勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: インド経済ニュース

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    習近平・中国国家主席が、G20サミットを欠席している間に、米国が音頭を取った「欧州・中東・南アジアを結ぶ多国間鉄道・港湾構想」を発表した。「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」に関する覚書だ。これは、EU(欧州連合)、インド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、米国、その他G20パートナーによって署名された。米国は、世界的なインフラ整備で中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗しようとしている。中国は、完全に虚を突かれた形である。

     

    『ロイター』(9月10日付)は、「米、『インド・中東・欧州経済回廊』で覚書 中国に対抗」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米当局者によると、この構想は中東諸国を鉄道で結び、港でインドと接続させることで輸送時間やコスト、燃料の使用量を削減し、湾岸諸国から欧州へのエネルギー・貿易の流れを後押しすることが狙い。覚書によると、IMEC(インド・中東・欧州経済回廊)はインドとアラビア湾を結ぶ東側回廊と、アラビア湾と欧州を結ぶ北側回廊の2回廊で構成されることが想定されている。鉄道ルートに沿って、参加国は電力・データ回線用のケーブルや、発電に使用する再生可能エネルギー由来の水素パイプラインを敷設する予定だ。この構想の金銭面の詳細はまだ明らかにされていない」

     

    この構想は、中国の「一帯一路」と同じ狙いである。欧州と中東諸国は鉄道(一帯)で結び、その先は船でインドを接続(一路)させる計画である。インドを欧州とつなげるもので、インドの工業生産物が欧州へ輸出可能なルートが建設される。それだけでない。鉄道ルートに沿って、参加国は電力・データ回線用のケーブルや、発電に使用する再生可能エネルギー由来の水素パイプラインを敷設する予定である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月9日付)は、「中東経由でインド欧州間の輸送網 米欧やサウジと覚書」と題する記事を掲載した。

     

    米政府は9日、インドから中東を経由して欧州までを鉄道・海上輸送網で結ぶインフラ計画に関する覚書をインド、サウジアラビア、欧州連合(EU)などと結んだと発表した。中東で影響力を強める中国にインフラ支援で対抗する。

     

    2)「米国が発表した「新たなインド・中東・欧州経済回廊」構想にはフランス、ドイツ、イタリア、アラブ首長国連邦(UAE)も参加する。中東との経済的な結びつきを強め、地域の安定につなげる。米ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は9日、記者団に「インドからUAE、サウジアラビア、ヨルダン、イスラエルを経由して欧州に至る海上輸送と鉄道を結ぶ」と説明した。エネルギーや物資を効率的に輸送できる物流インフラのほか、通信網も整備する」

     

    インドからUAE、サウジアラビア、ヨルダン、イスラエルを経由して欧州へのルートは、インドが次世代において経済的に中国と対抗できる基盤になる。その意味で、インドとG7との結びつきは強固なものになろう。

     

    3)「覚書を結んだ8カ国・機関は作業部会を設け、近く会合を開く。中東各国の鉄道の接続や改修欧州にエネルギー供給するインフラ敷設――などを検討する。ウクライナ紛争を機に欧州が進めるエネルギーの脱ロシア依存を後押しする狙いもある。インフラ支援は米政府が中東への関与を立て直す戦略の一環になる。中東のインフラ計画を話し合う米国、インド、イスラエル、UAEの4カ国による枠組み(I2U2)で22年春ごろに計画が浮上し、他の国も協議に加わって231月から議論を本格化させた」

     

    欧州は、エネルギー供給で確実に脱ロシアが進む。再生可能エネルギー由来の水素パイプラインを敷設する計画だ。中国の一帯一路プロジェクトは、完全にかすむであろう。

     

    4)「意識するのは広域経済圏構想「一帯一路」に代表される経済協力などを通じて中東地域で影響力を高める中国だ。対立が続いていたイランとサウジは3月に中国の仲介で外交正常化にこぎつけ、蚊帳の外に置かれた米国の存在感低下が浮き彫りになった。サリバン氏は「世界の他の地域でも実施する。地域経済の統合はあらゆる戦略的、地政学的利益をもたらす」と強調した。9日には米国とEUがアフリカのアンゴラ、ザンビア、コンゴ民主共和国での鉄道敷設などのインフラ開発で協力することも発表した」

