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ASEAN、「本音は?」米中の覇権争い、どちらに味方するか「大半は国益次第」
中国は、南シナ海の他国領の島嶼を占領して軍事基地化している。これに飽き足らず、太平洋諸国まで手を伸して、自国権益下に収めたいと狂奔しているところだ。これに対して、ASEAN(東南アジア諸国連合)の国々は、どう見ているのか。
西側諸国は、「中ロ枢軸」という目で中国とロシアを一体化している。だが、ASEANではロシアに対し、地政学的に関係が薄いこともあって、今回のウクライナ侵攻では経済制裁に対し「中立」の立場だ。ロシアと直接の関わりがない以上、経済制裁に参加してロシアの恨みを買いたくないと思うのは自然であろう。
『日本経済新聞 電子版』(6月8日付)は、「大半の国、中立姿勢保つ」と題するインタビュー記事を掲載した。 チャン・ヘンチー シンガポール政治学者へのインタビューである。
ロシアのウクライナ侵攻に対する国連総会の非難決議には141カ国が賛成した。国連決議に賛成した国の中でロシアへの制裁に踏み切ったのは、欧米やその同盟国を除くと、わずかだ。アジアや中南米、アフリカの大半の国は制裁に同調していない。この状況がウクライナ侵攻後の世界の新たな秩序を表している。
(1)「世界の大半の国は、米国・欧州、中国・ロシアのいずれの陣営にも完全にくみしない「第3の空間」に属することを望んでいる。自国の国益を第一に考え、ある問題では米国の立場に賛同し、別の問題では中ロに近い立場を取ることを矛盾だと考えない。第3の空間はどこかの国によって組織化されているわけではなく、冷戦時よりも構図はさらに複雑になっている。例えば日米豪と共に「Quad(クアッド)」の一員であるインドは、中国に関して3カ国と歩調を合わせるが、それ以外の問題では独自の立場を譲らない。実際、ロシアとの軍事面での協力関係の深さから、ウクライナ侵攻を非難せずに中立姿勢を保っている」
大国か中堅国でなければ、旗幟を鮮明にせず中立を守る。これが、国益に適っていることは当然だ。中立でなければ、反対陣営から圧力を受けるリスクを背負う。
(2)「逆に、中国に近いカンボジアは、ロシアに対する国連の非難決議では賛成に回った。カンボジアは過去にベトナムに侵攻された苦い歴史があり、大国による侵攻に声を上げることが自国を守ることだと考えている」
カンボジアは過去、ベトナムに侵略された歴史がある。それゆえ、ロシアのウクライナ侵攻に反対を表明した。
(3)「バイデン米政権が民主主義と専制主義の二項対立を強調するのは、賢いやり方ではない。安全保障を経済までも含む広義の範囲に捉え、貿易のデカップリング(分断)を加速するのも、世界を貧しくするだけで、どの国の利益にもならない。東南アジア諸国連合(ASEAN)は民主主義、疑似民主主義、共産主義、社会主義、国軍による支配と多様な政治体制の集合体だ。民主主義は地域を導く旗印にはならない。私は民主主義が最良の政治形態だと信じているが、強力な中間所得層の基盤がなければポピュリズム(大衆迎合主義)にすぐに陥る難しさがあり、西欧の民主主義には逆風が吹いている」
バイデン政権の「二項対立」を批判している。これは、シンガポールが地政学的リスクを抱えていないので、ウクライナ侵攻を他人事に捉えている結果であろう。この議論を欧州で行なえば、総スカンを食う筈だ。
だが、IPEF(インド太平洋経済枠組)にASEAN10ヶ国のうち、7ヶ国が参加している事実をどう説明するか。米国陣営に与した方が、国益に適うという判断によるものだ。抽象的議論で、国際関係を理解できない現実がここにある。
(4)「ウクライナ侵攻と中国の台湾侵攻を結びつける議論もあるが、ナンセンスだ。中国は1949年の建国以来、対外侵略には極めて慎重で、できれば軍事行動なしに台湾統一を実現したいと考えている。ウクライナ危機に乗じて、台湾統一を急ぐことはないだろう。むしろ欧米が、中国のレッドライン(越えてはならない一線)を理解していないことを懸念している。欧米の議員団が台湾を訪問し、中国とチキンレースを招く状況をつくり出している。誤解によって、台湾で衝突が起きないか心配している」
