勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: フィリピン経済

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    中国は、古代から敵方の同盟国が増えることを極端に嫌ってきた。現代中国外交は、驚くことに戦国時代の戦略をそのまま踏襲している。「孫氏の兵法」が生きている国である。皮肉にも、戦狼外交による威張り散らすことで、相手同盟国の輪が強化されているのだ。

     

    フィリピンは、中国の南シナ海占拠を違法として常設仲裁裁判所へ中国を訴えて勝訴した国である。前政権は一時、経済支援を求めて中国へ接近したが、現政権は元の外交姿勢に戻り、米国との関係強化を前面に打ち出している。その結果、台湾有事の際はフィリピンの米軍基地から出撃することを認めるという決断を下す模様だ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(9月4日付)は、「フィリピン、台湾有事で米軍支援 基地使用許可を検討」と題する記事を掲載した。

     

    フィリピンのホセ・マヌエル・ロムアルデス駐米大使は、米軍が台湾をめぐる有事に対応する場合にフィリピンの軍事基地の使用を条件付きで認める考えを示した。台湾に近いフィリピンの協力が得られれば米軍の作戦の柔軟性が増し、中国に対する抑止力強化につながる。

     

    (1)「ロムアルデス氏が、日本経済新聞の取材で明らかにした。同氏はドゥテルテ前政権下の2017年に駐米大使に就き、22年6月末に発足したマルコス政権で再任された。マルコス大統領の親戚で、外交・安全保障政策に強い影響力を持つ腹心だ。ロムアルデス氏は台湾有事の際、米軍に対してフィリピンの軍事基地の使用許可を出すかについて「我々の安保にとって重要である場合にだけ認める」と明言した。台湾有事に対するマルコス政権の具体的な対処方針を示す発言だ」

     

    6月に大統領へ就任したマルコス氏は前政権と異なり、対米関係を強化する姿勢を示している。86日に首都マニラで会談したブリンケン米国務長官に対して「米比の特別な関係と両国の歴史から我々はとても密接だ」と強調した。7月末の施政方針演説では、中国による南シナ海での海洋進出を念頭に「フィリピンの領有権を、外国の圧力によって寸分たりとも譲るつもりはない」と力説した。安全保障体制を構築するうえで同盟国の米国の存在は欠かせないものとなっている。こういう背景が、今回の米軍への基地使用許可という大きな発言に繋がったと見られる。

     

    (2)「フィリピンは、原則として台湾問題について中立的な立場を取ってきた。マルコス政権は対米関係の修復を重視し、今後6年間で台湾有事をめぐる協力を進める可能性が出てきた。ロムアルデス氏は、ドゥテルテ前大統領が政権末期に台湾有事対応を念頭に米軍への協力に前向きだったと指摘したが、米国と具体的な議論を進めた形跡は乏しい。台湾有事の際には、フィリピン周辺の海上や航空物流の混乱は避けられない。中国は8月上旬、台湾周辺で6カ所の海域を指定して大規模な軍事演習を実施した」

     

    中国は8月上旬、台湾周辺で6カ所の海域で大規模な軍事演習を実施した。これは、周辺国へ大きな影響を与えた。台湾有事の際に起こる混乱を、事前に周辺国へ見せつけることになったからだ。

     


    (3)「米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、海域の一つはフィリピンの排他的経済水域(EEZ)に及んだ。ロムアルデス氏は米軍が利用できるフィリピンの基地を増やす方向で米国と協議を進めているとも説明した。現在は両国が14年に結んだ防衛協力強化協定に基づき、米軍は5つの基地に巡回駐留が認められている。主に空軍基地が対象だったが、海軍基地を追加する可能性を明らかにした。米軍は5つの基地に弾薬や燃料、医療品を備蓄し、自然災害にも対応する。14年の協定に基づいて追加の備蓄施設やインフラの整備を計画したが、一部を除いてドゥテルテ政権下で履行が遅れていた。ロムアルデス氏は備蓄施設の整備などについて「3年以内の完了を望む」と言明した」

     

