ウクライナ軍は、デジタル機器を利用してロシア軍に対抗し、戦線を有利に動かしている。ロシア軍にはそうした敏捷さがなく、兵士が最前線で携帯を使用して、自らの位置をウクライナ軍に察知され砲撃される事態を招いている。
ロシア国防省は1月2日、昨年12月31日に数百人の新規動員兵の拠点が砲撃を受け、兵士63人が死亡したと発表した。その後、死亡者は80名以上に増えたが、原因はロシア兵が携帯を使用したこととされている。改めて、ロシア軍の規律が乱れていると指摘されているのだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月7日付)は、「ロシア軍のミス、ウ駐留部隊を危険にさらすー軍事専門家」と題する記事を掲載した。
軍事アナリストによると、ロシア軍は占領下のウクライナで基本的なミスを繰り返し、自軍兵士を危険にさらしている。ウクライナ軍の大砲の射程内にあるにもかかわらず、自軍部隊の集中地域で携帯電話を使用停止にしなかった、などのミスを犯しているという。
(1)「直近の事例では、ウクライナ東部ドンバス地域のマキイフカ市で、ロシア軍動員部隊の拠点がウクライナ軍に破壊されたケースが挙げられる。米国の駐欧州陸軍の元司令官で、開戦以来ウクライナでのロシアの作戦に批判的なベン・ホッジス氏は「ロシア軍は学習する組織ではない」と指摘。「学ぶためには、まず自分が間違っていたことを認める必要があるが、そのような文化はない」と述べた」
ロシア軍は、これまでのウクライナ侵攻で10万人以上の犠牲が出ている、とされている。このため、実戦経験豊富な将校や下士官を失っており、新規募集の兵士が前線へ出ても基本的事項が徹底されていない憾みがあろう。この意味でも、ロシア軍の態勢立て直しは極めて困難になっている。
(2)「ロシア国防省は2日、数百人の新規動員兵が集結していた拠点が昨年12月31日に砲撃を受け、兵士63人が死亡したと発表した。米国がウクライナに供与した高機動ロケット砲「ハイマース」による攻撃だという。ロシア軍とつながりがあるテレグラムチャンネル「リバル(Rybar)」は3日、この攻撃で「100人超のロシア兵が死亡した」と述べた。ウクライナ国防省は自軍による攻撃とは明言しなかったが、兵士400人が死亡、300人が負傷したと発表した。どちらの発表が実際の数字に近いとしても、ロシア軍が昨年2月24日にウクライナに侵攻して以降、自軍に最大級の犠牲者が出た攻撃になったとみられる」
ロシア軍兵士の宿舎近くに、弾薬庫があったとされる。最前線における緊張感が、欠如していたと指摘されている。これも、有能な将校や下士官の不足がもたらした結果であろう。
(3)「ロシア軍のブロガーや親ロシア派の情報筋からの報告では、いくつかの重大な不手際が指摘されている。特に重大なのは、ウクライナ軍の精密な大砲の射程内に多くの部隊をとどめてしまったことだ。砲撃を受けた拠点は、前線から10マイル(約16キロ)も離れていないところにある。兵舎は弾薬庫の隣にあったとみられる。弾薬庫は2次爆発を起こし、兵舎は倒壊した。オープンソースの情報では、兵士による携帯電話の使用が停止されていないため、部隊が集中していることをウクライナ軍に特定される恐れがあるとも指摘されていた。さらに、親ウクライナ派のパルチザン(ゲリラ戦を展開する非正規部隊)がこの兵舎の特定を手助けした可能性を示唆するブロガーもいた」
ウクライナ軍は情報機器を使って、ロシア軍の動静を探っている。NATO軍からの情報もオンラインで入手できるなど、ロシア軍攻撃では至れり尽くせりの状況だ。ロシア軍は、こういう状況認識が甘かったと言える。
(4)「ウクライナ軍の攻撃を受けた原因として、携帯電話の使用に関する規律欠如が挙げられたのは初めてではない。ウクライナ軍は最近、ヘルソン州のロシア占領地域のサヒ付近(ヘルソン市から20マイル弱)にあるロシア特殊部隊の拠点を攻撃した。ある兵士のソーシャルメディアへの投稿がきっかけで、この拠点が容易に特定されたためだった。攻撃後には同じ兵士が破損施設の写真を投稿しており、ウクライナ側が攻撃の成果を確認するのに役立った可能性がある。これらの投稿例は、米シンクタンク「外交政策研究所(FPRI)」のロブ・リー上級研究員がツイートした」
ロシア兵の士気が緩んでいることは確かだ。大義のない戦争に狩り出された不満が、こういう形で噴出しているのであろう。戦場の様子が、SNSに
登場するとは考えられない時代になったものだ。