下線部は空論である。中国が、空母三隻を建艦している意図はなにか。それは、台湾と尖閣諸島への侵攻目的と解するほかない。余りにも、中国を善意に解釈しているが、ナイーブ過ぎる。政治学者として現実への理解が不足しているように見えるのだ。まさに、「講壇政治学」の域を出ない珍説であろう。
(5)「今の国連は、分断された世界を象徴し、何も実行できない。しかしウクライナのような小・中規模の国にとっては依然、自分たちの問題を取り上げてもらうことができる重要な機構だ。日本はアジアの国々から、大国の中で最も安心できる存在とみられており、各国への防衛協力や能力構築支援も歓迎されている。ウクライナ危機後、ドイツなどは防衛力の強化に乗り出し、日本でも防衛費の増加が議論されている。各国の反応はあくまで日本がどこまで踏み込むかによる。反発がある一方で、理解を示す国もあると思う」
このパラグラフでは、国連の役割に期待している。現実は、無能化しているだけに、最後は同盟が国連に代わる役割をするであろう。日本やドイツが防衛費を強化しても同盟国の一員である以上、単独で軍事行動できる筈がない。このインタビューは、現実感覚ゼロの不思議な内容である。
メルマガ363号 「薄氷」中国 ASEANから7ヶ国もIPEFへ 外交的に大打撃
米の新たな切り札IPEF
インドが国是を破った背景
海洋追跡態勢で中国を監視
権威主義対民主主義の戦い
中国は、アジアの盟主を狙って近隣諸国を睥睨(へいげい)してきた。足元のASEAN(東南アジア諸国連合)とは、経済関係で密接なつながりを持ってきたので、中国の政治的な影響力は揺るがないと自負してきたはずである。だが、この思い上がりは一瞬で崩れることになった。
米国主導のIPEF(インド太平洋経済枠組)へ、ASEAN10ヶ国のうち、親中派のミャンマー、カンボジア、ラオスを除く7カ国が参加したのである。インドネシア、フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナム、シンガポール、ブルネイなど7ヶ国だ。これら諸国は、中国から何らかの被害を被っている。とりわけ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイは、中国の南シナ海領有主張で権益を奪われた国々である。中国を快く思う筈がない。
中国は、自らが脛に傷持つ身でありながら、IPEFを米国の経済植民地と連日、非難攻撃している。IPEFの結成が、よほど中国の弱点を突いているのであろう。
米の新たな切り札IPEF
IPEFとはどのような内容か。暗黙的だが、中国へ対抗する「経済安全保障」という色彩を持っている。中国の影響力を排除して、安定的な経済活動を行なう目的だ。米中デカップリング(分断)の一環である。
IPEFには、TPP(環太平洋経済連携協定)のように関税引き下げメリットはない。それでも前記のASEAN7ヶ国の他に、「クアッド」(日米豪印)4ヶ国と韓国、ニュージーランドの合計13ヶ国が参加することになった。分野は次の4部門である。分野ごとに参加国は変わるという柔軟組織である。
1)貿易
2)供給網
3)インフラ・脱炭素
4)税・反汚職
前記4部門はIPEFの柱である。具体的な内容は決まっていない。参加国が相談して決めるという民主的な手続きを踏む。ASEANから7ヶ国が、中国の反発を恐れずに参加するには、IPEFにそれなりの魅力を感じとっている筈だ。その魅力とは多分、2)供給網と、3)インフラ・脱炭素と見られる。
2)供給網では、半導体などで混乱が起きたときに助け合えるよう(品不足の)早期検知システムの構築をする。長期的には、各国で生産能力をシェアし、融通しあえる体制を整えなければ、IPEFに参加する意味はない。現状では、自国で半導体生産など夢のような話に聞える国でも、日米韓という半導体先進国がIPEFのメンバーあれば、気安く相談できる環境になる。
3)インフラ・脱炭素も魅力的な分野だ。いずれも、大規模な資金と技術を必要とする。インフラでは、今回の「クアッド」会合で500億ドル(約6兆4000億円)の拠出を決めている。これは、一回だけの拠出でなく継続的に行なわれる筈だ。日米主導のABD
(アジア開発銀行)から優先的な融資を受けられるという便益も考えられる。