    中国は、昨年もフィリピンの排他的経済水域で中国漁船集団が長期に居座る事態が発生した。フィリピンへの圧力を掛ける目的であった。こういう違法な振る舞いが、台湾有事の際に米軍の基地使用許可検討に繋がったと見られる。身から出た錆である。

     


    (4)「米軍は、台湾や南シナ海の近くに補給や訓練の拠点が増えるほど、中国に対する即応力が高まる。米軍は日本の沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線に部隊を分散させる戦略を進めている。中国に攻撃の的を絞らせないためだ。部隊の分散先としてフィリピンの地理的な重要性が増している」

     

    フィリピン軍は、自衛隊と基地を自由に使用する問題で検討をしている。中国を睨んだ行動である。中国の「戦狼外交」が、周辺国の反発を強めているのだ。

     

    米軍は日本の沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線に部隊を分散させる戦略を進めている。これに、豪州も「AUKUS」(米英豪)で参加する。中国にとっては抑止力となる。

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    フィリピンのドゥテルテ大統領は、その奔放な発言で米同盟国でありながら、「反米姿勢」を見せるなど中国寄り言動を見せることもあった。だが、最近はすっかり様子が変わってきた。ロシアのウクライナ侵攻によって、「中ロ連帯」が取沙汰されるとともに、フィリピンは本籍である米同盟国として襟を正す様相を見せている。

     

    ウクライナからの避難民は、300万人を超えている。これら人々の避難先として、EU(欧州連合)やG7のほかに、フィリピンも名乗り出ている。これは、同じキリスト教国という背景もあろうが、フィリピンが西側諸国と連帯していく意志を明確に表明したものだろう。

     

    日本、フィリピン両政府は4月9日、都内で外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を初開催した。自衛隊とフィリピン軍の共同訓練の拡大に向けた協定を検討する。東南アジア諸国連合(ASEAN)はウクライナ侵攻でロシアや中国への配慮が目立つ。その中で、フィリピンは日本と「2プラス2」協議を行ない、安全保障協力を確かなものにする意図を明確にしている。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(3月27日付)は、「中国、南シナ海で新たに3環礁を軍事基地化 米比は合同軍事演習を過去最大規模で実施へ」と題する記事を掲載した。筆者は、大塚智彦(フリージャーナリスト)氏である。

     

    フィリピン軍と米軍による合同軍事演習「バリカタン」が3月28日から4月8日までフィリピン北部ルソン島を中心に行われることを3月22日にフィリピンが発表した。「バリカタン」は2020年には折からのコロナ感染拡大や米国との関係がこじれた影響などを受けて中止。2021年は規模を縮小して実施された。2020年にはドゥテルテ大統領がフィリピン国内での米軍の活動を認める「訪問軍地位協定(VFA)」の破棄を表明。米国との関係が一時悪化した時期もあった。

     


    (1)「今回の「バリカタン」はこれまでを上回る最大規模で実施される予定で、フィリピン軍から3800人、米軍からは5100人の合計8900人が参加。南シナ海での中国の一方的な領有権主張、海洋権益拡大を受けて、水陸両用作戦や航空作戦、人道支援、対テロ作戦などを実施する予定で、過去最大規模の演習になるという。ちなみに「バリカタン」はタガログ語で「肩を並べる」という意味だ。

     

    フィリピンは、同盟国として安全保障の砦を米国に求めている。ウクライナ戦争はいつ何時、災難が降りかかるか分らないリスクを示した。フィリピンには、中国からの侵略危機である。

     


    (2)「今回のバリカタン合同軍事演習は、2月24日のロシアによるウクライナ軍事侵攻と無関係ではなく、3月10日には駐米フィリピン大使がドゥテルテ大統領の意向として、「ウクライナ情勢がアジアに波及した際は、米軍がフィリピン国内の軍事施設を自由に使用できるようにする用意がある」として、米軍の有事の際の増派に対応する姿勢を明らかにしている。今回の「バリカタン」はこうした背景からロシアによるウクライナ軍事侵攻、そして南シナ海での中国の活動を意識したものとなるとみられており、3月22日には米軍の輸送機オスプレイがスービック基地に先着している。米軍はかつて基地があったスービックやクラーク基地を拠点にルソン北部の演習場所に展開するものとみられている」

