勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: ロシア経済ニュース

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    ロシア大統領のプーチン氏は3月、モスクワで開かれた中ロ首脳会談で、「5年間はウクライナで戦う」と習中国国家主席へ発言したという。この発言が、何を意味するかだ。単なる張ったりをかませて、中国が逃げ腰にならないように引き留めようとしたのか。その真意を巡って日本までが頭を悩ませいるのだ。5年間と言えば、2028年である。習氏が国家主席3期目の最後になる。習氏は、このプーチン発言に合わせて「台湾侵攻」計画を練るのか。 

    『日本経済新聞 電子版』(12月27日付)は、「『ウクライナで5年戦う』習氏動かすプーチン重大発言」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。 

    「(少なくとも)5年間は(ウクライナで)戦う」。ロシア大統領のプーチンは、中国国家主席の習近平(シー・ジンピン)を前にこう断言した。これは直近、10月にあった北京での中ロ首脳会談ではない。その7カ月前、ロシア・モスクワのクレムリンで両首脳が長時間、顔を付き合わせた3月の中ロ首脳会談である。ここが重要だ。

     

    (1)「このプーチンが口にした「重大発言」は、極東に位置する日本に無関係ではない。いや、日本の今後の国際政治、国家の在り方まで左右しかねないのである。一連の経緯を明かしたのは、中ロ両国の長く複雑な駆け引きをよく知る複数の関係者らだ。この3月の中ロ首脳会談には、多くの謎が残されていた。習の訪ロは、ウクライナ全面侵攻が始まってから初めて。しかも新型コロナウイルスを厳格に封じ込める「ゼロコロナ政策」の撤廃後、初めての大国訪問だった。それだけに、その後の中ロ関係を決定付ける大きな意味があった」 

    プーチン氏のウクライナ侵攻「5年継続発言」は、中国にとってどう受け取られたか、だ。台湾侵攻する上で、好機とみるかどうかである。「好機」とみるとすれば、習氏の浅慮が問題となろう。中国では、ロシア評価がきわめて低いからだ。

     

    (2)「その謎を解くカギとなる発言が、プーチンの「5年は戦う」という心情吐露だ。必ずしもロシアに戦況が有利ではない当時の状況下で、中国に対して「ロシアは必ず勝つ。間違えるな。決して逃げないように」と暗に釘をさしたとも言える。裏にあるのは、当面の間、ウクライナでの戦いが膠着し、不利に見えたとしても、超長期戦に持ち込めば軍事的な体力に勝るロシアに有利な状況が生まれるという冷徹な読みである。一方、習の中国は、3月段階のプーチン重大発言も踏まえながら、その後の戦略を考えた。ロシアとウクライナの戦いが超長期戦になるなら、中国共産党内で超長期政権へ地歩を固めた習の今後にも大きな影響がある。例えば、統一という大目標を掲げている台湾問題も含めてだ」 

    習氏にとっては、プーチン発言をどう捉えるかだ。中国経済が混乱している現状で、プーチン氏の尻馬に乗って台湾侵攻を始めれば、大変な結末を迎えかねないからだ。 

    (3)「習がプーチンの言葉をそっくりそのまま信じたとも思えない。なぜなら、その1年余り前だった22年2月4日の中ロ首脳会談を巡る「遺恨」があるからだ。それは北京冬季五輪開会式当日の出来事だった。22年2月の北京会談でプーチンは、ウクライナに全面侵攻する計画に関して、おくびにも出さなかった。ところが、その20日後からウクライナの首都、キーウ(キエフ)制圧を目指す電撃攻撃に踏み切った。だまし討ちである。この前段の経緯を理解するなら、23年3月のモスクワでの中ロ首脳会談で、プーチンの口から「5年は戦争を続ける」という趣旨の言葉が飛び出していたとしても、その内容をそのまますべて信じて、中国の行動を決めるわけにはいかない。それは当然だろう」 

    中ロは、同盟関係にない。この点を割り引くべきである。プーチン氏が、習氏へウクライナ侵攻について事前に語らなかったのは同盟関係にない限界によるであろう。

     

