勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: ロシア経済ニュース

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    西側諸国は、プーチン氏のウクライナ戦争を止めさせるべく、新興財閥へ経済制裁を行なっている。だが、プーチン氏の構築した権力構造から言って、新興財閥の意見を聞くような状態ではないと、当事者から苦情が出てきた。

     

    太平洋戦争開戦の経緯を見ても、財閥が戦争を唆したという記録は見当たらない。三井・三菱の財閥は、若手将校から国益に反する行為として糾弾されていたほどだ。この歴史的事実から言えば、ロシアの新興財閥がウクライナを占領せよという意見具申する動機がない。新興財閥には、ウクライナ出身者がいるからだ。

     


    『ブルームバーグ』(3月18日付)は、「プーチン氏に影響及ぼすのは不可能、西側は『現実離れ』とロシア富豪」と題する記事を掲載した。

     

    西側諸国が制裁対象としたロシアの富豪ミハイル・フリードマン氏は、プーチン大統領が権力の頂点に上り詰める前に銀行やエネルギーなどの事業で財を成した初期のオリガルヒ(新興財閥)だ。

     

    フリードマン氏は、プーチン大統領が全面侵攻を仕掛けるとは考えもせず、ロシア人とウクライナ人が戦うところを想像できないと同僚に話していた。反ロシア感情の強いウクライナ西部のリビウで生まれ、「市内の隅々まで知っている」という同氏は約2時間に及んだインタビューで「ウクライナは抵抗するだろうと思っていた」と述べた。

     


    (1)「侵攻が始まった日、フリードマン氏は定例の出張でモスクワにいたが、すぐさま拠点とするロンドンに戻り、それから数日はウクライナからの連絡に追われた。同氏とそのパートナーはウクライナ最大級の銀行を保有し、通信最大手キエフスターにも出資している。侵攻2日目の2月25日には自身の投資会社社員に向けた書簡で、侵攻を「悲劇」だと呼び、「戦争は決して答えにはなり得ない」と非難。この書簡は後日公開された。

     

    フリードマン氏は、ウクライナ出身である。新興財閥の一員であるが、国有企業に携わった経験はないという。自らの才覚で事業を拡大したのであろう。

     

    (2)「プーチン大統領を直接批判してはいないが、フリードマン氏が政治的な声明を発表するのはまれで、これによりロシア訪問が危険になり得ると同氏は語った。翌週の28日には、自身の慈善団体がウクライナの難民を支援するユダヤ人団体に1000万ドル(約11億8600万円)を寄付すると発表した。こうした行為も、欧米で長年かけて築き上げた人脈も制裁対象入りの回避にはつながらなかった」

     

    フリードマン氏は、今回の戦争への義援金として、ユダヤ人団体に1000万ドルを寄付したという。プーチン戦争と無縁の存在であるが、制裁対象に入れられた。

     

    (3)「フリードマン氏の弁護士は2月28日、長年の事業パートナーでロシアの民間銀行最大手アルファ銀行を率いるピョートル・アベン氏と共に欧州連合(EU)の制裁対象となったことを同氏に告げた。アルファ銀行は同氏のアルファ・グループの中核事業でもある。弁護士は渡航禁止や口座凍結など、制裁が意味するところを伝え始めた。「ショックだった。弁護士が何を言っているのか、ほとんど分からなかった」とフリードマン氏は振り返った」

     

    制裁対象になると、渡航禁止や口座凍結がされる。身動くできない状態にされる。

     

    (4)「ブルームバーグによると、フリードマン氏は戦争前に約140億ドル相当の資産を保有していた。その資産はいまや帳簿上で約100億ドルとなったが、実質的に現金がなくなってしまった富豪という奇妙な立場にある。EUに続いて、英国もフリードマン氏を制裁対象とし、英国で使用可能だった最後の銀行カードも凍結された」

     

    約100億ドルを上回る資産があっても、銀行口座や銀行カードも凍結されたので、手持ち現金がなく、買い物もできないという異常事態に追い込まれている。

     


    (5)「同氏によると、資金を使うには許可を申請する必要があり、申請が「合理的な」ものかどうかを英政府が判断する。月間で約2500ポンド(約39万円)が許容される範囲のようだという。同氏は憤慨しながらも、戦争被害に遭っているウクライナの人々について触れ、「ウクライナ人が被っている問題に比べれば、自分の問題など何でもない」と語った」

