ロシアの軍事侵攻の犠牲になっているウクライナが、TPP(環太平洋経済連携協定)への加盟を正式に申入れた。ニュージーランド(NZ)外務貿易省は7月7日、ウクライナから5月にTPPへの正式な加盟申請を受け取ったことを明らかにしたもの。TPP事務局の役割を担うNZ外務貿易省によると、ウクライナは5月5日に加盟を申請したという。同国のゼレンスキー大統領は、5月1日にTPP加盟交渉にあたる代表団を編成する政令を発表していた。
ウクライナは、2030年開催の万博でも立候補したが予備選で敗れた経緯がある。ロシアの侵攻終了後を見据えており、その準備を着々と進めているところだ。TPP加盟申請もその一環である。実は現在、ウクライナ財務省顧問として、元日本銀行勤務でIMFへも派遣された人物が、経済再建の指南役になっている。ウクライナの行政改革や汚職撲滅で種々、アドバイスをしている模様だ。
ウクライナは、EU(欧州連合)加盟を熱望しているが、行政改革や汚職撲滅が最大の課題となっている。旧ソ連式の行政が改まらない限り、EU加盟は困難とされている。TPP加盟には、先進国並みの明瞭な行政が要求されるので、EU加盟準備と同時並行で改革促進のテコにしようという狙いであろう。TPPへの加盟をテコに経済復興で支援を取り付けたい狙いがあるとの指摘もされている。こういう単純なソロバン計算よりも、ウクライナがEUにも加盟しTPPにも軸足を広げたいのであろう。これによって、ロシアを上回る経済発展の礎石を作り上げて差をつけたい。そういう「負けじ魂」も感じられるのだ。
ウクライナは、旧ソ連時代に鉄鋼業や造船業・宇宙産業などを手がけてきたので潜在的な工業水準は高いものがある。欧州の「パンかご」というイメージで穀物生産国である一方、工業でも見逃せない力を持っているのだ。今回のロシアによる侵攻では、ITの潜在力を生かして機動的な戦い方を独自に編み出しており、NATO(北大西洋条約機構)に舌を巻かせている。
ウクライナの国際競争力ランキング(2019年:世界経済フォーラム=WEF調べ)では、85位である。インターネット自由度は22位(2022年)と上位に食い込み、ロシア(53位)を大きく引離している。この差が、ロシアとの戦いでウクライナの敏捷さに現れているのであろう。ロシア大統領プーチン氏は、このウクライナの国民性を過小評価していたと見られる。
『日本経済新聞 電子版』(7月7日付)は、「ウクライナ、TPP加盟を正式申請 参加国の支援拡大狙う」と題する記事を掲載した。
TPP事務局の役割を担うNZ外務貿易省によると、ウクライナは5月5日に加盟を申請したという。同国のゼレンスキー大統領は5月1日にTPP加盟交渉にあたる代表団を編成する政令を発表していた。
(1)「ウクライナ経済省は5月の声明で、TPP加盟の目的に穀物以外の貿易の多様化や加工産業への外資の誘致を挙げた。「ビジネス関係を広げ、包括的な国際支援を得ることはロシアの侵略に対抗するうえでも重要だ」と述べた。NZで15~16日に開くTPPの閣僚会合では承認済みの英国の加盟手続きが完了する見通し。ウクライナの加盟申請についても協議する可能性がある。後藤茂之経済財政・再生相は7日、都内で記者団に「ウクライナがTPPの高いレベルを完全に満たすことができるかどうかについて、まずはしっかりと見極める必要がある」と述べた」
ウクライナは、英国がTPP加盟で2年間要したのと比較して、もっと短期間に加入条件をクリアできる自信を見せている。その根拠は不明だが、ウクライナはEU加盟に備えて国内条件を急ピッチで整備していることで自信を深めているのかも知れない。復興後の経済で、引き続き経済制裁を受けているだろうロシアに比較して急ピッチの回復を実現させ、見返したい気持ちが強いのであろう。
(2)「TPPには中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイも加盟を申請中だ。加盟には全参加国の同意が必要で、英国は申請から承認まで2年以上を要した。貿易や投資、サービスなどの水準をウクライナがクリアできるかが焦点となる」
TPP加盟先願組が、5カ国・地域もある。難物は中国の扱いだ。中国の産業構造は国有企業中心で、最初からTPP加盟資格を欠いている。中国は、これを承知での加盟申請である。本音は、台湾加盟阻止であろう。