勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済

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    中国の「戦狼外交」が威力を失い始めた。「一つの中国論」を盾にして、他国を恫喝してきたが、もはやこれに怖じ気づく国もなくなってきたようだ。中国は、明らかに落ち目になってきた。中国の土台をなす経済が、不動産バブルであったことが世界中に知れ渡って、「大したことはない」と見くびられ始めてきた現実もある。

     

    欧州と台湾が、半導体を軸に接近する気配である。欧州にとって半導体は、喉から手が出るほど貴重な産業である。その半導体の受託生産で、台湾は世界一の実績を上げている。中国を共通の「思想的な敵」に擬する欧州と台湾が、外交的に接近しても不思議はない状況である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月25日付)は、「欧州と台湾、政治でさらに接近 台湾外相が東欧歴訪」と題する記事を掲載した。

     

    欧州連合(EU)と台湾が一段と距離を縮めようとしている。台湾の呉釗燮・外交部長(外相)は欧州を歴訪し、スロバキアで26日に開かれる国際会議で演説するほか、27日にはチェコでミロシュ・ビストルチル上院議長と会談する。経済だけでなく政治面でも欧台の関係強化を狙う。ただ、ドイツなど主要国は中国への刺激を避けたいのが本音で、関係強化が進むかは不透明だ。

     

    (1)「呉外相の欧州訪問は19年にデンマークで開催された民主フォーラムに出席して以来、約2年半ぶりだ。呉氏は24日、欧州訪問への出発を前に「台湾はチェコやスロバキアと同様に自由、人権、法治を渇望している」と述べ、中国対抗を念頭に欧州との連携強化の姿勢をアピールした。チェコのビストルチル氏との会談は昨夏に同氏が台湾を訪問して以来。台湾側はこれとは別に現在、国家発展委員会の龔明鑫主任委員(大臣)を代表にした経済視察団がスロバキア、チェコ、リトアニアの3カ国を歴訪中だ。地元メディアによると、視察団は25日にチェコの首都プラハで、インターネットセキュリティーや宇宙産業などの分野で協力する覚書に署名した。欧州との関係強化を模索する動きが続いている」

     

    下線のように、台湾が投資案件を携えて訪欧している。これは、儀礼的な訪問でないことを示している。

     


    (2)「背景には、欧州の台湾への姿勢の変化がある。人権や民主主義を巡って中国との関係が悪化するなか、米国や日本などと同様に、同じ民主主義の台湾と連携を深めることが重要だとの認識が広がりつつある。EUは9月、インド太平洋戦略を公表し、台湾と主に経済面での関係深化に踏み出す姿勢を打ち出した。さらに踏み込んだのが10月21日。欧州議会は、EUと台湾の政治的な関係強化を勧告する文書を賛成多数で採択した。文書に拘束力はないが、台湾をインド太平洋地域で重要なパートナーと位置づけ、関係を強めるべきだと主張した」

     

    欧州が、台湾を見直すきっかけは中国横暴への忌避感覚が働いている。一言で言えば、その「野蛮な振る舞い」を嫌っているのだ。EU自体も、台湾をパートナーとして位置づけ始めている。

     

    (3)「具体的には、EUの台湾での出先機関の名称を「欧州経済貿易事務所」から「EU事務所」に変更し、事実上格上げするように促した。さらには投資協定締結や世界的に不足する半導体調達などでの関係強化も促した。特に半導体は、欧州には最先端の製造技術を持つ半導体メーカーが1社もない。多くを米国や台湾、韓国に依存し、欧州現地での調達ルートの強化は喫緊の課題だ。EUでデジタル政策などを統括するベステアー上級副委員長は、採決直前の19日、欧州議員を前に「台湾が民主主義、自由、開かれた市場を守るために我々は関与を強める必要がある」と発言。台湾との政治から経済まで広範の関係強化が、今後のEUにいかに重要かを訴え、理解を求めた

     

    下線部分は、中国にとっては泣き所である。地団駄踏んでも台湾へ対抗できないのだ。

     


    (4)「ただEU内での温度差はまだ大きい。EUのボレル外交安全保障上級代表も「微妙なバランスが重要だ」と指摘するように、EUは台湾との関係強化で中国との対立を招く事態は望んでいない。EUの中国との貿易額は台湾の10倍以上で、中国は欧州経済に欠かせない巨大市場だ。中国の人権問題など譲れない面では主張しつつ、経済面での結びつきは維持したいのが本音だ。とりわけドイツは中国への輸出依存度が高く、中国との関係悪化には非常に敏感だ。対中強硬の米国とは立場が異なる」

