勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: アフガニスタン

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    武装したタリバン戦闘員は、カブールを支配下に置いているものの、未だアフガン全土を掌握していない。北東部パンジシール州では、地域武装勢力や旧政府軍のメンバーが、旧アフガン国防相の息子アフマド・マスード氏の指揮下でタリバンへの抵抗を続けている。

     

    タリバン幹部は、反対派勢力に武器を捨てて交渉するよう呼び掛け、「アフガニスタン・イスラム首長国は全てのアフガン人の国だ」と強調しているほど。アフガン情勢は緊迫化している。

     

    『ロイター』(9月5日付)は、「タリバン、北東部で抵抗勢力と戦闘 米軍幹部は『内戦』警告」と題する記事を掲載した。

     

    アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは4日、唯一制圧していない北東部パンジシール州を支配下におさめようと抵抗勢力と衝突した。米軍制服組トップは、タリバンが権力基盤を固めることができなければ「内戦」に陥る恐れがあると警告した。

     


    (1)「タリバンと抵抗勢力は、ともにパンジシール州を掌握したと主張しているが、いずれも確かな証拠は示していない。タリバンは1996~2001年にアフガンを統治した際、首都カブールの北にあるパンジシール渓谷を支配できなかった。タリバンの報道官は、パンジシール州の7地域のうち4地域を制圧したと主張。ツイッターで、タリバン兵士が州中心部に向けて進軍していると述べた」

     

    パンジシール州は、タリバン当時時代も首都カブールの北にあるパンジシール渓谷を支配できなかった。国民的英雄である、故マスード司令官の影響力が依然として大きい地域である。故マスード司令官は、記者を装った者による自爆テロで犠牲になった。それだけに、タリバンへの復讐心に燃えている。

     


    (2)「国民的英雄マスード司令官の息子で、同地域を率いるアフマド・マスード氏に忠実なアフガニスタン民族抵抗戦線(NRFA)は、「数千人のテロリスト」を包囲し、タリバンが車両や機材を放棄したと主張。マスード氏はフェイスブックへの投稿で、パンジシール州は「強い抵抗を続けている」と強調した」

     

    マスード司令官の息子であるアフマド・マスード氏は、タリバンと断固、戦うと宣言している。政府軍の残党も加わっており、タリバンにとっては手強い相手である。

     

    (3)「米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、FOXニュースで「内戦に発展する可能性が高い状況というのが私の軍事的な見立てだ。タリバンが権力基盤を固め、統治を確立できるか分からない」と述べた。その上で、タリバンが統治を確立できなければ、今後3年で「アルカイダの復活やイスラム国(IS)もしくは他のさまざまなテロ集団の拡大につながる」との見方を示した。こうした中、パキスタンの軍情報機関、3軍統合情報局(ISI)のハミード長官が4日、カブール入りした。目的は明らかになっていないが、パキスタン政府高官は数日前に、タリバンによるアフガン軍再編成をハミード氏が支援する可能性があると述べていた」

     

    米軍のミリー統合参謀本部議長は、アフガンの内戦危機を口にするほど状況が悪化している。中国の王毅外相は、米国がアフガンを管理しろと見当違いの発言をするほど困惑している。中国の思惑を超えて状況が悪化しているのであろう。パキスタンの軍情報機関トップが、急いでアフガン・カブール入りした。タリバンへのテコ入れである。

     

    (4)「現地メディアのトロ・ニュースによると、首都カブールでは、十数人の女性がタリバンに女性の権利尊重を求める抗議デモを行ったが、タリバンはこれを排除した。女性らが口を覆い、咳をしながら武装した兵士と衝突するのが映像で確認できる。デモ参加者の1人は、タリバンが催涙ガスやテーザー銃を使用したと語った。タリバンが女性らの頭を弾倉で殴り、出血したと話す参加者もいた」

     

    首都カブールでは、十数人の女性がタリバンに女性の権利尊重を求める抗議デモを行った。タリバンが軍事制圧を控えたのは、アフガン全土の制圧に成功していないので、敢えて敵を作らないという譲歩であろう。

     


