勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース

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    トランプ米大統領は13日、ロシアのプーチン大統領と合意したウクライナ侵略の停戦交渉にウクライナも参加すると表明した。「ウクライナ、ロシア、他の人も関与することになるだろう。多くの人たちだ」と述べた。トランプ氏が、このように発言した裏には、次のような事情があった。

    ゼレンスキー氏は13日、「ウクライナ抜きのいかなる合意も受け入れられない」と自国を交えない頭越しの交渉に難色を示した。トランプ氏が12日にゼレンスキー氏に先立ってプーチン氏と電話したことにも「ロシアが優先というわけではないと思うが、実際のところ不快だ」と語った。トランプ氏は13日、米ホワイトハウスで記者団に「『最初にゼレンスキー氏に電話すべきだった』という人がいるがそう思わない。ロシアが取引を望んでいるか見極めなければならない」と釈明した。「ゼレンスキー氏が取引を望んでいるのは知っている。彼が私にそう言った」と唱えた。以上、『日本経済新聞 電子版』(2月14日付)が報じた。


    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月14日付)は、「米副大統領、ウクライナ和平巡りプーチン氏に制裁・軍事行動を示唆」と題する記事を掲載した。

    JD・バンス米副大統領は13日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの長期的な独立を含む和平合意に同意しなければ、米政府として制裁だけでなく、場合によっては軍事行動を取る可能性もあると述べた。

    (1)「バンス氏は、ロシア政府が誠実に交渉に応じない場合、米軍をウクライナに派遣する可能性について、選択肢として「残されている」と発言。前日に米軍派遣に否定的な考えを示したピート・ヘグセス国防長官よりも、はるかに強硬な姿勢を取った。また「プーチン氏に対して米国が使える経済的な圧力手段もあれば、もちろん軍事的な圧力手段もある」ともバンス氏は述べた。ドナルド・トランプ大統領は、ウクライナでの戦争を終わらせるため、プーチン氏と交渉を始めると発言」

    米国は、ロシアが誠実に和平交渉に応じなければ、米軍をウクライナ派遣すると強硬姿勢である。


    (2)「バンス氏はその数時間後にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューに応じ、「多くの人々を驚かせるような合意が出てくると思う」と語った。またバンス氏は14日には、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談する予定にもなっている。ロシアは、ウクライナの武装解除と現政権の交代を求めているが、今回の発言はこれに対し、トランプ政権として最も強くウクライナを支持する内容となった。ゼレンスキー氏は、ロシアとの交渉にウクライナが参加することを強く求めていたが、トランプ氏は13日にはこれを認めると発言。一方でロシアを先進7カ国(G7)に復帰させるべきだとしたほか、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟はロシアが容認できないものだとも言及していた」

    米国は、ロシアによるウクライナの武装解除と現政権の交代を求めているが、これを明確に拒否している。この一方で、ロシアをG7へ復帰させることを提案している。ロシアの「疑心暗鬼」を解く狙いだ。これは、米国のロシア取り込み策で、中国との間に「溝」を作らせようという戦術だ。

    (3)「バンス氏は14日、世界の指導者らが共通の脅威について議論するミュンヘン安全保障会議で演説する予定となっている。同氏との2国間会談の確保に奔走する欧州当局者らは、トランプ政権高官の初の訪問が米国との新たな協力関係の契機となるほか、ウクライナでの戦争終結に向けた計画の詳細が示されることに期待を寄せていた。だがバンス氏は、欧州各国は反体制政治の台頭を受け入れて大規模な移民を阻止し、進歩的な政策を抑制する必要があると指導者らに伝えると述べた。また伝統的価値観への回帰と移民犯罪の終息も呼びかけるという。さらにドイツの政治家らに対しては、反移民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を含むすべての政党と協力するよう促す考えも明らかにしている」

    バンス氏は、欧州各国が反体制政治の台頭を受け入れて、大規模な移民阻止で一致した行動に出るように求めている。


    (4)「バンス氏はウクライナについて、ロシアの支配下に残る領土の規模や、米国と他の同盟国がウクライナに提供できる安全保障面の保証について、詳細は和平交渉で詰める必要があるとし、現時点では言及できないと述べた。そのうえで「さまざまな形式や構成が考えられるが、ウクライナの主権的独立は重要だ」とした。同氏はまた、ウクライナを巡る合意に達した後、ロシアとは関係をリセットする用意があるとも発言。欧米市場からの現在の孤立により、ロシアは中国の下位パートナーとなっていると指摘し、「中国との連合で弟分の立場に甘んじることはプーチン氏の利益にならない」と述べた」

