勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ウクライナ経済ニュース時評

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    ロシアは、理由もなく隣国ウクライナを侵略。戦況が不利になると、ウクライナの発電所をミサイル攻撃し「エネルギー攻め」にしている。すでに零度以下になっているウクライナ国民は、電気も水もない中で寒さに震え苦痛を強いられている。ロシアは、残酷な仕打ちをしているのだ。

     

    『ロイター』(11月25日付)は、「ウクライナ政府、市民の苦痛終わらせること可能ーロシア大統領府」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア大統領府(クレムリン)は24日、ウクライナのエネルギー関連施設に対する攻撃が民間人を標的としたものであるという見方を否定した。同時に、ウクライナ政府が紛争終結に向けロシアの要求に応じれば、市民の「苦痛を終わらせる」ことができるという認識を示した。

     

    (1)「ロシア軍によるウクライナ全土の主要インフラに対するミサイル攻撃によって、各地では停電や断水が発生。気温が氷点下となる中、数百万人の市民が数時間もしくは数日間にわたり、暖房や水のない生活を強いられる状況となっている。クレムリンのぺスコフ報道官は「『社会的』な標的に対する攻撃は行われておらず、細心の注意が払われている」と強調。ウクライナ市民の苦しみとプーチン大統領の立場についてどのように折り合いをつけるのかという質問に対しては、「ウクライナ指導部には、ロシア側の要求を満たす形で状況を解決し、ウクライナ市民の苦しみを終わらせるあらゆる機会がある」と応じた」 

    ウクライナは、ロシア側の要求通りに応じれば発電所攻撃を止める、としている。ロシアが、一方的に始めた侵略戦争である。要求に応じなければ、真冬に向かう中で「エネルギー攻め」にすると豪語している。21世紀の現在、こういう侵略国が存在するのだ。

     

    『BBC』(11月25日付)は、「ウクライナ、インフラ一部復旧も電力需要の50%しか満たせず ロシア軍の攻撃で」と題する記事を掲載した。 

    ウクライナの国営電力会社ウクルエネルゴは、主要インフラの修復が最優先だが、修復にはより多くの時間がかかるとした。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、首都キーウを含む15州で、電力だけでなく水の供給も「最も困難な状況」にあると述べた。冬の到来を迎えたウクライナ全土では降雪が観測され、気温は氷点下にまで低下。低体温症による死者が出ることが懸念されている。 

    (2)「キーウでは24日朝、市民の7割が電力を喪失していた。同市のヴィタリ・クリチコ市長はBBCウクライナ語に対し、電気、暖房、水が使えなくなる「最悪のシナリオ」を排除できないと述べた。しかしその後、ウクライナ当局はすべての地域で電気と水の供給が徐々に回復しているとした。ウクライナ大統領府のキリロ・ティモシェンコ副長官は、まず重要インフラの電力が復旧したと述べた。そして、「現時点で、一般家庭向けネットワークの接続が徐々に進んでいる」と付け加えた」 

    キーウでは24日朝、市民の7割が電力を喪失した状態という。ロシアは、苦しければ「降伏せよ」とせせら笑うような姿勢だ。戦争が終わった後、ロシアは世界中から糾弾されて、二度と立直れない程の罰を受けなければならない。

     

    (3)「ウクライナ当局によると、携帯電話を充電したり、お茶やコーヒーを飲んだりできる仮設の暖房テントが全国に4000以上設置されている。ゼレンスキー大統領は24日遅く、毎晩定例の演説で、ロシア軍は「戦い方を知らない」と述べた。「彼らにできるのは、恐怖を与えることだけだ。エネルギーテロか、砲撃テロか、ミサイルテロか。それが現在の指導者のもとで堕落したロシアのすべてだ」と憤る」 

