勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ウクライナ経済ニュース時評

    a0070_000030_m
       

    トランプ米大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に、同国の原子力発電所の米国への所有権移管を提案した。エネルギー権益の譲渡の見返りに、米国がウクライナのエネルギーインフラへの関与を深めることで同国の安全保障に貢献する構想だ。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月20日付)は、「トランプ氏、ウクライナ発電所の米国所有を提案」と題する記事を掲載した。

    トランプ米大統領は19日、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で、米国がウクライナ国内の複数の発電所(原子力施設を含む)を所有することを提案し、「インフラの最善の保護措置になる」と説明した。米国は近く停戦協議を再開する見込みだ。


    (1)「トランプ氏の提案は、和平努力に新たな展開をもたらすものだ。ウクライナの数千億ドル相当のレアアース(希土類)鉱物資源の権益を米国に譲渡する協定は、まだ署名にこぎ着けていない。トランプ氏は、ロシア政府とウクライナ政府の広範な和平合意の仲介に取り組んでいる。両国は今週、エネルギーインフラ施設を保護する部分停戦に合意した」

    ウクライナでは、2022年2月のロシアの侵略開始前にフメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポロジエの4原発が稼働していた。発電設備容量は約1400万キロワットと世界有数の規模で、国内の発電量の半分以上を占めていた。欧州最大級のザポロジエ原発をロシアに占拠されて設備容量は4割減ったが、ゼレンスキー政権は原発を復興の柱と位置づけ、原子炉の増設計画を推進。40年までに発電設備容量を2400万キロワットに引き上げる目標を掲げてきた。

    米政府がこれら全ての原発を所有すれば、長期にわたってウクライナから巨額のエネルギー収入を得ることになる。採算性に不安がある同国の鉱物資源といった権益よりも経済的なうまみは大きく、トランプ氏が掲げてきた巨額のウクライナ支援の資金回収も容易になる。以上は、『日本経済新聞 電子版』(3月20日付)が報じた。


    (2)「18日に行われた米ロ首脳の電話会談で、ロシアのプーチン大統領はエネルギーインフラへの攻撃を30日間停止することに同意した。ホワイトハウスによると、ゼレンスキー氏も発電所やエネルギー施設を攻撃しない部分停戦に同意した。米政権が公表した電話会談の声明によると、両首脳は「ウクライナの電力供給と原子力発電所」について協議した。「米国は電力・公益事業の専門知識を有しており、これらの発電所の運営に非常に役立つ可能性がある。米国が発電所を所有することは、ウクライナのエネルギーインフラを保護し、支援する最善の措置となる」と記した」

    米国は、ウクライナのエネルギーインフラを保護支援することで、ロシアの攻撃をかわせる。ウクライナにとっては、電力確保で大きな前進になる。

    (3)「ゼレンスキー氏は19日、発電施設への投資の可能性を巡るトランプ氏との協議は、ロシア軍に占拠されて稼働停止中のザポロジエ原発についてだったと述べた。トランプ氏は米国が投資して改修することは可能かと尋ね、ゼレンスキー氏はその考えに反対ではないと答えたという。米国は数日以内にサウジアラビアで停戦協議を再開する予定だ」

    米国が、ウクライナの発電施設を所有するとなれば、ロシアは攻撃できなくなる。奇策である。プーチン氏も「やられた」とみているだろう。


    (4)「トランプ氏は19日、ソーシャルメディアへの投稿で、ゼレンスキー氏と「非常に良好な電話協議」を行ったと書き込んだ。ゼレンスキー氏もソーシャルメディアへの投稿で、トランプ氏との電話会談を前向きに評価した。ウクライナはインフラ施設を対象とする停戦を直ちに実施する用意があり、より広範な停戦に向けて進展することを望んでいると述べた。「米国と一緒に、トランプ大統領と共に、そして米国のリーダーシップの下で、恒久的な和平を年内に達成できる」とし、「ウクライナ国民は平和を望んでいる」と記した」

