勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース

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    ウクライナはついに今週、長く予想されてきた反撃を開始したのだろうか。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「ウクライナの反撃が始まったと、我々は断言できる」と、9日にビデオインタビューの中で語った。ウクライナは軍事用語で「形成作戦」と呼ばれる、前線のはるか後方にあるロシア軍の重要な物流拠点を長距離砲やミサイルで攻撃し、本格的な作戦の開始前に自軍に有利な状況をつくる作戦を実施している。

     

    英『BBC』(6月10日付)は、「ウクライナの反転攻勢ついに開始か 数カ月の準備経て」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「現在、いわゆる『戦闘偵察段階』がすべての前線において行われている」と、ウクライナ安全保障協力センターの共同設立者兼会長セルヒィ・クザン氏は、BBCに語った。「つまり、ロシア軍の防衛体制に探りを入れているということだ」。いくつかの動画や証言から、この作戦は開始直後からトラブル続きだった様子がうかがえる。「小さな損失だけで成功する場所もあれば、ロシアに反撃されてあまりうまくいかない場所もある」と、クザン氏は述べた。クザン氏は、ウクライナ軍が偵察作戦を展開しているのはどれもザポリッジャ州の南だと述べるにとどまり、具体的な町の名前は伏せた」

     

    ウクライナ軍が狙う地域は、「ザポリッジャ州の南」である。そこからアゾリア海へ出てロシア占領地域を分断する、模様だ。

     

    (2)「ウクライナ南部ヘルソン州のロシア支配地域では6日、ノヴァ・カホフカ市にあるカホフカ水力発電所のダムが決壊し、世界の注目が集まった。ロシア政府は関与を否定しているが、タイミングが偶然重なった出来事ではなさそうだ。カホフカ・ダムとその陸橋は、ロシア軍の態勢をどう崩せるか方法を模索しているウクライナ軍にとって、攻撃ルートになり得るものだった。ダムを支配していたロシア軍がこれを爆破し、ウクライナの軍事作戦のひとつを阻止した可能性は非常に高いように思える。ウクライナ政府はすでに、ロシアとの前線各地の中で特にこの場所に関心を抱いていると、明らかにしていた」

     

    爆破されたダム堰堤は、ウクライナ軍の有力攻撃ルートであった。ロシア軍は、これを察知して爆破したと見られる。ウクライナ側には爆破する動機がないのだ。

     

    (3)「イギリス国防省8日朝の時点で、「前線の複数の場所で激しい戦闘が続いている」とし、大半の地域でウクライナが「主導権を握っている」とした。ウクライナ政府関係者は通常、進行中の作戦について多くを語らない。しかし、現状についてはいくつか興味深い断片を示している。ハンナ・マリャル国防次官は、ザポリッジャから約65キロ南東のオリヒフ村周辺でロシア軍が「積極的に防衛している」と思わせぶりな発言をした。この前線をいずれウクライナは突破しようとするはずだと、多くのアナリストは予想している。「南部に集中する敵軍への補給路となっている陸の回廊を断ち切ること。これが我々の主な目標の一つだというのは、秘密でも何でもない」と、前出のクザン氏は言う。ウクライナ軍は、クリミアへ至るロシア占領地の陸の回廊を寸断させようとしている」

     

    下線部のザポリッジャから約65キロ南東地域が、攻防戦になりそうだ。ここを突破して、クリミアへ至るロシア占領地の陸の回廊を寸断させる狙いをつけている。

     

    (4)「この戦争で特筆して長く激しい戦闘が続くバフムト市の北と南からの映像では、ウクライナ軍が前進しているように見える。マリャル国防次官は「複数の位置で200~1100メートル」前進したと述べた。この動きはいずれバフムトを包囲し、市内を占領するロシア軍部隊を捕らえるための作戦かもしれない。イギリス国防省が言うように、「きわめて複雑な作戦の様相」なのだ。しかし、これはウクライナの反転攻勢がすでに劇的な新段階に入ったことを意味するのか?ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記は7日、新たな攻撃に関する報道を否定。「どれも正しくない」とロイター通信に話した。「ウクライナが反転攻勢を開始すれば、誰もが知ることになる。誰もが目にする」とダニロフ氏は述べた」。

     

    バフムトでは、ウクライナ軍がロシア軍を包囲し捕虜にする戦術を展開している。それまでは、隠密作戦で臨み一挙にたたみ込む戦術のようだ。

     

