ウクライナ軍は8月6日から、国境を越えてロシア南西部のクルスク地域への攻撃を開始。占領地域を拡大している。ウクライナ正規軍が、ロシアの侵攻後にロシア領土内で地上作戦を行うのは今回が初めてである。これによって、ロシアが戦争を制御できないことが露呈された。「ロシア軍優勢」という定説が覆された形だ。
ロシア軍は、ウクライナ軍のロシア領土内侵攻に対応するため、一部の部隊をウクライナから撤退させていることが分かった。米政府当局者らが明らかにしたもので、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月14日付)が報じた。ロシア軍が、ウクライナ軍のロシア領進撃を食止めるためにウクライナから撤退させるのは、ロシア軍の兵力が限界にあることを示している。ロシアは、ウクライナ侵攻開始後すでに2年半に及んでおり、戦線が「伸びきっている」ことを裏付けている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月15日付)は、「ウクライナ越境攻撃、ロシアに衝撃」と題する社説を掲載した。
ウクライナ軍は今週、ロシア領土内に進攻した。西部クルスク州への越境攻撃はロシア政府にとって新たな頭痛の種となっている。
(1)「ロシアのプーチン大統領は、ウクライナとの戦争は自国領土外でしか行われないと確信し、クルスク州に強固な防衛態勢を敷いてこなかった。ウクライナ軍はこの隙を突いて越境攻撃に出た。同軍のシルスキー総司令官は12日、約1000平方キロメートルのロシア領土を制圧したと述べた。ロシアの南部は約970キロにわたって未支配のウクライナ領土と国境を接しており、ロシアはその防衛について考えざるを得なくなる。ロシア軍は、クルスク州への越境攻撃を受けウクライナ南部ヘルソン州およびザポロジエ州から一部撤退したと報じられている。米シンクタンクの戦争研究所は13日、ロシアはドネツク州の非正規部隊から一部の人員を引き揚げたり、南東部国境の後方部隊の交代か補強に向けて要員を再配置したりしている可能性があるとの見方を示した。
ロシア軍は、ウクライナ軍のロシア南部への越境攻撃で、守勢にまわることになった。このため、ウクライナ南部ヘルソン州およびザポロジエ州から一部撤退したとされている。ロシア軍が、こうした部隊撤収によってウクライナ軍のロシア越境攻撃に対応せざるを得なくなっている。ロシア軍は、兵力限界を示している。
(2)「ウクライナは、ロシア・クルスク州で奪取した土地の占領に関心はないが、ロシアの攻撃から自国を守る必要がある。ウクライナのゼレンスキー大統領は同国スムイ州について、過去75日間にわたりクルスク州からの約2100回の越境砲撃に耐えてきたと述べた。ロシアはクルスク州に軍隊を駐留させており、近くのハリコフ州に対して行ったのと同様の攻撃をスムイ州に対しても仕掛けてくる恐れがあるとウクライナは懸念している。ウクライナがクルスク州で陣地を維持できている限り、スムイ州を守るための緩衝地帯がロシア領土内にできることになる」
ウクライナ軍による今回の作戦目的は、ウクライナのスムイ州に向けてロシアのクルスク州から約2100回の越境砲撃をかわすことにある。ウクライナが、ロシア・クルスク州で陣地を維持すれば、ウクライナ・スムイ州を守れるという戦術展開にある。また、ウクライナは、ロシア軍がクルスク州で反撃できないよう、長距離ミサイルを使用して最前線の向こう側にある飛行場や補給路を破壊するのが目的という。
(3)「ウクライナの越境攻撃はプーチン氏を当惑させ、ロシア国民に戦争の影響を一層強く感じさせた。プーチン氏は越境攻撃が「大規模な挑発行為」だと述べた。これは、ロシア軍が状況を制御しているという国内向けのメッセージと矛盾している。ロシアはここに来て、国境に近いクルスク州とベルゴロド州で緊急事態宣言を発令した。クルスク州の知事代行によると、およそ18万人の住民に避難命令が出された」
ロシアは、これまで自国領土内での戦闘行為がなかったことで、ウクライナ侵攻を「よそ事」のように扱ってきた。それが、自国領のクルスク州で戦闘が始まり「身近」な戦争になった。
(4)「ウクライナはまた、クルスク州でロシア兵の身柄を拘束した。ゼレンスキー氏は、これによって「われわれの息子・娘たちの帰還が加速するだろう」と述べた。生存者がロシアに拘束されている間、恐ろしい虐待に遭ったと証言しているだけに、捕虜交換はウクライナ国民にとって優先事項の一つだ。国連ウクライナ人権監視団の代表が今月オランダのメディアに語ったところによると、ロシアはウクライナの戦争捕虜の95%に拷問を加えた」
ウクライナ軍は、クルスク州でロシア兵を多数拘束した。このロシア兵は、ウクライナ兵との捕虜交換の要員になる。