     

    月間の生活費は、約39万円の制限を受けている。外に資金を使うには、許可を申請する必要があるという。厳しいチェックを受けているのだ。富豪が、この範囲で生活するのは不可能だろう。

     


    (6)「EUは、ロシアで実際に権力がどのように働いているか。それを理解していないことが今や明らかになったと、フリードマン氏は主張。「この制裁の狙いが自分のような人間を使ってプーチン氏に圧力を加えようということであれば、現実離れにも程がある」と話した。「自分は国営企業や政府機関で働いたことが一度もない」とし、「制裁を受けたことで自分がプーチン氏に連絡し、戦争をやめるよう話すかもしれないとEUの責任者が考えているとすれば、大きな問題だ。ロシアがどう機能しているか全く理解していないことを露呈しているからだ。将来にとって危険だ」と続けた」

     

    プーチン氏は、すでに「神」のような権力者になっている。それゆえ、命令することはあっても、逆に新興財閥の意見を聞くような構造でないのだ。 

     

     

     

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    ロシア軍が窮地に立たされている。ウクライナ軍の予想を超えた抵抗で、多大の戦死者を出しているからだ。急遽、全土から増援部隊を呼び集めているとの最新の諜報内容が、英国防省から発表された。

     

    ロシアのプーチン大統領は16日、テレビ演説を行い、欧米志向のロシア人を「国の裏切り者」と呼んで痛烈に非難した。プーチン氏は、思うように進まないウクライナ侵攻に焦っていることは明らかだ。ウクライナ侵攻以降、プーチン氏は反対派への締め付けを強化している。

     

    米『CNN』(3月17日付)は、「ロシア軍、人員損失続き全土で増強部隊を徴集 英国防省の分析」と題する記事を掲載した。

     

    英国防省は17日までに、ウクライナに侵攻したロシア軍が要員の損失が続いている事態を受け、同国全土から増強部隊を呼び集めている状況にあるとの最新の諜報内容を公表した。

     


    (1)「追加の派遣部隊をひねり出す措置は増す一方とし、ロシア軍はウクライナ側の抵抗が衰えていないことを踏まえ攻撃作戦の新たな着手に苦労している可能性があるとした。英国防省は、遠方の東部軍管区、太平洋艦隊やアルメニアからの戦力を招集しての再配置にも踏み切っているとも指摘。さらに、「民間の軍事企業、シリア人やほかの傭兵(ようへい)の動員も含めて戦闘員を補充する手当てを探っている」とした。その上で、ロシアはこれら戦力を制圧した地域に投入して生じる正規の実戦部隊の戦闘能力を、停滞している攻撃作戦の活性化の手立てに向けることを試みる可能性があると述べた」

     

    ロシア軍の士気の低さが、指摘されている。戦争の意義を説明することもなく、2月24日に突然の出動命令となった。車両などの準備不足は覆いがたく、最前線で故障を起し、ウクライナ農民がトラクターで引っ張る情景がSNSに投稿されているほど。無理な侵略戦争であった。

     

    ロシア軍の犠牲が増えているのは、ウクライナ軍が欧米から供与された武器の優秀性にあることも一因である。ウクライナ軍の適確な反撃に手を焼いているのだ。

     


    『フィナンシャル・タイムズ』(3月12日付)は、「ウクライナ軍、西側兵器でロシア軍の弱点突く」と題する記事を掲載した。

     

    破壊され、炎上し、放棄されたロシアの戦車や軍用車が道路を塞ぎ、水路に落ちている――。西側情報機関、戦争写真家、SNS投稿者らによる無数の写真や動画がそんなロシアのウクライナ侵攻の決定的なイメージを記録している。

     

    ロシア軍は当初、電撃的に攻撃し、首都キエフや主要都市を短期で征服することをもくろんでいたが、ウクライナ軍はその進撃を阻止している。ウクライナ軍は軍用車を確実に狙い撃ちして破壊する能力が高く、ロシア軍に打撃を与え、その進軍を遅らせている。

     

