勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インドネシア経済ニュース

    a0960_004876_m
       

    米中デカップリンが注目され始めた現在、アップルは生産のほとんどを中国に委託している。万一、米中の軍事対立が起これば、アップルの中国生産はストップしかねないリスクを抱える。そこでアップルは2年前、インドでの生産計画を明らかにしたが、ようやくその第一歩が始まる模様だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月26日付)は、「APPLE 最新iPhone14をインド生産 中国依存を修正か」と題する記事を掲載した。

     

    米アップルは26日、新型スマートフォン「iPhone14」をインドで生産すると明らかにした。アップルは主に中国でiPhoneを製造してきたが、米中の経済対立や中国のロックダウン(都市封鎖)政策を背景に、中国への依存を減らす狙いがあるとみられている。

     


    (1)「アップルは同日の声明で、「私たちはインドでのiPhone14製造をうれしく思う」と述べた。インドではすでにiPhoneのほかのモデルを製造しているが、iPhone14は9月に世界各国で発売されたばかりの最新型だ。米ブルームバーグ通信は8月、アップルが新機種の生産について、中国とインドでの時期の差を従来の69カ月から短縮しようとしていると報じていた」

     

    iPhone14は、9月に発売されたばかりの最新型である。それが、インドで生産できることを証明した形だ。部品製造から組立てまで、インドで一貫生産できる体制が整ったとすれば、中国には脅威となろう。

     

    (2)「ロイター通信はJPモルガンのアナリストの分析として、アップルがインドでの生産を拡大して2025年にはiPhoneの25%が同国製になる可能性があると報じている。現時点でインドのスマートフォン市場では安価な中国メーカー製や韓国メーカー製が大半を占めるが、所得向上を背景にiPhone需要も拡大が期待されている」

     

    アップルは、2025年にはiPhoneの25%がインドで生産可能になるという。ようやく、念願であった「脱中国」への夢が部分的に叶う。生産のすべてを中国一国に委託するのは、全く危険である。一方で、アップルが中国製半導体を購入したことで、米議会の反発を買っている。

     


    『日本経済新聞 電子版』(9月23日付)は、「
    米議員、リスク分析要請 iPhoneの中国製メモリー採用で」と題する記事を掲載した。

     

    米上院情報特別委員会のメンバーは9月22日、中国半導体メーカーの長江存儲科技(YMTC)と米アップルとの潜在的な取引が国家安全保障にもたらす脅威を分析するよう米情報機関トップに要請したと明らかにした。議員らは取引が実現すれば「中国企業に大きな利益をもたらし、米国企業を世界的に弱体化させる」との懸念を示している。

     

    (3)「上院情報特別委員会のワーナー委員長(民主党)とルビオ副委員長(共和党)が22日、米国政府の情報機関を統括するヘインズ国家情報長官に宛てた連名の書簡を公開した。YMTCに関する包括的な公開報告書を作成するよう求めている。韓国メディアなどは9月上旬、アップルがスマートフォンの最新機種「iPhone14」シリーズで使うNAND型フラッシュメモリーの調達先候補にYMTCを加えたと報じていた。アップルはこれまで韓国のサムスン電子やSKハイニックス、キオクシア、米マイクロン・テクノロジーなどからNANDを調達しており、中国勢が加わるのは初めてだ」

     

    米国は、半導体の国内生産比率を高めるべく補助金を支給する。こういう状況下で、アップルが、中国の半導体を購入することで、米国製半導体シェアを食われれば、米国労働者にしわ寄せが行くと懸念しているもの。

     


    (4)「ワーナー上院議員らはヘインズ氏に宛てた書簡のなかで、「アップルのような世界的な大手メーカーとの大型契約に支えられたYMTCの成功は、半導体メモリー生産を支える2万4000人分の米国人の雇用を脅かすことになる」と指摘。「世界の半導体市場を支配するという中国政府の目標を前進させる」とも述べた。英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)の取材に対し、アップルは中国国内で販売する一部のiPhoneに使うNANDについて、YMTCからの調達を検討していると認めた。中国国外で販売するiPhoneにYMTC製品を使うことは考えていないと回答している」

     

