勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 世界経済

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    最先端半導体(3~4ナノ)生産が遅れている。原因は製造設備の供給遅延だが、従来型半導体不足の影響とされている。従来型半導体の供給遅延が、最先端半導体の製造設備供給を遅らせるという悪循環だ。

     

    1ナノメートルとは、10億分の1つまり、0.000 000 001メートルという気の遠くなるような超超微細の単位である。ここまで「極細」にした半導体がなければ、高性能コンピューティング、人工知能(AI)、自動運転車といった最新テクノロジー分野の開発ペースが鈍りかねないと懸念される。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月10日付)は、「先端半導体に広がる供給不足、製造装置納入に遅れ」と題する記事を掲載した。

     

    2年にわたる世界的な半導体不足が、次世代スマートフォンやアプリを支えるデータセンターに欠かせない先端半導体の分野にも広がってきた。先端半導体はこれまで、自動車や電子製品を直撃した世界的な半導体不足の影響を概ね免れてきた。ところが、ここにきて生産障害や製造装置の不足といった問題に直面しており、世界のトップ2社が顧客への納期を確実に守れるのか懸念が生じている。

     

    (1)「こうした影響は来年にも電子製品のサプライチェーン(供給網)に波及する可能性があり、あるアナリストは2024年以降に先端半導体が最大で20%不足する恐れがあると警告している。先端半導体の供給が脅かされれば、高性能コンピューティング、人工知能(AI)、自動運転車といった最新テクノロジー分野の開発ペースが鈍りかねないとの指摘が出ている。世界で最先端半導体の製造能力を備えているのが、台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子の2社に限られることも、問題の一因となっている。コストの高さや技術的な障害が2強集中の構図を生んだ背景にある。両社とも向こう数カ月にわたる野心的な計画を掲げている」

     


    最先端半導体の生産シェアは、TSMCが92%、サムスンが8%であり、TSMCが圧倒的な強みを発揮している。最先端半導体が、2024年以降に最大で20%不足する恐れがあるという。これによって、最新テクノロジー分野の開発ペースが鈍る恐れが出てきた。

     

     

    (2)「半導体ファウンドリー(受託生産)で世界最大手であるTSMCは、製造装置の入手に手間取っており、2023~24年に期待しているほど生産ペースを引き上げることができないかもしれないと顧客の一部に通知した。内情に詳しい関係筋が明らかにした。製造装置の納入は足元で想定以上に遅れている。新規受注のリードタイム(発注から納品までの期間)は、従来型半導体の不足が主因となって23年に延びているケースもある」

     

    最先端半導体製造装置の大手メーカーは、オランダのASMLホールディングである。日本メーカーは、技術競争力の面で最先端半導体設備から脱落した。最先端半導体設備の製造では、従来型半導体を使っている。これが供給不足に陥っており、2~3年納品が遅れている。

     


    (3)「技術的な問題も立ちはだかっている。サムスン電子のファウンドリー部門では、4ナノ工程の歩留まり(欠陥のない合格品の割合)改善ペースが想定を下回っており、生産能力に制約が生じているという。ただ、TSMCとサムスンは供給障害を回避するための取り組みで前進していると話している。TSMCの魏哲家最高経営責任者(CEO)は4月、アナリストとの電話会議で最新の3ナノチップの生産について聞かれ、製造機械の納入で問題が生じているが、問題に対処していると述べていた。サムスンのファウンドリー事業幹部、カン・ムンスー氏は先月、アナリストとの電話会議で、4ナノ工程の歩留まり改善が遅れたが、「想定される改善カーブに戻っている」と説明した」

     

    サムスンは、4ナノチップの歩留まりが良くないこと。TSMCは、製造機械の納入遅れで最新の3ナノチップ生産が軌道に乗らないことを明らかにした。

     


    (4)「先端半導体メーカーが増産に向けて見込んでいる設備投資額と、半導体製造装置業界の売上高見通しには隔たりがある。業界団体SEMIによると、半導体製造装置の世界売上高は今年およそ1070億ドル(約14兆3400億円)に達すると見込まれている。製造装置は半導体工場の新規建設コストの大半を占める。それに対し、コンサルティング会社インターナショナル・ビジネス・ストラテジーズ(IBS)では、半導体メーカーの設備投資予算は1800億ドルに達すると予想している」

