中国の李強首相は、ベトナムのフン首相に電話「開かれたインド太平洋戦略」と聞き慣れない言葉を使った。日米豪印による「インド太平洋戦略(FOIP)」に対抗したのであろうが、聞き間違いやすい言葉だ。なぜ、中国は突然「開かれた」という言葉を使い始めたのか。FOIPは、中国にとって最も嫌な言葉である。法の支配、航行の自由、力による現状変更の否定、透明な経済ルールなど、すべて中国の行動を縛る概念であるからだ。中国は、「開かれた」という言葉を奪い返す必要があった。FOIPが「開かれたインド太平洋」なら、
中国は「開かれたアジア太平洋」を作る。こういう「言葉の対抗戦略である。
『レコードチャイナ』(6月16日付)は、「李強総理、ベトナムのレ・ミン・フン首相と電話会談―中国」と題する記事を掲載した。
中国の李強国務院総理は6月15日午前、ベトナムのレ・ミン・フン首相からの要請に応じ、電話会談を行いました。
(1)「李総理は、「習近平国家主席は今年4月、訪中したベトナムのトー・ラム共産党書記長兼国家主席と会談し、戦略的意義を持つ、より高いレベルの中越運命共同体構築について重要な共通認識に達した。中国はベトナムと発展戦略の連携を深め、2国間貿易の拡大と質の向上を推進し、より高いレベルでの互恵・ウィンウィンを実現したいと考えている」
中越首脳会談では、「戦略的意義」、「より高いレベル」、「運命共同体」、「互恵・ウィンウィン」が、飛び出している。これらは、中国が自信を失った時に使う典型的な「言葉の飾りである。現実が悪いほど、言葉は大きくなる。
(2)「現在、世界的に一国主義や保護主義が台頭する中、中国は国連や世界貿易機関(WTO)などの多国間の枠組みにおいてベトナムとの協調と連携を強化し、今年と来年のAPEC非公式首脳会議の開催に向けて相互に支援し合い、開かれたアジア太平洋経済の構築を推進して自由貿易と経済のグローバル化を守っていきたい」と表明しました」
「開かれたアジア太平洋経済」は、初めて聞く言葉である。「開かれた」という言葉を使いながら、南シナ海では「閉ざされた行動」である。経済は「国家統制強化」、外資は撤退、
技術は封鎖など「開かれた」といえ、実態は逆になっている。だから、この言葉は迫力がない。
(3)「レ首相は、「ベトナムは中国と手を携えて両党・両国の最高指導者間の重要な共通認識を履行し、越中の包括的戦略パートナーシップおよび戦略的意義を持つ運命共同体の構築において、より多くの実質的な成果を上げていきたい。ベトナムは中国が今年のAPEC非公式首脳会議を主催することを支持し、中国との多国間の場における意思疎通と協力を強化し、共通の利益をしっかりと守っていきたい」と述べました」
ベトナムの返答は、「外交辞令100%」で、実質ゼロである。フン首相の発言は、 中国を刺激しないための「儀礼的な返答」にすぎないのだ。例えば、「重要な共通認識を履行」とか「実質的成果を上げたい」、「APECを支持」などと、どれも意味のない言葉である。本音は別にあるのだ。ベトナムは今、米国と包括的戦略パートナー、日本・インド・欧州から投資が急増している。南シナ海では、中国に不信感を抱いている。
ベトナムは、中国から静かに距離を取っているところである。
中国の「守勢外交」が目立っている。中国は、ベトナムを引き留めたい。 しかし、力が弱まり、言葉でしか引き止められないのが現実である。だから、運命共同体という重い言葉を連発している。「開かれたアジア太平洋」という新語を急造せざるを得ない事情へ追い込まれている。




