勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 欧州経済

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    中国の「一帯一路」は、中国の利益追求が第一であることが明らかになっている。欧州への直行貨物便はコンテナ満載だが、帰りは空で帰っているという。つまり、中国からの輸出が、輸入は微々たるものという実態を浮き彫りにしている。この事実に、東欧諸国は不満を強めている。

     

    一方、リトアニアが台湾と関係強化に踏み切ったことを受け、中国は欧州連合(EU)を舞台として反撃に出ている。中国はここ数週間でリトアニア企業を自国市場から事実上締め出しており、米欧の当局者によれば、中国はリトアニア産品を受け入れている欧州と米国の企業に対し、リトアニアと貿易を絶たなければ関係を凍結するという圧力をかけ始めた。

     

    中国は輸出だけして、リトアニア問題で輸入を禁止するという、極めて矛楯した動きを見せている。「身勝手」な中国の一面を浮き彫りになっている。

     


    『大紀元』(1月7日付)は、「中国と欧州結ぶ中欧班列『帰りは空コンテナ』 相手国受益せず」と題する記事を掲載した。

     

    中国と欧州や「一帯一路」沿線国を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」の2021年11月までの輸送量が、前年比30%急増した。英国の専門家は、中国に戻るコンテナの大半は荷物を積んでいない空っぽの状態であることを問題視し、同貨物列車は、欧州ではなく中国に恩恵をもたらしていると指摘した。米国営放送『ラジオ・フリー・アジア』(RFA)が報じた。

     

    (1)「中欧班列は中国政府が推し進めている広域経済圏構想「一帯一路」の一環である。新型コロナ感染症の世界的な流行に起因する海上・航空輸送の滞留により、中欧班列の輸送量が急激に増えた。香港英字紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』によると、中欧班列は2021年1月からの11カ月間、1万3817便が運行し、133万2000個のコンテナを運び、それぞれ前年同期比23%、30%増となった」

     

    中国から欧州への直行貨物便は、2021年1月からの11カ月間で30%も便数が増えたという。コロナ禍で海上輸送が途絶したことのプラス効果もあったはずだ。

     


    (2)「同紙は別の記事で、英国の学者ドラガン・パブリチェヴィッチ氏の見方として、ヨーロッパ行きは満載だった同貨物列車の復路はほとんど空コンテナであることから、中国からの輸出量は、中国への輸入量よりはるかに多いと報じた。台湾輔仁大学の外交・国際問題学部の責任者、張孟仁氏はRFAのインタビューで、中国沿線都市の市民は同貨物列車の開通により、もっと安い「欧州製」の商品が買えると期待していたが、現実には、そうならなかったと話した」

     

    ヨーロッパ行きは満載だった貨物列車が、復路はほとんど空コンテナであるのは、中国の輸入量が少ない象徴的な事例である。

     

    (3)「張氏は、「中欧班列は、中国が掲げる『中国の夢』を実現させるためのもので、欧州の夢を叶えるためのものではない」と指摘した。「中国は過剰な生産能力を他国に輸出することに成功した」という。欧州連合(EU)は昨年末、「一帯一路」に対抗する、世界的な投資計画「グローバル・ゲートウェイ」構想を打ち出した。

     

    一帯一路が、最終的に中国の夢を叶える手段であることから、EUはこれに対抗して「グローバル・ゲートウェイ」構想を打ち上げている。実現までには時間がかかるが、中国だけが利益を得る方法は長続きしないのだ。

     


    (4)「中国は当初、一帯一路を通じて、中欧班列の沿線都市である中国の重慶、成都、武漢とカザフスタンの南東部にあるアルマトイ、ハンガリーの首都ブダペスト、ポーランドの首都ワルシャワ、チェコの首都プラハなどの内陸都市を、新たな輸出入のターミナルにするという計画だった。チェコの外相はかつて、中国はチェコにとって第2位の輸入国であるが、第18位の輸出国に過ぎず、チェコに巨額の貿易赤字をもたらしていると発言した。張孟仁氏によると、チェコ、リトアニア、スロバキアなどの中東欧諸国は、中国との協力関係から経済的な恩恵を受けていないことを認識したため、台湾との経済・貿易関係を強化したという

     