    アップルは、中国国内で販売されるiPhoneに使う半導体だけ、中国製半導体を使うと説明している。海外で販売されるiPhoneについては使用しないのだ。米中デカップリングの認識が高まるとともに、部品についも関心が向くようになってきた。


    a0960_008564_m
       

    世界は今、環境保護が大きな流れだ。異常気象を食止めるためにも、「環境保護」がキーワードである。この流れを上手く利用して、中国の国有企業がインドネシアで希少なオランウータン生息地に、必要でもない「電力発電所」計画を秘かに進めていたことが発覚した。この国有企業は、ロンドン証券取引所上場していたので、さらに驚きの声が広がっている。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月19日付)は、「中国企業、希少オランウータン生息地に発電所計画」と題する記事を掲載した。

     

    ロンドン証券取引所(LSE)に上場する際、環境保護に取り組んでいると宣伝していた中国国有企業が、世界で最も希少な類人猿を絶滅させる恐れがあると科学者が警告しているインドネシアでの開発事業の権益を人知れず取得していたことがわかった。国投電力控股(SDICパワー・ホールディングス)は、欧米の金融大手の支援を受けLSEも強く支持した2020年の上場から2カ月も経たないうちに、2億7700万ドル(約375億円)規模のバタントル水力発電所に投資する計画に署名していた。

     


    (1)「環境活動家は、発電所の必要がなく、この事業が中国の広域経済圏構想「一帯一路」を支持するという政治的理由から推し進められたのではないかと疑っている。また極めて希少なタパヌリ・オランウータンが絶滅する恐れがあると主張している。国投電力控股が発電所の権益の70%を取得したことは、これまで同社の情報開示以外では明らかになっていなかった。今回の件は責任投資関連の市場が拡大するなか、企業が環境保護への貢献を誇張しているとの懸念も高めている」

     

    いかにも、中国的な「噓八百」を並び立てて、水力発電所の開発権益を狙った事業計画が暴露された。環境保護を売り物にして、ロンドン証券取引所へ上場までした企業の「社会的責任」を100%裏切る行為である。最後まで、誤魔化し通せると考えていたとすれば、余りにも短慮というほかない。この幼稚さも中国的と言えるのだ。

     


    (2)「(環境)活動家は、22年に国連生物多様性条約締約国会議の開催国となる中国に、インドネシア西部スマトラ島の事業から撤退するよう求めている。「中国が世界規模で責任ある資金の拠出者になると大きな期待を抱いていた」と環境保護団体マイティ・アースのディレクター、アマンダ・フロウィッツ氏は話した。しかし、今では「中国の国有企業が一つの種を絶滅させかねない事業に参加していることを、深く悲しんでいる」という」

     

    中国は22年、国連生物多様性条約締約国会議の開催国となる。この国際的な役割に泥を塗るのが、今回の国投電力控股のウソである。

     


    (3)「中国国家開発投資公司(SDIC)傘下の国投電力控股は、19年にロンドンと上海の金融面での関係強化を目指して設立された証券の相互取引(ストックコネクト)制度を通じ、20年10月に英国で上場した。欧米金融大手HSBC、ゴールドマン・サックスとUBSが事務幹事となった。当時のLSEのデンジル・ジェンキンス最高経営責任者(CEO)代行は上場を「(国投電力控股の)事業にとって画期的な出来事となる」と称賛した。同社は上場で調達する資金の約70%を海外での再生可能エネルギー事業に使うと話していた」

     

    国投電力控股は、中国国家開発投資公司の系列である。欧米金融大手によってロンドン証券取引所へ上場したほどだ。国投電力控股の水力発電所建設計画は、中国政府の「密命」を帯びていたといえる。ここで発電した電力を、中国本土へ送電する計画もあったはずだ。

     


    (4)「中国の「一帯一路」は、インフラ建設を通じて世界各地で中国の政治的影響力向上を目指す習近平国家主席肝煎りの外交政策で、バタントル発電所もその一環と考えられている。建設反対派は事業の効果に懐疑的だ。マイティ・アースが委託し米スタンフォード大学の研究者が共同執筆者となった20年の報告書によると、同発電所が電力を供給する予定のスマトラ島北部ではエネルギーは不足していないが、今後10年間で80の発電所の建設が予定されている」

     

    バタントル発電所計画は今後10年間に、同地域で80もの発電所計画がされている。それゆえ、オランウータン生息地で発電所を建設する必要性はゼロ。中国は、ここへ割込んで権益を狙ったのだろう。

     


