ドイツは、欧州経済の王者を自任してきたが、高電力料金で海外企業はドイツへの直接投資を敬遠してフランスへ流れている。フランスは、言わずと知れた原子力発電国である。低電力料金を「売り」にして対内直接投資では、ドイツのお株を奪っている。「工業国ドイツ」は危機感を強めているが、対抗策はゼロだ。ドイツ企業自体が、「脱ドイツ」を急いでいるほどである。
『ロイター』(5月25日付)は、「企業投資はドイツからフランスへ、マクロン氏の改革が成果」と題する記事を掲載した。
ドイツの電子部品メーカー、ハーガー・グループは事業拡大に向けた新工場の建設場所を国内とフランスのどちらにするか迷った結果、フランスを選択した。グループ会長のダニエル・ハーガー氏はロイターに、フランスの法人税軽減措置や、工場立地探しに対する地元当局の支援、さらに企業にとって悪名高い同国の厳格な労働規制を柔軟に運用できる余地ができたことなどが、決め手になったと明かす。
(1)「これはまさに、マクロン大統領が就任から7年かけて打ち出してきた企業寄りの改革が、ユーロ圏の経済規模ビッグ2であるフランスとドイツの経済的な力関係を変えたことを物語っている。もはやフランスの高い税率や、ドイツの週40時間よりも少ない週35時間の労働制に外国投資家が不満を唱えていた時代は遠い昔となり、フランスへの外国からの直接投資は記録的な水準に達しつつある。ハーガー氏は「マクロン氏が大統領に就任して以来、企業にとって事業環境ははっきりと改善し、歓迎されている」と語った」
フランスは、マクロン氏が大統領へ就任以来7年間、取組んできた企業寄り改革が実を結び、海外からの直接投資は記録的な増加率になっている。
(2)「ドイツの雇用の55%を占め、家族経営型が多い中堅・中小企業の典型と言えるハーガー・グループは、引き続き国内にも投資しているが、結局フランス東部のアルザス地方に1億2000万ユーロ(1億3000万ドル)を新たに振り向けることになった。26日にフランス大統領として2000年以降で初めてベルリンを公式訪問するマクロン氏は、前任者たちのように外資誘致競争で置き去りにされることをあまり心配せずに済む。2000年当時、フランスは週35時間労働制を導入したばかりで多くの外国投資家にそっぽを向かれていた一方、ドイツは労働改革を強化し、06年から10年間にわたる力強い輸出拡大基調の土台を築いた」
ドイツは、フランスが週35時間労働制を導入した結果、2006年から10年間にわたりドイツの優位性が目立ち輸出拡大基調の基礎を築いた。フランスの「敵失」に救われた形だ。
(3)「近年、そのドイツの経済成長モデルには疑念が生じている。中国向け輸出や安価なロシア産天然ガスに依存し過ぎた上に、インフラの老朽化や電力価格の高騰、緊縮財政などが重くのしかかっているからだ。対照的にフランスは、原子力エネルギーを長期的に推進してきた経緯もあり、外国のハイテク企業からの投資も増えている。例えばマイクロソフトは、膨大な電力を消費するデータセンターを同国に建設する」
今やドイツに逆風が吹いている。原発抑制とロシア産天然ガスに依存しすぎた結果、エネルギーコストが高騰している。ドイツは、インフラの老朽化や憲法上の規定による緊縮財政も重なり、欧州の病人とまで言われる事態だ。フランスとは、立場が入れ替わった。
(4)「コンサルティング会社EYの年間調査によると、ドイツが勢いを失い、英国も欧州連合(EU)離脱による逆風が依然尾を引いている中で、フランスは2019年から欧州で外国からの直接投資が最も多くなっている。マクロン氏が企業投資誘致のためにベルサイユ宮殿で毎年開催している会議では今年、過去最高となる150億ユーロ相当の投資の約束を獲得。また同氏は法人所得税率を25%に引き下げることなどで、企業の年間の税負担を250億ユーロ圧縮したほか、他の事業関連税を軽減したり撤廃したりしている。
ドイツ貿易・振興機関によると、同国の平均的な法人税率は30%弱だ」
ドイツへ集中した対内直接投資は、2019年からフランスへ流れが変わった。フランスの改革が軌道に乗ったからだ。
(5)「フランスは企業寄り政策が実を結び、マクロン氏が初当選した17年以降の経済成長率はドイツの2倍以上に達していることが、ロイターの計算で分かる。フランスの雇用数も過去最高水準だ。EYの調査によると、外資が創出した雇用数は昨年4%増加した。ただ外国投資家の人気を集めているこうしたマクロン氏の改革は、しばしば有権者の感情を逆なでし、同氏の支持率は低迷している。フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままだ。ハーガー氏は、外国投資がフランスに大きく流入しているとしても、同国の工業セクターがドイツに追いつくまでの道のりはなお非常に長い、と話している」
マクロン氏が、フランス大統領に就任以来のGDP成長率は、ドイツの2倍になっている。だが、国内の評判はよろしくなく世論との紛争が絶えない。フランス経済には、生産性の伸び悩みから過大に膨らんだ財政赤字まで、さまざまな問題も残されたままである。フランスが、ドイツの工業部門の水準へ到達するのはまだ先の話だ。