    ウクライナ問題が解決したならば、ロシアへの経済制裁を解除すべきとしている。現状のロシアは、中国の下位パートナーで従属した関係である。これが、プーチン氏の利益にならならないとしている。米国のロシア懐柔策である。米ロが、中国へ対抗する構図を狙っている。

    (5)「12日にブリュッセルで開かれたNATOの会合でヘグセス氏は、ウクライナの国境はロシアが最初に侵攻した2014年以前の状態には戻らない可能性が高いと指摘。また、交渉の結果、ウクライナがNATO加盟国になることはないだろうとし、米国以外の国が(ウクライナの)安全を保障する必要があると述べた」

    米国は、ウクライナのNATO加盟に反対だ。この問題が、ウクライナ戦争を引き起した原因であるからだ。ロシアの疑心暗鬼を解くために、米国はこういう譲歩案を出している。英仏が、ウクライナへ駐留部隊5万人程度の派遣を検討している。




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    ウクライナ軍は8月6日から、国境を越えてロシア南西部のクルスク地域への攻撃を開始。占領地域を拡大している。ウクライナ正規軍が、ロシアの侵攻後にロシア領土内で地上作戦を行うのは今回が初めてである。これによって、ロシアが戦争を制御できないことが露呈された。「ロシア軍優勢」という定説が覆された形だ。 

    ロシア軍は、ウクライナ軍のロシア領土内侵攻に対応するため、一部の部隊をウクライナから撤退させていることが分かった。米政府当局者らが明らかにしたもので、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月14日付)が報じた。ロシア軍が、ウクライナ軍のロシア領進撃を食止めるためにウクライナから撤退させるのは、ロシア軍の兵力が限界にあることを示している。ロシアは、ウクライナ侵攻開始後すでに2年半に及んでおり、戦線が「伸びきっている」ことを裏付けている。


    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月15日付)は、「ウクライナ越境攻撃、ロシアに衝撃」と題する社説を掲載した。 

    ウクライナ軍は今週、ロシア領土内に進攻した。西部クルスク州への越境攻撃はロシア政府にとって新たな頭痛の種となっている。 

    (1)「ロシアのプーチン大統領は、ウクライナとの戦争は自国領土外でしか行われないと確信し、クルスク州に強固な防衛態勢を敷いてこなかった。ウクライナ軍はこの隙を突いて越境攻撃に出た。同軍のシルスキー総司令官は12日、約1000平方キロメートルのロシア領土を制圧したと述べた。ロシアの南部は約970キロにわたって未支配のウクライナ領土と国境を接しており、ロシアはその防衛について考えざるを得なくなる。ロシア軍は、クルスク州への越境攻撃を受けウクライナ南部ヘルソン州およびザポロジエ州から一部撤退したと報じられている。米シンクタンクの戦争研究所は13日、ロシアはドネツク州の非正規部隊から一部の人員を引き揚げたり、南東部国境の後方部隊の交代か補強に向けて要員を再配置したりしている可能性があるとの見方を示した。 

    ロシア軍は、ウクライナ軍のロシア南部への越境攻撃で、守勢にまわることになった。このため、ウクライナ南部ヘルソン州およびザポロジエ州から一部撤退したとされている。ロシア軍が、こうした部隊撤収によってウクライナ軍のロシア越境攻撃に対応せざるを得なくなっている。ロシア軍は、兵力限界を示している。

     

    (2)「ウクライナは、ロシア・クルスク州で奪取した土地の占領に関心はないが、ロシアの攻撃から自国を守る必要がある。ウクライナのゼレンスキー大統領は同国スムイ州について、過去75日間にわたりクルスク州からの約2100回の越境砲撃に耐えてきたと述べた。ロシアはクルスク州に軍隊を駐留させており、近くのハリコフ州に対して行ったのと同様の攻撃をスムイ州に対しても仕掛けてくる恐れがあるとウクライナは懸念している。ウクライナがクルスク州で陣地を維持できている限り、スムイ州を守るための緩衝地帯がロシア領土内にできることになる」 

    ウクライナ軍による今回の作戦目的は、ウクライナのスムイ州に向けてロシアのクルスク州から約2100回の越境砲撃をかわすことにある。ウクライナが、ロシア・クルスク州で陣地を維持すれば、ウクライナ・スムイ州を守れるという戦術展開にある。また、ウクライナは、ロシア軍がクルスク州で反撃できないよう、長距離ミサイルを使用して最前線の向こう側にある飛行場や補給路を破壊するのが目的という。