    (4)「中国としては、複雑な国際情勢の下、ウクライナ情勢がどう転んでも自国の利益を守る方策を考える必要があった。それが、3月のモスクワ会談から2カ月もしないうちに、ウクライナとロシア両国を含む欧州に送った中国による「平和の使節団」だった。中国の微妙なシフトチェンジが見てとれる。この行動は、「今、世界は『百年に一度』しかない大変局にある」と繰り返していた習の危機意識の延長線上にある。5年もの長い間、ウクライナでの戦争が続けばどうなるのか。侵略者と見なされているロシアと多岐にわたる軍事協力にまで踏み込んでいる中国にも、米欧からこれまで以上の様々な圧力がかかるのは必定だ」 

    中国経済は、西側諸国との協力を絶っては存続できないほど深い依存関係になっている。それが、台湾侵攻で全て消える事態になれば、習氏の政治生命へ大きな影響を与えることになろう。 



    (5)「プーチンが、ウクライナで「5年は戦う」と習に告げた経緯は、回り回って日本の今後の国家の在り方にも影響する。それは、長く武器輸出を禁じてきた大原則の見直しである。すぐ影響する大変化は、防衛装備移転3原則と運用指針の見直しにより、日本でライセンス生産された地対空誘導弾「パトリオットミサイル」の米国への輸出を認めたことだ。もし、ウクライナ侵攻が5年も続くなら、その間に、日本の武器輸出に関する考え方もさらなる変更を迫られかねないのである。そして、これは習の中国が武力行使を否定しない台湾統一問題に絡む諸情勢にまで関わってくる」 

    日本もプーチン発言から影響を受ける。防衛体制を固めなければならないからだ。武器輸出問題も緩和せざるをえなくなってきた。原理原則に拘っていると、自国防衛にとって逆効果になるという環境変化が起こっているからだ。

     

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    中国は7月末に突如、外相の秦剛氏を解任した。理由は一切、明かされないままである。だが、この事件の裏にはロシアが絡んでいたという情報が登場した。英紙『フィナンシャル・タイム』によって、秦氏は女性問題が絡んでいたとされた。この情報の出所は、ロシアであるという。目的は、中国が積極的であったロシアのウクライナ侵攻休戦を葬るためだという。そう言われれば、その後の中国はウクライナ問題について沈黙している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月13日付)は、「中国外相さえ消すロシアの密告力 ウクライナ絡む暗闘」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の編集委員中沢克二氏である。

     

    ロシアから侵攻を受けたウクライナが、反転攻勢を宣言して半年。作戦は順調とはいえず、戦況膠着が目立つ。その激しい実戦と別次元の国際政治の世界で、ウクライナと米中も絡む神経戦が演じられていた経緯が次第に明らかになってきた。

     

    (1)「中ロ関係を巡る今年の重要な出来事は、まず3月後半の習の訪ロだ。中国トップとして異例の3期目入りを果たした後、初の外国訪問だった。ここで習とプーチンは中ロの蜜月関係をアピールしたはずだった。だが、2カ月もしないうちに中国代表団が、ロシアの意向に反してウクライナ入り。ゼレンスキーにも会ってしまった。表でも裏でもロシアの心強い味方のはずの中国が基本姿勢を変え、「ロシア離れ」に動いたのではないか。ロシアが疑心暗鬼に陥るのは無理もない。ここから中ロ関係は部外者が考える以上にギクシャクする」

     

    ロシアは、中国が唯一の頼りである。その中国が、ウクライナ休戦問題で代表団をウクライナへ送った。ロシアは、これを中国の裏切りとみた。そこで、外相秦剛を失脚させる戦術に出たたというのだ。

     