     

    半導体製造装置の世界売上高は、今年およそ1070億ドルを見込む。半導体メーカーの設備投資予算は1800億ドルである。この差の730億ドルは、製造設備の供給遅延になる。実に、4割にも相当する製造設備納品の遅延が起こる計算だ。

     

    (5)「IBSのハンデル・ジョーンズCEOは、最も進んだ3ナノ、2ナノ半導体の生産について、旺盛な需要と設備不足による影響が非常に大きくなると指摘する。同分野では2024~25年に推定10~20%の供給不足が生じるリスクがあるという。米インテルはファウンドリー事業の構築を目指しているが、計画はなお初期段階にあり、またサムスンやTSMCの代役を務めるにはまだ道のりが遠そうだ」

     

    最も進んだ3ナノ、2ナノ半導体は、24~25年に10~20%の供給不足が起きる懸念もあるという。世界でTSMCとサムスンしか製造できない以上、穴埋めできるメーカーが存在しないのだ。

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    世界経済が、円滑に動くには各国の協調を求められる。中国は、ここ三年にわたり「唯我独尊」ぶりを見せている。新型コロナウイルスの原因調査に協力しない。ワクチンを開発しても治験結果を公表しない。世界が「ウィズコロナ」で歩調を合わせているにもかかわらず、「ゼロコロナ」に固執して都市封鎖をしている、等々だ。

     

    中国に世界のサプライチェーンが存在する限り、中国の独善的なコロナ対策は、世界経済にとって大きな障害になる。IMF(国際通貨基金)は、先ごろ中国経済に関する評価で、有効なワクチン接種とゼロコロナ対策の無益を厳しく批判した。これまで、中国に好意的であったIMFが、踏込んだ批判をしたのは珍しいケースだ。

     


    『大紀元』(1月29日付)は、「中国の『ゼロコロナ政策』世界の供給網に影響」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルスの感染を封じ込める中国の「ゼロコロナ対策」が、世界の経済活動に悪影響を与えている。生産停止に追い込まれる工場が増え、供給網の混乱が生じている。

     

    (1)「『世界の工場』と呼ばれる中国の2021年の貨物貿易総額は39.1兆元(6兆1850億ドル)で、世界貿易の22%以上にのぼる。世界最大の統計市場調査プラットフォーム「スタティスタ」によると、2019年の世界の製造業生産高の28.%を中国が占めているという」

     

    中国は、21年の世界貿易に占めるウエイトは22%にも上る。また、19年の世界の製造業生産高の28.%を占める。こういう中国が、世界の主流と異なる振る舞いをするのは、迷惑の域を超えて障害物になる。

     


    (2)「人口約1300万人の中国北西部最大の都市西安は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け昨年12月から今年1月に数週間にわたってロックダウンを実施。この影響で同市に進出していた韓国サムスンや米マイクロン・テクノロジーの工場の操業に影響を及ぼした。スマートフォンやパソコン、自動車部品などに使われる半導体の製造に関わる両社は、世界的な半導体不足の深刻化につながると警告を発した」

     

    西安市は、昨年12月から今年1月にかけてロックダウンを実施した。市民生活は完全な「缶詰状態」である。西安にある大工場は、従業員が出勤できない以上、操業停止である。ここからの出荷を待つ部品が届かなければ、他国の工場もストップする。習近平氏は、こういう連鎖がもたらす「生産ロス」を何とも思っていないのだ。独裁者たるゆえんである。

     

    (3)「時事通信が引用する韓国メディアの報道によれば、2014年に稼働を始めたサムスンの西安工場は同社が手掛けるNAND型フラッシュメモリーの4割を生産する。これは、世界生産数の約15%に相当する。まもなく冬季五輪が開幕する北京に隣接する天津市も、西安に続きロックダウンを実施。1月中旬には新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染拡大抑制策として、1400万人の市民を対象に一斉検査を開始した。これによりトヨタ自動車は天津市の合弁工場を10日から約2週間、操業を停止。独大手フォルクス・ワーゲン(VW)も同市の工場の操業停止を余儀なくされた」

     

