勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: ロシア経済ニュース

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    ウクライナ軍には、ドイツ製戦車「レオパルト2」300両以上が供与される見通しとなった。ロシア製戦車と異なって、装置ははるかに優れているとみられる。ロシアは、気がついたらNATO(北大西洋条約機構)軍を相手に戦っているような状況へと変わっている。だが、プーチン・ロシア大統領は、西側諸国がいずれウクライナ支援疲れを起して、休戦に応じるであろうという読みがあるようだ。 

    『ブルームバーグ』(1月28日付)は、「プーチン氏、ウクライナ戦争の長期化に身構えー新たな攻勢も準備」と題する記事を掲載した。 

    数週間で決着を付けるはずだった侵攻から1年近くがたつ中で、ロシアのプーチン大統領はウクライナで新たな攻勢を準備している。同時にロシア国内では、自身が今後何年も続くとみる米国やその同盟国との衝突に身構えさせようとしている。

     

    (1)「ロシアの狙いは、数カ月にわたって劣勢続きの軍が再び戦争の主導権を握れることを誇示し、ロシアが現在支配する領土が認められる形でのある種の停戦に合意するよう、ウクライナとその支援国に圧力をかけることだ。事情に詳しい政府の当局者や顧問、関係者が述べた。非公表の内容だとして匿名を条件に語った関係者によると、当初占領した面積の半分以上を失い、プーチン氏ですら自身が数十年かけて作り上げてきたロシア軍の弱さを否定できなくなっている。後退続きでロシア政府の多くが短期的な目標についてより現実的にならざるを得なくなり、現在の占領地を維持するだけでも成果だと認めている」 

    ロシアは、現在の占領地保持を前提に「停戦」を考えているという。これは、ウクライナの見解と真っ向から食い違っている。ウクライナは、「原状回復」が停戦条件としている。

     

    (2)「プーチン氏はこれまでの失敗にもかかわらず、規模に勝る軍と犠牲をいとわない姿勢がロシアを最終的な勝利に導くとなお確信している。米国や欧州の見積もりによると、ロシア軍の死傷者数は既に数万人に上り、第2次世界大戦後のどの紛争よりも多い。ロシア大統領府関係者は、新たな攻勢は2月か3月にも始まる可能性があると述べた。ウクライナとその支援国も、米国や欧州が新たに約束した戦車が届く前にロシアが攻勢を開始する可能性があると警戒している」 

    ロシアが、2~3月に再攻勢説に疑問符がつく。昨年も2月24日開戦で、ロシア戦車は雪解けで行動力を失った経緯があるからだ。春になって大地が乾かなければ戦車は動けないのだ。 

    (3)「プーチン氏が示す決意は、戦争が再びエスカレートする前兆となる。一方でウクライナも国土からロシア軍を駆逐する新たな攻勢を準備しており、ロシアの占領維持を認める停戦協定には応じない姿勢だ。関係者によると、プーチン氏はロシアの存亡を懸けて西側と戦っているとの認識で、戦争に勝利する以外に選択肢はないと信じている。新たな動員が今春行われる可能性もあるという。ロシアは経済や社会を二の次とし、戦争のニーズを最優先する性格をますます強めている」 

    下線部は、ロシアが受ける傷の深さを示している。ロシアが、ウクライナへ領土を拡張しようとすれば、西側諸国が認めないという大きな枠が掛かっているからだ。

     

    (4)「政治コンサルタント会社Rポリティクの創業者タチアナ・スタノワヤ氏は、「プーチン氏は事態の展開に失望しているが、目標を断念する用意はない」と指摘。「それが意味するのは、道のりが長くなり、さらなる犠牲を伴い、全員にとって一層悪い展開になるということだ」と述べた。米国と欧州の情報当局は、昨秋に30万人を追加動員したロシアに再び大規模な攻勢をかける資源があるのか疑問視している。一方で、ウクライナ支援国は兵器供給を強化。ウクライナ軍がロシア軍の防衛線を突破できるよう、初の主力戦車や装甲車両の供与に向け準備が進む」 