     

    EUにとって、中国が欠かせない市場であるが、それは昔も変わらないことだ。それにも関わらず、EUで台湾との関係見直しが始まっている現実を知るべきだ。いったん、ぐらついた関係は、決して元へは戻らないものである。

     

    (5)「米国が対中姿勢を鮮明にするなか、欧州が今後、中国と台湾の間をどうバランスさせるかは依然、不透明だ。中国は強く反発している。習近平国家主席は25日、国連が中華民国(台湾)に代わり中華人民共和国の代表権を認めた「アルバニア決議」から50年の節目に演説した。「国際ルールは193の国連加盟国が守るべきだ。例外があってはならない」と述べ、最近の米欧など世界各国の台湾への接近を強く批判した」

     

    下線部の通りとすれば、中国は南シナ海から撤退すべきである。常設仲裁裁判所から、南シナ海占領の違法性を100%突かれているからだ。身勝手はことを言うべきでないのだ。

     

    ムシトリナデシコ
       

    中国は従来から、台湾侵攻のタイミングを狙っているとの説がまことしやかに流されてきた。5年以内に「開戦する」との現役米軍首脳からも発言しているほどだ。こういう物騒な発言には、なぜ中国が侵攻するのかという「動機」が曖昧にされてきた。今度はズバリ、「台湾半導体企業を占領」という具体的な戦利品があげられている。

     

    『大紀元』(10月23日付)は、「中国共産党、台湾統一の動機付け『半導体事業を支配下に』、米調査」と題する記事を掲載した。

     

    台湾統一への野心を高める中国共産党にとって、世界をリードする台湾の半導体事業が更なる動機付けになる可能性がある。米調査会社ICインサイツが10月13日、世界の半導体市場を分析する報告の中で指摘した。中国は、台湾統一で社会的混乱による短期的な損害を差し引いても、優れた半導体事業を支配するという長期的な利益を選ぶ可能性があるとの見解だ。

     


    (1)「台湾には、半導体の受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)をはじめ、世界最大かつ最先端の半導体事業が揃う。長引くウイルス流行による世界的な半導体不足は、台湾の経済的・戦略的重要性を際立たせている。ICインサイツの調査によると、10ナノ(10億分の1)メートル以下の半導体を製造できるのは、台湾と韓国だけだという。台湾は半導体製造市場の最大シェア(63%)を占め、残りの37%は韓国のサムスンだ。また、中国と台湾のシェアを合わせると、世界のIC生産能力の約37%を占め、北米の約3倍になる」

     

    台湾の半導体受託生産は、世界一の規模を誇っている。半導体製造市場の最大シェア(63%)を占めている。堂々たるものだ。一方の中国は、未だに半導体の自給のメドも立っていない。技術格差が大きい。

     

    (2)「台湾のIC(集積回路)生産能力の約80%はファウンドリーに特化している。 台湾のファウンドリー専業はTSMCUMC、Powerchip、Vanguardなどが揃い、今年中には、世界のファウンドリー専業市場全体の約80%を占めると予測されている。調査者によると、中国は台湾の持つ世界トップレベルのIC製造能力を非常に羨んでいるという。世界最大の半導体輸入国である中国は、半導体産業のバリューチェーン(価値連鎖)の最下位に位置している」

     

    台湾は、今年中に世界のファウンドリー(受託生産)専業市場全体の約80%を占めると予測されるほどまでになっている。

     

    (3)「昨年12月、米国は中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と国内最大のファウンドリーである中芯国際集成電路製造(SMIC)を取引制限リストに加えた。ICインサイツによれば、中国には、将来の電子社会の需要に応えられるような先端ICデバイスを製造する能力が不足している。このため、長期的なニーズに応じた半導体事業の獲得するために、手段を選ばず台湾を統一することで、この問題の解決を図る可能性があるという」

     

    中国は、将来の半導体不足解消手段として、台湾侵攻による「開戦」に踏み切るだろうと予測される始末だ。20世紀の植民地争奪戦争を彷彿とさせる「古典的戦争」である。

     

    仮に、こういう手荒なことを始めればどうなるか。これは、中国の信頼度を徹底的に引下げ、民主主義陣営が結束して「参戦する」事態を招く。中国「興亡」の一戦になろう。

     

