勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済

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    中国の習近平国家主席は9日、北京の人民大会堂で開いた辛亥革命110周年記念大会で演説し「祖国の完全な統一は必ず実現しなければならない歴史的任務であり、必ず実現できる」と訴えた。だが、辛亥革命の精神は、現在の台湾が引継いでいるのだ。

     

    辛亥革命が、中国近代化の原点であるとするならば、台湾が中国本土を統一しなければならない。こういう歴史的な経緯をみると、習氏は中国共産党にとって大変、不都合な演説をしていることになるのだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(10月9日付)は、「習氏、台湾統一『必ず実現』 辛亥革命110年大会で」と題する記事を掲載した。

     

    習氏は「『台湾独立』による分裂は祖国統一の最大の障害であり、民族復興にとって深刻な隠れた災いだ」と強調。「祖先を忘れ、祖国に背き、国家を分裂させる人物はこれまでもよい結末は迎えなかった。これからも必ず人民の唾棄と歴史的審判に遭うだろう」と語った。

     

    (1)「台湾問題は、純粋に中国の内政であり外部の干渉は容認できないとして「いかなる人も中国人民の国家を守り領土を保全する固い決意、強い意志、強大な能力を過小評価すべきではない」と力説した。「平和的な方式による統一実現は台湾同胞を含む中華民族全体の利益に合致する」と呼びかけた。「一国二制度」を堅持するとも述べた」

     

    中国の「戦狼外交」は、どれだけ敵をつくったか。「クアッド」(日米豪印)や「オーカス」(米英豪)も、中国の敵対行動が生み出した産物である。中英協定による香港をめぐる「一国二制度」は、簡単に破棄されてしまった。こういう「前科者」国家・中国の言分を額面通りに受取る国はなくなった。

     

    その中国が、「三民主義」を掲げる孫文の行った辛亥革命精神の本家気取りの発言で片腹痛い。笑われるだけだ。孫文は、「覇道」を排斥し、「王道」を求めた。習氏は、「覇道」を求めて「中華再興」を言い出している。

     

    (2)「一方で、過去の台湾政策を巡る重要演説に比べると今回抑制した部分も見え隠れする。習氏は2019年1月の演説で、台湾に向けて「武力の使用を放棄することを約束しない。一切の必要な措置を講じる選択肢を残している」と話し、台湾の「中国離れ」が進むきっかけをつくった。今回は武力行使を巡る発言は控えた。共産党創立100年を巡る今年7月の演説では「台湾独立のたくらみを断固粉砕する」と主張したが、今回はなかった」

     

    習氏は、「戦狼外交」が中国の国際的な地位を大きく引下げた現実を知ったに違いない。トーンダウンも、戦術の内だろう。本心を隠しているのだ。

     

    (3)「東大の松田康博教授は、「強硬発言が飛び出すとの見方もあったが、少し肩すかしだった。中国に不利な状況を打開するために穏健なメッセージも含ませたのではないか」と分析する。習氏の演説に対して、台湾の総統府は9日「中華民国(台湾)は、主権を有する独立国家で、中華人民共和国の一部ではない。国の未来は台湾の人々の手の中にある」とする声明を発表した。台湾では10日、中華民国の建国記念日にあたる「双十節」の祝賀式典を開く。軍事パレードや、蔡英文総統の演説が予定され、中国に対し、どこまで強いメッセージを送るかが注目される」

     

    台湾は現在、欧州から外交見直しの手が差し延べられている。これまでのEU(欧州連合)は、中国の手前「台湾」と呼ぶことすら遠慮してきた。だが、香港で見せた「暴政」に対する怒りから、EU外交委員会は「台湾」と呼ぶことを提案している。台湾は、中国が資金的に窮迫している隙を突いて、EUへの直接投資へ積極的に乗出す方針だ。台湾は、外交的に中国を押し返す基盤が生まれてきたと言える。

     

     

     

     

