最先端半導体(3~4ナノ)生産が遅れている。原因は製造設備の供給遅延だが、従来型半導体不足の影響とされている。従来型半導体の供給遅延が、最先端半導体の製造設備供給を遅らせるという悪循環だ。
1ナノメートルとは、10億分の1つまり、0.000 000 001メートルという気の遠くなるような超超微細の単位である。ここまで「極細」にした半導体がなければ、高性能コンピューティング、人工知能(AI)、自動運転車といった最新テクノロジー分野の開発ペースが鈍りかねないと懸念される。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月10日付)は、「先端半導体に広がる供給不足、製造装置納入に遅れ」と題する記事を掲載した。
2年にわたる世界的な半導体不足が、次世代スマートフォンやアプリを支えるデータセンターに欠かせない先端半導体の分野にも広がってきた。先端半導体はこれまで、自動車や電子製品を直撃した世界的な半導体不足の影響を概ね免れてきた。ところが、ここにきて生産障害や製造装置の不足といった問題に直面しており、世界のトップ2社が顧客への納期を確実に守れるのか懸念が生じている。
(1)「こうした影響は来年にも電子製品のサプライチェーン(供給網)に波及する可能性があり、あるアナリストは2024年以降に先端半導体が最大で20%不足する恐れがあると警告している。先端半導体の供給が脅かされれば、高性能コンピューティング、人工知能(AI)、自動運転車といった最新テクノロジー分野の開発ペースが鈍りかねないとの指摘が出ている。世界で最先端半導体の製造能力を備えているのが、台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子の2社に限られることも、問題の一因となっている。コストの高さや技術的な障害が2強集中の構図を生んだ背景にある。両社とも向こう数カ月にわたる野心的な計画を掲げている」
最先端半導体の生産シェアは、TSMCが92%、サムスンが8%であり、TSMCが圧倒的な強みを発揮している。最先端半導体が、2024年以降に最大で20%不足する恐れがあるという。これによって、最新テクノロジー分野の開発ペースが鈍る恐れが出てきた。
(2)「半導体ファウンドリー(受託生産)で世界最大手であるTSMCは、製造装置の入手に手間取っており、2023~24年に期待しているほど生産ペースを引き上げることができないかもしれないと顧客の一部に通知した。内情に詳しい関係筋が明らかにした。製造装置の納入は足元で想定以上に遅れている。新規受注のリードタイム(発注から納品までの期間)は、従来型半導体の不足が主因となって2~3年に延びているケースもある」
最先端半導体製造装置の大手メーカーは、オランダのASMLホールディングである。日本メーカーは、技術競争力の面で最先端半導体設備から脱落した。最先端半導体設備の製造では、従来型半導体を使っている。これが供給不足に陥っており、2~3年納品が遅れている。
(3)「技術的な問題も立ちはだかっている。サムスン電子のファウンドリー部門では、4ナノ工程の歩留まり(欠陥のない合格品の割合)改善ペースが想定を下回っており、生産能力に制約が生じているという。ただ、TSMCとサムスンは供給障害を回避するための取り組みで前進していると話している。TSMCの魏哲家最高経営責任者(CEO)は4月、アナリストとの電話会議で最新の3ナノチップの生産について聞かれ、製造機械の納入で問題が生じているが、問題に対処していると述べていた。サムスンのファウンドリー事業幹部、カン・ムンスー氏は先月、アナリストとの電話会議で、4ナノ工程の歩留まり改善が遅れたが、「想定される改善カーブに戻っている」と説明した」
サムスンは、4ナノチップの歩留まりが良くないこと。TSMCは、製造機械の納入遅れで最新の3ナノチップ生産が軌道に乗らないことを明らかにした。
(4)「先端半導体メーカーが増産に向けて見込んでいる設備投資額と、半導体製造装置業界の売上高見通しには隔たりがある。業界団体SEMIによると、半導体製造装置の世界売上高は今年およそ1070億ドル(約14兆3400億円)に達すると見込まれている。製造装置は半導体工場の新規建設コストの大半を占める。それに対し、コンサルティング会社インターナショナル・ビジネス・ストラテジーズ(IBS)では、半導体メーカーの設備投資予算は1800億ドルに達すると予想している」
半導体製造装置の世界売上高は、今年およそ1070億ドルを見込む。半導体メーカーの設備投資予算は1800億ドルである。この差の730億ドルは、製造設備の供給遅延になる。実に、4割にも相当する製造設備納品の遅延が起こる計算だ。
(5)「IBSのハンデル・ジョーンズCEOは、最も進んだ3ナノ、2ナノ半導体の生産について、旺盛な需要と設備不足による影響が非常に大きくなると指摘する。同分野では2024~25年に推定10~20%の供給不足が生じるリスクがあるという。米インテルはファウンドリー事業の構築を目指しているが、計画はなお初期段階にあり、またサムスンやTSMCの代役を務めるにはまだ道のりが遠そうだ」
最も進んだ3ナノ、2ナノ半導体は、24~25年に10~20%の供給不足が起きる懸念もあるという。世界でTSMCとサムスンしか製造できない以上、穴埋めできるメーカーが存在しないのだ。