     

    下線のように、アジアに危機が及んだときは、米軍が「フィリピン国内の軍事施設を自由に使用できるようにする用意がある」とフィリピンは言明した。具体的には、中国の台湾侵攻である。フィリピンは、はっきりと米国陣営に入ることを意思表示したと言えよう。

     


    (3)「南シナ海は、中国が一方的に海洋権益を主張し「九段線」なる境界線を設定して自国の権益が及ぶ海域としている。このためフィリピン、マレーシア、ベトナムなどと領有権問題が生じている。フィリピンは、2014年にオランダ・ハーグの「常設仲裁裁判所」に対して仲裁を訴えた。そして2016年7月に同裁判所が「九段線」内の海域に対する中国の「主権主張は国際海洋法などの法的根拠がなく、国際法違反である」との裁定を下した」

     

    中国が、強引にフィリピン、マレーシア、ベトナムの島嶼を奪った結果、フィリピンが常設仲裁裁判所へ提訴して、勝訴を勝ち取った。だが、中国が居座っており,軍事基地化している。

     


    (4)「米軍とフィリピン軍がこの時期に過去最大級の合同軍事演習を実施する背景の一つとして、中国による南シナ海での環礁の軍事化が急速に進んでいることもあるとの見方が有力だ。米軍の偵察衛星などの情報から、米軍は少なくとも南シナ海の3つの環礁が最近中国による軍事拠点化が確認されたという。」

     

    中国は最近、南シナ海の3つの環礁を軍事拠点化してことが米国によって確認された。フィリピンには不気味である。最近の米軍の報告では、中国が対空ミサイルや戦闘機などの配備が完了し、完全な軍事基地としての機能をもつようになったとしている。

     


    (5)「フィリピンは長い期間、米の同盟国として国内にスービック海軍基地、クラーク空軍基地などに大規模な米軍が駐留していた過去がある。しかし1991年に両基地に近いルソン島中部のピナツボ火山が爆発し、噴煙などで両基地に甚大な被害がでたことや、支援を求めたフィリピンに米側が難色を示したことなどが重なり、当時のコラソン・アキノ大統領の意向に反してフィリピン議会が米軍駐留の法的根拠となる法案を否決したことから米軍の撤退が決まった経緯がある」

     

    米軍がフィリピンを撤退した後に、中国が南シナ海の島嶼を占領して軍事進出した経緯がある。米軍が撤退しなければ、今日の事態を招かなかったのだ。その意味で、フィリピンには深い悔悟の気持ちがあるだろう。中国の南シナ海進出という危機によって、フィリピンは米比同盟関係を再認識しつつある。目が覚めたと言える。

     

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    中国の振る舞いは、200年前の清国を彷彿とさせる暴挙である。フィリピンのEEZ内の座礁船へ食糧運搬する民間船へ、中国海軍が自国領海を理由に放水銃を浴びせるという「強盗行為」を行なっている。米国からも強い抗議を受けた件だ。米比相互防衛条約を発動させるとまで怒らせたのである。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(11月28日付)は、「中国、南シナ海で横暴続々とフィリピンのEEZ内座礁船の撤去を要求」と題する記事を掲載した。筆者は、大塚智彦である。

     

    中国とフィリピンの間で領有権を巡る争いが続く南シナ海で、フィリピンが拠点として実効支配し海軍兵士が駐留している南沙諸島(スプラトリー諸島)の岩礁にある座礁船を中国側が撤去するように求めていることが明らかになった。

     


    (1)「フィリピンの排他的経済水域(EEZ)にある同拠点を巡って、11月16日に食料などの物資を座礁船に補給するフィリピンの民間船舶が、中国公船により進路妨害や放水銃による放水を受けるなどの妨害を受けた。フィリピン政府が、抗議するとともにマニラにある中国領事館に抗議の活動家や漁民が押し寄せるなど両国関係が緊張する事態となっていた。中国外交部の趙立堅報道官は11月24日、南沙諸島のアユンギン礁(中国名・仁愛礁)にフィリピンが海軍艦艇を座礁させてそこに兵士が常駐し続けて「実効支配」の状況を作り出していることに不快感を示し、同座礁船の撤去を求めた」

