勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: ロシア経済ニュース

    テイカカズラ
       

    ロシアのウクライナ侵攻は、中国を複雑な立場にしている。習近平国家主席は、ロシアのプーチン大統領が生涯の盟友だけに敗北させる訳にはいかないからだ。プーチン氏が政治的に健在であることが、習氏の「終身」国家主席を可能にさせる上で有利である。だが、国家経済としての中国という視点で判断すると、違う結果になろう。欧州が、中国を警戒して貿易関係で疎遠化する動きをみせている。当面、習・プーチンの関係で中ロは密接でも、複雑な面をみせるはずだ。 

    『フィナンシャルタイムズ』(5月20日付)は、「中ロ首脳の結束『ゆるがぬ構造』」と題する記事を掲載した。 

    (1)「ロシアを中国から引き離すという具体性に欠く議論は、どちらの国に接近するべきかについての意見の相違を見過ごしている。多くの欧州諸国は、ウクライナを巡ってプーチン氏に厳しい態度を取るよう習氏を説得したいと考えている。つまり彼らの狙いはロシアを孤立させることだ。一方、米政府では長期的な敵対国としては中国の方が危険だというのが一致した見解だ。米国の戦略家の中には、ロシアが中国に取り込まれれば世界の勢力バランスが中国にとって有利になると懸念する人もいる。キッシンジャー氏も長年にわたって中国を称賛はしていたが、個人的にはこうした見方をしていたようだ」 

    英国マッキンダーによる「地政学論」が登場した背景には、ロシアがドイツと結びつくことの軍事的危険性が指摘されていた。現代では、ロシアと中国の「接近」である。常識的に言えば一体化する条件はあるが、経済基盤が全く異なる。中国は、ロシアと一体化するメリットが少ないからだ。中国経済には、西側諸国との貿易抜きでは考えられない。

     

    (2)「理屈の上では、ロシアと中国が再び分断するよう画策することは、こうした不安の解決策となるだろう。だが残念ながら、そのような地政学的な動きが実際に実現する可能性は、少なくとも当面の間は極めて低い。5月16〜17日に北京を訪問したプーチン氏に対する温かい歓迎は、中ロ関係が永続的で強固であることを物語っている。習氏とプーチン氏の結束が今も強いのは、共通の世界観に基づいているからだ。両者ともに米国を主な脅威とみなす独裁的な国家主義者だ。プーチン氏の訪中時に発表された共同声明で両者は、米国がロシアと中国を標的とした「二重の封じ込め」政策を追求しており、「覇権主義的」な行動をしていると非難した」 

    習近平氏が、堂々と大国同士の首脳外交を展開できる相手はプーチン氏ぐらいだ。北京で厚くもてなしするのは当然であろう。中国は、「格下」とみた国には冷淡でも、相手をみて対応を変える國である。 

    (3)「ロシアと中国は、米国が敵対的な軍事同盟によって自国を包囲しようとしていると考えている。その軍事同盟とは、欧州における北大西洋条約機構(NATO)であり、インド太平洋では日本や韓国、フィリピン、オーストラリアと米国との2国間同盟だ。もちろん米国が欧州とアジアに多くの同盟国を持つ理由は、ロシアと中国がともに近隣諸国の多くに恐怖心を抱かせているからだ。プーチン氏と習氏はこの現実を認識したがらない。代わりに彼らは、拡張主義の米国から自国を守っていると主張する。おそらく彼らは本当にそう思っているのだろう」 

    中国は「戦狼外交」を行った結果、周辺国が米国との同盟を強化したという事実を認めず、一方的な「被害者意識」を強めている。これは、中国が「同盟」を本能的に嫌うという秦の始皇帝以来の外交感覚である。

     

    (4)「ロシアと中国は、それぞれの地域の米同盟国に疑念の目を向ける一方、互いを比較的信頼できる隣国とみなしている。中ロは長い国境を接しており、そのため中ロが友好関係を維持することは、米国と米国の同盟各国による「二重の封じ込め」を阻止するのに極めて重要だと考えられている。中国からみれば、ロシアの敗北は中国を危険なまでに孤立させるリスクがある。この相互依存は、中ロ関係の根底にどんな緊張があろうと両国が結束し続けることを意味する」 