    (5)「ある活動家は、この権益獲得が「地政学的」な理由である可能性を指摘する。「国投電力控股が事業に関与しているのは中国政府の希望ではないかと疑問に思っている」。建設に批判的な人々は、15年に事業が始まった当初から謎が多いと話す。中国の支援を受けた地元企業「ノース・スマトラ・ハイドロ・エナジー」が事業を行うが、21年10月に国投電力控股が同社の株式の過半数を取得した。17年にスマトラ島北部で最大800頭のタパヌリ・オランウータンが確認されたことを受け、活動家は発電所建設に反対するようになっていた。19年に建設に反対していた環境派弁護士が「非常に疑わしい」状況で死亡したことから緊張が高まった。活動家によると、ゴルフリッド・シレガール氏は、暴行を受けた状態で発見され3日後に死亡した」

     

    血なまぐさい犠牲者まで出している。この裏には、中国の陰謀が働いていたと見るのが妥当だ。新疆ウイグル族に対して、あれだけ残酷な弾圧をする中国政府である。利益のためには、手段を選ばずで人間の生命など吹けば飛ぶような存在なのだ。 

     

    a0960_008527_m
       

    ASEAN(東南アジア諸国連合)は、中国と貿易関係が密接であるため、これまで中国の横暴に我慢させられてきた。ところが、IPEF(インド太平洋経済枠組)効果で、フィリピンとインドネシアは堂々と自国の国益を主張するようになっている。米国が、後ろ盾になっていることで、勇気を持ち始めたのだろう。横暴な中国へ対抗するには、米国を後ろ盾にして「団結」することだ。その見本のような話が、持ち上がっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月30日付)は、「フィリピン次期大統領『南シナ海重視の姿勢』中国けん制」と題する記事を掲載した。

     

    フィリピンのフェルディナンド・マルコス次期大統領が、南シナ海の領有権問題で中国に譲歩しない姿勢をアピールし始めた。経済関係を重視してきたドゥテルテ現政権の対中融和路線を修正する可能性がある。海軍も南シナ海に面する新たな基地の利用を始め、中国へのけん制を強めている。

     


    (1)「6月末に大統領に就くマルコス氏は、26日にフェイスブックで公開したメディア取材の映像の中で、海洋権益について「中国に対して断固として(立場を)伝えていく」と明言した。5月上旬に投開票した大統領選後に外交や安全保障の方針に言及したのは初めてだ。マルコス氏は国家の主権や領有権に「交渉の余地はない」と強調し、中国による一方的な領有権の主張に厳しい姿勢で臨む構えを示した。中国は南シナ海の実効支配を強めている。2021年にはフィリピンが排他的経済水域(EEZ)と主張する海域に自国船を停泊し続けたほか、中国海警局の船がフィリピン船に放水銃を撃つ事案も発生した」

     

    フィリピンは、たびたび中国と摩擦を引き起している。中国からの軍事的圧力が原因だ。米国の同盟国でもあり、今後は密着化の傾向をみせている。日本との関係も強化しており、先に外務・防衛の「2プラス2」会合を持った。自衛隊とフィリピン軍の関連強化も検討課題に挙がっている。フィリピンが、日本に対して積極姿勢である。

     


    (2)「2016年に国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は、南シナ海での中国の領有権主張を否定する判決を下した。マルコス氏は「領有権を主張し続けるために(判決結果を)使用する」と語った。ドゥテルテ大統領は同判決を巡り「本当の意味で仲裁というものはない」と話し、融和的な対中姿勢を維持してきた。マルコス氏は、ドゥテルテ氏の方針を踏襲するとみられてきたが、今回の映像を通じて、現政権より領有権問題を重視する姿勢を打ち出した格好だ」

     

    フィリピンは、中国の南シナ海の不法占拠を常設仲裁裁判所へ訴え勝訴した。ドゥテルテ大統領は、この判決を理由にして中国へ撤退を迫ることはなかった。引き替えに、中国からの経済支援を要請したが、すべて空手形に終っている。中国に騙された格好だ。次期マルコス政権は、「勝訴」を理由に中国へ強気姿勢で臨むのであろう。

     


