国経済を西側諸国の制裁から守る防御策を主に立案する役割を担っている。中国の対ロ接近に詳しい関係者は、「(中国政府は)事実上、あらゆることに関心がある。その範囲は制裁回避の方法から、内製化を進めるためのインセンティブといった(制裁の)各種プラス効果にまで至る」と述べた」 

    外貨準備高3兆3000億ドルの一部でも、差し押さえられなくするためには、米国債を保有しないことも手段だろう。だが、外貨準備は輸入決済に必要であるから一定量(普通は3ヶ月分)を必要とする。問題は、必要物資の輸入ができなくなる事態だ。中国経済は大混乱するであろう。

     

    (3)「米シンクタンクの大西洋評議会とロジウム・グループによる昨年の報告書によると、西側諸国が全面的な金融制裁を実施すれば、中国の金融システムは混乱し、貿易も滞り、さらに中国が国外の銀行に預けている資産や外貨準備金3兆7000億ドルが危険にさらされるだろうと分析する」 

    中国経済の首根っこを抑えるには、西側諸国が全面的な金融制裁を加えることだ。輸出入業務はストップする。 

    (4)「米国務省の元制裁担当官エドワード・フィッシュマン氏は、(中国が)「対ロ制裁から得られた教訓の一つは、大規模な経済に制裁を科し始めると、国内で経済的・政治的な影響が出るということだ」と述べている。製造大国である中国は、グローバル・サプライチェーン(供給網)とのつながりがもたらす潜在的な落とし穴についても、ロシアの経験から学んだ」 

    西側が、大規模な経済に制裁を始めれば、「世界の工場」と言われる中国は身動きできなくなる。西側諸国が、サプライチェーンの「脱中国」を図っている理由もここにある。

     

    (5)「ロシアは長年にわたり、経済の自給自足を目指してきたが、ほとんど失敗に終わっていた。制裁が科された時、同国は突然入手できなくなった西側の部品に深く依存していることに気付いた。その結果、モノ不足が生じ、自動車製造など産業全体が一時ストップした。生産再開後、ロシアの自動車メーカーは必要な部品がなかったため、当初はエアバッグなどの安全機能なしで車を製造した。フィッシュマン氏は、「制裁は、グローバル・サプライチェーンに組み込まれている全ての生産部門にとって本当に破壊的なものになり得る」と述べる。「それは中国を非常に脆弱(ぜいじゃく)にする」 

    下線部は、中国経済が世界経済に組み込まれている以上、「謀反」が不可能ということだ。「台湾は中国領」ということで気ままに動き出せば、その反作用は極めて大きいことを知るべきだろう。

    a0005_000022_m
       

    中国の貨物船が、バルト海での破壊工作疑惑を巡る捜査対象となっている。すでに、1週間にわたり国際水域で欧州の艦船に包囲されている。貨物船「伊鵬3号」が先週、バルト海の海底で約160キロメートル余りにわたって錨を引きずり、2本の主要な海底通信ケーブルを意図的に切断した疑いがあるとみている。この貨物船は、ロシア産肥料を積載していた。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月28日付)は、「中国船、意図的に錨引きずったか バルト海ケーブル切断」と題する記事を掲載した。 

    伊鵬3号は11月15日にロシアのバルト海沿岸のウスチルガ港を出港した。捜査は現在、船長がロシアの情報機関によって破壊工作を実行するよう仕向けられたかどうかが焦点となっている。欧州の上級捜査官は「船のいかりが落ち、引きずりながら速度が落ちた状態で数時間にわたり航行し、途中でケーブルを切断したことに船長が気付かなかったとは非常に考えにくい」と話した。捜査に詳しい複数の関係者によると、伊鵬3号を所有する中国の寧波伊鵬海運は捜査に協力しており、国際水域での伊鵬3号の航行停止を許可した。

     