    下線部分は重要である。中国は、ロシアの敗北が「中国危機」に向うとみている。それは、西側諸国が一段と中国へ圧力をかけると警戒しているからだ。ロシア勝利となれば逆に、西側諸国は「台湾侵攻」間近という想定で守りを固めるであろう。中国は、「台湾侵攻」という時限爆弾を抱えているだけに、中国にとってプラスになることはないのだ。 

    (5)「それでも両国の間に緊張が存在することに疑いの余地はない。世界観は似ていても、ロシアと中国は地政学的にはまったく異なる状況にある。プーチン氏は、ロシアを西側諸国からのけ者扱いされる国家にしてしまった。対照的に中国は、今も米国と欧州の最大の貿易相手国の一つであり続けている。この違いが、中国が無謀だとみなすようなリスクをロシアが進んで取る理由だ。最近、北京を訪れた筆者に対し、複数の中国人アナリストが、ロシアと北朝鮮の軍事関係がますます緊密になっていることに不安を感じていると語った。懸念の一つが、ロシアが北朝鮮から砲弾を受け取る引き換えに、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権と先端軍事技術を不用意に共有していることだという」 

    ロシア経済は、ウクライナ侵攻に伴う西側の制裁で発展途上国へ逆戻りする。中国は、このロシアと密接な関係を持てば、西側諸国は距離を置くことになる。中国経済にはデメリットだ。要するに、中国はロシアとの関係を深めて得をするのは習近平氏だけであり、経済としてみれば損害を被るであろう。

     

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    ロシアに異色の国防相が登場する。アンドレイ・ベロウソフ氏である。経済学者であり軍歴はゼロである。前国防相セルゲイ・ショイグ氏の部下であった国防省人事総局長ユーリー・クズネツォフ中将が14日、収賄容疑で拘束された。これまでの国防省は、とかく噂の対象になってきた。それだけに、新国防相に任命されたベロウソフ氏に注目が集まっている。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(5月13日付)は、「経済学者のロシア新国防相が果たす役割は、手法に変化も」と題する記事を掲載した。 

    12日にショイグ国防相の後任に任命されたベロウソフ氏は、(これまでの国防相と)違うタイプの人物だ。ソ連時代からの経済専門家で従軍経験はなく、プーチン氏の文民の経済顧問として様々な役職に就いてきた。プーチン氏がベロウソフ氏を選んだのは予想外だったが、両氏を知る人や国内のアナリストは、プーチン氏が2年以上に及ぶウクライナ侵略の進め方を大きく転換したいと考えていることを示唆する人事だと指摘する。

     

    (1)「国家主義的な産業政策の擁護者で、権力基盤を持たない官僚のベロウソフ氏の任命は、過去最高の10兆8000億ルーブル(約18兆5000億円)に達した国防費を自らより掌握し、従順で現実的な人物に予算の執行を任せたいとのプーチン氏の意向を反映していると、同氏を知る人々は話した。プーチン氏とベロウソフ氏の双方を長年知る人物は「ベロウソフ氏は汚職と無縁で、国防省は現状から大きく変わるだろう。ショイグ氏や同氏の側近はお金に目がない人々だ」と述べた。さらに「ベロウソフ氏はメダルを数多くつけた将軍のように軍隊を率いるふりはしないだろう。同氏は仕事中毒の官僚だ。また正直な人物でプーチン氏はベロウソフ氏をよく知っている」とこの知人は話した」 

    ベロウソフ新国防相は、このウクライナ侵攻をどのように決着させる積もりか。最終的には、プーチン大統領の意思にかかるが、国防相としてどのように補佐するかだ。合理性を尺度とするならば、結論は一つ「平和」であろう。 

    (2)「ソ連の著名な経済学者を父に持つベロウソフ氏は、1999年に政府の仕事に就く前は学問の世界に身を置いていた。これまでに経済発展相やプーチン氏の経済担当補佐官などを歴任し、直近では第1副首相を務めていた。これらの役職を務める間、ベロウソフ氏は一貫して経済における国家の強力な役割や公共投資による成長促進、低金利や緩和的な財政・信用政策を支持してきた。そのためナビウリナ中銀総裁やシルアノフ財務相など、タカ派の金融・財政政策で欧米の制裁を切り抜けてきた他の高官と頻繁に対立してきた」 

    ベロウソフ氏の経済政策は、国家の強力な役割や公共投資による成長促進、低金利や緩和的な財政・信用政策を支持してきた。要するに、開発型の経済成長促進論者である。現在のロシア経済では、こうした開発型成長促進余地がなくなっており、持論を適用できない状況になっている。

