勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インドネシア経済ニュース

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    インドは、「クアッド」(日米豪印)へ参加して以来、米国との距離を縮め関係を強化している。すでに、米印共同で武器生産に入ることを決めている。さらに幅広い米印技術協力を約束した。一方で、米国はインドに対して中台衝突時に、インドがどのような協力をできるか問い合わせ中という。米印は、同盟ではないものの中国への対抗では「一体化」している。 

    『ロイター』(9月9日付)は、「米印首脳、技術協力など幅広い問題での協力確約 共同声明」と題する記事を掲載した。 

    バイデン米大統領とインドのモディ首相は8日、インドの首都ニューデリーで会談した。両首脳は会談後、米国とインドは民主主義的価値観や半導体のサプライチェーン(供給網)、量子コンピューティングなど幅広い問題で協力するとの共同声明を発表した。

     

    1)「米ホワイトハウスのインド太平洋調整官、カート・キャンベル氏は首脳会談後、記者団に対し、インドと中東や欧州を結ぶインフラや通信分野における「主要な突破口」を見いだすことに両首脳が取り組んでおり、9日にも何らかの発表が行われる可能性があると明らかにした。また、米国家安全保障会議(NSC)の高官によると、米国とインドは、2024年に国際宇宙ステーションのほか、5Gや6G技術、マイクロチップでも協力する見通しという。両首脳は約1時間にわたり非公開の会談を行った。両首脳がインド首相官邸で対面した際、米国の報道陣が両首脳から見えないように車内に待機させられるなど異例の事態となった」 

    米国は、遅れているインドの製造業へテコ入れすべく必死の努力をしている。下線のような技術支援が行われれば、インドのステップアップが進むであろう。インドは、中国への有力な対抗勢力として、米国から全面的な協力を得ている。 

    2)「モディ氏を巡っては、首相就任以来、インド国内における報道の自由が縮小していると批判されている。ホワイトハウスの声明によると、今回の首脳会談にはイエレン財務長官、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が参加。インド側からはジャイシャンカル外相やアジット・ドバル国家安全保障補佐官などが出席したという。バイデン大統領は20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は出席後、ベトナムを訪問する」 

    モディ首相は、国内的に強権手法を用いるとして批判されている。米国も、この点を重々承知はしているが、内政干渉になるので沈黙している。中国という「大きな対抗物」を前に、米印が協力する構図だ。

     

    『ブルームバーグ』(98日付)は、「インド軍、 中台衝突想定し調査研究-どんな貢献できるか米国が打診」と題する記事を掲載した。 

    インドは、中国による台湾侵攻を想定し、どのような対応ができるか検討している。米国から戦争が起きた場合、どんな貢献ができるのか非公式に問い合わせがあったためだ。インド政府高官が明らかにした。 

    (3)「インド軍の制服組トップ、チャウハン国防参謀長は約6週間前、米国とその同盟国を巻き込む台湾を巡る戦争が及ぼす広範な影響と、それに対してインドが取り得る行動を検討するための調査研究を命じた。非公開情報だとして2人の高官が匿名を条件に語った。米国が幾つかの異なるフォーラムでこの問題を提起した後に、この命令が出されたという。この調査研究の期限は設定されていないが、インド軍はできるだけ早く完了させるよう指示されていると高官の1人は説明。検討に基づく選択肢は、モディ首相ら政治指導者が、必要性が生じた場合に最終的な決断を下すために利用できるようになるとこの高官は話した」 

    インド軍は、中台衝突時に米軍へどのような協力ができるか検討を要請している。フィリピンは、軍事補給地の増加(4カ所)で米国へ協力する約束をした。インドも直接、中台紛争へ介入はしないが、それ以外のことで協力の道を探っている。

     

    (4)「米中関係が劇的に悪化した場合、インドの「多国間協調」政策がどのように試されるかを示すものだ。モディ首相は、米国と緊密な関係を築きながら、ロシアに対する国際制裁への参加を拒否することで、国際関係において独自の道を切り開いている。だ、中国との緊張関係がヒマラヤ山脈地帯の国境沿いにある係争地帯で高まっているほか、習近平国家主席がニューデリーで開催される20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を欠席することも対中関係悪化の一因となる」 