     

    中国は、不法占拠している南シナ海を自国領海と宣言し、正規のフィリピンEEZ内での行為を不法として迫害する「強盗行為」を行なっている。こういう200年前の感覚である中国が、アジア覇権を握ったらどうなるか。世も末というのが実感だろう。ともかく、野蛮国である。

     


    (2)「アユンギン礁は、中国が南シナ海のほぼ全域を自国の海洋権益が及ぶ海域と一方的に主張している「九段線」に基づき領有権を主張している。これに対し、フィリピンはEEZ内の岩礁アユンギン礁の浅瀬に1999年海軍の揚陸艦だった「シエラマドレ」を意図的に座礁。兵士を常駐させることで「領有権」を国際社会に主張し続けているのだ。アユンギン礁の座礁船に常駐するフィリピン海軍兵士に定期的に食料などを補給する船舶がフィリピン本土との間を定期的に往復している。ところが11月16日にアユンギン礁に向かっていたフィリピンの民間船舶2隻が中国海警局の公船3隻に進路を妨害され、放水を受ける事案が発生した。民間船舶は放水により一部が損傷したためこの時はアユンギン礁への補給を断念して本土に戻ったという」

     

    この放水銃事件で、中国は米国防相から強い警告を受けることになった。11月15日(現地時間)の米中オンライン首脳会談と同時に起こった事件だが、米国は中国に対して安易な妥協をしないというシグなるを発した形だ。



    (3)「こうした中国側の「威嚇妨害」に対して、フィリピン政府は外交ルートを通じて中国側に抗議するとともにドゥテルテ大統領は22日に嫌悪感と重大な懸念を表明した。しかし、中国側は「自国の管轄圏で法を執行しただけである」としてその行動を正当化。これを受けてテオドロ・ロクシン外相は「中国はこの海域で自国の法を執行する権利はなく、今回の事態は違法行為である。中国によるこうした自制心の欠如は2国間関係を脅かすものである」と述べて中国を厳しく批判した。さらにマニラ首都圏マカティにある中国領事部が入った建物の前では11月24日に活動家や漁民による抗議活動が繰り広げられ、フィリピン国民の間で対中感情が悪化していることが明らかになった」

     

    中国は、フィリピンを舐めきっている。ガツンと一発やらないから、好き勝手を許すことになったのだ。日本が、中国に対して毅然とした姿勢を取り続けること。それが、中国を対日姿勢で慎重にさせるコツである。

     

    (4)「16日の中国公船による「放水事件」について中国外交部の趙報道官は、「フィリピンの船舶2隻が中国の同意を得ずに南沙諸島に侵入した」とアユンギン礁があくまで自国の海洋権益が及ぶ範囲との姿勢を強調していた。フィリピンにしてみれば自国のEEZ内のアユンギン礁に接近するのに「中国側の同意」など不必要という立場であり、両国の主張は全く相容れない状況がこれまで続いている。そうした状況のなか24日に中国は「座礁船の撤去」を求めるというさらなる要求を持ち出して事態をエスカレートさせているのだ」

     

    中国は、さらに笠に着た要求を出している。フィリピンEEZ内の座礁船を撤去せよとエスカレートさせているのだ。こういう中国の行動を見ていると、絶対に許してはいけない相手であることを強く認識させられる。

     


    (5)「中国は、1999年のフィリピンによる座礁船での常駐開始後も何度か補給船への執拗な追尾や妨害行為を行っているほか、2021年3月以降は南沙諸島のパグアサ島周辺やユニオンバンクと呼ばれる冠状サンゴ礁周辺海域に中国漁船200隻以上が長期間に渡って停泊を続けるなどの「示威行動」も確認されている。こうした中国の動きの活発化には、2022年5月に予定されているフィリピンの大統領選という政治的背景も関係しているのではないかとの観測がでている

     