    (1)「海底ケーブルの損傷は、11月17~18日にスウェーデンの領海で発生し、同国当局が妨害行為の疑いで捜査を開始した。ロシアは関与を否定している。捜査官は伊鵬3号が11月17日午後9時(現地時間)頃、スウェーデンの領海でいかりを落としたまま航行を続けたことを確認している。捜査に詳しい2人の関係者によると、引きずられたいかりがその直後にスウェーデンとリトアニアを結ぶ最初のケーブルを切断した。その間、船舶の動きを追跡する自動船舶識別装置(AIS)のトランスポンダーが停止し、海上交通用語でいう「ダークインシデント」が発生した。捜査官が確認した衛星データなどによると、その後も船は引きずられたいかりによって速度が大幅に低下したにもかかわらず航行を続けた」 

    イカリを下ろして航行すれば、速度が大幅に低下するのは常識だ。衛星データで確認されている。船長が気づかないはずがない。意図的切断を疑われる理由だ。それにしても、中ロ関係の密接さ示す事件である。

     

    (2)「伊鵬3号は、翌18日午前3時頃、約180キロメートル航行した後、ドイツとフィンランドを結ぶ2本目のケーブルを切断した。その直後、船は蛇行し始め、いかりを上げて航行を続けた。デンマーク海軍の艦船がその後、伊鵬3号を追跡・阻止するために出動し、最終的にバルト海と北海を結ぶカテガット海峡で停泊させた。捜査に詳しい複数の関係者によると、船舶のいかりと船体を調査した結果、いかりを引きずってケーブルを切断したことと一致する損傷が確認された。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に国際海運のリアルタイムデータを提供した分析会社ケプラーの分析によると「穏やかな気象条件と管理可能な波高を考えると、偶発的にいかりを引きずる可能性は極めて低い」という」 

    伊鵬3号のイカリと海底ケーブル切断の傷跡が一致している。証拠は掴まれている。 

    (3)「西側の法執行機関および情報機関の当局者は、中国政府が関与しているとは考えていないが、ロシア情報機関の関与を疑っていると述べた。ロシア大統領府の報道官室はWSJに対し「これらは根拠のない不条理な非難だ」と主張。中国外務省の報道官は27日、記者団に対し「中国は一貫して、国際法にのっとり国際海底ケーブルやその他のインフラの安全を維持するため、全ての国と協力しているということを改めて述べたい」と語った」 

    ロシア情報機関が、伊鵬3号へ指示したと疑われている。伊鵬3号が、あえて海底ケーブル切断を請負った理由は何か。

     

    (4)「ロシアは、ウクライナへの全面侵攻を開始して以来、西側を不安定化させるため、バルト海や北極圏の海底パイプラインや通信ケーブルへの攻撃を含め、北大西洋条約機構(NATO)領内の欧州で「影の戦争」を仕掛けていると西側から非難されている。昨年10月、「ニューニュー・ポーラー・ベア号」という中国籍の船舶が、フィンランドとエストニアを結ぶガスパイプラインと通信ケーブルをいかりで切断したと、この件の捜査に詳しい複数の人物は述べている。同捜査について説明を受けた一部の当局者によると、当時、ロシア人が乗船していたという」 

    昨年10月も、中国船がガスパイプラインと通信ケーブルをいかりで切断した。同船には、ロシア人が乗船していた。 

    (5)「米ペンシルベニア大学クレインマン・エネルギー政策センターのベンジャミン・シュミット上級研究員によると、伊鵬3号は2019年12月から2024年3月初旬まで中国の領海内でのみ運航していたが、突然運航パターンを変更した。その後、伊鵬3号はロシアの石炭などの貨物を運び、日本海に面したナホトカなどのロシア港に寄港。バレンツ海のムルマンスク港を数回訪れ、バルト海へ航行した。「これだけでは、ロシアの関与を示す証拠としては不十分だが、何年も中国の領海内でのみ運航していた船舶の運航地域が根本的にロシアの港へと変更されたことは、欧州当局にとって捜査のカギとなるはずだ」とシュミット氏は述べた」 