    (5)「ウクライナ軍にはかなりの厳しい制約もかかっている。とりわけ、空からの援護ができる戦闘機がないことが、大きな問題だ。「そのために我が軍はゆっくり前進して、防空システムを近づけている」のだと、クザン氏は言う。もうひとつの制約は、時間だ。きたる反転攻勢は長く続いても5カ月間だ。その後は秋の雨によって地面は再び、大型の装甲車が移動できない状態になる」

     

    ウクライナ軍は、制空権がないことと秋の雨期に入るまでの5ヶ月間で、結果を出さなければならない。そのための準備を過去半年も行ってきた。ロシア側がいうように派手な戦い方ではない。潜行しながら一挙に浮上する。そういう地味な戦いになりそうだ。

     

    (6)「作戦成功とは、どういう状態を意味するのか。仮にウクライナがロシアの戦線を、アゾフ海まで突破できたとする。その場合、そこから西に位置するすべてのロシアの部隊は、クリミア半島を通過する補給線に依存しきっているだけに、今よりはるかに弱体化する。そうなれば、あとはロシアとクリミアを結ぶケルチ大橋を破壊し続いて、クリミアへ補給物資を運ぶ船舶や飛行機を攻撃するだけだと、クザン氏は言う」

     

    作戦成功は、アゾフ海まで突破してクリミア半島のロシア軍を孤立させることである。この段階で、外交交渉が始まるようにも見える。

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    「犯罪捜査」では、まず動機を調べる。同時に、犯罪前歴を調べることだ。今回のウクライナ南部でのダム破壊は、ウクライナとロシアの「動機」を調べ、犯罪「前歴」も洗い出すべきであろう。それによると、「動機」も「前歴」もロシアにあるのだ。ロシアは、捨て身の戦法でウクライナと戦っている。それだけ追い込められている証拠だ。

     

    『BBC』(6月7日付)は、「『ウクライナ南部のダム破壊』得するのは誰なのか」と題する解説記事を掲載した。

     

    6日未明のダム決壊をめぐっては、ロシアとウクライナが互いを非難し合っている。この状況は、ガスパイプライン「ノルド・ストリーム」で昨年起きた原因不明の爆発の時と似ている。いずれの場合も、西側諸国は即座にロシアに疑惑の目を向けた。しかしロシアは二度とも、「私たちではない。なぜ私たちがこんなことをするのか。自傷行為になる」と反論した。

     

    (1)「(今回破壊された)カホフカ・ダムでは、ロシアは少なくとも二つの点から、自国の利益を損なうものだと主張できる。まず、下流の土地が浸水したことで、ロシアは自国の兵士と住民らを、ヘルソンやドニプロ川の川岸から東へと避難させる必要が生じたことが挙げられる。このことは、ロシアの砲撃やミサイル攻撃に連日さらされてきたヘルソンの住民に一息つかせることになる。もう一つは、ロシアが占拠しているクリミア半島における水の供給に影響を与えかねないことがある。同半島は乾燥地で、決壊したダムに近い運河からの真水を頼りにしている。ロシアとウクライナの双方が自国の領土だと主張する同半島は、2014年にロシアが不法に併合して以来、厳重な守備態勢を敷いている」

     

    ロシアにとって、クリミア半島は「聖地」である。その聖地が、今回のダム破壊で「真水」の供給を絶たれる危険性が出てきた。それを覚悟で、ウクライナ軍の進軍を阻止するという「玉砕戦法」に出てきた。

     

    (2)「とはいえカホフカ・ダムの決壊は、ウクライナでの戦争という、より広い文脈で考える必要がある。特に、ウクライナの夏の反転攻勢がすでに始まっていると思わしきことを考慮しなくてはならない。ウクライナが反撃を成功させるには、クリミアとウクライナ東部ドンバス地方を結ぶ広大な領土をロシアが昨年から支配している状況を変える必要がある。もしウクライナが、ザポリッジャ南部のロシアの防衛線を突破し、周辺の土地を分断できれば、クリミアを孤立させ、大きな戦略的勝利を収めることになる」

     

    ウクライナ軍が、最終的にはクリミア半島を孤立させる戦術で反攻作戦を組み立てていると報じられている。となれば、今回のダム破壊がロシアにとって「凶」になる可能性が強まる。水供給を自ら絶ったからだ。ウクライナ軍の進軍を遅らせても、それは時間稼ぎに過ぎなくなるであろう。

     

