習近平氏は一時、欧州接近で成果を上げたように見えたが、ほとんど水泡に帰した。イタリアは、G7の中で唯一、中国の「一帯一路」プロジェクトに調印したものの、実効を挙げないまま終幕になりそうだ。イタリア・ドラギ政権は、静かに中国から離れる戦術に転換した。

 

中国は、これまでドイツのメルケル首相を頼みにしてきた。だが、ドイツ国内は次期総選挙で、反中国の「緑の党」が支持率を高めている。ドイツ政権としては、中国へ厳しい姿勢を見せなければならない立場だ。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(6月6日付)は、「イタリアのドラギ政権、親中路線からの転換進める」と題する記事を掲載した。

 

今年初め、中国企業による従業員50人ほどの無名のイタリア企業の買収が阻止された。これは、欧州での中国の外交的成功の後退を示している。

 

(1)「当時、ポピュリストが連立政権を率いていたイタリアが2019年、主要7カ国(G7)では初めて中国の広域経済構想「一帯一路」に参加する覚書を結び、米国や欧州の同盟国に衝撃を与えた。それから2年がたち、新たに就任したドラギ首相は中国との親密な関係を象徴的に終わらせ、西欧での足がかりをおさえ込もうとする法令を静かに定めた。米国からかなりの圧力を受けたイタリアの前政権も、中国からの投資に対する熱意を失いつつあった。それでもドラギ氏の行動は、自らが「イタリアの歴史的なつながりに合致する親欧州・大西洋主義」と呼ぶ外交政策への決定的な路線変更だった」

 

中国の強引な香港取り込みが、欧州に大きな警戒感をもたらした。さらに新疆ウイグル族弾圧も重なって、もはや中国を擁護しようという有力国が欧州に見られなくなった。習氏のまいた一帯一路の種は、習氏自身が踏み潰す結果になった。イタリアもこうした情勢を受けて、中国離脱を進めている。

 


(2)「イタリア経済発展省次官として「一帯一路」への参加を主導した1人であるミケーレ・ジェラーチ氏は、「イタリアが米国と協調しているように見せるためには、時に態度で示す必要がある」と述べた。さらに同氏は、法令は「我々が略奪的な企業買収を懸念しており、米国と足並みをそろえていることを示す政治的声明でもある」と付け加えた。厳密にいえばイタリアは今でも「一帯一路」に参加しているが有名無実化しており、中国との間で大規模な経済合意は成立していない。

 

同じ価値観で結ばれている欧米は、最終的に中国の付け入る余地のないことを示した。血は水よりも濃し、である。中国は、こういう歴史的なつながりを無視してきたが、土壇場で「血縁」のつながりを見せつけられた。

 

(3)「伊中両国関係の冷え込みはドラギ氏が就任する2カ月前の20年12月に始まった。中国政府が一部保有する深圳市投資控股有限公司がミラノの半導体製造装置メーカー、LPEの株式の70%を取得することで合意した。ドラギ政権発足後の21年3月、通常の手続きとして合意への許可申請がジョルジェッティ経済発展相のもとに届いた。同氏は、外国企業による買収を阻止するゴールデン・パワー法の適用を提案した。3月31日の閣議でドラギ氏は半導体が不足しており、LPEが「戦略的重要分野」に属するとして同社の買収を阻止する法令に署名した」

 

タリア外交官は、ドラギ氏の決定は同国にとり分水嶺となったが、EUにとっても同じ意味をもつ可能性があると指摘する。欧州の戦略的企業を中国の手に渡さないというコンセンサスができている。中国に対して門戸を閉じたのだ。

 

(4)「ほんの数年前までイタリアの政治家は、中国マネーが停滞する経済を助けていると熱狂していた。米調査会社ロジウム・グループによると、2000年から19年にイタリアが中国から受け入れた投資額は159億ユーロ(約2兆1000億円)と欧州で3番目に多かった。最も多かったのは英国で500億ユーロ、次いでドイツの227億ユーロだった。4位はフランスの144億ユーロだった」

 

金の切れ目が縁の切れ目になった。中国の国際収支における経常黒字は、漸減傾向を強めている。海外への投資余力は減っているのだ。最早、過去のような対外投資余力はない。

 

(5)「イタリア中道左派の民主党議員で議会の外交委員会メンバーのリア・クアルタペッレ氏は、中国への軸足のシフトはイタリア外交政策からの逸脱であり、欧州の中心部に「戦略地政学上の傷口」を開けたと指摘した。しかし今は「ドラギ氏の手腕で西洋的価値観を再強化できるだけでなく、パンデミック収束後の経済回復のエンジンにもなれる」と同氏は強調する。さらにドイツは今年、フランスは来年に控える選挙に注力しているため、ドラギ氏の確固たる大西洋主義がEU全体の対中政策に影響を与える可能性がある」

 

ドラギ首相が、逸脱したイタリア外交を西洋的価値観の元に引き戻したと見られている。中国の赤い爪が欧州へ伸びるところだったが、危うく阻止された形である。最後は、同じ価値観で結ばれる同盟の強みを示したのだ。中国はこれを見誤った。

 

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