勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ウクライナ経済ニュース時評

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    ロシア軍は、陸上攻撃が減る一方、首都キーウへのロケットと無人機攻撃が行われている。28日現在、14回目のロケットと無人機の攻撃が行われた。29日の朝は、ロシアの砲撃がウクライナ西部の空軍基地を襲い、航空機5機と滑走路が損傷した。ここ数日で2度目の大規模なロケットとドローンによる攻撃である。

     

    『CNN』(5月29日付)は、「ウクライナ首都への攻撃、ロシアが多大な労力をかける理由は」と題する記事を掲載した。

     

     ウクライナの首都キーウがロシア軍による空からの攻撃の標的となったのは5月に入り14日目となった。ウクライナ当局者の推計によれば、28日未明にキーウに対して行われた攻撃で、ロシアはドローン(無人機)50機あまりを送り込んだ。市当局によれば、ドローンの大部分は防空システムによって破壊され、死傷者や損害も最小限に抑えられた模様だ。

     

    (1)「なぜロシアは、見返りが限られるなかでも、攻撃にこれほどの労力をつぎ込むのだろうか。一つにはイラン製のドローン「シャヘド」がキーウに対して何らかの苦痛を与えるのに安価な方法だということだ。キーウは昨年の大部分、ロシアによる侵攻の影響を免れていた。

     

    キーウへの攻撃は、防空システムによってほぼ撃ち落とされている。ただ。イラン製ドローンは安価であることから、ウクライナ市民を苦しめる目的で使われている模様だ。

     

    (2)「ロシアは数百機のドローンを購入しているが、ドローンの価格はミサイルの20分の1程度に過ぎない。夜間の攻撃では、数千人の人々が避難所や地下室に逃げ込む。ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、キーウで空襲のサイレンが鳴った時間は887時間におよぶ。歴史的に見て近いのは、第2次世界大戦の末期に、ナチス・ドイツがV2ロケットを使って英首都ロンドンに対して行った空爆かもしれない」

     

    キーウの空襲サイレンは、887時間にも及ぶ。第二次世界大戦で、英国ロンドンがドイツの攻撃で受けた空襲サイレン時間に匹敵するという。

     

    (3)「キーウ市は、28日に1500年以上前の建都を記念した「キーウ市の日」を祝う準備を進めていたが、ロシアによる攻撃は偶然ではないだろう。こうした攻撃が行われ、避難と疲れにもかかわらず、キーウの人々の姿勢は弱まるどころか強さを増しているようだ。ロシア側がドローンを送り込む目的は、ウクライナの防空能力を疲弊させ、少なくなっている弾薬をドローンに対して使わせることにある可能性が高い」

     

    ロシアは、ウクライナを屈服させるべく「奇策」を使っている。だが、ウクライナ市民の抵抗精神はますます高まっている。侵略期間が長くなるほど、ロシア経済が追い詰められることを忘れているのだ。

     

    ロシア中央銀行は5月26日、次のような報告を発表した。「ロシア株式市場において、個人投資家の信頼が低下した場合、長期的に資金が外部へ流出し、ロシア企業の長期資金調達能力の低下リスクがある」と警告している。『ロイター』(5月29日付)が報じた。ロシアは、イラン製ドローンでウクライナを威嚇している愚かさに気づくことだ。ウクライナ政府は、イランに対しても対抗措置を講じる。

     

    『CNN』(5月29日付)は、「イラン製ドローンによる首都攻撃、イランに相応の結果を警告 ウクライナ」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は、首都キーウに対する攻撃にイラン製ドローン(無人機)「シャヘド」が使われたことを受けて、イランに対して相応の結果を警告した。

     

    (4)「ポドリャク氏はツイッターへの投稿で、イラン政府はウクライナでの戦争で、ロシア政府の重要な同盟国となり、民間の都市に対する攻撃用の武器を意図的に供給していると指摘。ポドリャク氏は、28日のキーウへの攻撃で50機のシャヘドが使われたこともイランによる武器供給という真実を雄弁に物語っていると述べた。ポドリャク氏は「法律的観点から言えば、イランは直接的な意図を持ち、その行動の結果を理解した上で、これを行っている。そこには必ず結果が伴う」と述べた」