    (3)「ロシアは昨年2月にウクライナへの本格侵攻を始めて以来、多くの教訓を得ている。ウクライナが攻撃してくる可能性が高い場所を特定し、アゾフ海を目指して進撃してくるウクライナ軍を阻止しようと、ここ数カ月間、非常に強力な守備施設を構築してきた。ウクライナが、ロシアの防衛線の西側に軍を派遣する計画を立てていたとは断言できない。ウクライナの最高司令部は賢明にも、ロシアを惑わすため、手持ちのカードを見せるようなことはしていない。しかし今回の行動は、誰がやったにせよ、ウクライナの選択をはるかに困難なものにしている」

     

    水が引けるまでは時間が掛るが、ダム破壊部分は修復される。ドニプロ川東岸のロシア部隊も洪水で流されてしまった。これが、ウクライナ軍の渡河作戦を可能にさせる面もあろう。となると、ロシア軍の意図とは別の結果が引き出せる。軍事作戦では、何が起るか分らないという一面を見せているのだ。

     

    (4)「ドニプロ川は、ウクライナ南部では川幅が広い。そのため、ロシアの砲撃やミサイル、さらにはドローン(無人航空機)の攻撃が続く中で川を渡るのは、ウクライナの装甲旅団にとって極めて危険度が高い。そのうえ、ダムの決壊で下流の広大な土地が浸水したことで、ヘルソン市と反対側のドニプロ川東岸地域には事実上、ウクライナの装甲車両が入れなくなってしまった」

     

    ウクライナ軍による本格的な追撃作戦は当面、困難になるにしてもドニプロ川東岸地域のロシア軍が洪水で流された以上、空白地域が生まれたことは確かだ。ロシア軍の塹壕も水浸しで使用不能である。これは絶好の反攻の足がかりになろう。

     

    (5)「歴史を振り返ると、ロシアはこの地域で「過去」がある。1941年、当時のソヴィエト連邦はナチス・ドイツの進撃を阻止するため、ドニプロ川のダムを爆破した。それによって発生した洪水では、ソ連の国民数千人が犠牲になったとされる」

     

    1941年、ソ連軍はドイツ軍との戦いでドニプロ川のダムを爆破した経緯がある。今回も同じ発想で行ったのだろう。

     

     

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    ロシアがまた、ウクライナ南部のダム破壊という暴挙を行った。ロシアが占領しているウクライナ南部ヘルソン州の巨大ダムの破壊によって、およそ4万2000人が洪水被害に遭う危険性があると予想される事態だ。国連の支援責任者は、重大な影響が広範囲に及ぶと警告した。

     

    ダム決壊による洪水でロシア軍の兵士らが流され、ドニプロ川東岸(ロシア占領地域)から退避する様子をウクライナ軍が目撃した。ウクライナ軍のアンドレイ・ピドリスニイ大尉によると、未明のダム決壊で、「ロシア側で逃げられた者は皆無だった。ロシア側の連隊は全員が洪水に巻き込まれた」という。同氏によれば、ドニプロ川周辺の地勢から、東岸に位置していたロシア軍はダムの決壊で深刻な影響を被った。同氏の部隊は、当時の状況をドローン(無人機)や現場の兵士らを通じて確認することができた。『CNN』(6月7日付)が伝えた。

     

    ジュネーブ条約では、民間人に危険が及ぶためダムは紛争時の標的にしてはならないと定められている。ウクライナのゼレンスキー大統領は定例のビデオ演説で、同国の検察当局が既にダム破壊の捜査に国際司法を関与させるよう国際刑事裁判所(ICC)の検察官に打診していると明らかにした。

     

    『ブルームバーグ』(6月7日付)は、「ダム破壊、ロシアが攻撃とウクライナや西側非難ー戦争は新段階に」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ当局は6日、南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムをロシア軍が爆破したと発表した。ウクライナが領土回復の戦闘を強める中で、双方の陣地を激流が襲った。

     

    (1)「ウクライナ内務省は通信アプリのテレグラムに投稿し、ドニプロ川西岸に位置する10の村落とヘルソン市の一部に洪水のリスクがあるとして、住民に避難準備を呼び掛けた。穀物に直接の影響はないが、6日の取引では供給懸念から小麦価格が3%上昇。先週付けた2年半ぶり安値からの反発が続いている。農作物市場分析会社ソフエコンのマネジングディレクター、アンドレイ・シゾフ氏はダムの破壊で、事態は「大きくエスカレートしたとみられ、市場に甚大な影響を持つ悪いニュースや恐ろしい結果が生じるリスクが伴う」とツイートした」

     