    (2)「ウクライナ軍はたいてい、小人数の部隊で、肩に抱える携行式ミサイルの装備だけで、地の利を生かし、ロシア軍の戦略の弱みを突いて反撃している。ウクライナ軍の対戦車ミサイルの多くは、ロシアの侵攻以降、西側諸国が提供したものだ。巧みな反撃による善戦は西側の支援者らも驚かせている。小型武器を活用するウクライナ軍に対し、重砲に依存するロシア軍。この構図が両軍の戦術の対照的な違いを示している」

     

    ロシア軍は、大部隊編成で移動している。ウクライナ軍は、少人数で肩に抱える携行式ミサイル装備だけで素早く攻撃し姿を消す戦術に徹している。ウクライナ軍の機動性が、大部隊のロシア軍と五分の戦いを可能にさせている。

     

    (3)「ロシアの軍隊は、2012年までに大幅に再編された。現在その戦闘部隊は、大隊戦術群(BTG)を中心に編成されている。米国の推定によると、ロシア全体でおよそ170あるBTGのうち、機動性が高く、高度の攻撃能力を持つ100がウクライナに配置されているという。しかし、1BTG当たり約75台と軍用車への依存度が高く、歩兵隊が200人と比較的少ないため、特に側面や後方からの攻撃に弱い。地の利があり、戦術、軍の能力でも高いレベルにあるウクライナ軍が相手となると、ロシア軍のこの弱みは大きな弱点となる」

     

    ロシア軍は、1大隊戦術群当たり約75台と軍用車への依存が高い。ただ、歩兵隊が200人と比較的少なく、護衛できない弱みを抱えている。ウクライナ軍は、このロシア軍の弱点を突くべく、携行式ミサイル装備で戦いを挑んで成果を上げている。

     

    (4)「プーチン大統領とごくわずかな顧問グループが企てた今回のウクライナ侵攻は、ウクライナとの国境に「訓練」の名目で配置されていたロシア部隊の多くにとって、ショックだった。西側の情報機関関係者や防衛アナリストによると、突然、国境を越えるよう命令されたロシアの軍用車は、整備状態が悪く、タイヤやスペア部品が粗末な例が多いという。このため、未舗装道路を走行するのは危険ないし不可能な状態だ。実際、タイヤや車軸が壊れたりして泥地に放棄されたロシア軍車両の画像が多数存在する」

     

    ロシアの軍用車は、整備状態が悪く、タイヤやスペア部品が粗末な例が多い状況だ。ウクライナへ出撃前の車両整備で、十分な時間も与えられず突然の開戦となった。未舗装道路を走行するのは、危険ないし不可能な状態にある。これが、緒戦での躓きをもたらした背景である。

     


    (5)「ここから、ウクライナ軍は2つの結論を導いた。1つは、装甲部隊がどんなに大きくても、部隊は道幅以上には広がれず、後ろの車両は先頭車両より速くは進めないということだ。2つ目は、ウクライナの防衛軍は道路沿いの森や荒野、村落で比較的自由に動けるということだ。歩兵が側面をほとんど守れないため、ロシアの軍用車は、ウクライナ軍の少数部隊からの奇襲に弱い。ウクライナ軍は、隠れ場所から狙い撃ちして、見つかることなく退却することが可能だ」

     

    ロシア装甲部隊は、舗装道路以外を走れないことが判明した。ウクライナ軍は、地の利を生かして森や荒野、村落を自由自在に動いて攻撃できる機動性を備えている。これでは、ロシア軍が補給面でも問題を抱えることになった。有り体に言えば、ロシア軍はロケット攻撃しかできず、白兵戦が不利ということだ。戦線は膠着して、ロシア軍の消耗が激しくなる構図になってきた。

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    ロシアは、内憂外患状態へ追い込まれている。ウクライナ戦争が、膠着状態に陥る一方、経済制裁の強化でモノ不足による消費者物価上昇は、深刻化の気配を見せている。年内に20%上昇が予想され始めており、今世紀最大の値上りに直面しそうだ。ウクライナ戦争を継続できる状況でなくなってきたのだ。

     

    『ブルームバーグ』(3月17日付)は、「ロシア、モノ不足による『ソ連型インフレ』に向かっている恐れ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアではウクライナ侵攻に対する国際的な制裁を受け、主食や輸入品の不足が広がっている兆しが見られる。

