勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース

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    空虚だった「北京宣言」

    中国が難癖つける理由

    弱小国食い荒らす無法

     

    中国の習近平国家主席は焦っている。今秋の共産党大会で、国家主席3選を勝ち取るためには、党員を納得させる成果を上げなければならない。現状では、得点はゼロどころか、マイナス点ばかりだ。そこで、党員だけでなく国民も奮い立たせるイベントが必要になった。

     

    その役割を担ったのが6月23日、習近平氏主宰によるオンライン形式での新興5ヶ国(BRICS)首脳会議である。参加国は、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカの5ヶ国である。習氏は、BRICS首脳会議で米欧対抗軸をつくり上げて、中国が世界の2大強国として米国へ対抗する姿勢を国民に見せる算段であった。

     


    この思惑を裏づけるように、習氏は首脳会議で強気発言を行なった。国連体制に基づいて、真の多国籍的な国際システムを支持する必要があると強調した。その上で、「冷戦思考を放棄し、対立を阻止する必要がある」とした。「主要新興国および途上国として、BRICSは自らの責任を果たしていかなければならない」と述べたのである。

     

    ロシアのプーチン大統領もこれに呼応して、西側諸国が世界的な危機を助長していると非難。「誠実かつ相互に有益な協力によってのみ、一部の国々(注:西側諸国)の軽率で利己的な行動によって世界経済に生じた危機的状況から脱却する方法を模索できる」とし、BRICSの連携強化を呼びかけた。

     

    習氏とプーチン氏の演説を聴く限り、現在の世界経済を混乱させている責任は、ロシアへ経済制裁を科している西側諸国となる。この原因をつくった、ロシアのウクライナ侵攻について一言半句も触れていないのだ。国連の紛争調整機能を奪っているのも、当事国ロシアの拒否権発動が原因である。余りにも、自己弁護が過ぎる中国とロシアの発言に、ブラジル・インド・南アフリカの首脳も、あいづちを打つわけにいかなかったに違いない。

     


    空虚だった「北京宣言」

    こういう経緯からか、BRICS首脳会議後の「北京宣言」は、習氏とプーチン氏のトーンとかけ離れた「穏やかな」調子のものになった。

     

    北京宣言は、次のような内容だ。

    1)各国の主権や領土の一体性を尊重する。

    2)対話や協議を通じ国家間の不一致や紛争を解決すべきであり、危機の平和的解決に資す

    る努力を支持する。

    3)朝鮮半島情勢では、「完全非核化」に向けた北朝鮮など関係国の話し合いを後押しする。

    4)新たな参加国を求める。

     

    上記内容を見れば、1)から3)はありきたりのことで新味はない。新たに決まったことと言えば、参加国を求めることだけである。習氏は、これによって「中ロ枢軸」を強化しようと狙っている。既存メンバーでは、インドが「反中国」であり協力するはずがない。ブラジルと南アフリカが、「中ロ枢軸」に加わったところで、大した力にならない。新規参加国を求めたくても、新メンバー国へ提供できる肝心の技術がないのだ。

     

    中ロは、西側諸国から大量の技術を導入し、多額の特許権使用料を支払っている身だ。「技術料収支」で大赤字になり、世界最低クラスの「技術貧困国」である。この中ロの率いる「BRICS」へ、新たに加盟したい国が現れるとは思えないのだ。中ロ枢軸が、欧米への対抗軸を構築すること自体、ナンセンスと言うほかない。

     

    習氏が、「BRICS」というマイナーな集まりを強化しようとした狙いは何か。それは、米欧による「中国包囲網」がジリジリと形成されていることにあろう。

     

    米国主導のIPEF(インド太平洋経済枠組)は、14ヶ国が参加する。ASEAN(東南アジア諸国連合)10ヶ国中7ヶ国までが加わり、これに日米豪印のほかに韓国やNZ(ニュージーランド)、南太平洋島嶼国のフィジーが参加する多彩なメンバーである。