    下線部のように、西側諸国はロシアが30万人以外に、さらなる大規模動員を掛ける資源があるか疑問視している。 

    (5)「ロシアの政府系シンクタンク、ロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトゥノフ会長は「何かが変わらない限り、第1次世界大戦のような消耗戦を目にすることになる。両陣営とも時間が自分に味方すると考えているため、長期戦になる可能性がある」との見方を示し、「プーチン氏は西側やウクライナに戦争疲れが広がると確信している」と述べた。原油輸出に対する上限価格設定など相次ぐ制裁でロシアの財政は圧迫されているが、戦争の資金力を断つには今のところ至っていない。制裁の影響を受けていない中国人民元建ての多額の準備金に対するアクセスをロシアは維持しており最長で2~3年の財政赤字を穴埋めする資金として利用できるだろうと、エコノミストらはみている」 

    ロシアは、あと2~3年は戦時経済に耐えられる資金力があるという。だが、ウクライナへの被害を増やせばその賠償金が自動的に増えていくことを忘れている。

     

    (6)「ウクライナを支援する側にも、戦争長期化への不安は広がりつつある。「ロシア軍をあらゆるウクライナの土地から、あるいはロシアが占領したウクライナの国土から軍事的に排除するのは、今年は非常に困難だろう」と米国のミリー統合参謀本部議長は1月20日、同盟国との国防担当相会合で発言。「ただ、この戦争も過去の多くの戦争と同様、最後にはある種の交渉で終わることになると思う」と語った」 

    米国のミリー統合参謀本部議長は、一貫して「和平交渉」の必要性を主張している。ただ、統合参謀本部議長は、実質的発言権が弱いと指摘されている。

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    プーチン・ロシア大統領は、昨年12月にG7による価格上限を「愚策」と呼び、「予算について案じる」必要はないとして、ウクライナ侵攻の資金は「無制限」に調達できると豪語した。現実は、そんな甘い状況にはない。プーチン氏は1月11日、「予算にいかなる問題も生じないよう、原油の値引きに対応しなければならない」と政府幹部に指示した。懐状況は苦しいのだ。

     

    だが、戦費調達手段としていくつかの「財布」がある。政府系ファンド、国内銀行からの融資、外貨準備高に組入れている中国人民元の市中売却である。こうなると、「あと数年」持ち堪えられる可能性がある。だが、使い果たした後は「ゼロ状態」になり、再起は著しく困難になろう。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月19日付)は、「ロシア原油のさらなる下落、23年の財政を圧迫へ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア産原油は、2023年はエネルギー価格の下落に加え、主要7カ国(G7)が1バレル60ドルの上限を設けたことで、大幅な値下がりが予想される。ロシア大統領府のエコノミストは頭を痛め、昨年よりはるかに厳しい1年となるだろう。

     

    (1)「ロシアの22年財政赤字は、石油価格の急落と戦費増加により、国内総生産(GDP)比で2.%に膨らみ、プーチン氏ら政府幹部は今後に財政リスクが生じると危惧する。石油・ガス収入はロシア財政の4割を占める。ロシアにとって上限価格の設定による値下げやエネルギー価格の下落は、最大の課題になる。調査会社ケプラーの石油市場専門家、ビクター・カトナ氏は、「『値引き』は制裁がもたらした重大な影響だ。長期間にわたり、ロシア産石油は実際に値引きされるようになった」と指摘する」

     

    石油・ガス収入は、ロシア財政の4割を占めている。これら石油・ガス価格がどう動くかで、大きく響く構造になっている。

     

