先の米中国防相会談で、中国国防相は「必ず台湾を統一する」と主張した。米国防相によると、極めて暴力的・威嚇的な発言だったとされる。中国が、力尽くでも台湾を併合するという意思表示の裏には、台湾の半導体工場を奪取する目的であることが明らかになった。中国指導部に通じる中国人学者の発言による。
『朝鮮日報』(6月13日付)は、「中国が台湾を統一しようとする真の理由」と題するコラムを掲載した。筆者は、チェ・ユシク東北アジア研究所長である。
静かだった台湾海峡が再び揺れています。中国がバイデン米大統領の韓日歴訪に合わせ、台湾海峡と西太平洋で遼空母「遼寧」戦団の戦闘機発着艦訓練をすると、台湾は空母戦団を狙ったミサイル実弾射撃訓練で対応しました。ダックワース米上院議員が台湾を訪問した5月30日には、台湾の防空識別圏に30機の中国軍機が飛来しました。ウクライナ戦争が小康状態に入ったことで、台湾海峡を巡る米中競争が再び火がつきそうな雰囲気です。
(1)「こうした中、中国国内のシンクタンク会議で台湾に対する中国の本音を示す発言が飛び出しました。政府系シンクタンクである中国国際経済交流センターのチーフエコノミストである陳文玲氏が、「必ず台湾を取り戻し、本来中国企業であるTSMCを手中に収めなければならない」と語ったのです。中国は台湾侵攻の名分として祖国統一を掲げてきました。私たちが南北統一を語るのと似た意味合いです。習近平主席は「台湾問題を解決し、祖国を完全に統一することは変わらぬ歴史的任務」だと語ってきました。ところが「歴史的任務」という名分の裏で隠れた中国の本音をもろに明かしてしまったのです」
下線部の認識は間違っている。TSMCは、純然たる台湾資本による企業で、中国出資はゼロである。中国技術では高級半導体を製造できないから、台湾企業を奪取しようとは典型的な「帝国主義」である。
(2)「5月30日、中国人民大学重陽金融研究院の主催で開かれ、10人余りの中国の学者らが米国の包囲政策にどのように対応するかをめぐって発表と討論を行いました。発表した陳文玲氏は、「米国をはじめとする西側諸国がロシアに対して行ったように、中国に対し致命的な制裁に乗り出す可能性があるので、それに備えて自主的な産業チェーン、サプライチェーン(供給網)をしっかり固めるべきだ」とし、「特に産業チェーンとサプライチェーンを再構築する意味で台湾を取り戻し、TSMCを必ず手中に収めなければならない」と発言しました」
中国が、台湾侵攻に踏み切れば米国は経済制裁する。これは、ロシアのウクライナ侵攻によっても明らかだ。米国の経済制裁を受ける前にTSMCを手に入れるとは、電光石火の攻撃によって台湾を降伏させなければならない。この夢のような話は不可能だ。よって、無傷で台湾を征服する構想は、非現実的である。
(3)「同氏はまた、「TSMCが米国移転を急ぎ、米国に6つの工場を建てるというが、そうした目標が実現することを必ず防がなければならない」とも主張しました。中国にとって台湾統一は政治的冒険です。もし失敗すれば共産党政権が崩壊することもあるでしょう。そのような代価を払ってでも台湾を手に入れようとする重要な理由の一つは台湾のテクノロジー企業の確保です」
中国が、TSMCの米国工場建設を阻止することも不可能である。中国は、半導体産業が未熟であることに非常な焦りを見せている。だから、実現不可能な話を並べ立てている。
(4)「TSMCは世界最大の半導体ファウンドリー(受託生産)メーカーです。中国としては米国の制裁に直面して足踏み状態にある半導体など主要分野の技術を確保し、一気に強国に飛躍することを計算しているのです。陳文玲氏は国務院(中央政府)研究室総合局長出身で、共産党最高指導部の経済関連演説原稿、首相の政府活動報告作成などを10年間務めた御用経済学者です。2010年に引退し、中国国際経済交流センターのチーフエコノミスト兼学術委員会副主任を務めています。誰よりも中国最高指導部の本音をよく知っている人物だといえます」
陳文玲氏なる人物は、中国最高指導部と深い関係を持っている。中国指導部の焦りが、陳氏の発言となっていることが分る。
(5)「実際、中国の前述のTSMCに関する意見は、米国で先に示されました。国防戦略専門家であるミズーリ大学のジェラード・マッキニー教授とコロラド大学のピーター・ハリス教授は昨年11月、米国陸軍指揮幕僚大学の季刊誌に寄稿した「壊れた巣:中国の台湾侵攻阻止」という論文で、中国が武力侵攻を試みた場合、台湾にあるTSMC生産施設を完全に破壊する焦土化戦略を採用することを主張しました。中国が高い犠牲を払ってまで台湾を武力占領する要素を、完全になくしてしまおうという意図です」
米国では、中国が台湾を侵攻する際に半導体工場を中国へ渡さないように、すべて破壊する案が取り上げられている。中国の侵攻目的が、半導体設備奪取にあるとすれば、台湾で事前に破棄するのは軍事的にもあり得ることだ。戦場で、橋や道路を破壊して敵の進軍を食止める作戦と同じである。
(6)「中国の政策決定権者がまさかという思考をできなくするため、米国と台湾当局が協議し、侵攻開始と同時に自動的に生産施設を破壊するシステムを構築すべきだという話も出ました。台湾にいる半導体技術者を安全な場所に避難させなければならないという提案もありました。陳文玲氏の発言はそうした米国の戦略家の提案に焦った中国政府の内心を物語っています」
米国では、中国の侵攻と同時に生産施設を破壊するシステムを構築すべき、という意見もでている。こういう対応を見ると、中国の台湾侵攻は極めて高いコストになるであろう。失敗すれば、習近平氏の退陣に繋がる問題だ。