     

    ウクライナは、イランへの制裁措置を検討している。イラン政府は、公式にはロシアへの無人機販売を否定している。

     

    (5)「ポドリャク氏によれば、ウクライナのゼレンスキー大統領は政府に対して、50年間のイランへの制裁を提案するという。大統領府高官によれば、提案される制裁は、イラン人に対する貿易や金融、技術の制限、ウクライナ領内のイランの船舶や飛行機の通過の禁止など」

     

    ウクライナは、イランへの制裁措置を早急に発表すべきだ。ポドリャク氏のBBCとのインタビューで、「ゼレンスキー大統領は、強い性格の持ち主である。ゼレンスキー夫人以外、彼の意思を変えられる人はいない」とジョークを飛ばした。イランへ強い制裁措置を考えているに違いない。

     

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    ウクライナ軍のザルジニー総司令官は5月27日、通信アプリ「テレグラム」に、「われわれのものを取り戻す時が来た」とのメッセージと共に、ロシア軍との戦闘に臨むウクライナ軍の映像を投稿した。

     

    『時事通信』(5月27日付)は、「ウクライナ総司令官『領土取り戻す時』、反転攻勢を宣言か」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアに占領された領土を奪還するための大規模な反転攻勢の開始を宣言した可能性がある。反転攻勢の時期を巡っては、ウクライナ政府内部や専門家の間でも見解が分かれている。ウクライナのポドリャク大統領府顧問は25日、イタリアの公共放送RAIのインタビューで、大規模な反転攻勢は「既に始まっている」と発言。ただ、軍トップが表明したのは今回が初めてとみられる」

     

    (1)「約1分間の映像では、部隊指揮官と整列した兵士らが「断固たる反撃にご加護を」「神聖なる勝利を」などと声を上げ、戦闘に向かう様子が映されている。フェイスブックにも投稿され、「ウクライナ軍に対する国際支援の一環として、侵略者からのウクライナ解放にささげる壮観な動画が公開された」とのメッセージが添えられた。

     

    ロシアは、ザルジニー総司令官が前線で重傷を負ったという「偽情報」を流したが、それだけ追込まれていることを間接的に伝えている。

     

    (2)「ウクライナ国防省の情報本部は、「ロシアが(占拠するウクライナ南部の)ザポロジエ原発の事故を偽装する準備をしている」との情報を公表した。「敷地を自ら攻撃し、放射性物質が漏えいしたと発表することを計画している」といい、国際機関による調査を名目にウクライナの反転攻勢を阻止する狙いだと主張している」

     

    ロシアは、ザポロジエ原発の周囲に防衛戦を張っているが、ここでも「嘘情報」を流している。劣勢であることを隠すためとみられている。

     

    (3)「ロシアは26日、ウクライナ全土でミサイルと無人機による大規模な攻撃を行った。東部ドニプロでは診療所や動物病院にミサイルが着弾し、少なくとも2人が死亡、子どもを含む30人以上が負傷。ウクライナのゼレンスキー大統領は「吐き気のする連中だ」と非難した」 

     

    ロシアは、無差別攻撃を行っている。弾薬を節約しなければならない時期に、無駄な弾を撃ち込んでいる。防衛一方で気持ちが動転して、むやみやたらと打ち込んで気分を紛らしているのであろう。

     

    『CNN』(5月28日付は、「春の反転攻勢は『既に開始』の認識、ウクライナ政府高官」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は27日までに、同国が準備しているとされる春の反転攻勢について「たった一つの作戦」の実行がその開始を意味するようなものでなく、「既に始まっている」との認識を示した。

     

    (4)「25日時点での発言で、反攻の意味合いについて「特定の1日の特定の時間帯に赤リボンを厳かに切って始まるような単一の(大規模な)作戦ではない」とSNS上で説明。異なる方面でロシアの占領軍を破壊する多数の異なる行動を伴う」として、「昨日起きたし、本日もあるだろうし、明日も続くだろう」と反攻作戦が既に進んでいるとの判断を示した。「敵の後方支援の拠点をたたくのも反攻である」と続けた」

