勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ウクライナ経済ニュース時評

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    トランプ氏が、今秋の米大統領選で復帰するかどうか。当の米国よりも米同盟国が警戒姿勢を滲ませている。これまでは、「もしトラ」であったが、「ほぼとら」というほどの警戒音を高めている。だが、トランプ氏が大統領へ当選するには大きな壁が立ちはだかっている。これまで集めた選挙運動資金は、裁判費用に大方使い果したという報道も出ている。米共和党の本流が、どこまでこの破天荒なトランプ氏を支持するのか。投票箱を開けてみるまでは分らないのだ。

     

    『毎日新聞』(2月17日付)は、「ウクライナ、独仏と安保協定締結 10年間軍事支援 戦局好転狙う」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は2月16日、ドイツとフランスを訪問し、長期的な軍事支援を確保するための2国間の安全保障協定をそれぞれと結んだ。昨年7月に主要7カ国(G7)が提示した国際的な枠組みに基づく協定となる。ウクライナ軍はロシアの侵攻に対し、東部の要衝アブデーフカから撤退するなど苦戦を強いられており、支援を戦局の好転につなげたい考えだ。

     

    (1)「ゼレンスキー氏はこの日、ベルリンでショルツ独首相と会談し、同国との安全保障協定を締結した。協定の期間は10年。ドイツはウクライナに現在進行中の軍事支援を続けるとともに、将来的な攻撃への抑止力を強化するための装備近代化に協力する。ショルツ氏はゼレンスキー氏との共同記者会見で、約11億ユーロ(約1780億円)の追加軍事支援を提供することも発表した」

     

    ゼレンスキー氏は、ドイツ首相と10年間の安全保障協定を締結した。トランプ氏が、米大統領に復帰すれば、どのような事態が起こるか分らない以上、最悪に事態に備える。

     

    (2)「この後、ゼレンスキー氏はパリを訪問。マクロン仏大統領と会談し、フランスとの2国間の安全保障協定にも署名した。仏大統領府によると、協定でフランスはウクライナに武器や訓練を提供するほか、2024年に最大30億ユーロの追加軍事支援を行うことを約束した。協定の効力はドイツと同じ10年間となる。ゼレンスキー氏はマクロン氏との共同記者会見で「野心的かつ極めて実質的な安全保障協定だ」と語った」

     

    ゼレンスキー氏は、フランスへマクロン氏を訪問して10年間の安全保障協定を結んだ。ドイツと同じ内容である。欧州の安全保障は、NATO未加入のウクライナに対しても行うという強い決意である。

     

    (3)「G7は昨年7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にあわせ、長期安全保障の国際的な枠組みを提案する共同宣言を発表した。NATOは原則として加盟国以外に本格的な安全保障を提供しない。このため枠組みでは、西側諸国が2国間協定を通じ、ウクライナに対し持続的な軍事支援を図る。すでに英国も同様の協定に署名しており、これで英独仏の欧州主要3カ国が締結した」

     

    NATOは、原則として加盟国以外に本格的な安全保障を提供しない。このため、西側諸国が2国間協定を通じ、ウクライナに対し持続的な軍事支援を図るものだ。すでに、英国もウクライナと2国間協定を結んだ。これで、仮に「ほぼトラ」でトランプ氏が復帰して、かき回してもウクライナ支援が空洞化しないように手を打ったところだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月2日付)は、「EUがウクライナ支援を強化」と題する社説を掲げた。

     

    欧州連合(EU)の加盟国首脳は1日、ウクライナに540億ドル(約7兆9000億円)相当の金融支援を提供することで合意した。この支援パッケージは、欧州が応分の貢献をしていないと常日頃主張している、米共和党内の対ウクライナ追加支援反対派への非難ともいうべきものだ。

     

    (4)「支援の詳細確定には欧州議会の承認が必要だが、現在の案によれば540億ドルの支援は融資と無償資金援助で構成され、今後2027年までの期間に分割で実施する。ハンガリーのビクトル・オルバン首相が支援策に反対していたが、EU加盟国はこの問題を克服し、結局は全会一致で支援策を支持した」

     

    EUが、トランプ氏の過激な発言に刺激され、ウクライナを自力で守らなければならないという結束力を強めている面もあろう。米国が支援しなければ、「ウクライナ敗北」となり、ロシアに新たな口実を与えるようなものになる。

     