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    中国空軍は、10月1日の国慶節以来、多数の戦闘機などを台湾上空へ飛来させ圧力を加えている。これに対抗する形で、台湾の蔡英文総統は8日、台北市内で開かれた国際フォーラムで「台湾は軍事衝突を求めない。だが、民主主義体制を守り抜くためには、あらゆる力を尽くす」と述べた。中国が大量の軍用機を台湾周辺の空域に侵入させるなか、軍事的な圧力に屈しない台湾の姿勢を強調し、中国をけん制した。

     

    中国の台湾への軍事圧力に対抗すべく、米軍が秘かに台湾軍訓練の部隊を送っていたことが明らかになった。これによると、台湾が米軍から武器を購入するより、強力な防衛部隊が育っているという。米軍仕込みの最新防御態勢が構築されたのであろう。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月8日付)は、「
    米部隊が台湾軍を訓練、最低1年前から極秘で活動」と題する記事を掲載した。

     

    米軍の特殊作戦部隊と海兵隊の小部隊が極秘に台湾に派遣され、台湾軍の訓練に当たっていることが、米当局者の話で分かった。中国による台湾侵攻への懸念が高まる中で、台湾の防衛能力を増強する狙いがある。

     

    (1)「米当局者らによると、二十数人の特殊作戦部隊と支援部隊が台湾陸軍の小部隊の訓練に当たっている。米海兵隊は台湾の海軍と共同で小型艇を使った訓練を実施している。米軍は少なくとも1年にわたり台湾で作戦を実行しているという。米特殊作戦部隊の配備は、米国防総省内で台湾の戦闘能力に対する懸念が高まっていることの表れだ。中国はここ何年も軍拡を進めているほか、足元で台湾への軍事圧力を強めている」

     

    世界最強とされる米海兵隊直伝の訓練によって、台湾海軍も足腰が強くなったに違いない。中国も、米国に倣って海兵隊を創設したので、台湾海兵隊と実力は拮抗するのであろう。

     

    (2)「米台の当局者は、150機近い中国の軍用機がここ1週間に台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入したことに警戒感を強めている。これには戦闘機「殲16(J16)」や戦略爆撃機「轟炸6(H6)」、対潜水艦哨戒機「Y8(運8)」が含まれており、台湾当局によると、その数は過去最多に上る。中国軍用機は台湾が定める領空には侵入していないものの、連日の防空識別圏侵入は、台湾を自国の一部とみなす中国共産党の立場を改めて印象づける。中国は必要であれば、武力で台湾を支配することも辞さない構えを見せている。米軍幹部は今年、今後6年以内に中国が武力で台湾統一を目指すとの見方を示した。中国がそれより早い段階で台湾侵攻に乗り出す可能性があるとの指摘もある」

     

    中国軍が、台湾侵攻へいつ踏み切るか。それは、米国同盟国の戦力を総合的に勘案して決断するのであろう。だが、中国軍敗北の場合、習氏は中国で追放の運命が待っていると見なければならない。これまで、習一派に抑え込まれてきた「反習派」が一挙に動き出す好機になるからだ。習氏は、民族派の煽動に乗って開戦に踏み切れば、取り返しの付かない事態を招くだろう。

     


    (3)「台湾の邱国正・国防部長(国防相)は6日、中国が2025年までに最小限の代償で、全面的に台湾を侵攻できる能力を持つとの見解を示した。ホワイトハウスと米国防総省の当局者は、台湾への米軍配備についてコメントを控えた。現時点で台湾側からのコメントは得られていない。米当局者によると、台湾への米軍配備はローテーション制で行われており、それぞれの米軍部隊が異なる日程で配備されている。中国外務省は声明で、米国に対して従来の合意を順守し、台湾への軍事支援を停止するよう要求。「中国は国家主権と領土保全を担保するため、必要なあらゆる措置を講じる」と表明した」

     

    中国が台湾開戦に踏み切れば、「AUKUS」(米英豪)の原子力潜水艦部隊が中国海軍殲滅に始動する。日印も協力体制を組む。日本は、それまでに「AUKUS」に参加していれば参戦となろう。日本の誇る潜水艦部隊が、中国艦船を標的にするのだ。中国にとっては、歩の悪い戦争になる。自重こそ、習氏の生命を保証するのだ。

     