    (2)「ロシア産原油の輸入国は、原油価格の指標となる北海ブレント原油に比べて、さらなる値引きを迫っている。キーウ経済大学(KSE)は22年、ロシアが値引きによって失った歳入は500億ドル(約6兆5000億円)と当初計画から12%減ったと試算した。ブレントと、ロシア産原油の指標となるウラル原油のスプレッド(価格差)は35〜40ドルと、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始前に比べ10倍に広がった。英調査会社アーガス・メディアによると、ウラル原油は12月5日に1バレル60ドルの上限設定後に下落し、足元ではブレントに比べ48%安い44ドルで取引されている。ロシアの23年予算が想定する1バレル70ドルを大きく下回り、GDP比2%の財政赤字に陥ると推計される」

     

    ウラル原油は、12月5日に1バレル60ドルの上限設定後に下落。足元ではブレントに比べ48%安い44ドルになっている。政府の想定価格は70ドルである。4割弱も下回る価格だ。

     

    (3)「フィンランドのシンクタンクCREAの試算によると、ロシア産原油価格上限制などによりロシアが被る損失は1日1億6000万ユーロ(約220億円)に上る。ロシア政府は、23年予算の全石油・ガス収入は22年比で23%減ると見積もる。一方KSEは、減収幅はその2倍になる可能性があると試算する。財務省のデータによると、ノワク氏が述べたように石油生産量が22年比7〜8%減少し、ウラル原油が平均1バレル50ドルで推移すると、ロシアの23年の石油・ガス収入は当初予算を23%下回る。ウラル価格が平均35ドルなら不足は45%に膨らむ。西側によるロシア産石油製品の禁輸措置が、2月発効すれば、減収幅はさらに大きくなる可能性がある」

     

    西側諸国のロシア産原油価格上限制で、ロシアは大きな損失を被る。23年にウラル原油が、平均1バレル50ドルで石油・ガス収入は当初予算を23%下回る。平均35ドルなら不足は45%に膨らむ。

     

    (4)「23年が予測通りになったとしても、ロシアは損失を補塡し計画通りに戦争資金を捻出できる。主に国内銀行から対内融資を受け、中国人民元を売却するなど総額1480億ドルに上る政府系ファンドの資金を流用できる。ロシア政府は13日、1月見込まれる石油・ガス収入の不足分545億ルーブルを補塡するため人民元売りを始めた。ズベルバンクCIBのアナリストは、ロシア政府は今後数年間、介入するのに十分な人民元を外貨準備に十分に保有しているとの見方を示す」

     

    前述のように、ウラル原油が平均35ドルに値下がりしても、ロシアは歳入不足を補填する手段を持っている。外貨準備に保有している人民元が今後、数年間にわたり市場で売却できる余力があるのだ。また、国内銀行から融資を受けることも可能である。

     

    (5)「元中央銀行職員のアレクサンドラ・プロコペンコ氏はこうみている。歳入が減り、22年のように歳出が当初予算を上回るような場合、ロシアは借金を増やし、プーチン氏は後ろ向きだが、ファンドに手を付けなければならない。あるいはこれまでの難局で実施してきたように経済発展やインフラへの支出を減らさなければならないと。だがプロコペンコ氏は、ロシア政府の政策決定の中心がウクライナ戦争に置かれている限り、軍事支出が影響を被るのは本当に最後だと主張する」

     

    プーチン氏は、ウクライナ侵攻が予算的に行き詰まるまでに、いくつかの資金「引出箱」を持っている。万策尽きる時期は、数年後ということも計算に入れておくべきだろう。

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    ロシアのウクライナ戦争は、間もなく2年目を迎える。ロシア軍は、ウクライナ軍が戦場で得ている勢いを阻止し、逆転できるのか――。その手掛かりを得るには、今後数カ月が重要になってくると観測されている。 

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月29日付)は、「冬のウクライナ戦争、カギ握る6つの要因」と題する記事を掲載した。 