    (5)「タリバン関係筋は、新政権の発表が5日からの週に先送りされるとの見方を示した。タリバン共同創設者のバラダル師は中東のテレビ局アルジャジーラで、新政権はアフガンのあらゆる勢力によって構成されると述べた。複数のタリバン関係者はこれまでに、バラダル師が新政権を率いるとの見方を示している。アルジャジーラによると、カタールの駐アフガン大使は、技術チームによりカブールの空港が再開され、支援物資などの受け取りが可能になったと明らかにした。アルジャジーラの記者は、アフガンの国内線運航も再開されたとしている。国連は、人道危機の回避に向けてアフガン支援拡大を呼び掛ける国際会合を13日に開く」

     

    5日に、アフガン新政権が成立する見込みだったが先送りされた。タリバンだけの勢力による政権樹立を諦めたもの。タリバンの弱みは、米軍を追出したものでなく米軍の「自主撤退」であることだ。タリバン勝利という側面が弱いのである。「棚ぼた」式の支配権復活である。

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    中国は、アフガンに対して経済的に言えば、地下資源へ大きな魅力を感じている。だが、政治的な影響が新疆ウイグル自治区に及ぶことを極度に警戒するという複雑な関係にある。新疆ウイグル自治区では、100万人もの人々を強制収容所に入れて、「思想改造中」とされている。タリバンが、中国によるウイグル族から信仰を奪う大胆な振る舞いを、最終的に認めることはないだろうとも予想される。

     

    こうしたアフガンには、インドやパキスタンも大きな利害関係を持っている。インドは、パキスタンや中国と対立しているだけに、アフガンをめぐる関係国の構図は複雑である。中国の勝手に描く「アフガン未来図」では、事態が進まないだろうと見られるのだ。

     


    『ロイター』(8月25日付)は、「アフガン巡る三つ巴戦略ゲーム、中国とパキスタンとインド」と題する記事を掲載した。事態は複雑であるので、コメントはつけない。

     

    アフガニスタンはアジア内陸部に位置する地政学上の要衝で、19世紀には英国とロシアが勢力争いを繰り広げ、20世紀は米ソ角逐の舞台になった。そしてイスラム主義組織タリバンが政権を掌握した今、新たな大国際戦略ゲームの主導権を握ったのはパキスタンだ。そのパキスタンと友好関係にある中国も、この地域で足場を固める機会を虎視眈々(たんたん)と狙っている。

     

    アフガニスタンはアジア内陸部に位置する地政学上の要衝で、19世紀には英国とロシアが勢力争いを繰り広げ、20世紀は米ソ角逐の舞台になった。そしてイスラム主義組織タリバンが政権を掌握した今、新たな大国際戦略ゲームの主導権を握ったのはパキスタンだ。そのパキスタンと友好関係にある中国も、この地域で足場を固める機会を虎視眈々(たんたん)と狙っている。

     

    パキスタンとタリバンの結びつきは深い。パキスタン政府は、米国が支援するアフガニスタンの民主政権に抵抗するタリバンを支援している、と批判を浴び続けたが、これを表向き否定してきた。しかし先週、タリバンが首都カブールを制圧するとパキスタンのイムラン・カーン首相は、アフガンの人々が「奴隷の鎖」を断ち切ったと称賛。タリバンが政体を決めるための協議を続ける中で、複数のメディアがこの話し合いに何人かのパキスタン当局者が関与していると報じた。

     

    このゲームにはもう1つ、インドというプレーヤーが存在する。パキスタンと歴史的な敵対関係があり、中国とも1年余りにわたる国境紛争を抱えるインドは、崩壊したアフガンの民主政権の重要な支え手だっただけに、タリバンが支配するアフガンでパキスタンと中国が影響力を強める事態に不安を高めつつある。

     

    もっとも中国側の言い分では、タリバンに近づく主な狙いは、反中国を掲げてアフガン内に避難場所を求める恐れがある東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)から、新疆ウイグル自治区を守ることだ。四川大学で南アジア問題を研究するチャン・リ教授は「パキスタンはインドに対抗する手段としてアフガンの利用を考えているかもしれない。だが中国にとってそれは必ずしも当てはまらない。中国の主要な関心は、タリバンが包括的で穏健な政治体制を構築してテロが新疆と地域全体に広がらないことだ」と述べた。