    中国は、インドの感情を逆さなぜすることばかり行っている。国境紛争では、中国軍が非武器(スコップなど)でインド軍陣地へ殴り込みをかけるなどして多数の死者を出している。インドの怒りは、大変なものだ。今度は、習氏が何の挨拶もなくG20サミットでインド訪問を取り止めている。「静かな怒り」を燃やしているのだ。 

    (5)「高官らによれば、インド軍が検討する選択肢の一つは、同盟国の軍艦や航空機のために修理・整備施設を提供したり、中国に抵抗する部隊に食料や燃料、医療機器を供与したりする後方支援拠点としての役割だ。より極端なシナリオとしては、インドが北方国境沿いに直接関与し、中国が別の戦いに対応しなければならなくなる可能性を分析することだという」 

    インドは、米軍の兵站機能を果たす決意だ。戦争では、兵站がいかに重要かをロシアのウクライナ侵攻が立証している。フィリピンやインドが、米軍の兵站機能を果たすとすれば、中国は大変な脅威になろう。

     

     

     

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    中国は、米国への対抗上「グローバルサウス」(新興国・発展途上国)を引き寄せようと必死である。日本は、その「グローバルサウス」の代表格であるインドやインドネシアと「親類付き合い」という好位置にあり、日本こそが「グローバルサウス」と共に歩める資格があるとの指摘が出てきた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月10日付)は、「『2つのインド』と日本、グローバルサウス両雄の打算」と題する記事を掲載した。

     

    先の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)はアジアの新興・途上国で「両雄」と目されるインドとインドネシアの首脳も参加した。中国という共通の脅威をにらんで協調する両国は同じ地域大国として緊張もはらむ。そこには日本の役割を見いだす余地がある。

     

    (1)「5月下旬、インドがパキスタンと領有権を争うカシミール地方で開いた20カ国・地域(G20)観光作業部会は象徴的な会議だった。G20メンバーでありながらサウジアラビアやトルコは政府代表を派遣しなかった。理由は「同じイスラム教国のパキスタンに配慮したから」だとされる。世界最大のムスリム人口を誇るインドネシアが代表を派遣したのはなぜか。「インドには恩がある」。インドネシアの外交当局者は理由をこう説明する。インドネシアが議長を務めた22年のG20サミットはウクライナ侵攻を巡る対立で合意形成が困難を極めた。閣僚級の会議でまとめられなかった共同文書を首脳間で採択できたのはインドの協力のおかげだった」

     

    インドとインドネシアは、トップ同士が親密な関係にある。この両国と日本もまた親密な関係を築いてきた。共に、中国への警戒観でも一致するなど「似たもの同士」である。

     

    (2)「シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所が2月に発表した東南アジア諸国連合(ASEAN)各国への世論調査はインドとインドネシアの接近を裏付けた。「米中対立下で第三のパートナーに選ぶべき国・地域はどこか」との問いにインドネシアは9.%がインドと答えた。6つの選択肢のなかで22年の最下位から3位へ順位を上げた。両国の交流は古い。インドネシアは「インドの島々」を意味する。有史以来、インド由来のヒンズー教の王国が興亡を繰り返した。ともに植民地支配を経て、独立後は米ソ冷戦下で「非同盟運動」を主導した」

     

    インドとインドネシアの世論調査でも、両国は互いに相手国をパートナーとして意識するようになってきた。「非同盟」という旗印でも一致している。

     

    (3)「21世紀の国際政治にインドとインドネシアが与える影響はより大きい。アジアの民主主義国で人口は12位につけ、米金融大手ゴールドマン・サックスは国内総生産(GDP)でも50年に中国、米国に次ぎ3位、4位になると予測する。両国が近づく背景には中国をにらんだ打算がある。ともに中国が最大の輸入相手国でありながら、国境紛争や海洋資源を巡る対立も抱える。中国との経済関係を考慮すると米国へ傾斜するのは得策ではない。同じような立場からお互いをパートナーとみなす」

     

    インドとインドネシアは、アジアでの地域大国になれる条件を揃えている。米中対立の中で、どちら側にも付かないという中立姿勢を貫いている。それだけに、日本がこの両国と親密であることは、米国やG7への仲介でも役立てる。

     

    (4)「この関係は将来も続くのか。両国は、南半球を中心とする新興・途上国の総称「グローバルサウス」の代表格だ。ともにリーダーを狙えば、両雄並び立たずの状態に陥る。橋渡し役に浮上するのは日本だ。経済協力開発機構(OECD)によると直近の両国への政府開発援助(ODA)拠出額は2位のドイツを抑えてトップ。外務省の世論調査で両国とも9割以上が「日本は信頼できる」と答えており、米欧より近い関係にある」