    ドニプロ川西岸に位置する10の村落と、ヘルソン市の一部に洪水のリスクがあるという。

     

    (2)「ウクライナのゼレンスキー大統領は、スロバキアで開かれた東欧諸国首脳との会合で、ダムの破壊を「欧州での人為的な環境破壊としてはこの数十年で最悪の事態だ」と糾弾。ロシア軍は1年以上にわたりこの水力発電所を支配した上で、「爆破した」と語った。インタファクス通信によると、ロシアはダム破壊に「一切関与していない」とペスコフ大統領府報道官が記者団に発言。ダム決壊はウクライナ側の破壊工作が原因だと述べたという。ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は、ロシア大統領府の主張は「ナンセンス」だと反論した」

     

    ロシア軍は、1年以上にわたりこの水力発電所を支配してきたことから、ロシアが爆破したと見るのが順当である。

     

    (3)「北大西洋条約機構(NATO)の高官は、最近の軍事作戦の激化でウクライナの反転攻勢は始まった可能性があるとの認識を示した。洪水について責任の所在を判断するのは時期尚早だとしつつ、ウクライナ軍の攻撃を恐れたロシアにはその動機があったと考えられると付け加えた。ドイツのショルツ首相はRTLのインタビューで、「ダムへの攻撃は長らく恐れていた事態だ。ウクライナが自国を守るための攻勢を妨害しようと、ロシア側が仕掛けた攻撃だ」と述べた。インタビューは6日に放送される」

     

    西側は、一様にロシア側の仕業と見ている。ウクライナが行う動機がないのだ。劣勢に回ったロシア軍が、ウクライナ軍の反攻作戦を遅らせる意図は明白である。

     

    (4)「NATOのストルテンベルグ事務総長は、「ロシアの残虐性が再びあらわになった」と発言。NATOは7月にリトアニアで開く首脳会議でウクライナ支援を強化する「重大な」決定を下すとし、それにより「ウクライナはNATOに近づく」と述べた。ここ数日で戦線はウクライナ東部と南部の複数に拡大。洪水でドニプロ川対岸のロシア軍は後退を強いられ、ウクライナ支配地域への砲撃は弱まる可能性があると、ウクライナ軍南部作戦司令部のフメニュク報道官がラジオ・リバティーのウェブサイト上で述べた」

     

    NATOのストルテンベルグ事務総長は、今回の事件により「ウクライナはNATOに近づく」と述べた。ウクライナへの武器弾薬補給を安定化する「取り決め」と見られる。ロシアにとっては「やぶ蛇」になった。

     

    (5)「ウクライナは1年前から繰り返し、同国軍の進軍を食い止めようとロシアがダムを爆破する可能性を警告していた。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は6日、ロシアが洪水でウクライナ軍にとって「乗り越えられない障害」をつくり出そうとしたとし、「甚大な環境被害」が生じるだろうとツイートした」

     

    ロシアの蛮行によって、西側は結束してウクライナ支援を行う。こういうリアクションを計算できないほど、ロシアは追い詰められて混乱しているのだろう。

     

     

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    ロシアは、ウクライナ侵略戦争をどのように終結させるのか。戦場での勝者が、停戦交渉の主導権を握ることは当然である。現状のロシア軍は、占領地の確保に必死だ。ウクライナの反攻作戦がどこまで占領地を取り戻せるかが焦点だ。いずれにしても、ロシア軍の敗北となれば、ロシアの国際的地位は一段と低下する。もはや、「軍事大国」の称号も怪しくなろう。 

    代って、米国の外交的な立場は一段と強化される。欧州でロシアの軍事的拡張にストップが掛る以上、米国は欧州でもその立場が強化される。中国はどうか。ロシア支援で不利な立場に立たされる。台湾侵攻も再検討せざるを得まい。改めて、米国の戦争指導力の高さに居ずまいをたださざるを得なくなろう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月6日付)は、「プーチン氏がウクライナで負けたら?」と題するオピニオンを掲載した。筆者は、「グローバルビュー」欄担当コラムニストであるウォルター・ラッセル・ミードである。 

    ウクライナの勝利とは、同国が本来の領土の全て、または大部分を奪還し、ロシアから離れ、西側諸国と連携した国となる形での戦争の終結と表現することができるが、そうなれば地政学上の構図を変える地震が起きたような事態となるだろう。18世紀以来、欧州が知り、恐れてきたロシアとは、西方への拡大を容赦なく進めようとする巨大で迫り来る存在だが、そのようなロシアは消滅する。その結果、欧州と中東の政治状況は一変し、米中競争は新たな局面に入ることになろう。 

