勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース時評

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    ウクライナ軍は6月30日、ウクライナ南部オデッサ州沖合の黒海上にあるズメイヌイ(スネーク)島からロシア軍が撤退したと明らかにした。ロシア国防省も同日、撤退を認めた。同島は周辺の制海権や制空権を掌握する上で要衝とされ、ウクライナ軍が奪還に向けた攻撃を続けていた。『日本経済新聞 電子版』(6月30日付)が報じた。

     

    ロシア国防省は、ウクライナからの穀物の輸出に向け、国連などが黒海で安全に貨物船が通れる「回廊」の設置を協議しており、これを阻害しないために撤退したと説明した。これにより、世界の穀物危機が回避される希望が出てきた。

     


    ウクライナからの穀物輸出を巡っては、ロシアのラブロフ外相とトルコのチャブシオール外相が6月8日に会談し、黒海に貨物船が通過できる「回廊」の設置などを協議。さらにウクライナとロシアに加え、トルコと国連も参加する4者協議をイスタンブールで開くことを提案していた。ロシア軍が、スネーク島撤退を明らかしたことで、ウクライナから穀物輸出が可能になりそうだ。

     

    一方、ロシア軍のスネーク島撤退は、ウクライナ軍の猛攻撃に耐え切れなかったという軍事的な側面がある。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月28日付)は、「ウクライナ沖の小島、戦争で大きな役割」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアはスネーク島を制圧して以降、拠点の確立と防衛の強化に繰り返し取り組んできた。一方で、ウクライナは妨害工作を活発化。複数回にわたりロシア軍のヘリや防空システム、重火器を空爆で破壊したと主張している。ロシア側はこれを否定している。衛星データ企業マクサーとプラネット・ラボがウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に提供した衛星画像によると、ロシア軍は4カ月でスネーク島の要塞(ようさい)化に成功。新たにテント構造や塹壕(ざんごう)を構築し、短距離ミサイルシステムを配備した。とりわけ6月初め以降の進展が著しい。

     


    (1)「ウクライナ軍はトルコ製ドローン「バイラクタル」を使って相次ぎスネーク島で空爆に成功したと主張している。58日に公表された動画によると、島の上空を飛行していたロシア軍のヘリがドローン攻撃を受けたみられる様子が映っている。ウクライナの軍情報機関トップ、キリロ・ブダノフ氏は22日、テレビのインタビューで「われわれは攻撃を加えており、スネーク島を全面解放するまで作戦を続ける」と言明した。ウクライナのアンドリー・ザゴロドニュク元国防相は、ロシアがスネーク島にレーダーや防空・電子戦システムを導入することで、実質的に沈没したモスクワの代わりにしようとしていると指摘する。ウクライナは414日、対艦ミサイルでモスクワを撃沈させた。ロシアは原因不明の火災が原因だと説明している」

     

    スネーク島を巡って、ロシア軍とウクライナ軍が激しい攻防戦を繰返してきた。ロシア軍は、沈没した「モスクワ」に代わって、スネーク島へレーダーや防空・電子戦システムを導入していた。絶対的な防衛戦構築の構えであった。それが、6月30日に撤退したのだ。相当の決断の結果である。

     


    (2)「ロシアはウクライナの海上封鎖を狙っている」とザゴロドニュク氏。「ロシアはスネーク島を沈まない巡洋艦として使い、黒海で飛行・航行するものすべてを攻撃する考えだ」軍事専門家によると、ロシアはウクライナの空爆にさらされながらスネーク島で軍事拠点の構築を続けるリスクを勘案した結果、島にとどまり、いずれ地対空ミサイルシステム「S400」などの最新鋭兵器を持ち込むことの利点が、島を断念するコストを上回ると結論づけた可能性がある」

     

    ロシア軍のスネーク島死守の決断が揺らいだのは、ウクライナ軍の猛攻であったに違いない。ウクライナ軍は、米英からミサイルも供与されているので猛攻できる兵器を揃えていたことは事実だ。

     

    (3)「ウクライナにとっては、スネーク島を奪還できれば、ロシア軍による封鎖を突破するための一助となる。ロシアの軍艦がオデッサ南部の沖合を巡回しており、ウクライナ南部の拠点から穀物など重要な食糧が輸出されるのを妨げている。港湾封鎖で経済が壊滅的な打撃を受けているオデッサのゲナディー・トゥルハノフ市長は「スネーク島はシンボルになった」と話す。「ここを支配すれば、戦況を支配できる」。ロシア、ウクライナ双方とも今のところ、目標は達成できていない。ただ、ウクライナはスネーク島への部隊配置を目指しているのではなく、むしろロシアによる軍事拠点の構築を阻止することに注力している可能性があるとの指摘も出ている」