    (4)「アジアでは昨年、米海兵隊が台湾に派遣される可能性があるとの一部報道があったが、米当局者が報道内容を確認したことはなかった。米特殊作戦部隊の派遣はこれまで全く報じられていなかった。米特殊作戦部隊と海兵隊小隊の派遣は、中国の侵攻に備え、台湾に防衛能力強化に対する自信を深めさせるという、米国による小規模ながらも象徴的な取り組みだ。現・元米政府関係者や軍事専門家らは、米国が単に台湾に武器を売却するよりも、米台の軍隊同士の関係を強化する方が望ましいと指摘している。米国は近年、巨額の軍装備品を台湾に売却しているが、現・元当局者らは、台湾は防衛能力の強化に向けて大型かつ賢明な投資を始めるべきだと考えている」

     

    下線のように、米国は台湾へ武器供与だけで台湾の戦力を強化させることにならない。米台の合同演習こそ、防衛力を向上させるとしている。戦争は、指揮命令系統が鈍っていては勝てない。米軍の指揮下で、一糸乱れず戦う方が戦力の向上になるというのであろう。近代戦の経験のない中国軍には、すこぶるハンディのある開戦になるはずだ。中国は、敗北すればゼロでなく、マイナスを被る覚悟をすることだ。 

     

     

    サンシュコ
       

    中国の電気事情が窮迫している。広東省最大の国有自動車メーカーでは、電気を消して窓を開け、エアコンの使用を控えるよう求められている。こういう事態を迎えた理由は二つある。燃料炭価格の急騰による発電コストの高騰回避。来年2月の北京冬季五輪を控え、スモッグのない空を演出する政治目的である。これらの理由で停電が相次いでいる。経済や国民生活への悪影響は考慮外である。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月28日付)は、「中国で停電相次ぐ、半導体など供給網にまた試練」と題する記事を掲載した。

     

    中国では、製造業の拠点が相次ぎ停電に見舞われている。政府によるエネルギー消費と炭素排出を抑制する取り組みに加え、石炭価格の高騰が要因だ。半導体をはじめ、世界的なサプライチェーン(供給網)の混乱がさらに悪化する恐れがある。

     


    (1)「広東省や江蘇省など地方政府はここ1週間、エネルギー消費量を抑えるため、地元の工場に対して稼働時間の短縮か、一時閉鎖を命じた。企業の提出書類や企業幹部への取材で分かった。石炭価格の高騰により、生産を縮小している工場もある。さらに事態を深刻にしているのが豪州産石炭の輸入禁止だ。禁輸はオーストラリア政府が新型コロナウイルス起源を巡る国際調査を求めたことに反発した中国政府が報復措置として昨年導入していた。特に大きな影響を受けているのが江蘇省・昆山市だ。台湾系の半導体関連企業10社余りが台湾証券取引所への提出書類で、9月末まで昆山市の製造拠点を閉鎖することを明らかにした」

     

    中国の電力事情悪化で、台湾系の半導体関連企業10社余りが製造拠点を閉鎖するという騒ぎである。これでは、「世界の工場」も台無しである。

     


    (2)「内情に詳しい関係筋は、地元工場の多くでは強制的な停電が実施されており、現時点で経済的な損失額を推定するのは時期尚早だと話している。昆山市やその周辺で事業を展開する企業にとっては、中国政府が掲げるエネルギー消費量の抑制が大きな制約となっている。背景には、11月に英グラスゴーで開催される第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を控え、気候変動対策で世界をリードしている印象を与えたい中国政府の思惑がある

     

    11月に英グラスゴーで開催されるCOP26を控え、中国が気候変動対策で世界をリードしている印象を与えたい思惑で、強制的に停電させるという無茶苦茶な話である。これまで、地道な環境対策を怠ってきたツケが一挙に回ってきた感じである。

     


    (3)「国家発展改革委員会(NDRC)は、2030年までに炭素排出量が減少に転じることを目指す取り組みの一環として、GDP単位当たりのエネルギー消費量(エネルギー強度)を前年から約3%削減する目標を設定した。目標達成には、2021年上期の電力消費量の伸びが実質的に成長率を下回る必要がある。発改委は8月半ば、広東や江蘇など複数の省が目標水準を超えたと指摘。これを受けて、一部の地方政府が電力消費の強制削減などの対策を講じるよう指示していた。ノムラの分析では、エネルギー使用量の削減目標を達成できなかった省は、中国GDPの約7割を占める」