米国では、中国の「一帯一路」プロジェクトに代わって普及させると意気込んでいる。アジアは将来、経済発展する余地が大きいと見込まれているだけに、日本のODA(政府開発援助)の拡大版で低利・長期の融資を行なえば、アジアの経済発展に寄与することは確実であろう。
米国はIPEFについて、関税引き下げメリットがなければ、結束力を欠くとの批判がある。理想型は、TPP(環太平洋経済連携協定)であり、米国がここへ復帰すれば、問題はすべて解決すると指摘するのだ。ただ、米国では関税引き下げが労働者に被害が及ぶとして反対論が強い。IPEFは、こうしてTPPの簡易版という位置づけであり、「次善の策」としている。関税引き下げがないので、国会の審議も不要だ。バイデン政権には、早急に成果を出せる意味で、取り組みやすいというメリットがある。
このIPEFは、日本が事務方となって切り盛りすることになろう。TPP加盟国が、日本を含めて6ヶ国と多く、IPEF13ヶ国の半分近いことで、日本を仕切り役にするであろう。日本は、ODAで培った相手国の事情を100%汲み取ることになれているからだ。これが、アジアにおける日本の信頼度を1位に押し上げている背景である。
インドが国是を破った背景
「非同盟」を国是とするインドがなぜ、IPEFに参加したのか。最大の理由は、中国と長年にわたり国境紛争を起している事情がある。その意味で、「反中国」の色彩の強いIPEFで「仲間」ができれば、これに超したことはないのだ。
今回の「クアッド」会議で、米印首脳会談も開かれている。これについて、インド外務省報道官は24日、次のようにツイッターへ投稿した。「両国の貿易、投資、技術、防衛、人的関係の協力を強化する方法について議論して、実質的な結果が得られ、2国間のパートナーシップの深みと勢いが増した」というのだ。
これまで、インドと米国の関係は決してスムーズなものでなかった。そのインドがクアッドへ参加したのは、安倍首相(当時)とインドのモディ首相が昵懇という背景があったからだ。インドが、ロシアのウクライナ侵攻に対して「中立」の立場を取っているのは、武器供給でロシアへ依存していることと無縁でない。この間、米国はインドに対して冷淡な態度で臨んでいた。これが、米国への不信を高めた理由だ。(つづく)
中国、「我執」インドネシア・マレーシアのEEZ内で横暴 領有権ないのに横車「赤っ恥」
中国は、南シナ海の9割を自国領海であると一方的に宣言して関係国と軋轢を深めている。現在は、インドネシアとマレーシアが、EEZ(排他的経済水域)内での石油掘削を始めたことに抗議している。泥棒が、持ち主に向かって文句を言っている構図であり、中国の「品格」を著しく損ねる行為である。
『ニューズウィーク 日本語版』(12月19日付)は、「インドネシア・マレーシアの海洋開発に中国が圧力」と題する記事を掲載した。筆者は、大塚智彦氏である。
インドネシアは、自国の排他的経済水域(EEZ)で実施している海底石油・天然ガス資源の掘削作業に対して、中国が中止を求めている。マレーシアのEEZ内では、中国が一方的に海洋資源調査を実施するなど、新たな緊張を生み出している。いずれも中国が海洋権益の及ぶ範囲として主張している『九段線』に関わるものだ。中国側が、同海域であえて権益争いを激化する動きを見せるなど挑戦的である。
(1)「南シナ海は、米国とその同盟国である日英豪インドなどが「航行の自由、飛行の自由が保障された自由で開かれたインド太平洋」を唱える海域と重複している。中国が、インドネシアやマレーシアと関係緊張化することは、米国との関係悪化も絡み、南シナ海はここへきて一層「波高し」となっている。中国政府は、在ジャカルタの中国大使館を通じてインドネシア外務省に文書を送り、南シナ海の南端であるインドネシア領ナツナ諸島北方海域でのインドネシアによる石油・天然ガス資源堀削を中止するよう求めた。ロイター通信が12月1日に伝えた」
中国は、近隣国のインドネシアやマレーシアと事を構えている。本来、中国に領有権がないにもかかわらず、「イチャモン」を付けているのだ。暴力団の因縁と同じ構図である。これでは、中国はASEAN(東南アジア諸国連合)から信頼されるはずがない。