     

    下線のように、スネーク島奪回はウクライナ軍の戦況を有利に展開できるシンボル的な意味を持っている。この象徴的な「小島」をウクライナ軍が手中に奪回したことは、ウクライナ戦争全体へ大きな意味を持っている。ウクライナが、和平への足がかりを掴んだとも言えるのだ。

     


    (4)「前出のザゴロドニュク氏は「戦争が終わるまで総じて空白のままだろう。スネーク島の支配を維持することは極めて困難だ」と話す。「ここに残っても意味がないとロシアが認識するまで、軍装備を何度破壊しなければならないのだろうか」と指摘」

     

    ロシア軍は、ウクライナからの穀物輸出を妨害していると世界の非難を浴びてきた。だが、こうした非難ぐらいで撤退するロシアではない。穀物輸出を口実に撤退したと理解すべきだ。撤退の潮時と判断したのだ。それは、ウクライナ侵攻全体の構図を俯瞰した上での決断と読むべきである。和平への準備を始めたとも読める。

     

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    先進国では、領土拡大を意味する植民地主義が、19世紀の遺物として清算済である。ロシアは、未だにこれにしがみついており、世界の平和にとって大きな障害であることが浮き彫りになった。こういう「時代遅れ」の国に対して、どのように対応するのか。悩みは深い。

     

    ロシアの領土拡大の欲望は、止まるところを知らないようだ。6月初め、プーチン氏はウクライナについて、第一歩にすぎないと述べ、他の多くの領土も潜在的な標的とみていることが分かった。9日には初代ロシア皇帝のピョートル大帝の生誕350周年を記念する展覧会に出向き、ピョートル大帝がスウェーデンから獲得した領土について、「彼は私たちの領土を取り戻し、強化しただけだ」と笑みを浮かべて説明した。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月27日付)は、「プーチン氏『帝国の野望』 どこまで目指すのか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「初代ロシア皇帝のピョートル大帝の生誕350周年を記念する展覧会で、プーチン氏は次のように語った。「(土地を)取り戻して強化することがわれわれの運命のようだ」と述べ、ウクライナ戦争がピョートル大帝の戦争のように、20年以上続く可能性を示唆した。大統領補佐官のウラジーミル・メジンスキー氏はさらに露骨で、モスクワが地球の表面の6分の1を支配していたときより領土が大幅に縮小したと嘆き、不運な後退は「いつまでも続かない」と述べた」

     

    領土拡大を歴史の使命とするプーチン氏は、歴史を動かす原動力が「イノベーション」であることの認識がない。領土重視=資源重視=モノカルチャー経済という必然的な衰退コースを歩んでいる。この意味で、20年後のロシアは確実に弱小国へ転落するに違いない。科学革命の経験がない国家の悲劇である。

     


    (2)「領土の回復を訴えるこうした発言は1991年のソビエト連邦崩壊を巡る積年の憤りによるところが大きい。プーチン氏が20世紀最大の惨劇だとするソ連崩壊で、ロシアは歴代皇帝が積み上げた人口と領土のほぼ半分を失った。これをきっかけに世界の超大国は権威を失って、貧困や汚職、反乱に悩まされる破綻国家となった。ロシア政府はエストニアやリトアニア――両国ともNATOと欧州連合(EU)に加盟している――やモルドバ――ロシア軍高官が標的として最近引き合いに出した――などの隣国に新たに脅しをちらつかせている」

     

    ロシアは、1991年のソ連崩壊で領土も人口も失った。正確に言えば、これまでの支配が異常であり、正常化されたにすぎない。これを歴史の屈辱と捉えているが、大きな間違いだ。

     

    戦後の日本も同じ境遇に陥った。後に総理になる石橋湛山(当時:東洋経済新報社社長)は敗戦の年、『東洋経済新報(週刊東洋経済)』8月25日号社説)で、「更正日本の針路」と題し、日本は領土を失っても悲観することはない、技術でこれを補えると鼓舞した。その後の日本経済は、現実に復興を果たした。ロシアには、石橋湛山のような思想も人物もいないのだろう。ロシアが今後、発展できない理由はこれだ。