    ゼレンスキー氏は、「米国と一緒に、トランプ大統領と共に、そして米国のリーダーシップの下で、恒久的な和平を年内に達成できる」と歓迎姿勢を打ち出している。

    (5)「トランプ氏は、ゼレンスキー氏との19日の電話会談で、ウクライナの民間人保護のため、米国製の防空システムの供与を求めるゼレンスキー氏の要請に応えるよう努めると約束した。国務省が公表した電話会談の要旨によると、「トランプ大統領は、特に欧州で使用可能なものを見つける方向で協力することに同意した」としている」

    トランプ氏は、ゼレンスキー氏の「好反応」をみて、米国製の防空システム供与に前向き姿勢だ。先の両氏による口論も、「雨降って地固まる」方向へ動き出した。


    a1180_012431_m
       

    ゼレンスキー、ウクライナ大統領が、トランプ米国大統領らと激しい口論となったあと、スターマー英首相やイタリアのメローニ首相、フランスのマクロン大統領を含む欧州の指導者らは、両者の関係を修復しようとゼレンスキー氏およびトランプ氏の双方とやりとりを重ねている。欧州は、結束してウクライナ支援体制を取っており、トランプ氏との妥協点を探っている。

    欧州は、欧州安保の危機として捉えている。具体的には、ウクライナへ「有志国連合」を結成して派遣することを検討している。欧州国以外の国も参加を求める模様だ。欧州の指導者からは、「1ヶ月停戦案」も出るなど、ウクライナ和平問題が急ピッチで動き出している。

    『ロイター』(3月3日付)は、「ウクライナ支援で米離脱阻止目指す欧州、有志連合や停戦案提示へ」と題する記事を掲載した。

    英独仏伊など欧州主要国の指導者らは2日、ロンドンで緊急首脳会合を開催し、ウクライナへの広範な支持を確認する一方、同国に安全保障を提供する「有志国連合」の協議を開始した。トランプ米大統領との会談が物別れに終わったウクライナのゼレンスキー大統領を協議の場に戻すため、水面下でも奔走した。


    (1)「ウクライナでの停戦に向け、トランプ氏がロシアのプーチン大統領に直接働き掛ける状況の変化に対応し、欧州の防衛力増強の議論も加速した。英仏両国は、停戦後の和平の永続性をウクライナに保証するため、平和維持部隊に参加する「有志連合」の発足を目指している。事情に詳しい欧州当局者によると、米国の長年の同盟国である英仏は、欧州連合(EU)加盟国以外の国(カナダも含む可能性)を加えた「欧州プラス」のグループをトランプ大統領に提示し、賛同を得たい考えだ。トランプ氏とプーチン氏との停戦協議のさらなる進展を待たず、欧州とウクライナへの関与を継続するようトランプ氏を説得する狙いがある」

    欧州では、「雨降って地固まる」というべき動きが加速している。欧州の手で、ウクライナの安全保障を確実にする方向へ動き出している。もちろん、トランプ氏とプーチン氏との停戦協議の進展が前提である。

    (2)「マクロン大統領は首脳会合終了後、仏紙フィガロとのインタビューで、ウクライナへの平和維持部隊の展開を巡る交渉を進められるよう1カ月の停戦を一部諸国が望んでいると語った。英政府当局者によれば、停戦スケジュールに関するいかなる合意も成立していない。スターマー英首相は記者団に対し、「ここ数日の協議を経て、英仏と他の諸国は、停戦プランでのウクライナとの協力で合意した。そのプランを米国と話し合う」と述べた。2日の緊急会合には、欧州諸国のほか、カナダやトルコの代表も出席した」

    欧州では、ウクライナへの平和維持部隊の展開交渉の前提として、一部諸国が1カ月停戦を望んでいるまでになっている。ウクライナ和平問題は、これまで欧州の頭越しに進められていたが、振り出しに戻ってウクライナ・欧州が結束する形になっている。