     

    (3)コンスタンチン・ソニン米シカゴ大教授は、「ベロウソフ氏は国家が全てにおいて主要なけん引役だと考える一派に属している。一方で彼は抽象的な概念を弄ぶだけの他の政府寄りの経済学者とは違い、我々と同じデータを分析していた」と指摘する。またソニン氏はベロウソフ氏が政府の役職に就いた際、「プーチン氏の手勢」の部分が彼の中にある「マクロ経済学者」の部分を乗っ取ったとの見方を示した。ベロウソフ氏を20年以上前から知っているソニン氏はプーチン政権を批判しているため、ロシア政府から指名手配されている」 

    ベロウソフ氏は国家主義者であるが、抽象論を弄ばずデータに基づく実証主義者とされる。 

    (4)「ロシア大統領府の元高官は「彼は愚かではない。数学的な頭脳を持つが、物事の見方はソ連のままだ。公平性についてばかげた考えを持っている。誰かが大金を稼いだらそれを奪わなければならないというものだ。私から見れば中国のやり方に似ている」と述べた。「Zブロガー」と呼ばれる愛国主義者や政府寄りメディア及び国営メディアの戦争特派員は、ウクライナ侵略の最初の1年間に軍の汚職を度々指摘し、管理能力の低さが前線での劣勢につながったと批判してきた。彼らの多くはベロウソフ氏の任命を歓迎している。経済の専門知識を称賛し、国防省の腐敗を一掃できる人物だとみている」 

    ベロウソフ氏は、旧ソ連型の価値観の人物とされている。プーチン氏と同じタイプだ。ただ、腐敗を嫌うことから、国防省の腐敗を一掃できる人物とされている。

     

    (5)「ロシア軍が、地上戦で屈辱的な敗北を喫した後もショイグ氏は国防相の座にとどまった。だが最近の防衛装備品の調達に関する汚職事件で同氏の地位は一層脅かされていた。連邦保安局が先月、ショイグ氏の側近のイワノフ国防次官を収賄容疑で逮捕したことから国防相の交代は時間の問題と見られていた。ロシア中銀の元職員アレクサンドラ・プロコペンコ氏は、ベロウソフ氏の指名は今後、内閣と国防省がより緊密に予算を調整することを意味するとの見方を示した。「ベロウソフ氏は、軍の予算削減ではなく増加する可能性がある。同氏は産業が経済に果たす役割を強く支持しており、防衛産業を通じた経済への資金供給に全面的に賛成するだろう」と同氏は話した」 

    ベロウソフ氏は、防衛産業の拡大を通じて経済への資金供給策に賛成するとしている。これは、理屈から言えば不可能であろう。軍事産業は、付加価値を生まないから一般産業の発展に寄与しないのだ。現実に、労働力が軍事工場へ奪われ一般産業は労働力不足に陥っている。ただ、軍事産業の技術が、一般産業に利用されて生産性を上げることはある。それは、中長期的なことで短期的には不可能である。

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    ロシア中央銀行は4月26日の金融政策決定会合で、政策金利を16%に据え置くことを決定した。インフレは、従来予想より緩やかに鈍化するとの見通しを示し、インフレ率が年内に目標の4%に戻らない可能性を初めて認めた。

     

    ロシア経済は、16%という高い政策金利の下に置かれている。戦時経済による供給不足によって、インフレ発生を抑制する目的だ。ウクライナ侵攻による戦時経済は、すでに26ヶ月を経過している。ロシア経済が無傷あるはずがない。

    『ロイター』(4月25日付)は、「ロシア経済、悲観シナリオでは失速・ルーブル急落もー経済発展省」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ロシア経済発展省が経済の最も悲観的な場合を想定したストレスシナリオによると、2025年の国内総生産(GDP)と実質所得のそれぞれの成長がほぼ停止すると試算されている。その場合、通貨ルーブルは現在の1ドル=約93ルーブルから107ルーブル程度に下落するという。ロイターが入手した文書で分かった」

     

    ロシア経済は、長引くウクライナ侵攻が経済成長率に影響するという悲観シナリオが存在した。ロシア経済発展省がまとめたものだ。

     