    西安にあるサムスンの半導体工場は、NAND型フラッシュメモリー世界生産数の約15%を担う。このサムスン半導体工場もストップである。天津のトヨタとVWも操業停止だ。当該企業の損失だけでなく、ユーザーも同様の損害を被った。

     


    (4)「『ゼロコロナ対策』は陸・海・空の物流を途絶させ、輸送コストを押し上げた。港湾は開放されていても、移動制限や輸送の人員不足、越境検疫といった規制によって遅延が生じている。米ニュース通信社CNBCはサプライチェーン・コンサルタント会社サプライ・ウィズダムのアテュール・バシスタ会長のコメントを引用し、航空貨物輸送の価格が50%上昇したケースもあると報じた。アジアから米国西海岸への海上輸送の料金は4%上昇したという」

     

    中国のゼロコロナ対策で、航空貨物輸送運賃を50%も上昇させたケースもあるほか、アジアから米国西海岸への海上輸送運賃が4%も上昇させている。

     


    (5)「中国共産党は27日、浙江省や北京、上海、天津、黒竜江、河北、河南、新疆で新たに新型コロナウイルスの感染が確認されたと発表。団地封鎖を実施している」

     

    ゼロコロナ対策は、これからも中国全土で行なわれる。その損失は当面、中国経済の成長率を引き下げる形で中国自体が被る。IMFは、先の予測で今年のGDP成長率は4.8%である。世界の名だたる投資銀行は、4.3%成長と厳しい見方だ。独り善がりな「ゼロコロナ」対策は、こうして中国自身の成長率を引き下げるのだ。今年の成長率では、米国が上回る可能性が出ている。


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    世界で頻発する異常気象は、二酸化炭素の排出が原因とされる。その抑制に向けて、世界の科学界が必至で研究に取り組んでいるが、日本の研究者二人の努力で大きな成果が上がりリードしている。東京大学の藤田誠卓越教授と京都大学の北川進特別教授である。お二人の研究の生み出した新素材が、脱炭素のカギを握りノーベル化学賞候補とされている。

     

    どういう素材なのか。微細な穴が無数に開いた金属有機構造体(MOF)は、1グラムにサッカーコート1面分の表面積があり、狙った物質をとじ込められるというもの。1グラムの物質に、サッカーコート1面分の表面積があると聞いただけで、科学に素人な者には驚きである。果物の鮮度の維持や半導体の製造などで実用化されているが、応用の本命は環境分野だ。二酸化炭素(CO2)の回収や、脱炭素燃料の水素の貯蔵に利用しようと世界中で研究が進んでいる。日本との関わりの強い分野である。

     


    『日本経済新聞』(9月28日付)は、「
    CO2『新素材で回収』、独化学大手や米新興が注目 水素も貯蔵 応用進む」と題する記事を掲載した。

     

    8月、米ノースウエスタン大学発のスタートアップ、ニューマット・テクノロジーズ(イリノイ州)は炭素の排出を「効率よく劇的に減らす分離技術の開発」で住友化学と提携すると発表した。住化が注目したのはニューマット社が持つMOFと呼ばれる素材を設計する技術だ。

     

    (1)「MOFは内部に微細な穴が無数に開いた多孔性材料の一種だ。1グラムあたりサッカーコート1面分に相当する7000平方メートル以上の表面積を持つMOFもあるという。既存の多孔性材料では、冷蔵庫の消臭剤に使われる活性炭や工場で有害物質の吸着などに使うゼオライトがあるが、MOFはより表面積が大きく、大量の物質を効率的にとじ込められる。物質の貯蔵や分離のほか、分子の化学反応を促す「場」としても応用できる」

     

    昔から、家庭で炭を下駄箱に入れておくと臭いを吸収するとして使われている。MOFの原理も、簡単に言えばこういうものだろうか。「活性炭」は、木炭の3~7倍の表面積を持って脱臭剤、浄水、ガス精製に使われている。研究のヒントは、こういうところにあったのだろうか。

     

    (2)「MOFの特長を生かした製品は既に実用化している。世界に先駆けたのは英クイーンズ大学ベルファスト校発のスタートアップ「MOFテクノロジーズ」(北アイルランド)だ。2016年9月に果物の鮮度を維持するMOFを製品化すると発表した。果物が自ら放出し熟成を促すエチレンの働きを止める物質をMOFにとじ込め、販売前に果物が腐るのを防ぐ」