    (1)「ウクライナ東部ドネツク州バフムート市を掌握するロシアの取り組みは、戦略的な意義よりも心理的な重要性を帯びている。ウクライナ軍にとって、この戦いに敗れれば、より高所の防御しやすい陣地まで退却できるが、プロパガンダ上の勝利をロシアに譲り渡すことになる。バフムートはロシア軍が前進しようとしている数少ない地域の一つだが、ここ数カ月のウクライナ陣地への容赦ない攻撃は最小限の前進しかもたらさず、非常に多くの死傷者を出している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)の現地からの報道によると、ウクライナ軍はロシアの砲撃が最近減速しており、恐らく弾薬不足が原因だろうと報告している」

     

    ロシア軍は、すでに戦略的に重要性を失ったバフムートへ、執拗な攻撃を続け多くの犠牲者を出している。政治的な勝利を狙った無謀な攻撃とみられるのだ。つまり、プーチン大統領、私兵ワグネル創始者プリゴジン氏、ロシア軍司令官スロビキン大将という3人のメンツを保つための攻撃とされる。 

    (2)「ウクライナの首都キーウ(キエフ)にある政府系シンクタンク、国家戦略研究所のミコラ・ビリエスコフ研究員は、ロシアのバフムートへの注力は、軍事的目標が政治的配慮によって決められていることを示していると指摘する。同氏は、それはロシアには「ウクライナと異なり、依然として健全な政治・軍事関係がない」ことを示していると述べた。英国防省は21日、バフムートを巡る戦闘の多くは、同市東部の開けた場所で行われていると指摘した。戦闘が市街地に移った場合、訓練不足のワグネルの戦闘員やロシアの予備兵よりも、ウクライナの有能な下級指揮官が率いるよく訓練された歩兵隊の方が有利になる可能性が高い」 

    バフムートの攻防戦が仮に市街戦になれば、ウクライナ軍の有能な将校が指揮する歩兵部隊が有利な戦いをすると見られる。

     

    (3)「ほとんどの軍事アナリストは、秋にロシア占領地の多くを奪還して以降は、ウクライナが戦争の戦略的主導権の多くを握っていると考えている。ウクライナは冬の間も攻勢を維持し、可能であればロシア軍をさらに後退させる構えだとアナリストはみている。(前出の)ビリエスコフ氏は、次の進軍のタイミングは重要ではないと話す。「われわれに能力があり、冬に絶好の機会が訪れれば、冬に実行すればいい。春を待つ必要があるのなら、恐らく春まで待って実行することになるだろう」 

    ロシア軍は、すでに多くの下士官を失っている。半年程度で下士官を育成するのは無理だ。指揮官のいないままに、兵士だけが戦うのは力を発揮できず「バラバラ」の戦いになるという。こうして、戦場の支配権は、ウクライナ軍が握っているとしている。

     

    (4)「ウクライナの攻撃には、明白な方向が二つあると軍事アナリストは話す。一つは、東部ルガンスク州のスバトベ・クレミンナ間の幹線道路R66で結ばれた線を標的にするものだ。もう一つは、南部ザポロジエ州のメリトポリとベルジャンスクを狙うものだ。この目標を達成すれば、ロシアとクリミアを結ぶ重要な補給線と通信線を断つことになる」 

    ウクライナ軍が、東部ルハンシク(ルガンスク)州の主要都市クレミンナを近く奪還するという見方が出てきた。ウクライナ側のハイダイ・ルハンシク州知事は27日(現地時間)、ツイッターで「ロシア占領軍の軍指揮部は、ウクライナ軍隊が接近しているクレミンナを離れた」とし「都市から遠くないところですでに戦闘が行われている」と伝えた。ハイダイ知事は同日、テレグラムで「ロシア人はクレミンナを失えば全体の防御ラインが崩れることを知っている」とも強調した。事態は、急進展している。

     