    捜査は、始まったばかりだ。今後の展開次第で、中ロ関係の「裏事情」が明かされるかも知れない。

    a0960_008527_m
       


    中国は、ロシアのウクライナ侵攻を影で支援している。価値観に基づく同盟的な結束力に基づくものではない。中国にとって、米国と対抗する上でパートナーとしてのロシアが必要という次元の話だ。中国は、ロシアから安い価格で石油や天然ガスを輸入できるメリットを享受している。ただ、ウクライナ侵攻によって、中国は米欧との関係が決定的に悪化するマイナス要因もつくり出した。中国製品への高い関税障壁が張り巡らされる事態を招いている。中国にとって、対ロシア関係はプラスとマイナスが織り混ざっている。 

    『日本経済新聞』(11月21日付)は、「実利でつながる中ロの蜜月」と題するインタビュー記事を掲載した。モスクワ大付属IAAS所長 アレクセイ・マスロフ氏へのインタビューである。 

    中国はウクライナ戦争により、ロシアの原油と天然ガスを極めて安価に調達できるようになった。ロシアへの製品輸出でも独占的な地位を占めている。だが中国にとって対ロ接近のメリットは、米欧との関係悪化に伴うデメリットを相殺するほどではない。

     

    (1)「中国はここにきて、国内経済の停滞が続くようになった。一因は輸出の低迷で、背景にはウクライナ戦争がある。つまり中国が米国より、ロシア寄りの立場をとっていることが負の影響を与えている。中国から欧州に向かう物流回廊も戦争で壊されている。中国はなるべく早く、ウクライナでの軍事行動をやめさせたいと考えている。あらゆる戦闘行為が自国に経済的な打撃を与えるからだ。中国は間接的にせよ、ロシアにしかるべき政治的圧力をかけているはずだ。中国がより本気で、ウクライナの紛争を調停したいと意気込んでいるようにもみえる」 

    中国は、経済減速が目立っている。西側諸国が、対中貿易で厳しい姿勢に転じていることも大きな負担だ。米国次期大統領のトランプ氏が、どのような圧力を加えてくるかも分らない。こういう状況下で、中国はロシアにウクライナ侵攻を止めさせたいのが本心であろう。

     

    (2)「中国は元来、米国や他国との関係を損なってまでロシアに加担するつもりはなかった。ロシアの軍事行動を支持すれば、結果的に中国の利益を損ねるとみている。ロシアとの貿易決済を意図的に遅らせたり、中国が軍事転用可能とみなす設備や部品の対ロ輸出を難しくさせたりしているが、ロシアへのいら立ちを示しているのだろう。とはいえ、中国はロシアが戦争で負けることは望んでいない。中国にとってロシアは有望なパートナー国だ」 

    中国の経済関係の主体は、対西側諸国である。その関係を悪化させてまで、ロシアを支援するには限界がある。一方、ロシアが中国の有力パートナーだけに、敗北されると大きな影響をうける。中国が、国際社会で孤立するからだ。こういうジレンマを抱えている。 

    (3)「ロシアが負ければ、中国は国際社会で孤立し、単独で米国に対峙せざるを得ない。現時点で中国は、技術開発力で決して米国に勝てないと自覚している。そこで中国は対米で共闘してくれる強いロシアを欲している。中国がウクライナ戦争で、ロシア寄りの立場を完全にやめることはない」 

    中国は大言壮語しているが、自らつくり出した技術はゼロである。全て、米国発である。こういう米国と対決しても利益はないが、政治的に対抗してメンツを保ちたい。それには、相棒にロシアが必要という関係だ。

     



    (4)「中国は、米欧がロシアに科す経済制裁の出方も注視している。銀行口座や資産の凍結、国際銀行間通信協会(Swift)からの排除といった措置が将来、中国に科された場合の影響などを分析している。台湾有事や南シナ海での紛争などを想定しているのだろう。中国は米欧による経済制裁下で、ロシアがどのように対処し、行動しているかについても詳細にフォローしている。結局、中国は自己の目的、利益のために相当程度、ロシアを利用しているわけだ。中国は、ウクライナ戦争を道徳論や倫理ではなく、自国の利益になるかどうかという完全に実利的な基準でみている」 