     


    IPEFは、4つの分野から成り立つ。

    1)貿易

    2)サプライチェーン

    3)クリーンエネルギー・脱炭素化

    4)税制・腐敗防止

     

    参加国は、前記の4分野から選択すれば良い仕組みである。1)貿易は、関税引き下げのメリットはない。2)サプライチェーンや、3)クリーンエネルギー・脱炭素化ではかなりのメリットが得られる感じだ。

     

    具体的には次のような内容である。

    2)では、半導体や重要鉱物へのアクセスを容易にできること。

    3)では、インフラの開発支援やクリーンエネルギー開発技術といった途上国には魅力的なテーマが並ぶ。こういうきめ細かい対応を見れば、「技術貧困国」中ロが逆立ちしても対抗できる筈もないのだ。(つづく)

     

    次の記事もご参考に。

    2022-06-02

    メルマガ365号 習近平10年の「悪行」、欧米から突付けられた「縁切り状」

    2022-06-09

    メルマガ367号 中国「二つの鬼門」、ロシア支援・ウイグル族弾圧事件 西側から孤立し

     

     

     

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    北欧二ヶ国のフィンランドとスウェーデンが、NATOへ加盟申請した。ロシアは事前に、報復を仄めかしていたが、いまのところ無反応だ。米英は、ロシアが報復すれば防衛するとまで発言している。これでは、たとえロシでも静観せざるを得まい。このまま、騒ぎにならぬように祈るばかりである。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月5日付)は、「フィンランド情報機関長官『ロシア報復なし』に驚き」と題する記事を掲載した。

     

    北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指しているフィンランドの情報機関トップが、同国のNATO加盟申請が現時点でロシアの報復措置につながっていないことに驚きを示している。フィンランドのNATO加盟には今のところ、テロ対処を巡りトルコが反対している。

     


    (1)「フィンランド安全保障情報庁のアンティ・ペルタリ長官はフィナンシャル・タイムズ(FT)紙に対し、同国政府は東の隣国ロシアが干渉してくる可能性をなおも「警戒」しているが、ロシアはウクライナでの戦争で手いっぱいだと述べた。「かなり静かな状況で、このままであることを望むばかりだ」とペルタリ氏は異例のインタビューで語った。「何も起きていないのは良いことだ。しかしそれは同時に、我々が備えを固め、社会を守れるようにしてきたという証しでもある」と指摘」

     

    ロシアが、北欧2ヶ国へ軍事的に無反応なのは、ウクライナ侵攻で勢力を削がれている結果であろう。北欧2ヶ国も多分、これを見越してNATOへの加盟申請をしたと見られる。

     

    (2)「フィンランドはNATO加盟の是非をめぐる議論の間、そして正式に加盟するまでの数カ月間、ロシアのサイバー攻撃やハイブリッド攻撃を受ける恐れがあると身構えていた。フィンランドの当局者らは、NATOに加盟するという決定をロシアのプーチン大統領は容認したのではないかと期待を抱いているが、フィンランドに外国の部隊や核兵器を配備するかどうかといった決定に関して、ロシア側は影響を及ぼそうと考えているかもしれないと受け止めている。ペルタリ氏は「NATOへの加盟後、フィンランドがどのようなメンバーになるのかに彼らは関心を持っている」と語った」

     

    ロシアが静観しているは、NATO加入後にフィンランドへ、NATO軍が駐屯するか否かを見ているとみられる。フィンランドでは、ロシアの懸念を払拭すべくNATO軍の駐屯を否定している。

     