    (5)「支援のうち420億ドル余りは、ウクライナ政府が年金や教員給与といった基本的なものへの歳出によって機能を維持するのに役立てる。また、重点産業のリスクをカバーする特別投資措置の87億ドルも盛り込まれている。こうした支援はウクライナが生き残りをかけたロシアとの戦いを継続できるようにする点で、EUの戦略上の目的にかなう。ウクライナは今年、400億ドル超の予算不足に直面しており、同国の経済全般が破綻すれば防衛を続けることは一段と難しくなる」

     

    ウクライナ財政を支援する形だ。ウクライナ経済が、侵攻によって破綻に瀕している以上、これを支えなければ、新たな国が同様な憂き目に遭いかねないからだ。

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    ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって、間もなく3年目を迎える。ウクライナは、多大な被害を受けながらも、国土を守り抜く強い意志を示している。だが、世論調査ではそういう強い意志をみせる国民は8割を下回っており、「休戦」の二文字がちらつき始めている。

     

    『毎日新聞』(2月15日付)は、「対露戦争3年目を前に疲弊漂うウクライナ 徴兵逃れや関心低下も」と題する記事を掲載した。

    ロシアの侵攻が続くウクライナ。昨年2月以来、1年ぶりに現地入りした記者(鈴木)が感じたのは、人々の間にじわりと広がる疲弊ムードだ。24日で3年目に突入する戦いは終わりが見えない。捕虜への関心低下や、兵員不足の深刻化など重い課題が浮き彫りとなっている。

     

    (1)「前線で戦った兵士のことを忘れるな!」「捕虜を解放させろ!」――。11日、首都キーウ(キエフ)市内の大通りの交差点。冬曇りの下で、ウクライナ内務省傘下の戦闘部隊「アゾフ大隊」の隊員家族ら約200人がプラカードを掲げてデモを行った。アゾフ大隊は開戦当初に、南東部の要衝マリウポリの製鉄所などを拠点としてロシア軍と激戦を繰り広げた部隊だ。製鉄所に立てこもった隊員たちは2022年5月中旬に投降し、ロシアの捕虜となった」

     

    南東部の要衝マリウポリの製鉄所は、激戦地で多数の犠牲者が出た場所だ。多くの兵士が、ロシア軍の捕虜となった。

     

    (2)「デモに参加したカトリーナさん(25)の婚約者の男性(27)は、今もロシアの収容所に捕らわれている。カトリーナさんは昨年6月にテレビ番組のニュース映像でロシアの法廷に姿を現した婚約者を見たというが、それ以降の消息は不明だ。「映像を目にしたときは驚きで息が止まるかと思った。痩せこけていて心配だ」と目に涙を浮かべる。ロシア側との捕虜交換で解放された隊員もいるが、現在でも700人以上が拘束されているとされる。手詰まり状態の戦況に、カトリーナさんは「兵士ではない私が無責任なことは言えない。ただ早く戦争が終わって婚約者が無事に帰ってきてほしい」と声を落とした」

     

    捕虜の解放を待つ身にしてみれば、早い戦争終結を待ちわびている。 

     

    (3)「毎週日曜に続けるこのデモの企画者の一人、ターニャさん(44)は「ウクライナの人々も戦争状態に慣れたり疲れたりしてきている」と指摘する。捕虜の存在にも関心が薄れてきているといい、「彼らは英雄だ。忘れてはならないと訴え続ける」と力を込めた。総動員令が出ているウクライナでは、18~60歳の男性は出国が原則禁止されている。地元メディアによると、侵攻開始後の数カ月間は何万人もの男性がこぞって兵役を志願したが、熱意は次第に低下。前線では兵員不足が深刻化している。ゼレンスキー大統領は昨年12月、最大50万人の追加動員を検討中と明かした」

     

    ゼレンスキー大統領は昨年12月、最大50万人の追加動員を検討している。18~60歳の男性は、すでに全員が出国禁止されている。そのなかで、50万人を動員できるのか。

     

    (4)「こうした状況の中、徴兵逃れが大きな問題となっている。英公共放送BBCは昨年11月、これまでに約2万人の男性が国外に出国したと報道。また、約2万1000人が出国に失敗してウクライナ当局に拘束されたという。徴兵事務所から数回にわたって兵役を呼びかける手紙を受け取ったという男性(31)は匿名を条件として取材に応じ、「適切な装備も訓練もなく前線に放り込まれるのは絶対にごめんだ」と語気を強めた。軍の徴兵担当者らが街頭で対象者をチェックしている場合があるといい、外出の際には、仲間らとネット交流サービス(SNS)で情報交換をするなど警戒しているという。「強制的に徴兵事務所に連行されるのではないかと恐怖を感じている」と話すこの男性。「2年前は国の未来を守るために兵役を志願する人々がいた。今、私は妻と6歳の長女を守るため、戦場へ行くことを拒否する」と断言した」