     

    日本は、インドとインドネシアへのODA拠出金で1位である。世論調査で両国とも9割以上が、「日本は信頼できる」と答えている。これは、日本にとっては大きな財産だ。それだけに、日本は「グローバルサウス」代表格のこれら二国と連携すれば、外交的にも成果が上げられよう。

     

    (5)「日本が、中国抑止を念頭に提唱した「自由で開かれたインド太平洋」の概念を両国とも受け入れている。インドとは米国、オーストラリアとともに「クアッド」の枠組みでも協力する。自衛隊と海上保安庁は東シナ海で衝突を避けながら中国と対峙してきた経験がある。「2つのインド」の緊密さは日本が双方と関与を深めるうえでも好機だ。旧宗主国への複雑な感情が交じるアジアは米欧が入り込みにくい。そこで新たな3カ国の枠組みを主導して地域の安定に貢献するのは日本の責務であり、日本にしかできないことでもある」

     

    日本が、「グローバルサウス」代表格と密接であることは、G7にとっても貴重な縁になり得る。今後のG7首脳会議では、インドとインドネシアを必ず招待することが必要であろう。

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    米中デカップリンが注目され始めた現在、アップルは生産のほとんどを中国に委託している。万一、米中の軍事対立が起これば、アップルの中国生産はストップしかねないリスクを抱える。そこでアップルは2年前、インドでの生産計画を明らかにしたが、ようやくその第一歩が始まる模様だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月26日付)は、「APPLE 最新iPhone14をインド生産 中国依存を修正か」と題する記事を掲載した。

     

    米アップルは26日、新型スマートフォン「iPhone14」をインドで生産すると明らかにした。アップルは主に中国でiPhoneを製造してきたが、米中の経済対立や中国のロックダウン(都市封鎖)政策を背景に、中国への依存を減らす狙いがあるとみられている。

     


    (1)「アップルは同日の声明で、「私たちはインドでのiPhone14製造をうれしく思う」と述べた。インドではすでにiPhoneのほかのモデルを製造しているが、iPhone14は9月に世界各国で発売されたばかりの最新型だ。米ブルームバーグ通信は8月、アップルが新機種の生産について、中国とインドでの時期の差を従来の69カ月から短縮しようとしていると報じていた」

     

    iPhone14は、9月に発売されたばかりの最新型である。それが、インドで生産できることを証明した形だ。部品製造から組立てまで、インドで一貫生産できる体制が整ったとすれば、中国には脅威となろう。

     

    (2)「ロイター通信はJPモルガンのアナリストの分析として、アップルがインドでの生産を拡大して2025年にはiPhoneの25%が同国製になる可能性があると報じている。現時点でインドのスマートフォン市場では安価な中国メーカー製や韓国メーカー製が大半を占めるが、所得向上を背景にiPhone需要も拡大が期待されている」

     

    アップルは、2025年にはiPhoneの25%がインドで生産可能になるという。ようやく、念願であった「脱中国」への夢が部分的に叶う。生産のすべてを中国一国に委託するのは、全く危険である。一方で、アップルが中国製半導体を購入したことで、米議会の反発を買っている。

     


    『日本経済新聞 電子版』(9月23日付)は、「
    米議員、リスク分析要請 iPhoneの中国製メモリー採用で」と題する記事を掲載した。

     

    米上院情報特別委員会のメンバーは9月22日、中国半導体メーカーの長江存儲科技(YMTC)と米アップルとの潜在的な取引が国家安全保障にもたらす脅威を分析するよう米情報機関トップに要請したと明らかにした。議員らは取引が実現すれば「中国企業に大きな利益をもたらし、米国企業を世界的に弱体化させる」との懸念を示している。

     

    (3)「上院情報特別委員会のワーナー委員長(民主党)とルビオ副委員長(共和党)が22日、米国政府の情報機関を統括するヘインズ国家情報長官に宛てた連名の書簡を公開した。YMTCに関する包括的な公開報告書を作成するよう求めている。韓国メディアなどは9月上旬、アップルがスマートフォンの最新機種「iPhone14」シリーズで使うNAND型フラッシュメモリーの調達先候補にYMTCを加えたと報じていた。アップルはこれまで韓国のサムスン電子やSKハイニックス、キオクシア、米マイクロン・テクノロジーなどからNANDを調達しており、中国勢が加わるのは初めてだ」