     


    (1)「ロシア連邦統計局の発表によれば、11日までの1週間で消費者物価指数(CPI)は2.09%上昇。前週の2.22%上昇から伸びが鈍化した。一方、経済発展省によると、11日時点で前年同期比のインフレ率は12.54%と、1週間前の10.42%から加速した。ロシア大統領府付属ロシア国民経済公共行政アカデミー(RANEPA)の金融市場専門家アレクサンドル・アブラモフ氏によると、ロシアはコスト上昇ではなくモノ不足によって生じる「ソ連型インフレ」に向かっている可能性があるという」

     

    「ソ連型インフレ」とは、消費財供給不足によって起こったインフレである。需要過多によるものでない。それにも関わらず、政策金利が現在、20%にも引き上げられている。これでは、設備投資抑制になるので、ますます供給不足に陥る悪循環である。さらにロシアの場合、消費財輸入依存が40%台前半と高いので、ルーブル暴落と西側諸国の輸出禁止によって、一層の物価高騰に拍車を掛けている。

     


    (2)「同氏は、「現在の主なリスクは、基本的な輸入日用品および耐久消費財の不足が生じていることだ」と分析。「多くの商品は実店舗ではもはや入手不可能なほか、オンライン店舗で価格が急激に上昇している」と指摘した。ルーブル急落および制裁による打撃で、インフレ率は1998年のロシア国債デフォルト(債務不履行)以来の水準付近に高止まりしている。消費者はさらなる物価上昇を見越し、ここ数日間に買い物を急いでいるほか、海外企業のロシア離れもモノ不足懸念に拍車をかけている」

     

    実店舗段階では、すでに商品不足が起こっている。消費者は商店へ足を運んでも購入できない状態だ。開戦3週間で、この状態である。先行きが懸念される訳だ。物価状況の現状は、1998年の国債デフォルト当時に近い状況である。

     


    (3)「ライファイゼン・バンクのアナリストは、顧客向けリポートで「金融引き締めがインフレの緩和に寄与しているものの、一部のモノ不足とルーブル急落の中で、インフレ率が年内に20%に達することは避けられないだろう」と指摘した」

     

    年内のインフレ率は、2001年の25%に次ぐ20%上昇が予想され始めている。この状態で、ウクライナ戦争を継続できるはずがない。国民の間に「反戦ムード」が高まらないとう保証はないのだ。プーチン氏が、苦境に立たされる場面であろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月17日付)は、「ロシア・ウクライナ「中立国化」で溝、米中18日に協議へ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアとウクライナによる停戦に向けた直接協議について、双方とも16日に一定の前進があったとの認識を示した。今後、ウクライナの「中立国化」や「軍備制限」などの項目が主要な議題になる見通しだ。米ホワイトハウスは17日、バイデン米大統領と中国の習近平国家主席が18日にロシアのウクライナ侵攻について電話協議すると発表した。

     


    (4)「英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)によると、ウクライナとロシアは停戦条件を定めた草案をつくることで合意したという。ウクライナが中立を宣言し、軍備の制限を受け入れればロシアが同国から撤収するウクライナの安全保障の見返りに、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を取り下げる――など15の項目を含むという。この報道について、ウクライナ政府高官はツイッターに「この草案はロシア側のもので、我々には独自の立場がある」と投稿し、草案の存在自体は認めた。ウクライナのゼレンスキー大統領は16日に「ウクライナの国益に沿う決定にはまだ時間がかかる」と語った」

     

    ロシアとウクライナの停戦交渉が、少しずつ動いている。ウクライナは、ロシアが一方的に突付けた条件をどこまで回避するか。最小限の犠牲に止める努力をしている。ロシアの弾薬や糧食が、5月初旬で底をつく見通しがあるだけに、ロシアは時間との勝負になっている。

     


    (5)「米中両首脳が直接話すのは2021年11月にオンライン協議して以来となる。バイデン氏は、習氏に対して中国が米欧や日本による金融・経済制裁で打撃を被ったロシアを軍事・経済面で支えないよう迫る見通しだ。ロシア軍による地上部隊の侵攻はほぼ止まっているが、砲撃や空爆などの手を緩めていない。南東部の港湾都市マリウポリでは17日、前日に空爆で大きな被害を受けた市民の避難所でもあった中心部の劇場で、生存者の救出作業が進められた」