     


    インドのセンター・フォー・ポリシー・リサーチのブラフマ・チェラニー教授(戦略論)は、中国はタリバンがアフガンを統治する上で必要とする2つの要素、つまり外交的な承認と、のどから手が出るほどほしいインフラ整備・経済支援を「えさ」としてぶら下げていると指摘。「機を見るに敏な中国がこの新たな突破口を手掛かりに、豊富な鉱物資源を有するアフガンに戦略的な浸透を図り、パキスタン、イラン、中央アジア諸国にも深く食い込もうとするのは間違いない」と話した。

     

    ニューヨークのイサカカレッジで教鞭を執る政治評論家のラザ・アフマド・ルミ氏は、アフガンの政変に失望するインドの姿に、パキスタン国内では快哉の声が満ちあふれていると話す。インドとパキスタンは1947年の分離独立以来、3回の戦争を経験。「ソーシャルメディアやテレビ画面で大喜びするパキスタン人の様子が伝えられているのは、(アフガンに対する)インドの影響力喪失とつながっている面が大きい。なぜなら従来の政治サークルは(アフガン元大統領の)ガニ氏とインドの緊密な関係を脅威とみなしていたからだ」とルミ氏は説明する。

     


    インドの元アフガン駐在大使ジャヤント・プラサド氏は「わが国の現在の立場は、現実に適応するというものだ。われわれはアフガンで長期間のゲームに参加しなければならない。(アフガンと)直接国境は接していないが、この地に利害関係がある」と強調した。複数のインドの外交筋によると、過去1年間でタリバンがアフガンの有力な政治勢力として復活し、ドーハで米国を仲介者とする協議が始まるとともに、インドの外交当局もタリバンとの接触に乗り出したという。

     

    外交筋の1人は「われわれはすべての関係先と協議している」と述べたが、協議の詳細には触れなかった。インド国内では、米国さえタリバンと交渉を始めた段階でなおもインドがガニ政権に全面的に肩入れし、足を洗うのが遅れたとの批判が出ている。

     

    それでも、中国への過度の依存を避けようとしているタリバンにとって、インドは経済的な関係を築く魅力的なプレーヤーになり得る、とこの関係筋は分析する。インドはアフガン34州の全てに開発プロジェクトを保有しており、そこには同国がカブールに建設した国会議事堂も入っている。

     


    元ロイター記者のミラ・マクドナルド氏は、タリバンの政権掌握はインドにとって一歩後退だが、決して「ゲームオーバー」ではないと強調。「これは過去の再現にはならない。2001年9月11日の米同時多発攻撃の以前に比べれば、誰もがアフガンにおけるイスラム過激派を野放しにすることにずっと慎重になるだろう。さらに、相対的に考えれば今のインドはパキスタンより経済力ははるかに強い」と、インドが持つ優位性を描写する。タリバン幹部の1人はロイターに、貧困化しているアフガンに必要なのは米国、ロシアと並び、イランを含むこの地域の諸国からの支援だと語った。

     

    以上の記事にコメントをつけない。結論は、中国一国でアフガンを動かす力がないということである。このことを強調したい。

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    国際世論では、米国の撤退に当っての不手際が議論されている。アフガンを整然と撤退できなかったことはミスとしても、これからアフガンの「お守り」をさせられる中国には、どれだけコストを払うのか分からない不気味さがつきまとっている。

     

    「米国が支援してきたアフガニスタンの民主政権崩壊は、中国の指導体制にとって歴史的な重大局面だ。習近平国家主席はずっと前から、アジアの安全保障はアジア人に任せるべきだと主張してきた。そこで今、中国が迫られているのは、アフガニスタンの経済的な安定を後押ししながら、近隣への投資を守ることができると証明することだ。習氏は数多くの大きな課題を抱えたと言える」。『ロイター』(8月16日付コラム「米国が手を引くアフガン、中国に課せられた重い『使命』」と題するコラムでこう述べている。その通りであろう。

     


    『大紀元』(8月21日付)は、「
    アフガンが再び過激派の『聖域』に、国際社会に警戒感」と題する記事を掲載した。

     

    イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンの政権を掌握したことで、アフガンが再び過激派らの「聖域」になるのではないか――。国際社会にはこうした警戒感が広がっている。

     

    (1)「タリバンは、アフガンを決して他国攻撃の基地として利用させないと表明した。しかし専門家は、2001年9月11日の米同時多発攻撃を実行したアルカイダや、アフガンの隣国パキスタンなどで活動する幾つかの過激派組織とタリバンは今なお関係を持っていると指摘する。例えばタリバン指導者の1人で最強硬派グループ「ハッカーニ・ネットワーク」を率いるセラージュッディン・ハッカーニ氏は、米政府から国際テロリストに指定されたほど」

     

    タリバンは、決して他の過激組織と無縁の独立した存在ではない。他の過激派組織と結びついていることが明らかにされている。この点が、中国にとっては厄介なことになってきた。

     


    (2)「スタンフォード大学国際安全保障協力センターで南アジアの安全保障問題を研究するアスファンディア・ミール氏は、「ジハード主義者たちはタリバンの復権を大喜びし、感激している。南アジアから中東、アフリカに至る主要な過激派組織はこの事態を認識し、アルカイダ勢力はタリバン復権を自らの勝利と見なしている」と述べた」

     

    アフガンがタリバンの手に墜ちたことは、他の過激派を喜ばしている。近代官僚制があるわけでないから、アフガン国内の混乱が予想されるのだ。

     

    (3)「アルカイダのほかにも、ソマリアのアル・シャバーブ、パレスチナ自治区のハマス、パレスチナ・イスラミック・ジハード(PIJ)といった組織がタリバンに対して祝意を伝えてきた。また米国など西側諸国と敵対しているイエメンの反政府武装勢力フーシ派は、アフガン情勢は外国による「占領」が必ず失敗に終わると証明したと強調している。アフガンのタリバンとは別組織のパキスタン・タリバン運動(TPP)もタリバンとの連携に動くとともに、アフガン国内に収監されていた何百人もの構成員がタリバンの政権掌握とともに解放されたと明らかにした

     

    アフガン・タリバンには、別組織のパキスタン・タリバンも「共闘」の構えであるだけに、「独立性」維持が極めて困難であろう。テロ組織同志の抗争は避けたいだろうから、最終的には一致して動く恐れが強まるに違いない。そうなると、中国にとっては厄介な荷物を背負うことになる。新疆ウイグル族への「連帯闘争」が、始まってもおかしくないからだ。

     


    (4)「国連安全保障理事会に7月、専門家が提出した報告書によると、アルカイダはアフガンの34州のうち少なくとも15州に拠点を築いている。過激派組織「イスラム国」(IS)も首都カブールをはじめ幾つかの州で勢力を拡大し、戦闘員を潜伏させているという。ISはタリバンと対立しているものの、どんな混乱も足場強化のために利用したり、政権樹立に伴って穏健化するタリバンから離脱するよう強硬派戦闘員をそそのかしたりする可能性がある、と一部専門家や政府当局者は警鐘を鳴らす」

     

    アフガニスタン内部には、アルカイダや「イスラム国」が拠点を築いているという。これら組織が、これからどのような動きをするのか。時限爆弾のような存在である。

     

    (5)「国連のグテレス事務総長は安保理に対して、「アフガンで国際テロの脅威を抑え込むためにあらゆる手段を駆使する」よう訴えた。安保理も、どの国も脅威を受けず、攻撃されない道を確保するにはアフガンでのテロとの戦いが重要だとしている。事情に詳しい2人の関係者は、中国からの分離独立を掲げる東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)が最近何度かタリバンと協議していることに、中国政府が神経をとがらせていると明かした。あるタリバン関係者はロイターに「中国側はわれわれに接触してくるといつもETIMの問題を持ち出す」と認めたが、中国に対してはタリバンが何らかの攻撃を許すことはないと保証したと付け加えた」

     

    中国には、新疆ウイグル族「解放」を狙っている東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の存在が最も気懸りなところだ。上から目線の中国が、これら民族闘争主義者相手にどのような扱いをするのか見ものである。少しでも見下す「戦狼外交」をやれば、一発で発火間違いなしである。

