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中国の「戦狼外交」は、世界のあちこちで敵をつくっている。中国は、威張りちらすことが国威発揚と錯覚しているのだ。中国の隣国であるASEAN(東南アジア諸国連合)も、戦狼外交の被害を受けているだけでなく、南シナ海にある島嶼を中国に奪われ泣き寝入りさせられている。

 

G7外相会議は、このASEANの苦境を救い、中国の領土的野心を封じるために積極交流することになった。新たな外交交渉が始まる。

 

ASEANが、この段階でG7との関係強化に乗出している背景に注目する必要がある。それは、中国経済の「息切れ」である。中国の盟友であるパキスタンは、すでに中国経済の悪化をひしひしと感じている。パキスタンへの直接投資が激減しているのだ。この状況は相当長く続くと見ている。ASEANも同じ感触であろう。

 


中国は、他の新興国のGDPに見られる相関関係が、2015年以降にほぼ完全な相関(0.9超)からほぼ相関なし(0.2未満)へと低下している。2021年4~6月期に中国の成長率は、30年ぶりに他の新興国を大きく下回った。このことから、「来るべき未来の前触れとなるかもしれない」という予測が出てきたほどだ。ASEANが、あえてG7へ接近している裏には、中国経済依存度が下がる兆候があるに違いない。外交関係では、「金の切れ目が縁の切れ目」なのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(12月13日付)は、「G7、インド太平洋への関与強化 外相会議 中国の勢力拡大懸念」と題する記事を掲載した。

 

12月12日に閉幕した主要7カ国(G7)外相会合では、インド太平洋地域への関与強化を打ち出した。台頭する中国による抑止を念頭に、G7と東南アジア諸国との利害が一致した。今回、オンラインも交えて東南アジア諸国連合(ASEAN)も初参加した。日本の林芳正外相は12日、「ASEANは『自由で開かれたインド太平洋』実現の要だ」と述べ、ASEANとの連携の重要性を訴えた。英国やドイツがインド太平洋に艦船を派遣するなど、欧州諸国も同地域への関与を強めている。同盟国と連携して中国に対応するというバイデン米政権の方針にも沿った動きだ。アジアの経済成長の取り込みにつなげる狙いもある。

 


(1)「中国は、ASEAN諸国と安保面での摩擦を抱えつつも、経済依存関係を強めて取り込みを図る。11月下旬の中国とASEANのオンライン形式の首脳会議では、両者の外交関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げすることを決めた。日米や欧州連合(EU)は一段下の「戦略的パートナーシップ」のまま。G7側には中国の影響力の増大が続き、民主主義陣営の影響力が落ちるとの危機感がある。今回、G7会合にASEANを招いたのは、この流れを変える思惑だ」

 

このパラグラフでは、中国経済が依然として成長軌道にあるという認識である。現実は、異なっている。パキスタンが、中国経済の減速ぶりに驚いているように、ASEANも同様の感触と見られる。そうでなければ、G7へ接近することは考えにくい。潤沢な資金を持つ中国であれば、ASEANの関心を引きつけているはずだ。

 


(2)「声明では、中国が南シナ海で進める軍事拠点化などを念頭に「埋め立てなどの重大な活動に懸念が示されている」と指摘した。G7とASEANで「海洋安全保障、航行・上空飛行の自由の促進などの海洋協力の強化を奨励する」と訴えた。ASEAN側も国際法の順守を軽視して海洋進出を図る中国をけん制するために、G7の後ろ盾を期待していた。G7側の議長、トラス英外相は12日の記者会見で「安全保障の協力が増えるほど、我々はより豊かに自由になる」と強調した」

 

下線部は、従来では想像できなかったことである。ASEANは、堂々と中国に対して南シナ海問題で注文をつけるようになってきた。この変化に気付かねばならない。従来は、中国の下工作で沈黙を強いられていたのだ。

 

(3)「G7はASEANを含めた途上国に「持続可能で強固な質の高いインフラ投資」を提供することも確認した。中国が広域経済圏構想「一帯一路」を通じたインフラ支援で、一部の途上国に多額の債務負担を強いていることが念頭にある。ASEAN事務局によると、2020年のASEANと中国の貿易額は5169億ドル(約58兆円)と過去10年で2倍以上に伸び、G7の総額の8割弱まで迫る。経済面の結びつきを強める中国に対し、G7側の巻き返しは簡単ではない」

 

G7は、ASEANと接触を深めた裏に、英国がG7の議長国という巡り合わせもある。英国は来年、TPP(環太平洋経済連携協定)に正式加盟の予定である。そうなると、ASEANの中でTPP加盟国(ブルネイ、マレーシア、シンガポール、ベトナム)と同じ釜の飯を食う仲になるのだ。英国が、ASEANとG7の仲立ちをする適役であったことが分かる。今後、英国が外交手腕を働かせて、ASEANをG7側に引き寄せる接着剤になりそうだ。