     


    (3)「ウクライナでのぶざまな後退こそが、プーチン氏を戦争の拡大に追いやる可能性があると警告するのは、ロシアの野党政治家でかつてはプーチン氏に助言したマラト・ゲルマン氏だ。「国内で大統領の支持率が脅威にさらされている。大統領は自分が拡大し、資金を注いできた偉大な軍隊がなぜウクライナの抵抗に対応できないかを説明できない」と同氏は言う。「従って大統領はウクライナとだけでなく、世界全体と戦う新たな次元に全てを移行させる必要がある。それゆえプーチン氏は別の犠牲者を選ぶ危険がある」。戦争が拡大すれば、民間人の軍への動員と、ロシアにまだ存在する数少ない市民的自由の排除が正当化される可能性がある、と同氏は指摘する」

     

    プーチン氏が、ウクライナ敗北で引き下がる男ではない。戦線を拡大して勝つまで戦うだろう。これは、見過ごしにできない重要な点である。

     


    (4)「ロシアが軍事的な問題を抱えているにもかかわらず、ウクライナ戦争の終結はほど遠い。ロシアは年単位の戦争に備えながら、ドンバス地方で前進を続けており、ウクライナ併合という当初の目標を変えていない。国家安全保障会議の副議長を務めるドミトリー・メドベージェフ前大統領は今月、「ウクライナが2年後に世界地図に残っていると誰が言ったか」と述べた。一部の欧州の指導者にとってこれらの発言が意味するところは、ウクライナの大部分がロシアに支配された状態で停戦が実現し、ロシアが消耗した軍を再編・再建して、新たな攻撃に向けて準備をすることができれば、最終的に他の欧州の国がプーチン氏の標的になる、ということだ

     

    ウクライナ戦争は、簡単に終わらないだろうという見方である。プーチン氏が、敗北を受入れない男であるからだ。

     

    (5)「エストニアを含むバルト3国は、建前上はNATO加盟によって保護されているが、NATOが現在、この地域を含めた東欧に配置している兵力は少なく、ロシアの全面侵攻を軍事的に撃退するには十分ではない。東欧最大の国ポーランドでさえ、軍隊はウクライナ軍ほど強くはなく、戦闘で鍛えられてもいない。一部の西側の軍事専門家によると、ロシア軍はエストニアの首都タリンをわずか1日で占領できるという。ポーランド国防省が2021年に実施した軍事演習では、同国軍は5日間でロシアに完敗するとの結論に達した」

     

    バルト3国は、ロシアの戦闘拡大に最も警戒している。エストニアの首都タリンは、わずか1日で占領されるという。米軍が、バルト3国へ常駐するので、ロシア軍も簡単に手を出せない状況だ。

     

    (6)「元駐NATO米大使でシンクタンク「シカゴ・グローバル評議会(CCGA)」会長のイボ・ダルダー氏によれば、ロシアがNATO加盟国に対して軍事侵攻した場合、現状では米国は間違いなく迅速に対応するという。ウクライナでの経験とは違って、ロシアの空軍は数日で破壊され、地上部隊はNATOの優れた空軍力に太刀打ちできないだろう。しかし、米国でより孤立主義的な政権が成立すれば、状況は変わるかもしれない」

     

    米軍とNATO軍がロシア軍と戦えば、帰趨ははっきりしている。ただ、米国でトランプ氏のような孤立主義者が政権につくと状況は変わる。欧州はその場合、悲劇再現となるリスクが高まる。

     

     

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    6月15日は、習近平氏の69歳の誕生日である。プーチン氏が、誕生日祝いの電話をして首脳会談となったものだ。プーチン氏は、何とか習氏からウクライナ侵攻への支持を取り付けたかったが、習氏は明言せず空振りに終わった。

     

    一昨年の習氏の誕生日では、ヒマラヤ山中で中印両国の軍隊が衝突した。インド兵20人と中国兵数名が死亡する大事故になった。これに怒ったインドは、中国のIT企業を国外追放する事態となり、中国は手痛い代償を払わされた形だ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月16日付)は、「習氏、ウクライナ侵攻支持を明言せず 中ロ首脳会談」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席は15日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談を行った。中国国営中央テレビ(CCTV)によると、習氏からは今回も、ロシアのウクライナ侵攻を公に支持する発言は出なかった。

