勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: イラン経済ニュース

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    イランの最高指導者のハメネイ氏は、ハマスを支援しない旨を通告したと英紙などが報じている。イランは。事前に通告もしないで始めたイスラエルへの急襲を非難したとされる。この裏には、いち早く米海軍が空母2隻を急行させて、イランの介入を牽制していることも影響しているであろう。

     

    米国のオースティン国防長官は10日14日、米海軍の空母「ドワイト・アイゼンハワー」をイスラエル沖の東地中海に派遣するよう指示した。米軍は既に、イスラエル沖に空母「ジェラルド・フォード」を展開している。中東情勢が緊迫化する中、空母を追加で派遣することで、イスラエルに対する攻撃を抑止する狙いがある。

     

    『東亜日報』(11月17日付)は、「イラン最高指導者、ハマスに『介入しない』 紛争拡大のリスク減少」と題する記事を掲載した。

     

    神政国家であるイランの最高指導者ハメネイ師が、最近イランを訪問したパレスチナ武装組織ハマスの政治部門最高幹部のイスマイル・ハニエ氏に、「イスラエルとハマスの紛争に介入しない」考えを明らかにしたと、英紙『テレグラフ』などが15日、報じた。これまでハマスを直接・間接的に支援してきたイランが、10月7日の紛争勃発後、初めて「介入不可」の考えを公式化したもので、大きな注目を集めている。

    (1)「イランが介入しなければ、イスラエルとハマスの紛争が中東全体の紛争に広がる危険性も減るとみられる。すでにハマスは、拠点であるパレスチナ・ガザ地区に対するイスラエル地上軍の波状攻撃で大きな打撃を受けており、さらに勢力が弱体化する可能性も高い。15日午前2時頃、ガザ地区のアルシファ病院を急襲したイスラエル軍は、病院内でハマスの作戦本部の存在を確認したとし、病院攻撃の正当性を繰り返し主張した。バイデン米大統領も「病院にハマスの施設がある」とイスラエルを擁護した。ハマスは、「イスラエルの虚偽の扇動」と反発した」

     

    イスラエルのハマス反撃が、イランの介入することで紛争拡大を招き、中東全体を混乱に陥れるリスクを浮上させている。米海軍は、イランの介入を警戒して空母2隻を配置して牽制しているほどだ。米国は、イランが事前にハマスの急襲を知っていたかどうかに注意してきた。調査の結果、すでに全く知らされていないことを知り安堵していたのも事実だ。

     

    (2)「テレグラフによると、ハメネイ師は最近イランを訪れたハニエ氏に会った席で、10月イスラエルを奇襲攻撃した際、イランに事前通知しなかったことを追及した。また、イランが介入する考えもないことを明らかにした。ロイター通信も、ハメネイ師がイランはもとより、イランの支援を受けるレバノンのシーア派武装組織ヒズボラがハマスを支援して全面的に介入すべきという声がハマス内部から出ないようハニエ氏を牽制したと報じた。ハニエ氏は今月初め、秘密裏にテヘランを訪れ、ハメネイ師などイラン首脳に支援を求めたという」

     

    イランは、ハマスの「尻拭い」を断った。これは、イランがサウジアラビアと外交関係を復活したばかりであり、ハマスへ介入すればせっかく得た外交成果を台無しにする。総じて、アラブ諸国は今回の紛争に対して中立的立場を取っている。理由は、イスラエルのハイテク技術が必要になっている背景がある。

     

    (3)「ヒズボラも、奇襲攻撃を全く認識していなかったことが分かった。あるヒズボラの指揮官はテレグラフに、「寝て起きたら紛争が起きていた」と述べ、ハマス側がヒズボラにも事前に通知しなかったことを明らかにした。ただ、ハメネイ師は、イランが何らかの形でハマスを支援し続ける意向は示したという。ヒズボラなどを通じて中東内の米国およびイスラエル関連の主要施設をロケット、無人機(ドローン)などで攻撃することも含まれる。ハマスに連帯感を示すが、イスラエルや米国との直接対決には巻き込まれないようにする動きとみられる」

     

    ハマスへ連帯感を示す國は多いが、その限りに止まっている。紛争に加担することで、損害を被る現実を計算するようになったのだ。ハマスが、イスラエルを急襲したことに引け目を感じているのであろう。



     

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    中国が、イランに対して25カ年間協力を約束する協定に調印する。具体的には、総額4000億ドルの投資をすると伝えられている。中国の国際収支の経常収支黒字は、先細り傾向を見せている中で、肝心の資金が続か疑問視される。

     