    ウクライナ国民の団結は、さらに固くなろう。ロシアが期待するような、和平交渉への声が出てくるか疑問だ。ロシアは、ここでも道を間違えている。 

    (4)「こうした中、ウクライナのイリナ・ヴェレシュチュク副首相はBBCの番組ワールド・トゥナイトで、「テロリストのロシアは我々に対してエネルギー戦争を始めた。その目的は大規模な人道的危機を作り出すことだ。私たちにとって最大の課題は、高齢者や子供連れの女性、入院中の病人など最も弱い立場にある人達を守ることだ」と述べた。「(ウクライナ)国民は120日間持ちこたえなければならない。この日数が冬の期間にあたり、それこそがロシアの狙いだからだ。ロシアは冬の間、(ウクライナ)国民に最大級の苦痛を与えようとしている」。ヴェレシュチュク副首相によると、南部ヘルソン市など一部地域はいまも砲撃を受けており、ウクライナ政府はすでに自主避難の指示を開始しているという」 

    ロシアの目的は、ウクライナで人道危機をもたらすことだ。これによって、和平論の出てくるのを待っている。拷問と同じ手法である。ウクライナには、西側諸国が支援していることを忘れたような振る舞いである。 

    (5)「多くのキーウ市民は自分たちが直面している困難な状況を冷静にとらえ、それを乗り越える方法を見出しているように見える。実際、発電機を設置する人が増えている。ウクライナでは23日にミサイル攻撃を受ける以前から、水道水の確保もままならなくなっている」 

    こういう事態に、ウクライナ軍の前線部隊は、一段と士気を高めて領土奪回に向け奮闘するであろう。ウクライナ国民は、この試練を乗り越えれば、ロシア上回る強靱な国民性を身に付けるであろう。

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    ウクライナ軍は晩夏からの4カ月間、ロシア軍との市街戦に持ち込まず、南部の要衝へルソン市を奪還するため、用意周到な反撃を進めて成功した。そのウクライナ軍を指揮する総司令官は、まだ49歳のザルジニー氏である。

     

    昨年7月、ウクライナ軍の中間管理職であったザルジニー氏が、ゼレンスキー大統領の抜擢人事で総司令官に就任した。この柔軟な人事が、強敵ロシア軍を窮地に追込む立役者を生んだのである。もちろん、西側諸国からの手厚い武器弾薬の支援あっての勝利である。だが、その貴重な武器弾薬を無駄にせず、有効に使う総司令官の力量にも注目すべきだ。

     

    ザルジニー氏は、旧ソ連型のウクライナ軍から、米軍式軍隊への柔軟な人材配置の妙を学んでいる。氏は軍人の家に生まれ、高校卒業後はオデーサの士官学校に入学し、修士論文では米軍の権限移譲型の組織づくりを研究。それまでのウクライナ軍は、旧ソ連モデルで凝り固まった上意下達な意思決定に依存していた。それをNATO軍のように、柔軟組織にしたいと考えるに至った。

     

    ザルジニー氏は、総司令官就任直後すぐに組織改革に着手。数週間で、現場部隊の将校は、作戦目的を実現するための判断として、上級指揮官の許可は不要というルール作成した。これによって、各部隊がそれぞれの戦況に合わせて軍を使うことができたのだ。さらに重要なことは、ザルジニー氏が敵将となるロシア軍のゲラシモフ参謀総長の著作や論文をすべて研究していたことだ。

     

    ゲラシモフ参謀総長は、フェイクニュースやサイバー攻撃など、非軍事活動による情報戦や心理戦と軍事力を組み合わせて鮮やかに勝利する「ハイブリッド戦争」を編み出した人物として著名だ。ロシアのクリミア併合を成功させた立役者として知られる。ザルジニー氏は、ゲラシモフ氏の著作を十分に研究していたので、ロシアの軍略の裏をかく戦法で見事な成功を収めた。以上は、『週プレニュース』(10月31日付)から引用した。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(11月18日付)は、「ウクライナ『鉄の将軍』、ザルジニー総司令官の気骨」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ロシアが2月にウクライナへの全面侵攻を開始して以降、ウクライナが善戦している背景には国民から「鉄の将軍」とたたえられる人物の指揮がある。ロシアから奪還した東部ハリコフ地域の反転攻勢に参加したウクライナ国家親衛隊のビタリー・マルキフ氏は、「敵とその行動を知り、海外パートナーの支援を得て弱みを突くことができれば見事なことだ。これをやってのけているのが、ザルジニー総司令官だ」とたたえた」