     

    MOFを利用した製品が、身近なところに登場している。

     

    (3)「国内では、日本フッソ工業(堺市)が20年12月、化学プラントで使う金属製タンクの表面を守るコーティングでMOFを実用化した。京都大学発スタートアップのアトミス(京都市)が京大の北川進特別教授の技術を使った材料を提供した。力を入れるのはスタートアップだけではない。独化学大手のBASFは04年から研究を本格的に開始し、気体の分離・貯蔵、水の吸収などに使える多様なMOFを開発してきた」

     

    国の内外でMOFの本格的な研究が始まっている。独のBASFでは、気体の分離・貯蔵、水の吸収など、二酸化炭素吸収につながる開発を始めている。

     

    (4)「応用先の大本命として研究が盛んなのは、温暖化対策など環境分野だ。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は20年10月、MOFを使い、大気中に濃度0.04%しかないCO2を直接回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」を安く実現する試験プラントを作ったと論文で発表した。MOFをセ氏80度に熱すると、このわずかなCO2を回収できる」

     

    MOFが、大気中に濃度0.04%しかないCO2を直接回収することに成功した。これは、大きな研究成果である。世界の異常気象解決への貴重な一歩になる可能性を秘めている。

     

    (5)「MOFの産業利用は今後本格化する。中国の調査会社QYリサーチによると、19年に1億4900万ドル(約160億円)だった世界市場の規模は、26年には5.6倍の8億3800万ドル(約920億円)に拡大するという。日本に有力研究者がいることや素材産業の強みを生かし、海外が先陣を切った産業利用で巻き返しを図る必要がある」

     

    MOFが今後、大きな市場規模に成長する見込みという。日本発祥の技術であり、有力素材メーカーのひしめき合う日本が、世界をリードして欲しいものである。

     

    (6)「世界各国で「カーボンゼロ」がキーワードになっている。関西でも脱炭素に関連する研究や実証実験などが盛んだ。大学や素材・機械産業が集積するメリットを生かし、「厄介者」である二酸化炭素(CO2)の分離技術など具体的な成果を積み重ねられれば、2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)で世界に誇る展示になり得る」

     

    2025年の関西万博は、MOFが有力展示物になる条件を備えている。リチウムイオン電池、全固体電池も日本発の技術である。これにMOFが加われば、日本が脱炭素技術「三冠王」に輝く。ノーベル化学賞に輝いて貰いたい。

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    EV(電気自動車)が、新規参入で戦国時代である。スマホの大手受託生産企業の鴻海(ホンハイ)は、スマホ受託生産方針を使ってEV進出方針が明らかにした。自動車は、ただ動けば良いのではない。購買者からは、乗り心地・安全性・外観デザインなど厳しい要件が突きつけられている。その点で、高い顧客満足度を選られるだろうか。

     米アップルも、EV参入を検討し、車業界で開発や生産を分担する「水平分業」の機運が高まっている。注目されるのが車の開発・生産受託の世界大手であるマグナ・シュタイヤー(オーストリア)の存在だ。同社のフランク・クライン社長は、「マグナは車業界のフォックスコン(台湾・鴻海=ホンハイ=精密工業傘下)になりつつある」と述べた。『日本経済新聞』(3月5日付)が報じた。

     

    アップルのiPhone受託生産は鴻海である。その鴻海が、アップルEVと競合するというまさに「EV戦国時代」である。ソニーEVは、マグナ・シュタイヤーと組んでいる。鴻海EVは、マグナ・シュタイヤーとの競争でもある。

    中国のスマホメーカー、小米科技(シャオミ)が同国の自動車メーカー、長城汽車の国内工場で電気自動車(EV)を生産する計画であることが、事情に詳しい関係者の話で明らかになった。関係者によると、シャオミは長城汽車の工場で自社ブランドのEVを生産するために交渉を進めている。自社製電子製品の大半と同様に大衆向けのEVとする考えという。『ロイター』(3月26日付)が報じた。

     


    『日本経済新聞』(3月26日付)は、「鴻海EV 1200社連携 日本電産など 部品・ソフト大手参加」と題する記事を掲載した。

     