     

    中国は、中東で勢力圏拡大に手をつけ始めたが、今回の「インド・中東・欧州経済回廊」構想が実行の運びになれば、中国の出る幕がなくなる。

     

    5)「バイデン氏はインドのモディ首相と共闘し、中国の習近平国家主席が欠席するG20サミットで米国主導のインフラ支援を提起する。米国とインドは中国を抑止する戦略で一致しており、国際社会で影響力を拡大するグローバルサウスを引きつける思惑がにじむ」

     

    今回の構想で、中東各国の鉄道の接続や改修が進めば、G7はグローバルサウスをぐっと引き寄せられる。中国が逆立ちしてもかなわない事態になろう。

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    G20は、9月9~10日の日程によってインドで開催。今年の議長国はインドである。インドは開会と同時に、AU(アフリカ連合)をEU(欧州連合)と同じ資格でG20メンバーにすると発表、即時に会議に加わった。

     

    インドが、AUを素早くG20加盟へ動いたのは、中国への対抗意識が働いているとみられる。中國の強いリーダーシップで、先に開催したBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)会議では参加国を増やした。アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国が、2024年1月1日にBRICSに加わる。インドは、この参加国増加に賛成していなかったとされる。それだけに、中国の意図を見抜いて、G20でインドの立場を強化すべくAU参加へ動いたのであろう。

     

    中印のさや当ては微妙なものがある。インドもBRICS参加国であるが、中国との関係では一線を引いており、牽制役に回っている。中国にとってインドは、喉に刺さったトゲであろう。

     

    『ロイター』(9月9日付)は、「G20開幕、アフリカ連合が正式参加 グローバルサウス発言力拡大」と題する記事を掲載した。

     

    20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)が9日、インドのニューデリーで開幕した。モディ首相はアフリカ連合(AU)を正式メンバーに迎えたと発表した。55の国・地域が加盟するAUはこれまでG20の「招待国際機関」という位置付けだったが、欧州連合(EU)と同じ地位となる。

     

    (1)「モディ氏は会議冒頭の演説で、AUのアザリ・アスマニ議長に正式メンバーとして席に着くよう促した。X(旧ツイッター)のモディ氏公式アカウントは、「アフリカ連合をG20の正式メンバーとして歓迎できることを光栄に思う。G20を強化し、グローバルサウスの発言力を拡大することにつながる」とするメッセージを投稿した。会議では、多国間機関による発展途上国への融資拡大、国際債務構造の改革、暗号資産(仮想通貨)の規制、地政学が食料・エネルギー安全保障に与える影響なども議論される」

     

    AU加盟国は、55カ国である。これだけの規模が、G20へ加盟する意義は多きい。G20が、「拡大BRICS」を機能的に上回るという関係になる。インドが、BRICSを足場にして勢力を拡大しようとする中国の「野望」を打ち砕くものだ。

     

    次の記事は、AUがG20のメンバー決定前の記事であるが、有益であるので採録した。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月9日付)は、「G20、アフリカ拡大を議論 中国主導のBRICSと競う」と題する記事を掲載した。

     

    20カ国・地域(G20)は9日に開幕する首脳会議(サミット)で参加メンバーの拡大を議論する。アフリカ連合(AU)やナイジェリアが候補に挙がる。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのBRICSは中国主導で参加国の拡大を決めたばかりで、多国間の枠組みが新興国取り込みを競う。

     

    (2)「10日までの日程で開くG20首脳会議に議長国インドがAUの代表団を招待した。現在はアフリカからG20に参加しているのは南アフリカのみだ。55カ国・地域が加盟するAUの参加が決まれば、G20でのアフリカの存在感は高まる。G20参加を検討しているナイジェリアのティヌブ大統領も会議に出席する。ナイジェリアは国内総生産(GDP)で南アフリカを上回るアフリカ首位の経済大国だ。インドのモディ首相から招待を受けた」

     