     

    米中首脳オンライン会談が、予定されている。米国は、中国がロシア支援に動かぬように釘を刺す目的である。戦争を長引かせれば、それだけ,ウクライナの犠牲が大きくなる。中国も、苦しい局面へ追い込まれている。

     

    あじさいのたまご
       

    ロシア国民は、1991年のソ連崩壊によって西側と同じ消費生活を楽しめるようになった。あれから30年、プーチンという一人の男の出現で束の間の「幸せ」が凍結されようとしている。兄弟国を侵略した罪への罰が、始まったからだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月17日付)は、「西側企業のロシア撤退、一時代に幕」と題する記事を掲載した。

     

    米国とその同盟諸国による強力な対ロシア制裁と圧力によって、多くの西側企業がロシアで事業を展開することはほぼ不可能になった。マクドナルドや自動車メーカー、石油大手、銀行を含む何百もの企業が、ロシア事業の休止や撤退に動きつつある。欧米系のレストランや商店では明かりが消えた。

     


    ロシア当局は対抗措置として、西側企業が残した資産を国有化する考えを示している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)は今週、ロシア検察当局が、西側企業の現地幹部が政府を批判すれば逮捕し、撤退する企業の資産を差し押さえると警告したと報じた。

     

    (1)「ロシアは1990年代、以前は得られなかったものを渇望していた約1億5000万人の消費者に望みを与えた。かつての国有工場は近代化の支援を求め、外国のパートナーを探した。世界で一番広い国であるロシアには、石油など大量の天然資源があったが、一部しか利用されていなかった。しかし、ロシアに進出した西側諸国の企業やブランドの多くは、喜びが悲しみによって相殺されるようなことを経験した。汚職と不安定さは、成長への熱意を低下させた」

     

    旧ソ連崩壊は、プーチン氏には哀しみだったが、国民には西側並の消費生活を営める福音の鐘であった。一方では、汚職と政治不安が横行して、ついに「プーチン」という鬼っ子を生む土壌になった。

     


    (2)「2014年にプーチン氏がウクライナからクリミアを併合すると、西側諸国による第1弾の制裁が科され、多くの西側の企業が投資を減らし始めた。世界銀行によると、国外からロシアへの直接投資(FDI)は、2008年にピークに達し、750億ドル(現在のレートで約8兆9300億円)となった。その後は世界的な景気後退の中で減少。13年以降さらに減り、20年には90億ドルになった。長年ロシアのビジネスに携わっている駐在員の多くにとって、ウクライナ侵攻は終わりを告げる鐘のように感じられる。1997年から2000年まで在モスクワ米国商工会議所の会頭を務めていたスコット・ブラックリン氏は、「間違いなく一つの時代の終わりだ」と話した。「今後何が起ころうとも、以前の状態にはならない。同じ状態には戻れないだろう」と言う」

     

    ロシアへの直接投資は、リーマンショックの2008年がピークであった。その後は、2014年のクリミア半島占領によって、ロシアへの経済制裁が始まっている。そして、今回のウクライナ戦争への本格的な制裁によって、ロシア経済は「孤島」になるだろう。

     

    (3)「プーチン氏は2012年、不正が行われたと対立候補らが主張した選挙を経て、ロシアの大統領に復帰した。その2年後、ロシアはウクライナの一部であるクリミア半島を併合した。これは西側諸国による一連の制裁をもたらし、ロシア国内の金融危機につながった。元GM役員のマコーマック氏は、「プーチン氏が終身皇帝となることを決めた」ことが明確になった2015年、ロシアを去る決心をしたと語った」

     

    プーチン氏が、終身皇帝の意図を見せたのは2015年。ロシアの未来を悲観視する人は、ロシアを去る決心をしたという。2014年のクリミア半島占領によって、プーチン氏の野望が露骨になってきたことを見逃さなかったに違いない。

     