     

    (3)「ウクライナの越境攻撃はプーチン氏を当惑させ、ロシア国民に戦争の影響を一層強く感じさせた。プーチン氏は越境攻撃が「大規模な挑発行為」だと述べた。これは、ロシア軍が状況を制御しているという国内向けのメッセージと矛盾している。ロシアはここに来て、国境に近いクルスク州とベルゴロド州で緊急事態宣言を発令した。クルスク州の知事代行によると、およそ18万人の住民に避難命令が出された」 

    ロシアは、これまで自国領土内での戦闘行為がなかったことで、ウクライナ侵攻を「よそ事」のように扱ってきた。それが、自国領のクルスク州で戦闘が始まり「身近」な戦争になった。 

    (4)「ウクライナはまた、クルスク州でロシア兵の身柄を拘束した。ゼレンスキー氏は、これによって「われわれの息子・娘たちの帰還が加速するだろう」と述べた。生存者がロシアに拘束されている間、恐ろしい虐待に遭ったと証言しているだけに、捕虜交換はウクライナ国民にとって優先事項の一つだ。国連ウクライナ人権監視団の代表が今月オランダのメディアに語ったところによると、ロシアはウクライナの戦争捕虜の95%に拷問を加えた」 

    ウクライナ軍は、クルスク州でロシア兵を多数拘束した。このロシア兵は、ウクライナ兵との捕虜交換の要員になる。

     

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    ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は6月19日、平壌で首脳会談を開いた。軍事や経済に関する「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記との会談で新条約に署名し、「同盟関係という新たな水準」(金氏)に到達。ロ朝はそれぞれの思惑で蜜月ぶりを強調するが、両国と関係が深い中国には複雑な見方がある模様だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月20日付)は、「ロシア・北朝鮮接近「最大の敗者は中国」、元米高官」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記は19日、軍事や経済に関する「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。ロ朝の急接近を受け、米国の専門家は「中国が最大の敗者になる可能性がある」と話す。

     

    ダニエル・ラッセル元米国務次官補「北朝鮮、中国無視で混乱の可能性」とみる。ラッセル氏は、オバマ政権で東アジア・太平洋担当の米国務次官補としてアジア重視戦略を担った。現在は米シンクタンクのアジア・ソサエティー政策研究所副所長。

     

    (1)「プーチン氏と金正恩氏の首脳会談でロシアが必要とする軍需品と北朝鮮が求めるエネルギーや肥料、技術を取引した。ロシアが防衛産業の能力を立て直し、平凡な品質の北朝鮮製の弾薬の必要性が低下するにつれ、両国関係は縮小していくだろう。だが、現時点では双方が戦略的利益を得ている。 北朝鮮が圧倒的に得をし、中国が最大の敗者になる可能性がある。ロ朝の相互防衛協定は、ロシアが実際に北朝鮮を防衛することを意味しないかもしれない。ただ、ロシアが中国の支援で構築している西側諸国の制裁への「対抗軸」を強化するのは間違いない」

     

    ロシアは当面、北朝鮮製の弾薬を利用できるエリットがある。だが、時間の経過とともにその必要性は薄れるので、ロ朝関係は縮小するとみている。ロシアの「作戦勝ち」と言える。

     

    (2)「北朝鮮にとって重要なのは、ロシアとの協力が中国への貴重な影響力を生み出す点だ。過去数十年にわたって中国に大きく依存しており、金正恩氏が減らしたいと切望する負担だった。ロ朝の接近は金正恩氏にとって想定外の利益で、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席には頭痛の種になる。中国が自ら影響力を行使できるとみなす地域にプーチン氏が割り込んできたいら立ちとは別に、中国にとって真の代償は北朝鮮が中国の利益を考慮せずに行動する余地が増すことだ」

     

    北朝鮮は、ロシアとの関係強化で物資の供給を受けられる。これまで、中国への経済的依存度が高かっただけにプラスになる。中国からみれば、駒が減ったことでマイナスになった。

     