     

    GDP単位当たりのエネルギー消費量は、前年から約3%削減する目標になっている。これを実現すべく発電量を強引に下げているという説明だ。この結果、中国GDPの約7割を占める地域での停電が起こっている。GDP単位当たりエネルギー消費量削減は、総合的な経済政策で行うべきことで、直接に停電とは聞けば聞くほど、呆れた話である。

     


    (4)「豪マッコーリー・グループの首席中国エコノミスト、ラリー・フー氏は「これは総じて自ら招いた供給ショックだ」と指摘する。「中国当局が今年、特定分野の構造改革と引き換えに、成長を犠牲にする覚悟であることは明白だ」。広東省の経済企画当局は27日声明を公表し、エネ目標を達成する必要性から停電となったとの見方を否定。猛暑と発電能力の不足により、エネ需要の急増を招いたと説明した」

     

    習近平氏は、これまでも経済成長を犠牲にした政策を実行している。「共同富裕論」は、その最たるケースである。経済の矛楯を「共同富裕論」で隠蔽しているからだ。

     

    (5)「中国の他の地域においては、石炭価格の高騰がより大きな問題となっている。押し上げ要因となっているのは、中国産製品に対する外国の旺盛な需要に加え、過去数年にわたり進められてきた国内石炭生産の縮小、昨年導入した豪州産石炭の輸入禁止などだ。昨年の中国電力消費のうち、石炭は約6割を占めているが、価格の高止まりで電力会社の生産意欲は損なわれている。中国商務省によると、発電用の石炭(一般炭)価格はこの半年に29%値上がりし、9月19日時点でトン当たり780元(120.80ドル)となっている」

     

    発電用の石炭として最高の品質を誇る豪州炭が、中国の経済制裁で輸入禁止にされた。こうして、燃料炭価格の上昇を自ら招いたのである。この結果、発電コストが上昇して採算に合わず停電する、児戯に等しい振る舞いを行っているのだ。これが、中国政府の経済政策である。

     


    (6)「ここにきて表面化している電力不足の影響で、ノムラや中国投資有限責任公司(CIC)といった国内外の投資銀行の間では、今年の中国成長率見通しを引き下げる動きが広がっている。ノムラは今年の成長率予想を従来の8.2%から7.7%に下方修正。 モルガン・スタンレー では、中国が2021年を通じて、この一斉に集中して目標に向かう「運動式(キャンペーンスタイル)」の生産縮小を現行ペースで継続すれば、10~12月期にGDPを約1ポイント押し下げる可能性があると分析している」

     

    停電の続発によって、中国は今年の経済成長率に下方修正の圧力が掛かっている。これまで8%台とされたがこれを下回るという。雇用状況の改善は、これでさらに遠のくのである。

     

     

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    中国政府が今月16日、TPP(環太平洋経済連携協定)参加の正式申請を行った。台湾政権もこれを受けて、正式申請を発表した。中台が、TPP加盟をめぐって競合する形だが、TPP精神からみれば、台湾有利と言えよう。

     

    こうした外交関係の複雑さを反映し、あえて台湾もTPPへ中国と同時申入れになったと見られる。台湾の場合、2017年当時から、TPP加盟国と下打ち合わせをする用意周到ぶりを見せてきた。中国の急造な申請とは状況が異なる。その点で、台湾が数段も中国より有利な立場にある。

     


    『日本経済新聞 電子版』(9月22日付)は、「台湾、TPPに加盟申請 中国の反発必至」と題する記事を掲載した。

     

    台湾当局がTPPへの加盟を22日に正式に申請したことが分かった。23日に当局者が詳細を発表する。すでに事務局の役割を担うニュージーランド政府に申請書類を提出し、すべての加盟国に参加への支持を要請した。

     