    (2)「焦るロシア側は、ついに大きな勝負に出る。それは「情報」を駆使した対中攻勢だ。狙ったターゲットは、時の中国外相。問題は、ロシアの標的が習自らの意向で外相に抜てきされた秦剛だったという「アヤ」である。ロシア側の理屈はシンプルだった。秦剛が、李輝率いる中国外交代表団をウクライナ、欧州各国、ロシアに送った形式上の責任者であるからだ。真実とは別に、ロシアは、外相に抜てきされる前、短い期間、駐米大使を務めた秦剛に「親米派」というレッテルをあえて貼った。そして、「(秦剛は)米国のスパイである疑いが濃いという内部情報を中国上層部に伝えた」。中ロ関係に詳しい別の人物の見立てでは、この「密告」ではロシアがつかんでいた「証拠」も示されたという」

     

    ロシアは、秦剛外相の失脚を狙って情報戦を展開した。秦氏の女性問題である。

     

    (3)「では、ロシアが中国に突き付けた証拠とは何か。その肝として、先に世界的な話題になった秦剛の女性問題の件が含まれていたのは間違いない。妻子ある秦剛が、中国系テレビ局の有名なメディア人だった女性と不倫関係になり、米国での代理母出産という方法で子供をもうけたとされる問題は、既に英紙フィナンシャル・タイムズが詳しく報じている。ロシアは、親米派との烙印(らくいん)を押した秦剛と、米英にも在住したこの女性の問題に焦点を当てた。秦剛が消えてからの中国は、ウクライナ侵攻を巡り「ロシア寄り」という従来のスタンスに急速に戻ってゆく。中国が、両国停戦の仲介役になる、という声を発する場面は全くなくなった」

     

    秦氏の親密であった女性は、米国へ中国の機密情報を漏らしたのでないかという疑惑が持ち上がった。こうして、秦氏は外相を罷免される羽目になった。これ以降、ウクライナを巡る和平問題は消えてしまった。

     

    (4)残る謎は、なぜ中国が、内政干渉にみえるロシアの主張を受け入れたのかだ。それは、中国が自分の手で改めて過去に遡って秦剛周辺を詳しく洗ってみると、単なる女性問題の範囲に収まらない大変な問題が存在することがわかったから、とみるのが自然だ。秦剛の女性問題は、ロシアの密告がひとつのきっかけにせよ、最後は中国共産党内の深刻な内政上の「政治問題」に発展した。別の案件が絡んでいたからである。今回は、中国が最も重視する対米関係だ。中国の内政上の様々な問題が、秦剛と親しい女性を通じて米側に漏れていたとしたら……。そう考えた中国上層部は、ロシアの密告を捨て置けなかった。万一の場合、集権に成功した習の体面に大きな傷が付きかねない」

     

    秦剛氏は、当局の調べに対して中国情報が米国へ漏れていないと強調している。だが、秦氏を外相に任じたのは習氏である。万一、中国情報が米国へ渡っているとすれば、習氏の責任は免れなくなる。そこで、安全策として秦氏を罷免したという見方だ。

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    ロシアは、ウクライナ侵攻を始めてすでに16ヶ月経った。ロシア経済は、完全に軍需で拡大するという不安定化する。若者は、30万人動員で軍務についているほか、国外へ大量流出したことも手伝って、労働力不足の深刻化に直面。軍需工場では、「学歴は今やあまり重要ではないだろう。正直なところ、手が2本、足が2本、そして目と耳があれば採用される」という事態だ。 

    『フィナンシャル・タイム』(11月9日付)は、「戦時経済体制のロシア、深刻化する人手不足」と題する記事を掲載した。 

    ウクライナ侵攻を続けるロシアが長期戦に備えるなか、ロシアの軍と兵器工場がますます多くの労働者を取り込んでいる。民間部門は痛みを伴う人手不足に見舞われ、経済全体が不安定化している。労働市場は非常に逼迫している」。ロシアの大手鉱山会社のトップはフ『ィナンシャル・タイムズ』(FT)に語った。「原因は労働力の戦争動員や国外流出だけでない。一番の問題は兵器生産だ」と指摘する。

     

    (1)「労働力不足は、クレムリン(ロシア大統領府)が描くバラ色の見通しとは相反するロシア経済の弱点を露呈させている。プーチン大統領は、ロシア経済の健全性と戦闘や西側諸国の制裁が深刻な損害をもたらしていないことの証拠として、同国の国内総生産(GDP)は増加していると繰り返し強調している。だがエコノミストらは、GDPの数字は国防費の大幅な増加によって実態以上に押し上げられており、長期的な不安定化要因になり得る構造的な問題を見えなくしていると指摘する」 