    (4)「10月初め、中国の習近平国家主席は「主権の維持」のために統一を実現すると宣言した。共産党政権は、統一のための武力行使の可能性を排除していない。台湾の蔡英文総統は「全力で阻止する」と対抗姿勢を見せた。「中国が軍事的手段によって台湾を占領しようとすれば、台湾経済に混乱が生じ、中国経済も大きな打撃を受けるだろう」。しかし、「世界最大規模の最先端IC生産能力を支配下に置くという長期的な利益」のために、中国は短期的な経済的損失を受け入れるかもしれない、とICインサイツは分析する」

     

    下線のように、中国が半導体不足で深刻な事態になっていることを覗わせている。中国が、この「一か八かの戦争」を始めれば、中国の「運」はそこまでであろう。

     

    (5)「TSMCは10月14日、長期的な半導体需要に対応するため、熊本県に2024年に新工場を開設する計画を発表した。同社は、アリゾナ州フェニックス近郊に120億米ドル規模の工場を建設している。米国の技術製品が外国のサプライチェーンに依存するのを軽減できるよう支援するという。欧州委員会貿易総局長は同じ日に開かれたオンラインの会議で、欧州連合と台湾は価値観を共有する自然なパートナーだと述べ、半導体事業の協力について言及した。欧州委員会は20日、台湾との関係強化を推進する報告書を賛成多数で可決した

     

    下線部は、最近のEUが台湾との関係強化に乗出している背景をよく説明している。「台湾」という呼称で外交関係を復活する話題も上がっている。台湾は、半導体によって先進国から貴重な存在として認められ始めている。

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    米国は、これまで台湾防衛について明言せず「曖昧戦術」をとって来た。だが、バイデン大統領が記者の質問で「もちろん防衛する」と発言。これまでの「曖昧戦術」が一歩、踏み出した形である。

     

    米国の台湾防衛については、国内で「曖昧戦術」と「明言戦術」の二派に分かれて論争してきた。曖昧派は、明言しない方が中国を刺激しないことを理由に挙げている。明言派、はっきりと言わないと中国が誤解して戦争を仕掛ける危険性が増す、としてきた。

     

    だが、バイデン政権の動きを見れば、米国の「台湾防衛」は明瞭すぎるほど明瞭である。日米首脳会談、G7首脳会談、NATO首脳会談などの共同声明において、台湾危機が明記されているからだ。アジアから地理的に遠い欧州でも、中国による香港飲み込み後に、「台湾防衛」認識が高まっている。こういう国際情勢の変化を考えれば、米大統領が「台湾を防衛する」と発言したのも当然であろう。

     


    『ブルームバーグ』(10月22日付)は、「バイデン大統領、台湾が中国から攻撃されれば米国は防衛に向かう」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米大統領は10月21日、米国には台湾を守るコミットメントがあり、台湾が中国から攻撃を受けた場合には米国は防衛に向かうと表明した。

     

    (1)「バイデン大統領は、CNNがメリーランド州ボルティモアで開いたタウンホール集会で、「中国は米国が世界最強の軍を有することを知っている」と述べ、懸念するのは中国が深刻な間違いを犯しかねない活動に従事していることだと付け加えた。中国が台湾を攻撃しようとした場合、台湾防衛に向かうのかと強く問われた大統領は、「イエスだ。われわれにはそうするコミットメントがある」と明言した」

     

    米国の国内法である「台湾関係法」(1979年)によれば、台湾の民主主義を守るという趣旨の文言がある。また、中国が台湾へ圧力を加えれば、米国製武器を供与するとなっている。要するに、米国は台湾を防衛することを規定している。ただ、国内法であるから、台湾も自助努力することは当然である。

     

    下線部のバイデン大統領の言葉が印象的である。「決まり切ったことじゃないか」といわんばかりの答えである。台湾防衛は、米国防衛であるからだ。この関係を見落としてはいけない。

     

    (2)「ホワイトハウスの報道官は大統領の発言について、米国の台湾政策変更を打ち出したものではないと説明し、米国は「台湾関係法」に基づき台湾へのコミットメントを続け、台湾の自衛を支援し、現状維持の一方的な変更に反対すると述べた」

     

    ホワイトハウスは、無難な説明である。「台湾関係法」こそ、米台の安全保障の基礎であるからだ。米国は、恩顧で台湾を防衛するのでない。台湾防衛が、地政学的に米国防衛のキーストーンであるからだ。

