ウクライナはついに今週、長く予想されてきた反撃を開始したのだろうか。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「ウクライナの反撃が始まったと、我々は断言できる」と、9日にビデオインタビューの中で語った。ウクライナは軍事用語で「形成作戦」と呼ばれる、前線のはるか後方にあるロシア軍の重要な物流拠点を長距離砲やミサイルで攻撃し、本格的な作戦の開始前に自軍に有利な状況をつくる作戦を実施している。
英『BBC』(6月10日付)は、「ウクライナの反転攻勢ついに開始か 数カ月の準備経て」と題する記事を掲載した。
(1)「現在、いわゆる『戦闘偵察段階』がすべての前線において行われている」と、ウクライナ安全保障協力センターの共同設立者兼会長セルヒィ・クザン氏は、BBCに語った。「つまり、ロシア軍の防衛体制に探りを入れているということだ」。いくつかの動画や証言から、この作戦は開始直後からトラブル続きだった様子がうかがえる。「小さな損失だけで成功する場所もあれば、ロシアに反撃されてあまりうまくいかない場所もある」と、クザン氏は述べた。クザン氏は、ウクライナ軍が偵察作戦を展開しているのはどれもザポリッジャ州の南だと述べるにとどまり、具体的な町の名前は伏せた」
ウクライナ軍が狙う地域は、「ザポリッジャ州の南」である。そこからアゾリア海へ出てロシア占領地域を分断する、模様だ。
(2)「ウクライナ南部ヘルソン州のロシア支配地域では6日、ノヴァ・カホフカ市にあるカホフカ水力発電所のダムが決壊し、世界の注目が集まった。ロシア政府は関与を否定しているが、タイミングが偶然重なった出来事ではなさそうだ。カホフカ・ダムとその陸橋は、ロシア軍の態勢をどう崩せるか方法を模索しているウクライナ軍にとって、攻撃ルートになり得るものだった。ダムを支配していたロシア軍がこれを爆破し、ウクライナの軍事作戦のひとつを阻止した可能性は非常に高いように思える。ウクライナ政府はすでに、ロシアとの前線各地の中で特にこの場所に関心を抱いていると、明らかにしていた」
爆破されたダム堰堤は、ウクライナ軍の有力攻撃ルートであった。ロシア軍は、これを察知して爆破したと見られる。ウクライナ側には爆破する動機がないのだ。
(3)「イギリス国防省は8日朝の時点で、「前線の複数の場所で激しい戦闘が続いている」とし、大半の地域でウクライナが「主導権を握っている」とした。ウクライナ政府関係者は通常、進行中の作戦について多くを語らない。しかし、現状についてはいくつか興味深い断片を示している。ハンナ・マリャル国防次官は、ザポリッジャから約65キロ南東のオリヒフ村周辺でロシア軍が「積極的に防衛している」と思わせぶりな発言をした。この前線をいずれウクライナは突破しようとするはずだと、多くのアナリストは予想している。「南部に集中する敵軍への補給路となっている陸の回廊を断ち切ること。これが我々の主な目標の一つだというのは、秘密でも何でもない」と、前出のクザン氏は言う。ウクライナ軍は、クリミアへ至るロシア占領地の陸の回廊を寸断させようとしている」
下線部のザポリッジャから約65キロ南東地域が、攻防戦になりそうだ。ここを突破して、クリミアへ至るロシア占領地の陸の回廊を寸断させる狙いをつけている。
(4)「この戦争で特筆して長く激しい戦闘が続くバフムト市の北と南からの映像では、ウクライナ軍が前進しているように見える。マリャル国防次官は「複数の位置で200~1100メートル」前進したと述べた。この動きはいずれバフムトを包囲し、市内を占領するロシア軍部隊を捕らえるための作戦かもしれない。イギリス国防省が言うように、「きわめて複雑な作戦の様相」なのだ。しかし、これはウクライナの反転攻勢がすでに劇的な新段階に入ったことを意味するのか?ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記は7日、新たな攻撃に関する報道を否定。「どれも正しくない」とロイター通信に話した。「ウクライナが反転攻勢を開始すれば、誰もが知ることになる。誰もが目にする」とダニロフ氏は述べた」。
バフムトでは、ウクライナ軍がロシア軍を包囲し捕虜にする戦術を展開している。それまでは、隠密作戦で臨み一挙にたたみ込む戦術のようだ。
(5)「ウクライナ軍にはかなりの厳しい制約もかかっている。とりわけ、空からの援護ができる戦闘機がないことが、大きな問題だ。「そのために我が軍はゆっくり前進して、防空システムを近づけている」のだと、クザン氏は言う。もうひとつの制約は、時間だ。きたる反転攻勢は長く続いても5カ月間だ。その後は秋の雨によって地面は再び、大型の装甲車が移動できない状態になる」
ウクライナ軍は、制空権がないことと秋の雨期に入るまでの5ヶ月間で、結果を出さなければならない。そのための準備を過去半年も行ってきた。ロシア側がいうように派手な戦い方ではない。潜行しながら一挙に浮上する。そういう地味な戦いになりそうだ。
(6)「作戦成功とは、どういう状態を意味するのか。仮にウクライナがロシアの戦線を、アゾフ海まで突破できたとする。その場合、そこから西に位置するすべてのロシアの部隊は、クリミア半島を通過する補給線に依存しきっているだけに、今よりはるかに弱体化する。そうなれば、あとはロシアとクリミアを結ぶケルチ大橋を破壊し続いて、クリミアへ補給物資を運ぶ船舶や飛行機を攻撃するだけだと、クザン氏は言う」
作戦成功は、アゾフ海まで突破してクリミア半島のロシア軍を孤立させることである。この段階で、外交交渉が始まるようにも見える。