    (3)「中国の影響力低下は、金正恩氏が中国の自制要求を無視できる事態を意味し、習氏が安定を望んでいる時に混乱を引き起こす可能性が高まる。米国とその同盟国への影響も大きい。弾薬などの補給でロシアは欧州に対する脅威を高め、北朝鮮の防衛技術強化や同国への制裁緩和で日米韓への脅威が一段と増す。プーチン氏と金正恩氏の策略は(国際社会での)ゲームチェンジャーにはならないかもしれないが、世界の国々にもたらされる挑戦を拡大する」

     

    中国の北朝鮮への影響力が低下することで、北朝鮮が中国のコントロールを外れるリスクが高まる。この点は、日米韓にとっては脅威である。

     

    米ハドソン研究所 パトリック・クローニン氏は「米国と同盟の協力より強固に」とみる。クローニン氏は、日米中などアジア太平洋の外交・安全保障が専門。米戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長や新米国安全保障研究所上級顧問などを歴任。現在は米ハドソン研究所のアジア太平洋安全保障部長。

     

    (4)「プーチン氏は、米国に対してウクライナの防衛力を支えるより、東アジアに軍事資源を集中させるよう望んでいる。今回のロシアと北朝鮮の「包括的戦略パートナーシップ条約」はかねて懸念されていた防衛協力に大きな変化はない。相互防衛は誇張されているが、ロシアと北朝鮮は世界秩序と米国の指導力を混乱させ続けるだろう。彼らの行動は米国と同盟国の間の協力をさらに強めることになる。ロシアが朝鮮半島の安定を脅かすような技術移転に動けば、中国はバランスを正すために介入するだろう」

     

    ロ朝が、「包括的戦略パートナーシップ条約」と仰々しい名前の条約を締結したが、ロシアの防衛協力はこれまでと実質的な変化は起こるまい。もし起これば、中国が介入してくる。ロシアの狙いは、米国の軍事資源を東アジアに向けさせ、欧州を手薄にすることだ。これは、中国にとって不都合なだけに、逆にロシアを牽制するであろう。中ロの関係は、各論になると食い違いが起こる。これが、中ロ関係の弱点である。

     

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    習近平氏は、きっと肝を冷やしたに違いない。盟友プーチン氏へ反旗を翻す騒ぎが起るとは夢にも思わなかったであろう。この伝で言えば、中国の反習近平派の共青団(中国共産主義青年団)や上海閥(江沢民派)が将来、混乱に乗じて習氏追放へ動き出してもおかしくない。権威主義政治では、こういう「一揆」がいつでも起こりうることを示したのだ。 

    もう一つの驚きは、習氏が米国を初めとする西側諸国への対抗パートナーとして選んだロシアが、たった1日とは言え、反乱騒ぎが起るほどの矛盾を抱えていたことだ。こういう脆弱なパートナーでは、とても巨大な西側諸国と対抗することは不可能である。「弱い」相手をパートナーにしたことへの失望感を味わったであろう。今時、権威主義など時代逆行思想が民主主義へ対抗することの無益を悟るべきであろう。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月29日付)は、「ワグネル蜂起、中国外交も揺さぶる」と題する記事を掲載した。 

    民間軍事組織によるロシア政府への束の間の反乱と、その際に浮き彫りになった同政府のぜい弱性は、中国にとって米国主導の世界秩序に挑む上で主要なパートナーであるロシアとの関係に新たなリスクを投げかけている。

     

    (1)「中国は3年に及んだゼロコロナ政策を今年初めに撤廃すると、世界の外交舞台で前面に立ち、世界第2位の経済大国としての地位にふさわしい、より大胆な振る舞いで自国の主張を押し出している。さらに、米国の覇権に対抗する国際秩序という習近平国家主席の構想を掲げ、これに沿った新たな発展と安全保障の取り組みを推進している。その過程で中国は、米国主導の民主主義陣営による圧力緩和を狙い、ロシアとの連携を強めた。両国は歴史的には緊張関係にあったが、習氏とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、米国と同盟国が両国を抑え込もうとしているとの共通認識のもと、より緊密な関係を築いてきた」 

    習氏は、プーチン氏と同年齢(プーチン氏の誕生日が半年早い)であり、互いに終身ポストを狙っているという共通項もあって友情を深めた。ただ、打算の趣が強く、ロシアの実態を精査しなかったのであろう。習氏の個人的な利害関係が、国益を左右したケースである。 

    (2)「民間軍事会社ワグネル・グループの武装蜂起は失敗に終わったものの、この混乱で国内ではプーチン氏への圧力が強まり、ウクライナで戦闘を続けられるかが改めて疑問視されている。そのため、習氏のプーチン氏との友好関係は一段と不都合なものと映り、緊密に連携する強大な隣国同士というイメージが傷ついた。ウクライナ侵攻が起きてもなおロシアとの関係を優先するあまり、中国は米欧や多くの主要国との関係を損なってきた」 