     


    (1)「習氏は、両国間の「良好な発展」を歓迎する一方、中国は状況や歴史的観点に基づいてウクライナ問題を独自に判断する姿勢を強調した。同氏はロシアが2月にウクライナに侵攻した翌日にも、同様の考えをプーチン氏に伝えていた。習氏は会談で、すべての当事者が危機の「適切な解決」を模索すべきであり、中国は引き続き自らの役割を果たしていくと述べた」

     

    習氏は、プーチン氏に対して「ウクライナ侵攻支持」発言を控えている。これは、西側諸国との関係悪化を危惧したものである。西側諸国は、習氏がロシアのウクライナ侵攻を非難しないことに強い疑念を深めている。中国が、台湾侵攻を意図している結果と見ているのだ。習氏は、「八方美人」をねらっているが、外交的に失敗である。

     


    (2)「さらに、ロシアとの戦略的協力を一段と進める考えを表明。両国が核心的利益や主権、安全保障などの重要な問題で引き続き支援し合うとともに、国連をはじめとする国際機関での連携を強化することが望ましいと述べた。一方、プーチン氏は、今年に入ってから両国の実務レベルの連携が着実に深化していると述べた。会談は習氏の69歳の誕生日に行われた」

     

    このパラグラフでは、習氏が「中ロ枢軸」を形成しようとしていることを明らかにしている。両国が核心的利益や主権、安全保障などの重要な問題で引き続き支援し合うというのだ。国連で中ロは一体化し今後も「横車を押す」と声明しているようなものだ。中国は、ウクライナ侵攻への軍事的・経済的な協力をしないものの、その他の面では協力するとしている。

     


    西側から見れば、この中ロ枢軸は容認し難い存在であろう。北朝鮮問題では、露骨なまでに中ロが一体化して北朝鮮擁護に出ているからだ。中国国内では、こういう中ロ一体化の動きに対して反対はないのか。

     

    反対を暗示するのが、中国の次期外相候補問題だ。王毅氏は定年で来年3月に引退するが、その後任を巡って、これまで最有力候補とされた外交部第一次官が、このほどメディア部門へ転出することになったという。その理由が、余りにも「親ロ派」過ぎることで反対論が出たというのだ。となると、中国国内は「親ロ派一本」で固まっているのではなさそう。

     


    『大紀元』(6月15日付)は、「
    中国外相候補、メディア規制当局に異動 対露発言が引き金か」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府が14日発表した新しい人事によると、外務省の楽玉成次官(58)がメディア規制当局、国家広播電影電視総局(以下は広電総局)の副局長に任命された。楽氏の異動は中露関係を巡る指導部の対立に関係しているとみられる。楽氏は2018年から、筆頭次官として「日々の対外業務を担当していた」という。同氏は6人いる次官のうち、唯一中国指導部の重要会議に出席できる共産党第19期中央委員会の補欠委員である。香港の親中メディア「星島日報」は5月26日、楽氏が広電総局の副局長に任命される予定だと報じた。

     

    (3)「産経新聞の矢板明夫・台北支局長は11日、フェイスブック上で、楽氏は次期外相候補の1人とされていると指摘した。10年前に外相に就任した王毅氏(68)は、すでに引退年齢に達した。矢板氏は、楽氏の人事異動は左遷に相当するとの見方を示し、同氏が外交業務で何らかの過ちを犯したのではと推測した。米国の中国語メディア「光伝媒」が12日に掲載した評論記事は、楽玉成氏は党内の習近平派かつ親露派であるとした」

     

    中国外交部の第一次官楽玉成氏が、外交部長に昇格できないのは、「相当の理由」あってのことだろう。楽氏は、習近平派かつ親露派であると言う。普通なら、この二要件で昇格は決定的のはずだ。それが外されたのは、党内に反習近平派と反ロシア派が大きな力を持っていることを示している。

     


    (4)「記事は情報筋の話を引用し、指導部内部で中露関係を巡って対立を深めていると示した。反習近平派は、習氏の親露反米路線を批判し、欧米側からの経済制裁を回避するためにロシアと距離を置いたほうがよいと主張。これを受けて、共産党中央政治局は楽氏を広電総局に異動すると決めた。習近平氏はこれに反対した」

     