    チェコ、リトアニア、スロバキアなど東欧諸国は、一帯一路で経済的な利益を得られないことから、中国と距離を置き始めている。特に、リトアニアは台湾との関係強化に動いている。これが、中国との紛争に発展している。中国が、リトアニア製品とリトアニア製部品を採用した製品輸入を禁止する動きに出て騒ぎになっている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月5日付)は、「中国の強い貿易圧力、欧州は対応に苦慮」と題する記事を掲載した。

     

    リトアニアが台湾と関係強化に踏み切ったことを受け、中国は欧州連合(EU)を舞台として反撃に出ている。こうした中国の行動はEU内に亀裂を引き起こし、EUが巨大な域内市場を中国政府の圧力から守れるのかという点で新たな疑問が生じている。

     

    (5)「2019年以来、EUは域内企業が中国のライバル企業と競争できるよう支援し、中国市場におけるEU企業の立場を強化するため一連の政策を打ち出してきた。しかし、リトアニアに対する中国の圧力にEU加盟各国の反応は鈍い。リトアニアの当局者は、昨年12月のEU首脳会議など、最高レベルでこの問題を取り上げている。欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は4日午後、この状況についてリトアニアの首相と協議した。同委員長はその後のツイートで、「中国との貿易をめぐる問題の対処にあたり」、リトアニアを全面的に支持したことを明らかにした」

     

    EUは、加盟国リトアニアを守らなければならない義務がある。中国の言うままになれば,大きな汚点だ。

     


    (6)「アントニー・ブリンケン米国務長官は3日、リトアニアに対する中国の措置について、東欧9カ国の外相と協議した。国務省は12月下旬、リトアニアから供給を受けている米国企業が、中国からの「政治的圧力および経済的抑圧の強化」による影響を受け始めていると述べていた。欧州の経済シンクタンク「ブリューゲル」のシニアフェロー、アリシア・ガルシアヘレロ氏は、EUがいま中国にとっての最大級の輸出市場として集団的な経済力を行使するのに失敗すれば、中国政府は圧力を強めてくる可能性があると警告する。同氏は、最終的に域内の小国を守ることができないのであれば、貿易政策に関するEUの権限は損なわれるだろうと指摘した

     

    米国務長官も応援に駆けつけている。下線のように、EUの試金石となろう。中国の圧力をどのように撥ね付けるか。

     

    台湾は、リトアニアが被っている経済的打撃を緩和すべく、中国が通関を拒んだリトアニア産のラム酒2万4000本を買い取った。駐リトアニア台湾代表機関のファン氏は5日、中国に止められたリトアニアの貨物コンテナ120個を台湾が引き取ったと述べた。台湾は、2億ドル(約230億円)の投資基金を創設し、中国が輸入を止めたリトアニア産品を最大限に受け入れる方針だ。『フィナンシャル・タイムズ』(1月6日付)が伝えた。

     

    台湾は昨年秋、リトアニアへ半導体工場建設計画も示唆している。リトアニア救済で、これから本格的に動き出すであろう。

     

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    中国の「戦狼外交」が威力を失い始めた。「一つの中国論」を盾にして、他国を恫喝してきたが、もはやこれに怖じ気づく国もなくなってきたようだ。中国は、明らかに落ち目になってきた。中国の土台をなす経済が、不動産バブルであったことが世界中に知れ渡って、「大したことはない」と見くびられ始めてきた現実もある。

     

    欧州と台湾が、半導体を軸に接近する気配である。欧州にとって半導体は、喉から手が出るほど貴重な産業である。その半導体の受託生産で、台湾は世界一の実績を上げている。中国を共通の「思想的な敵」に擬する欧州と台湾が、外交的に接近しても不思議はない状況である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月25日付)は、「欧州と台湾、政治でさらに接近 台湾外相が東欧歴訪」と題する記事を掲載した。

     

    欧州連合(EU)と台湾が一段と距離を縮めようとしている。台湾の呉釗燮・外交部長(外相)は欧州を歴訪し、スロバキアで26日に開かれる国際会議で演説するほか、27日にはチェコでミロシュ・ビストルチル上院議長と会談する。経済だけでなく政治面でも欧台の関係強化を狙う。ただ、ドイツなど主要国は中国への刺激を避けたいのが本音で、関係強化が進むかは不透明だ。