    (2)「レシェトニコフ経済発展相が23日発表した最も楽観的な基本シナリオでは、24年のGDP伸び率予想は2.8%と従来から上方修正され、より明るい見通しを示した。ただ、ストレスシナリオと保守的シナリオ、基本シナリオの3種類の可能性のうち、基本シナリオでもインフレ見通しが悪化し、ルーブルは下落すると予想している。レシェトニコフ氏は、世界経済の減速、制裁圧力の継続、ロシアの労働市場に対する制限のリスクがあると指摘。そうしたリスクは3種類のうち真ん中の水準である保守的シナリオの予測に織り込まれていると説明した。保守的シナリオとストレスシナリオではロシアの石油・ガス生産量と輸出量の減少を想定した」

     

    経済発展省は、最も楽観的なシナリオを発表した。24年のGDPは2.8%成長率である。

    (3)「石油・ガスやその他のコモディティー(商品)の輸出価格が、ストレスシナリオで予想される程度に下がった場合、GDPの伸び率は24年に1.5%、25年に0.2%にそれぞれ減速すると試算。一方、基本シナリオのGDP成長率は24年に2.8%、25年に2.3%を見込んだ」

     

    最悪シナリオでは、24年1.5%成長、25年0.2%成長となっている。現在の1ドル=約93ルーブルから107ルーブル程度に下落するという。ロシア経済が苦境に立たされるという予測もある。

     

    『毎日新聞』(2月13日付)は、「ロシア経済はどこまで持続、あと何年戦争を続けられるのか」と題する記事を掲載した。

     

    フランスのシンクタンク「国際関係研究所」(IFRI)は2023年7月、ウクライナ侵攻が始まった22年2月以降、ロシアから国外に移住した人の数が100万人に上るとの報告書を発表。1917年のロシア革命直後に匹敵する規模の人口流出だと指摘する。

     

    (4)「拡大する政府支出とともに、労働力不足はインフレ(物価上昇)圧力となる。だが、ロシア中銀は金利16%の金融引き締めで対処し、インフレ率を7%台に抑えている。元ロシア中央銀行顧問でカーネギー・ロシア・ユーラシアセンター非常勤研究員のアレクサンドラ・プロコペンコ氏は、「制御不能なハイパーインフレに陥る兆候はない」とみる。その理由の一つには、原油、天然ガスなどのエネルギー資源や、世界有数の生産量を誇る小麦などの食料生産力を背景に、ロシア国内で極端なモノ不足が起きていないことがある」

     

    ロシアは、原油・天然ガス・穀物などの生産に恵まれている。極端な物不足は起きない。

     

    (5)「経済制裁などで西側諸国からの輸入が停止した品目は、中国などからの代替品でまかなっている。民間向け航空産業では部品不足に直面したが、制裁に参加していないアラブ首長国連邦(UAE)などからの交換部品購入でしのぐ。プロコペンコ氏は「豊富な資源と、中国、インドなどとの貿易の拡大が、ロシア経済を支えている。西側諸国との貿易が減少した分、より制裁への耐久性が増す結果になった」と分析する。また一定の生活水準を維持できていることから、「国民の不満が政府に対する暴動に発展する可能性は低い」と予想した」

     

    下線部のように、豊富な資源と中国やインドとの貿易で制裁への耐久性は増している。

     

    (6)「ウクライナ侵攻そのものと西側による制裁は、労働力不足や科学技術の停滞、政府債務の増加などを引き起こし、中長期的にはロシア経済を確実に弱らせる。しかし、プロコペンコ氏は「たとえ収入源の原油価格が下落したとしても、少なくとも2024~25年の間は、ロシアは戦争を継続する資金力がある」と指摘する」

     

    ロシア経済は、西側の制裁によって労働力不足や科学技術の停滞、政府債務の増加などによって、中長期的に潜在成長率を確実に引下げている。

     

     

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    ロシアのプーチン大統領は、ライバル不在の中で大統領選に圧勝した。当面の課題の第一は、ウクライナ侵攻をいつ止めるのかだ。そのカギは、ロシアの兵器増産力がいつまで保つかにもかかっている。数年説もあるが、長引けば長引くほどロシアの国力を消耗する。すでに予算の29%を国防費に向けている。確実に国力衰退に向っている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月20日付)は、「ロシアの兵器増産 持続力には疑問」と題する記事を掲載した。 

