長いこと、自動車の本場・欧州ではHV(ハイブリッド車)を受入れないとされてきたが、今や完全に定着して環境車の王座についている。パリ市街を走るタクシーのざっと8割がHVでないかというほどの強さだ。何が理由か。EV(電気自動車)に比べて、はるかに使い勝手が良く、脱炭素という認識が行き渡った結果、という指摘がされている。
『PRESIDENT ONLINE』(11月23日付)は、「豊田章男会長の戦略は正しかった、『パリ市内を走るタクシーの大半が日本のハイブリッド車』という衝撃事実」と題する記事を掲載した。
10月、パリモーターショーが開催された。現地取材したマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明さんは、「市内を走るタクシーの変化に驚かされた。見た目の印象では、そのうち実に8割程度がトヨタのハイブリッド車なのだ。ここ数年EVシフトを強めてきた欧州メーカーは、これから大変な時期を過ごすことになる」と危惧する。
(1)「パリの街を歩いていると、ある大きな変化に否応なく驚かされる。パリのタクシーといえば、かつてはもちろんプジョーやシトロエンといったフランス車がほとんどだったが、今やフランス車のタクシーはほとんど走っていない。では何が多いのかといえば、現在パリ市内で走っているタクシーのほとんど(見た目の印象では8割ほど)はトヨタのハイブリッド車なのである! フランス車だけでなく、ドイツ車のタクシーも少ない。2021年9月から、トヨタの豊田章男会長がまったくぶれずに主張している、マルチパスウェイ戦略の正しさの証左でもある」
パリのタクシーは、トヨタ一色である。かつては、フランス車がほとんどであった。
(2)「トヨタが圧倒的に多いのは最も効率的なハイブリッドシステムを持っているからだと思われる。やはり使い勝手が良く、燃費性能が圧倒的に優れる点がハイブリッドの選ばれる理由だろう。ガソリンさえ入れれば走れるという意味ではガソリン車と同じだし、燃費が良いのでガソリン補給のインターバルも伸びるし、そもそもガソリン代を節約できる。市内走行が多いタクシーには最適解なのだろう。それに環境に貢献しているというアピールもできる。パリの大手タクシー会社G7はそのホームページで、車両の85%以上がハイブリッドないしBEV(注・電気自動車)であることを理由にサステイナブルな企業であるとアピールしている」
トヨタのHVが、パリ市街を疾走している。パリの大手タクシー会社は、車両の85%以上がHVないしBEVという。
(3)「トヨタの燃料電池車(FCEV)MIRAIのタクシーも、かなりの台数を目撃した。MIRAIは東京で見かける頻度より圧倒的に多い印象である。これはパリオリンピックの公式スポンサーだったトヨタが500台のMIRAIを大会に提供したのだが、そのすべてをパリのタクシーに転用したのも一因である。それ以前からトヨタは、フランスの水素供給業者と組んでMIRAIのタクシー整備を進めており、現在では1500台のMIRAIタクシーがパリを走っているという」
トヨタのMIRAIが、1500台以上もタクシーとしてパリ市内を走っている。
(4)「ヨーロッパではここ数年、BEVを普及させようと政府もメーカーも力を入れてきた。タクシーもBEVかを推進したはずなのだが、現在のパリではテスラのタクシーをたまに見かける程度で、BEVタクシーは非常に少ない印象だ。夏に訪れたミュンヘンでもBEVのタクシーはほとんど見なかった。日本でも2010年に日産リーフが登場した時、国や自治体の補助金もあって東京、大阪、横浜などで相当数のリーフのタクシーが導入されたが、あっという間に淘汰された印象がある。やはり航続距離に限界があり、充電に時間のかかるBEVはタクシーには向かないのであろう。国策で強制的にBEV化を進めている北京のタクシーも、ドライバーの間では航続距離が短く充電に時間がかかるため不評だという」
パリでもミュンヘンでも、BEVのタクシーはほとんど見なかったという。航続距離に限界があり、充電で時間がかかるためだ。
(5)「タクシーだけでなく、最近多く報道されているようにヨーロッパのBEV市場は伸び悩んでいる。価格が依然として高価なこと、自宅で充電できる人が限られること、急速充電スタンド整備がなかなか進まないことがBEVの普及がある一定以上進まない理由である。特に、急速充電スタンドは電気代に設備の設置・維持費用と業者の利益を乗せざるを得ないため、充電コストは家庭用の電気代より遥かに高くなってしまう問題がある。BEVユーザーは極力自宅外での急速充電スタンドは使わないようにするため、需要が広がらないのだ。急速充電スタンドでの充電費用が嵩むなら、自宅で充電できない人のBEV購入メリットはほとんどない」
BEVの泣き所は、充電に時間にかかりすぎる点や、急速充電スタンドでの充電費用が嵩むことだ。