    GDPは、軍需費の増大で拡大する。長期的にみれば、国民生活は何ら豊かにならない。こういう矛盾した事態が起こっている。 

    (2)「ロシアの危機は戦闘でとりわけ深刻化している。2022年には、ウクライナ側がロシア軍の侵攻を食い止めたことを受け、約30万人が緊急動員された。さらに数十万人が兵役を逃れるため国外に脱出した。脱出者の多くは教育を受けた若者で、高度なスキルを持つ人材に頼るIT(情報技術)などの業界には大打撃が及んでいる。エコノミストやロシアの実業界からは、紛争の長期化を見越して経済を戦時体制に移行させるという政府の決定が状況の悪化を招いているとの声が聞かれる。防衛企業が軍への供給でフル稼働するなか、民間業界は労働者の確保に苦戦している。ロシアの失業率は過去30年間で最低の3%に低下しており、ロシア経済の大半を占める労働集約型産業は働き手の確保に苦労している」 

    ロシア経済の過半を占める労働集約型産業は、国民生活に直結する。戦時経済下で労働力不足に直面しているのだ。

     

    (3)「米シンクタンク、欧州政策分析センターの非常勤シニアフェロー、パベル・ルジン氏は「23年1月以降、軍事関連産業(の購買担当者景気指数)は30〜40%急上昇している」と話す。ロシア政府は9月、24年の国防費をGDPの約6%に相当する10兆8000億ルーブル(約17兆8000億円)とする予算案を発表した。ウクライナ侵攻を始める前年の21年比で3倍、23年の当初予算比では1.7倍になる。独立系アナリストらは、機密費を含めると実際の数字はさらに上がるとみている」 

    24年国防費は、ウクライナ侵攻を始める前の21年比で3倍へ。23年比で1.7倍へ急増する。これに合わせて民間労働力が不足する。

     

    (4)「UPFのエニコロポフ氏は「ロシアの労働市場と経済全体は限界に達している。ギリギリの状態を強いられているため、これ以上の生産は不可能だ」と述べた。例えば、ロシア西部のニジニ・ノブゴロド州では、当局が未曽有の労働力不足を報告していると、ロシア紙コメルサントの地方版が報じた。同州では登録失業者数が9月に27%減少し、製造業で1万7000人の欠員が発生した。そのうち7500人は防衛産業で、この1年で1600人の雇用が創出されるなど労働需要が高まっている」 

    ロシアは、労働市場と経済全体が限界に達している。となれば、ウクライナ侵攻を続ける余力は失われる。供給面から、ウクライナ侵攻は重大な局面を迎えることになりそうだ。 

    (5)「プーチン氏は今夏、この問題を認めた。大統領府で製造業の幹部と会談した際「労働力不足は中小企業に、いい意味ではなく影響を及ぼし始めている」と語った。プーチン氏に続く形で政府高官からも声が上がっている。レシェトニコフ経済発展相は9月、労働力不足は「ロシア経済にとって最大の内部リスク」だと発言した。ロシアの「アルミ王」とも呼ばれる大富豪のオレグ・デリパスカ氏も、防衛企業が他部門から労働者を呼び込んでいるとの見方を示した。FTの取材に対し「国家資本主義は資金と資本、指令で成り立つ。(防衛企業には)資金があるため、人材を採用し、競争を続けるだろう」と語った」

    労働力不足が、ロシア経済にとって最大の内部リスクである。この矛盾は、どこかで吹き上げるだろう。 

    (6)「ロシアのデジタル発展・通信・マスコミ相は8月、国内でIT人材が50万〜70万人不足していると述べた。通信分野のある管理者は、熟練した専門職はもはや「希少種」だと語った。労働市場全般の逼迫について問われると「目も当てられない」状況だと嘆いた」 

    IT人材が、50万~70万人不足している。生産性上昇を押し上げる力が落ちている。

     