     

    (1)「呉外相の欧州訪問は19年にデンマークで開催された民主フォーラムに出席して以来、約2年半ぶりだ。呉氏は24日、欧州訪問への出発を前に「台湾はチェコやスロバキアと同様に自由、人権、法治を渇望している」と述べ、中国対抗を念頭に欧州との連携強化の姿勢をアピールした。チェコのビストルチル氏との会談は昨夏に同氏が台湾を訪問して以来。台湾側はこれとは別に現在、国家発展委員会の龔明鑫主任委員(大臣)を代表にした経済視察団がスロバキア、チェコ、リトアニアの3カ国を歴訪中だ。地元メディアによると、視察団は25日にチェコの首都プラハで、インターネットセキュリティーや宇宙産業などの分野で協力する覚書に署名した。欧州との関係強化を模索する動きが続いている」

     

    下線のように、台湾が投資案件を携えて訪欧している。これは、儀礼的な訪問でないことを示している。

     


    (2)「背景には、欧州の台湾への姿勢の変化がある。人権や民主主義を巡って中国との関係が悪化するなか、米国や日本などと同様に、同じ民主主義の台湾と連携を深めることが重要だとの認識が広がりつつある。EUは9月、インド太平洋戦略を公表し、台湾と主に経済面での関係深化に踏み出す姿勢を打ち出した。さらに踏み込んだのが10月21日。欧州議会は、EUと台湾の政治的な関係強化を勧告する文書を賛成多数で採択した。文書に拘束力はないが、台湾をインド太平洋地域で重要なパートナーと位置づけ、関係を強めるべきだと主張した」

     

    欧州が、台湾を見直すきっかけは中国横暴への忌避感覚が働いている。一言で言えば、その「野蛮な振る舞い」を嫌っているのだ。EU自体も、台湾をパートナーとして位置づけ始めている。

     

    (3)「具体的には、EUの台湾での出先機関の名称を「欧州経済貿易事務所」から「EU事務所」に変更し、事実上格上げするように促した。さらには投資協定締結や世界的に不足する半導体調達などでの関係強化も促した。特に半導体は、欧州には最先端の製造技術を持つ半導体メーカーが1社もない。多くを米国や台湾、韓国に依存し、欧州現地での調達ルートの強化は喫緊の課題だ。EUでデジタル政策などを統括するベステアー上級副委員長は、採決直前の19日、欧州議員を前に「台湾が民主主義、自由、開かれた市場を守るために我々は関与を強める必要がある」と発言。台湾との政治から経済まで広範の関係強化が、今後のEUにいかに重要かを訴え、理解を求めた

     

    下線部分は、中国にとっては泣き所である。地団駄踏んでも台湾へ対抗できないのだ。

     


    (4)「ただEU内での温度差はまだ大きい。EUのボレル外交安全保障上級代表も「微妙なバランスが重要だ」と指摘するように、EUは台湾との関係強化で中国との対立を招く事態は望んでいない。EUの中国との貿易額は台湾の10倍以上で、中国は欧州経済に欠かせない巨大市場だ。中国の人権問題など譲れない面では主張しつつ、経済面での結びつきは維持したいのが本音だ。とりわけドイツは中国への輸出依存度が高く、中国との関係悪化には非常に敏感だ。対中強硬の米国とは立場が異なる」

     

    EUにとって、中国が欠かせない市場であるが、それは昔も変わらないことだ。それにも関わらず、EUで台湾との関係見直しが始まっている現実を知るべきだ。いったん、ぐらついた関係は、決して元へは戻らないものである。

     

    (5)「米国が対中姿勢を鮮明にするなか、欧州が今後、中国と台湾の間をどうバランスさせるかは依然、不透明だ。中国は強く反発している。習近平国家主席は25日、国連が中華民国(台湾)に代わり中華人民共和国の代表権を認めた「アルバニア決議」から50年の節目に演説した。「国際ルールは193の国連加盟国が守るべきだ。例外があってはならない」と述べ、最近の米欧など世界各国の台湾への接近を強く批判した」

     

    下線部の通りとすれば、中国は南シナ海から撤退すべきである。常設仲裁裁判所から、南シナ海占領の違法性を100%突かれているからだ。身勝手はことを言うべきでないのだ。

     

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