    下線部は、理解しにくい点である。なぜ、中国はフィリピン大統領選前に圧力をかけるのか。経済援助を増やして中国に親和的政権樹立を目指すならば理解可能だ。逆に、フィリピン国民から嫌われることをすれば、野党候補を有利にさせるはずである。

     

    あるいは、中国の意に沿わぬ政権ができれば、もっと酷いことになると予告しているのか。となれば、台湾への圧力と同じスタイルである。いずれにしても、200年前に通用した野蛮外交の踏襲である。習近平氏は、この程度のことしか思いつかぬとすれば、米国への太刀打ちは不可能だ。へたくそな外交である。

     

     

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    中国は、南シナ海の占拠問題で常設仲裁裁判所から敗訴の判決を受けている。勝訴は、フィリピンであったが、ドゥテルテ大統領はこの判決を生かさず、中国へ曖昧な姿勢を続けて来た。中国は、これを悪用して南シナ海で占領の島嶼に軍事基地を拡張するという違法行為を重ねてきた。

     

    フィリピン憲法では、大統領経験者が副大統領になることに疑念のあることを理由に、ドゥテルテ大統領が副大統領立候補を断念する声明を発表した。中国にとっては、南シナ海問題で「有力支援者」を失うことになりかねず、南シナ海問題は新たな局面展開を迎える可能性が出て来た。

     


    『時事通信』(10月2日付)は、「ドゥテルテ大統領『政界引退』、違憲批判受け出馬撤回 フィリピン」と題する記事を掲載した。

    フィリピンのドゥテルテ大統領は2日、「政界からの引退を表明する」と述べ、来年5月の副大統領選への出馬を撤回した。憲法違反に当たるとの批判を考慮したという。ドゥテルテ氏と側近のゴー上院議員がマニラ首都圏の立候補受付会場で明かした。

     

    (1)「2人は与党PDPラバンから正副大統領候補に指名されていたが、ゴー氏が副大統領選への立候補を届け出、ドゥテルテ氏は手続きをしなかった。ゴー氏は「ドゥテルテ氏は出馬を撤回し、代わりに私が意志を継いで副大統領選に挑む」と説明。続いてドゥテルテ氏は、副大統領選への出馬が憲法に反するとの批判が出ていることに触れ、「国民の求めに従い、政界からの引退を表明する」と述べた」

     

    ドゥテルテ氏が、来年5月の副大統領立候補を断念したのは、憲法違反の疑いを理由にしているが、現実には支持率の急落が大きな理由と見られる。

     


    フィリピンの「パルス・アジア」が96日から11日にかけて行った世論調査では、ドゥテルテ氏の「副大統領候補支持率は14%」に過ぎなかった。ドゥテルテ氏は大統領としての支持率が、常時80%前後を誇っている。だが、副大統領候補としての支持率は、同じく副大統領に出馬表明しているソト上院議員の支持率25%(トップ)に及ばず2番手に甘んじる結果となった。これでは、ドゥテルテ氏のメンツは丸潰れであり、副大統領としての立候補を断念したと予想される。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(9月30日付)は、「比ドゥテルテ支持率急落 奇策の副大統領出馬は憲法違反?」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「これまでフィリピン史上、大統領経験者が副大統領に就任した前例はない。もしドゥテルテ大統領が副大統領選で勝利して就任した場合、就任そのものは憲法違反とはならない。 しかし、副大統領在任中に新たに選ばれた大統領が健康上の理由や死亡、弾劾など何らかの理由で「大統領としての職務を履行することが困難になった」場合、副大統領がその職務を継ぐことになっており、そうなると「大統領の再選禁止規定」に抵触し、憲法違反になるというのだ

     


    ドゥテルテ大統領が、副大統領選立候補を断念した理由は下線部にある。仮に、大統領が任期中に辞任する場合、副大統領がその任期を継ぐが、ドゥテルテ氏は大統領経験者であり憲法違反になるのだ。こういう事態を避けるには、ドゥテルテ氏は副大統領選で立候補しないことである。

     