    中国は、露骨なまでに「国益中心主義」である。利益のために、ロシアを利用しているだけである。ロシアとは長い国境線を接しているので、「火種」を消しておきたいのだ。 

    (5)「ロシアにとっては、中国が唯一の大国パートナーだ。これはロシアの選択ではなく、やむを得ない結果だ。ロシアは中国頼みの状況が安全でないことも十分に承知している。そこで他の国々とも関係を強めて新たなパートナーシップを築こうとしている。プーチン大統領は今年に入って、関係改善のためにベトナムやモンゴルを訪問したり、マレーシアやインドネシアとの対話を盛んにしたり、アフリカとの関係強化に重点を置き始めたりしている」 

    ロシアにとっての中国は、唯一の大国パートナーである。だが、100%の信頼感を持ってはいない。他国との関係強化を模索している。東南アジアへも接近している。北朝鮮もその一環であろう。

     

    (6)「米国を含めどの国も、中ロが過去の対立を乗り越え、ここまで急接近するとは予測しなかった。だが政治状況が変化していく中、今後10~15年の間に様々な対立、摩擦や紛争が起きる可能性は否定できない。ロシアの極東地方で中国が経済的な圧力を強めたり、旧ソ連の中央アジア地域で中ロ間の紛争が起きたりする恐れも排除できない。中ロの蜜月は未来永劫(えいごう)続くものではない」 

    中ロ関係は、一枚岩の状態でない。中国が、中央アジアへ支配権を及ぼしたり、ロシア極東地方で圧力を強めれば、中ロ関係は瓦解する。中ロの勢力関係が地政学的に重なり合っていることが、将来の紛争の種になりかねないのだ。

    あじさいのたまご
       

    米ワシントンで10月23~25日にかけて、20カ国・地域(G20)と主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議が開催された。その間、中国やロシアはBRICSなどの枠組みを通じて新興国との関係を深めて対抗する形になった。BRICSは、中ロの思惑通り、西側への対抗軸になれるのか。実態は、不揃いで「興味半分」で集まっているのが実態のようだ。 

    『ロイター』(10月25日付)は、「BRICS拡大後初の首脳会議、増大する『非西側』の影響力誇示」と題する記事を掲載した。 

    BRICSは、首脳会議参加国の人口を合わせれば世界全体のほぼ半分に達し、加盟国は増え続けている。依然として国際通貨基金(IMF)と肩を並べて基軸通貨であるドルに対抗するにはほど遠いとはいえ、加盟国が今年9カ国に拡大した後初となった今回の首脳会議開催で影響力の増大ぶりを見せつけた。 

    (1)「閉会に当たって公表された共同宣言は、長々と書き連ねてはいたものの、西側主導で作られた決済・貿易制度や制裁の仕組みを回避する新たなメカニズムの創設については具体的に触れなかった。プーチン氏にとっては、多くのリーダーがロシアに集まったという事実だけでも、ロシアが世界経済から孤立しているという西側の主張への反論に役立つ。経済シンクタンク、ブリューゲルの上級研究員、アリシア・ガルシアエレロ氏は「西側諸国は首脳会議の重要性を理解していない。今回の会合は西側が力を失いつつあることを示している」と述べた」 

    BRICSは、中ロの「隠れ蓑」になっている。とりわけ、ロシアのプーチン氏には貴重な存在である。一方、BRICSの存在が西側の力を失っている証拠とみる向きもいる。

     

    (2)「アフリカ諸国の統治のあり方を調査している財団を運営するモ・イブラヒム氏は「BRICSへの参加を希望する国々がどれほど多いかを認識すべきだ。第二次世界大戦後の1945年頃に設立された、代表性や民主性に欠ける機関は全く変わっていないことが明らかだ」と述べた。プーチン氏によると、BRICSには30カ国以上が加盟を申請している」 

    BRICSへの参加国が多いのは、「藁をつかみたい」という保険機能への期待だろう。ハッキリ言えば「弱者連合」である。自らは改革せずに、恵みを待っている集団のようにみえる。 