    (3)「フィンランドは、外国の部隊や核兵器配備に何らの関心を示していないが、同時に加盟申請したスウェーデンとは異なり、その可能性を排除してはいない。かつてフィンランドは、ソ連に対して慎重にコミュニケーションをとる戦略で知られたが、今はロシアについてもっと率直に語るようになっているとペルタリ氏は付け加えた。フィンランドのニーニスト大統領は5月、自身のロシアに対するメッセージは「これを引き起こしたのは、あなたたちだ。鏡を見てほしい」と、印象に残る発言をした。ペルタリ氏はこう続けた。「大きく変わることはない。備えを固め、国の安全を期す。それがフィンランド流だ。我々の決意は固いが、騒ぎ立てたりはしない」と」

     

    従来のフィンランドは、ロシアに対して慎重な物言いであった。最近は、NATO加盟で気持ちも大きくなり、大胆な発言になっている。これが、普通の外交関係である。フィンランドは、これまでどれだけ萎縮していたが分るようだ。ロシアの圧力が、いかに大きかったかを物語っている。

     


    (4)「フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に残る障害はトルコの反対だ。加盟申請前にニーニスト氏がトルコのエルドアン大統領と協議した際、エルドアン氏は「前向きに」検討するだろうと明言した。だが同氏はその後、フィンランドはテロリストの「ゲストハウス」で、トルコが敵視するクルド系武装組織、クルド労働者党(PKK)の活動に目をつぶっていると主張するようになった。フィンランドは現在、外相がトルコ製ドローン(小型無人機)の購入や武器売却の条件改善の可能性を示すなど、トルコ側の歓心を買おうと攻勢に出ている」

     

    トルコが、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対している。両国が、トルコの敵視するクルド系武装組織を保護しているとの理由だ。トルコの反対は、外交的な駆引きとも見られる。いずれ、米国が中に入って解決するであろう。 

     

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    西側諸国は、これまでウクライナへの武器供与に当って、極めて慎重姿勢で臨んできた。ロシアを刺激して、NATO周辺国まで攻撃してくるのでないかと危惧していたからだ。現実は、ロシア軍が相当弱体化しているとの見方が一挙に広まっている。そこで、ウクライナへの武器供与も大っぴらになってきた。

     

    米『CNN』(5月1日付)は、「ポーランド、ウクライナに戦車200台以上を供与」と題する記事を掲載した。

     

    ポーランドの公共ラジオ放送局は5月1日までに、同国が過去数週間余でウクライナへ旧ソ連製のT72型戦車を200台以上、供与したと伝えた。同国のIAR通信社の報道を引用した。ポーランドのモラビエツキ首相は最近、同国がウクライナに提供した軍装備品は約16億米ドル相当に達することを明らかにしていた。

     


    (1)「同ラジオ局「ポーランド・ラジオ」は、これら装備品には戦車のほか、多数の歩兵戦闘車両、2S1自走榴弾(りゅうだん)砲、多連装ロケット弾発射装置や携行式対空ミサイルシステムなども含まれると報じた。ロシアのウクライナ侵攻を受け北大西洋条約機構(NATO)加盟国は同国への軍事支援に動いている。この中で米国防総省高官は先に、米国やNATOなどによる対ウクライナ軍事支援の調整や能率化を図るためドイツ・シュツットガルトに管理センターを新設したことを記者団に明らかにしていた」

     

    ポーランドは、これまでウクライナへの武器供与で最も積極的であった。過去、ソ連製ミグ戦闘機20機以上を供与する意思を明らかにしたが、米国に止められた経緯がある。ポーランドは、ロシアの欺瞞性をNATOで最も強く主張してきた国であり、その軍事的危険性を説いてきた。今回のウクライナ侵攻で、それが立証された形でもあり、各国ともポーランドの意見に一目置いている。

     

    ポーランドが、旧ソ連製のT72型戦車を200台以上もウクライナへ提供する話に、ロシア側は複雑な気持ちであろう。

     


