武装したタリバン戦闘員は、カブールを支配下に置いているものの、未だアフガン全土を掌握していない。北東部パンジシール州では、地域武装勢力や旧政府軍のメンバーが、旧アフガン国防相の息子アフマド・マスード氏の指揮下でタリバンへの抵抗を続けている。
タリバン幹部は、反対派勢力に武器を捨てて交渉するよう呼び掛け、「アフガニスタン・イスラム首長国は全てのアフガン人の国だ」と強調しているほど。アフガン情勢は緊迫化している。
『ロイター』(9月5日付)は、「タリバン、北東部で抵抗勢力と戦闘 米軍幹部は『内戦』警告」と題する記事を掲載した。
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは4日、唯一制圧していない北東部パンジシール州を支配下におさめようと抵抗勢力と衝突した。米軍制服組トップは、タリバンが権力基盤を固めることができなければ「内戦」に陥る恐れがあると警告した。
(1)「タリバンと抵抗勢力は、ともにパンジシール州を掌握したと主張しているが、いずれも確かな証拠は示していない。タリバンは1996~2001年にアフガンを統治した際、首都カブールの北にあるパンジシール渓谷を支配できなかった。タリバンの報道官は、パンジシール州の7地域のうち4地域を制圧したと主張。ツイッターで、タリバン兵士が州中心部に向けて進軍していると述べた」
パンジシール州は、タリバン当時時代も首都カブールの北にあるパンジシール渓谷を支配できなかった。国民的英雄である、故マスード司令官の影響力が依然として大きい地域である。故マスード司令官は、記者を装った者による自爆テロで犠牲になった。それだけに、タリバンへの復讐心に燃えている。
(2)「国民的英雄マスード司令官の息子で、同地域を率いるアフマド・マスード氏に忠実なアフガニスタン民族抵抗戦線(NRFA)は、「数千人のテロリスト」を包囲し、タリバンが車両や機材を放棄したと主張。マスード氏はフェイスブックへの投稿で、パンジシール州は「強い抵抗を続けている」と強調した」
マスード司令官の息子であるアフマド・マスード氏は、タリバンと断固、戦うと宣言している。政府軍の残党も加わっており、タリバンにとっては手強い相手である。
(3)「米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、FOXニュースで「内戦に発展する可能性が高い状況というのが私の軍事的な見立てだ。タリバンが権力基盤を固め、統治を確立できるか分からない」と述べた。その上で、タリバンが統治を確立できなければ、今後3年で「アルカイダの復活やイスラム国(IS)もしくは他のさまざまなテロ集団の拡大につながる」との見方を示した。こうした中、パキスタンの軍情報機関、3軍統合情報局(ISI)のハミード長官が4日、カブール入りした。目的は明らかになっていないが、パキスタン政府高官は数日前に、タリバンによるアフガン軍再編成をハミード氏が支援する可能性があると述べていた」
米軍のミリー統合参謀本部議長は、アフガンの内戦危機を口にするほど状況が悪化している。中国の王毅外相は、米国がアフガンを管理しろと見当違いの発言をするほど困惑している。中国の思惑を超えて状況が悪化しているのであろう。パキスタンの軍情報機関トップが、急いでアフガン・カブール入りした。タリバンへのテコ入れである。
(4)「現地メディアのトロ・ニュースによると、首都カブールでは、十数人の女性がタリバンに女性の権利尊重を求める抗議デモを行ったが、タリバンはこれを排除した。女性らが口を覆い、咳をしながら武装した兵士と衝突するのが映像で確認できる。デモ参加者の1人は、タリバンが催涙ガスやテーザー銃を使用したと語った。タリバンが女性らの頭を弾倉で殴り、出血したと話す参加者もいた」
首都カブールでは、十数人の女性がタリバンに女性の権利尊重を求める抗議デモを行った。タリバンが軍事制圧を控えたのは、アフガン全土の制圧に成功していないので、敢えて敵を作らないという譲歩であろう。
(5)「タリバン関係筋は、新政権の発表が5日からの週に先送りされるとの見方を示した。タリバン共同創設者のバラダル師は中東のテレビ局アルジャジーラで、新政権はアフガンのあらゆる勢力によって構成されると述べた。複数のタリバン関係者はこれまでに、バラダル師が新政権を率いるとの見方を示している。アルジャジーラによると、カタールの駐アフガン大使は、技術チームによりカブールの空港が再開され、支援物資などの受け取りが可能になったと明らかにした。アルジャジーラの記者は、アフガンの国内線運航も再開されたとしている。国連は、人道危機の回避に向けてアフガン支援拡大を呼び掛ける国際会合を13日に開く」
5日に、アフガン新政権が成立する見込みだったが先送りされた。タリバンだけの勢力による政権樹立を諦めたもの。タリバンの弱みは、米軍を追出したものでなく米軍の「自主撤退」であることだ。タリバン勝利という側面が弱いのである。「棚ぼた」式の支配権復活である。