    (4)「フィリピンでは、1998年10月に就任した俳優出身のジョセフ・エストラーダ大統領が不正蓄財疑惑を議会で追及され、その結果弾劾動議が成立した。これを受けてエストラーダ大統領は任期半ばで退陣に追い込まれ、グロリア・アロヨ副大統領が大統領に昇格して残る任期を務めた事例がある。もちろんこのとき、アロヨ副大統領は大統領経験者ではないため、憲法違反を問われることはなく、規定通り大統領昇格となった。今回のドゥテルテ大統領の副大統領への出馬は、もし当選した場合に任期6年間の間に「大統領が職務不能」に陥った際、規定通りの「副大統領の大統領への昇格」が「憲法違反」に問われる可能性があり、その疑問が世論調査の結果にも反映されているというのだ」

     

    フィリピンでは、大統領が弾劾され辞任して副大統領が昇格した例がある。

     

    (5)「ドゥテルテ大統領が、憲法違反の可能性が指摘されながらもあえて副大統領当選を狙う真意についてフィリピンの各種マスコミは、「権力の中枢に留まることで政治的影響力を維持したい」との見方で大筋一致している。ドゥテルテ大統領には就任直後から積極的に推進してきた麻薬関連犯罪摘発で、現場での警察官による司法手続きを経ない容疑者の射殺という「超法規的殺人」を黙認してきたとして人権団体や国際機関から人権侵害と厳しく批判されてきた経緯がある。国際刑事裁判所(ICC=本部オランダ・ハーグ)も9月15日にこの「超法規的殺人」に関して本格的な捜査開始を許可している」

     

    ドゥテルテ大統領が、憲法違反の可能性が指摘されながらもあえて副大統領当選を狙う真意について、刑事訴追を免れるためと説明されている。

     

    (6)「大統領候補としての世論調査では、これまで正副大統領いずれへの出馬をも表明していないドゥテルテ大統領の長女、ミンダナオ島ダバオ市のサラ・ドゥテルテ市長が20%と依然としトップの支持率を維持し、2位はマルコス元大統領の長男、フェルナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン・マルコス)氏の15%と続き、以下俳優出身のマニラ市のイスコ・モレノ市長の13%、プロボクサーのマニー・パッキャオ上院議員の12%と続いている」

     

    フィリピン大統領選では、出馬の意思を示していないドゥテルテ大統領の長女が、世論調査ではトップの支持率20%を得ている。マルコス元大統領の長男が15%で2位だ。プロボクサーのマニー・パッキャオ上院議員は先ごろ、現役引退を発表した。パッキャオ氏はボクシング世界4階級を制覇した「英雄」である。野党候補である。

     

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    中国が、勝手に設定した「第一列島線」近傍の諸国は、共同で中国に対抗しなければならない。こういう呼びかけが、元フィリピン海軍トップからされた。

     

    第一列島線とは、九州を起点に、沖縄台湾フィリピンボルネオ島にいたるラインを指す。中国は、ここを境界線にして米軍艦船を中国側に入れさせないという作戦海域である。具体的に言えば次のような作戦を意味している。中国海軍にとっては、台湾有事の際の作戦海域である。同時に、対米有事において、南シナ海・東シナ海・日本海に米空母・原子力潜水艦が侵入するのを阻止せねばならないというもの。

     

    この第一列島線の内容が明らかになった以上、日米はこれを打破すべく戦略を展開している。日本が、南西諸島防衛でミサイル部隊を配置しいているが、当然な自衛権の行使である。フィリピンもこれに呼応しようという動きであろう。

     


    改めて考えれば、中国の設定した第一列島線に対して、関係国が何ら共同で中国に抗議しなかったのも不思議である。中国が、多国の領土を自国の防衛線に決めるというのは主権の侵害に当るからだ。

     

    『大紀元』(9月9日付)は、「『第一列島線の各国は団結を』日台比が共同戦略計画を策定すべき 比元将軍が提言」と題する記事を掲載した。

     

    元フィリピン海軍副提督ロンメル・ジュデアン氏は、米政府系『ボイス・オブ・アメリカ』(VOA)のインタビューで、南シナ海台湾海峡で中国共産党(以下、中共)の脅威がエスカレートしている中、フィリピン、台湾、日本は緊密な防衛関係にあると述べ、3国が協力して対中防衛政策を展開するよう呼びかけた。