    (5)「ロシア軍は前線の大部分とその周辺を守るために塹壕を掘っており、ウクライナ軍の海からの上陸を阻止するためクリミアのビーチにまでそれを伸ばしている。既存のロシア軍に予備兵が加わり、隊形は深く構築されつつある。ウクライナにはロシア軍がどこを掘ったかが分かる上、木々の葉が落ちることで陣地を隠すのは難しくなる。ビリエスコフ氏は、ロシア軍が広範な地域に塹壕を掘っていることは、ロシアが「あらゆる不測の事態に備えている」ことを示しているが、「最終的にわれわれが詳細な計画を立て、適切な能力で古典的な攻勢作戦を行えば、彼らは攻撃を免れないだろう」と述べた」 

    ロシア軍が塹壕を掘って防衛戦を固めているが、ウクライナ軍は古典的な攻撃作戦で突破できると見る。事前に塹壕をしらみつぶしに攻撃するという意味だろう。 

    (6)ウクライナ高官は最近、ロシアがウクライナでさらなる大規模攻撃を準備しており、まだ戦線に派遣されていない30万人の予備兵の半数を既存部隊と組み合わせ、来年序盤に攻勢に出る計画だと述べた。これには、ベラルーシ領内からキーウに向けたさらなる攻撃も含まれる可能性があるという。西側のアナリストは、より能力の高い部隊が今年序盤に達成できなかったことを予備役が達成できる可能性に懐疑的だ」 

    ロシア軍は、昨秋の動員兵30万人のうち、残り15万人が訓練を終えて前線へ投入される。だが、今年序盤において能力の高い部隊は、ウクライナ軍に撃退されて作戦目的を達成できなかった。訓練期間の短い動員兵が正規部隊以上の戦い方ができるとは思えないというのだ。ウクライナ軍は、さらに兵器を充実させてもいる。

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    ウクライナのゼレンスキー大統領は、21日に突然訪米した。バイデン大統領と会談したほかに米議会で演説。米国のウクライナ支援は、「世界の安全保障と民主主義への投資」と訴えた。侵攻を続けるロシアを「テロ国家」と表現し、「戦争責任を負わせよう」と呼びかけた。また、「ウクライナ国民は絶対に勝利を収めるだろう」と強調し、米上下両院議員から熱烈な拍手を受けた。

     

    ゼレンスキー氏の訪米目的は、米国の支援を引き続き求めるためであった。クライナ支援が、「世界の安全保障と民主主義への投資」と主張した理由である。「小国」ウクライナが今後も、ロシアの侵略に対抗するには、西側諸国の支援がカギを握る。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(12月7日付)は、「ウクライナ支援、西側義務 米欧GDP計はロシアの22倍」と題するコラムを掲載した。

     

    ウクライナはロシアによる侵攻以来、容赦ない攻撃からどうにか生き延びてきた。ロシア軍に屈辱を与え、失った領土の多くを奪還した。これは偉業だ。だが戦争は終わっていない。ロシア軍は10月10日以降、インフラ設備を標的にした新たな段階の攻撃を開始、その狙いはウクライナ国民の意志をくじくことだが、これも失敗に終わらせなければならない。

     

    (1)「ロシアが戦争に勝利すれば、欧州のすぐ東に領土奪還を狙う暴君が治める国が隣接することになる。しかし、ウクライナが勝てばロシアに対する強力な防壁になる。したがってこの戦争は、ウクライナのみならず欧州にとっても存亡をかけた戦いだ。西側諸国はウクライナが国として存続し、豊かな民主主義国家として繁栄できるよう手を尽くす必要がある。道徳上必要なだけでなく、それが西側の利益にも資するからだ」

     

    この戦争は、プーチン氏個人の判断で行なったものではない。ロシアという前近代的な民族主義の暴走である。第二のウクライナを出さないためにも、ここで食止めなければならない。

     

    (2)「ロシア侵攻で受けた被害はあまりにも大きい。ウクライナの国内総生産(GDP)は今年、約3分の1縮小し、税収も激減している。国際通貨基金(IMF)が10月に公表した報告書によると、ウクライナ国民の約5分の1が国外に避難し、さらにほぼ同数が家を失い国内にとどまっているという。ウクライナは戦争を続けるにも、日々の攻撃による破壊からの修復にも莫大な費用を必要としている。財政はすでに破綻しており、戦争が続く限り費用もかさんでいく。最終的には復興にも巨額の費用が必要となる」