     

    ザルジニー総司令官には、年齢的な若さ来る気負いがない。ロシア軍の戦略を頭に叩き込み、安全を期しながら、「ここぞ」という局面で大英断を下して戦果を上げる。見事な戦い方である。

     

    (2)「ウクライナの元国防相で、現在は政府の安全保障担当顧問を務めるアンドリー・ザゴロドニュク氏は、「ハリコフとへルソンにおいて、まさに臨機応変な戦闘だった」と強調した。ザゴロドニュク氏によると、ザルジニー氏の指揮は「部下に自らの能力や才能に気付かせる」というスタイルだ。これに対し、ロシア軍は「1人か2人が判断を下し、残りは黙っていろと言われる」。西側の支援国から供与された最新鋭の兵器も加えた「この強みが、ロシアが持つ大量の迫撃砲や戦車など全てのものに勝っている」という」

     

    ロシア軍は、指揮官がすべてを決める。一方、ウクライナ軍は現場の判断に任せる柔軟性を持っている。この点が、両軍の戦果に大きな違いを生んでいる。

     

    (3)「ロシア軍の指揮系統はトップダウン型で、現場の指揮官が主導権を握るのをためらっており、守勢に回っていると軍事専門家は指摘する。一方、ウクライナは手を緩める兆しはみられない。米国の駐欧州陸軍司令官を務めたベン・ホッジス氏はヘルソン解放を受け、ツイッターに「ウクライナ軍は冬も歩みを止めるわけがない。ロシア軍に圧力をかけ続け、問題を修正したり、防御力を強めたりする暇を与えないだろう」と指摘した。

     

    ウクライナ軍は、常にロシア軍を攻撃して揺さぶりをかけ続けている。相撲と同じで、押して押して、押しまくる戦法である。動きを止めたら敗北するのだ。この背後では、ハイマースによって兵站線を潰すので、ロシア軍の補給が少なくなり、士気が低下するという戦法である。

     

    (4)「米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長が、ウクライナ政府は今冬の期間をロシアと停戦の交渉に使うことができるとの見方を示すと、自分の意見をめったに公にしないザルジニー氏は異議を唱えた。ザルジニー氏はフェイスブックの投稿で、米国側に「我々の目的はウクライナ全土をロシアの占領から解放することだ。どんな状況でもこれを続ける。交渉の唯一の条件は、ロシアが全ての占領地域から去ることだ」と電話で伝えたことを明らかにした」

     

    ウクライナ軍は、「冬将軍」の到来でも攻撃を止めず、戦い抜くこれまでの戦術を踏襲する。ウクライナ軍にはNATOから防寒着が供与されている。さらに、自国領であることの強みで国民からの支援がある。ロシア軍には、それが全くないのだ。形勢は、自ずと決まるであろう。

     

     

     

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    ロシアが2014年、ウクライナのクリミア半島を侵攻して以来、米軍が民衆による抵抗運動のマニュアル「ROC(抵抗活動戦略)」を作った。それが、パルチザン組織によるロシアへの抵抗運動の始まりである。現在、このパルチザン組織が効果を上げておりロシア軍を背後から脅かす存在になっている。

     

    『中央日報』(11月19日付)は、「夜になると急変する彼ら、ロシア兵士をひそかに殺すウクライナ『ビジネスマン』の正体」と題する記事を掲載した。

     

    開戦9カ月目に入ろうとしているウクライナ戦争でゲームチェンジャーに挙げられるものが2つある。1つは米国が供与した高機動ロケット砲システム(HIMAS・ハイマース)、もう1つはロシア軍の背後でゲリラ戦を実行しているウクライナ非正規軍「パルチザン」だ。

     