    (3)「ゼレンスキー氏は、2日の首脳会合を「強力なスタート」だと評価し、外国部隊がウクライナに駐留する「理論的な可能性」を既に考えていると述べた。ただ、同日にとられた「最初の一歩」について詳述するのは時期尚早だと語った。ゼレンスキー氏とトランプ氏らとの激しい口論に伴う混乱にもかかわらず、トランプ政権の一部当局者にはウクライナとの協議を打ち切る用意がないという確信が、欧州首脳らのプランを支えている。協議に詳しい欧州当局者によると、トランプ大統領の一部補佐官らは、いかなる合意もゼレンスキー氏の辞任が前提と主張しているが、トランプ氏自身は政権の一部メンバーより強硬意見が少ないと思われる」

    トランプ氏自身は、なおウクライナとの協議の道を残しているとみられる。

    (4)「インタファクス通信の報道によると、ゼレンスキー氏とトランプ氏の口論はウクライナ戦争の解決がいかに難しいかを浮き彫りにしていると、ロシア大統領府のペスコフ報道官は語った。このような状況においては、米国の取り組みとロシアの用意だけでは明らかに不十分で、極めて重要な要素が欠けているとペスコフ氏は説明し、明瞭で詳細な和平案は議題に上っていないと指摘した」

    ロシア側は、ゼレンスキー氏とトランプ氏の口論によって、ウクライナ戦争の解決がいかに難しいかを認識した。ウクライナが、米国の一存で自由に動かせないことが分ったのだ。


    (5)「欧州の指導者らは、ウクライナを守るだけでなく、北大西洋条約機構(NATO)を含む欧州への長年の関与から米国が手を引く可能性に備え、より信頼に足る安全保障体制構築を迫る新たな圧力に直面している。EUは、6日に特別首脳会議を開催し、総額200億ユーロ(約3兆1400億円)の対ウクライナ軍事支援、財政規律緩和の可能性も含む防衛費の増額を協議する。マクロン仏大統領は、フィガロとのインタビューで、EU全体で2000億ユーロ増額し、GDPの3~3.5%を目標とすべきだと主張した。欧州委員会のフォンデアライエン欧州委員長は、ロンドンで記者団に対し「欧州の再軍備を緊急に進める必要がある」とし、欧州は防衛支出の「急増」が求められていると語った。欧州はウクライナを「侵略国が飲み込めない鉄のハリネズミ」に変身させる必要があると呼び掛けた」

    欧州は、米国に依存しないで自らの安全保障をいかに確立するかという切実な事態へ直面している。これは、日本にとって「プラス効果」である。欧州が「再軍備」すれば、米国の負担はそれだけ軽くなり、対中国戦略へ没頭できるからだ。日本は、安全保障ランクが上がるというメリットを享受できるのだ。




    a0001_001078_m
       

    ウクライナのゼレンスキー大統領は、物別れに終わったトランプ米大統領との会談から一夜明けた3月1日、ウクライナの苦境について耳を傾けられ、ウクライナが忘れられないことが「非常に重要」とソーシャルメディアに投稿した。『ロイター』(3月1日付)が報じた。

    ゼレンスキー氏は、ワシントンのウクライナ人コミュニティとの会合の映像を添えた投稿で、「戦時中も戦後も、誰もがウクライナに耳を傾け、ウクライナのことを忘れないようにすることがわれわれにとって非常に重要だ」とした。「ウクライナの人々が、自分たちが孤立していないこと、自分たちの利益が世界中のあらゆる国、あらゆる地域で代弁されていると知ることが重要だ」とも述べた。ゼレンスキー氏は、国益実現目指して奮闘している。