    (3)「BRICSは2006年にブラジル、ロシア、インド、中国で発足したが、これまでの実績は一長一短。ウィーン国際経済研究所のマリオ・ホルツナー氏の試算によると、発足後も創設4カ国の1人当たり国内総生産(GDP)の伸びに大きな変化は見られない。また、BRICSの新開発銀行(NDB)は今年の融資予定額が50億ドルと、世界銀行が計画していう与信や融資、供与の合計額728億ドルに比べれば微々たるもので、他のプロジェクトもまだ初期段階に過ぎない」 

    BRICS創設4ヶ国の1人当たり名目GDPの伸び率には、大きな変化がみられないという。「中所得国の罠」に落込んでいる。改革がストップしている証拠であろう。

     

    (4)「BRICSは加盟国が増えるにつれて、加盟国間の規模や影響力の違い、対立する案件などにより、共通する課題で合意を形成するのが難しくなると見られている。しかし、加盟を望む国は既に世界の商取引の5分の1を占めており、これらの国はBRICを事実上の貿易フォーラムとみなしている」 

    BRICS加盟を望む国々の貿易額は、世界の2割に達している。だが、最大の市場は米国である。ここへ輸出できるメリットが最大のはずだ。米国へ背を向けたBRICSは、存在し得ないであろう。 

    (5)「BRICSが構築を目指す独自の決済システムがルの支配をすぐに脅かすことはないと見られるが、こうした取り組みは、自国の政策が将来西側から制裁を受けるのではないかと恐れる国にとって魅力的だ。「西側諸国との間で将来起きるかもしれない摩擦に対する地政学的な緩衝材として、こうした代替構造を作り、リスクを分散している」と、リスク情報会社ベリスク・メープルクロフトの上級アナリスト、ハミッシュ・キニア氏は分析した。BRICSは「世界秩序が変化する兆しであって、秩序の変化を引き起こしている原因ではない」と言う」 

    下線部こそ、BRICS参加国の本音部分だ。西側諸国との摩擦を起こしやすい国は、そのリスク分散でBRICSを利用するという狙いである。ヘッジを賭けているのだろう。

     

    (6)「実際のところ、BRICSは加盟国や加盟を希望する国から、IMFに対する明確な代替手段というよりも、世界が地政学的変化に直面する中で賢くリスクを分散させるための手段として利用価値があると受け止められている。中国人民大学国際関係学院の時殷弘教授は、「(中国にとって)BRICSは戦略的かつ経済的な連合ではない」とし、多くのBRICS加盟国が西側諸国と関係を促進していると指摘した」 

    BRICSは、愚痴を言い合う場所であろう。自らの改革努力を棚上げして、多くの恵みを待っているのであろう。下線部は、BRICSが戦略的かつ経済的な連合でないと言い切っている。この発言の主が、なんと中国の時殷弘教授だ。意味深長である。

    a0960_008532_m
       

    韓国の国家情報院(国情院)が18日、北朝鮮軍のロシア派兵をめぐり異例にも報道資料を出して関連情報を公開した。北朝鮮特殊部隊1500人が、すでに派兵された事実と、北朝鮮軍の個人の写真まで公開した。韓国は、「前例のない脅威」に「前例のない対応」をした形だ。 

    (1)「韓国国情院は今回、「ロシア太平洋艦隊所属の揚陸艦4隻、護衛艦3隻が8日から13日にかけて北の清津(チョンジン)・咸興(ハムフン)・舞水端(ムスダン)近隣地域から特殊部隊およそ1500人をロシアのウラジオストクに1次移送するのを完了した」と明らかにした。具体的にロシア艦艇が、北朝鮮特殊部隊兵力を移送する動きに関連し、人工衛星撮影写真も公開した。外国の衛星写真提供民間会社AIRBUSが提供した写真と、政府が運用する衛星が撮影したと推定される写真など3枚を北朝鮮軍派兵の証拠として提示した。ウクライナ情報機関と協力して人工知能(AI)顔認識技術を適用した結果、北朝鮮軍ミサイル技術者を特定した」 

    韓国国情院は、北朝鮮がロシアへ特殊部隊およそ1500人を派兵したと発表した。具体的な証拠写真も添えている。

     