    台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は25日、参入準備を進める電気自動車(EV)事業で、同社への協力を表明したサプライヤーが1200社超に達したと明らかにした。ソフトウエアや自動車部品の世界大手が名を連ね、日本からは日本電産などが参加する。米アップルのiPhone生産受託で成長した実績があるだけに、部品メーカーなども高い関心を寄せる。

     

    (1)「鴻海は2023年に量産を始め「25~27年にEV市場で世界シェア10%を獲得する」のが当面の目標だ。車メーカーは通常、開発から生産まで一貫して自社で手掛ける。鴻海は、開発と生産の分業が進むスマートフォン型のビジネスモデルを持ち込み、車メーカーが開発した製品の受託生産を狙う。どういう部品やソフトを組み合わせれば効率よくEVを量産できるか、サプライヤーとともに開発を始めており、この枠組みへの参加を表明した企業が25日時点で1200社超になったという」

     

    鴻海は、アップルのiPhone受託生産で発展してきた。今度は、鴻海自身がEVの8割を設計して無料提供し、新規EV参加企業に割安EV生産を実現させるという企業モデルを考案した。生産は、鴻海が担当する。

     


    (2)「EV事業の最高経営責任者(CEO)を務める鄭顕聡氏は、「EV業界で新しいビジネスモデルを志向し、『アンドロイドカー』を造ることを計画している」と力を込める。アンドロイドカーとは何か。それは、米グーグルがスマホメーカーに無償で提供した基本ソフト(OS)「アンドロイド」のビジネスモデルをイメージしたものだ。スマホがまだ世界に普及していない2000年代後半、アンドロイドの登場がスマホ業界を大きく変えた。スマホの頭脳となるアンドロイドが無償で使えるようになったことで新興のスマホメーカーが続々と参入した。後発でもアンドロイドをベースに手軽にスマホ開発ができたためだ。生産も全て鴻海などの受託企業に任せることで投資負担を抑えた。小米(シャオミ)やOPPO(オッポ)など中国勢が代表例だ」

     

    鴻海の考案する企業モデルは、「アンドロイドカー」と呼べるものだ。スマホの普及は、グーグルがOSの「アンドロイド」を無料提供したことに負っている。鴻海は、EVでこの「アンドロイド」方式を採用して「アンドロイドカー」を世に送り出そうという狙いである。ただ、この「アンドロイドカー」は、性能的に抜群のものでなければ採用されないだろう。

     

    (3)「鴻海はEV業界でも、このビジネスモデルを狙う。スマホのアンドロイドに当たる、無償で提供が可能なEV開発プラットフォーム「MIH」を準備中だ。具体的には、車両開発の骨格となるシャシー(車体)の細かい寸法や規格のほか、自動運転などに使う高速通信規格「5G」対応の細かい通信規格など、スペックは鴻海が詳細に決める。これを世界中のEVメーカーに使ってもらおうとの試みだ。関係者によると、鴻海が無償提供するMIHは、車両開発全体の約8割をカバー。各EVメーカーは外観デザインなど残りの2割を自社で開発すればEVが完成するイメージだという。MIHを利用してもらう代わりに、生産は鴻海が全て引き受ける仕組みだ」

     

    鴻海では、この無償である「アンドロイドカー」に該当するEV開発プラットフォーム「MIH」を準備中である。MIHは、車両開発全体の約8割をカバーし、各EVメーカーは外観デザインなど残りの2割を自社で開発すれば、EVが発売できる仕組みである。

     


    (4)「世界では今もEV業界への新規参入が続く。開発に特化し、巨額の投資が必要な工場は持ちたくないファブレスメーカーが大半だ。スマホの大量受託生産ビジネスで鳴らした鴻海はこうした点に目を付けた。MIHの提供で各社の開発負担を軽くできれば今後、スマホ同様に新興メーカーが続々と参入し、EVの普及が一気に弾みが付く可能性は否定できない」

     

    鴻海自体は、確実に利益を出せるシステムだが、性能の同じである「鴻海EV」が世界中で競争する構図となろう。だが、鴻海が自動車生産の経験ゼロである点が引っかかるのだ。EVを余りにも安直に考えていないか、である。

     

     

     

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