    『ロイター』(2月27日付)は、「ウクライナ、鉱物資源取引にのぞくトランプ氏顔負けのしたたかさ」と題する記事を掲載した。

    (1)「ウクライナの重要鉱物などの資源を米国に提供することは、ゼレンキー氏が昨年9月に当時米大統領選の候補だったトランプ氏に持ちかけたアイデアであり、両国の商業的利益に合致させることを望んでいた。ただ、ゼレンスキー氏は昨年11月の米大統領選後に、持ちかけたよりも大きな譲歩を迫られた。ロシアが、2022年にウクライナへ侵攻して以来、米国がウクライナに提供してきた財政的・軍事的支援に対する「見返り」として、トランプ氏が約5000億ドル(約75兆円)について話し始めたからだ」

    協定草案の内容に詳しい情報筋によると、草案には米国の安全保障や武器の継続的な提供は明記されていないものの、米国はウクライナが「自由で、主権があり、安全であること」を望んでいるとの文言が盛り込まれているという。これは、ウクライナの安全保障を示唆している。ゼレンスキー氏は、もう一歩の突っ込んだ安全保障が欲しいのだ。戦火に蹂躙されているウクライナ大統領として、当然のことであろう。


    (2)「米紙『ニューヨーク・タイムズ』は、ウクライナが天然資源を将来収益化する際に、収入の半分を米国が管理する特別基金に支払う内容の合意に向けて協議していると報じた。この基金は外国からの資本誘致の起爆剤として、収入の一部をウクライナ国内に再投資する役割を担う。一方で米国は、ほとんど理にかなわない5000億ドルの要求を取り下げたようだ。キール世界経済研究所によると、米国の過去3年間のウクライナに対する軍事および民用支援は1140億ユーロ(約18兆円)に上り、欧州諸国は同じ期間に計1320億ユーロを支援した」

    今回のトランプ・ゼレンスキー会談の「喧嘩別れ」は、欧州のウクライナ支援の声を一段と強めている。これは、欧州が結束して米国へ圧力をかけることに繋がるであろう。

    (3)「ウクライナの鉱物資源の規模は未知数だ。ウクライナのウランやリチウム、原油、ガスなどの天然資源について地元当局はほとんど把握していない。いわゆるレアアース(希土類)のマッピングは数十年前が最後で、もしかすると鉱床には採算性がないかもしれない。その上、一部はロシアに占領された地域にある。さらに、収入が得られるのは何年も先になる。ウクライナはまず、鉱山施設の建設や再建を手がけた上で、損傷したエネルギー網を修復しなければならない。もっとも、将来的な見返りが約束されれば米国の投資が促進され、世界銀行が5240億ドルかかると試算しているウクライナの再建が始まる可能性がある」

    ゼレンスキー氏は、米国をウクライナへ繋ぎ止める手段を考案した。トランプ氏は、経済利益と聞けば関心を強める。この虚をついて、共同の鉱物資源開発を持ち込んだ。


    (4)「ゼレンスキー氏は、ウクライナでの停戦を監督するために米国が関与することを条件とする取引を望んでいた。この条件は、米国の欧州への軍事的関与に否定的なトランプ政権の意向に反しているようだ。しかし、ゼレンスキー氏はウクライナ経済の将来に対する関心を米国に与えることで、同じ結果がもたらされるとも述べている。実際、ロシアはこの交渉中の取引を嫌っており、プーチン大統領は米国に対して独自の鉱物資源協定を提案した」

    ゼレンスキー氏は、ウクライナ経済の将来に対する関心を米国に与えることで、米国の安全保障を引出す手立てに使っている。なかなかの「役者」である。


    (5)「ゼレンスキー氏は、未知の資源を対象とする一般的な協定が、ウクライナをあまり拘束することにはならないと結論付けるかもしれない。鉱山が立ち上がって稼働する頃には、米国の大統領はより友好的な人物になっているかもしれない。そうなれば、ウクライナは契約を見直すか、完全に破棄することができる。これはトランプ氏でさえも称賛するかもしれない見事な交渉戦術だ」

    トランプ大統領の任期は、29年1月までだ。その後は、鉱物資源開発の契約を見直すチャンスも出てくる。ゼレンスキー氏は、ホワイトハウスで恥をかかされたが「一時のこと」。ウクライナ国民のためにも、ここは「忍の一字」で臨むほかない。