(2)「同海域は、インドネシアのEEZに対し、中国が一方的に「自国の海洋権益が及ぶ『九段線』と重複する海域がある」として、かねてからインドネシアに2国間協議での平和的解決を求めている。これに対しインドネシア側は「同海域で中国との間に協議するような問題は存在しない。従って2国間協議の必要はない」(ルトノ・マルスディ外相)として一切の妥協の余地をみせない強い姿勢をとってきた。こうしたインドネシアの強い姿勢に不満を高めた中国側が、今回掘削の中止を外交ルートで求めたことになる。背景には、インドネシアへの不満と焦りが中国側にあるとみられている」
インドネシアは、中国からこういう嫌がらせを受けながら、高速鉄道の建設を任せるなど、不可解な事もやっている。日本的な感覚では、理解できない振る舞いに見える。
(3)「『九段線』に関してはフィリピンの提訴を受けてオランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年に「国際法などいかなる法的な根拠はない」と認定しているが、中国側はこれを認めない頑なな姿勢を崩していない。また中国は南シナ海を巡ってマレーシア、ベトナム、フィリピンなどとも領有権争いを抱えている。いずれも各国のEEZに対して中国が『九段線』を理由に「中国の領海ないし海洋権益が及ぶ海域」として対立しているのだ」
中国の南シナ海領有宣言は、2016年にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が法的な根拠がないと認定している。それにも関わらず、自国領海と横車を押しているのだ。「ガツン」と中国へ鉄拳を加えなければならないが、そうなると戦争になる。各国はそれを回避すべく我慢しているのだ。中国は、これだけでも大きな失点なのだ。いずれ、大きなブーメランに見舞われて当然だろう。
(4)「こうした状況で中国は11月にフィリピンのEEZ内にあるフィリピン海軍の座礁船を撤去するよう要求。11月16日には座礁船に駐留するフィリピン兵士に食料などを輸送する民間船舶に対して中国海警局の船舶が進路妨害と放水を行い、民間船舶が損傷を受けるという事件も起きている」
この件では、米軍が米比相互防衛条約に基づいて反撃すると警告した。
(5)「マレーシアのボルネオ島北西部のEEZ内で、中国の調査船が海底資源を調査しマレーシアの抗議にも関わらず11月以降も継続している。同海域には、以前から中国の航空機が接近して、マレーシア空軍が警戒強化するなどの事態が起きている」
マレーシアでは、自国EEZ内で中国調査船が入り込んで海底資源調査を行なうという無法ぶりを見せつけている。
(6)「こうした中国側の姿勢の背景には、2022年10月インドネシア・バリ島でのG20サミット開催と関連あるのは間違いないといわれている。東南アジア初のサミット開催で、議長国を務めるインドネシアは米中首脳をはじめとする先進国首脳が顔を揃えるサミットを主導する立場を担うことになる。同サミットで中国の南シナ海における一方的な海洋権益主張、拡大に対する警戒感を共有する各国に対して、インドネシアがどう協議をリードするのかが中国にとっては重要問題となっている」
インドネシアは来年10月、G20サミットの議長国になる。中国は、今から議長国役のインドネシアへ圧力を掛けて、中国に有利な議長声明を出させるように狙っているのであろう。ともかく、「セコイ」やり方で呆れる。
中国、「強敵現わる」G7、ASEANへ接近し安全保障の後ろ盾「C国は孤立へ」
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中国の「戦狼外交」は、世界のあちこちで敵をつくっている。中国は、威張りちらすことが国威発揚と錯覚しているのだ。中国の隣国であるASEAN(東南アジア諸国連合)も、戦狼外交の被害を受けているだけでなく、南シナ海にある島嶼を中国に奪われ泣き寝入りさせられている。
G7外相会議は、このASEANの苦境を救い、中国の領土的野心を封じるために積極交流することになった。新たな外交交渉が始まる。
