北朝鮮と中国との関係がギクシャクしている。中国政府は、外貨稼ぎのため北朝鮮から派遣されている労働者全員に対して、帰国を求めたことを韓国政府が把握したと報じられた。中国は、最近の北朝鮮がロシアと密着していることをけん制しているとみられる。中ロ朝関係は、中ロが北朝鮮を巡って互いに勢力争いを展開している状態が明らかである。中ロ関係も一枚めくると、こういう微妙な状態にある。
『朝鮮日報』(7月14日付)は、「2年にわたる水面下の中朝対立が爆発、中国にむげにされロシアに抱き込まれた北朝鮮」と題する記事を掲載した。
中朝関係が尋常でない。金正恩(キム・ジョンウン)総書記と習近平国家主席が、2018年に中国・大連で一緒に散策したことを記念するために設置された「足跡の銅板」まで無くなった。中国側が、銅板の上にアスファルトを敷いて足跡を消してしまった。朝中首脳の友好の象徴物が除去されるというのは類例がない。
(1)「今年1月の台湾総統選挙は、中国の最大の関心事だった。中国が嫌う親米・独立傾向の候補が当選したにもかかわらず、北朝鮮は中国の立場を支持する声明すら出さなかった。中国と日本で同じ時期に強い地震が発生し、どちらも大きな被害が生じた。通常なら、北朝鮮は中国に慰労の電文を送らなければならない。しかし金正恩は日本にだけ「岸田閣下」で始まる電文を送った。少し前には、北朝鮮が、朝鮮中央テレビの海外向け放送に使う衛星を中国からロシアに変えてしまうという「事件」もあった」
北朝鮮の金正恩氏が1月、「岸田閣下」と最上段の敬意を表した「能登地震」へのお見舞い電文を送って日本を驚かせた。これは、中国への意趣返しが込められていた。中朝関係にヒビが入っていたのである。
(2)「昨年7月、北朝鮮の停戦協定締結70周年軍事パレードで、ロシアはプーチンに最も近い側近の一人、ショイグ国防相(当時)を派遣した。ロシアが北朝鮮の軍事パレードに特使を送るのは異例だ。10年前の停戦60周年のときも、高官クラスの派遣は行われなかった。反面、中国の特使は李鴻忠政治局委員だった。最高指導部の常務委員(7人)を派遣するに値する行事なのに、委員(25人)を派遣したのだ。金正恩は、あからさまにロシア特使ばかりを歓待した。2022年から積もり積もってきた朝中対立が表面化したのだ」
北朝鮮の停戦協定締結70周年軍事パレードでは、金正恩氏がロシアのショイグ国防相(当時)を優遇し、中国特使の李鴻忠政治局委員を冷遇したのは報道写真で明らかであった。金氏がショイグ氏に熱心に説明している一方で、李氏はこれより離れて一人でパレードを見ていたのだ。
(3)「習近平は12年に政権を樹立した直後から、金正恩のことを良く思っていなかった。北朝鮮の核の暴走が北東アジアの均衡を揺るがす、と考えたのだ。北朝鮮の挑発は、米軍を中国の鼻先に呼び込む口実となる。14年に、中国の指導者として初めて、北朝鮮より先に韓国を訪問することで金正恩に警告のメッセージを送った。金正恩は15年、北京に牡丹峰楽団を派遣したが、中国の最高位クラスが観覧しないとなるや公演直前に楽団を呼び戻し、感情的ないさかいを起こした」
習氏と金氏の関係は、ウマが合わない印象である。互いに、「突っ張り」あっている感じだ。金氏には、「直系一族」という誇りがあるのだろう。
(4)「朝中は不信の歴史が深い。中国は、北朝鮮が触発した衝突に振り回されることを警戒する。6・25(韓国戦争)が代表的だ。北朝鮮によるロシア砲弾支援は「バタフライ・エフェクト」を呼びかねない、と懸念している。ウクライナ戦争の長期化で世界経済が動揺したり、朝中ロ結束の様子が韓米日軍事協力を強化させたりすることは、中国にとって不利だ」
中国にとっては、日に日に包囲網が作られている感じだろう。最近は、NATO(北大西洋条約機構)が、日韓豪NZ(ニュージーランド)と密接な関係を深めてきた。北朝鮮のロシア支援もこうした包囲網づくりへのテコになっている。
(5)「中国は、北朝鮮に「ロシアとの武器取引を自制せよ」というシグナルを送っただろう。しかし北朝鮮は、逆にロシアと軍事同盟まで復活させた。朝中同盟よりも包括的だ。金正恩は今年4月、朝中修好75周年を迎えて中国の趙楽際常務委員(序列3位)の訪朝を待っていた。09年の修好60周年のとき、温家宝首相が工場建設などプレゼントを用意して訪朝した記憶を思い出しただろう。ところが趙楽際は手ぶらだった。金正恩はプーチンの方にいっそう傾き、朝中関係はさらによじれた。反面、中国は、自分たちの「畑」である北東アジアに米国はもちろんロシアが割り込むことも嫌う」
金氏は、経済的な苦境に立っている。何でもいいから支援が欲しい心境だ。中国は、何もくれないが、ロシアはお土産を持たせてくれる。こうして、北朝鮮はロシアへ傾斜しているのだろう。中国は、この余波を受けているという不満が重なっている。中ロ朝の関係は、決して盤石なものでない。