    あじさいのたまご
       

    トランプ米大統領は2月28日、ウクライナのゼレンスキー大統領とホワイトハウスで会談した。ウクライナの鉱物資源の権益に関する合意文書に署名する予定だったが、記者団の前でロシアへの対応などを巡り激しい言葉の応酬が相次いだため、ゼレンスキー氏は合意文書に署名せず、トランプ氏の指示でホワイトハウスを後にした。この事態に、ロシアは大喜びという奇妙な構図をみせた。

    『ブルームバーグ』(3月1日付)は、「米ウクライナ首脳会談は決裂、資源取引で署名至らずー激しい口論の末」と題する記事を掲載した。

    ロシアとの合意を目指すトランプ氏の取り組みに、ゼレンスキー氏が疑問を呈したことで、会談は冒頭から激しい応酬となった。今回の会談は両首脳の結束を示す場となるはずだったが、ゼレンスキー氏はテレビカメラの前で米国側と衝突する格好となり、ホワイトハウスを後にした。


    (1)「ロシアのプーチン大統領とのディールを目指すトランプ氏は資源取引について、米国の対ウクライナ支援への見返りとして必要な一歩だと位置づけていた。トランプ氏は、ゼレンスキー氏がホワイトハウスを去る直前、自身のソーシャルメディアプラットフォームであるトゥルース・ソーシャルに投稿。「彼はこの大切な大統領執務室で米国を侮辱した。平和を受け入れる準備ができたら戻ってくればいい」と突き放した」

    両首脳の会談に、バンス米副大統領までが口を挟む「大混戦」になった。ゼレンスキー氏の本音は、ロシア寄りではなくウクライナの痛みを知ってくれという切なる願いが込められていた。今回の会談決裂について、欧州側はウクライナ支持の声が強い。

    (2)「ゼレンスキー氏は、計画されている取引がロシアのさらなる侵略を抑止するのに十分だとは思わないと発言。「プーチンがやめることは決してなく、さらに先へと進むだろう」とし、「ウクライナ人を憎んでおり」、ウクライナを破壊したいと考えていると述べた。資源合意については「それは可能だが、それだけでは十分ではない」と語った。この発言が、トランプ、バンス正副大統領の怒りを招いた。自らの考えを主張しようとするゼレンスキー氏を両氏は厳しく非難。大統領執務室でのこうした態度は失礼であり、3年にわたる流血の惨事を終結させることを阻んでいると断じた」

    今回の会談決裂は、米国側が資源開発協定についてその意図と、ウクライナの安全保障について説明していないことが理由であろう。米国は、「言わなくても分っているだろう」という暗黙の理解を求めていた。ウクライナは、「暗黙知」でなく「形式知」にしてくれと言うすれ違いだ。強者と弱者の立場の相異でもある。


    (3)「トランプ氏は、「このようにビジネスを行うのは非常に難しいだろう」とゼレンスキー氏に述べ、同氏が取引を実現できるか分からないと発言。「もっと感謝すべきだ。言わせてもらうが、あなたにはカードがないからだ。われわれがいればカードがあるが、われわれがいなければあなたにカードは一切ない」と語った。また「あなたは第3次世界大戦のリスクを冒しているようなもので、あなたがやっていることは、この国に対して非常に失礼なことだ」と指摘。「あなたが取引に応じるか、それともわれわれが取引から抜けるかだ。もしわれわれが取引しなければ、あなたは徹底的に戦うことになる」として、厳しい状況に追い込まれるとの考えを示唆した」

    トランプ氏は、怒り心頭に発する表情をみせた。この怒りが収まるには、フランスか英国が仲介しなければ難しいであろう。

    (4)「トランプ氏は、ゼレンスキー氏がプーチン氏に対して「非常に強い憎悪」を抱いていると述べ、その怒りが合意を妨げているとの考えを示唆。「私は誰よりもタフな人間になることができるが、そのようなやり方では決して物事を成し遂げられないだろう」と述べた。またゼレンスキー氏が、米国は領土を海に囲まれているためロシアからの差し迫った脅威に直面しておらず、トランプ氏は問題を理解していないとの見方を示唆すると、両首脳のやり取りはさらに激しさを増した」

