インドは、武器輸入でロシアへ大きく依存しているが、「脱ロシア」を目指すことになった。米欧イスラエルが、協力する見通しができたのだ。
インドは、中国と長い国境を接しており、両国間で今なお紛争が絶えない。こうした状況下で、武器の主要輸入先としてロシアへ49%(2016~20年)も依存している。これが、ロシアのウクライナ侵攻で、「ロシア非難」の側に立てない理由だ。
もう一つの理由がある。インドは独立以来、「非同盟」を外交の旗印にしている。米ロの間に立って、旗幟を鮮明にできないのだ。そのインドが、「クアッド」(日米豪印)に参加している。インドがあえて加わったのは、クアッドの力を借りて、中国へ対抗することだ。
インドのモディ首相は、5月に東京で開催された「クアッド」へ出席し、米国バイデン大統領と会談した。その後、インド首相府はツイッターで「実に有益な会談で満足した」と述べた。米印で、「武器供給の合意」ができたのだ。インドにとって、大きな成果である。
『日本経済新聞 電子版』(6月16日付)は、「インド、兵器で『脱ロシア』探る、欧米イスラエルと協力」と題する記事を掲載した。
インドが軍事面での過度なロシア依存を修正するための「布石」を打ち始めた。過去5年間で調達した兵器の約5割がロシア製だが、欧米や中東との協力を強め、この比率を下げていく構えだ。足元での最大の脅威は係争地を巡る中国で、ウクライナ侵攻後に中国寄りの姿勢が目立つロシアとは距離を取りながら防衛力を整備する思惑が透ける。
(1)「イスラエルのガンツ国防相は6月上旬、ニューデリーでインドのモディ首相と会談した。モディ氏は会談で、先端技術を持つイスラエルの防衛企業にインドへの進出を促した。両国は過去数年で、防衛面での協力を深めている。モディ氏は5月、欧州各国を歴訪した。フランスのマクロン大統領とは「インドの自立を促す計画に基づき、フランスが最新の防衛技術で関与を深める」ことで合意した。4月下旬にインドを訪問したジョンソン英首相との共同声明には、インドで設計・製造される戦闘機に英側が技術面で支援すると盛り込んだ」
英国は、インドで設計・製造された戦闘機に技術面で支援する約束を結んだ。これは、インドの国産武器への重要な一歩になる。
(2)「モディ氏は5月下旬、東京で開いた日本、米国、オーストラリアを含めた4カ国で安全保障や経済を協議する枠組み「Quad(クアッド)」の首脳会議の後、バイデン米大統領と別途、会った。ここでモディ氏は「米防衛企業にはインドでの生産に協力してほしい」と求めた。米国からの割安な兵器供給についても話し合った。「インドはウクライナの危機をみて、(兵器調達など軍事面で)どこか1つの国への依存を高めすぎるのはよくないという教訓を得た」。インドのシンクタンク、オブザーバー・リサーチ・ファンデーションのハーシュ・パント氏は、「イスラエルをはじめとする各国との防衛協力強化はロシア依存の抑制につながるはずだ」と指摘する」
米国とインドの関係は、これまでギクシャクしてきた。米国が、インドへの武器輸出で熱心でなかったからだ。冷淡な米国に対して、ロシアはインドに対して親身な協力を惜しまずにきた。こういう事情もあって、インドはロシアをウクライナ侵攻で非難できない立場にある。
米国は、過去の外交姿勢を改め、インドに有利な武器生産の条件を出したと見られる。米国製武器の優秀性は,ウクライナ侵攻で立証済である。その米国が、インドへ安価な武器の生産条件を提示したとすれば、インドもさぞや満足であろう。
(3)「インドは、侵攻を巡るロシアへの非難を控えている。ロシアとは同国がソ連だった時代から、軍事面で長く関係を続けてきた。だが、国際世論の大勢は反ロシアで、インド国内の世論にも影響する。水面下では兵器の調達先の多角化を模索している。ストックホルム国際平和研究所によると、2016~20年にインドが輸入した132億ドル(約1兆8000億円)の兵器の49%はロシア製だった。それにフランス(18%)、イスラエル(13%)、米国(11%)が続く」
インドは、ロシアから49%もの武器を輸入している。ロシアが、インドへ武器供給しなければ、たちどころに軍事的に劣勢になる。安全保障上で死活的問題になる。米欧イスラエルが、インドへ武器供給で協力すれば、インドは安心できるのだ。
(4)「現状でインドの最大の脅威は中国だ。軍事費、兵力はいずれもインドを上回る。インドが参加したクアッドは中国をけん制する枠組みでもある。クアッドの外交関係者は防衛産業の育成を急ぐインドの事情に配慮し、同国との兵器の共同生産などもほかの参加国が検討していく構えだと明かした。欧米は、インドによるロシアからの原油輸入の継続を懸念する。5月にモディ氏と会談したドイツのショルツ首相は、インドにおける水素や再生可能エネルギーの普及を促すための協力を持ちかけられた。欧米は、インドの「ロシア離れ」を歓迎している。軍事だけでなく、経済やエネルギーを含めた中長期での関係構築を目指している」
西側諸国は、インドと軍事だけでなく経済やエネルギー面での協力関係を築くべく関心を深めている。インドは、独立後3年かけて全土で総選挙を行なった国である。字の読めない有権者には、絵を用いて投票を支援するなど、民主主義を育ててきた。本来、西側の価値観を共有する国である。インドは、遅ればせながら西側諸国の一員になるきっかけができたのだ。