    (1)「AFP通信やキーウ通信などは最近、ウクライナが開戦初期にロシアに奪われた南部要衝地ヘルソン地域を奪還するなど、意味ある勝利を収めている背景にパルチザン(非正規戦を遂行する遊撃隊員)の活躍があると伝えた。パルチザンは正規軍ではなく民間人の身分で、侵略者に対抗して防御戦を遂行する遊撃隊を意味する。今年2月のロシア侵攻以降、数多くのウクライナ人がパルチザンに志願して活躍中だ。ロシア軍の位置情報収集・提供、ロシア重要人物の暗殺、拠点破壊などが彼らの主な任務だ」

     

    パルチザンは、非正規とはいえ一国の軍事組織に近い力を保有している。これに対して、レジスタンスは比較的小規模な組織とされている。いずれも、占領軍への抵抗組織である。ウクライナでは、このパルチザンが政府公認の下で行なわれて、「戦果」を上げている。  

     

    (2)「パルチザンが収集・提供したロシア軍の位置は、ハイマースの攻撃効果を高めるのに必要な核心情報だ。ウクライナ軍事情報局のバディム・スキビツキー副局長は、キーウポストとのインタビューで「ロシア軍の数字、移動経路を教える主な情報部員がこのパルチザン」としながら「米軍もパルチザンが提供した情報の量と正確性に驚いている」と付け加えた。ヘルソンでパルチザンとして活動中の音楽家志望のティモールさん(19)は、「過去数カ月間、ロシア軍が寝ている場所、酒を飲むところ、装備や弾薬の位置などの情報を把握してウクライナ軍に毎日のように送った」としながら、「一日中歩き回って観察した内容を家に帰ってきて一つ残らずメモし、情報を送った後は証拠をすべて消去した」とAFPに伝えた」

     

    ロシア軍が、占領地でウクライナの通行人を拉致しているのは、パルチザン運動を警戒している結果だ。市民がスマホで、ロシア軍の位置情報などをウクライナ軍へ通報して、攻撃で成果を上げている。

     

    (3)「ロシア側の要人暗殺にもパルチザンが積極的に関与している。米国シンクタンクである戦争研究所(ISW)によると、これまでパルチザンの活躍によって除去された親ロ高位要人は少なくとも11人にのぼる。パルチザンは、ロシア協力者の車両の車輪に爆弾を仕掛けたり、意図的に交通事故を起こしたりする方式で暗殺を積極的に実行中だ。毎日新聞は、今月9日に交通事故で亡くなった親露派勢力幹部だったストレモウソフ氏も、パルチザンによって除去されたとみられると伝えた」

     

    ロシア将官11人は、ウクライナで死亡事故を起しているが、これもパルチザン運動の成果とされている。ロシア軍は四六時中、どこに敵が潜んでいるか分からない不気味な状況に置かれている。

     

    (4)「もともと、ウクライナ政府はパルチザン活動を不法と規定して禁止してきた。だが、2014年ロシアがクリミア半島を侵攻・併合したことを受けて「第2のクリミア半島事態をうまないため」にパルチザン活動を合法化した。今年初めのロシア侵攻以降、ウクライナ国防省は最初から「国民レジスタンスセンター」というサイトを開設して「ロシアと戦う皆さんを支援する」として市民のパルチザン参加を積極的に奨励している。サイトには、「ロシアのドローンを見つけたときの対処法」「ロシアの戦車を盗む方法」「家庭で煙幕弾を製造する方法」「小型火器の使用法」などが掲載されている」

     

    ロシア軍の侵攻前、ウクライナ市民は街頭で火炎瓶づくりをしている姿が報じられた。これも今になって見れば、パルチザン運動の一環であったことが分かる。

     

    (5)「パルチザンが参考にするゲリラ式戦術の教科書「ROC(抵抗活動戦略)」には、「道路標識を付け替えおよび撤去」「道にガラスを撒く」などが含まれている。『ニューヨーク・タイムズ』によると、パルチザンの主なターゲットはロシアに協力する警察・政府公務員・教師などだ。反面、医師・消防署員・電力会社職員は攻撃対象から除外する。有事の際に助けを受けることができるためだ。ロシアはウクライナのパルチザンが自国の軍事作戦に脅威になることはもちろん、軍士気低下の原因だとみて「パルチザン狩り」に出た状態だ。現在ロシア刑務所に送られたパルチザンは1500人と推算される。ロシアは彼らを死刑にすると脅している」