    南アフリカのGDP規模は現在、世界38位へと落ちている。2009年当時と経済構造が大きく変わった結果である。G20は、アフリカから南アだけが参加しているので、AU参加は時宜にかなった決定である。

     

    (3)「インドがG20拡大に向け、旗を振るのは「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国の盟主としての力を誇示するのが狙いだ。特に「最後のフロンティア」と称され、豊富な重要資源を持つアフリカに影響力を高めようと動く。一方、8月末に南アで開かれたBRICSの首脳会議では、新たにエジプトやエチオピアを含めた6カ国が加わることが決まった。BRICSはインドも参加する枠組みではあるものの、拡大を主導したのは中国だった」

     

    このパラグラフでは、中印の微妙な差や当てがみられる。インドは、西側に立っており中国とは立場が異なる。中国は、G7への対抗を鮮明にしている。インドは、G20のなかへ身を寄せながら、中国へ対抗する姿勢を鮮明にしている。

     

    (4)「米国はインドが目指すG20のアフリカへの拡大を歓迎する。米ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は5日「AUを温かく迎えたい。 AUの発言力はG20をより強固なものにする」と述べた。9日からの首脳会議でバイデン米大統領が支持の意向を示す。欧州各国も賛同する可能性が高い。米戦略国際問題研究所(CSIS)のステファニー・シガル氏は、「アフリカの資源保有や将来の経済・人口の成長予測により、世界経済におけるアフリカの重要性が高まっていることを反映したものだ」と指摘する。中ロなどの他国もAU加盟に同意し、今回のサミットでまとまる可能性もある」

     

    G7は、インドが「グローバルサウス」の牽引役になることを願っている。中国は、「グローバルサウス」を引きつけて自国の勢力拡大の踏み台にする計画だ。

     

     

     

     

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    G20サミットが、9月9~10日の日程でインドのニューデリーで開催される。当然、出席するとみられていた中国の習近平国家主席がなぜか欠席する。理由は不明であり、種々の憶測を生んでいる。

     

    G20は、先進国と発展途上国が議論する機会だ。習氏が、その所信を先進国首脳へ向けて語るまたとない場である。そのチャンスを放棄する裏には、どのような思惑が隠されているのか。米国バイデン氏との会談を避ける。インドとの関係が悪化している。こういういくつかの理由が挙がっている。さて、真相はどうか。

     

    『ブルームバーグ』(9月4日付)は、「習氏G20欠席、中国は予測不能との懸念強める-BRICSの限界露呈」と題する記事を掲載した。

     

    異例の政権3期目入りを果たし中国の実権をほぼ一手に握った習近平国家主席が、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を欠席しようとしている。

     

    (1)「習氏がニューデリーで開催されるG20サミット参加を見送るのは、インドとの外交面での対立が原因かもしれない。あるいは、ブラジルとロシア、インド、中国、南アフリカ共和国からなるBRICSが来年から11カ国体制になることが8月決まり、BRICSを重視したい思惑もあるだろう。中国経済は、国内最大級の不動産開発会社がデフォルト(債務不履行)の瀬戸際にあり、こうした経済問題に対処するため国内にとどまりたいと考えている可能性もある」

     

    習氏は、G20サミットがインドで開催されるにも関わらず欠席する。これは、インドへの最大の欠礼になる。それを承知での欠席であることは、インドへの対抗心の表れだ。インドと融和できない習氏に、外交的な欠陥を感じる。BRICSは、この意味でバラバラの集まりであろう。

     

    (2)「理由が何であれ、G20欠席は習氏の外交活動に大きな変化をもたらしそうだ。2012年に中国共産党総書記に選出され、13年に国家主席に就いて以降、習氏はこれまでG20サミットに毎回出席してきた。インドネシアのバリ島で昨年開催されたG20サミットに参加した習氏はバイデン米大統領との会談で対話の重要性を強調し、「他国とうまく付き合うことが政治家の責任だ」と語っていた」

     

    習氏がG20に出席すれば、バイデン氏と会うほかない。米国との交渉を避けているのは、中国の弱みを掴まれたくないという思惑もあろう。

     

