ベトナムは、西側諸国から「モテモテ」である。7月には、英国防相と米国防長官が訪越した。8月には米副大統領も訪越している。米中対立の激化とともに、ベトナムの地政学的な価値が高まっていることが背景にある。
この中で、日本はベトナムと極めて良好な関係を維持している。TPP(環太平洋経済連携協定)では、米国が抜けた後に日本を側面から支援して、TPP11を結成させた功労国である。こうした背景もあって、昨年10月、菅義偉首相が就任後、初の外国訪問地としてベトナムを選んだ。
今や日本にとって、ベトナムが安全保障上で最も信頼できる東アジアのパートナーになっている。中国は、南シナ海や東シナ海において国際法を無視して拡張主義的な動きを展開している中で、日越両国は航行の自由、法の支配、紛争の平和的解決、米軍のプレゼンスなどの戦略的利益を共有しており、「自然の同盟関係」にある。
昨年10月時点で、日本で働く外国人労働者約172万人の内、ベトナム人は約44万人であり、中国人を抜いて初めて1位となった。ベトナムの若者達が人口減少と労働力不足に苦しむ日本を支える形になっている。
『日本経済新聞 電子版』(9月11日付)は、「ベトナムで日中外交戦、コロナ・安保駆け引き」と題する記事を掲載した。
岸信夫防衛相は11日、訪問先のベトナムでファン・バン・ザン国防相と会談した。日本からの艦艇の輸出に向けて協議を加速すると確認した。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相も同じ時期にベトナムを訪ね、新型コロナウイルスワクチンを供与すると表明した。
(1)「ベトナムは、南シナ海で中国との間に領有権問題を抱える。東南アジア諸国のなかで現在は、中国に強硬な立場を取る。日米欧は、中国の軍事的な拡大を懸念して外交の要衝と位置づけ、中国も関係改善を目指して働きかける。岸氏は11日のザン氏との協議で、中国が活発に活動する東シナ海や南シナ海の情勢に言及した。中国が海警局を準軍事組織に位置づける海警法を整備したことに深刻な懸念を示し、緊張を高める行為に反対すると伝えた」
ベトナムは、中国に島嶼を奪われた被害国である。その「恨み」を胸の奥に秘めて、いつの日か、「取り返す機会」をじっと待っているところだ。ベトナムが、最も頼りにしている国は日本である。韓国に言わせれば、日本は「非道徳国家」だが、ベトナムにとっての日本は「頼りになる紳士国」である。
(2)「日本からの装備品の輸出も話し合った。会談後、両国は輸出に必要となる「防衛装備品・技術移転協定」に署名した。第三国への装備品の拡散を防ぐため、転売時には日本の同意が必要になるルールだ。何を輸出するかは今後、検討する。海洋での防衛力を重視して艦艇などが候補にあがる。既に日本の防衛装備庁とベトナム海軍が議論を始めた。岸氏は会談後のオンラインでの記者会見で、「ベトナムと新たな段階の協力をさらに発展させ、地域や国際社会の平和と安定に積極的に貢献する」と述べた」
今回の岸防衛相の訪越目的は、日本からベトナムへの「防衛装備品・技術移転協定」署名である。日越は、TPPに加盟国同士であり「ツーカー」の関係にある。日本は、「ベトナムと新たな段階の協力をさらに発展させ、地域や国際社会の平和と安定に積極的に貢献する」と将来展望を述べた。日本の後ろには、米英が控えておりベトナムとの友好促進を期待している。
『日本経済新聞 電子版』(9月12日付)は、「『困ったときはお互いさま』 岸防衛相、ベトナムで講演」と題する記事を掲載した。
岸信夫防衛相は12日、訪問先のベトナムの国防省で基調講演した。中国が南シナ海で軍事拠点化を進め「行動をエスカレートさせている」と指摘した。日本とベトナムの防衛協力の強化が必要だと訴え「困ったときはお互いさま」と話した。
(3)「海警局を準軍事組織に位置づける中国の海警法について、「国際法との整合性の観点から問題がある規定を含む」と訴えた。「東シナ海と南シナ海をつなぐ位置に台湾がある」と述べ、台湾海峡の平和と安定の重要性を説明した。「今や自衛隊は自由で開かれたインド太平洋の維持、強化のために貢献する存在となった」と力説した。ベトナム軍が「この地域の平和と安定を維持するうえで不可欠」だと言及し、能力強化を支援する意向を強調した。ベトナムとの防衛協力を「新たな段階へと進化させる」と語った。11日に署名した防衛装備品・技術移転協定をもとに、装備品の輸出について協議を加速すると言明した。サイバー防衛能力の向上や医療分野の技術提供を促進する考えも示した」。
岸防衛相は、「東シナ海と南シナ海をつなぐ位置に台湾がある」と台湾の重要性をアピールしている。ベトナムも、台湾防衛に協力して欲しいというニュアンスである。中国にとっては神経を逆なでする発言だが、台湾問題は「独裁との戦い」という意味を持ち始めている。