    ロシアの戦車・ミサイル・砲弾生産能力は西側諸国を驚かせ、ウクライナにさらなる圧力をかけた。問題は、それがいつまで続くかだ。欧米の当局者やアナリストの間では、ロシアが公表している軍事生産量は誤解を招きやすく、労働力不足や品質低下などの問題を覆い隠しているとの声がある。増産は経済全体の資源を消耗するため、長く続けるのは難しい可能性がある。生産量が落ちれば、中国・イラン・北朝鮮といった友好国からの援助にさらに頼ることになるかもしれないという。

     

    (1)「ロシアが2022年にウクライナに侵攻すると、米国とその同盟諸国は一連の制裁を科し、ロシアの軍需産業を阻害しようとした。戦場では、ロシアはすぐに装備を失い、ミサイルや砲弾の在庫が底を突いた。これを受けて、ロシア政府は直ちに兵器産業に資源を投入した。昨年は、連邦政府支出に占める国防費の割合が21%と、2020年の約14%を上回った。2024年の連邦予算ではこの割合がさらに大きくなり、29%を超えた」 

    ロシアの国防費は24年、予算の29%超にもなった。ウクライナ侵攻前の20年は、14%だ。この間に倍増している。国家経済を大きく圧迫していることは疑いない。 

    (2)「欧米の当局者らによれば、ロシアはミサイルなどの兵器も増産している。例えば、2021年に40万発だった砲弾生産量は翌年に60万発となり、米国と欧州連合(EU)の合計生産量を上回ったと、エストニアの軍事情報機関は推定している。北大西洋条約機構(NATO)の高官によれば、ロシアは現在の規模であと2~5年は戦力を維持できるとみられる。欧州の少なくとも二つの軍事情報機関は、あと数年は十分な兵器を生産できるとの見方を示している」 

    欧州の複数の軍事情報機関は、ロシアがあと数年は兵器生産ができるとみている。

     

    (3)「ロシア経済の他部門からの投資・労働力・資材の流出を考えると、増産――および軍事費全体の水準――は持続可能なものではない可能性があるとフィンランド銀行は結論づけている。同行の分析では、増産された防衛関連品の大半はローテク製品(加工鋼など)であり、ロシアが国外のサプライヤーに依存している、より高度な製品(半導体など)ではないことも明らかになっている。ロシアは一部の製品については制裁を回避することができたが、戦車の乗組員の視界を確保する光学部品など、ロシアが欧米から購入していた特殊部品は、第三者を通じて購入することがはるかに難しい」 

    フィンランド銀行は、ロシア経済の他部門からの投資・労働力・資材の流出を考えると、兵器生産「数年説」を否定する。増産された防衛関連品の大半が、ローテク製品(加工鋼など)であると指摘している。ハイテク兵器ではないのだ。 

    (4)「ロシアが主張する生産数に疑問を呈するアナリストもいる。例えばロシアの生産数は、新たに生産された装甲車と、倉庫から出して改修した旧型車を区別していない。「生産数は誇張されている」と国際戦略研究所のマイケル・ジェルスタッド研究員は言う。ジェルスタッド氏が開戦前後の衛星画像を調べたところ、ロシアが昨年、少なくとも1200両の旧型戦車を倉庫から引っ張り出してきたとみられることが分かったという。つまり、ロシアが昨年生産した戦車はせいぜい330両ということになるが、実際の数はその半分である可能性が高いと同氏は指摘する」 

    ロシアは、兵器の生産数を誇張しているとみられる。これまで眠っていた旧型戦車(約1200両)を引っ張り出して、「増産」に数えている節がある。ロシアが、昨年生産した戦車はせいぜい330両とみられる。

     

    (5)「ロシアの兵器メーカーは人手不足に直面している。ロシア大統領府のウェブサイトに掲載された発言記録によれば、ウラジーミル・プーチン大統領は2月に同国最大の戦車工場を訪問した際、熟練工が不足していることは認識していると従業員に語った。ウラルバゴンザボード社の同工場では昨年初め、特に深刻な人手不足に陥り、近隣の刑務所から250人の受刑者を受け入れたと、同刑務所が当時明らかにしていた。ユーリ・ボリソフ副首相は2022年6月、兵器産業では労働者が約40万人不足していると述べた。ボリソフ氏などの当局者は同産業の必要人員を約200万人としていることから、約20%の人員が足りていない計算になる」 