    (4)「西側企業とロシアとの中途半端な関係は、先月のウクライナ侵攻まで続いた。西部の都市トゥーラに住むウェブデザイナーのエカテリーナ・クリマノバさん(28)は、西側製の片頭痛薬を今後も確保できるかどうかを心配している。注文した英国製の化粧品やプレイステーションのゲームは保留状態だが、そうした商品なしの生活にも慣れるだろうと語った。「マクドナルドが閉店する。まあ大丈夫だろう。ハンバーガーが欲しければ、自分でも作れる」

     

    ロシア市民でも、楽観的な人たちはいる。物が不足すれば、それになれるしかないという順応派である。

     


    (5)「大手会計事務所のデロイト・アンド・トーシュ、アーンスト・アンド・ヤングなど一部企業はロシアからの完全撤退を表明しているが、多くの企業は事業を一時停止するとしている。小規模な反政府グループ「海賊党」メンバーのイザブニン氏(45)は、多くのロシア人が米国や欧州は彼らを見捨てたと非難し、ロシアの将来が過去とほとんど変わらない状態になってしまうことを懸念している。「私の子どもたちはこれから『新たな旧ソ連』の時代を生きることになるだろう」と懸念する」

     

    西側の自由と民主主義に憧れる人たちは、経済制裁によって西側企業の撤退に絶望している。「新たな旧ソ連」が始まると、言うほどだ。プーチン氏が第一線を去るまで、経済制裁は続くのであろう。ロシア経済は、その間にメルトダウンするだろう。

     

    テイカカズラ
       

    米ソの冷戦時代、「ソ連軍」の存在は恐れられていた。現在のウクライナ侵略では、ロシア軍の古い通信網と中央集権的指揮が災いして、ウクライナ軍に将官(大将・中将・少将)クラスを狙い撃ちされている。こうして、すでに4人の戦死が伝えられた。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月17日付)は、「ロシア軍の弱み露呈、ウクライナで将官4人死亡」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ当局によると、過去3週間にロシア軍の将官4人が戦闘で死亡した。戦場で部隊を率いるロシア軍の能力に疑問符がついており、戦争の結末に影響を与える可能性があるとの指摘が出ている。

     


    (1)「ウクライナ当局の発表によると、ロシア軍のビタリー・ゲラシモフ、アンドレイ・コレスニコフ、オレグ・ミトヤエフ、アンドレイ・スホベツキーの各少将が死亡した。一部のロシアメディアは死亡を確認したが、ロシア政府は認めていない。4人はロシアがこれまでジョージア(旧グルジア)やウクライナ、シリアでの紛争でも従軍した経験を持つベテランだった。ウクライナは、陰惨な写真や祝賀ムードのソーシャルメディア投稿を通じて、規模でも資金力でも勝るロシアを相手に一定の成功を収めていることを誇示している」

     

    兵力で圧倒的に劣るウクライナ軍が、ロシア軍将官4人を戦死させた。理由は、ウクライナ側が情報収集でロシアを抜いていることだ。NATO(北大西洋条約機構)機からの情報も伝えられており、ロシア軍の連絡網を傍受している結果である。

     

    (2)「アナリストらは、ロシア軍の戦闘スタイルが将官の死につながっているようだと分析している。都市近郊でのウクライナ軍の奇襲攻撃といった激しい戦闘や、無線通信の不備も要因だとみられている。似たような経験を持つ将校を後任に充てるのは困難な可能性がある。米大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)の海兵隊フェロー、ジョン“バス”バランコ大佐は、「小部隊の指揮レベルが、彼ら自身認めているように優れておらず、前線により近いところで将官の姿を見るのはそのためだ」と指摘する。「ロシア軍は前線で指示する下士官を有していないため、幹部が前線で細かく管理する体制に過度に依存している」と指摘」

     

    ロシア軍の組織は、将官クラスが作戦指揮しており、将校クラスが少ないという。俗に言う「頭でっかち」状態である。米軍は、将官クラスは後方で指揮し、前線部隊の統括は部隊長に100%任せる。そして、作戦に失敗すれば更迭する。旧日本軍は、この点で劣っていた。作戦が失敗しても更迭せず「続投」させたことだ。米軍は、こういう日本軍の指揮面での弱点を見抜いていた。同じ指揮官であれば、先回り攻撃が可能であったのだ。日本軍は、この面でも弱点を抱えた。ロシア軍も同じ悩みに直面している。