     

    タス通信などによると、ロシア軍の占領下にあるウクライナ南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所で26日夜、爆発があった。露側は、ウクライナ軍が長距離巡航ミサイル「ストーム・シャドー」(射程250キロ・メートル超)2発を発射したと主張している。マリウポリは前線から約80キロ・メートル離れている。米国がウクライナに供与した高機動ロケット砲システム「HIMARS」の射程の限界付近に位置し、反転攻勢の候補地の一つにも浮上している。

     

    (5)「ウクライナ情勢に関しては最近、ドローン(無人機)によるロシア側への越境攻撃、中南部ザポリージャ州での戦闘激化、英国がウクライナへ供与した長距離巡航ミサイル「ストーム・シャドー」の実戦配備やロシア軍の燃料貯蔵施設などが破壊される展開が続いている。これらの動きを受け反攻は既に始まったとの臆測も多く流れていた。ウクライナのゼレンスキー大統領はこれまで、全面的な攻勢を仕掛けるまでには「まだ時間が必要」と再三発言してきた。反攻開始の意味合いを紛らわせて混乱を誘うことも反攻計画の一部との指摘もある」

     

    中南部ザポリージャ州での戦闘激化は、ウクライナ軍がこの地点を突破してクリミア半島への補給線を断つ狙いかも知れない。その意味で、すでに反攻作戦は始まっている。

     

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    国を挙げての戦争で、国内のもめ事は禁物である。このタブーが、ロシアでは民間軍事会社創始者のプリゴジン氏によって日常的に破られている。プリゴジン氏は、国防相や参謀総長へ侮辱的発言を繰り返しており、本来ならば罰せられるべきだが無罪放免だ。この裏には、プーチン大統領がプリゴジン氏の「後援者」として控えている結果とされる。こうして、ロシアの権力構造にひび割れが起こっていると見られる。この状態で、ウクライナ侵攻作戦は継続できるのか疑問符がつくのだ。

     

    『ウォールストリートジャーナル』(5月25日付)は、「ワグネル恨み深く、プーチン氏の権力構造に亀裂」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は520日、制圧したウクライナ東部の都市バフムトの廃虚に立ち、敵視する人物をやり玉に挙げて怒りをぶちまけていた。名指しされたのはロシアのセルゲイ・ショイグ国防相とロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長だ。

     

    (1)「ワグネルとロシア軍幹部の対立激化は、1年余り前のウクライナ侵攻開始以降初めて、ロシアの権力組織内の秩序に生じた大きな亀裂を露呈させた。双方の対立は、シリア内戦に端を発する裏切りの物語とも言える。双方がここ数週間に公然と対立し、軍の作戦にも影響を与えている状況は、戦況の劣勢により、ウラジーミル・プーチン露大統領が過去20年にわたり築き上げてきた強力な権力構造にひずみが生じていることの裏返しでもある」

     

    ワグネルは、ロシア正規軍の敗北をカバーしてきた。それだけに、プリゴジン氏は強気に振る舞っている。誰も彼を咎められないという事態だ。プーチン氏もその一人であろう。すべては、ロシア軍の弱体が原因である。

     

    (2)「自身の立場を脅かす政敵の台頭を警戒するプーチン氏(70)はかねて、部下同士の対抗意識をあえて促してきた。だが、これまで内紛劇が表面化することはなかった。隠すことなく繰り広げられるワグネルと軍幹部のにらみ合いは、こうした従来の慣例を打ち破ったことになる」

     

    プーチン氏は、部下同士の内紛を収めず放置している。それが、プーチン氏にとって最も都合がいいからだ。収めれば、「白黒」をつけるほかない。そうなれば、プーチン氏の身辺に累が及ぶ。成敗を下された側が、プーチン氏を恨んで裏切り行為に及ぶ危険性が高まるからだ。ともかく、武器を持っている相手である。その刃が、プーチン氏に向けられれば

    最後になる。

     