    ロシアの兵器生産では、労働力不足で刑務所の受刑者を兵器生産に当らせているほどだ。兵器産業では労働者が約40万人不足(20%)している状態だ。増産説に疑問がつく大きな理由だ。 

     

     

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    ロシアのウクライナ侵攻から、すでに満2年を経て戦線は膠着状態である。ウクライナ支援の米英やEU(欧州連合)は、西側に預けられていたロシア中央銀行の約3000億ドルを巡って、没収論(米英)と利子利用論(EU)で意見が対立している。

     

    国際法上、国家資産は原則没収できないことになっている。ロシア資産を例外とする論拠にしたのは、国連の国際法委員会が2001年にまとめた文書が論拠である。それによると、違法行為によって特別に影響を受ける国は、加害国の責任を追及できると記した。米国はこれに基づき、予算の面などで影響を受けるG7も対抗措置が可能だと主張した。英国は、米国の意見に賛成している。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの凍結資産そのものの活用を求めている。資産没収には各国の国内手続きも必要になる。旗振り役の米国も、没収を可能にする国内法の成立は見通せていないのだ。独仏は、没収できるとする米国の解釈に真っ向から反論する。交戦状態にない第三国の資産を没収すれば、異例の措置となるからだ。国際法違反の悪しき前例になると訴えている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月11日付)は、「ロシア凍結資産の没収論。民間投資に逆風 歴史学者」と題するインタビュー記事を掲載した。米コーネル大ニコラス・ミュルデル助教授へのインタビューである。

     

    ウクライナ侵攻から2年がたち、主要7カ国(G7)はロシア向けの経済制裁の強化を模索している。凍結資産の没収といった踏み込んだ対応は、世界経済にどのようなリスクをもたらすのか。制裁の歴史に詳しい米コーネル大助教授(欧州近現代史)のニコラス・ミュルデル氏に聞いた。

     

    (1)「(質問)ロシア向けの経済制裁は歴史的にみて異例か。(答え)「これまでとは量的にも質的にも違う。イランやベネズエラのような小国ではなく、世界で10〜11番目の経済大国に制裁を科した例は1930〜40年代以来だ。エネルギー市場での存在感が強いため、ロシアに原油供給を続けさせながら値段を下げる上限価格措置が導入された点も新しい。ロシアの中央銀行の資産凍結までは一般的な対応だ。アフガニスタンやイランでも凍結した。ただ、資産を没収すれば大きな影響がある。通常は戦争後に勝利した国が実施するものだ。欧州にとって凍結資産はロシアに和解させる際の交渉材料にもなるはずだが、その影響力もなくなる

     

    ロシアの資産凍結は、過去の例でもみられた案件だ。だが、没収となると事態は複雑になる。ロシアが、永遠に戦争が可能でない以上、どこかで和平が求められる。凍結資産は、和平交渉の材料に使える、としている。

     

    (2)「(質問)G7の力は金融市場で圧倒的ですが、GDPのシェアは低下している。経済を武器として使うやり方は持続可能か。(答え)「重要な問いだ。米国が非常にユニークなのは、世界最大の経済大国でありながら産油国である点だ。ドイツはエネルギーを輸入に依存しているため、経済を武器として使えない。日本もロシアでの石油・天然ガス開発事業『サハリン2』のような事例があり、限界がある。経済を武器に使えるかどうかという観点でみると、米国は世界の歴史でみても特異な存在であり、他のほとんどの国にはまねができない」

     

    米国の没収論は、米国経済の特異性にある。米国が、世界最大の経済大国であり同時に、産油国であることだ。米国には、こうして強気の姿勢で交渉できる強みがある。ただ、他国はこれを鵜呑みにすると、後からロシアの「しっぺ返し」を受ける危険性を抱え込む。

     

    (3)「(質問)ロシア原油の価格上限のようにドルを武器として使うやり方は、ドル離れを加速させるのでは。(答え)「世界経済が、急速に脱ドルに向かう現実的な見通しは存在しない。ドルは、非常に重要な基軸通貨であり続ける。アジアの貿易取引では、ドルが人民元におされ始めているが、金融資産や外貨準備という点では人民元の量が足りないためドルの地位は維持される」

     

    米国が基軸通貨国である理由は、前述のように世界最大の経済大国であり、世界最大の軍事力を擁することにある。他国が、米ドルを資産として持つことに何らの不安もないのだ。ふらつく中国経済とは、比較にならない強みを持っている。

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