    (3)「フィリピン海軍も、マルコス政権の発足をまたずに動き始めた。海軍は25日、北部ルソン島サンバレス州のスービック湾で新たな基地の運用を始めたと発表した。同湾は南シナ海に面し、1992年まで域内で最大規模の米軍基地があったことで知られる。新たな基地は約100万平方メートルを有し、中国が実効支配するスカボロー礁(中国名・黄岩島)に近い。南シナ海に自国艦船を出航しやすい新基地で、「海軍の海洋業務を拡大する」としており、中国の軍事活動をけん制する狙いだ」

     

    フィリピン海軍も、スービック湾で新たな基地の運用を始めた。米海軍基地が、1992年まで置かれた場所だ。フィリピン海軍は、ここを起点にして中国の軍事活動をけん制する。

     


    『日本経済新聞』(5月30日付)は、「南シナ海離島を経済特区に、インドネシア政府検討 漁業・観光の投資呼び込み 安保強化 中国反発も」と題する記事を掲載した。

     

    インドネシア政府が南シナ海の自国領であるナトゥナ諸島の経済特区化を検討していることがわかった。漁業や観光関連の投資を呼び込むのと同時に、安全保障態勢を強化する。周辺海域は中国が南シナ海での独自の境界線として主張する「九段線」と重複するだけに、中国が今後反発する可能性がある。

     

    (4)「政府関係者によると、島を所管するナトゥナ県の要請を受け、今年初めに政府内に作業部会を設け、経済特区化に向けた水面下の検討を始めた。ジョコ大統領の任期が終わる2024年10月までの実現をめざす。政府と県はナトゥナ諸島に主に外国企業の投資を呼び込み、漁船や港、物流拠点など基礎インフラを整備し、観光地としての魅力も高める青写真を描く。現時点で、インドネシア政府は18の地域を経済特区に指定し、財政・税制面で優遇している」

     

    ナトゥナ諸島は、漁場や観光地に適した場所のようだ。それだけに、欲深い中国がどのように難癖をつけてくるかである。インドネシア政府は、18の地域を経済特区に指定するほど,開発に力を入れている。

     


    (5)「経済特区化にあわせ、周辺海域の安全保障態勢を強める。ナトゥナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)は、中国が主張する「九段線」と重複し、中国漁船が海警局の公船を伴い活発に動く。ベトナムの漁船も周辺海域で活動している。ジョコ氏は3月、ナトゥナ諸島の経済活性化に向け、周辺海域を活動の用途に応じて複数の区画に分ける大統領令に署名した。基地などの拠点も整備する方針だ。大統領府高官は取材に対し、大統領令について「インドネシアが領土の一体性と権利を守る決意の表れだ」と強調した」

     

    中国が主張する「九段線」は、何ら法的な根拠がないと常設仲裁裁判所によって敗訴になった。一説では、酒に酔った台湾軍将校の書いた区画線が、「九段線」の元とされるほど、出鱈目な話である。中国が、この悪ふざけを利用して「自国領海」と決めただけである。

     

    (6)「米軍との連携も強める。インドネシア陸軍は毎年、自国で開催する米軍との合同演習「ガルーダ・シールド」を22年は過去最大規模とする方針で、ナトゥナ諸島での訓練も検討する。3月には米国のソン・キム駐インドネシア大使が同諸島を訪れ、経済と安保両面の協力強化を打ち出した」

     

    インドネシア軍も米軍との連携を深めている。ナトゥナ諸島での訓練も検討するという。中国が、恥知らずにも横車を押してくるかどうかだ。

    a1320_000159_m
       

    日本が建設を請け負う予定で進んでいたインドネシア高速鉄道(ジャカルタ・バンドン区間142キロメートル)は、契約寸前に中国へ横取りされたプロジェクトである。中国側は、事前調査もしないで日本の作成した建設計画書に基づく「盲建設」であったことから工事は大幅に遅れている。

     

    それでも、同プロジェクトは昨年末時点で工事の進捗率は79.9%までこぎつけ、2022年末までに一部区間の試運転を行った後、2023年に全線完工を目指している。だが、ここで新たな経営問題がでてきた。インドネシア政府の首都移転(24年から首都をジャカルタからカリマンタン島[ボルネオ島]へ)の影響もあり、採算が取れるのは40年後という気の遠くなるような話に変わったのだ。中国には、泣かされるプロジェクトとなった。日本から横取りした「報い」を受けているようだ。

     


    『大紀元』(2月9日付)は、「中国受注の『インドネシア高速鉄道計画』、利益出るまで40年かかる見通し」と題する記事を掲載した。

     