     

    (3)「死亡したロシア軍将官の階級は「major general(少将)」と翻訳され、階級章は一つ星で、西側諸国の「brigadier general(准将)」に相当する。彼らが危険な衝突地帯にいたことは、ロシア軍のしきたりが関係している。こうした将官は、戦場に部隊を派遣するだけでなく、敵に遭遇するといった想定外の状況でいつ戦術を調整すべきかを判断するなど、幅広い権限を与えられているとされる」

     

    ロシア軍は将官クラスが、最前線で指揮を執る。これが、将官クラスの戦死者を増やしている背景だ。米軍では、将校クラスの行なう任務である。

     

    (4)「米シンクタンク、外交政策研究所(FPRI)のロブ・リー上級研究員は、「ロシア軍は幹部の層が厚く、将官らが一段と大きな役割を担う」と話す。「ロシア軍は極めて中央集権的な意志決定の仕組みとなっており、衝突地帯の前線に彼らがいても驚きではない」。対照的に米軍では、戦場で戦術変更を指揮できるだけの訓練を受けた中佐などの下級将校が大きな役割を担い、前線から遠く離れた場所にいる上級将校と緊密に連絡をとる。ここ数十年間に戦闘で死亡した米軍将官は1人だけで、不満を募らせたアフガン兵による攻撃の犠牲者だった」

     

    企業経営に喩えれば、ロシア軍は日常業務の全てを経営トップが決めるようなものだ。米軍はこれと違い、経営の基本方針は経営トップが決め、日常業務を中間層に任せる。この違いが、ウクライナ戦争に現れている。ウクライナ軍は、この米軍スタイルを踏襲している。

     


    (5)「一方、ウクライナ軍もロシア軍の猛攻に遭っている。だが、ウクライナ軍幹部の殺害はこれまで誇示できないでいる。ウクライナ軍では、諜報を専門とする特殊作戦部隊がロシア軍将校の位置を特定し標的にする任務を負っている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に近い人物が明らかにした。この人物は「かれらは有力な将校やパイロット、砲撃司令官など幹部を見つけ出している」とし、特定された幹部は狙撃か砲撃によって狙われると説明した」

     

    ウクライナ軍は、ロシア軍の「キーパーソン」を特定して攻撃する。指揮命令系統の混乱を狙っているのだ。ウクライナからの映像で、ロシア軍戦車部隊の一部が攻撃されて方向転換するシーンが見られた。これは、指揮官の戦車が攻撃された結果、方向転換したのであろう。

     


    (6)「特殊作戦部隊は、ロシア軍将校の位置情報を特定するため、あらゆる手段を使っているとこの人物は述べた。ロシア軍将校は暗号化していない無線機器を使うことが多く、やり取りが傍受されるか、地図で位置を特定される可能性があるという。西側の当局者は、北大西洋条約機構(NATO)が提供した訓練やドローン、対戦車兵器により、ウクライナ軍はロシアの進軍を妨害し、幹部を危険にさらすことができたとの見方を示している」

     

    ウクライナ軍は、どうやってロシア軍将校の位置情報を得ているのか。その秘策が、このパラグラフで明らかにされている。多層的な情報収集の結果だ。

     


    (7)「現代の戦争では、兵士は敵の幹部と通信をできる限り早急に阻害するよう教えられている。前出のバランコ大佐は、「われわれは常に、指揮統制車両を特定し、最初に攻撃するよう教えられた。それが他のすべてをつなぐ中心点だからだ」と指摘する。元軍将校やアナリストは、ロシア軍が使う通信機器も弱点だと指摘している。ウクライナに侵攻したロシア軍将校は、暗号化された高度な無線通信ではなく、総じて携帯電話や暗号化されていない超短波や高周波電波で連絡を取っていることが、公開情報から分かるという」

     

    太平洋戦争で山本五十六大将は、護衛機を付けずに前線を移動中に撃墜された。米軍が、事前に情報を解読した結果だ。一説では、山本将軍が米軍の攻撃を予知していたと言われる。つまり、日本敗北の責任を取ったというのだ。前線では、このように情報収集が生命線になる。 

     

     

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