新型コロナウイルスによるパンデミックは、半導体不足というかつてない事態をもたらした。だが、半導体リードタイム(発注から納品までにかかる時間)は、9月に4日間短くなり、数年ぶりの大幅な短縮となった。業界の供給不足が緩和されつつあることを示すものだ。
すでに、半導体市況は崩落が始まっている。これから、リードタイムの緩和化が顕著になれば、どれだけ市況は下落するのか想像するのも怖いほどの事態が訪れそうである。
サスケハナ・ファイナンシャル・グループの調査によると、2017~20年までの半導体リードタイムは、次のようなものであった。ピークは、15.3週(2018年8月1日)。ボトムは、12.7週(2020年1月1日)。これ以降は増加に点じるが、15週を上回ったのは21年1月1日である。
ここを起点にして、次のようにリードタイムは増加の一途を辿っている。
20.4週 21年 5月1日
25.0週 21年11月1日
27.1週 22年 5月1日(ピーク)
26.3週 22年 9月1日
出所:『ブルームバーグ』(10月18日付)
前記のデータを見ると、2017~20年までの半導体リードタイムと「別世界」という感じがする。今後のリードタイムの緩和のメドが、15週以下に短縮されるとすれば、急激な需要減(発注減)が予測できるであろう。
『ブルームバーグ』(10月18日付)は、「半導体リードタイム 数年ぶりの大幅短縮ー供給不足緩和の兆し」と題する記事を掲載した。
サスケハナ・ファイナンシャル・グループの調査によると、9月のリードタイム平均は26.3週。8月は約27週だった。
(1)「同社のアナリスト、クリス・ローランド氏は調査リポートで、全主要製品分野でリードタイムが縮小したとし、電源管理とアナログ半導体が最も短縮されたと指摘した。自動車などのメーカーが十分な半導体確保に苦労するなど、この1年間は世界的な半導体不足がさまざまな業界を悩ませてきた。だが、供給制約は一部で残っているものの、今では多くの半導体メーカーがこれまでとは逆の過剰在庫の問題を懸念している。半導体株の指標であるフィラデルフィア半導体株指数(SOX)は今年に入って44%下げている」
非メモリー型半導体では、一部で供給制約がまだ残っている。だが、多くの半導体メーカーは過剰在庫の懸念を始めている。久しぶりの現象が始まったのだ。
前記のリードタイムの推移を見れば、これからどこまで半導体の需給緩和が進み、メーカーは過剰在庫を抱えて圧迫されるか、という受け身に変わった。半導体産業は結局、「循環産業」であることの宿命から逃れられないのだ。ここ1年半ほど、それを忘れさせたに過ぎないようだ。コロナ特需という恩恵に与ったのである。
『ブルームバーグ』(10月12日付)は、「半導体に嵐の予報、アナリストは08年以来の急ピッチで見通し下方修正」と題する記事を掲載した。
半導体需要に関してマイクロン・テクノロジーやサムスン電子などが発した一連の警告を受け、アナリストらは2008年以来の急ピッチで利益見通しを下方修正している。
(2)「わずか1年足らずで活況から不況に転じた半導体業界は、メモリーチップから半導体製造装置、コンピュータープロセッサーに至る全ての分野に嵐が吹き荒れると身構えている。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は今年に入り42%下落。需要の急低下を伴い、年間ベースで14年ぶりの悪い成績となりそうだ」
半導体メーカーは、短期間に「天国」から「地獄」へと突き落とされる感じであろう。長期的な需要増は確実である。ただ、恩恵を受けるのは非メモリー型半導体になりそうだ。メモリー型半導体は、インドまで「参戦」意向を見せ始めており今後、乱戦必至である。
(3)「ブルームバーグがまとめたデータによれば、半導体企業の利益見通しはこの3カ月に16%引き下げられた。シティグループのアナリストらは苦しいのはまだこれからだと予想、危機が深まるにつれSOXは一段と下げるとみている」
半導体メーカーの業績悪化は、これからが本番を迎える。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は、さらに下落傾向をまぬがれまい。
(4)「シティのアナリストであるクリストファー・デーンリー氏は、「ヘルメットが必要だ。もっと荒れる可能性は高い」と警告する。NXPセミコンダクターズとテキサス・インスツルメンツから、受注の弱さが示されると同氏はみている。「低迷はまだ始まったばかりだ。あらゆる企業、あらゆるエンドマーケットがいずれ実感するだろう」と述べた」
下線のように、これから半導体不況が到来するとしている。「ヘルメットが必要」と言われほどの大嵐が予想されるというのだ。