勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: パキスタン経済

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    パキスタンも、中国からの債務漬けにされている国の一つだ。過剰債務を抱えており、中国の食いものにされてきた。中国企業の請け負った事業見積もりでは、二重計算してコストを膨らませるなど、悪質な行為が暴露されている。パキスタンが、行政で抜け穴だらけという盲点を利用されているのだ。

     

    中国は、スリランカへの緊急融資に二の足を踏んだが、パキスタンへは別格の扱いをした。隣国でありインドへの対抗の必要もあって、6月後半に中国銀行団から23億ドル(約3100億円)の融資をした。一方、IMFがパキスタンの支援に乗りだした。同国は足元、かろうじてデフォルトを回避したが、輸入燃料の値上がりで計画停電を余儀なくされている。IMFの新たな支援により、向こう数カ月の支払いは手当てできる見込みだが、今後、数年は綱渡りの財政運営が続くとアナリストはみている。中国にとって、パキスタンはデフォルトになるか、目を離せない国になった。

     

    中国は、これまで支払い能力で問題を抱える諸国を債務漬けにしてきた。こうした持続不可能な金額を融資したことで現在、大きな痛手を被っている。今後は、この痛みを伴う学習過程を経験しなければならない。国内経済がガタガタの上に、さらなる荷物を背負うのだ。すべて、習近平氏の判断ミスである。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(7月15日付)は、「『第2のスリランカ』回避、パキスタンへIMF支援」と題する記事を掲載した。

     

    パキスタンのシャバズ・シャリフ首相は14日、国際通貨基金(IMF)との合意を歓迎した。パキスタンは国際収支が悪化していたが、危機の回避に向け、12億ドル(約1700億円)の追加融資が実行される見通しになった。

     

    (1)「パキスタンに対するIMFの融資枠の実行は中断していた。これを再開することは、パキスタンがIMFのほかの国際金融機関や外国から融資を受けるうえで不可欠な条件だとみられていた。IMFの発表によると、今回の事務レベルの合意で、パキスタンに対する融資枠の総額は2019年に合意した60億ドルから70億ドルに拡大する。シャリフ氏はツイッターに「IMFとの合意で、パキスタンは経済的な困難を克服する準備が整った」と投稿した。パキスタン政府高官の一人は、IMFの理事会が9月、今回の合意内容を承認することになっていると明らかにした」

     

    中国は当初、パキスタンに対してIMFから融資された資金を回収する計画があった。IMFに釘を刺されている。中国には、こういう「セコイ」ことを平気で行なうずる賢さがある。パキスタンは、IMF融資によって堅実な財政運営を行い、他国から新規融資を受けられるような体質に変化させる義務を負う。中国への債務返済の「トンネル」にはならないのだ。

     


    (2)「IMFとの合意形成が伝えられ、パキスタンがスリランカと同様な経済危機に陥るのではないかとの懸念が国内では和らいだ。スリランカは過剰債務で政情が不安定になり、ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は出国した。パキスタンの外貨準備はこの数週間で、輸入額の2カ月分を下回った。石油をはじめとする国際商品価格の上昇で貿易収支の赤字が膨らみ、通貨パキスタンルピーの相場は主要通貨に対して下落している」

     

    IMF融資は、パキスタンの資金繰り上の緊急事態を乗り切る手段である。放漫財政を引締めることである。

     

    (3)「IMFは合意を発表した声明で、「パキスタンは経済面で困難な局面を迎えている。厳しい外部環境に加え、国内の政策が景気循環の振れ幅を押し広げ、内需を持続が難しい水準に高めた。その結果、景気は過熱し、22年度は財政収支の赤字が膨らみ、対外債務残高も増えたため、インフレが加速して外貨準備が減った」と分析した。複数のアナリストは、(融資の条件である)IMF主導の財政引き締め策が実施されるなかで、シャリフ氏の政治手腕が厳しく問われることになると指摘する。23年夏までには議会選が実施される予定だ。中・低所得層の有権者は、すでに物価上昇の打撃を受けている。この3カ月間で燃料価格は2倍近くに跳ね上がり、電気やガスの料金も上昇した」