    (2)「特に北朝鮮軍が投入された地域や部隊名まで詳細に特定したのは、偵察資産だけでなく内部情報に直接接近したという解釈が可能だ。盗聴・傍受やヒューミント(HUMINT、人的情報資産)まで動員した結果と推定される。これは「情報は握っているほど価値が高まる」という過去の公式とは異なる接近だ。最近の情報戦で浮上する「戦略的機密解除」技法を積極的に活用したということだ」 

    北朝鮮軍が、投入された地域や部隊名まで詳細に特定されているのは、韓国情報網の力量を示したとみられる。 

    (3)「趙太庸(チョ・テヨン)国情院長も7月の国会情報委員会で「過去には軍事・安保分野の情報は絶対に外部に露出しないのが望ましいと評価されたが、最近、米国をはじめとする主要先進国では、戦略的秘密公開形態で一部を公開することで関係国家の警戒心を高める目的で使われる傾向がある」(国民の力情報委幹事の李成権議員)と説明した。一例として2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻当時、米国はロシアの地上攻撃時点まで特定の情報報告を友好国と共有し(当時、米ポリティコ報道)ロシアの動態を把握している事実を意図的に浮き彫りにした」 

    韓国情報院が、北朝鮮情報をあえて公表した理由は、米国CIAによってロシアのウクライナ侵攻情報を事前に発表した例に倣ったものだ。

     

    (4)「韓国国情院が情報資産の露出リスクまで甘受して関連情報を公開したのも、これにより得るメリットの方が大きいという判断のためと解釈される。情報力を誇示する一方、ロシアと北朝鮮に内部の「穴」を疑わせ、不安と亀裂を誘発する効果があるからだ。高麗大の南成旭(ナム・ソンウク)統一融合研究院長は、「国情院が異例にも大量の物証を公開したのは、それだけ情報の信憑性に自信を持って心理戦をしているという傍証」とし「ただ、朝ロは国際世論を眼中に置かず行動しているため、当分は『マイウェイ』の動きを見せる可能性が高い」と話した」 

    今回の韓国情報院の情報公表で、ロ朝は衝撃を受けているはずである。この件について、ロ朝が沈黙していることに表れている。事前に情報が察知され、筒抜けになっていたからだ。 

    (5)「朝ロの行動を抑止できなくても高い費用を払わせる効果はあるとみられる。統一部の金秀卿(キム・スギョン)次官はこの日、チャンネルAに出演し「『暴風軍団』と呼ばれる特殊部隊の1次派兵があったのに続き、近いうちにその配下部隊員が追加で派兵されるとみられる」とし「防御より攻撃に特化している部隊員であり、激戦地のクルスクが(投入される戦場として)可能性があるのではと思う」と話した」 

    韓国統一部は、近いうちに北朝鮮の実戦部隊が派兵されると予測している。

     

    (6)「ウィリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官は1月、米外交専門紙『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿で「米国は情報外交の価値が高まっている点を学んでいる」として、次のように指摘した。「戦略的機密解除は競争者を弱化させ、同盟を結集するために特定の機密を意図的に一般公開するものであり、これは政策立案者に強い道具となっている」と指摘」 

    バーンズ米CIA長官は、事前に機密情報公開が敵方を弱体化させ、同盟側を結集させるとしている。中国が台湾侵攻を行えば、事前に情報が公開され西側が準備する時間的ゆとりができる。奇襲攻撃はできない時代だ。 

    (7)「(今回の韓国情報院の発表は)バーンズ局長の説明のように、同盟および似た立場の国が警戒心を共に高める効果もある。今回の件の余波で北大西洋条約機構(NATO)のウクライナ派兵論がまた台頭するという見方が出てきた。マルク・ルッテNATO事務総長は18日、北朝鮮のウクライナ派兵について「現在までの我々の公式立場は確認不可だが、もちろんこの立場は変わる可能性がある」と話した。主要国の情報機関も朝ロ間の動向を注視する可能性が高まった」 

    NATOは、北朝鮮のロシア派兵を重大視するであろう。火に油を注ぐことにならぬよう、ロシアへ自重を望みたい。

    このページのトップヘ