    中国受注の「インドネシア高速鉄道計画」は、20億ドルのコスト超過に直面している。投資を回収し、利益が出るまでに40年はかかる見通しだという。高速鉄道を建設する企業連合の「インドネシア中国高速鉄道社(KCIC)」のドウィヤナ・スラメット・リヤディ社長が2月7日の議会公聴会で明かした。

     

    (1)「現在、KCICが建設中の首都ジャカルタと西ジャワ州バンドンを結ぶ高速鉄道(総延長142キロメートル)プロジェクトは、中国の「一帯一路」構想のもと、中国国家開発銀行が資金を提供して、2018年から着工した。土地の所有権をめぐる紛争や環境問題、パンデミックによる人員不足などにより相次ぐ工期延長の影響で、完工時期が何度も延期された。現在、遅れながらも工事は続いている。当初は完成後20年以内に投資を回収し、利益を上げ始める計画だった。

     

    KCICは、インドネシアの国営企業であるウィジャヤ・カルヤやKAIなどが60%を、残りを中国企業が保有する。 中国の国家開発銀行が資金を提供するこのプロジェクトは、2015年にKCICに発注され、18年に着工された。だが、十分な事前調査をしないことや、建設中に沿線住民へ被害を与えるなどの問題を引き起した。中国と同じ感覚で強行したことが反感を招いたもの。日本流の話合い路線によるソフトな対応であれば、ここまでこじれることもなかったであろう。

     


    (2)「リヤディ社長によると、政府の首都移転(24年から首都をジャカルタからカリマンタン島(ボルネオ島)へ)の影響もあり、同鉄道の乗客数は当初見積もりの1日あたり6万1157人から3万1215人に激減する可能性がある。そのため、投資を回収できるのは完成してから40年はかかるという。用地買収の遅れや労働者の賃金上昇、高騰が続く原材料などで、プロジェクトは約20億ドルのコスト超過に直面しているという。プロジェクト終了時の総事業費は113兆ルピア(約78.5億ドル)に上ると試算される。ロイター通信がKCICのデータを引用して報じたところによると、同プロジェクトは昨年末時点で工事の進捗率は79.9%で、2022年末までに一部区間の試運転を行った後、2023年に全線完工を目指している」

     

    インドネシア政府も無責任である。高速鉄道を建設しながら首都移転とは驚く。需要予測が、完全に狂うからだ。乗客予測では、1日あたり6万1157人が、3万1215人へと実に49%も激減する可能性があるという。これでは、高速鉄道を建設する意味が薄れてしまうだろう。なにか、中国への当てつけのようにも見えるのだ。

     


    プロジェクトは計画よりも約20億ドル増えて、約78.5億ドルへと膨らむという。計画の34%増にもなる。これほど杜撰なプロジェクト計画もないだろう。最初から、計画はあってもない同然のものだったのだろう。中国における高速鉄道建設もこの調子で行なっているにちがいない。他国では、恐ろしくて中国からの高速鉄道導入話を敬遠して当然だ。ASEAN(東南アジア諸国連合)では最近、高速鉄道建設の計画がパタッと止まっているのは、この結果であろう。

     

    (3)「このプロジェクトをめぐって、日本と中国は当時、激しい受注合戦を展開した。最終的にインドネシアは、財政負担を伴わない中国案の採用を決定した。中国は現在、世界で最も早く高速鉄道を開発・建設している国である。「インドネシア高速鉄道計画」は中国以外の国で、完全に中国規格で建てる初の鉄道となる。そのため、将来に向けた成功事例を作るためにも重要な存在とされている」

     

    完全に中国の敗北である。竣工期間は狂う。建設予算は大幅に増える。こういう当てにならない中国へ、高速鉄道建設を委託する国は現れるはずがない。中国は、自分で自分の首を締めてしまったのだ。

    a0960_008567_m
       

    中国は、あらゆる分野で背伸びしている。端から見ていると、「痛々しい」ほどの自己主張である。これが、「中華再興」というものとしたら、侘しい限りである。

     

    中国国有旅客機メーカーである中国商用飛機(COMAC)が、航空機リースの中国飛機租賃集団(CALC)と組み、海外進出を果たそうとしている。CALCが出資するインドネシアの地域航空会社が、中国初の国産ジェット旅客機の運航をインドネシア運輸省に申請したのだ。