     

    ゲリラ式戦術の教科書「ROC(抵抗活動戦略)」は、米軍特殊部隊が米軍の戦闘例を参考にしてつくったものである。さすがは米国と言うべきか、すぐにマニュアル化して広く普及させている。「道路標識を付け替えおよび撤去」は、開戦直後のキーウ市内で行なわれていた。このニュースを読んだときは「ニヤッ」としたが、パルチザン運動の一環であった。

     

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    米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は16日の記者会見で、「ウクライナが軍事的に勝利することも当面ないだろう」と指摘した。その上で「ロシア軍は大きなダメージを受けており、政治的判断で撤退する可能性はある」と述べ、攻勢に出ているウクライナにとっては交渉の好機だとの考えを示した。

     

    ミリー氏は、「冬将軍」の到来で、勢いに乗るウクライナ軍も思うに任せた作戦が不可能になろう、と推測している。この冬将軍は、ウクライナ軍とロシア軍へ「平等」な重荷となるが、ウクライナ軍のほうが有利な戦いをするだろうという専門家の意見を紹介したい。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(11月17日付)は、「冬将軍はウクライナに味方する」―専門家」と題する記事を掲載した。

     

    ヨーロッパは本格的な冬を迎えつつある。厳寒期のウクライナでは、ロシア、ウクライナ両軍が苦戦を迫られることになる。寒さ以上に凍結が兵士たちを苦しめるだろう。気温低下と日照時間の短縮は、ロシア軍にとっても障害となる。日照時間が短くなると負傷兵を救出できる時間が短くなる、氷点下で兵器の不具合が起きやすくなることなど、厳冬の到来はロシア・ウクライナ両軍を手こずらせるだろう。英国防省は11月14日朝、ツイッターの公式アカウントに厳寒期に両軍が直面する問題を詳述した情報機関のリポートを掲載した。以下はその要旨。

     

    (1)「冬を迎えることで戦闘の条件は変化する。日照時間、気温、天候の変化で、前線の兵士たちはこの季節特有の困難な状況に直面することになる。ロシア参謀本部は冬の気象状況を考慮に入れてあらゆる決定を下すことになるだろう」と、リポートは述べている。夏の間は1日15、16時間だった欧州大陸の日照時間は、平均9時間足らずになる。それにより、両軍とも支配地域拡大のための攻撃から、前線を守るための防衛へと、戦略をシフトさせることになると、リポートは指摘している」

     

    欧州の冬の日照時間は短い。昼間の戦闘が中心になろうから、両軍ともに戦略の知恵を絞った攻撃を展開するはずだ。冬季の睡眠ではない。

     

    (2)「米シンクタンク・戦略国際問題研究所の上級顧問、マーク・カンチアンは極寒期にも戦闘は続くとみている。「そもそもこの戦争が勃発したのはまだ寒さが続く2月24日だ。それに第2次大戦ではソ連軍は冬の間も日常的に攻勢に打って出ていた」と、本誌宛のメールでカンチアンは指摘した。「寒い時期には、戦闘が集落の周辺に集中する傾向がある。そのほうが兵士たちは暖をとりやすいからだ。また短い日照時間に戦闘が集中することにもなる。今は暗視ゴーグルがあるから、夜間の作戦行動も可能だが、両軍とも兵士の訓練レベルはさほど高くない。夜間の作戦遂行には高度なスキルが求められる」。リポートによれば、暗視装置は「貴重な装備品」であり、両軍とも夜間の攻撃を仕掛けることには及び腰だという」

     

    ロシア軍がヘルソン市を撤退したのは、「冬将軍」到来を考えれば賢明な策である。兵站で大きな打撃を被ったロシア軍が、「丸裸」状態でウクライナ軍と対峙するのは自殺行為であるからだ。