    (2)「運営の責任は、ドイツ・シュツットガルト市に本部がある米軍欧州軍が担う。このセンターは米欧州軍ウクライナ管理センター(ECCU)の呼称を持ち、米海軍の少将が責任者となる。管理センターには、米国の担当者のほか、15カ国の要員も詰める。ウクライナを支援している40カ国以上の同盟国やパートナー国の連携活動などの管理にも当たるとした」

     

    ドイツ・シュツットガルトに、ウクライナへの武器などの供与センターを設けて、40カ国以上の同盟国やパートナー国の連携活動の交通整理役を行なう。ロシアは、こういう本格的なウクライナ支援体制を見ることによって、「被害者意識」になってきたという。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月2日付)は、「ロシア、『ウクライナ紛争は 西側との戦争』」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア政府がウクライナとの戦いを西側諸国との戦争と位置づけようとしている。ロシア政府の指導者らやプロパガンダを担う政府系メディアはロシア国民に対し、ウクライナとの対立は世界的な衝突に発展する可能性があると警告している。

     

    (3)「ロシア政府や政府系メディアはここ数日、西側諸国は最終的にロシアを封じ込め、崩壊させようとしていると警鐘を鳴らし、核による攻撃の可能性を含め報復措置をちらつかせている。米国と一部の同盟国は、ウクライナ戦争をロシアの帝国主義的野望を抑えるための機会ととらえる姿勢を強めており、ウクライナへの軍事支援を強化している」

     

    ロシアは、短時日でウクライナ侵攻を終わらせると楽観していたが、ついに2ヶ月を超える戦いになった。ウクライナ軍の武器弾薬は日に日に,西側諸国の支援によって強化されている。形勢不利に驚いたロシアは、被害者意識に転じているという。

     

    (4)「これに対しロシア政府は国民に対し、歩み寄りが不可能でより広範な対立となる可能性があることを伝え始めた。とりわけ、第二次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した9日の戦勝記念日の祝賀式典を利用し、第二次世界大戦とウクライナでの戦争を関係づけようとしている。ロシアではここ数週間、ロシアは西側諸国からの攻撃を受ける被害者であり、国を守る必要があるという主張が勢いを増している

     

    下線部分は、ロシア軍が守勢に立たされていることを物語っている。ロシア軍は、武器弾薬の補給に支障が出始めている様子であり、開戦当初の勢いは完全に消え失せた。 

     

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    ロシア軍のウクライナ東部作戦は、停滞気味と報道されている。この状況視察で、ロシア軍のゲラシモフ軍参謀総長が現地へ入らざるを得ないほどだ。米『ニューヨーク・タイムズ』は5月1日、ウクライナ軍がロシア軍制服組トップのゲラシモフ軍参謀総長を標的とした攻撃を行ったと報じた。

     

    ウクライナ軍は、欧米からの武器弾薬の供給を受け、これまでの防衛から転じて「反転攻勢」により、ロシア軍支配地の奪回を目指す作戦に転じる。ウクライナ政府の高官が、日本経済新聞との単独インタビューで明らかにした。

     


    『日本経済新聞 電子版』(5月3日付)は、「ウクライナ高官『5月末にも反転攻勢』 米欧軍事支援で」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのオレクシー・アレストビッチ大統領府長官顧問は5月1日、日本経済新聞のオンライン取材に応じた。ロシアの軍事侵攻について、米欧からの武器供与により「ウクライナ軍は5月末から6月半ばには攻勢に転じることができる」と述べた。ロシア軍は5月9日の対独戦勝記念日に向け猛攻撃に出るとの見方もあり、戦闘が一段と激しくなる恐れがある。アレストビッチ氏はゼレンスキー大統領の側近の一人で、大統領府で安全保障・軍事部門を担当している

     