     

    ウクライナは、言われなき侵略によってすでに財政は破綻している。欧米が支援しない限り、ロシアには勝てない戦争である。

     

    (3)「EUは支援にマクロ経済の安定性や適切な統治、法による支配、エネルギー部門の改革などの条件をつけたい考えだ。国家存続のために戦ってきた国に、こんな条件をつけてよいか疑問だ。いずれにせよこうした事情からEUは、金銭的支援のみならず改革を推進する点からもIMFの「支援プログラム」も求めている。一方、IMFは支援プログラムの実施には、対象国の国際収支の持続可能性と返済の確実性が担保されなければならないと設立協定で定められているため及び腰だ。だが、現在のような戦争状態にあってはどちらも担保できない」

     

    EUもIMFも、今後の支援に二の足を踏みかねない弱みを見せ始めている。ウクライナ支援による負担の増加だ。ロシアもこの点を突くべく、長期戦を狙っている。

     

    (4)「この行き詰まりを解消するには、3つの方法が考えられる。第1は、西側出資国がIMFが損を被った場合の保証をつけること。第2は、IMFが創造性を発揮し、このまま支援プログラムを実施する。第3は、緊急支援と「理事会関与プログラム(PMB)」と呼ばれる支援に限ることだ。ウクライナの戦後についても考える必要がある。復興に必要なものは何か、特に資金をどう調達するか(一部はロシアから没収する資産でまかなうべきかもしれない)、より近代的な欧州の国家と経済をいかに築いていくかといったことだ」

     

    IMFが、ウクライナへ支援して損失が出た場合、EUが協力して穴埋めするぐらいの気迫を持つべきである。

     

    (5)「戦争は最終的には資源と戦う気力をいかに持ち合わせているかで決まる。ウクライナは両方を持ち合わせている。ロシアより小さい国だが、はるかに高い士気を示した。しかもその協力国には資力、財力がある。米英、EU、カナダのGDPの合計は、ロシアGDPの約22倍だ。23年に600億ドルの財政支援が必要になったとしても、その額は協力国の所得合計の0.%にすぎない。誰がそんな負担は不可能などと言えるだろうか。プーチン氏の勝利を許す方がはるかに受け入れがたい」

     

    米英、EU、カナダは23年に、ウクライナへ600億ドルの財政支援が必要でも、前記各国のGDP合計の0.1%に過ぎない。この0.1%で、ロシアの民主主義侵略を防げるのだ。

     

    (6)「確かに、この戦争がもたらしたエネルギーショックによる各国の痛みは大きい。だが、その痛みに耐えて乗り切ることが西側の義務だ。ウクライナと同国民は戦争の直接的な犠牲となっている。快適な環境に身を置いている西側諸国の我々は、必要な資金を提供しなければならない。プーチン氏が自分は勝てないと知るまでこの戦争は続くのだから」

     

    ウクライナ国民は、ロシア軍のインフラ攻撃で苦しい生活を余儀なくされている。それを思えば、GDPの0.1%負担が過重とは言えまい。ロシアのさらなる暴走を防ぐために、0.1%は保険料と考えるべきだろう。


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    ウクライナは、ロシア軍によるミサイルで民間施設を攻撃され、多大の被害を被っている。だが、「やられっぱなし」ではロシア軍を増長させると、ミサイルを発射しているロシア国内の3カ所の空軍基地をドローンで攻撃し「戦果」を上げた。

     

    このウクライナの「越境攻撃」は、ロシア軍にもはや安全地帯がなくなったことを知らしめる効果があると指摘されている。ウクライナ軍は、ロシア軍による傍若無人のウクライナ民間施設攻撃へ報復できる可能性を示したことで、ロシア国内に和平を求める声を煽る効果を期待している。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(12月7日付)は、「『ロシアに安全地帯なし』ウクライナが無人機攻撃」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナは今週、国内で作ったドローンを飛ばし、ロシア領内に深く入った3つの軍事基地を攻撃することで、欧米の機材がなくても長距離攻撃ができることを示した。攻撃された基地の1つは首都モスクワから160キロメートルしか離れていなかった。