     

    戦争忌避する人々もいる。中には、不正手段で出国するという事態も発生している。こういうなかで、ゼレンスキー大統領は今後の展望をどのように描いているのか。戦闘機の導入が本格化すれば、新たな展開も期待できるのであろう。

     

    (5)「ウクライナの世論調査機関「キーウ国際社会学研究所」が23年12月に公表した世論調査によると、「どんな状況の下でも領土を諦めるべきではない」と回答したのは74%。多数派ではあるが、22年5月からの調査で初めて8割を下回った。また、「平和のために領土を諦めてもよい」と答えたのは全体の19%で、昨年5月の10%から9ポイント上昇している。回答者の居住地域別にみると、激戦が続くウクライナ東部では25%が「諦めてもよい」と回答。南部、中央部、西部よりも領土放棄を容認する割合が高くなっている。一方で、「領土を諦めてもよい」と答えた人のうち71%は「西側諸国からの適切な支援があれば(露軍の撃退に)成功できる」と回答。「領土を諦めるべきではない」と答えた人では93%が同様の回答をしている。市民レベルでも、欧米の軍事支援が戦況のカギを握ると強く意識している模様だ」

     

    最終的には、ウクライナ世論が停戦=和平案を決めることだ。その時期は、24年中に来るであろうか。

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    日々、ウクライナからは重い戦況が伝えられている。その中で、着々と復興に向けた投資が始まっている。全土の66%は戦争の被害を免れている。そういう地域を選んで、地味だが一歩一歩と復興へ向けた投資活動が進む。投資に関する問合せは、侵攻前よりも増えているという。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月30日付)は、「ウクライナに投資家が戻る理由」と題する記事を掲載した。 

    ウクライナ経済の見通しは脆弱なままだ。米下院の過半数議席を持つ共和党は、ウクライナ支援に懐疑的な見方を強めている。最大の財政支援国からの長期的な支援を失えば、ウクライナ経済の回復の芽がつまれてしまう。同国の国内総生産(GDP)成長率は、2022年に29%もの大幅なマイナスに沈んだが、今年4~6月期には開戦後で初めてプラスとなった。企業や一般世帯は戦時生活に適応している。ウクライナ国立銀行(中央銀行)のアンドリー・ピシュニー総裁は、「米国の支援は重要かつ決定的だ」と話す。「米国からの定期的な資金援助がなくなれば、この安定を支える基盤そのものが崩れてしまう」

     

    (1)「ジョン・マザラキス氏は大麻企業への融資や米東海岸のピザ屋チェーンの経営で大金を稼いだ。次に大きく賭けようとしているのは、戦争で荒廃したウクライナの住宅と工業団地だ。マザラキス氏と、同氏が共同で立ち上げた資産運用会社シカゴ・アトランティック(運用資産20億ドル)は、ウクライナに最大2億5000万ドル(約375億円)を投資する準備を進めている。シカゴ・アトランティック社はウクライナの複数の開発業者とパートナーシップ契約を結び、手頃な価格の住宅・マンションの建設に向けた融資を行う予定だ。また、長期的な産業プロジェクトへの投資も計画している。マザラキス氏は、これらのプロジェクトで約20%のリターンが得られると見込む」 

    「アニマル・スピリット」が、企業家精神の原点とされる。その見本のような話が、マザラキス氏である。ウクライナで、手頃な価格の住宅・マンションの建設に向けた融資を行うという。約20%のリターンを目指す。健全な投資だ。

     

    (2)「ウクライナは今年18月、外国からの直接投資(再投資収益含む)が31億ドルに上ったが、前年同期比では小幅減となった。ウクライナ政府の外債の多くは5月以降、50%程度上昇しているが、額面を大幅に下回る水準にとどまる。ドイツの製薬・化学大手バイエルは最近、キーウ西方の種子工場の拡張工事(総工費6000万ドル超)に着工した。スイスの食品大手ネスレはウクライナ西部にある即席めん工場を拡張している」 