    下線部は、常識的な線である。中国が、西側諸国との縁を切られれば大きな損害を被る。これは誰にも分る理屈だ。それにも関わらず、習氏がプーチン氏へ傾斜するのは、自己保身であろう。同じ専制主義者がいれば、習氏の独裁隠しに利用できると見ているに違いない。習氏のプーチンへの友情は、完全に打算に基づく。

     

    (5)「楽玉成氏は、今年2月4日に行われたプーチン露大統領と習近平氏の首脳会談後、会談の成果について「中露の協力関係に上限はない」と報道陣に述べた。この発言を海外メディアは大きく取り上げ、中国はウクライナ侵攻を計画したロシアを支持しているとの見方が広まった。楽氏は56日に開かれた世界20カ国主要シンクタンクとのオンライン会議で、米国が「ウクライナを犠牲にして欧州を支配し、同時にロシアの弱体化を図り、覇権と強権を続けようとしている」と強く批判した」

     

    「中露の協力関係に上限はない」は、有名な言葉になった。国家間で「限りない友情」を誓い合うとは異例である。同盟関係になくてこの台詞が出るのは、双方に個人レベルでの「隠し事」盟約があるに違いない。お互いに「終身権力者」なろうと話をしているのであろう。

     

     

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    中国の習近平氏は、2月4日の中ロ共同声明でロシアと「限りない友情」を誓い合った仲である。そのロシアが、ウクライナ戦争で残虐行為を働いたとして、世界中から非難されている。「友人」である習近平氏には、困った事態であろう。「友人」が評判を落とせば、習近平氏にも累が及ぶのだ。

     

    『時事通信 電子版』(5月8日付)は、「中国の習氏『ロシアのウクライナ侵攻で動揺』 台湾侵攻の決意変わらず 米CIA長官」と題する記事を掲載した。

     

    米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は5月7日、ワシントン市内で開かれた英紙『フィナンシャル・タイムズ』主催の会合に出席し、ロシアのウクライナ侵攻を受け、中国の習近平国家主席が「動揺している印象を受ける」と語った。

     


    (1)「バーンズ氏は、侵攻で明らかになったロシア軍の残虐性により、ロシアと緊密な関係を維持する中国が「評判を落としかねない」と指摘。習氏は「予測可能性」を重視しており、「戦争に伴う経済の不透明感」も習氏の動揺につながっていると説明した」

     

    習氏は、「友人」プーチン氏とは60回以上も会談を重ねてきた親友である。それだけに、友人の評判が悪いのは、習氏自身にもはね返ってくることだ。「朱に染まれば赤くなる」で、習氏も侵略志向と見られている。中ロの密接化が、こういう警戒観となって現れているのだ。

     

    (2)「中国はロシアの侵攻で欧米諸国の結束が深まったことに失望しており、台湾侵攻に向けて「生かすべき教訓」を慎重に見極めていると語った。「時間をかけて台湾を支配するという習氏の決意は損なわれていない」としつつも、「(中国の)計算には影響を与えている」と話した」

     

    ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米は結束を固めている。中国の外交戦術では、米国と対決する一方で、欧州との関係を強化して共同で米国と対決する構図を描いていた。現在、この構図は大きく崩れている。

     


    もともと、米欧は同じ仲間である。米国は、欧州の移民で成立した国だ。その欧州が、米国と対立して中国と連携するはずがない。こういう経緯を見誤る当たり、習氏の「外交眼力」は相当鈍っていると言うほかない。日本が、中国と手を組んで米国と対決することなど100%あり得ない。それは、価値観=文化の違いでもある。習氏は、この辺の判断が間違っているのだ。

     

    『時事通信 電子版』(4月27日付)は、ウクライナ危機で中国政府は大ショック、庶民はロシア応援」と題する記事を掲載した。筆者は、柯 隆(か・りゅう)氏である。東京財団政策研究所主席研究員である。

     

    中国の一般の庶民は、ウクライナのことをあまり知らない。逆にロシアは身近な存在である。中国の公式メディアやインターネットのSNSでは、ウクライナが米国を中心とする先進国の手先となって、ロシアを追い詰めているから、ロシアは反撃しているといわれている。民衆の間では「ロシア、頑張れ」の声が上がっている。

     


    (3)「これに対して、知識人の間で事情をよく知っている人は少なくない。言論統制されているため、声を上げることができないが、心の中でウクライナを応援する人は多い。中には、プーチンのロシアと手を切るべきだと主張する政府系シンクタンクの研究者も現れている。ウクライナ危機を見た中国政府は、大きなショックを受けているはずである。なぜなら、中国の軍事技術の源泉はロシアだからだ」