    (3)「習氏は今、異なるアプローチを採用しつつあるように見える。中国経済の行方や台湾に対する軍事侵攻の可能性、ウクライナ侵略後の対ロシア支援などについてG20サミットに出れば浴びせかけられるだろう厳しい質問を回避しようとしているのかもしれない。この動きはまた、中国がますます予測不可能になってきているという投資家の懸念をも強めている。レモンド米商務長官は先週の訪中時、中国はリスクが高過ぎて「投資できない」国になりつつあるとの指摘を米企業から受けた」

     

    中国は今、内外で最大の危機に直面している。その弱みを見せたくないというのが本音であろう。

     

    (4)「習氏は8月、BRICS首脳会議に参加するためヨハネスブルクを訪問。この首脳会議には今年のG20議長国であるインドのモディ首相も出席していたが、今週末のG20サミット参加見送りで同首相の晴れ舞台を台無しにすることは、BRICSが一体となって発言する力の限界を露呈することになる。習氏が、出席する世界を舞台にした次の大きなイベントは、北京で10月に開催される「一帯一路フォーラム」だろう。G20サミットを欠席するロシアのプーチン大統領も参加を表明している」

     

    習氏は、一帯一路が最大の晴れ舞台と認識しているのであろう。盟友プーチン氏も出席する。気を使う相手はいないのだ。

     

    (5)「シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の呉木鑾(アルフレッド・ウー)准教授によれば、習氏は今や「皇帝マインド」を抱いており、外国の要人が自分のところにやって来ることを期待しているという。中国が厳格な新型コロナウイルス規制を解除して以後、ドイツとフランスの首脳、そしてバイデン政権の高官4人の北京を訪問。「習氏は外国からの要人を自国に迎える際、非常に高いステータスを示せる。BRICS首脳会議でも特別待遇を受けた。しかし、G20ではそうもいかないだろう」と呉准教授は指摘する」

     

    習氏が、「強い中国」を演出できる舞台はG20でなく、一帯一路フォーラムである。そういう計算もしているのであろうか。とすれば、習氏は相当追込まれていることになる。自分を強く見せる場所を探しているからだ。

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    世界の潮流は、グローバル・サウスへの関心である。これまでの「発展途上国」に代って、グローバル・サウスと呼ばれているだけでない。外交的に、一つの意見を代表するようになってきたからだ。 

    BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)は、このグローバル・サウスの核となって世界的な影響力を強めたい、という野心を見せている。だが、この5カ国はバラバラの組織である。中国とインドが反目し合っており、ただ集まっているだけの組織に過ぎないのだ。 

    BRICSはこれまで、共通通貨構想や加盟国拡大も取り上げられている。だが、具体化はしていない。加盟国拡大も、インドが反対と言われている。参加国を増やした結果、中ロの味方が増えるだけなら、インドに利益とならないからだ。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(8月15日付)は、「BRICSの共通通貨構想、名付け親が『実現不可能』と指摘」 

    ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国(BRICS)が加盟国拡大について話し合う準備を進めるなか、BRICSの名付け親であるゴールドマン・サックスの元チーフエコノミスト、ジム・オニール氏が新興5カ国の共通通貨構想を「有り得ない」と断じた。

     

    (1)「15回目のBRICS首脳会議を来週に控え、オニール氏は『フィナンシャル・タイムズ』(FT)に対し、「BRICSは最初の首脳会議を開いて以降、何一つ成し遂げていない」と語った。初の首脳会議は2009年、オニール氏がゴールドマン・サックス時代に執筆した調査リポートの中でBRICs」と命名してから8年後だった。BRICSの中でもロシアや中国などは世界の準備通貨として君臨する米ドルに対抗するよう呼びかけてきたのに対し、今年の首脳会議をヨハネスブルクで主催する南アは、今回は共通通貨について議論しないと述べている」 

    中ロは、BRICSを足場にしてG7(主要7カ国)へ対抗したいと狙っている。それには、共通通貨をつくるというアイデアだが、実現は困難とされている。余りにも参加国間で経済的な格差がありすぎるのだ。 