     

     

     

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    アフガニスタン崩壊問題は、米国の敗北・中ロの勝利と言った単純な議論が横行している。当の中国も当初は、「米国敗北」で嘲笑していた。だが、タリバンの手強さを次第に認識するようになっており、タリバンへの不信感も覗かせている。

     

    『中央日報』(8月19日付)は、「『米国敗走』嘲弄した中国、『タリバン信じられない』警戒論噴出」と題する記事を掲載した。

     

    中国のネットメディアの澎湃が17日に、緊急開設したアフガニスタン質疑応答コーナーにこの2日間に上げられた100件余りの中国ネットユーザーと蘭州大学アフガニスタン研究センターの朱永彪主任の対話の中で最も多くの「いいね」を獲得した対話は、次の内容だ。

     

    「タリバンはなぜ強いのですか?」
    「強くはありません。主敵(アフガニスタン政府軍・警察・軍閥・民兵)が手加減しただけです」
    「タリバンが帰ってきたらアフガニスタンの国民の大多数に祝福でしょうか。災難でしょうか」
    「祝福ではないでしょう。ほとんどが怖がり心配します。タリバンが話した通り穏健に変わるのかどうか見守らなければなりません。どの程度穏健になるのか、どれだけ長続きするかを」。



    (1)「中国政府の中央アジア政策を諮問するアフガニスタン専門家の朱教授は、タリバンを見る中国の不信を加減なく明らかにした。朱教授は中国とタリバンの外交関係樹立に否定的立場を明らかにした。彼は「多分修交しないだろう。(タリバンの)公式承認と修交は真摯な過程で一定の手続きが必要だ。短期間ではできない。その上アフガニスタン国内はしばらく混乱が続くだろう」として内戦が続くことを予想した。実際に18日の中国外交部の会見で趙立堅報道官は、タリバン承認の可否について「国際慣例はひとつの政府を承認するにはまずその政府の樹立を待つ。中国はアフガニスタンが開放的・包容的で広範な代表性を持つ政府を立てることを期待する。これはアフガニスタン国民と国際社会の普遍的期待」と答えた。正式政府の樹立まで時間が必要だという留保論だ」

     

    タリバンは、原理主義であることが中国にとって不気味である。タリバンが、中国による新疆ウイグル族への弾圧に対し異議を申し立てて闘争を始めたら、中国は泥沼に落込む。そのリスクは計り知れないのだ。米国が捨てた荷物を拾って「大損」となりかねないのである。

     


    (2)「タリバンの再登場が、中国の国家安全保障に及ぼす有形・無形の否定的影響も認めた。朱教授は「極端主義のテロ勢力が中国国境に衝撃を加える可能性は極めて小さいが、間接的に中央アジアやパキスタンなどに衝撃を加え中国に影響を及ぼす恐れがある。理念的に『3大勢力(暴力テロ勢力、民族分裂勢力、宗教極端勢力)』に及ぼす刺激効果を長期間警戒すべきだ」と警告した。中国政府の対応策に対し朱教授は、「中国はタリバンの約束を信じないだろう。国境をしっかり守ると同時に、タリバンの約束履行を見極めるべきで、他人に希望を抱いてはならない」と呼びかけた。中国は先月28日に天津で王毅外相がタリバンのナンバー2であるバラダル師と会い新疆ウイグル独立勢力の東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)との関係を断つとの確約を引き出している」

     

    朱教授は、中国がタリバンとの間に交わした約束を信じないだろうと指摘する。タリバンは、心変わりが早いからだ。中国の恐れるのは、新疆ウイグル独立勢力の東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)である。だが、タリバンの原点から言えば、ETIMとは無縁のはずがない。無縁というのは裏切り行為である。中国としては、極めて難しい選択を迫られる。

     


