人口270万人のリトアニア(バルト三国の一つ)が、巨像の中国へ堂々と立ち向かっている。リトアニアは、長いことロシアの支配下で苦しんできた歴史を繰り返すまいと、共産主義への警戒心が根強い。現在、中国と台湾の呼称をめぐって紛争状態になっている。外交機関名を「台湾代表部」にしたことで、中国がお馴染みの経済制裁を課しているのだ。
リトアニアは、これに一歩も引かない構えである。一段と台湾との関係を深めている。台湾は、リトアニアへ10億ドルの基金を設けて、半導体工場設置へ動いているのだ。EU(欧州連合)も、リトアニアを支援する立場を明らかにした。台湾の半導体事業を、EU全体へ広く誘致したいという狙いが透けて見えるのである。
『朝鮮日報』(1月15日付)は、「小国リトアニアに学ぶ中国の扱い方」と題するコラムを掲載した。筆者は、崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長である。
米国で昨年バイデン政権が発足してから、欧州と中国の関係は以前とは異なり悪化の一途です。その先鋒に立つ国が、すなわちバルト海の小国リトアニアです。
(1)「リトアニアでは2020年10月の総選挙によって自由・保守連立政権が発足し、これにより中国との関係が悪化し始めました。中国は中欧と東欧で一帯一路政策を推し進めるため、中国と中欧・東欧・バルカン諸国17カ国による経済協力首脳会議「17プラス1」に力を入れてきましたが、リトアニアは昨年5月にここからの離脱を宣言し、中国への批判を強めました。「中国からの投資は受けない」ということです」
「17プラス1」は、中国の一帯一路政策の一端を担っているが、肝心の投資がなく、中国マネーへの期待は急速に萎んでいる。リトアニアを含め6ヵ国が、「脱中国」の動きをしている。中国は、これを防ぐ目的でリトアニアへ辛く当っていると見られる。
(2)「昨年7月には首都ビリニュスに台湾代表部の設置を認めると発表しました。9月にはリトアニア国防省次官が中国のシャオミやファーウェイのスマホについて「セキュリティー上の問題がある」と直接指摘し「中国スマホは購入せず、すでに購入したなら捨てなさい」と国民に呼び掛けました。11月には中国の反対を押し切り台湾代表部が設置されました」
リトアニアが、台湾との関係強化に努めているのは、台湾が中国の圧力で孤立させられていることへの反発=民主主義防衛という正義論が働いている。ただ、それだけではない。リトアニアの工業水準が高く、台湾との交流強化が利益になるという計算もあって当然だ。
(3)「中国では両国の外交関係を大使級から代理大使級に格下げし、輸出入電算網の輸入対象国リストからリトアニアを排除するなど大規模な報復に乗り出しています。リトアニアに向かう貨物列車の運行も中断しました。しかしリトアニアは全く動じません。「中国の制裁は栄光であり、われわれが正しいことを確実に示している」という雰囲気だそうです。ある西側メディアは「経済的な損益の計算よりも民主主義と人権、国際社会のルールなどを重視するリトアニア式の価値観外交だ」と分析しています」
下線部は、韓国の文政権へ聞かせてやりたい話だ。文大統領の「十八番」である人権・公正は、中国や北朝鮮に対しては「死語」になっている。もっぱら使われるのは、「反日宣伝」の時だけである。
リトアニアは、「価値外交」を高く掲げており、米国と一体化外交を目指している。ここでも、韓国とは大きく異なっている。文大統領の価値外交は、「中朝」に向けられている。同盟国の米国へ背を向けて、中朝へ傾斜する不思議な政権である。
(4)「リトアニアは欧州連合(EU)を中心に中国に対抗しています。中国の制裁を「WTO(世界貿易機関)のルールに反する不当な脅迫」と見なし、「EU加盟27カ国が結束して対抗すべきだ」と世論戦を仕掛けています。EUは第三国から不当な経済制裁を受けた加盟国を保護する手段を作るための協議を始めることにしました。リトアニアが反中の先頭に立つことを自認する背景には、この国の歴史的経験があります。近代以降はずっとロシア帝国の支配を受け、第2次大戦直前にはソ連に併合されましたが、旧ソ連の崩壊によって独立しました。長い間続いた血の支配により大国の横暴や共産党による強圧的な統治に対する反感は非常に強いそうです」
EUでは、フランスが議長国であることからフランス外相が、中国への対抗策をまとめると発表している。リトアニアは、全体主義色を強めるロシアやベラルーシと国境を接する。それだけに、地政学的な危機感が強く、ロシアと気脈を通じる中国への警戒感は、韓国にもあって当然なはずだ。韓国は、逆に米国より中朝へ接近して地政学的危機感はなさそう。
(5)「リトアニアは過去に支配を受けたロシア、独裁国家のベラルーシなどと国境を接しており、常に安全保障上の脅威を受けています。そのため2004年に北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、NATO軍の駐留も認めています。 反中外交を進める最も大きな理由も、ロシアをけん制するには米国の力が必要になるからです。中国と熾烈な体制競争を繰り広げる米国を後押しすることで、米国がリトアニアに継続して関心を持ち続けるよう仕向ける戦略ということです。リトアニアは数年前に大統領自ら米国に米軍の常時駐留とTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備を要求しています」
リトアニアは、NATOへ加盟している。米国へTHAAD配備を要請するほどである。ここでも,文政権と大きく異なる。中国へTHAADを増設しないと約束しているのだ。韓国は、米韓同盟に安住しており、米国を踏みつけ中朝へ接近する外交政策が、いつまで続くはずもあるまい。
(6)「経済的な理由もあります。リトアニアは1人当たりの国内総生産(GDP)が2万ドル前後(注:正しくは3万8700ドル=2019年)に達する中東欧でも代表的なIT(情報技術)強国です。世界的な半導体企業を持つ台湾と協力することが経済的にも実利が大きいと判断したようです」
リトアニアの国土面積は、日本の九州・四国・山口・島根を合計した程度である。一人当たり名目GDPから見て、農業国でないことは明らかで工業化レベルが高い。リトアニアが、半導体生産国になれば、他国へも伝播して「脱中国」の動きが強まるであろう。