    (2)「オニール氏は新興5カ国の経済力には大きな差があり、共通通貨の創設は実現不可能だろうとの見方を示した。ブラジルのルラ大統領などが「貿易決済に用いる共通通貨」の創設を求めているのに対し、オニール氏は「全く有り得ない」と述べた。「『BRICS中央銀行』でも創設しようというのか。どうやってつくるのか分からないし、何とも厄介な話だ」と指摘。総人口が30億人を超えるBRICSは、加盟国間の貿易決済で現地通貨を使用したい意向だ。だが、NDB(新開発銀行:通称BRICS銀行)の最高財務責任者(CFO)レスリー・マースドープ氏は7月、ブルームバーグTVで、BRICSは共通通貨を創設する立場にはないと語った」 

    共通通貨には、「BRICS中央銀行」が必要になる。NDBは、そういう立場にないと逃げ腰だ。中国経済の現状では、とてもそんな「大それた」ことを言い出す力はない。結局は、ただの茶飲み話の類いというのだ。

     

    (3)「オニール氏がゴールドマン・サックスのリポートで「BRICs」と命名したのは、ブラジル、ロシア、インド、中国の経済的潜在力の高さを喚起し、4カ国を取り込んで経済的・政治的な支配構造を再構築する必要があると世界に呼びかけるためだった。命名された4カ国もこの呼称を受け入れ、09年から首脳会議を開催するようになった。これまでに数十カ国が公式または非公式に加盟の意向を示してきたが、南アの外交筋によると、今回の首脳会議では、10年に南アが加盟して以降、初の加盟国拡大が実現する可能性があるという。ただし、加盟基準は決まっておらず、拡大の是非については5カ国で主張が割れている」 

    BRICSには、加盟基準が決まっていない。中印は不仲だから、まずここで意見が割れるであろう。 

    (4)「現在は、英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のシニアアドバイザーを務めるオニール氏は、「(共通通貨が)象徴的なものだとすれば、それ以外に何を目指すのか、私には分からない」と漏らした。米ドルが世界の金融システムで支配的な地位にあることは、新興国のプラスになっていないと同氏は言う。「世界経済の発展を考えれば、米ドルの覇権は理想的とは言えない。米連邦準備理事会(FRB)が政策金利を変えるごとに、新興国経済は際限のない景気変動に翻弄されるからだ」 

    米ドルは基軸通貨であるが、発展途上国にプラスとなっていないという。だが、米国は広く市場を開放して、途上国の産物を受け入れているメリットを忘れている議論だ。中国には、とてもこの真似はできないのだ。

     

    (5)「中国と南アは、BRICS加盟国を拡大し、南半球を中心とする新興・途上国「グローバル・サウス」を迎え入れたい意向だが、インドは拡大に反対との報道が流れている。オニール氏は「中国とインドが何も合意しないのは欧米諸国にとって都合がいい。中印が手を組めば、米ドルの覇権は大きく揺らぐからだ」と述べた。「私は中国の政治家に何度もこう進言している。いつ終わるとも知れない歴史的な紛争のことは忘れ、何か大きな問題でインドと一緒に主導権を握ったらどうか。そうすれば世界は中国の意見にもっと耳を傾けてくれるだろうと」 

    インド外交は、したたかである。あくまでも国益追求が主眼だ。中国とは、根本的に意見の合わない國である。このインドと日本は、肝胆相照らす仲である。利害関係が直接、ぶつかることのない結果であろう。安倍首相(当時)は、モディ首相と「心友」関係にあった。

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    インドのモディ首相の外交手腕は抜群である。米国へ接近しながら「非同盟」の旗を降ろさず、独自外交を展開している。世界最大の民主主義国として行動し、その軸足は西側諸国にある。外交的にインドを「高く売りつける」術を心得ているのだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月23日付)は、「米国は、モディ氏のインドを頼れるか」とだいする寄稿を掲載した。筆者のサダナンド・デューム氏は、同紙コラムニストである。

     

    ホワイトハウスがインドのナレンドラ・モディ首相のために6月22日に催した公式晩さん会は、多くの象徴的な意味を持つ。モディ氏はグジャラート州首相時代に州内で発生した反ムスリム暴動を理由に2005~2014年に米国への入国を拒否されたが、今回は自由世界のリーダーから手厚く歓待されている。