    (3)「プーチン氏の元スピーチライターで、現在は政権に批判的な政治アナリストのアッバス・ガリャモフ氏は「この対立劇をみて、ロシアのエリート層が導き出す主な結論は、プーチン氏がこれらの関係を制御できなくなっているということだ。プーチン氏の立場が弱まっているため、垂直の権力構造が崩れつつある」と述べる。「戦時下では、結束を示すというのが国家の基本任務だ。プーチンはそれを遂行できなくなっている」と指摘する

     

    下線部は、極めて重要である。プーチン氏は、核で威嚇する以外に自らの権力を維持できる基盤がなくなりつつある。追い詰められていることは確かだろう。

     

    (4)「ワグネルによるバフムト制圧は、ロシアにとってここ10ヶ月で最大の成果だ。ロシア正規軍はこの間、ウクライナ南部と東部で大部分の占領地を失っている。プリゴジン氏が重ねて強調している事実だ。プーチン氏自身も、戦況の変化にあわせ、プリゴジン氏に近いとみられる将校の待遇を変えることで、ワグネルと軍幹部双方の間でどっちつかずの立場を維持している」

     

    ウクライナ軍はまだ、ロシアによるバフムト完全制圧を否定している。ワグネルは、制圧したと宣伝して自己の成果にしたいのだろう。

     

    (5)「プリゴジン氏は最近になって、標的とする人物を軍幹部から、プーチン政権関係者にも広げているようだ。このような禁じ手なしの手口は「ロシアから勝利を奪う強力な裏切り者を相手に立ち上がるプリゴジン氏」というイメージを醸成しており、プーチン氏の承諾がなければ不可能だ、と西側当局者や専門家は話している」

     

    プリゴジン氏の大胆な政権幹部批判は、プーチン氏がかなり政治的・軍事的に弱気となっている証拠であるかも知れない。この点は、注目点であろう。

     

    (6)「プリゴジン氏は、ウクライナでの戦闘に加わるよう要請されたのは、2022224日の侵攻開始から3週間後だったと語っている。ロシア軍が首都キーウ(キエフ)掌握に失敗し、「特別軍事作戦の計画が狂って」からだ。ワグネルは直後に、アフリカに展開していた戦闘員を呼び戻してウクライナ東部ルガンスク州に送り、戦況を好転させた。ロシア軍が昨秋、ウクライナ南部と東部から後退を余儀なくされる中、ロシア側が何とか進軍できていたのは、プリゴジン氏が指揮するバフムト近辺に限られた」

     

    このパラグラフによれば、プーチン氏が始めた戦争を持ちこたえさせているのはプリゴジン氏ということになろう。ならば、プーチン氏はプリゴジン氏へ頭が上がらない関係になる。ロシア軍が弱すぎた結果でもある。それほど、ウクライナ侵攻は無謀な戦争であるのだ。

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    ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍への総反攻作戦開始前に、G7広島サミットへ対面出席して引き続き「強力支援」を得ることになった。だが、今回の作戦ですべてが終わる訳でなく、永続的な安全保障政策が必要になっている。ロシア軍と今後、「停戦」する場合でも、いつロシアの侵攻が始まるか分らないという不安定な状態が続く。

     

    そこで、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)へ加盟するまで時間がかかることから、「イスラエル型安全保障政策」が浮上している。イスラエル型は、特別の条約は存在しないものの、米国が軍事支援するスタイルである。ウクライナへも、NATOがこれと同じ形の軍事支援を行うというものだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月22日付)は、「ウクライナに『イスラエル型安全保障』西側が検討」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ情勢が重大な局面を迎える中、米国と北大西洋条約機構(NATO)加盟国の指導者らはウクライナの防衛力を強化し、主権を保証するためのビジョンをまとめている。イスラエルをモデルとした安全保障の提供だ。

     