ASEANが、この段階でG7との関係強化に乗出している背景に注目する必要がある。それは、中国経済の「息切れ」である。中国の盟友であるパキスタンは、すでに中国経済の悪化をひしひしと感じている。パキスタンへの直接投資が激減しているのだ。この状況は相当長く続くと見ている。ASEANも同じ感触であろう。
中国は、他の新興国のGDPに見られる相関関係が、2015年以降にほぼ完全な相関(0.9超)からほぼ相関なし(0.2未満)へと低下している。2021年4~6月期に中国の成長率は、30年ぶりに他の新興国を大きく下回った。このことから、「来るべき未来の前触れとなるかもしれない」という予測が出てきたほどだ。ASEANが、あえてG7へ接近している裏には、中国経済依存度が下がる兆候があるに違いない。外交関係では、「金の切れ目が縁の切れ目」なのだ。
『日本経済新聞 電子版』(12月13日付)は、「G7、インド太平洋への関与強化 外相会議 中国の勢力拡大懸念」と題する記事を掲載した。
12月12日に閉幕した主要7カ国(G7)外相会合では、インド太平洋地域への関与強化を打ち出した。台頭する中国による抑止を念頭に、G7と東南アジア諸国との利害が一致した。今回、オンラインも交えて東南アジア諸国連合(ASEAN)も初参加した。日本の林芳正外相は12日、「ASEANは『自由で開かれたインド太平洋』実現の要だ」と述べ、ASEANとの連携の重要性を訴えた。英国やドイツがインド太平洋に艦船を派遣するなど、欧州諸国も同地域への関与を強めている。同盟国と連携して中国に対応するというバイデン米政権の方針にも沿った動きだ。アジアの経済成長の取り込みにつなげる狙いもある。
(1)「中国は、ASEAN諸国と安保面での摩擦を抱えつつも、経済依存関係を強めて取り込みを図る。11月下旬の中国とASEANのオンライン形式の首脳会議では、両者の外交関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げすることを決めた。日米や欧州連合(EU)は一段下の「戦略的パートナーシップ」のまま。G7側には中国の影響力の増大が続き、民主主義陣営の影響力が落ちるとの危機感がある。今回、G7会合にASEANを招いたのは、この流れを変える思惑だ」
このパラグラフでは、中国経済が依然として成長軌道にあるという認識である。現実は、異なっている。パキスタンが、中国経済の減速ぶりに驚いているように、ASEANも同様の感触と見られる。そうでなければ、G7へ接近することは考えにくい。潤沢な資金を持つ中国であれば、ASEANの関心を引きつけているはずだ。
(2)「声明では、中国が南シナ海で進める軍事拠点化などを念頭に「埋め立てなどの重大な活動に懸念が示されている」と指摘した。G7とASEANで「海洋安全保障、航行・上空飛行の自由の促進などの海洋協力の強化を奨励する」と訴えた。ASEAN側も国際法の順守を軽視して海洋進出を図る中国をけん制するために、G7の後ろ盾を期待していた。G7側の議長、トラス英外相は12日の記者会見で「安全保障の協力が増えるほど、我々はより豊かに自由になる」と強調した」
下線部は、従来では想像できなかったことである。ASEANは、堂々と中国に対して南シナ海問題で注文をつけるようになってきた。この変化に気付かねばならない。従来は、中国の下工作で沈黙を強いられていたのだ。
(3)「G7はASEANを含めた途上国に「持続可能で強固な質の高いインフラ投資」を提供することも確認した。中国が広域経済圏構想「一帯一路」を通じたインフラ支援で、一部の途上国に多額の債務負担を強いていることが念頭にある。ASEAN事務局によると、2020年のASEANと中国の貿易額は5169億ドル(約58兆円)と過去10年で2倍以上に伸び、G7の総額の8割弱まで迫る。経済面の結びつきを強める中国に対し、G7側の巻き返しは簡単ではない」
G7は、ASEANと接触を深めた裏に、英国がG7の議長国という巡り合わせもある。英国は来年、TPP(環太平洋経済連携協定)に正式加盟の予定である。そうなると、ASEANの中でTPP加盟国(ブルネイ、マレーシア、シンガポール、ベトナム)と同じ釜の飯を食う仲になるのだ。英国が、ASEANとG7の仲立ちをする適役であったことが分かる。今後、英国が外交手腕を働かせて、ASEANをG7側に引き寄せる接着剤になりそうだ。