    (1)「台湾の行政院(内閣)が22日夜、明らかにした。TPPを巡っては台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権と対立を深める中国が16日に加盟申請したと発表したばかり。TPPには現在、日本など11カ国が加盟しており、英国も2月に加盟を申請している。参加には加盟国すべての同意が必要となる。台湾は中国が主導する日中韓や東南アジア諸国が加盟する地域的な包括的経済連携(RCEP)には加盟せず、TPP加盟と米国との自由貿易協定(FTA)締結を目指してきた。台湾はTPP加盟国のうち、ニュージーランドとシンガポールの2カ国とすでにFTAを結んでいる。蔡政権はこれまで非公式にTPPへの加盟希望を関係国に伝えてきた」

     

    台湾政府は、TPP加盟国11ヶ国と事前の下交渉を済ませている。その点で、中国のようにスタートラインに立ったばかりの国と状況は異なる。

     


    (2)「台湾のTPP加盟に向けたハードルは高い。中国大陸と台湾は1つの国に属するという「一つの中国」を唱える中国の習近平政権は、台湾の加盟阻止に向けた関係国への外交的な働きかけを強めるとみられる。中国共産党系メディアの環球時報(電子版)は22日、台湾のTPP加盟申請について「かく乱だ」と批判した。国務院台湾事務弁公室の報道官が「中国と国交を結んだ国が台湾と協定を締結することに断固反対する」とコメントしたとも伝えた」

     

    このパラグラフは、かなり中国サイドの情報で書かれた記事の印象である。現実には、中国の台湾への軍事的圧力が高まる中で、台湾への同情論が高まっている。中国が「戦狼外交」によって台湾の加盟阻止で加盟国へ圧力を掛ければ逆効果となろう。

     

    台湾が、TPP加盟条件を完璧に満たしていれば、中国の圧力で阻止することは不可能なはず。かえって、自らの加盟を阻止する「オウンゴール」になりかねないだろう。中国は、「やぶ蛇」という最悪事態に陥るだろう。

     


    (3)「一方、台湾当局は民主主義の価値観を共有する日本などに加入を支持するよう強く働きかける方針。今後、中台のTPP加盟を巡る外交的な駆け引きが激しくなりそうだ。中国からの圧力が強まるなか、蔡政権は米国とのFTA交渉にも動いている。6月には米国と1994年に署名した「貿易投資枠組み協定」に基づく協議の再開にこぎ着け、FTA交渉への準備作業を開始した」

     

    台湾外交部(外務省)は昨年12月時点で、すでにTPP参加に向け、既存の参加11カ国と非公式協議を進めてきた。協議を終えた段階で、正式に申請を行う意向も示していたので、中国の正式申請に刺激されたということではない。

     

    台湾は、WTO(世界貿易機関)に加盟している。多くの国は、中国の反発を懸念して台湾との貿易協定締結に慎重で、台湾は多国間協定への参加拡大を模索しているところ。だが、中国の「戦狼外交」に反発する西側諸国も出ており、東欧のリトアニアが中国の反対を押し切って台湾との関係強化が始まっている。

     


    台湾は、すでに事前にTPP11ヶ国との下折衝を終わっている。準備万端整っての正式加盟申請である。その点で、中国の「付け焼き刃」的な申請とは異なっている。

     

    台湾は、2017年当時からTPPへの参加意欲を示していた。これを知った日本の菅義偉官房長官(当時)が、「歓迎したい」と台湾を支持する発言をしたほど。台湾の蔡総統は、自身のツイッターで大きな自信を得たとともに日本の支援を感謝すると投稿した(2017年6月28日)ほど。日本との意気はピタリと一致している。

    台湾の正式申請に対して、日本政府は次のように語っている。

    「台湾は(TPP参加国と)普遍的価値を共有している」としたうえで、「台湾はTPP加入に向けて関係法令を整備するなど準備を進めてきており、国有企業への補助金や電子商取引、労働などTPPで定められているルールを巡る問題点はあまりないだろう」との認識を示した。『読売新聞 電子版』(9月22日付)が報じている。

     

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    8月末、米国のケリー気候変動担当大統領特使は訪中して、中国の気候変動担当特使を含む高官と会談した。その際、中国側が口火を切った問題は、米国での孔子学院追放中止であった。これは中国が、孔子学院を利用してスパイ活動をしてきた証拠であろう。中国は、気候変動問題よりもスパイ活動再開がメリットを感じていることを示唆している。