     

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    中国の習近平国家主席は、一人で14億人の民を統治するスタイルとなった。これは、政治が全てに優先する独裁体制を意味するが、大国では成功例はなく失敗例が多い。旧ソ連がまさにこれだ。習近平氏は、「第二のブレネジフ」「第二のプーチン」と見立てられるようになっている。中国の「ソ連化」は、警戒すべき喩えである。 

    『日本経済新聞 電子版』(10月29日付)は、「習近平氏がはまる『ソ連化のわな』、中国経済を縛る政治」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙編集委員 高橋哲史氏だ。 

    ロシアのプーチン大統領がずいぶん小さく見えた。17〜18日に北京で開かれた「一帯一路」首脳会議で、中国の習近平国家主席と並んだときだ。「習氏の先見の明を称賛する」「国際情勢の変化は、習氏の戦略的判断が正しいことを完全に証明した」。中国国営の新華社通信は、プーチン氏が発した習氏をたたえる言葉をいくつも紹介した。ウクライナへの侵略を続けるプーチン氏にとって、頼れるのはもはや習氏しかいない。習氏がプーチン氏への全面支持を約束した今回の首脳会談は、ロシアが中国のジュニアパートナー(弟分)に成り下がった現実を世界に印象づけた。

     

    (1)「プーチン氏は1991年のソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的な悲劇」と呼ぶ。ソ連が続いていればウクライナを失わずに済んだし、長くライバル関係にある中国にひれ伏す必要もなかった。そんな身勝手な思い込みを捨てられずにいるのだろう。習氏からみれば、ソ連共産党は取り返しの付かない過ちを犯した反面教師である。85年に同党の書記長となったゴルバチョフ氏はペレストロイカ(立て直し)やグラスノスチ(情報公開)を旗印に、言論の自由や部分的な民主化を認める改革に踏み出した。それが党の分裂を招き、ソ連の解体につながったのは紛れもない事実だ」 

    習氏が国家主席に選ばれた理由は、ソ連がペレストロイカやグラスノスチを契機にして、党分裂を招いたことを中国が避ける目的であった。江沢民は、こういう判断を押し通したのだ。 

    (2)「ソ連共産党と同じ道は絶対に歩まない。習氏はそのために、あらゆる権限を自らに集め、中国共産党の指導を社会の隅々にまで行き渡らせようとする。党の支配の永続化こそ、すべてに優先するのだ。「政治的にソ連の二の舞いを踏まないようにしようとすればするほど、経済は逆に『ソ連化』が進むおそれがある」。そう警鐘を鳴らすのは日本総合研究所の呉軍華上席理事だ」 

    中国共産党が、政治的にソ連の二の舞いを踏まないようすればするほど、経済は「ソ連化」する。市場経済化を忌避する結果、経済が硬直化していくのだ。

     

    (3)「ソ連経済の過去を振り返ってみよう。ピークを迎えたのは、スターリンの後を継いだフルシチョフの時代(53〜64年)だったとの見方がある。政治的な締めつけが緩み、技術革新が生まれて経済は高い成長を実現した。世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功し、世界に衝撃を与えたのは57年である。社会主義の方が資本主義より優れているのではないか。そんな議論も盛んになった。2008年のリーマン危機後に中国が世界経済のけん引役として称賛されたころと、どこか似る。1964年にフルシチョフが失脚し、ブレジネフが最高指導者になると歴史の歯車は逆回転を始める」 

    フルシチョフは、米国を訪問して自由な空気に触れた。これを契機とする政治的な緩みは、党内の批判を浴びて失脚。ブレジネフが登場した。中国に喩えれば、習氏が3期目で改革派を追放して「毛沢東派」一色にしたことに似ている。 

    (4)「政治的な安定と党の存続を最も重視したブレジネフは、言論統制を強化し、人びとに社会主義的な価値観を押しつけた。イノベーションが止まり、経済は長い停滞期に入った。日本総研の呉氏は「習氏の下で中国経済はブレジネフ時代のソ連の轍(てつ)を踏む可能性がある」とみる。毛沢東が発動した文化大革命で崩壊の瀬戸際までいった中国経済は、鄧小平による改革開放で息を吹き返した。それは副作用も生んだ。民間部門が大きな力を持つようになり、党の統制が効きにくくなったのだ」 