    (1)「プーチン氏が欲しいのはウクライナの領土だけではない。ウクライナのDNAが欲しいのだ。ロシアは人口動態の面で世界最大級の難題に直面している。ロシア連邦の人口は1992年にピークを迎えた後、2021年までに約500万人減少した。プーチン氏から見ればさらに悪いことに、旧ソ連から独立した中央アジアの国々から多くのロシア系住民が移民としてやって来ているにもかかわらず、ロシア民族の人口は急減しており、2010年から2021年の間に540万人減少した。この間に、ロシア連邦の人口に占めるロシア人の比率は78%から72%に低下した」 

    プーチン氏は、ウクライナ人のDNAによってロシア連邦の人口減に歯止めを掛けたかった。下線部のように、プーチン氏はロシア帝国再来を夢見た。習氏の「中華再興」と同じ夢である。

     

    (2)「プーチン氏は、ロシア連邦における正統派スラブ民族の覇権を強化するためにウクライナの人々を必要としている。ウズベキスタンのような中央アジア諸国の人口が増加する中で、ウクライナ人なしにはロシアの民族主義者たちは破滅と没落しか予想できない。こうした見方は、強硬なロシア民族主義者がウクライナでの勝利に向けてなぜあのように躍起になっているのか、そしてロシアが負けた場合、どれほど全世界に重大な影響が及ぶかを浮き彫りにしている」 

    ロシアの民族主義者たちは、「兄弟国」ウクライナの血統が欲しかったのだ。それが、侵略行為の引き金を引いた。 

    (3)「ウクライナが勝利すれば、ロシア政府は弱体化して信用を落とし、東方では強大な中国と台頭する中央アジア、西方では活気づいた安全保障同盟、さらに国内では反抗的な少数派民族によって苦しめられることになるだろう。ウクライナの勝利はまた、ロシアに危険な政治的課題を突きつけるだろう。ウクライナがプーチン氏の戦争で勝者とみなされた場合、プーチン氏の統治の仕方が正統派スラブ民族にとって唯一機能するモデルではないことがはっきりと示されることになり、多くのロシア人は勝者から学ぼうとするだろう」 

    ウクライナ勝利は、ロシア政府の決定的な弱体化をもたらす。同時に、プーチン式の統治スタイルがスラブ民族で唯一でないことを学ぶはずだ。ロシア政治の基盤が揺らぐ。

     

    (4)「ロシアの敗北は、基本的に米国の影響力を国際的に強化するとみられるが、複雑な事態をもたらすことにもなる。プラス面では、ロシアの拡張主義が厳しく抑制されることにより、欧州の現状維持を図る上で米国の負担は軽減される。ウクライナが勝利すれば、米国および西側諸国の威信は著しく高まり、ロシアが勝利すれば、その逆となる。勝利を収めたウクライナは、ポーランドやバルト3国、北欧諸国から成るグループの一員になるとみられる。これは、防衛を重視し、米国との同盟の価値を理解する欧州諸国のグループだ」 

    ロシアの敗北は、外交的には米国の立場を強化する。また、ウクライナが、ポーランドやバルト3国、北欧諸国から強力メンバーとして受け入れら、米国への絆を強める橋渡しになろう。 

    (5)「影響力の低下と苦境に直面するロシア政府は、両手を広げて迎え入れてくれる中国の懐に飛び込んでしまうかもしれない。ロシアの不安定化は、安全保障上の大きな問題になる恐れがある。核兵器と生物兵器が、もっと危険な人々の手に渡る可能性がある。核分野の科学者が核技術とともに、風に乗るように世界に散らばっていく恐れもある。不安定化したロシア全土では、犯罪組織やハッカーが無法状態で活動できるようになるかもしれない。しかしそうなった場合でも、ロシアの帝国主義的な歴史を特徴付けてきた残忍さ、残虐さを思い起こせば、この戦争でウクライナが勝利し、悲しむ人はほとんどいないだろう」 

    中国は、複雑な立場に置かれる。それは、習氏の威光に大きな傷が付く。プーチン・習のコンビに疑惑の目が注がれよう。台湾侵攻は、国内での反対論を強める可能性もあろう。

     

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    ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、定例のビデオ演説で、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトとその周辺で戦っている部隊から「待ち望んでいたニュース」があったと歓迎した。シルスキー陸軍司令官はこれより先、バフムト周辺でウクライナ軍が前進を続けていると述べた。