     

    ウクライナ戦争で、ロシア軍の戦況が芳しくないことにより、中国は失望している。中国の軍事技術の源泉はロシア軍である。この状態で、仮に米国と戦うことになれば、冷や汗ものである。

     

    (4)「ロシアが短期間にウクライナを攻略できると中国は確信していたが、1カ月たっても、ウクライナを攻略できていない。すなわち、ロシアの軍事力が本当に強いものかどうかが今、疑われている。単なる「張子の虎」ではないか、とさえ思われている可能性は高い。なぜ中国政府がショックを受けるかというと、もし、ロシアから導入した軍事技術をもって台湾に侵攻したとしても、本当に台湾を攻略できるのか、自信を失ってしまう可能性がある。すなわち、中国人民解放軍が台湾に侵攻した場合、短期間に台湾を攻略できなければ、後方から補給が追い付かず、失敗に終わる可能性が高いからである」

     

    中国は、ロシアの武器体系にそっている。そのモデルたるロシアの武器が、ウクライナ軍によって破壊されている映像は、身震いするほどの恐怖であろう。

     


    (5)「中国政府はロシアと米国の間で、自分にとって最も得する解を求めようとしている。すなわち、損得の勘定を一生懸命しているところである。米国などからは、中国がロシアに軍事支援した場合、重い代償を払うことになると警告されている。これに対して、駐米中国大使の秦剛氏は、米CBSの番組に出演した時、中国はロシアに軍事支援をしていないとコメントした。このコメントから中国はロシアへの軍事支援による代償を十分に認識していることが分かる。もう少し時間がたって、ロシアの敗戦がはっきり見えれば、中国は自然にロシアと距離を置くようになると思われる」

     

    ロシアが敗北すれば、中国はロシアと自然に距離を置くようになるという。これは,習氏の外交的失敗を意味する。国家主席3選どころの話でなくなるであろう。

     


    (6)「中国経済が先進国に依存しているのは明白な事実である。それを無にしてロシアと同盟を組むことはあり得ない。ただし、米国から経済制裁を受けているのは事実であり、中国政府は米国に対する警戒も強めている。習近平政権の本心は、米国との関係を改善したいということである。しかし、ここ数年の米中対立の溝はあまりにも深い。簡単には埋まらないだろう。これからは、ある種の準冷戦の状態に突入していく可能性が高い」

     

    中国にとって、ロシアが頼れる相手でないことが分れば、中国はどうするのか。今さら、米国との関係復活も言い出せないのだ。苦しい局面にきた。

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    戦争は痛ましいものである。前途有為の青年が、戦場で斃れるからだ。ロシアが侵攻したウクライナ戦争では、ロシア兵士の戦死者が1万~2万人も出ていると報じられている。このため、著しい兵士の士気低下が起こっているという。

     

    この士気低下の理由が分ってきた。戦死者に、モスクワ出身者がいないことだ。最前線へは,モスクワ出身兵士が出動していないことを覗わせている。これは、偶然でなく政府による意図的な兵士の選別であろう。

     


    『中央日報』(5月5日付)は、「死亡者のうちモスクワ出身はいない、ロシア軍戦死者の悲しい真実」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナを侵攻したロシア軍隊を支えているのはモスクワから数千キロメートル離れた極東・シベリア地域から来た所得が低いいわゆる「土の箸とスプーン」出身だった。

     

    (1)「英紙『タイムズ』は、ウクライナで戦っている多くのロシア兵士が首都モスクワから遠く離れた地方に基盤を置いていると3日(現地時間)、伝えた。寒く土地がやせているシベリア・極東地域や少数民族別に区分された一部の共和国など、ロシア内の非主流地域から来た兵士たちが多かった。ウクライナ戦争が70日以上続いていて、この地域出身の兵士はさらに増えている。ウクライナのシンクタンク、国防戦略センターによると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はモスクワを除き、主に極東とシベリア地域から毎週200人ずつ入隊するよう要求している」

     


    ウクライナ最前線で戦っているロシア軍兵士は、シベリア・極東地域や少数民族に区分された一部の共和国などの出身者である。戦死してもモスクワから遠く離れた地域であれば、ロシア国民に広く知られないで済むという計算が働いていると見られる。報道統制しているので、好都合なのだろう。プーチン氏は、主に極東とシベリア地域から、毎週200人ずつ入隊するよう要求しているという。これは、200名の戦死者が出るという想定であろう。