    (1)「2月24日にウクライナに侵攻してきたロシア軍とは、近く東部ドンバス地方をめぐる「決定的な戦闘」(ゼレンスキー氏)が始まるとみられている。アレストビッチ氏は5月半ば以降に米欧から戦車や長距離砲などが前線に届くと説明し、「攻勢に移るための攻撃部隊を整えることができる」と指摘した。これまでウクライナ軍は防衛に軸を置いてきたが、反転攻勢に出れば戦局は大きな転機になりそうだ。数多くの市民殺害が確認された首都キーウ(キエフ)近郊のブチャの惨事を挙げ、「ロシア軍が領内に一日でも長くとどまれば、それだけ大量殺人の犯罪が増える」と訴え、欧米に侵攻を止めるため武器支援を急ぐよう求めた」

     


    ウクライナ軍は、ロシア軍との「決定的な戦闘」を準備している。一日も早くロシア軍の支配地を取り戻さなければ、ウクライナ国民が災害を受ける、としている。

     

    (2)「ロシア軍についてはキーウ占領作戦などに失敗し、「すでに戦略的に敗北した。何一つ目標を達成できていない」と述べた。予備役の補充がなく、ソ連時代の旧式武器が多いロシア軍は多大な損失を被って弱体化している。ロシアには対独戦勝記念日に向け成果をアピールしたい考えがあるとみられ、停滞する攻撃を勢いづけるため大規模動員に乗り出す可能性がある。アレストビッチ氏はウクライナ軍が最終的には「勝つだろう」と指摘したが、ドンバスを中心にロシア軍の猛攻撃も予想され、予断は許さない」

     

    ロシア軍は、予備役の補充がない上に旧式武器が多く多大の損失を被っている、と分析している。東部作戦が膠着している理由は、ここにありそうだ。

     

    (3)「アレストビッチ氏によると、今後の展開は3つのシナリオがある。

    1つ目はウクライナ軍が攻撃に転じ「12か月で領土を解放する」。

    2つ目はロシア軍が早期に予備役を投入し、ウクライナ軍による攻勢まで時間がかかる。

    3つ目はロシアが事実上、攻撃を断念して停戦交渉が進展するという展開だ」

     

    今後の展開には3通りのシナリオが考えられる。ウクライナは、「1つ目」のシナリオの実現に全力を挙げる。欧米からの強力な武器弾薬が着きしだい、反転攻勢に転じるとしている。順調に行けば、夏には明るいニュースが出るかもしれない。

     

    ロシア軍が、予備役を投入するとしても最低、半年間の訓練が必要であろう。となれば、ウクライナ軍の反転攻勢に対して時間的余裕がなくなる。ロシア軍が停戦を申入れる可能性は、極めて低いだろう。プーチン氏の政治生命に関わる問題であるからだ。

     


    (4)「ロシアとの停戦協議については、両国代表団の接触はあるものの、検討中の合意文書の文言調整などにとどまり「行われていないに等しい」という。特にロシアが一方的に要求するクリミア半島併合の承認では「大きな隔たり」があるとした。ゼレンスキー氏はロシア軍の残虐行為で国民感情が悪化し協議が終わる可能性を示唆している。激戦が続く南東部マリウポリでは巨大製鉄所からの民間人の脱出が始まった。まだ約1000人が取り残されているとみられ、ウクライナ当局がロシア側と救出に向けた協議を続けている。アレストビッチ氏は交渉について「非常にデリケートで、不用意な言葉を発すれば妨害されてしまう」として明言を避けた。

     

    停戦交渉は事実上、ストップしている。ロシアは、ウクライナへ「無条件降伏」を強要しているからだ。その上、西側へ経済制裁解除を求めている。こういう難題を突付けている状態では、停戦交渉は不可能だろう。

     


    (5)「仮に停戦したとしても、ウクライナ難民の再定住支援など多くの難題が待ち受ける。アレストビッチ氏は子供460万人を含む1100万人以上の国民が避難を強いられたとして、「こうした避難民のうち約200万人が仮設住宅を必要としている」と国際社会の協力を求めた。日本に対しては「ロシアを一貫して非難する立場をとり、ウクライナ国民の真の友人だ」と謝意を示したうえで、さらなる人道支援を呼びかけた」