    ゼレンスキー氏が、プーチン氏に対して「非常に強い憎悪」を抱いているとの指摘は事実だ。ゼレンスキー氏が、この感情を抑えてロシアとどこまで冷静に交渉するか。米国のような強者でなければ、和平交渉が困難であることを浮き彫りにした。


    (5)「トランプ氏は、「われわれがどう感じるかをあなたが指図できる立場にはない」と述べ、「あなたは今、良い状況にはない。とても悪い立場に自らを追い込んでいる」と続けた。バンス氏は、「一度でも感謝の気持ちを伝えたことがあるのか」と問いかけ、「米国、そしてあなたの国を救おうとしているトランプ大統領に感謝の気持ちを表すべきだ」とゼレンスキー氏に詰め寄る場面もあった」

    バンス発言が、トランプ氏の怒りに油を注ぐ形になった。おべんちゃらを言ったのだ。

    (6)「公の場でゼレンスキー氏が受けたトランプ氏とバンス氏からの屈辱は、ロシアが予想していた以上のものだった。欧州高官の1人は、ここで笑っているのはロシアのプーチン大統領だけだと述べた。ロシア安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフ前大統領は、トランプ氏がゼレンスキー氏に対し「面と向かって真実を語った」とし、「しかし、それだけでは十分ではない。軍事援助は停止されるべきだ」と主張した」

    ロシアの喜びは、自ら戦争終結能力がなく米国へ頼っている実状をさらけ出している。米国の言うままになりそうな雰囲気でもある。本来なら、ロシアは沈黙している立場だ。それを忘れている点に、ロシアの苦境ぶりが浮き上がっている。




    a0960_008527_m
       

    米国トランプ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領を「独裁者」と呼ぶなど、両国関係は険悪化したが、ウクライナの鉱物資源開発問題は最終合意が成立。28日、ゼレンスキー氏が訪米して正式調印の運びとなった。「雨降って地固まる」感じだ。

    『フィナンシャル・タイムズ』(2月26日付)は、「ウクライナ、鉱物資源巡り米と合意」と題する記事を掲載した。

    ウクライナは、鉱物資源を巡る協定の条件について米国と合意した。ウクライナ当局者らは、これによりトランプ米政権との関係が改善し、米国による長期的な安全保障への関与に道筋が立つことを期待している。

    (1)「ウクライナ当局者らは、石油・天然ガスを含む鉱物資源の共同開発に関する協定に署名する用意が整ったと明らかにした。資源採掘などで得られる収入から5000億ドル(約75兆円)の支払いを受ける権利を求めていた米国が要求を取り下げたという。最終草案に安全の保証は明記されていないが、当局者らは交渉ではるかに有利な条件が得られたと主張している。また、戦争開始から3年が経過するなかで、協定はウクライナの将来のために米国との関係を拡大させるものだと当局者らは捉えている」

    鉱物資源の共同開発に関する協定が、ウクライナの将来のために米国との関係を拡大させるものだとしている。米国の支援が、約束されたのだろう。


    (2)「交渉を率いたウクライナのステファニシナ副首相兼司法相は25日、「鉱物に関する協定は全体の構図の一部分にすぎない。私たちは米政権から何度も、これはより大きな構図の一部だと聞かされている」とフィナンシャル・タイムズ(FT)に語った。この問題について知るウクライナ当局者は同国のゼレンスキー大統領が28日に米首都ワシントンを訪れてトランプ大統領と会談し、協定を正式に締結する計画だと明らかにした」

    鉱物に関する協定は、全体の和平構図の一部分にすぎないという。文書にされていない部分で、ウクライナは米国から「保証」を得たのだろう。米国は、ウクライナ和平が正式調印するまで全貌を明かさないのかも知れない。「口約束」で終ると、ウクライナは大損になる。