     

    (3)「12月以降の数カ月、ウクライナでは平均気温が0度近くか氷点下まで下がる日々が続く。戦闘での負傷に加え、凍傷、低体温症なども兵士たちを苦しめるだろう。「しかも、重傷を負った兵士を救出できる時間帯がざっと半分に減り、救出中に敵に遭遇する危険性も高まる」と、リポートは述べている。気温低下で兵器の不具合も増える。部隊が戦闘を終えて拠点に戻ると、兵器は比較的暖かいシェルターに収められる」

     

    ウクライナ軍は、NATOからの支援で防寒具も完備している。一方のロシア軍は不足しているという。むしろ、ウクライナ軍が冬将軍を利用した形で、ロシア軍へ圧迫を加えるという見方を取り上げたい。

     

    「次の激戦地になるとみられるのは、東部ドンバス地方のドネツク州付近、特にバフムト、アウディーイウカの周辺と、南部の戦略的要衝メリトポリとマリウポリへとつながる一帯だ。ドネツクでは、すでに集中的な砲撃や近接戦闘で両軍が激しくぶつかり合っている」。『フィナンシャル・タイムズ』(11月16日付)は、次の攻防戦をこのように推測してみせるのだ。

     

    (4)「急激な温度の変化で、機械の内部に結露が生じ、兵器が再び野外に持ち出されたときに、それが凍結して、動かなくなることがあると、米軍の情報サイト、ミリタリー・ドットコムと米陸軍の報道資料は述べている。こうした冬特有の問題は両軍を悩ませるが、うまく対処すれば戦況を有利に持ち込める可能性もある。「ウクライナ軍が有利になるだろう。補給がまずまず機能しており、アメリカはじめNATOが寒冷地仕様の装備を提供しているからだ」と、カンチアンは言う。「ロシア軍は冬の実戦経験を豊富に積んでいるが、兵站が脆弱な状況では、培われたスキルや戦法を生かしきれない」。アメリカ・カトリック大学の歴史学部長で、冷戦史と米ロ関係の専門家であるマイケル・キメジ教授も冬への備えではウクライナに分があるとみている。」

     

    ウクライナ軍が有利という読みだ。地元だけに、国民からの圧倒的な支援を受けられる。ロシア軍は占領地での「冬将軍」襲来である。この差は大きいのだ。

     

     

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    ロシア軍は、これから迫る「冬将軍」を避けるために、ヘルソン市の住民を強制移住させた空き家にしのび込み、民間人の服装で潜伏していることが分かった。ウクライナ軍が進軍すれば、軍服に着替えて逆襲すると待ち伏せ戦法である。だが、ウクライナ軍はすでのこの動きを知って警戒している。

     

    『CNN』(11月8日付)は、「ロシア軍、占領下のヘルソン州で民間人への強制捜索を強化 州都で戦闘の可能性も」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア軍は、ウクライナ南部ヘルソン州の占領地域で民間人への監視を強化している。地元住民を拘束し、ゲリラによる抵抗活動の根絶を図っている。ウクライナ軍が明らかにした。

     

    (1)「占領下のヘルソン市で、ロシア軍の部隊は現在、ほとんどが民間人の衣服を着用し、民間人の家屋で暮らしている。「市内での陣地を強化して市街戦を行うため」だと、ウクライナ軍や住民がCNNと交わしたメッセージの中で指摘した。ウクライナ軍は、2月下旬の侵攻開始から間もなくロシア軍が制圧したヘルソン州の領土のかなりの部分を奪還。10月初めには驚くべき勝利を立て続けに収めてきたが、州都ヘルソン市に迫るにつれ進展のペースは鈍ってきている。同市の攻防を巡っては、激しい戦闘が繰り広げられることも予想される」

     

    国際法では、兵士が戦場で民間人の服装をすることを禁じている。敢えて、その禁じ手を使って、ウクライナ軍を誘き出そうという戦法だ。ロシア軍も落ちぶれたものである。

     

