「セブン-イレブン」を展開しているセブン&アイ・ホールディングスに対し、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールが仕掛けた約6兆7700億円での買収提案は、ク社の提案撤回で突然の幕切れになった。真相は、セブンがク社へ逆出資を求める提案したことにある。ク社は、セブンに乗っ取られることに警戒したのであろう。セブンの逆襲が成功した形だ。
『ブルームバーグ』(7月17日付)は、「世界のコンビニ好きに朗報、セブンは攻勢の時」と題するコラムを掲載した。
コンビニファンが懸念していたのは、外国企業が株主価値の向上を追求するあまり、日本のコンビニ文化という世界的に高く評価されている顧客体験を壊してしまうのではないかということだった。
(1)「クシュタールは日本時間17日朝、「誠実で建設的な協議」ができなかったため買収案を撤回したとする異例なほど手厳しい詳細な書簡を発表。その文面からは、当初から感じられた特権意識がにじみ出ている。あたかも棚から商品を手に取るように日本のライバル企業を買収できるとでも考えていたかのようだ。もっと準備が必要だったはずだ。セブン-イレブンは米国発祥だが、日本で最も愛されているブランドの一つであり、災害時のインフラとしても重要な役割を担っている」
クシュタールの買収案撤回は、セブンを一方的に批判するものだった。ク社は、日本についての理解が浅かった。
(2)「クシュタールが日本の大企業を買収するには準備不足だったことは、以下のようなコメントからも明らかだ。会議は、貴社のアドバイザーが表現したように、準備されたものを「読み上げた」だけのものでした。セブンイレブンチームの一部のメンバーの方には建設的に対応いただき、感謝いたしましたが、最終的に、この会議においては新たな情報をほとんど得ることはできませんでした。東京での会議も同様でした。会議は予定されていた時間の約半分の時間で閉会となり、台本を読み上げただけのものでした」
セブンは、最初から乗り気でない合併話である。余計な情報を与えるはずがない。
(3)「日本に多少なりともなじみがあれば、「読み上げ」に終始し、新たな情報が得られにくい、形式ばったミーティングがこの国では決して珍しくないと知っているはずだ。良くも悪くも、それが日本だ。そうしたことを理解せず、最初からつまずいたクシュタールが、セブン&アイが利益の半分以上を今なお国内で稼ぐ中で、セブン-イレブンの良き運営会社となれたとは思えない」
合併に消極的である以上、セブンが形式ばったミーティングをするのは当然である。ク社が、そのガードを崩して質問すべきだったのだ。ク社の準備不足である。
(4)「今回の買収頓挫について、日本のコーポレートガバナンス(企業統治)改革が後退したとか、失望を招くとか、過去への逆戻りといった論調が数多く出てくるだろう。だが、それらは無視して問題ない。改革は着実に進んでおり、日本の企業社会はこれまで以上に開かれている。政府の介入や「系列」による囲い込みがあったわけではない。ただ単に、良くない買収案だったというだけで、セブン&アイが断ったのではなく、クシュタールが一方的に手を引いたのだ」
報道では、次にク社が強制的買収へ踏み切るのではないかという憶測も流れている。今回、一方的に話合いを打ち切ったのはク社だ。理屈が合わない話である。
(5)「興味深いことに、セブン&アイが北米事業運営会社への出資を受け入れる代わりに、クシュタールへの出資を求めたことも明らかになった。クシュタールはこの対案を「統合事業の運営の見通しを損なう」として退けた。つまり、われわれはあなたを買えるが、あなたはわれわれを買えないというロジックだ。果たして、囲い込みをしていたのはどちらなのか」
セブンは、クシュタールへの出資を求めたことがク社撤退の理由だ。ク社が、セブンに買われるリスクを察知したのだ。
(6)「正式提案に至らなかった1株当たり2600円という買収提示額は、買収交渉の報道が最初に出た数カ月前の株価に対してわずか17%の上乗せに過ぎなかった。買収規模はクシュタールの時価総額に匹敵する水準で、膨大な借り入れが必要となる案件だった。また、日本の独占禁止法当局もしくは米国の反トラスト法当局によって却下される可能性も常にあった」
今回の合併協議は、外為法の基準に抵触する恐れが十分あった。セブンが、金融機能や自治体業務の一端を担っていることだ。ク社は、この方面の調査もしていなかった。
(7)「セブン&アイのより冷静な対応からは、同社がすでに次のステップを見据えていることがうかがえる。今年5月に社長に就任したスティーブン・デイカス氏は、日本人の母を持つ。父親が米セブン-レブン加盟店のオーナーで、10代の頃に父のコンビニを手伝っていたという経歴の持ち主だ。業界への理解は深い。デイカス氏は今、一息ついている場合ではない。フランチャイズ店のオーナーのように攻勢に出るべき時だ。セブン&アイは、クシュタールが買収に動いた背景にある株価低迷や資本効率の悪さという課題に真正面から取り組まなければならない」
セブンは、ク社が買収提案を放棄したものの、課題は未解決である。高収益企業への体質転換が急がれる。