    (3)「トランプ氏も25日、「(ゼレンスキー氏が)28日に来ると聞いている。彼が望むならもちろん私は構わない」と述べた。ゼレンスキー氏の訪米を確認したとみられる。2022年のロシアによる全面侵略開始以降に米国から受けた軍事・財政支援を、ウクライナが返す方法として、トランプ氏が提示した当初案には非常に厳しい条件が盛り込まれ、ウクライナや欧州諸国の強い怒りを呼んだ。トランプ氏は19日、当初案を拒否したゼレンスキー氏を「独裁者」と呼び、ウクライナが戦争を始めたかのように非難していた」

    トランプ氏は当初、「ディール」の常套手段で厳しい内容でウクライナへ迫ったのであろう。ウクライナの反応をみて条件を緩めたに違いない。


    (4)「FTが確認した24日付の協定の最終草案によると、ウクライナ国内のプロジェクトに投資する基金が設置される。ウクライナは、石油・ガスを含む国有の鉱物資源および関連インフラの「将来的な収益化」に伴い得られる収益のうち、50%を基金に拠出する。すでにウクライナ政府の財源となっている鉱物資源は対象外となる。石油・ガス生産で同国最大手のナフトガスやウクルナフタの既存事業は含まれないことを意味する。一方、最終草案は、ウクライナ側が当初、取引に応じる見返りとして求めていた米国による安全の保証には全く言及していない」

    肝心の米国による安全の保証に全く言及がないという。米国が、文書化を避けているのはなぜか。文書にして漏洩するのを恐れている面もあろう。それほど、「機微な内容」になっているのか。ウクライナを安心させるものがなければ、あえて鉱物開発協定を結ぶ必要がないからだ。

    (5)「基金に対する米国の持ち分や、「共同所有」の条件といった重要な問題も積み残され、後続の協定の交渉で詰められることになる。米国はこの3年、対ウクライナ軍事支援の主柱となってきたが、トランプ氏は欧州の同盟国やウクライナを交えないロシアとの2国間協議を開始し、米国の政策を転換させている。ウクライナ当局者らによると、合意は司法相や経済相、外相の承認を得ているという」

    合意は、司法相や経済相、外相の承認を得ているという。ゼレンスキー大統領の「独断」でないことが明らかにされている。


    (6)「トランプ政権の当初案は、米側が「100%の金銭的利益を維持する」復興投資基金の設置を求めていた。ウクライナ側は5000億ドルを上限として、石油・ガスと関連インフラを含む鉱物資源の採掘で得られる基金収入の50%を拠出するという条件だった。ウクライナ当局者らがとても受け入れられないとしていたこれらの条件は、最終草案から削除された。ウクライナ国内への投資を基金に義務付けることも、ウクライナ側が求めた変更だ。文書には、ウクライナの将来に向けた経済開発を米国が支援すると記された」

    合意文書には、米国がウクライナの将来に向けた経済開発を支援すると記されているという。この文言が、一つのヒントを与えているのかも知れない。経済開発支援の前提として、安全保障もするという示唆だ。

    (6)「ウクライナ当局者らは、今回の取引は「枠組み合意」であり、基金が設置されるまで収入が移転されることはなく、何らかの見解の相違が生じた場合に解決への時間的余裕があると説明した。懸案の一つは協定の管轄権に関する合意だ。ゼレンスキー政権は、ウクライナ議会の承認を得る必要もある。野党議員らは少なくとも、こうした協定の批准前に白熱した議論を交わす構えだ。レビット米大統領報道官は25日、交渉の進展については触れずに、「この協定が署名されることが極めて重要だ」と語った」

    米大統領報道官は、「この協定が署名されることが極めて重要だ」としている。和平条約後、米国がこれをテコにしてロシアを抑制するのか。切り札だけに、今はすがた形を見せないという隠密主義というのか。即断はできない。




    このページのトップヘ