トランプ米大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に、同国の原子力発電所の米国への所有権移管を提案した。エネルギー権益の譲渡の見返りに、米国がウクライナのエネルギーインフラへの関与を深めることで同国の安全保障に貢献する構想だ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月20日付)は、「トランプ氏、ウクライナ発電所の米国所有を提案」と題する記事を掲載した。
トランプ米大統領は19日、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で、米国がウクライナ国内の複数の発電所(原子力施設を含む)を所有することを提案し、「インフラの最善の保護措置になる」と説明した。米国は近く停戦協議を再開する見込みだ。
(1)「トランプ氏の提案は、和平努力に新たな展開をもたらすものだ。ウクライナの数千億ドル相当のレアアース(希土類)鉱物資源の権益を米国に譲渡する協定は、まだ署名にこぎ着けていない。トランプ氏は、ロシア政府とウクライナ政府の広範な和平合意の仲介に取り組んでいる。両国は今週、エネルギーインフラ施設を保護する部分停戦に合意した」
ウクライナでは、2022年2月のロシアの侵略開始前にフメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポロジエの4原発が稼働していた。発電設備容量は約1400万キロワットと世界有数の規模で、国内の発電量の半分以上を占めていた。欧州最大級のザポロジエ原発をロシアに占拠されて設備容量は4割減ったが、ゼレンスキー政権は原発を復興の柱と位置づけ、原子炉の増設計画を推進。40年までに発電設備容量を2400万キロワットに引き上げる目標を掲げてきた。
米政府がこれら全ての原発を所有すれば、長期にわたってウクライナから巨額のエネルギー収入を得ることになる。採算性に不安がある同国の鉱物資源といった権益よりも経済的なうまみは大きく、トランプ氏が掲げてきた巨額のウクライナ支援の資金回収も容易になる。以上は、『日本経済新聞 電子版』(3月20日付)が報じた。
(2)「18日に行われた米ロ首脳の電話会談で、ロシアのプーチン大統領はエネルギーインフラへの攻撃を30日間停止することに同意した。ホワイトハウスによると、ゼレンスキー氏も発電所やエネルギー施設を攻撃しない部分停戦に同意した。米政権が公表した電話会談の声明によると、両首脳は「ウクライナの電力供給と原子力発電所」について協議した。「米国は電力・公益事業の専門知識を有しており、これらの発電所の運営に非常に役立つ可能性がある。米国が発電所を所有することは、ウクライナのエネルギーインフラを保護し、支援する最善の措置となる」と記した」
米国は、ウクライナのエネルギーインフラを保護支援することで、ロシアの攻撃をかわせる。ウクライナにとっては、電力確保で大きな前進になる。
(3)「ゼレンスキー氏は19日、発電施設への投資の可能性を巡るトランプ氏との協議は、ロシア軍に占拠されて稼働停止中のザポロジエ原発についてだったと述べた。トランプ氏は米国が投資して改修することは可能かと尋ね、ゼレンスキー氏はその考えに反対ではないと答えたという。米国は数日以内にサウジアラビアで停戦協議を再開する予定だ」
米国が、ウクライナの発電施設を所有するとなれば、ロシアは攻撃できなくなる。奇策である。プーチン氏も「やられた」とみているだろう。
(4)「トランプ氏は19日、ソーシャルメディアへの投稿で、ゼレンスキー氏と「非常に良好な電話協議」を行ったと書き込んだ。ゼレンスキー氏もソーシャルメディアへの投稿で、トランプ氏との電話会談を前向きに評価した。ウクライナはインフラ施設を対象とする停戦を直ちに実施する用意があり、より広範な停戦に向けて進展することを望んでいると述べた。「米国と一緒に、トランプ大統領と共に、そして米国のリーダーシップの下で、恒久的な和平を年内に達成できる」とし、「ウクライナ国民は平和を望んでいる」と記した」
ゼレンスキー氏は、「米国と一緒に、トランプ大統領と共に、そして米国のリーダーシップの下で、恒久的な和平を年内に達成できる」と歓迎姿勢を打ち出している。
(5)「トランプ氏は、ゼレンスキー氏との19日の電話会談で、ウクライナの民間人保護のため、米国製の防空システムの供与を求めるゼレンスキー氏の要請に応えるよう努めると約束した。国務省が公表した電話会談の要旨によると、「トランプ大統領は、特に欧州で使用可能なものを見つける方向で協力することに同意した」としている」
トランプ氏は、ゼレンスキー氏の「好反応」をみて、米国製の防空システム供与に前向き姿勢だ。先の両氏による口論も、「雨降って地固まる」方向へ動き出した。