     

    こうした米中のさや当てを離れて、台湾が米国で中国語の講座を開設している。米国は、政治意図のない台湾による純粋な中国語講座の開設を受入れている。

     

    『大紀元』(9月11日付)は、「孔子学院が去って 台湾当局、米国内で17カ所の中国語教室を開設」と題する記事を掲載した。

     

    米国で、台湾政府が出資する中国語教室「台湾華語学習センター」の設置が進んでいる。米台は昨年12月、言語学習を含む教育分野での提携を強化する文書を交わしており、中国語教室の開設はこの取り組みの一環。米政府高官によれば、中国共産党が管理する言語教育機関・孔子学院は宣伝機関との批判が起こり、米各地で孔子学院の閉鎖が続いていることも米台協力の強化の背景にあるという

     


    (1)「台湾華語学習センターは、台湾当局の中国語教室をサンマリノ、ロサンゼルス、サンフランシスコのシリコンバレーなど17カ所に開設を予定している。9月9日、台湾華語学習センター長で台湾僑務委員会の童振源委員長は、大使館に相当する米国在台協会(AIT)で記者会見を開いた。童氏は、過去数十年にわたる華僑華人会と米国内の360以上の中国語学校との協力関係を活用して、米国の成人は「ゼロ」の状態から中国語を学べるようにしていると述べた」

     

    台湾は、前米で17カ所の「台湾華語学習センター」を開設予定である。これは、米国での台湾の位置がしっかりと見直されてきた意味で、大きな役割を果たす。今後、米国での「中国忌避・台湾歓迎」ムードを定着させるだろう。中国共産党にとっては痛手である。中国が、孔子学院復活を米国に要求する背景でもあろう。

     

    (2)「童氏は、台湾系華僑は半世紀前から米国などの海外の教育機関と連携していると述べ、中国共産党体制の言論統制との違いを示した。「台湾は自由、民主、多元的で開かれた教育環境があり、教科書に何が書かれていようと、みんなで議論すればいい。私たちは干渉しない」と述べた。また、孔子学院とは同じ土俵に立っていないことも付け加えた。「孔子学院は米政府により制限されたり、追い出されたりしている。 台湾は米国と同じ価値観を共有している。米主流層から多くのサポートを得られると考えている」と指摘する」

     

    台湾が、米国で自由、民主、多元的で開かれた国というイメージを広げられれば、大きな成果になろう。これが、米国国民の台湾支持を根付かせるはずだ。

     


    (3)「米国在台協会のブレント・クリステンセン所長(当時)は昨年12月、米台教育イニシアティブの立ち上げ時に、「中国の検閲や悪質な活動が知られ、世界中で多くの大学が孔子学院を閉鎖している」と指摘。同時に、「米国や海外の学生の間では中国語学習の関心は依然として高く、台湾はその関心に応えるために重要な役割を果たすことができる」と答えた。米国務省は昨年8月、米国にある孔子学院を統括する「孔子学院米国センター」を中国政府の在外公館とみなしたと発表。トランプ政権の国務長官マイク・ポンペオ氏は、昨年10月中旬のインタビューで「年末までに全てを閉鎖することを望む」と語ったことがある」

     

    米国人が、中国共産党に嫌悪感を示しても、中国という存在には興味を持つ。台湾政府は、そういう層に向けて中国語講座を開設し、台湾の開かれた価値観に親しみを持って貰うのが狙いであろう。

     


    (4)「バイデン政権以降も孔子学院に対する厳しい対応を続けている。今年3月、米上院では孔子学院に対する資金やカリキュラムの情報開示を求める法案を全会一致で可決。大学側が助成金や人員に関する権限を全て持ち管理することを定め、管理が不十分な場合には、政府の補助金が削減されるという」

     

    孔子学院が、スパイ機関であることは紛れもない事実だ。FBI(連邦捜査局)は、そのスパイ手口を前米の研究機関や大学へ紹介して注意を呼びかけているほどだ。中国は、米国であくどいことをやり過ぎたのである。

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