    (3)「朱教授は、タリバンの変化の可能性にもやはり懐疑感を示した。彼は「タリバンがこれまでは少なくとも『よりソフトに』包装したが、具体的には本当に変わったのか、単に策略にすぎないのか断言するのは容易でない。タリバンの本質は変わっていない」と主張した。朱教授はまた、アフガニスタンは「帝国の墓場」ではないと評価した。彼は個人的な考えであることを前提として上で、「『帝国の墓場』の呼称は誘引しようとするおとりにすぎない。英国、旧ソ連、米国は事実上アフガニスタンの戦略的価値を誇張した。外勢侵略がなくてもアフガニスタンは常に内乱に陥っており、歴史的にアフガニスタンの近代化改革はすべて保守勢力の妨害により失敗した」とし、中国はアフガニスタンの罠にはまってはならないと強調した

     

    アフガンは、「帝国の墓場」とされている。歴史上の帝国が、すべてアフガニスタンで失敗しているからだ。中国が、タリバンの術中にはまるかどうか。米国との争いの外に新たな外交負担が加わる。こう見ると、米国の「逃げるが勝ち」という戦法の正しさが分かるであろう。

     


    (4)「当初、カブール陥落直後に「米国の敗走」として嘲弄するムードが、中国のSNSと政府系メディアにあふれた。いまはその裏に隠れていた「タリバン警戒論」が公開的に噴出している。16日に王外相はロシアのラブロフ外相と電話で会談し、まずアフガニスタン国内で中ロの正当な利益を守り、2番目にタリバンが穏健な宗教政策を行うよう奨励し、3番目に新たに樹立するアフガニスタン政府がETIMを含む各種国際テロ勢力と決別するよう協力することで合意したと発表した。ロシアとともにアフガニスタン国内の中国とロシアの国益保障、テロ根絶を前提に支援するという条件付き圧迫戦略だ」

     

    ロシアも、アフガンでは負け組である。それだけに、前面に立つことはできない。中国へ知恵を出す程度だろうが、ロシアは中国をサポートするだろうか。中立を装う感じも強い。



    (5)「中国は国連安保理チャンネルも活用した。耿爽駐国連中国次席大使は16日に招集された安保理アフガニスタン緊急会議で、「タリバンはあらゆるテロ組織との関係を完全に断絶しなければならない。各国は国際法と安保理決議に基づきあらゆるテロとの戦争に協力し、イスラム国、アルカイダ、ETIMなどのテロ組織がアフガニスタンの混乱を利用できないよう断固として防がなければならない」と強調した」

    ETIMは最大3500人と推定されるウイグル独立推進組織だ。一部はアフガニスタンに基盤を置いている。国連と米国は米同時多発テロ翌年の2002年にETIMをテロ組織に指定したが、ワシントンは昨年ETIMをテロ組織リストから削除した。ETIMは、米中の間で微妙な役割を与えられる。ETIMが、西側諸国と協調するようになると、中国は新疆ウイグル族弾圧で「発火」リスクを負う。 

     

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    アフガニスタンの崩壊は、米情報当局の予測よりも半年早かったという。タリバンと戦う意志の弱い政府と政府軍の現状から、起るべくして起ったと言える。ガニ大統領は、夫人と側近を連れ4台の車に現金を積み込み空港へ直行したが、一部現金を放置しままウズベキスタンへ逃亡する始末である。

     

    アフガニスタン初の女性教育相のランギナ・ハミディ氏(45)は、ガニ大統領逃亡の知らせを伝え聞き、「衝撃的で信じることはできない。全面的に信頼した大統領が逃げるだろうとは思わなかった。心の一方ではまだ彼が逃亡したのは事実でないと信じたいが、もし事実ならば恥かしいことだ」と明らかにした。『中央日報』(8月17日付)が報じた。

     


    『中央日報』(8月17日付)は、「アフガン事態が韓米同盟の重要性を見せた」と題する社説を掲載した。

     

    アフガニスタン事態はアフガン政府の無能さや腐敗、政治的分裂が作った悲劇だった。アフガンで20年間精魂を込めてきた米国が手を引くようにアフガンから米軍を撤収したのは冷静な国際社会の一面を見せた。昨日、アフガンの首都カブール国際空港は阿鼻叫喚そのものだった。

     