     

    パキスタンは、23年夏までには議会選が行なわれる。緊縮財政が、選挙にどう響くか。注目の的である。

     

    (4)「パキスタン財務省の顧問を務めた経験のあるサキブ・シェラーニ氏は、IMFの支援プログラムにパキスタンが復帰したことで「同国はスリランカのような状況に陥らずに済む」と語った。一方、IMFとの合意で「望ましくない結果がいくつか」生じているとも話した。低所得層のセーフティーネット(安全網)の発動が一段と難しくなりそうなこともその一つだ。パキスタンの中央銀行は7月、政策金利を年率15%に引き上げた。6月には(消費者物価上昇率が)21.%に達したインフレを抑え込むためだ。政策金利は10カ月前の2倍以上の水準に高まったことになる。パキスタン政府は6月、財政赤字を減らすため、主要産業を対象に10%の「スーパー課税」を1年限定で導入した」

     

    パキスタンは、中国の「債務漬け」によるユルユル状態の財政規律を取り戻さなければならない。まともな国になるには、中国と縁を切るほかない。

     


    (5)「IMFと合意に達しても、複数の企業経営者は、パキスタンが経済危機に直面している事実に変わりはないと警戒する。複数の欧米諸国の外交官は、パキスタンがこれまでに何度も、財政の枠組みの立て直しに失敗してきたと説明する。例えば、所得税の納税者は足元で人口の2%未満にすぎない。この比率はずっと上がっていない。西側の政府高官の一人は、「パキスタンは今回の救済措置で債務不履行を免れるかもしれないが、経済を安定させ、市民に恩恵をもたらすには、やるべきことが山積している」と付け加えた」

     

    パキスタンが、今回のIMF緊急融資で経済的に立直れる保障は極めて低いとされている。汚職がはびこっており、財政規律を蝕んでいるのだ。

     

    2016年に合意された中パ経済回廊(CPEC)は,総額620億ドル規模の電力および交通インフラ建設を中心とした融資プロジェクトである。中国の「一帯一路」構想のなかでも,最大のプロジェクトだ。パキスタンの財政赤字と経常収支赤字を悪化させた要因でもある。中国に利用されている。

     

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    中国とパキスタンは、インドを共通の敵にして蜜月ぶりを演じてきた。それにも関わらず、中国の対パキスタン直接投資は、中国経済の落込みを反映して停滞している。中国は、不動産バブルの崩壊危機に直面して、他国への直接投資にまで気を配る余裕を失っているようだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月12日付)は、「経済不和でも関係絶てず、中国・パキスタン間の一帯一路にブレーキ」と題する記事を掲載した。

     

    パキスタン南西部にある港町グワダルで、アダム・カディール・バクシュ氏は経営する自動車部品事業が大きく躍進すると期待してきた。しかし、約束された中国からの追い風がないため、実現していない。「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)は何の恩恵ももたらさなかった」という。

     

    (1)「中国の習近平国家主席がパキスタンを訪問、一帯一路構想のもとにインフラ開発プロジェクト開始を表明したのは2015年だ。しかし「中国が地元で調達したのは砂と砂利だけだ。地元には何の恩恵もない」とグワダル農村社会開発協議会のナシル・ソラビ会長は語る。CPECは一帯一路の主要事業で500億ドル(約5.7兆円)を投じる。中国が約束した投資額の半分は既に投資や政府間借款として流入し、17年、18年のパキスタンの成長率を5%超に押し上げた。しかし恩恵を受けていない人たちもいる。数千人の住民が座り込みの抗議活動を展開したため、グワダル港への幹線道路は11月半ばから封鎖されている」

     

    中国・パキスタン経済回廊(CPEC)建設において、中国がパキスタンから調達したものは砂と砂利だけという。こうして、地元の反感を買っており、数千人の住民が座り込みの抗議活動を展開している。このため、グワダル港への幹線道路が封鎖されている。中国らしい、「丸ごと」中国企業が受注するという「こす辛い」ことをやっているのだ。