     

    (1)「米政府がモディ氏を盛大に歓迎したことで、米国とインドの関係を巡る議論は決着したかに見える。つまり、中国に対する懸念をインドと共有することは、インドの民主化後退への不安よりも重要だということだ。しかし、この外交上の成果は長続きするものだろうか。インドはモディ首相の下で、野党指導者のラフル・ガンジー氏を議会から追放したり、同首相を批判するドキュメンタリー番組を英国で放送した英国放送協会(BBC)に対して、税務当局が家宅捜索して圧力をかけたりしている。それにもかかわらず、インドは世界最多の人口、世界第2位の兵力を持つ軍隊と世界第5位の経済を抱えており、大きすぎて無視できない、地政学的に価値ある存在であり続けている」

     

    米国が、インドとの関係強化に踏み出しているのは、米中対立という関係が大きな理由である。インドのすべてを認め受け入れている訳でない。米印で武器の共同生産に取組むのも地政学的な意味合いからだ。

     

    (2)「同首相は米政府に向け、そうした価値を高めるための動きをみせた。モディ氏は前任者たちよりも米国との防衛協力の深化に意欲的であることを示したほか、米国、日本、オーストラリアとインドの4カ国による緩い枠組み「クアッド」の活性化を後押しした。米国とインドはエネルギー、ハイテク分野の研究や気候変動対策など、さまざまな課題で協力を深めている。それと同時に、インドと中国の関係は、ヒマラヤ地域の国境紛争をめぐり悪化していた。こうしたあらゆる面において、中国がアジアの覇権国となるのを阻止しようとする米国にとって、インドは魅力的なパートナーとなっている」

     

    インドが、米国へ接近できた背景には、安倍晋三元首相の力が大きかった。

     

    (3)「モディ氏は、長期的に見て二国間関係を損なうようなことを多くやってきた。21日に発表されたピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、米国民の半数以上がインドに対して好意的な見方を示しているが、モディ氏に対しては必ずしも好意的ではない。米国民の10人に4人はモディ氏のことを知らない。同氏について知っている人のうち、37%は「彼には正しいことを行う能力があるという信頼感はほとんどないか、まったくない」と答え、そうした能力があると信じているとの回答はわずか21%にとどまった」

     

    モディ首相が、人権弾圧を行っていることは知られている。だが、現在の米中対立下では、それを不問にして中国へ対抗せざるを得ないという切迫した面もある。ただ。日本はインドと親しい関係にあるだけに、長い目で見て是正を促すのであろう。

     

    (4)「長期的には、中国への対抗勢力としてのインドの価値は、同国が経済面での遅れと国内の混乱にうまく対処できるかどうかにかかっている。モディ氏が権力の座に就いて以来、中国とインドの経済格差は拡大し続けている。つい1990年までは、両国の国民1人当たりの所得はほぼ同じだった。モディ氏がインド首相に就任した2014年には、中国の国民1人当たりの所得はインドの4.9倍に拡大していた。世界銀行によると、この格差は2021年には5.6倍まで広がり、同年の平均所得は中国の約1万2550ドル(約180万円)に対し、インドは2250ドルにとどまった。しかし、経済と技術の格差が拡大し続ければ、長期化する対立は持続不可能となり、米国にとってのインドの主要な価値が低下するかもしれない」

     

    インド人口10億人以上で、15歳以上人口のうち所得税納税者が6000万人前後にすぎないことは異常である。正規雇用が、これしかいないことだ。インドの国民1人あたり所得が中国に比べて極端に低いのは、製造業のウエイトが小さく正規雇用者が少ない理由による。このインド経済が、中国並みになるのは絶望的である。

     

    (5)「インドは重要な国であり、関係緊密化を目指すバイデン政権の姿勢は正しい。しかし、モディ氏が中国との格差を狭める方策を見つけ出し、同時にすべてのインド人の平等を実現しない限り、インドの将来性に賭ける米国の姿勢が長続きするとの見方には依然、疑問が残る

     

    ここでの指摘は、その通りであろう。インドの勤労意欲の低いことが最大の欠陥である。

     

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