     

    (1)「沖縄から南のフィリピンまでの第一列島線は、中共からの軍事的脅威に対する最も重要な防衛線であるだけでなく、中国の貿易の流れをコントロールするのに十分な海上輸送ルートでもあるとジュデアン氏は指摘。日本、台湾、フィリピンは、中共の軍事的脅威と現状変更の試みを効果的に抑止し、国際秩序を維持するために、継続的に拡大・改善可能な共同海洋軍事協力メカニズムを構築すべきだという

     

    下線部分の指摘は、中国の脅威に直面する日台比にとって、いかに防衛するか重要である。ただ、三ヶ国同時にこういう認識が共有されなかったことは事実である。

     

    (2)「ジュデアン氏によると、台湾第一列島線の中心に位置している。フィリピンにとっては、フィリピンの北側、台湾の南側の海域が最も重要な防衛エリアとなる。日本にとって最も重要な地域は尖閣諸島である。地理的には台湾がハブとなっている。台湾は、中共との政治的紛争に対処する経験を最も多く持っている。台湾が、日本とフィリピンの軍事協力や合同演習へ将来的に参加することは、オプションではなく必須であるという」

     

    台湾の重要性は、米国バイデン大統領になってから強調されている。日米首脳会談、米韓首脳会談、G7首脳会談などを通じて、台湾防衛の重要性が取り上げられている。

     

    (3)「同氏は、合同演習の鍵となるのは、共同作戦計画を策定するためのガイドライン(軍事協力指針)と通信システムであると指摘した。そのため、米国や東アジア共同体が採用している軍事協力指針に台湾が参加できれば、日本、台湾、フィリピンが一緒に合同海上演習を行う機会が生まれる。台湾が米国の認証を受けた通信機器を使用することで、軍同士の通信やデータ交換が可能になる。これにより、海洋安全保障協力・対話は、3国間の協力プロジェクトとなるという」



    台湾が、東アジア共同体が採用している軍事協力指針に参加する事態になると、中国に台湾攻略の口実を与えることになろう。それは、中国を開戦へけしかけるようなもので危険である。そういうリスクを冒さずに、いかに台湾防衛に協力するか。その知恵が問われている。

     

    (4)「日本とフィリピンは、過去に陸軍と海軍の共同訓練を行っており、今年7月には初の空軍共同演習が行われた。台湾の国防・安全保障研究所の学者である王尊彦氏は、VOAのインタビューで、台湾が安全保障問題で日本やフィリピンとの関係を維持し、将来的には両国の軍事演習を見学または参加することができれば、第一列島線の安全保障を強化することにつながると述べている。また、日本は東南アジア諸国への武器・機材の輸出を積極的に推進していることから、台湾と異なる装備システムを使用している国との相互運用性は、日本の規範によって徐々に解決されていくだろうと付け加えた」

     

    日比両国が、台湾防衛で協力することで合意できれば、大きな進歩になる。

     


    (5)「ジュデアン氏は、台湾の安全保障は日本とフィリピンの両国にとって重要であり、日本は「台湾有事は日本有事」を明確にしている。だが、フィリピン政府はまだそれを認識していないと指摘した。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は就任以来、何度も中国を訪問し、「一帯一路」構想への参加を積極的に推進するなど、親中的な姿勢を見せているが、南シナ海問題では、中国政府に対して厳しい姿勢で臨んでいる。一方、米国との関係では、ドゥテルテ氏は米中の間でバランスを保とうとしているが、そのアプローチは「極端すぎて、ほとんど効果はない」。同氏は、ドゥテルテ氏の米中両国に対する外交政策の迷走は、同盟国間の軍事協力に影を落としていると指摘した」

     

    ドゥテルテ大統領の任期は、22年5月までだ。憲法上の規定によって再選禁止であるが、副大統領として実権を振うとの見方もあるほど。となると、フィリピンの対中政策はふらつく恐れが強い。

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