西側諸国は、プーチン氏のウクライナ戦争を止めさせるべく、新興財閥へ経済制裁を行なっている。だが、プーチン氏の構築した権力構造から言って、新興財閥の意見を聞くような状態ではないと、当事者から苦情が出てきた。
太平洋戦争開戦の経緯を見ても、財閥が戦争を唆したという記録は見当たらない。三井・三菱の財閥は、若手将校から国益に反する行為として糾弾されていたほどだ。この歴史的事実から言えば、ロシアの新興財閥がウクライナを占領せよという意見具申する動機がない。新興財閥には、ウクライナ出身者がいるからだ。
『ブルームバーグ』(3月18日付)は、「プーチン氏に影響及ぼすのは不可能、西側は『現実離れ』とロシア富豪」と題する記事を掲載した。
西側諸国が制裁対象としたロシアの富豪ミハイル・フリードマン氏は、プーチン大統領が権力の頂点に上り詰める前に銀行やエネルギーなどの事業で財を成した初期のオリガルヒ(新興財閥)だ。
フリードマン氏は、プーチン大統領が全面侵攻を仕掛けるとは考えもせず、ロシア人とウクライナ人が戦うところを想像できないと同僚に話していた。反ロシア感情の強いウクライナ西部のリビウで生まれ、「市内の隅々まで知っている」という同氏は約2時間に及んだインタビューで「ウクライナは抵抗するだろうと思っていた」と述べた。
(1)「侵攻が始まった日、フリードマン氏は定例の出張でモスクワにいたが、すぐさま拠点とするロンドンに戻り、それから数日はウクライナからの連絡に追われた。同氏とそのパートナーはウクライナ最大級の銀行を保有し、通信最大手キエフスターにも出資している。侵攻2日目の2月25日には自身の投資会社社員に向けた書簡で、侵攻を「悲劇」だと呼び、「戦争は決して答えにはなり得ない」と非難。この書簡は後日公開された。
フリードマン氏は、ウクライナ出身である。新興財閥の一員であるが、国有企業に携わった経験はないという。自らの才覚で事業を拡大したのであろう。
(2)「プーチン大統領を直接批判してはいないが、フリードマン氏が政治的な声明を発表するのはまれで、これによりロシア訪問が危険になり得ると同氏は語った。翌週の28日には、自身の慈善団体がウクライナの難民を支援するユダヤ人団体に1000万ドル(約11億8600万円)を寄付すると発表した。こうした行為も、欧米で長年かけて築き上げた人脈も制裁対象入りの回避にはつながらなかった」
フリードマン氏は、今回の戦争への義援金として、ユダヤ人団体に1000万ドルを寄付したという。プーチン戦争と無縁の存在であるが、制裁対象に入れられた。
(3)「フリードマン氏の弁護士は2月28日、長年の事業パートナーでロシアの民間銀行最大手アルファ銀行を率いるピョートル・アベン氏と共に欧州連合(EU)の制裁対象となったことを同氏に告げた。アルファ銀行は同氏のアルファ・グループの中核事業でもある。弁護士は渡航禁止や口座凍結など、制裁が意味するところを伝え始めた。「ショックだった。弁護士が何を言っているのか、ほとんど分からなかった」とフリードマン氏は振り返った」
制裁対象になると、渡航禁止や口座凍結がされる。身動くできない状態にされる。
(4)「ブルームバーグによると、フリードマン氏は戦争前に約140億ドル相当の資産を保有していた。その資産はいまや帳簿上で約100億ドルとなったが、実質的に現金がなくなってしまった富豪という奇妙な立場にある。EUに続いて、英国もフリードマン氏を制裁対象とし、英国で使用可能だった最後の銀行カードも凍結された」
約100億ドルを上回る資産があっても、銀行口座や銀行カードも凍結されたので、手持ち現金がなく、買い物もできないという異常事態に追い込まれている。
(5)「同氏によると、資金を使うには許可を申請する必要があり、申請が「合理的な」ものかどうかを英政府が判断する。月間で約2500ポンド(約39万円)が許容される範囲のようだという。同氏は憤慨しながらも、戦争被害に遭っているウクライナの人々について触れ、「ウクライナ人が被っている問題に比べれば、自分の問題など何でもない」と語った」
月間の生活費は、約39万円の制限を受けている。外に資金を使うには、許可を申請する必要があるという。厳しいチェックを受けているのだ。富豪が、この範囲で生活するのは不可能だろう。
(6)「EUは、ロシアで実際に権力がどのように働いているか。それを理解していないことが今や明らかになったと、フリードマン氏は主張。「この制裁の狙いが自分のような人間を使ってプーチン氏に圧力を加えようということであれば、現実離れにも程がある」と話した。「自分は国営企業や政府機関で働いたことが一度もない」とし、「制裁を受けたことで自分がプーチン氏に連絡し、戦争をやめるよう話すかもしれないとEUの責任者が考えているとすれば、大きな問題だ。ロシアがどう機能しているか全く理解していないことを露呈しているからだ。将来にとって危険だ」と続けた」
プーチン氏は、すでに「神」のような権力者になっている。それゆえ、命令することはあっても、逆に新興財閥の意見を聞くような構造でないのだ。