    ウクライナの対内直接投資が、今年18月で31億ドルに上がった。ネスレや即席麺工場の拡張も始まっている。 

    (3)「ウクライナ政府が資金を募っているプロジェクトには、南部ミコライウ州のトマト加工工場建設(2700万ドル)、キーウ近郊のレンガ工場(1億1800万ドル)、ドニエプロペトロフスク地方の蜂蜜加工施設(600万ドル)などがある。ウクライナ政府投資促進局トップのセルギー・チフカチ氏は、「開戦前よりもはるかに多くの投資プロジェクトがあり、問い合わせも多い」と語った。インフレが減速した上、外貨準備が過去最高の400億ドルに積み上がったおかげで、ウクライナ中銀は利下げを開始し、通貨フリブナのドルペッグ制を緩和することができた」 

    ウクライナ国内のインフレも減速し、外貨準備高が400億ドルになったことで経済が落着きを取り戻しつつある。これが、対内直接投資を呼び込む条件を強化している。

     

    (4)「ウクライナの投資銀行ドラゴン・キャピタルを率いるチェコの投資家トマス・フィアラ氏は今年、2000万ドルを投資する計画だ。これは戦前の水準に比べれば微々たるものだが、新工場1件の建設に着手し、リビウ郊外の工業団地の第一段階を完成させるには十分な額だ。「注目はされているが、戦争が終わるまで競争はほぼ起きないだろう」とフィアラ氏は話す。ドラゴン・キャピタルのような投資家は、欧州復興開発銀行(EBRD)をはじめとする政府系開発銀行からの支援が追い風となっている。EBRDはこのリビウのプロジェクトに約2500万ドルを投じることに合意済みだ」 

    ウクライナの投資銀行は、欧州復興開発銀行や政府系開発銀行からの支援を受けて業務を広げている。「戦争が終わるまで競争はほぼ起きないだろう」とビジネスが無風状態である。

     

    (5)「ドラゴン・キャピタルは9月、世界銀行の投資保証部門を通じて、ウクライナにおける戦争関連の損害に対する補償を確保した最初の投資家グループに名を連ねた。この保険はリビウ工業団地への約1000万ドルの投資をカバーする。戦争保険は、ウクライナへの投資を促進するための重要なステップと考えられている。米保険大手マーシュ・アンド・マクレナンは最近、ウクライナ政府と共同で開発した、ロシアの攻撃による被害を追跡するデータベースを発表した。同社のこの取り組みを主導してきたクリスピン・エリソン氏によれば、ウクライナ全土の66%は戦争による物理的被害を受けていない。目標は、民間保険会社や投資家が戦争被害のリスクを容易に評価できるようにすることだ」 

    ウクライナ投資銀行は、世界銀行の投資保証部門を通じ融資物件が戦争保険の対象になっている。こういうリスク回避の手順を踏みながら融資を進めているのだ。戦争下での投資活動のモデルができあがっている。

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    ロシアの軍事侵攻の犠牲になっているウクライナが、TPP(環太平洋経済連携協定)への加盟を正式に申入れた。ニュージーランド(NZ)外務貿易省は7月7日、ウクライナから5月にTPPへの正式な加盟申請を受け取ったことを明らかにしたもの。TPP事務局の役割を担うNZ外務貿易省によると、ウクライナは55日に加盟を申請したという。同国のゼレンスキー大統領は、5月1日にTPP加盟交渉にあたる代表団を編成する政令を発表していた。

     

    ウクライナは、2030年開催の万博でも立候補したが予備選で敗れた経緯がある。ロシアの侵攻終了後を見据えており、その準備を着々と進めているところだ。TPP加盟申請もその一環である。実は現在、ウクライナ財務省顧問として、元日本銀行勤務でIMFへも派遣された人物が、経済再建の指南役になっている。ウクライナの行政改革や汚職撲滅で種々、アドバイスをしている模様だ。

     

    ウクライナは、EU(欧州連合)加盟を熱望しているが、行政改革や汚職撲滅が最大の課題となっている。旧ソ連式の行政が改まらない限り、EU加盟は困難とされている。TPP加盟には、先進国並みの明瞭な行政が要求されるので、EU加盟準備と同時並行で改革促進のテコにしようという狙いであろう。TPPへの加盟をテコに経済復興で支援を取り付けたい狙いがあるとの指摘もされている。こういう単純なソロバン計算よりも、ウクライナがEUにも加盟しTPPにも軸足を広げたいのであろう。これによって、ロシアを上回る経済発展の礎石を作り上げて差をつけたい。そういう「負けじ魂」も感じられるのだ。

     

