ロシア大統領のプーチン氏は3月、モスクワで開かれた中ロ首脳会談で、「5年間はウクライナで戦う」と習中国国家主席へ発言したという。この発言が、何を意味するかだ。単なる張ったりをかませて、中国が逃げ腰にならないように引き留めようとしたのか。その真意を巡って日本までが頭を悩ませいるのだ。5年間と言えば、2028年である。習氏が国家主席3期目の最後になる。習氏は、このプーチン発言に合わせて「台湾侵攻」計画を練るのか。
『日本経済新聞 電子版』(12月27日付)は、「『ウクライナで5年戦う』習氏動かすプーチン重大発言」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。
「(少なくとも)5年間は(ウクライナで)戦う」。ロシア大統領のプーチンは、中国国家主席の習近平(シー・ジンピン)を前にこう断言した。これは直近、10月にあった北京での中ロ首脳会談ではない。その7カ月前、ロシア・モスクワのクレムリンで両首脳が長時間、顔を付き合わせた3月の中ロ首脳会談である。ここが重要だ。
(1)「このプーチンが口にした「重大発言」は、極東に位置する日本に無関係ではない。いや、日本の今後の国際政治、国家の在り方まで左右しかねないのである。一連の経緯を明かしたのは、中ロ両国の長く複雑な駆け引きをよく知る複数の関係者らだ。この3月の中ロ首脳会談には、多くの謎が残されていた。習の訪ロは、ウクライナ全面侵攻が始まってから初めて。しかも新型コロナウイルスを厳格に封じ込める「ゼロコロナ政策」の撤廃後、初めての大国訪問だった。それだけに、その後の中ロ関係を決定付ける大きな意味があった」
プーチン氏のウクライナ侵攻「5年継続発言」は、中国にとってどう受け取られたか、だ。台湾侵攻する上で、好機とみるかどうかである。「好機」とみるとすれば、習氏の浅慮が問題となろう。中国では、ロシア評価がきわめて低いからだ。
(2)「その謎を解くカギとなる発言が、プーチンの「5年は戦う」という心情吐露だ。必ずしもロシアに戦況が有利ではない当時の状況下で、中国に対して「ロシアは必ず勝つ。間違えるな。決して逃げないように」と暗に釘をさしたとも言える。裏にあるのは、当面の間、ウクライナでの戦いが膠着し、不利に見えたとしても、超長期戦に持ち込めば軍事的な体力に勝るロシアに有利な状況が生まれるという冷徹な読みである。一方、習の中国は、3月段階のプーチン重大発言も踏まえながら、その後の戦略を考えた。ロシアとウクライナの戦いが超長期戦になるなら、中国共産党内で超長期政権へ地歩を固めた習の今後にも大きな影響がある。例えば、統一という大目標を掲げている台湾問題も含めてだ」
習氏にとっては、プーチン発言をどう捉えるかだ。中国経済が混乱している現状で、プーチン氏の尻馬に乗って台湾侵攻を始めれば、大変な結末を迎えかねないからだ。
(3)「習がプーチンの言葉をそっくりそのまま信じたとも思えない。なぜなら、その1年余り前だった22年2月4日の中ロ首脳会談を巡る「遺恨」があるからだ。それは北京冬季五輪開会式当日の出来事だった。22年2月の北京会談でプーチンは、ウクライナに全面侵攻する計画に関して、おくびにも出さなかった。ところが、その20日後からウクライナの首都、キーウ(キエフ)制圧を目指す電撃攻撃に踏み切った。だまし討ちである。この前段の経緯を理解するなら、23年3月のモスクワでの中ロ首脳会談で、プーチンの口から「5年は戦争を続ける」という趣旨の言葉が飛び出していたとしても、その内容をそのまますべて信じて、中国の行動を決めるわけにはいかない。それは当然だろう」
中ロは、同盟関係にない。この点を割り引くべきである。プーチン氏が、習氏へウクライナ侵攻について事前に語らなかったのは同盟関係にない限界によるであろう。
(4)「中国としては、複雑な国際情勢の下、ウクライナ情勢がどう転んでも自国の利益を守る方策を考える必要があった。それが、3月のモスクワ会談から2カ月もしないうちに、ウクライナとロシア両国を含む欧州に送った中国による「平和の使節団」だった。中国の微妙なシフトチェンジが見てとれる。この行動は、「今、世界は『百年に一度』しかない大変局にある」と繰り返していた習の危機意識の延長線上にある。5年もの長い間、ウクライナでの戦争が続けばどうなるのか。侵略者と見なされているロシアと多岐にわたる軍事協力にまで踏み込んでいる中国にも、米欧からこれまで以上の様々な圧力がかかるのは必定だ」
中国経済は、西側諸国との協力を絶っては存続できないほど深い依存関係になっている。それが、台湾侵攻で全て消える事態になれば、習氏の政治生命へ大きな影響を与えることになろう。
(5)「プーチンが、ウクライナで「5年は戦う」と習に告げた経緯は、回り回って日本の今後の国家の在り方にも影響する。それは、長く武器輸出を禁じてきた大原則の見直しである。すぐ影響する大変化は、防衛装備移転3原則と運用指針の見直しにより、日本でライセンス生産された地対空誘導弾「パトリオットミサイル」の米国への輸出を認めたことだ。もし、ウクライナ侵攻が5年も続くなら、その間に、日本の武器輸出に関する考え方もさらなる変更を迫られかねないのである。そして、これは習の中国が武力行使を否定しない台湾統一問題に絡む諸情勢にまで関わってくる」
日本もプーチン発言から影響を受ける。防衛体制を固めなければならないからだ。武器輸出問題も緩和せざるをえなくなってきた。原理原則に拘っていると、自国防衛にとって逆効果になるという環境変化が起こっているからだ。