中国は、古代から敵方の同盟国が増えることを極端に嫌ってきた。現代中国外交は、驚くことに戦国時代の戦略をそのまま踏襲している。「孫氏の兵法」が生きている国である。皮肉にも、戦狼外交による威張り散らすことで、相手同盟国の輪が強化されているのだ。
フィリピンは、中国の南シナ海占拠を違法として常設仲裁裁判所へ中国を訴えて勝訴した国である。前政権は一時、経済支援を求めて中国へ接近したが、現政権は元の外交姿勢に戻り、米国との関係強化を前面に打ち出している。その結果、台湾有事の際はフィリピンの米軍基地から出撃することを認めるという決断を下す模様だ。
『日本経済新聞 電子版』(9月4日付)は、「フィリピン、台湾有事で米軍支援 基地使用許可を検討」と題する記事を掲載した。
フィリピンのホセ・マヌエル・ロムアルデス駐米大使は、米軍が台湾をめぐる有事に対応する場合にフィリピンの軍事基地の使用を条件付きで認める考えを示した。台湾に近いフィリピンの協力が得られれば米軍の作戦の柔軟性が増し、中国に対する抑止力強化につながる。
(1)「ロムアルデス氏が、日本経済新聞の取材で明らかにした。同氏はドゥテルテ前政権下の2017年に駐米大使に就き、22年6月末に発足したマルコス政権で再任された。マルコス大統領の親戚で、外交・安全保障政策に強い影響力を持つ腹心だ。ロムアルデス氏は台湾有事の際、米軍に対してフィリピンの軍事基地の使用許可を出すかについて「我々の安保にとって重要である場合にだけ認める」と明言した。台湾有事に対するマルコス政権の具体的な対処方針を示す発言だ」
6月に大統領へ就任したマルコス氏は前政権と異なり、対米関係を強化する姿勢を示している。8月6日に首都マニラで会談したブリンケン米国務長官に対して「米比の特別な関係と両国の歴史から我々はとても密接だ」と強調した。7月末の施政方針演説では、中国による南シナ海での海洋進出を念頭に「フィリピンの領有権を、外国の圧力によって寸分たりとも譲るつもりはない」と力説した。安全保障体制を構築するうえで同盟国の米国の存在は欠かせないものとなっている。こういう背景が、今回の米軍への基地使用許可という大きな発言に繋がったと見られる。
(2)「フィリピンは、原則として台湾問題について中立的な立場を取ってきた。マルコス政権は対米関係の修復を重視し、今後6年間で台湾有事をめぐる協力を進める可能性が出てきた。ロムアルデス氏は、ドゥテルテ前大統領が政権末期に台湾有事対応を念頭に米軍への協力に前向きだったと指摘したが、米国と具体的な議論を進めた形跡は乏しい。台湾有事の際には、フィリピン周辺の海上や航空物流の混乱は避けられない。中国は8月上旬、台湾周辺で6カ所の海域を指定して大規模な軍事演習を実施した」
中国は8月上旬、台湾周辺で6カ所の海域で大規模な軍事演習を実施した。これは、周辺国へ大きな影響を与えた。台湾有事の際に起こる混乱を、事前に周辺国へ見せつけることになったからだ。
(3)「米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、海域の一つはフィリピンの排他的経済水域(EEZ)に及んだ。ロムアルデス氏は米軍が利用できるフィリピンの基地を増やす方向で米国と協議を進めているとも説明した。現在は両国が14年に結んだ防衛協力強化協定に基づき、米軍は5つの基地に巡回駐留が認められている。主に空軍基地が対象だったが、海軍基地を追加する可能性を明らかにした。米軍は5つの基地に弾薬や燃料、医療品を備蓄し、自然災害にも対応する。14年の協定に基づいて追加の備蓄施設やインフラの整備を計画したが、一部を除いてドゥテルテ政権下で履行が遅れていた。ロムアルデス氏は備蓄施設の整備などについて「3年以内の完了を望む」と言明した」
中国は、昨年もフィリピンの排他的経済水域で中国漁船集団が長期に居座る事態が発生した。フィリピンへの圧力を掛ける目的であった。こういう違法な振る舞いが、台湾有事の際に米軍の基地使用許可検討に繋がったと見られる。身から出た錆である。
(4)「米軍は、台湾や南シナ海の近くに補給や訓練の拠点が増えるほど、中国に対する即応力が高まる。米軍は日本の沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線に部隊を分散させる戦略を進めている。中国に攻撃の的を絞らせないためだ。部隊の分散先としてフィリピンの地理的な重要性が増している」
フィリピン軍は、自衛隊と基地を自由に使用する問題で検討をしている。中国を睨んだ行動である。中国の「戦狼外交」が、周辺国の反発を強めているのだ。
米軍は日本の沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線に部隊を分散させる戦略を進めている。これに、豪州も「AUKUS」(米英豪)で参加する。中国にとっては抑止力となる。