    現在の習近平氏の政治行動は、ソ連のブレネジフときわめて似通ったことを始めている。「習氏の下で中国経済は、ブレジネフ時代のソ連の轍を踏む可能性がある」と指摘される理由だ。

     

    (5)「危機感を抱いた習氏は、経済より政治の安定を優先する路線にかじを切った。自由を制限し、国有企業を優遇する中国経済の「ソ連化」である。足元の中国経済は不動産不況を起点に苦境が続く。中国の国会にあたる全国人民代表大会の常務委員会は24日、1兆元(約20兆5000億円)の国債増発を認めた。習政権はようやく景気のてこ入れに動き出したようにみえる。しかし、党が民間の自由な活動を抑え込むかぎり、中国経済が再び活力を取り戻すとは思えない」 

    習氏は、経済よりも共産党指導体制の安定を優先している。愛国教育を強化しているのも、経済発展が共産党「教義」を侵食しているという危機感からだ。習氏には、共産党あっての経済である。究極的な選択は、政治優先の共産党指導体制確立である。そのためには、経済を犠牲にするのだ。 

    (6)「経済の停滞が長引けば、習氏の求心力に響く。「習氏が『第2のブレジネフ』と同時に『第2のプーチン』になるシナリオも意識しなければならない」と話すのは中国政治が専門の鈴木隆・大東文化大教授だ。プーチン氏と同じように軍事的な冒険主義に走るリスクである。台湾への武力侵攻もないとは言い切れない。27日には李克強前首相が68歳で急逝した。改革開放の最後の継承者ともいえる李氏の早すぎる死は、中国経済の「ソ連化」を象徴するような気がしてならない」 

    習氏が、政治優先を貫けば経済は停滞する。現状は、この状況である。この矛盾突破策として、破れかぶれに台湾侵攻を始める危険性があるとしている。台湾開戦は、中国経済の致命傷になる。習氏は、こういうシナリオを分析しているだろうか。

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    習氏は、きょうプーチン氏と会談する。何を語り合うのか。これが、中国の将来に危険性をもたらさないか。改めて、その「危険度」を探る。 

    『ブルームバーグ』(10月17日付)は、「プーチン氏に賭けた習氏の危ういギャンブル 負ければ失うもの多し」と題する記事を掲載した。 

    ロシアのプーチン大統領は2022年2月の中国訪問で習近平国家主席から「限界のない」パートナーシップという約束を取り付けた。プーチン氏はそれから1カ月を経ずして、ウクライナへの武力侵攻を開始。今や中国の経済支援と自ら招いた政治的孤立からの脱却を必要としている同氏は17日、再び北京に戻った。習氏が進める巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議が北京で同日開幕する。 

    (1)「ウクライナ侵攻開始から1年8カ月がたち、ロシアの対中依存は経済のあらゆる面に及んでいる。今のところ、プーチン、習両氏は首脳会談で2国間関係の強化に焦点を絞ると予想されている。ロシアは中国からの経済支援を確固たるものにし、中国政府に新しいガスパイプラインに関する協定に調印するよう働きかけたい考えだ」 

    プーチン氏は、中国から経済支援と新しいガスパイプライン協定調印を目指している。

     

    (2)「習氏としては、新たな世界秩序のビジョンを構築する上で強力なパートナーとなる信頼に足るロシアを必要としている。それは、西側諸国、特に米国とその同盟国に対する長きにわたる不信と、台湾を巡る中国の立場を強めたいという願いに基づくものだ。中国が領土の一部と見なす台湾に米国は支援を約束している。習氏にとって、プーチン氏は重要な一翼を担う。すぐにはあり得ないだろうが、実際にもし中国が台湾に侵攻するようなことがあれば、ロシアは食料や燃料の供給を確保し、国連安全保障理事会で政治的な援護をする可能性がある」 