    (1)「ウクライナではここ数カ月、激戦地の東部バフムトに関心が集まっていた。しかし、ロシアの民間軍事会社ワグネルが週末にバフムトの掌握を宣言し、より広範な課題に注意が向けられるようになっている。どうすればウクライナをロシアの武力行使に対する防波堤に変えることができるか、という問題だ。ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューに対し、イスラエル型の安全保障協定では、ウクライナへの武器移転や先端技術の提供を優先することになると述べた。事情に詳しい西側諸国の当局者によると、協定はウクライナの将来的なNATO加盟に向けたプロセスと連動するが、NATOをロシアとの紛争の当事者にするものではないという」

     

    ウクライナが、NATOへ加盟するまでには手続きでかなりの時間を必要とする。そこで、その空白期を埋めるべく、NATOが軍事支援する。これには先例がある。イスラエルが、条約はないものの米国から軍事支援を受けているからだ。

     

    (2)「ポーランドは、ウクライナに侵攻したロシアに対して最も強硬な姿勢を示している国の一つ。ドゥダ氏は「この件に関する議論は今まさに行われている」と語った。安全保障協定に基づいてウクライナに移転される武器や技術について具体的には言及しなかった。ただポーランドはすでに同国へ旧ソビエト製のミグ29戦闘機やその他の防衛装備品を提供している。また、先週開催された先進7カ国(G7)首脳会議(G7広島サミット)では、ジョー・バイデン米大統領が各国首脳に対し、米国がウクライナ軍にF16戦闘機の操縦訓練を提供する考えを伝えた」

     

    米国は、欧州各国がウクライナへ米国製戦闘機F16の供与を認めた。これは、長期的なウクライナ防衛を目的にしたものだ。ウクライナが、自国の制空権を守るために、F16が不可欠という認識である。

     

    (3)「ドゥダ氏によると、バイデン大統領が2月にポーランドを訪問した際、イスラエルをモデルとした安全保障について協議した。7月にリトアニアの首都ビリニュスで開催されるNATO首脳会議の議題の一つとして、構想は西側同盟国の支持を集めつつあるという。事情に詳しい関係者によれば、安全保障協定はこれまでに提案されている「キーウ安全保障協定」を下敷きとしたもので、NATO首脳会議後に署名される見通しだ。ある米政府関係者によると、イスラエルモデルの安全保障協定を巡る議論は、ウクライナがすぐにNATOへ加盟できないことを認識した上で、同国の安全保障問題の核心に対処する方策として浮上した」

     

    ウクライナとの「安全保障協定」は、近く開かれるNATO首脳会議後に結ばれるという。すでに、議論は煮詰まっているのだ。ウクライナのゼレンスキー大統領は、7月に首脳級の和平サミットの開催を呼びかけたが、この「安全保障協定」の調印を意味するのかも知れない。

     

    (4)「イスラエルはNATOに加盟しておらず、米国とは条約に基づく法的な同盟関係にない。しかし、長年にわたり米国との特別な関係を享受しており、第二次世界大戦以降、米国の海外援助の最大の受益国となっている。米国の対イスラエル援助は10カ年計画に基づき実施しており、直近では2019年から28年までに380億ドル(約5兆2600億円)の軍事支援を約束している」

     

    ウクライナは当面、イスラエル型の安全保障政策で軍事支援の長期安定化を目指すことになる。これで、ウクライナも安定して軍事作戦が可能になろう。

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    G7広島サミットは21日、ウクライナのゼレンスキー大統領を交えた討議を開き、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの財政や軍事面での支援を「必要な限り提供する」ことで一致した。この席上でゼレンスキー氏は、国際社会の支持を取り付けるために首脳級の「平和サミット」を7月に開催することを提案した。『毎日新聞 電子版』(5月21日付)が報じた。 

    ゼレンスキー氏が、7月に首脳級の「平和サミット」開催を提案したことは、大きな意味を持っている。これから開始する総反攻作戦が、大方のメドをつけるという予想ができるからだ。無論、現実には机上プランのように簡単でないにせよ、西側諸国からさらなる支援を取り付けたことで、必要な武器弾薬の調達メドができたと見られる。

     