    (2)「ウクライナ軍が創設した国家レジスタンスセンターは7日、「ウクライナ軍が反転攻勢を仕掛ける中で、占領者たちは選別の措置を著しく強化している」と指摘。州内の占領地域では住民に対する強制捜索が激しさを増し、積極的に地下活動を突き止めようとする動きがみられるとした。同センターが把握するところによると、数十件の拘束がここ数日で行われた。ウクライナ軍が反攻を強化する中、民間人に対して「可能であれば」占領地域から退去するよう、同センターは呼び掛けている」

     

    ロシア軍は、伝統的に敵の選別を厳しく行なうという。この手法が、ウクライナで再現されているものだ。内通者を防ぐという意味であろう。ウクライナへ侵攻したのだから、母国へ内通者が出るのを恐れているに違いない。

     

    (3)「ヘルソン州は、ロシアが国際法に違反してウクライナからの併合を宣言した4州のうちの1州。住民からの報告によると、路上には軍隊の姿がより多く見られるようになっている。ヘルソン市に住む女性は6日、CNNの取材に第三者を通じて答え、ロシア軍の兵士らについて、占領した村々で住民に対し一段と攻撃的に振る舞うようになっていると明らかにした。CNNは安全上の理由からヘルソン州の住民の身元を明かしていない。ヘルソン市自体は「かなり静か」だが、「時折、夜に自動小銃の銃声が聞こえることもある」と上記の女性は語った。市内には外出禁止令が敷かれており、夜に出歩く人はいないという」

     

    ロシア軍は、ヘルソン市内に塹壕を掘っているのではなさそうだ。民家に隠れている程度とすれば、重火器で武装しているとは思えない。ウクライナ軍の進撃を遅らせるという狙いであろうか。ドニプロ川の東岸には塹壕を掘って、重火器を揃えているという。ドニプロ川の西岸へ殺到するウクライナ軍を東岸から攻撃する準備と伝えられている。

     

    (4)「また、女性によると市内の複数の検問所は撤去され、市の入り口にある唯一の検問所で書類や車内の検査が行われている。公共交通機関のミニバスの場合は、車内に占領者が入ってくる。携帯電話をチェックしたり、男性に対してタトゥー(入れ墨)を確認させるよう迫ることもあるという。大半の兵士は30歳過ぎとみられるが、18~20歳くらいの若い兵士も増えてきたと、この女性は述べた」

     

    動員令で招集した若者が、ヘルソン市内へ送り込まれているようだ。完全な弾よけ要員であろう。動員令で集められた若者は、すでに多くの戦死者が出ている。ウクライナ東部では動員兵の1個大隊の500人以上がほぼ全滅したと報じられた。

     

    『CNN』(11月8日付)は、「ロシア軍の『ヘルソン撤退』は偽装工作か ウクライナ」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ軍のナタリア・グメニュク報道官は5日、ロシア軍が南部ヘルソン州から撤退すると見せかけ、ウクライナ側の部隊を市街戦におびき出そうとしていると主張した。

     

    (5)「グメニュク氏は国内メディアとのインタビューで、ロシア軍が実はヘルソンにとどまっていることを示す客観的な証拠があると述べた。市内を流れるドニプロ川の左岸(東岸)に置かれた陣地は、右岸(西岸)陣地の援護に使われるとみられる。同氏によれば、左岸へ移動したのはロシア軍の精鋭部隊や将校らで、右岸に残った部隊は退避経路を断たれ、最後まで戦うことを強いられている。ロシア軍は撤退を偽装することにより、近隣集落での市街戦にウクライナ軍をおびき出す作戦とみられ、ウクライナ側もこれに対抗する戦略を立てているという

     

    ウクライナ軍は、徹底的にロシア軍の戦法を読み込んでいるという。2月24日の侵攻の際も事前想定範囲内の中で、最も拙い攻撃であったという。今回の「囮(おとり)作戦」も、ロシア軍の得意の戦法かも知れない。ロシア軍は、完全に手の内を読まれている。

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