習近平・中国国家主席が、G20サミットを欠席している間に、米国が音頭を取った「欧州・中東・南アジアを結ぶ多国間鉄道・港湾構想」を発表した。「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」に関する覚書だ。これは、EU(欧州連合)、インド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、米国、その他G20パートナーによって署名された。米国は、世界的なインフラ整備で中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗しようとしている。中国は、完全に虚を突かれた形である。
『ロイター』(9月10日付)は、「米、『インド・中東・欧州経済回廊』で覚書 中国に対抗」と題する記事を掲載した。
(1)「米当局者によると、この構想は中東諸国を鉄道で結び、港でインドと接続させることで輸送時間やコスト、燃料の使用量を削減し、湾岸諸国から欧州へのエネルギー・貿易の流れを後押しすることが狙い。覚書によると、IMEC(インド・中東・欧州経済回廊)はインドとアラビア湾を結ぶ東側回廊と、アラビア湾と欧州を結ぶ北側回廊の2回廊で構成されることが想定されている。鉄道ルートに沿って、参加国は電力・データ回線用のケーブルや、発電に使用する再生可能エネルギー由来の水素パイプラインを敷設する予定だ。この構想の金銭面の詳細はまだ明らかにされていない」
この構想は、中国の「一帯一路」と同じ狙いである。欧州と中東諸国は鉄道(一帯)で結び、その先は船でインドを接続(一路)させる計画である。インドを欧州とつなげるもので、インドの工業生産物が欧州へ輸出可能なルートが建設される。それだけでない。鉄道ルートに沿って、参加国は電力・データ回線用のケーブルや、発電に使用する再生可能エネルギー由来の水素パイプラインを敷設する予定である。
『日本経済新聞 電子版』(9月9日付)は、「中東経由でインド欧州間の輸送網 米欧やサウジと覚書」と題する記事を掲載した。
米政府は9日、インドから中東を経由して欧州までを鉄道・海上輸送網で結ぶインフラ計画に関する覚書をインド、サウジアラビア、欧州連合(EU)などと結んだと発表した。中東で影響力を強める中国にインフラ支援で対抗する。
(2)「米国が発表した「新たなインド・中東・欧州経済回廊」構想にはフランス、ドイツ、イタリア、アラブ首長国連邦(UAE)も参加する。中東との経済的な結びつきを強め、地域の安定につなげる。米ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は9日、記者団に「インドからUAE、サウジアラビア、ヨルダン、イスラエルを経由して欧州に至る海上輸送と鉄道を結ぶ」と説明した。エネルギーや物資を効率的に輸送できる物流インフラのほか、通信網も整備する」
インドからUAE、サウジアラビア、ヨルダン、イスラエルを経由して欧州へのルートは、インドが次世代において経済的に中国と対抗できる基盤になる。その意味で、インドとG7との結びつきは強固なものになろう。
(3)「覚書を結んだ8カ国・機関は作業部会を設け、近く会合を開く。①中東各国の鉄道の接続や改修②欧州にエネルギー供給するインフラ敷設――などを検討する。ウクライナ紛争を機に欧州が進めるエネルギーの脱ロシア依存を後押しする狙いもある。インフラ支援は米政府が中東への関与を立て直す戦略の一環になる。中東のインフラ計画を話し合う米国、インド、イスラエル、UAEの4カ国による枠組み(I2U2)で22年春ごろに計画が浮上し、他の国も協議に加わって23年1月から議論を本格化させた」
欧州は、エネルギー供給で確実に脱ロシアが進む。再生可能エネルギー由来の水素パイプラインを敷設する計画だ。中国の一帯一路プロジェクトは、完全にかすむであろう。
(4)「意識するのは広域経済圏構想「一帯一路」に代表される経済協力などを通じて中東地域で影響力を高める中国だ。対立が続いていたイランとサウジは3月に中国の仲介で外交正常化にこぎつけ、蚊帳の外に置かれた米国の存在感低下が浮き彫りになった。サリバン氏は「世界の他の地域でも実施する。地域経済の統合はあらゆる戦略的、地政学的利益をもたらす」と強調した。9日には米国とEUがアフリカのアンゴラ、ザンビア、コンゴ民主共和国での鉄道敷設などのインフラ開発で協力することも発表した」
中国は、中東で勢力圏拡大に手をつけ始めたが、今回の「インド・中東・欧州経済回廊」構想が実行の運びになれば、中国の出る幕がなくなる。
(5)「バイデン氏はインドのモディ首相と共闘し、中国の習近平国家主席が欠席するG20サミットで米国主導のインフラ支援を提起する。米国とインドは中国を抑止する戦略で一致しており、国際社会で影響力を拡大するグローバルサウスを引きつける思惑がにじむ」
今回の構想で、中東各国の鉄道の接続や改修が進めば、G7はグローバルサウスをぐっと引き寄せられる。中国が逆立ちしてもかなわない事態になろう。