     

    停戦自体は、喜ばしいことである。新たな犠牲者が出ないからだ。ロシア軍によって、徹底的に破壊し尽くされているので、約200万人が仮設住宅を必要としている。日本は、仮設住宅建設のノウハウと実績がある。貢献する分野であろう。

     


    (6)「ロシアではプーチン大統領が4月下旬に「我々には誰もいまは誇示できないようなあらゆる武器がある」と述べるなど核兵器の使用も辞さない考えを示唆する発言が相次ぐ。アレストビッチ氏は核兵器を使用すればロシア領内や同国軍にも大きな被害が及ぶとして「現状では可能性は低い」との見方を示した」

     

    ロシア軍が、追詰められれば大量殺戮兵器を使用する危険性も残っている。この面では、ロシア軍自体にも被害が及ぶので、「現状では可能性は低い」という。そうなることを祈るほかない。

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    ロシアが、2月24日に始めたウクライナ侵攻は、すでに2ヶ月が経った。解決の目途は全く立たず、逆にどこまで拡大するのか。世界は、おびただしい犠牲者の増加におののくだけである。現状では、ロシア軍を具体的に支援する国は現れないが、ウクライナ軍には武器弾薬の支援が強化されている。形の上では、ロシアが不利な状況である。結末は、どのようになるのか。プーチン氏以外には、誰も予測できないが、3つのシナリオ考えられるという。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月25日付)は、「プーチン政権『苦境悪化は不可避』ウクライナ侵攻2カ月」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の編集委員、高坂哲郎氏である。

     

    ロシアによるウクライナ侵攻の開始から2カ月が経過し、ロシア軍はウクライナの東部と南部で攻勢に出つつある。ウクライナのゼレンスキー政権は徹底抗戦の構えで、米欧なども同国支援を続ける構えだ。攻防戦の今後を予測すると、いかなる結果になってもロシアが開戦前より弱体化することが必至であることがみえてくる。

     


    (1)「第一のシナリオ。ロシア軍は、ウクライナ北部での作戦継続を断念した後、生き残った兵士を新たな部隊に再編成するとともに増援部隊も追加し、東部地域で攻勢に出つつある。東部は平原地帯で、ロシア軍はここで戦車や火砲を大量に投入してウクライナ軍を圧倒したい考えとみられる。攻防の最大の焦点は、米欧の軍事支援が十分間に合うかどうかだ。間に合わなければ、ロシア軍は南部でも攻勢を強め、モルドバ東部の親ロシア派が「沿ドニエストル共和国」を自称する地域につながる回廊を形成しそうだ」

     

    ウクライナ東部は平原地帯である。ロシア軍は、戦車や火砲を大量に投入してウクライナ軍を圧倒する戦術である。ウクライナ軍へ武器弾薬の増援が遅れれば、ロシア軍が有利な戦いになろう。

     


    (2)「その場合、プーチン大統領は「国外のロシア系住民の救済という作戦目的を達成した」として勝利を宣言しそうだ。英国のジョンソン首相は、戦争が来年末まで長引けば「ロシアが勝利する可能性はある」と語った。米欧の「支援疲れ」を懸念しているとみられる。その場合でもロシアは、大きくみると「戦闘には勝ったが、戦争には負けた状態」に陥る。ロシア支配地域とそれ以外のウクライナ領の間には新たな「鉄のカーテン」がひかれる形となり、対ロ制裁は固定化される。世界は再び東西に分断され、ロシア経済はソ連崩壊直後の1990年代のような大低迷期に突入しそうだ」

     

    ロシア軍が、ウクライナ東部で勝利を収めた場合、ロシア支配地域はウクライナ領と遮断される。この場合、ロシア制裁は固定化されてしまい、ロシア経済の混乱状態が継続する。

     