     

    『ロイター』(6月6日付)は、「ウクライナ軍、バフムト周辺で前進 大統領『待望のニュース』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ゼレンスキー大統領は、「今日、私たちが待ち望んでいたニュースを与えてくれた兵士ら全員に感謝している。バフムト方面の兵士のみなさん、素晴らしい」と語った。それ以上の詳細には言及しなかった。ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は5日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトの北方にあるベルキフカの一部をウクライナ軍が奪還したと明らかにした」

     

    ウクライナは、「反攻作戦」について沈黙してきたが、「勝利」のニュースを発表した。それだけ激戦が続いていることを裏付けている。ウクライナ軍の動向には、世界が注目しているだけに、誇張した報道は信頼を失う。

     

    (2)「ロシアは5月、バフムトを掌握したと主張したが、ウクライナ側は一部地域をまだ維持しているとして、ロシアの完全掌握を否定した。ゼレンスキー氏は、ロシアがウクライナ軍の行動に「ヒステリックに」反応していると述べ「巧みに、断固として、効果的にわれわれの陣地を守り、占領者を破壊し前進している」と2部隊に言及した」。

     

    ウクライナ軍報道官は5日、ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の支配地域でウクライナ軍の「大規模攻撃」を撃退したという発表した。これに対し、そのような情報はないと反論したもの。ロシア軍は声明で、ウクライナ兵250人を殺害し、複数の装甲車を破壊したと述べたが、十分な証拠は示さなかった。これに対してウクライナ軍の報道官はCNNに、ドネツク州で大規模攻撃があったという情報はないと反論した。

     

    (3)「ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は5日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトの北方にあるベルキフカの一部をウクライナ軍が奪還したと明らかにした。また、ロシア正規軍の戦術では2週間以内にさらなる撤退を迫られると述べた」

     

    ロシアは、正規軍と傭兵部隊ワグネルとの間で「内紛」を起こしている。戦線が膠着状態にあることから始まった責任のなすりあいであろう。ただ。ワグネル創始者プリゴジン氏がロシア軍の実態を暴いている点に注目すべきだ。

     

    『ロイター』(6月6日付)は、「ウ軍がバフムト北の一部奪還、失策でロ軍さらに撤退もープリゴジン氏」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は5日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトの北方にあるベルキフカの一部をウクライナ軍が奪還したと明らかにした。また、ロシア正規軍の戦術では2週間以内にさらなる撤退を迫られると述べた。

     

    (4)「ベルキフカは、バフムトの北西約3キロメートルの距離に位置。プリゴジン氏は自身のプレスサービスが公開した音声メッセージで「ベルキフカの集落の一部が失われた。軍隊は静かに逃げている。恥ずべきことだ」と述べた。ドネツク州の親ロシア派支配地域を率いるデニス・プシリン氏はロシア国営テレビに対し、状況は「コントロール下にある」としながらも「極めて困難」との認識を示した。ワグネルは5月、バフムトのほぼ全域をウクライナ軍との長い戦闘の末に掌握し、陣地をロシア正規軍に明け渡した。以来、ウクライナ軍は同市の北側と南側を攻撃し続けている」

     

    バフムトをめぐる戦いは、まさに「死闘」そのものの厳しさである。ウクライナ軍は、最後まで橋頭堡を維持しており、ロシアへの消耗戦を強いてきた。それが、傭兵部隊ワグネルを撤退させた理由である。ロシア正規軍は、ワグネルと交代した形だが、劣勢を覆いがたいのであろう。

     

    (5)「プリゴジン氏は5日にテレグラムに投稿されたインタビューで、ロシア国防省の戦術は国民と政府指導者を騙していると発言。バフムト周辺でのウクライナの動きは「われわれの前進よりもはるかに速く起こり得る」とし、「国防省の目的は全てが順調で、ロシア軍が前進しているように装うことだが、現実には今起きていることが2週間後に戦術的に大きな敗北をもたらすだろう」と警告した。プリゴジン氏はまた、ロシア軍がドネツク周辺の最近の戦闘でウクライナ軍に大きな損失をもたらしたとする国防省の主張について、「ばかげたサイエンスフィクション(SF)にすぎない」と懐疑的な見方を示した

     ロシア軍は、「ウクライナ兵250人を殺害し、複数の装甲車を破壊した」と発表したが、プリゴジン氏は「SF」に過ぎないと一蹴している。ロシア軍が、そのような力を持っていないと言いたいのであろう。


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