    習氏は、政敵をことごとく獄窓へつないできたので「終身ポスト」でない限り、身の安全を保てないというジレンマを抱えている。それが、プーチン氏を理由の如何にかかわらず支持しなければならない理由だ。この結果、中国の国益は大きく損なわれている。

     

    (3)「元米中央情報局(CIA)職員のジョン・K・カルバー氏は、「習氏と中国にとって、ロシア内部の混乱や、西側が支援するウクライナの反転攻勢を受けたつまずき、制裁などは、孤立が深まるリスクを高めることになる」と、上級客員研究員を務める米シンクタンクのアトランティック・カウンシルへの寄稿でこう指摘した。中国にとって「現実的な選択肢は、米国や欧州との緊張を緩和することだろうが、習氏は前任者たちよりイデオロギー的であることがはっきりしてきた」という」 

    習氏は、中国の国益を大きく損ねている。西側諸国との対立は、習氏の自己保身に関わっている部分が大きいからだ。習氏が、国家主席3期目を目指したことから、歴史の歯車は逆回転を始めている。 

    (4)「中国が、プーチン氏に背を向ける気配はない。世界情勢における米国の影響力低下を狙う中国は、自国やロシアなどパートナー国の発言力を高める、多極体制と呼ぶ枠組みを推進している。米中の当局者は、対立を望まないとしている。それでも、中国が国際情勢でより積極的な役割を担うようになり、また米国が最先端技術への中国のアクセスを制限するよう同盟国に働きかけていることで、摩擦や衝突の可能性は高まっている。米政府高官はとりわけ、中国が台湾を巡り軍事行動に出る可能性を危惧する。中国当局は、ロシアがウクライナで苦戦していることについて、台湾を支配下に置くという決意には影響しないとしている。中国は長年、平和的統一が第一の選択肢だと主張してきた」 

    習氏は、ロシアの国力を完全に見誤っている。現在のロシアは、中堅国の一つに過ぎないのだ。原油だけで工業技術を持たない国で、「脱炭素」が軌道に乗れば、最初に消える国である。さらに、ウクライナ侵攻で膨大な損害を与えている。この賠償金額だけでも、ロシアは大変な負担を負う。

     

    (5)「中国はロシアへの揺るぎない支持を示しているものの、今回のロシアの混乱が習氏や指導部に大きな懸念をもたらしたことはほぼ間違いない。中国はウクライナ戦争で中立に努め、ロシアが侵略者とみなされない形での和平を呼びかけてきた。蜂起に失敗したワグネルが主力から退くことで、ウクライナの反抗に伴う今後の戦局はますます見通しにくくなっている。中国のシンクタンク、全球化智庫(CCG)の副主任、高志凱(ビクター・ガオ)氏は「今回のワグネルの動きは、中国を含む多くの国にとって全く予想外だった」と語る。高氏は、ロシア国内が不安定化することでウクライナ戦争がエスカレートする可能性が高まり、ロシアが本気で核兵器の配備を検討しかねないとみている。ロシアで内紛が起きたことで、すぐにも和平交渉を始める必要があると指摘した 

    下線部は重要な指摘であるが、ロシアの撤退が前提になる話だ。それには、ロシアに「革命」が起らなければなるまい。和平交渉は、それほど難しい問題だ。

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    ウクライナ侵攻の矛盾数々

    ロシア経済に大きな衝撃波

    脆弱であったプーチン政権

    デリスキングに揺らぐ中国

     

    ロシアの傭兵部隊ワグネルが、6月24日に反乱行動へ出て世界を驚かせた。ワグネル代表のプリゴジン氏は、この行動が軍事クーデタでなく「正義の行進」と称した。目的は、ロシア国防省の稚拙な軍事作戦に対する責任追及であると主張したのである。ロシア政府は、すぐに取り締る方針を決めたので、ワグネルは25日には正義の行進を取り止めると発表、「一日だけの反乱」に終わった。めまぐるしい動きであった。

     

    6月24日は、ロシアがウクライナ侵攻を始めた2022年2月24日から、ちょうど16ヶ月目に当たる。ロシア軍は、開戦「三日で戦争終了」という当初目論見と異なって、戦線は膠着して防衛に回るという想定外の事態へ追込まれている。ロシア側に不満がたまるのは当然であろう。ワグネルは、それを掬い上げて反乱行動へ出たものと推測される。