    すでに東欧17ヶ国にも経済支援すると約束しながら履行せず、6ヶ国が中国から離反する動きを見せている。中国は、経済支援の資金が続かないためだ。この上、新たに4000億ドルもの巨額資金をひねり出すゆとりはなさそう。イランとの経済支援も「空手形」になるのは不可避であろう。

     

    これを見透かすように、米国は中国の「一帯一路」に対抗する姿勢を強めている。バイデン大統領は3月26日、英国のジョンソン首相との電話協議で、民主主義国家でつくる中国と同様の構想をジョンソン氏に提案した。バイデン氏が同日、米東部デラウェア州で記者団に語ったもの。米国主導で米国版「一帯一路」プロジェクトが始まれば、資金量から見ても中国の及ぶところではあるまい。

     


    『日本経済新聞 電子版』(3月27日付)は、「中国とイラン、25カ年協力調印 米に対抗し連携強化」と題する記事を掲載した。

     

    中国とイランは経済や安全保障を巡る25年間の協定を結んだ。イランのロウハニ大統領が公式サイトで発表した。貿易や人権問題、核合意などを巡り米国との対立を深める両国の思惑が一致した。

     

    (1)「中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相が26、27日にイランを訪問し、ロウハニ大統領と会談した。協定の詳細は明らかになっていないが、地元メディアなどによると中国がエネルギー分野のほか鉄道、高速通信規格5Gなどの整備に投資し、イランが原油やガスを低価格で提供する。中国が計4000億ドル(約44兆円)をイランに投資するとの報道もある。2800億ドルをエネルギー部門、1200億ドルを輸送、通信、製造部門に投じる見通し」

     

    中国は、これまで大風呂敷を広げて他国の歓心を買うというのが常套手段である。米中デカップリングが進むと、4000億ドルもの巨額資金をイラン一国へつぎ込むゆとりはないはずだ。しかも、「ノーカーボン」(脱二酸化炭素)という世界的潮流の中で、イラン石油の大量購入契約は最もリスクの高い取引となろう。

     

    昨年12月、中国の石油精製最大手であるシノペック(中国石油化工)が、極めて重要な見通しを発表した。中国の石油需要が、2025年にピークを迎えるというのである。また、中国は2030年までに二酸化炭素発生を減少させると宣言を発している。そういう中で、イランと石油取引で関係を深めるのは、危険な取引に手を出す感じである。

     


    (2)「協定は軍事面にも及ぶ可能性がある。2019年12月にはイラン、中国、ロシアの3カ国がインド洋とオマーン湾で合同軍事演習を実施した。中国はイランを中東の要衝と位置づけ、ロシアなどとつくる上海協力機構(SCO)への加盟を呼びかけてきた。イランメディアは20年、協定でペルシャ湾にあるキーシュ島の租借権を中国に認めると報じた。イラン当局は否定したが、米欧で中国とイランの軍事協力への警戒は強い」

     

    中国がイランと軍事協力を深めれば、自動的にNATO(北大西洋条約機構)を敵に回すことになろう。NATOは、中国に警戒しており2030年までに「新戦略概念」を発表の予定である。NATOが、中国包囲に動くきっかけを与えるようなものだ。

     

    (3)「協力構想は、2016年1月に習近平(シー・ジンピン)国家主席とロウハニ師の会談で合意した共同声明に盛り込まれた。その後、イランを巡る国際情勢は激変した。米国が18年5月にイラン核合意から離脱し、原油の禁輸を含む制裁を再発動した。欧州やインドがイランとの経済協力から手を引いたものの、中国は交渉を続けてきた。中国にはイランを対米カードとして使う思惑がある」

     

    中国は、イランを対米カードに使えば、逆にNATOが対中国戦略で動き出すはず。こういうマイナス戦術に出るのは、愚かな選択に見えるのだ。

     


    (4)「19日までの米中協議で安保や人権を巡る隔たりが鮮明になった。習指導部はバイデン米政権との長期対立も視野に入れ、対米関係が悪化する国との結びつきを深めようとしている。魏鳳和国防相は31日までの日程でハンガリーやセルビア、ギリシャなどを訪れる。軍事訓練などで東欧との連携を広げる見通しだ」

     

    中国国防相が、東欧諸国と軍事訓練することはNATOを刺激するはず。ますます、NATOから反発を受けることは必至だ。NATOから東欧諸国を分離させようという策略とすれば今後、大変な事態の発生を覚悟しなければならないだろう。NATOが、クアッド(日米豪印)と軍事提携すれば、中国は「袋のネズミ」となる。

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