     

    (2)「ブチャで戦争犯罪を起したとされる第64分離車両化小銃旅団も、モスクワの東6000キロメートル以上離れた極東地域ハバロフスクの小さな村に基地を置いている。ハバロフスクは中国と国境を接していて、モスクワとは7時間の時差がある。戦争初期はロシア兵士がウクライナ占領地で略奪したテレビ・洗濯機・貴金属・化粧品などをベラルーシの国境都市マジルの宅配会社からシベリアの人里離れた地方などに送る防犯カメラの映像が公開された。ロシアの家族に送ったものと推定される」

     

    ブチャで大量虐殺を行なった部隊は、モスクワの東6000キロメートル以上離れた極東地域ハバロフスクの小さな村に駐屯している。寒村ゆえに貧しく、略奪したテレビ・洗濯機・貴金属・化粧品を故郷へ送ったことが判明している。

     


    (3)「入隊者が、多いため死亡者も多かった。ロシア独立メディア『メディアゾナ』は4月末、ロシア兵士死亡の内容が出てきた1700本余りの記事を研究した結果、少なくとも1774人が死亡(西側は1万5000余人死亡推定)したと推定した。このうちロシア南部の北カフカースのダゲスタン共和国、東部シベリアのブリヤート共和国などだけで200人余り以上が戦死した。メディアゾナは、「モスクワとサンクトペテルブルク地域の戦死者はいなかった」とした。『ワシントン・ポスト』(WP)は、「ダゲスタン・ブリヤート共和国は貧しい地域」と伝えた。ダゲスタン共和国の昨年の平均給与は3万2000ルーブル(約6万円)、ブリヤート共和国の平均給与は4万4000ルーブルだ。モスクワの平均給与は11万ルーブルだ」

     

    ロシア僻地は給与も低く、モスクワ平均給与の3~4割レベルである。それだけに、高い給与に釣られて入隊してくるのであろう。

     


    (4)「ロシア独立メディア『メドゥーサ』によると、ダゲスタン共和国は3月からウクライナ戦争に参戦する兵士たちを募集している。一般兵士の月給は17万7000ルーブルだった。ロシアの今年の最低生活費は1人あたり月1万3000ルーブル程度だ。ウクライナの1カ月派兵で年間生活費を得られる場合があるため貧しい地域からは若者が軍隊に志願入隊する場合が多かった」

     

    一般兵士の月給は、17万7000ルーブル(約33万2000円)である。ダゲスタン共和国の昨年の平均給与は3万2000ルーブル(約6万円)、ブリヤート共和国の平均給与は4万4000ルーブル(約8万2000円)であるから、4~5倍もの高収入である。喜んで入隊するのだろう。

     


    (5)「『メドゥーサ』は、「ダゲスタン共和国の多くの若者たちが貧しい家を立て直し、出世のために軍隊に行こうとする。過去、各地で徴兵人員を制限すると徴集委員会に賄賂を送りさえした」と伝えた。今回の戦争でも多くの人々が入隊した。ロシア国営メディア「リアノボスティ通信」は3月、「ダゲスタン共和国では1週間で300人以上が兵役契約を締結した」と伝えた。しかし、100人以上が戦死した。20代の若い青年たちが多かった

     

    貧しい地域では、一般兵士の高い給与に目が眩み、応募してくるのであろう。事情を知らないままに、ウクライナ最前線へ送り込まれている。

     

    (6)「高麗(コリョ)大学ロシア語ロシア文学科のチェ・ジョンヒョン教授は、「極東とシベリア地域などは所得が低く生活水準が劣悪だ。他の職業よりも給与がよい軍入隊でお金と名誉を得ようとする者が多い。世論統制もうまくいっていて、ウクライナ戦争の真実について知らずに志願した若い青年たちが多かった」と背景を説明した。続いて「反面、モスクワなど大都市で徴兵しないのはロシア内部で逆風が吹く恐れがあるためだ。モスクワで徴兵するようになれば西側で『ロシアは本当の危機に直面している』と考える可能性もある」と付け加えた」

    ロシア軍は目下、辺鄙な地域で一般兵士を募集しているが、モスクワで徴兵を開始するようになれば、募集兵業務が行き詰まってきたことを示す。

     

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