     

    米国の日本防衛も、同じ脈絡で捉えるべきだ。よく、「米国は土壇場で日本を防衛しない」という俗論を聞く。日本が、敵方の陣営に落ちることは、米国覇権を維持する上で「死」を意味する。こういう、国際関係論を深く理解すべきである。

     

    米国による「中国危険論」は、ひろく欧州全体に広がっている。それは、香港の民主主義が無惨に踏みにじられていく姿を知ったからである。

     


    『ブルームバーグ』(10月22日付)は、「EUの台湾支持は『甚大な影響』と中国が警告ー欧州議会の動きけん制」と題する記事を掲載した。

     

    欧州連合(EU)の欧州議会が台湾との関係強化を求める文書を採択したことを受け、中国政府は「甚大な影響」が生じ得ると警告し、EU側の台湾支持をけん制した。

     

    (3)「中国外務省の汪文斌報道官は北京で21日開いた記者会見で、台湾を「インド太平洋におけるパートナーであり民主主義の同盟」だと記した欧州議会の文書は、欧中関係の基盤となっている「一つの中国」という原則に「著しく反している」と主張。「非常に不快な性質のものであり、甚大な影響を持つ」と指摘し、「中国はこうした動きを強く非難し拒否する」と述べた。汪報道官はまた、台湾の閣僚によるチェコ・リトアニア・スロバキア訪問など欧台間の要人交流も批判。こうした欧州の国々は交流受け入れに伴う影響を考慮すべきだと語った」

     

    欧州議会は、ドイツ・メルケル氏の政治家引退を機に、「脱中国」を模索している。中国が、戦狼外交によって欧州の「小国」を露骨に軽蔑することへの反発が募っているのだ。欧州諸国にしてみれば、文化的にも中国から蔑まされるような国でないという強い自負がある。「田舎大名」の中国は、そういう欧州の自負心を踏みにじって反発を受けているのだ。

     

    (4)「台湾外交部(外務省)は同日、欧州議会の文書は台湾とEUの関係における「新たな節目」だとする声明を発表した。同文書は欧台投資協定に向けた取り組みやEUが台湾に置く窓口機関の名称の一部を「台北」から「台湾」に変更することなどを呼び掛けている。台湾の呉釗燮外交部長(外相)は、チェコとスロバキアに向け24日に台湾をたつほか、国家発展委員会の龔明鑫主任委員は20日からチェコ、スロバキア、リトアニアの3カ国を9日間にわたり訪れている。台湾行政院(内閣)の羅秉成報道官は台北での21日の記者会見で、欧州議会の代表団が来月初めに台湾を訪れ、中国によるインターネットへの干渉などへの対応について協議すると発表した」

     

    台湾は、欧州の中国離れの機会を利用して、積極的外交に出ている。欧州への投資案件も携えており、経済的に落ち目になってきた中国を尻目に動き始めている。「金の切れ目は縁の切れ目」という側面もあり、中国の大言壮語は反発を買うだけである。

     

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    中国による台湾への軍事的圧力が高まるとともに、中台間は経済的に一段と疎遠になっていく傾向が強くなっている。ここ10年間で、台湾の中国への直接投資は半減した。利益率の低下によって、魅力が落ちているほかに、新たに習氏から「共同富裕論」が叫ばれていることもあり、警戒感が高まっているという。

     

    『大紀元』(10月19日付)は、「台湾企業中国向け投資は10年間で半減題する記事を掲載した。

     

    台湾専門家の最新研究によると、台湾企業の対外直接投資(FDI)総額に占める中国の構成比は、この10年間でおよそ半分に減少したことが分かった。台湾の市民団体「経済民主連合」は13日、専門家を招いて、中国当局の「共同富裕」政策の下で、中国に進出した台湾企業の今後の対応に関するオンライン討論会を開催した。

     


    (1)「台湾の最高学術研究機関、中央研究院の社会学研究所の林宗弘研究員は討論会に参加した。林氏によると、1998年以降、台湾から莫大な資本が中国本土に流れた結果、台湾企業の大量倒産、失業者の増加、若者世代の収入減少、貧困人口の増加など、様々な社会問題が生じた。同氏の研究では、1992年~2014年まで、台湾のFDI総額に占める中国大陸の構成比は毎年拡大していた。しかし15年以降、同構成比が年々減少に転じた。「この構成比は、習近平政権が発足した12年の61.2%から、現在33.3%に低下した」と同氏は述べた」