     

    米国は、半導体の国内生産比率を高めるべく補助金を支給する。こういう状況下で、アップルが、中国の半導体を購入することで、米国製半導体シェアを食われれば、米国労働者にしわ寄せが行くと懸念しているもの。

     


    (4)「ワーナー上院議員らはヘインズ氏に宛てた書簡のなかで、「アップルのような世界的な大手メーカーとの大型契約に支えられたYMTCの成功は、半導体メモリー生産を支える2万4000人分の米国人の雇用を脅かすことになる」と指摘。「世界の半導体市場を支配するという中国政府の目標を前進させる」とも述べた。英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)の取材に対し、アップルは中国国内で販売する一部のiPhoneに使うNANDについて、YMTCからの調達を検討していると認めた。中国国外で販売するiPhoneにYMTC製品を使うことは考えていないと回答している」

     

    アップルは、中国国内で販売されるiPhoneに使う半導体だけ、中国製半導体を使うと説明している。海外で販売されるiPhoneについては使用しないのだ。米中デカップリングの認識が高まるとともに、部品についも関心が向くようになってきた。


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    世界は今、環境保護が大きな流れだ。異常気象を食止めるためにも、「環境保護」がキーワードである。この流れを上手く利用して、中国の国有企業がインドネシアで希少なオランウータン生息地に、必要でもない「電力発電所」計画を秘かに進めていたことが発覚した。この国有企業は、ロンドン証券取引所上場していたので、さらに驚きの声が広がっている。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月19日付)は、「中国企業、希少オランウータン生息地に発電所計画」と題する記事を掲載した。

     

    ロンドン証券取引所(LSE)に上場する際、環境保護に取り組んでいると宣伝していた中国国有企業が、世界で最も希少な類人猿を絶滅させる恐れがあると科学者が警告しているインドネシアでの開発事業の権益を人知れず取得していたことがわかった。国投電力控股(SDICパワー・ホールディングス)は、欧米の金融大手の支援を受けLSEも強く支持した2020年の上場から2カ月も経たないうちに、2億7700万ドル(約375億円)規模のバタントル水力発電所に投資する計画に署名していた。

     


    (1)「環境活動家は、発電所の必要がなく、この事業が中国の広域経済圏構想「一帯一路」を支持するという政治的理由から推し進められたのではないかと疑っている。また極めて希少なタパヌリ・オランウータンが絶滅する恐れがあると主張している。国投電力控股が発電所の権益の70%を取得したことは、これまで同社の情報開示以外では明らかになっていなかった。今回の件は責任投資関連の市場が拡大するなか、企業が環境保護への貢献を誇張しているとの懸念も高めている」

     

    いかにも、中国的な「噓八百」を並び立てて、水力発電所の開発権益を狙った事業計画が暴露された。環境保護を売り物にして、ロンドン証券取引所へ上場までした企業の「社会的責任」を100%裏切る行為である。最後まで、誤魔化し通せると考えていたとすれば、余りにも短慮というほかない。この幼稚さも中国的と言えるのだ。

     


    (2)「(環境)活動家は、22年に国連生物多様性条約締約国会議の開催国となる中国に、インドネシア西部スマトラ島の事業から撤退するよう求めている。「中国が世界規模で責任ある資金の拠出者になると大きな期待を抱いていた」と環境保護団体マイティ・アースのディレクター、アマンダ・フロウィッツ氏は話した。しかし、今では「中国の国有企業が一つの種を絶滅させかねない事業に参加していることを、深く悲しんでいる」という」

     

    中国は22年、国連生物多様性条約締約国会議の開催国となる。この国際的な役割に泥を塗るのが、今回の国投電力控股のウソである。

     


    (3)「中国国家開発投資公司(SDIC)傘下の国投電力控股は、19年にロンドンと上海の金融面での関係強化を目指して設立された証券の相互取引(ストックコネクト)制度を通じ、20年10月に英国で上場した。欧米金融大手HSBC、ゴールドマン・サックスとUBSが事務幹事となった。当時のLSEのデンジル・ジェンキンス最高経営責任者(CEO)代行は上場を「(国投電力控股の)事業にとって画期的な出来事となる」と称賛した。同社は上場で調達する資金の約70%を海外での再生可能エネルギー事業に使うと話していた」

