インドは、EV(電気自動車)普及に意欲的である。だが、EVの電源は石炭火力発電が主体だけに、トータルにみれば「脱炭素」にならない大きな矛盾を抱えている。インドでは、こういう論理的な説明が説得力を持たず、世界の流れであるEVへと大きく傾いている。ここ7~10年は、HV(ハイブリッド車)で凌げば、環境面でEVへの移行がスムースに行くとみられている。
『ロイター』(2月7日付)は、「インドに存在するEV普及よりもHV優遇すべき構造問題」と題する記事を掲載した。
インドは米電気自動車(EV)大手テスラを誘致し、国内にEV工場を設立させる決意が固い。しかし、世界的なEV需要の鈍化傾向を踏まえれば、世界第3位の自動車市場である同国にとって、トヨタ自動車などが得意とするハイブリッド車(HV)を受け入れる妥当性を強めている。
(1)「現在のインドではハイブリッド車はぜいたく製品扱いで、税率は43%を超える。これに対し、国産EVの税率はわずか5%だ。ただ、商工省は非公式な場では、ハイブリッド車の税率を下げてほしいという日本メーカーの要望を支持している。特に今年に入ってテスラの株価が24%下落し、中国メーカーが買い手を引き付けるためにEVの値下げに走っている点からすれば、商工省のこの姿勢は賢明に思える。インドは電動化加速に慎重さを持たなければならない。EVの低調な需要をもたらしている基本的な要因、つまり航続距離を巡る不安と価格の高さは、市場が生まれて間もないインドでは、他の地域よりずっと大きな問題と言える」
インドの自動車関税率は、EVが5%と優遇されている。HVは、43%を越えている。環境面から言えば、明らかに倒錯している。国内の財閥系自動車会社が圧力を掛けた結果であろう。
(2)「タタ・モーターズやマヒンドラといった国内メーカーは、品ぞろえを拡大しているとはいえ、顧客の選択肢はなお狭い。さらにベイン・アンド・カンパニーによると、中国がEV10台当たりで1カ所の充電施設を設置しているのに比べて、インドは200台当たり1カ所にとどとどまっている。最終的にはインドがEV志向を撤回する公算は乏しい」
インドのEV電力供給施設は、200台当たり1箇所と極めて少ない。
(3)「温室効果ガス排出量を減らしたいだけでなく、経常赤字をもたらしている原油輸入も圧縮したいからだ。大幅な経常赤字は通貨ルピーの下落につながり、今は安定的とみなせる経済に悪影響を及ぼしかねない。ただ、EVがクリーンになるのは、EVに電力を供給するエネルギー網によって決まる。タタ・モーターズのバラジ最高財務責任者(CFO)が、排出量実質ゼロ化のために政府にどのクリーン車技術を支持するのか態度をはっきりさせるよう迫り、ハイブリッド車への課税軽減に反対しているとしても、石炭に大きく頼っているインドの発電事情がそうした政府の決定を難しくしている、というのが現実だ」
インド政府は、EVを普及させれば経常赤字の真因である原油輸入も圧縮できると誤解している。EVが環境面でクリーン効果を発揮するには、EVに電力を供給するエネルギー網によって決まる。現行の石炭火力は、エネルギー全体の73%も占めている。これでは、EVがいくら普及してもクリーンにはならないのだ。
(4)「HSBCのアナリストチームの見積もりでは、EVのライフサイクルにおける排出総量がハイブリッド車並みまで低くなるにはあと7─10年かかる可能性がある。その点こそが、ハイブリッド車がインドにとって魅力的な選択肢になる。EVに対する国際的な世論の風向きの変化は、以前はEV導入で出遅れたとみなされてきた企業の「汚名」を晴らすことにもなるだろう。インドの乗用車最大手マルチ・スズキは、2031年度までに自社のラインナップに占めるハイブリッド車の比率が25%と、EVの15%を上回ると見込んでいる。テスラは間もなくインドに上陸するかもしれないが、ハイブリッド車もまた、同国で存在感を増そうとしているように見受けられる」
リチウムイオン電池EVは、製造されるまでの全過程で排出される二炭化炭素が、HV並みに低下するにはあと7~10年かかるという。この間は、HVで凌ぐのが最も推奨されるべき政策選択とされる。こういう合理的な判断が、インドで選択されるか不明である。
インドの最大手の乗用車メーカーであるマルチ・スズキは、2031年度までHVがEVを上回ると予測している。これが、現地の感覚であろう。