    (3)「第二のシナリオ。米欧の軍事支援が円滑に進み、ウクライナ軍が北部戦線と同様にロシア軍部隊を精密誘導兵器で効率的に撃破すると同時に、新たに供与される155ミリりゅう弾砲など重火器面でもロシア軍に対抗する展開を想定する。ロシア軍は攻勢に出ようとしているが、北部などでの苦戦を経験した兵士の士気は高いとは言えず、増援部隊にもそうした苦境は伝わっているとみられる。補給に陰りが出れば、ロシア軍首脳がもくろむ大規模攻勢をかけられるかは流動的となる」

     

    第一のシナリオと異なり、ウクライナ軍への支援が順調に進み、ロシア軍を圧倒するケースである。

     

    (4)「米欧のウクライナへの軍事支援の中身は質量ともに強まっている。「今後本格化するウクライナ軍の反撃で、ロシアはいずれ本国にまで押し戻されるかもしれない」と、シナリオAとは正反対の予測を語る元自衛隊情報系幹部もいる。確かに、破格な規模の武器供与をみていると、どうやら米欧は「プーチンが勝手に始めた戦争なのだから、これを奇貨としてこの際徹底的にロシア軍をたたき、当面は欧州方面で脅威にならない水準まで弱体化させてしまいたい」と考え始めたようにもみえる」

     

    NATO加盟国は、結束してウクライナ支援に立ち上がっている。下線部のように劣勢になったロシア軍を追詰める戦術も予想される。

     

    (5)「そうした展開になると、ウクライナが平和を回復する一方、ロシアの国内情勢は不安定化していく。「ウクライナ侵攻」から「ロシア不安定化」に事態が転化するわけだ。この展開に向かう必須要素は、米欧の支援が迅速かつ強力に進むこと、ロシア軍の本国撤退を「その時点でのロシアの指導者」が許容するかどうかの2点となる」

     

    ウクライナ優勢で情勢が逆転すれば、ロシアが国内的に苦境に立たされる。ロシア国内で,停戦の動きが出ないとも限らない状況も考えられる。

     

    (6)「第三のシナリオ。東部や南部での戦闘が膠着状態に陥ったり、ウクライナ軍が明らかに優勢になったりする場合、ロシア軍が化学兵器や核兵器といった大量破壊兵器の使用に踏み切る恐れがある。ロシア軍は伝統的に、戦術核兵器を「通常爆弾のちょっとした延長線上の兵器」程度にしか認識しておらず、プーチン大統領も過去にたびたび核使用の可能性に言及している。東部のどこかにウクライナ軍部隊が集結した場合、そこにロシア軍が戦術核攻撃をしかける危険がある。マリウポリの巨大製鉄所の地下には、なおウクライナ軍部隊や市民が隠れ、抵抗を続けている。世界の目が東部や南部での戦局に移る隙を突く形で、ロシア軍が製鉄所の完全制圧へ化学兵器を使う恐れもある」

     

    このシナリオでは、苦境に立たされるロシア軍が、化学兵器や核兵器を使って退勢挽回を図る事態だ。これは、ロシアにとっても悲劇的結末が待っている。

     


    (7)「ロシア軍による大量破壊兵器使用で起こりうるのは、第一に、ウクライナや米欧が衝撃を受けて混乱し、ロシアが一方的に勝利を宣言する展開だ。もうひとつは米欧の軍事支援が一段と手厚くなり、一部の国が公然と軍事行動に出たり、ウクライナ以外の場所でロシア軍対米欧諸国軍の戦いが始まったりする可能性だ」

     

    ロシア軍による大量破壊兵器使用されれば、そこで、ウクライナ戦争が終わる保証がないことだ。事態は、さらに悪化する危険性が出てくる。これを、どのようにして防ぐかだ。第三のシナリオになったなら、ロシア国民も安閑としていられなくなろう。その深刻さを早く、認識すべきだ。戦争を止めなければ危険である。

     

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