     

    国投電力控股は、中国国家開発投資公司の系列である。欧米金融大手によってロンドン証券取引所へ上場したほどだ。国投電力控股の水力発電所建設計画は、中国政府の「密命」を帯びていたといえる。ここで発電した電力を、中国本土へ送電する計画もあったはずだ。

     


    (4)「中国の「一帯一路」は、インフラ建設を通じて世界各地で中国の政治的影響力向上を目指す習近平国家主席肝煎りの外交政策で、バタントル発電所もその一環と考えられている。建設反対派は事業の効果に懐疑的だ。マイティ・アースが委託し米スタンフォード大学の研究者が共同執筆者となった20年の報告書によると、同発電所が電力を供給する予定のスマトラ島北部ではエネルギーは不足していないが、今後10年間で80の発電所の建設が予定されている」

     

    バタントル発電所計画は今後10年間に、同地域で80もの発電所計画がされている。それゆえ、オランウータン生息地で発電所を建設する必要性はゼロ。中国は、ここへ割込んで権益を狙ったのだろう。

     


    (5)「ある活動家は、この権益獲得が「地政学的」な理由である可能性を指摘する。「国投電力控股が事業に関与しているのは中国政府の希望ではないかと疑問に思っている」。建設に批判的な人々は、15年に事業が始まった当初から謎が多いと話す。中国の支援を受けた地元企業「ノース・スマトラ・ハイドロ・エナジー」が事業を行うが、21年10月に国投電力控股が同社の株式の過半数を取得した。17年にスマトラ島北部で最大800頭のタパヌリ・オランウータンが確認されたことを受け、活動家は発電所建設に反対するようになっていた。19年に建設に反対していた環境派弁護士が「非常に疑わしい」状況で死亡したことから緊張が高まった。活動家によると、ゴルフリッド・シレガール氏は、暴行を受けた状態で発見され3日後に死亡した」

     

    血なまぐさい犠牲者まで出している。この裏には、中国の陰謀が働いていたと見るのが妥当だ。新疆ウイグル族に対して、あれだけ残酷な弾圧をする中国政府である。利益のためには、手段を選ばずで人間の生命など吹けば飛ぶような存在なのだ。 

     

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    ASEAN(東南アジア諸国連合)は、中国と貿易関係が密接であるため、これまで中国の横暴に我慢させられてきた。ところが、IPEF(インド太平洋経済枠組)効果で、フィリピンとインドネシアは堂々と自国の国益を主張するようになっている。米国が、後ろ盾になっていることで、勇気を持ち始めたのだろう。横暴な中国へ対抗するには、米国を後ろ盾にして「団結」することだ。その見本のような話が、持ち上がっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月30日付)は、「フィリピン次期大統領『南シナ海重視の姿勢』中国けん制」と題する記事を掲載した。

     

    フィリピンのフェルディナンド・マルコス次期大統領が、南シナ海の領有権問題で中国に譲歩しない姿勢をアピールし始めた。経済関係を重視してきたドゥテルテ現政権の対中融和路線を修正する可能性がある。海軍も南シナ海に面する新たな基地の利用を始め、中国へのけん制を強めている。

     


    (1)「6月末に大統領に就くマルコス氏は、26日にフェイスブックで公開したメディア取材の映像の中で、海洋権益について「中国に対して断固として(立場を)伝えていく」と明言した。5月上旬に投開票した大統領選後に外交や安全保障の方針に言及したのは初めてだ。マルコス氏は国家の主権や領有権に「交渉の余地はない」と強調し、中国による一方的な領有権の主張に厳しい姿勢で臨む構えを示した。中国は南シナ海の実効支配を強めている。2021年にはフィリピンが排他的経済水域(EEZ)と主張する海域に自国船を停泊し続けたほか、中国海警局の船がフィリピン船に放水銃を撃つ事案も発生した」

     

    フィリピンは、たびたび中国と摩擦を引き起している。中国からの軍事的圧力が原因だ。米国の同盟国でもあり、今後は密着化の傾向をみせている。日本との関係も強化しており、先に外務・防衛の「2プラス2」会合を持った。自衛隊とフィリピン軍の関連強化も検討課題に挙がっている。フィリピンが、日本に対して積極姿勢である。

     