     


    (2)「実際、中国からパキスタンへの直接投資は減少している。パキスタン国立銀行によれば79月期の中国からの外国直接投資は7690万ドルにとどまり、前年同期の1億5490万ドルからほぼ半減した。20年度の外国直接投資額は、総選挙のあった18年度を除いて14年度以来最低だった。中国からの直接投資は全体の35割を占めるため、経済への危険信号だ。国連のデータでは、中国の対パキスタン輸出も17年をピークに減少に転じ、中でもインフラ整備に欠かせない鉄鋼は16年から20年までに40%減った」

     

    中国からの対パキスタン投資が激減している。中国経済の懐が怪しくなってきた証拠である。中国経済は、パンデミック下で厳しい「ゼロコロナ」を行なっており、経済活動が抑制されている。その影響が、対パキスタン投資激減の理由である。

     


    (3)「ナワズ・シャリフ元首相が「ゲームチェンジャー」と呼んだCPECは、パキスタンの深刻な電力不足対策には役立った。イスラマバードに拠点を置くシンクタンク、タバドラブの最高経営責任者(CEO)モシャラフ・ザイディ氏も、CPECは都市や道路インフラに貢献したと話す。しかし今、CPECで最大の68億ドルをかけてカラチとペシャワル間の鉄道を改良する計画など、多くのプロジェクトが行き詰まっている。両国間の意見の相違は1年以上続いている」

     

    CPECで最大のカラチとペシャワル間の鉄道改良計画など、多くのプロジェクトが行き詰まっている。資金調達面で暗礁に乗り上げているのだ。

     


    (4)「中パ双方は運営上の不一致が表面化しないよう隠してきたが、最近は止められなくなっている。電力・石油担当首相特別補佐官のタビシュ・ガウハル氏は8月の閣議で、CPECの発電プロジェクトが国際標準よりも25%高いと指摘した。9月には「中国大使はパキスタンがCPECを台なしにし、3年間で何も進んでいないと不満を述べた」と上院計画・開発常任委員会のサリーム・マンドヴィワラ委員長が明らかにした」

     

    下線部は、中国のあくどい商魂に対して、パキスタンが抵抗しているためだ。これまでも、建設見積もりで、二重計算や高金利融資など中国の不正が摘発されてきた。中国ビジネスは、本質的に相手を食い物にするという不正が隠されており、パキスタンが警戒しているのだ。

     

    (5)「プラハ経済大学の国際関係・中国学助教授のジェレミー・ガーリック氏は「世界的な緊張やコロナの影響で、中国の投資は、今後数年にわたり減速が続く可能性が高い」と予測する。7~9月期には中国からの外国直接投資が半減した一方で、米国からの外国直接投資は4倍に急増した。それでも、米国も中国とパキスタンの関係を変えることまではできない、と知っている」

     

    早くも、中国の直接投資が今後、数年にわたり減速すると見込まれている。中国の窮状ぶりが知れ渡ってきたのだろう。米国が、この穴を埋めるべく積極的だが、中パの密接な関係には食い込めないという。

     

    (6)「クーゲルマン氏は、「多くの国は経済支援を求めるが、中国陣営には加わらないとする態度とは異なり、パキスタンは中国と深く同盟を結んでいる」と指摘する。中国とパキスタンはインドを共通の敵と見なすことでも一致している。中国は南に友好的な隣国を欲しており、パキスタンは、米国ほど見返りを求めない国との友好を望んでいる。では、パキスタンは中国の関心と投資を取り戻せるのだろうか。「CPECの初期の収穫段階は終わり、中国主導のインフラ開発のピークは過ぎた」と、ある政府当局者は匿名を条件に述べた。「CPECはまだ終わっていないが、残りの9年は過去の開発のごく一部すら期待できないだろう」という」

     

    CPEC事業は、まだ終わっていないものの計画期間の残り9年間は遅々としたものになりそうだという。パキスタンが、中国経済の急減速ぶりを認識しているのだ。中国経済の苦しさが肌でわかるのだろう。

     

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