    ウクライナは、旧ソ連時代に鉄鋼業や造船業・宇宙産業などを手がけてきたので潜在的な工業水準は高いものがある。欧州の「パンかご」というイメージで穀物生産国である一方、工業でも見逃せない力を持っているのだ。今回のロシアによる侵攻では、ITの潜在力を生かして機動的な戦い方を独自に編み出しており、NATO(北大西洋条約機構)に舌を巻かせている。

     

    ウクライナの国際競争力ランキング(2019年:世界経済フォーラム=WEF調べ)では、85位である。インターネット自由度は22位(2022年)と上位に食い込み、ロシア(53位)を大きく引離している。この差が、ロシアとの戦いでウクライナの敏捷さに現れているのであろう。ロシア大統領プーチン氏は、このウクライナの国民性を過小評価していたと見られる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月7日付)は、「ウクライナ、TPP加盟を正式申請 参加国の支援拡大狙う」と題する記事を掲載した。

     

    TPP事務局の役割を担うNZ外務貿易省によると、ウクライナは55日に加盟を申請したという。同国のゼレンスキー大統領は51日にTPP加盟交渉にあたる代表団を編成する政令を発表していた。

     

    (1)「ウクライナ経済省は5月の声明で、TPP加盟の目的に穀物以外の貿易の多様化や加工産業への外資の誘致を挙げた。「ビジネス関係を広げ、包括的な国際支援を得ることはロシアの侵略に対抗するうえでも重要だ」と述べた。NZで15~16日に開くTPPの閣僚会合では承認済みの英国の加盟手続きが完了する見通し。ウクライナの加盟申請についても協議する可能性がある。後藤茂之経済財政・再生相は7日、都内で記者団に「ウクライナがTPPの高いレベルを完全に満たすことができるかどうかについて、まずはしっかりと見極める必要がある」と述べた」

     

    ウクライナは、英国がTPP加盟で2年間要したのと比較して、もっと短期間に加入条件をクリアできる自信を見せている。その根拠は不明だが、ウクライナはEU加盟に備えて国内条件を急ピッチで整備していることで自信を深めているのかも知れない。復興後の経済で、引き続き経済制裁を受けているだろうロシアに比較して急ピッチの回復を実現させ、見返したい気持ちが強いのであろう。

     

    (2)「TPPには中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイも加盟を申請中だ。加盟には全参加国の同意が必要で、英国は申請から承認まで2年以上を要した。貿易や投資、サービスなどの水準をウクライナがクリアできるかが焦点となる」

     

    TPP加盟先願組が、5カ国・地域もある。難物は中国の扱いだ。中国の産業構造は国有企業中心で、最初からTPP加盟資格を欠いている。中国は、これを承知での加盟申請である。本音は、台湾加盟阻止であろう。

     

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    西側諸国に属する国民は、ウクライナ軍の反攻作戦に大きな期待をかけて「吉報」を待っている。だが、いくつかの村落を奪回したものの、ロシア軍の固い防衛線に阻まれ進軍は難航を極めている模様だ。西側諸国から提供された「虎の子」戦車は、ロシア軍の反撃で被弾した様子が報じられている。ただ、ロシア製戦車と異なり、ウクライナ軍の戦闘員は無事脱出している光景が見られる。貴重な人命は守られているのだ。これが救いである。 

    今後の戦況を占う傍証は第二次世界大戦で、連合軍が敵前上陸して成功したノルマンディー作戦が参考になるという。連合軍は数週間かけてゆっくりと前進し、極めて大きな犠牲を払ったが、ついにドイツ軍を撃破した作戦が参考になる。 

    『CNN』(6月21日付)は、「ロシアは反転攻勢にどれだけ備えができているのか?」と題する記事を掲載した。 

     十分に予想された中で始まったウクライナ軍のロシア軍に対する反転攻勢だが、これまでのところウクライナ側にとって際立った成功とはなっていない。16日、ロシア軍が共有した数日前の交戦の動画には、新たに米国から供与された歩兵戦闘車「ブラッドレー」16両が無力化されたとみられる様子が映っている。ウクライナ軍第47旅団に所属する車両だ。

     

    (1)「こうした状況は、ウクライナにとって全ての終わりを意味するものではないし、ウクライナが現在負けているということにもならない。反転攻勢は野心的な目標の下、ウクライナの広範囲な解放を目指す。つまり過酷で長期にわたり、膨大な犠牲を伴う苦難の道のりだということは常に織り込み済みだ。それでも今回の敗北が明らかにするのは、昨年不手際だらけだったロシアが依然として深刻な脅威をもたらす存在であるという事実に他ならない。彼らにも過去の失敗から学ぶ能力はそれなりにあったということだ 

