中国は、国際金融都市・香港を中国化したが、その代償は余りにも大きかった。金融・保険の西側企業が香港を撤退しているのだ。徹底したゼロコロナが、香港の国際金融都市の機能を麻痺させており、23年3月まで都市封鎖が続くという悲観的見方が出て来た。
香港の国際金融都市の機能が低下すれば、中国にとっても「由々しき」ことだ。西側への貴重な窓口である香港が地盤沈下すれば、経済的な損失を被るはず。だが、ゼロコロナの原則は崩せずジレンマに立たされている。
『日本経済新聞 電子版』(1月22日付)は、「香港、孤立する金融センター」と題する記事を掲載した。
「アジアの全主要都市に4時間足らずでアクセスできる」「5時間以内のフライトで世界人口の半分にアクセスすることが可能」。政府系機関、インベスト香港がホームページでうたう香港の強みは、新型コロナウイルスで消えた。
(1)「中国本土に隣接する香港は、「コネクテッドシティ」や「ネットワーク都市」と呼ばれ、世界各地とのつながりを売りにしてきた。香港を拠点にアジアを飛び回るビジネスパーソンも多かった。ある投資会社幹部は「コロナ前は出張続きで、もう飛行機に乗りたくないと思ったが、ここ2年ほど香港から出ていない」と苦笑する。香港は感染を完全に封じ込める「ゼロコロナ」政策を採り、入境後に政府施設やホテルで最長21日間の隔離を義務付ける。変異型「オミクロン型」の流行を受けて米国や英国、オーストラリアなどからは旅客機の乗り入れを禁止した。感染者数の抑制など成果があがっているものの、世界から孤立を深めつつある」
国際ビジネスマンが、最長21日間もゼロコロナで隔離を義務付けられるのは「死の宣告」に等しいであろう。すでに、「香港国家安全維持法」(2021年6月)が制定されて以来、多数の西側企業撤退が行なわれている。
香港政府が、年に1度実施している「境外企業」の数は21年9049社で、前年版に比べて24社増えている。だが、日系企業は10社、米系企業は16社それぞれ減った。日本、米国、英国、オーストラリア、カナダの5カ国合計で174社も減ったのだ。全体の業種別傾向をみると、直近2年では貿易・小売りや運輸・倉庫が増える一方、銀行や保険、出版・メディアなどの減少が目立つ。香港における目玉業種である銀行や保険の減少は、香港がローカル化の進行と見られる。
(2)「ここまで厳しい措置を採るのは、何より中国本土との往来再開を優先するためだ。香港を拠点に日常的に本土と行き来していた企業関係者は多く「中国に行けないのなら香港にいる意味がない」との声も漏れる。往来再開には中国式のゼロコロナを受け入れるしかない。ただ、中国本土でも感染が広がり、肝心の往来規制緩和のメドは立たない。バンク・オブ・アメリカは2022年の香港の成長率見通しを2.4%から2.2%に引き下げた」
香港は、中国本土の「出島」化が進行すれば、香港の経済的な価値は下がってゆくだろう。それは、中国にとっても損失のはず。その当たりの総合的な計算ができないにちがいない。
(3)「欧米金融機関からはコロナ対策が厳しすぎるとの悲鳴が相次ぐ。辞令が出ても香港に赴任できず、クリスマス休暇で米英に一時帰国した駐在員の多くも戻れないという。格付け会社フィッチ・レーティングスは、厳しい規制が香港に地域本部を置くグローバル企業の撤退につながりかねないと警告する。香港のライバル、シンガポールは「ウィズコロナ」の方針を明確にし、世界との往来再開を急ぐ。各地とのつながりや人材をひき付ける魅力こそが経済都市としての競争力の源泉だからだ」
香港のライバル都市になったシンガポールは、「ウィズコロナ」でビジネス重視である。香港は、「ゼロコロナ」で都市封鎖への道を進んでいる。対照的な二都市の動きである。
(4)「エコノミストの間では感染力の強いオミクロン型の出現によってゼロコロナ政策のコストが利点を上回ったとの分析が相次ぐ。一方、野村国際の陸挺・中国首席エコノミストは今秋の共産党大会などの政治日程を踏まえ「中国は23年3月までゼロコロナ政策を続ける可能性が高まっている」とみる。中国当局の影響力が強まる香港がすぐにゼロコロナ政策を変えるのは難しいだろう。これが「一国二制度」のうち「一国」重視を鮮明にする香港の現実でもある。香港の孤立が続くとすれば、アジアの金融センターの勢力図にも影響を及ぼす」
「ゼロコロナ」によって、自然免疫は極度に低下している。コロナの真空地帯だけに、今さら「オープン」にできないというジレンマに立たされている。「毒を食らわば皿まで」という悲愴な事態だ。地球上から新型コロナウイルスが消えるまで(現実は不可能)、コロナを遮断せざるを得まい。習氏のボタンの掛け違いが生んだ悲劇である。