     

    商用機は、世界標準となっている欧米で、安全性確保で求める機体や部品の「型式証明」を取得する決まりになっている。中国は、その取得に失敗したにもかかわらず、強引に海外で飛行させるようと挑戦をしているもの。習近平氏並の度胸の良さだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(1月11日付)は、「
    中国国産機、苦肉の海外進出『型式証明』なお未取得」と題する記事を掲載した。

     

    2021年12月、上海浦東国際空港からCOMACが開発したリージョナルジェット機「ARJ21」(座席数は78~90席程度)が試験飛行に飛び立った。機体には、白地に紺色と黄色のインドネシアのトランスヌサ航空仕様の鮮やかな塗装が施されていた。トランスヌサは、11年に商業飛行の許可を得たインドネシアの地域航空会社だ。現在は運航を休止しているが、以前は東ヌサトゥンガラ州クパンのエルタリ空港を拠点に複数の都市を結んでいた。近く、運航を再開する見通しで、ARJ21の導入を計画しているのはトランスヌサがCALC(中国飛機租賃集団)の傘下にあるためだ。

     

    (1)「2016年に商用飛行が始まったARJ21は、海外進出はいまだ実現していない。航空機の世界標準となっている欧米で、安全性確保で求める機体や部品の「型式証明」を取得できなかったためだ。中国の政治・経済的な影響力の強いアフリカや広域経済圏構想「一帯一路」関連の航空会社を海外受注のターゲットとせざるを得なかった。中国の李克強(リー・クォーチャン)首相は14年、アフリカ各国を歴訪し、ARJ21を売り込んだ。その結果、アフリカのコンゴ共和国が3機の購入を決めた。16年にはコンゴ政府が型式証明を付与し、18年には同国からパイロット研修生を受け入れるなどした。ただその後、新型コロナ禍で世界の航空機需要が急減しており、COMACはコンゴにARJ21を納入したかどうかは明らかにしていない」

     


    航空機の安全運航は、絶対条件である。中国の商用機
    ARJ21は、航空機の世界標準となっている欧米で、安全性確保で求める機体や部品の「型式証明」を取得できなかった。だが、中国政府は2016年から「強引に」飛行させている。この間に、事故は起こっていないが、危ないフライトである。これまでは、中国の影響力の強いアフリカで売り込みを図ってきたが、実績は不明である。

     

    (2)「停滞する海外進出の課題を解決するために打ち出したのが、生産・リース・運航を三位一体で運用する「垂直統合戦略」だ。CALCは16年にCOMACと提携関係を結んだ時点で、インドネシアの航空会社に投資する計画を公表していた。インドネシア運輸省によると、トランスヌサは現在、運航再開に向けた許可手続きを申請中だ。22年1~3月期に再び営業を始める構えで、機材はエアバスの「A320neo」と「ARJ21」を使う予定だ。ジャカルタデンパサール(バリ島)、ジャカルタジョクジャカルタなど「ドル箱」路線を開設したい方針で、運輸省に提出した再開計画では「ARJ21を26年までに最大30機、取得する」としている」

     

    中国は、インドネシアをターゲットにして、生産・リース・運航を三位一体で運用する「垂直統合戦略」を立て「ARJ21」の売り込みをしている。インドネシアでは、エアバスの「A320neo」とライバル関係になるという。確立しているエアバスの「名声」に対抗できるか不明である。

     


    (3)「ただ、その先行きは不透明な側面もある。インドネシアには型式証明のような飛行機ごとの運航許可制度がある。「A320neo」は、すでに許可を得ている一方、「ARJ21は未取得」という。現在は運航を停止している小規模な地域航空会社が、ARJ21を最大30機、このほかエアバス機も導入する計画は「現実的ではない」(関係者)との声も聞かれる。機種を増やせば、乗務員のライセンス取得や保守部品などのコストもかさむ。さらに、インドネシアと中国は南シナ海問題での対立も浮き彫りになっている。インドネシアにとって中国は最大の貿易相手国だ。経済面の依存は強いものの、中国が海外進出を熱望しているARJ21の運航をインドネシア政府が認めるかどうかは定かではない」

     

    形式証明で落第した中国商用機が、エアバスと互角の競争ができるのか。最終的には、インドネシア政府が中国機に運航許可を出すかどうかだ。現状では、疑問視されている。

    このページのトップヘ