    (2)「2016年に国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は、南シナ海での中国の領有権主張を否定する判決を下した。マルコス氏は「領有権を主張し続けるために(判決結果を)使用する」と語った。ドゥテルテ大統領は同判決を巡り「本当の意味で仲裁というものはない」と話し、融和的な対中姿勢を維持してきた。マルコス氏は、ドゥテルテ氏の方針を踏襲するとみられてきたが、今回の映像を通じて、現政権より領有権問題を重視する姿勢を打ち出した格好だ」

     

    フィリピンは、中国の南シナ海の不法占拠を常設仲裁裁判所へ訴え勝訴した。ドゥテルテ大統領は、この判決を理由にして中国へ撤退を迫ることはなかった。引き替えに、中国からの経済支援を要請したが、すべて空手形に終っている。中国に騙された格好だ。次期マルコス政権は、「勝訴」を理由に中国へ強気姿勢で臨むのであろう。

     


    (3)「フィリピン海軍も、マルコス政権の発足をまたずに動き始めた。海軍は25日、北部ルソン島サンバレス州のスービック湾で新たな基地の運用を始めたと発表した。同湾は南シナ海に面し、1992年まで域内で最大規模の米軍基地があったことで知られる。新たな基地は約100万平方メートルを有し、中国が実効支配するスカボロー礁(中国名・黄岩島)に近い。南シナ海に自国艦船を出航しやすい新基地で、「海軍の海洋業務を拡大する」としており、中国の軍事活動をけん制する狙いだ」

     

    フィリピン海軍も、スービック湾で新たな基地の運用を始めた。米海軍基地が、1992年まで置かれた場所だ。フィリピン海軍は、ここを起点にして中国の軍事活動をけん制する。

     


    『日本経済新聞』(5月30日付)は、「南シナ海離島を経済特区に、インドネシア政府検討 漁業・観光の投資呼び込み 安保強化 中国反発も」と題する記事を掲載した。

     

    インドネシア政府が南シナ海の自国領であるナトゥナ諸島の経済特区化を検討していることがわかった。漁業や観光関連の投資を呼び込むのと同時に、安全保障態勢を強化する。周辺海域は中国が南シナ海での独自の境界線として主張する「九段線」と重複するだけに、中国が今後反発する可能性がある。

     

    (4)「政府関係者によると、島を所管するナトゥナ県の要請を受け、今年初めに政府内に作業部会を設け、経済特区化に向けた水面下の検討を始めた。ジョコ大統領の任期が終わる2024年10月までの実現をめざす。政府と県はナトゥナ諸島に主に外国企業の投資を呼び込み、漁船や港、物流拠点など基礎インフラを整備し、観光地としての魅力も高める青写真を描く。現時点で、インドネシア政府は18の地域を経済特区に指定し、財政・税制面で優遇している」

     

    ナトゥナ諸島は、漁場や観光地に適した場所のようだ。それだけに、欲深い中国がどのように難癖をつけてくるかである。インドネシア政府は、18の地域を経済特区に指定するほど,開発に力を入れている。

     


    (5)「経済特区化にあわせ、周辺海域の安全保障態勢を強める。ナトゥナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)は、中国が主張する「九段線」と重複し、中国漁船が海警局の公船を伴い活発に動く。ベトナムの漁船も周辺海域で活動している。ジョコ氏は3月、ナトゥナ諸島の経済活性化に向け、周辺海域を活動の用途に応じて複数の区画に分ける大統領令に署名した。基地などの拠点も整備する方針だ。大統領府高官は取材に対し、大統領令について「インドネシアが領土の一体性と権利を守る決意の表れだ」と強調した」

     

    中国が主張する「九段線」は、何ら法的な根拠がないと常設仲裁裁判所によって敗訴になった。一説では、酒に酔った台湾軍将校の書いた区画線が、「九段線」の元とされるほど、出鱈目な話である。中国が、この悪ふざけを利用して「自国領海」と決めただけである。

     

    (6)「米軍との連携も強める。インドネシア陸軍は毎年、自国で開催する米軍との合同演習「ガルーダ・シールド」を22年は過去最大規模とする方針で、ナトゥナ諸島での訓練も検討する。3月には米国のソン・キム駐インドネシア大使が同諸島を訪れ、経済と安保両面の協力強化を打ち出した」

     

    インドネシア軍も米軍との連携を深めている。ナトゥナ諸島での訓練も検討するという。中国が、恥知らずにも横車を押してくるかどうかだ。

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