     

    習近平政権が発足以来、台湾の対中国FDIは減少した。台湾が、政治情勢へ敏感に反応した結果である。

     

    (2)「林氏はまた、次のように述べた。「一部の資本は東南アジアに向けられ、米国にも流れた。台湾企業が、中国市場から資金を引き揚げている現状を表した。台湾企業だけでなく、各国の企業も中国からの撤退を急いでいる」。中国当局はすでに台湾企業への優遇措置を撤廃した。2007年以降、当局の政策の下で台湾企業は沿岸部ではなく、「経済発展が比較的に遅れている内陸部に追い払われた」と林氏は話した」

     

    台湾企業だけでなく、他国の企業も中国からの撤退を始めている。中国は07年以降、経済発展の遅れた内陸部へ企業誘致すべく、加工型産業の移転を迫ってきた。これが、輸送費の高騰をもたらすので、中国撤退要因になったと見られる。

     


    (3)「台湾メディアが毎年発表する「両岸三地(大陸・台湾・香港)大手企業1000社」ランキングでは、2007年に台湾企業356社がランクインしたのに対して、17年には124社、20年には108社まで減少した。「台湾企業は、ほぼ中国本土の赤いサプライヤーによって市場から排除されたと言っても過言ではない」。林宗弘氏は、台湾企業が中国大陸に資産を多く持てば持つほど、売上総利益率が逆に低くなるという現象を指摘した」

     

    下線部は重要である。これは、初めて明かされた事実である。当局が、いろんな名目で課税する結果である。地方政府の赤字を、企業に補填させていたのだろう。

     

    (4)「半導体製造大手の台湾積体電路(台積電、TSMC)の場合は、中国大陸における資産総額は同社全体の2割を下回る。同社の8割の資産は台湾に置かれており、従業員の大半も台湾にとどまっているため、人件費が比較的高くても、同社の売上総利益率は30%以上の水準を維持している。電子機器の生産を請け負う企業、鴻海精密工業(フォックスコン、Foxconn)の中国本土にある資産は全体の2割を超えており、「中国本土に90万人以上の従業員を持つ」という。

     

    TSMCの場合、人件費の高い台湾での事業が、売上総利益率は高いという。当局からの「タカリ」がないからだ。

     


    (5)「林氏によれば、2019年、フォックスコンの売上総利益率は2.2%まで下落した。林氏は、大規模な電力使用制限、不動産企業の過剰債務、中国当局の「共同富裕」方針などが原因で、大陸に進出した台湾企業売上総利益率がさらに低迷し、「マイナスに転じる可能性がある」とした。同氏は、台湾企業に対して、中国進出に伴うリスクを改めて認識するよう訴えた。いっぽう、同氏は「台湾の中国向け直接投資は減少しつつあるが、大陸と台湾の貿易関係が続く限り、FDI総額に占める中国の構成比は0%になることはない」との見方を示した。「重要なのは、国家安全保障と経済安全保障の観点に基づき、投資のバランスをより良くすることだ」と指摘する」

     

    中国が、企業進出先として先々、コストが高まることを示唆している。これは、重要な点である。「共同富裕論」が、企業に寄付金を強制することでもあり、利益は根こそぎ吸い取られる危険性を示唆している。

    テイカカズラ   

       

    辛亥革命(1911年)110周年をめぐって、中台では習氏と蔡氏がそれぞれ演説した。両氏が、ともに対決色を抑えたことで注目されている。習氏は、対米配慮や国内安定を優先したことが背景にあると観測されている。中国経済は、それだけ深刻な状況になっているのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月10日付)は、「中台、抑えた対決色 蔡氏「現状維持」習氏は対米配慮」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席と台湾の蔡英文総統が9~10日、それぞれ演説した。中国軍機が台湾の周辺空域に大量侵入した直後で注目されたが、両氏ともに対決色を抑えた。対米配慮や中国が国内安定を優先したことが背景にありそうだ。

     