    (1)「ベトナムの崩壊(1975年)が再現したかのようだった。2001年アフガンのタリバン政権は同時多発テロ事件を犯したアルカイダに関連して注目を集めた。また、米国主導の恒久的な自由作戦でタリバン政権を押し倒し、再建の過程に韓国も参加した。韓国の茶山・東医(タサン・トンウィ)部隊、アセナ部隊が10年以上アフガンに駐留しながら医療支援と再建を助けた。韓国は2011年から昨年までアフガン軍隊と警察力を強化するために7億2500万ドル(約792億円)を支援した」

     

    アフガン崩壊は、南ベトナム崩壊を思わせる光景を再現している。空港へ殺到する国民の姿は、阿鼻叫喚そのもの。政権の腐敗が弱い軍隊を生み出し、そのツケが国民に回されるという構図は全く同じである。

     


    (2)「アフガンからの米軍撤収は不信と失望によることだ。米国は2001年以降アフガン戦争と再建に2兆ドル以上をつぎ込んだ。米国の財政が揺れるほどだった。2014年からはアフガンに自己防衛力を持たせるためにアフガニスタン治安部隊(ANDSF)の育成に国防費(50億~60億ドル)の75%を米国が負担した。米政府はANDSFがタリバンの兵力よりはるかに優勢だと勘違いしていた。ところが、虚像だった。ANDSFの兵力は数字だけのもので、実際はほとんどないことが分かった。米国がアフガンに支援した多くの財源は再建でなく、官僚と軍幹部のポケットに入った

     

    下線部のように、米国のアフガニスタン支援は官僚と軍幹部の懐に入った。今回のガニ大統領が逃亡の際に運び出した現金は、米国支援の「ドル札」であろう。

     

    (3)「米軍が撤収してからアフガン政府軍は戦闘の意志もなかった。タリバンとまともな戦闘もできず降参した。米国がアフガンに莫大な費用を投じても撤収を決めた背景は、いくら助けても成果がない「底の抜けた瓶に水を注ぐようなこと」という事実に一歩遅れて気付いたからだ。このようなアフガンの状況は1973年ベトナムから米軍が撤収した時と似ている。当時、ベトナムの政府も腐敗し、政治的にも分裂していた

     

    アフガニスタン政府の腐敗と無能は、南ベトナム政府の腐敗と無能に通じる。こういう政治状況では、支援しても無駄である。米国が手を引いた事情がこれだ。バイデン米大統領は昨日、国を守る意思のない政府を支援できないと声明した。

     


    (4)「アフガン事態は他人事でない。まず、強い軍隊を維持するのが重要だ。最近、空軍と海軍で相次ぎ起きたセクハラ事件や警戒の失敗、韓米合同演習の縮小などをみると懸念せざるを得ない。軍隊の命とされる軍規が崩れれば、アフガンのようになる。しかも、北朝鮮は核兵器とミサイルを継続して増やしている。韓米同盟がどれくらい重要なのかも米軍が撤収したアフガンの運命から如実にあらわれた」

     

    翻って、韓国はどうか。アフガニスタンに似た部分もある。韓国軍内部の規律弛緩である。女性兵士へのセクハラ事件で最近、二人の自殺者を出している。文政権は、「主敵」から北朝鮮を外してしまい、韓国軍は防衛目的を失ってしまった。危機感が消えてしまった軍隊である。セクハラなどということに関心を向けるほど規律は緩んでいるのだ。

     

    (5)「最近、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長が直接在韓米軍の撤収を求めたではないか。韓米同盟は韓半島(朝鮮半島)の安全保障の柱だ。政府と軍はアフガン事態を他山の石にして韓米同盟の強化と強軍維持に全力を尽くしてほしい。国が分裂して安保が崩れれば、何も役に立たない。アフガンに残っている在アフガン韓国人や外交官らの安全な帰国にも全力を注いでほしい」

     

    文政権の北朝鮮への姿勢も迷走している。北朝鮮の言うままに動いているからだ。北朝鮮の放ったスパイが、文氏の大統領選挙時の有力スタッフに紛れ込んでいたほど。韓国与党の北朝鮮「盲信」も危険である。あれこれ考えると、韓国は、今回のアフガニスタン崩壊から学ぶ点が多い。ただ、歴史に学ばない韓国ゆえに、危機感が募るのであろう。

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