    ロシア軍は昨年、目を覆うような敗走を続けたが、今回の作戦では準備期間があったので防衛線を固めている。 

    (2)「ここで思い出すべきなのは、ウクライナ軍による南部ヘルソン州での反転攻勢だ。昨年8月に始まった攻勢を受けてロシア軍が退却したのは、11月に入ってからだった。今回の作戦も大まかに言ってそのくらい続く公算が大きい。まして現状はより困難であり、一段と多くの代償を払ってロシア軍の要塞への侵入を試みることになる。そこでは機甲部隊、歩兵隊、防空、砲兵隊、工兵隊の見事な連携の実践が求められる」 

    昨年、ウクライナ南部の反撃では、8月に作戦を開始して勝利を収めたのは11月である。この程度の時間は掛る。

     

    (3)「最良の比較対象となるのは、第2次世界大戦におけるいくつかの戦闘だ。そこでは周到に準備された守備隊への攻勢が往々にして序盤に混乱を来し、重大な損失を被るものの、最終的には成功を収める事例が見受けられる。例えば血みどろの戦闘でノルマンディー海岸への上陸を果たした後、連合軍は数週間かけてゆっくりと前進し、極めて大きな犠牲を払った。ついには英国軍が大規模な戦車攻撃を仕掛け、ドイツ軍の守備を突破したが、結果的に数百台の戦車を次々と失う羽目になった。それでも1週間後、米軍が圧倒的な戦果を挙げる。ドイツ軍が予備兵力の大半を英国軍制圧のために使い果たしていたからだ 

    今回の反攻作戦では、連合軍による第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦が参考になろう。敵前上陸であり犠牲も多かったが、ドイツ軍を撃破できた。 

    (4)「もし、ウクライナ軍がこの反転攻勢に成功するなら、マリウポリやベルジャンシクといった経済的に重要な沿岸部の港湾都市を解放するチャンスが生まれる。これらの都市は昨年、ロシアが占領した。同時にロシア本土と戦略的に重要なクリミア半島の基地とをつなぐ「陸の回廊」を遮断できる可能性も出てくる。実現すればクリミア半島そのものも、ウクライナ軍が所有する数多くの兵器の射程に入ることになる」 

    軍事専門家の多くが指摘するように、ウクライナ軍はマリウポリやベルジャンシクなどのアゾフ海沿岸まで突破する目標を立てている。これによって、ロシア軍の兵站線分断を図るというものだ。

     

    (5)「第47旅団は悲惨な目に遭ったものの、彼らの経験は西側が供与する武器の重要性を改めて見せつけた。優れた性能の車両は「十分に」役に立つ。なぜなら動画から明らかなように、車両に乗っていた兵士のほとんどは生き延びているからだ。ウクライナ軍が比較的装甲の薄いソ連時代の歩兵戦闘車両を使用していたなら、まずあり得なかった結果だ。動画はウクライナ軍がロシアに対して有する別の利点も浮き彫りにする。それは強固な士気とプロ意識だ。ウクライナ軍の兵士はたとえ最前線で作戦が大失敗に終わっても、順序良く退却している。お互いに助け合いながら援護射撃を行い、発煙弾を使用する。パニックに陥ってはいない」 

    ウクライナ軍は、最前線で作戦が失敗してもパニックに陥らず、整然と退避行動している。この士気の高さが勝利を呼び寄せる。 

    (6)「ロシア軍の兵士が疲弊しているのに対し、ウクライナの新たな旅団は経験こそ浅いものの活力に満ち、ロシアの徴集兵よりも質の高い訓練を受けている。とりわけ戦闘に先駆け、北大西洋条約機構(NATO)によって訓練された12の旅団はそうだ。ウクライナのその他の強みとしては、小型ドローンの製造とより効果的な使用が挙げられる。その数はロシアを大幅に上回っている。また西側が供与した精密攻撃が可能な火砲やミサイルは、前線から奥深くにいるロシア軍の部隊にとっても脅威となり得る」 

    ウクライナ軍の本格的な反攻作戦には、高い訓練を積んだ12の旅団が無傷で控えている。現状は、予備的な作戦行動である。ロシア軍の弱点地帯を探り出す狙いが目的だ。

     

     

     

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