     

    この問題は、間違いなくロシアの弱体化を物語っている。一方、蜜月関係にある中国へ与える影響が極めて大きいことを特筆しなければならない。中国は、ロシアと連携して米国へ対抗する戦術を練ってきた。だが、ロシアは「ワグネル反乱」で弱体化が表面化し、中国は狼狽しているはずだ。ロシアを信じて、米国とその同盟国へ対抗することが、余りにもリスキーであることを認識させられたであろう。「金」と思っていたロシアが、実は「銅」以下の存在であったのだ。習氏の眼力に、大きな狂いがあったことは間違いない。

     

    ウクライナ侵攻の矛盾数々

    ロシア経済は、今回のウクライナ侵攻とこれに伴う西側諸国による経済制裁、さらにはロシアの最大の輸出品である石油需要が、脱二酸化炭素で先細り状態にある。まもなく、ロシアは経済的に行き詰まる運命だ。プーチン氏は、こういう切迫した事態の進行を正確に認識しないままに当てのない戦争を続けている。悲喜劇を演じているのだ。

     

    プーチン氏は、ウクライナ侵攻を長引かせて行けば、いずれ西側諸国のウクライナ支援が息切れして和平へ持ち込めると踏んでいる。これが、一般的な予測である。だが、西側はウクライナ支援疲れを口に出せない「次なる問題」を抱えている。中国の台湾侵攻である。ウクライナが、ロシアの思惑通りの決着になれば、中国が必ず台湾へ侵攻するであろう。これは、中ロ枢軸に勝利をもたらす意味で、民主主義の危機になる。こういう経緯が予想されるだけに、西側はロシアの勝利を絶対に阻止しなければならない理由を抱えている。

     

    前述のように、ロシアは長期戦でのウクライナ侵攻を決意しているとしても、現実はそれを許さない事態になっている。今回の「ワグネル反乱」は、その一つのシグナルである。ロシアがすでに経済的な行き詰まりによって、最前線へ十分な武器弾薬を供給できない事態にあるからだ。ワグネルに反乱を引き起こさせた理由の一つと見るべきであろう。

     

    現実に、ロシア経済は経済制裁の影響を強く受けている。すでに、それが国際収支面へ現れている。今年1~5月の経常黒字は、前年同期比81.6%減と急減して228億ドルである。石油・ガス収入は、前年同期比49.6%減になった。ウラル原油の価格低下と天然ガスの輸出量の減少が響いたものだ。この調子で行けば、7~8月には経常収支は赤字転落の事態になろう。

     

    これを反映して、ルーブル相場は主要国通貨の中で最大の値下がりである。対ドル相場は現在、1ドル=84~85ルーブル台へ下落している。1年3カ月ぶりのルーブル安水準である。年初来の下落率は、12%と主要25通貨の中で最大だ。このように、下落基調を強めているのは、ロシア経済が混沌としていることを反映している。

     

    ロシアは昨年、若者が兵役忌避で国外移住したことと徴兵によって人手不足に陥っている。開戦1ヶ月間で30万人の若者が出国している。昨年の年初来では、数百万人が出国しているが、多くはIT関連の技術者とされる。手に職があるので、出国しても暮らしに困ることはない。出国者の86%が44歳以下の若者だ。

     

    こうして、ロシアの労働力不足は、1991年のソ連崩壊後で最大規模とされている。その上、約30万人が兵役で動員されている。この結果、ロシア企業ではプログラマーやエンジニアから溶接工、石油採掘業者に至るまで、あらゆる職業で人材が不足している。経済活性化やウクライナ戦争支援に必要な人材が、揃わないという皮肉な事態に陥っているのだ。

     

    ロシアが、ワグネルなど国際法違反の傭兵に依存して戦争しているのは、兵士になる若者が不足している結果でもある。人口動態からみて、これ以上の徴兵は生産活動へ致命的は影響を与えるので不可能な状態だ。人的資源から見て、継戦能力には限界が出ている。

     

    ロシア経済に大きな衝撃波

    ロシアにとって今後、経済上の大きなネックになるのは原油需要が鈍化することだ。需要が鈍化すれば、価格も上がらないという意味で、原油需要の鈍化がロシア財政に大きく響くことは避けられなくなっている。ロシアの原油生産は、世界生産の約1割のシェアだ。

    (つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

     

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