     

    (1)「ロシア政府は攻撃で3人が死亡し、航空機2機が「軽微な損傷」を受けたことを認めた。ウクライナの国防当局者やアナリストは、今回の攻撃は、安全な場所はどこにもないと示すことにより、ロシアの軍事計画を混乱させ、ロシア世論を揺るがすことを目指す新たな戦術の一環だと話している。「攻撃は繰り返し可能だ。我々には距離の限界はなく、まもなくシベリアを含め、ロシア国内のすべての標的に到達できるようになる」。匿名を条件に取材に応じたウクライナ政府の国防顧問は話す。「ウクライナは、こうした類いの空襲から身を守ることがいかに難しいかを知っている。もうすぐロシアにも安全地帯がなくなる」と指摘する」

     

    ウクライナ軍は、これまで難攻不落と考えられてきた、戦略的なロシア国内の軍事基地に被害を与えることができた。ロシアも、ウクライナ同様にドローン攻撃から身を守ることの困難性を知ることになったのだ。

     

    (2)「ウクライナ軍から攻撃された基地1つは、ウクライナ国境から600キロほど離れたロシア南部サラトフ州のエンゲリス空軍基地で、核兵器を搭載できるロシア軍長距離爆撃機の拠点だ。ウクライナ政府高官によると、同基地はウクライナのインフラを攻撃する巡航ミサイルの発射場所でもある。首都キーウ(キエフ)のシンクタンク「ウクライナ安全保障協力センター」のセルヒー・クザン氏は、「これらの空軍基地では戦略爆撃機が発着している。ウクライナの民間施設を攻撃するためだけでなく、世界全体を脅すためにロシアが使ってきたものだ」と話す」

     

    ウクライナの攻撃は、強固なロシア軍のイメージをぶち壊した。戦略爆撃機が発着する施設でさえ、防御が甘かったことを世界に印象づけたのである。

     

    (3)「ウクライナ侵攻以来、ウクライナからの砲撃とドローン攻撃に見舞われてきたロシアの国境地域では、今回の攻撃が不安感を強めた。その繰り返しと激しさから、攻撃を「大きな衝撃音」として片付けようとしたロシアの当初の試みは失敗し、戦争の遂行努力のために自分の役目を果たすよう市民に呼びかける説得に代わった。ウクライナ国境に近いロシア西部ベルゴロド州では、当局者がSNS(交流サイト)で対空防衛をよびかけるキャンペーンを立ち上げ、国境沿いに塹壕を掘り、地元の民間人による「防衛隊」を立ち上げた」

     

    ウクライナ国境に近いロシア西部ベルゴロド州では、国境沿いに塹壕を掘るなど緊張している。これが、ロシア国内の反戦運動を引き起こせばいいが、現状ではそこまで進んでいない。

     

    (4)「国防当局者やアナリストは、ドローン攻撃がもたらす効果でロシアが国内で部隊を分散させることかもしれないと指摘する。「こうした(ウクライナの)攻撃は間違いなく、ロシアに自信を失わせるだろう。ロシア側は軍事資産をどのように割り振り、安全に保管するか考えなければならない」と欧米のある国防当局者は語る。「ロシア人は(国内で)戦略的資産を守る自分たちの能力を疑うようになる」と推測する。ウクライナは、十分な規模でこうした攻撃を繰り返すことで、ロシアの世論を揺さぶり、戦争反対に傾けることも期待している」

     

    戦略爆撃機の発着する重要な空港が、ドローンで攻撃されたことはロシアに自信を失わせたと見ている。ロシアは、改めて泥沼に入っていることを自覚したであろう。

     

     

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