    『CNN』(5月20日付)は、「ウクライナ支援『必要な限り』、G7首脳が共同声明」と題する記事を掲載した。 

    主要7カ国(G7)の首脳は20日、共同声明を発表し、ウクライナに対して、ロシアによる不法な侵略戦争に直面する中で必要な限りの支援を行うことで合意した。 

    (1)「具体的には外交、財政、人道、そして軍事面でウクライナへの支援を強化し、ロシア及び同国の戦争を支持する側に一段の代償を支払わせることを約束した。またウクライナに対しては揺るぎない支援を必要な限り行うと確認。広範囲にわたる正当かつ永続的な平和を同国にもたらすとの方針を示した。首脳らはこの他、中国に対してロシアに圧力をかけるよう要求。自軍を即刻ウクライナから完全かつ無条件で撤退させ、侵略を止めるよう迫ることを求めた 

    G7が、一枚岩になってロシアと中国へ圧力を掛けている。中国は、「和平仲介」と称して平和の使徒のような振る舞いをしているが、G7によって逆に利用され「真面目にロシアへ撤退圧力」を掛けさせられる無様な形になった。中国は、ウクライナとポーランドまで「和平特使」を送ったが、今後も仲介話を続けるのか。中国にとって、情勢は不利になった。

     

    (2)「共同声明には、「我々は中国が広範囲にわたる正当かつ永続的な平和を支持するよう促す。そうした平和は領土の一体性及び国連憲章の原則と意義に基づくものであり、その過程にはウクライナとの直接の対話も含まれる」とある。中国はかねて、自分たちを今回の紛争における和平の仲介者に位置づけようとしてきた。しかしこれまでのところ、ロシアに対して軍をウクライナの領土から撤退させるよう求めたことはない」 

    中国の狙いは、中国があたかも「平和仲介」の労を取っているというアッピールをしたいのだろう。宣伝効果狙いである。だが、中国はこういう宣伝をしながら、台湾侵攻を行うとなれば、完全な「ジキルとハイド」を演じることになる。習氏は、こういう矛盾に気づいているだろうか。ウクライナ侵攻への平和仲介は、自らの台湾侵攻を放棄することになるはずである。こういう理屈になることを自覚していなければ、とんだピエロになろう。

     

    (3)「西側の首脳らは、中国の習近平(シーチンピン)国家主席がロシアのプーチン大統領との親密な関係を利用して戦争を終結させるのではないかと期待を寄せるが、専門家らは現時点でそうした結果は考えにくいとの見解を示す。中国政府はロシアとの関係維持によって利益を得ているというのがその理由だ」 

    ロシア軍が大敗するような事態になれば、中国は積極的に「平和仲介」へ動き出すであろう。中国にとってロシアは唯一のパートナーであるからだ。だが、冒頭に掲げたように、ゼレンスキー氏は7月に「平和サミット」開催を提唱している。これは、中国の仲介拒否を意味しているのだ。中国外交の失態になろう。

     

    (4)「今回のG7首脳会議は、開催地の広島にウクライナのゼレンスキー大統領が対面で姿を見せる驚きの展開となった。G7首脳らは、ロシアによる「エネルギーの武器化」といったリスクへの対策を講じる計画も共同声明に盛り込んだ。ロシアに対してはかねて、エネルギーの「武器化」や価格と供給の操作を利用して政治的影響力を強めているとの非難が寄せられていた。とりわけ欧州は、ウクライナでの戦争の開始以降、ロシア産エネルギーの依存からの脱却を模索している」 

    G7は、ロシアに対して「エネルギーの武器化」をさらに無力化させる。原油と天然ガスの売上は、一段と低下しており財政赤字の最大要因になっている。これをさらに、徹底化させるというもの。 

    ゼレンスキー氏のG7出席は、G7の結束をさらに固めている。それは、米国バイデン大統領が19日、欧州で使用されてきた米国製戦闘機F16をウクライナへ供与することを認めたことだ。これに伴い、米国はウクライナ軍パイロットの訓練を欧州と合同で行うとしている。ゼレンスキー氏は、この決定をG7サミットへ向かう途中で聞き、米国の「歴史的な決定」とツイッターで歓迎した。ウクライナ軍が、数ヶ月後にF16を実戦で使用できる段階になると、戦況はがらりと変わるであろう。

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