    中国は、台湾侵攻の際にロシアから食料や燃料の供給を確保と政治的援護を期待している。 

    (3)「中国とロシアの間には不穏な雰囲気も漂う。中国がロシアとの関係で得ているのは一定の自動車・テレビ・スマートフォン市場と、値引きされたロシア産石油・ガスを除けばほとんどないと北京の一部専門家や学者は分析。このため、プーチン氏に賭けるギャンブルの度が過ぎるのではないかという疑念も浮上している。ワルシャワのヤクブ・ヤコボフスキ東方研究センター副所長は、「習氏にとってプーチン氏は理想的なパートナーではないと思う。習氏はもっと大きなことを望んでいた」と指摘。ロシアが始めた戦争に関与したくない「中国エリート層の一部からすれば、プーチン氏は習氏にとって一段と重荷になっている」と述べた」 

    中国がロシアとの関係で得ているのは、輸出急増を除けば何もないという。中国は、ロシアが始めたウクライナ戦争に関与したくないのが本音だ。

     

    (4)「EUの行政執行機関である欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長(通商担当)はウクライナに対する中国の姿勢が、EUの対中投資意欲を減退させていると警告している。マレーシアのマラヤ大学で中国研究所所長を務め、中国政治について多くの著書があるヌゲオウ・チャウ・ビン氏は「中国とロシアが同じカテゴリーに分類され続ける限り、欧米などとの橋渡し役」になれないことを中国政府は憂慮しているとし、「中国はどちらの側からも頼れる存在として自らをアピールしたいと考えている」との見方を示した」 

    ウクライナ戦争に対する中国の姿勢が、EUの対中投資意欲を減退させていることは間違いない。中国の理想は、EUとロシア双方から尊敬されることだという。これは、中国経済の減速とともに不可能になってきた。 

    (5)「欧州を拠点とするある外交官は、2人の関係性には同志間の抗争のような側面もあると主張する。両国の関係はしばしば緊張し、時には公然と敵対してきた。1969年の国境紛争では、当時のソ連が中国に対して核兵器の使用をちらつかせた。EU担当の中国外交官だった王義桅・中国人民大学国際事務研究所所長によれば、この「核の脅し」がウクライナに対する同じようなロシアの威嚇に中国が反対する理由の一つだという」 

    1969年の国境紛争で、当時のソ連が中国に対して核兵器の使用をちらつかせた。これが、トラウマになっており、ロシアへの感情に不信感が混ざっているという。

     

    (6)「中国政府にとってもう一つの「レッドライン」は、国連憲章にうたわれている領土主権の原則だ。中国は台湾を巡る自国の見解を強化しようと常にこの原則に触れている。習氏はまた、北大西洋条約機構(NATO)拡大に対するプーチン氏の懸念を共有しているように見える。だが、それは全面的なロシア支持を示すものではない。親モスクワ派は「ロシアの領土奪取を支持している」のではなく、「西側の覇権に対抗するロシアの行動を評価している」のだと王氏は言う。「多くの人々がロシアを嫌い、ロシアを批判している」とも話した」 

    中国は、西側の覇権に対抗するロシアの行動を評価しているだけだという。中国の「お仲間」づくりにすぎない。これでは、真の関係強化は不可能だ。 

    (7)「両国間で緊張が生じている分野の一つが、習氏肝いりの一帯一路だ。中国は1兆ドル(約150兆円)規模のこのプロジェクトを通じ影響力拡大を図っており、ロシアの裏庭である中央アジアに足を踏み入れている。今のところ、ロシアは対中関係の不均衡についてほとんど何もできない。BEのロシア担当エコノミスト、アレクサンダー・イサコフ氏によると、「ロシア政府は国内経済を維持するため中国の協力をしかたなく必要としている」という」 

    中国は、一帯一路事業でロシアの勢力圏である中央アジアへ触手を伸ばしている。こういう現状から言えば、プーチン氏は習氏へ複雑な感情を持っているはず。プーチン氏は、こういう「一物」を胸に、習氏と会談するのだろう。

     

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