    (1)「蔡氏は10日、中華民国の建国記念日にあたる「双十節」の祝賀式典で、「我々の主張は現状維持だ。(中台の)両岸関係の緊張緩和を期待する」と演説した。蔡氏が率いる民進党は台湾独立を志向するが、独立論を明確に否定して中国に配慮した。同時に「我々は攻撃的にはならない。だが、台湾の人々が圧力に屈するとは決して考えてはならない」とも語った。力の差を背景に、一方的に統一を求める中国の圧力に負けない姿勢を強調したものだ。蔡氏の演説が控えめだったのは、前日の習氏の演説がこれまでより抑制的だったことが影響したとみられる」

     

    台湾には、世界的な「同情票」が集まりつつある。中国の「戦狼外交」の被害を受けているという認識が強くなっているからだ。EUでは、「台湾」の呼称を復活させる動きが強まっている。それだけ、中国への不信感が強い証拠だ。

     


    (2)「習氏は、2019年に「(台湾統一のために)武力の使用を放棄することを約束しない」との表現を使ったが、今回は「武力」に一切言及しなかった。21年7月の演説では「台湾独立のたくらみを断固粉砕する」と強調したが、今回はふれなかった。逆に今回増やしたキーワードは胡錦濤前国家主席らが多用してきた「平和統一」だ。習氏は「平和的方法で祖国統一を実現することは台湾同胞を含むすべての中国人の全体利益に最もかなっている」と語った。これは台湾に柔軟姿勢だった胡氏の10年前の発言をほぼなぞったものだ」

     

    習氏は、10年前の胡錦濤時代に戻って、「平和統一」という欺瞞に満ちた言葉を使わざるを得ないほど、国内経済が混乱している。「平和統一」に騙される国はなくなった。

     


    (3)「習氏が発言のトーンを抑えたのは、バイデン米政権が中国との対話にカジを切り、米中関係が部分的に緊張緩和に向かう兆しがみえたのが一因とみられる。10月6日にサリバン米大統領補佐官と楊潔篪(ヤン・ジエチー)政治局員がスイスで会談し、年内に米中首脳がオンラインで協議することで一致した。米通商代表部(USTR)のタイ代表と劉鶴(リュウ・ハァ)副首相もオンラインで貿易協議を再開した。政治、経済の両面で米中の対話が始まった直後だった」

     

    中国にとって、米国の動きがいかに重要であるかを図らずも示す構図である。米国の後ろには多数の同盟国が控えているのだ。

     


    (4)「米中にはかつて対話のチャネルが100以上あったとされるが、トランプ前政権時代の対立でそのほとんどを失った。米国は党高官の親族らの査証も制限し、一部の党長老らは対米関係の改善を習氏に強く求めていたとされる。中台関係に詳しい、台湾師範大学の范世平教授は日本経済新聞の取材に「習氏の発言は、予想以上に厳しくなかった。米中高官協議の直後で、習氏は台湾に対して強く出る手段を失った。演説したくなかったのが本音だろう」と指摘する」

     

    中国では、党幹部などの親族が多く米国に在住している。資産の分散を狙った措置である。習氏は、そういう関係にある米国と「戦争」を構えるポーズをとっているのだ。習氏の神経は、どうなっているのか不思議である。

     


    (5)「東大の松田康博教授も、「7月の共産党創立100年の演説で『習氏が対米ナショナリズムをあおった』として米国は問題視していた。今回は中国も歩み寄ろうというシグナルを発したのではないか」と話す。実際、スイスで米中高官協議のあった6日から、活発だった中国軍機の動きも一気に静まり、9日まで4日連続で台湾の防空識別圏(ADIZ)に1機も侵入していない

     

    10月6日から、世界を騒がせた中国軍機による台湾上空への侵入がゼロになったという。今までの騒ぎは何だったのかと聞きたくなるほどだ。中国の幼稚な戦術に付合わされる台湾も大変である。

     

    (6)「もう一つの背景は、習氏が国内の安定を優先したためとみられる。国内では不動産大手、中国恒大集団の経営危機や全国規模の停電が起きており、中国経済は公式統計が示す以上に減速しているのが確実だ。対外的に挑発的な言動を取る「戦狼外交」の一環で、オーストラリアからの石炭輸入を停止したことが、国内の石炭価格の急騰を招き、停電の一因となった。国民生活に「実害」が出始めたことで、このまま対外強硬路線を貫けば習氏の指導力に疑問符がつきかねない状況だった」

     

    このパラグラフが、最も重要な部分である。中国は、病める経済の根本治療もしないで、スタンドプレーに興じているのだ。愚かと言う以外に言葉もないほどだ。

     

     

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