世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は7月27日、7月の世界の平均気温が観測史上で最高となる見通しだと発表した。国連のグテレス事務総長は、これを受け「地球温暖化の時代は終わり、地球が沸騰する時代がきた」と強調した。熱波や洪水、山火事などにつながる「異常気象がニューノーマル(新常態)になってしまっている」と警告したもの。
この記事は、先に本欄で取り上げた次の記事と関連している。
2023-07-28 |
この異常気象事態を分析した研究論文が、科学誌『ネイチャー』で発表される。北大西洋からの海流が、早ければ2025年以降に止まるという衝撃的内容である。人類の生存に関わる重大な問題が起ることになった。
『フィナンシャル・タイムズ』(7月26日付)は、「北大西洋の海流『想定より早く停止』 研究者が論文」と題する記事を掲載した。
気候変動の結果、北大西洋における海水の循環が従来予想より早く崩壊し、地球全体の気象パターンが乱れる可能性が高まっている。査読済みの新たな科学論文で明らかになった。この研究によると、熱帯から暖かい海水を北方へと運ぶ「ベルトコンベヤー」のような役割をしている海流「大西洋子午面循環(AMOC)」が、2025年から95年のどこかのタイミングで止まる見通しで、最も確率が高いのは50年代という。気候変動の結果、北大西洋における海水の循環が従来予想より早く崩壊し、地球全体の気象パターンが乱れる可能性が高まっている。査読済みの科学論文で明らかになった。
(1)「デンマークのコペンハーゲン大学のピーター・ディトレフセン教授とスサンネ・ディトレフセン教授は最も高い確率で起る予測としており、英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された。一方、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、AMOCが今世紀中に停止する公算は小さいとの見方を表明している。IPCCの予測から逸脱することに引き続き慎重な科学者もいる。米南部フロリダ州沖から欧州北西部沖に向かうメキシコ湾流を含むAMOCが失われれば、北半球の気温が著しく低下する。これに伴い、欧州は冬の嵐に見舞われやすくなり、夏の降雨量が減る。逆に南方では、大気の熱が温帯や寒帯へと運ばれないために気温がさらに上昇し、熱帯降雨やモンスーン(雨期)に大きな変化をもたらす」
ヨーロッパが、あれだけ北に位置するにもかかわらず、暖かい海流によって漁業などが盛んなのは、AMOCと呼ばれる海流循環の結果である。その流れが、止まるというショッキングな内容だ。AMOCは、大西洋循環システムの一つである。大西洋循環システムは、世界で最も強力な海流のひとつである。南極海からグリーンランドまで往復し、アフリカの南西海岸、米国南東部、欧州西部の間を行き来して、何万キロもの距離を流れている。その大西洋循環システムの一部が、今世紀中に停止するとなれが人類の生存に関わる。想像もできない事態になる。
(2)「こうした事態は、温暖化の脅威にさらされている地球にとって「決定的な転換点」の一つとなり、ひとたび起これば取り返しがつかないと懸念されている。ピーター・ディトレフセン氏は「決定的な転換点がこれほど早く訪れると見込まれ、そのタイミングが来ないように抑制していけるのが向こう70年間であるということに驚いた」と述べた。同氏はIPCCのモデルについて「保守的すぎる」との認識を示し、足元で不安定な状況が増えているという早期警告サインを看過していると指摘した」
科学者は、AMOCがいずれ起りかねないことを認めている。その発生する時期が、いつかという問題だけである。となれば、二酸化炭素削除は緊急不可避の課題となる。
(3)「欧州の主要な気候科学者の一人である独ポツダム大学のシュテファン・ラームシュトルフ教授(海洋物理学)は、海流パターンの顕著な変化を示す研究が世界各地で相次いでいると話す。「今回の分析結果は、AMOCの決定的な転換点が従来の想定よりずっと早く訪れる可能性を示す近年のいくつかの研究とも一致する。証拠が積み上がりつつあり、警鐘を発しているように思われる」と指摘する。この問題を世界の第一線で研究する一人である英エクセター大学のティム・レントン教授(気候科学)は、ディトレフセン氏らの研究が「データに直接基づいて気候の決定的な転換点を早期に警告する方法に重要な改善をもたらした」とみる。「転換点を越えた時点で、AMOCを取り戻すことはできなくなる」とレントン氏は語り、「(AMOCの)崩壊とその影響の広がりには時間がかかるが、どれだけ長くかかるかは不透明だ」と続けた」
AMOCをいかに防ぐか。世界は、緊急会議を開くべきテーマである。
(4)「地質学的には、最終氷期(最盛期は約2万年前)に大西洋の海流が10〜20年間で劇的に変化した証拠が示されている。しかし一部の気候モデルでは、21世紀の環境においてAMOCが完全に停止するまでに1世紀ほどかかるだろうと予測されている。ただし、AMOCが部分的に機能しなくなるだけでも、地球温暖化による打撃は深刻化する公算が大きい。他にも海洋に見られる地球温暖化の兆候として、北半球の温帯における海面水温の異常な高さが挙げられる。カナダ東海岸沖では平均水温が最大でセ氏5度上回った。同時に、南極では冬季の海氷面積が観測史上最も小さくなっている。これらの現象はAMOCの変化と直接の関連はない」
下線部は、AMOCの変化と直接の関連はないという。米南部フロリダ州沖から、欧州北西部沖に向かうメキシコ湾流へ集中的に現れる現象と理解すべきなのだろう。