イラン停戦によって、米軍の余力がインド太平洋へシフトする。これは、ロシアへの圧力増大になるので、ロシアも停戦への最終決断を迫られることになろう。地政学的に、こういう流れが強まるに違いない。イラン停戦は、「ロシア包囲網の完成」を意味する。ここで、微妙な立場に置かれるのが中国である。
「ロシア敗北」は、習近平政権へ打撃になる。中国は、かねがね何とか勝利の形で停戦を望んできた。現実は、逆方向に向っている。ロシア軍が劣勢状態に立たされているからだ。中国は、ロシアがボロボロ状態になる前に、停戦へ持ち込みたいであろう。今や、中ロは「一蓮托生」という危険な立場へ追い込まれている。
『PRESIDENT オンライン』(6月20日付)は、「『もう戦争を続けられない』本音が透ける…追い詰められたプーチンがウクライナに用意した『新提案』の中身」と題する記事を掲載した。筆者は、名越 健郎 拓殖大学客員教授である。
ロシアのSNS、テレグラムで発信する独立系情報チャンネル「Insider-T」(6月14日)によると、プーチン大統領は6月13日、政権中枢の非公開会議で、ロシアが支配する占領地をウクライナがロシア領と公式に承認するなら、現在の前線を「国境」として停戦に応じる用意があるとの新提案を策定した。大統領に近い情報筋の話としている。新提案は近く、非公式ルートでウクライナ側に伝達されるという。
(1)「プーチン政権は、ウクライナがこれを拒否するなら、「特別軍事作戦」を継続し、領土をさらに制圧すると警告しているという。大統領側近はこの提案について、「プーチン大統領が退陣した後も、ロシア領土の不可侵性を保証するものだ」と指摘した。ロシアは現在、クリミア半島を含めウクライナ領土の約20%を支配しているが、情報が事実なら、占領地を恒久的にロシア領とすることで停戦に応じる方針に転換したことになる」
ロシアは、既存占領地をロシア領に認めることを条件に停戦したいとしている。プーチン氏自身は公の場では徹底抗戦の構えを崩していないが、本音では早期停戦を志向している形跡がある。それは、ドローン戦の不利など戦況悪化や国民の厭戦気分を察知したためだろう。ロシアの国営世論調査機関である全ロシア世論調査センターによれば、80%台を維持してきた大統領の支持率は、4月中旬の調査で65%まで低下した。
9月の下院選を意識しているかもしれない。最大野党・共産党のマルハエフ下院議員はブログで、「現在の状況が続けば、社会不安や混乱が拡大し、社会的爆発を招く」と警告し、現政権を厳しく非難した。開戦後初となる下院選では、反戦世論が台頭しかねない。また、イラン戦争終結で、原油価格が再び下落し、ロシアのエネルギー収入が減少して経戦能力が低下する。ロシアの新提案が事実なら、プーチン政権は戦争長期化がロシアに不利と判断したのかもしれない。
(2)「この提案はロシアの一定の譲歩を意味する。ロシアの停戦条件は徐々に変わっており、プーチン大統領は2022年2月の開戦時、戦争目的として、ウクライナの中立化、政権交代を意味する非ナチ化、非武装化、南東部4州のロシア併合などを挙げた。昨年1月のトランプ政権発足後は抽象的な「ウクライナ問題の根本的解決」を主張するようになった。プーチン氏は今春以降、ウクライナがドンバス地方を全面割譲すれば、停戦に応じると言い始めた。ロシアはドンバス地方を構成するルハンスク州をほぼ制圧し、ドネツク州の約8割を支配するが、ウクライナ側はドネツク州の残りの領域を要塞化して抵抗し、撤退要求を拒否している」
ロシアは、停戦条件を徐々に引下げている。当初の戦勝国気分の高圧的要求は、最近の現在の占領地承認を停戦条件にまで引下げている。最初の勢いはすっかり影を潜めた。
(3)「今回の提案が事実なら、ロシアは難攻不落となったドネツク州の残る20%の攻略を放棄したことになる。プーチン政権が停戦を意識し始めた背景には、戦況の悪化や国内の厭戦気分がありそうだ。東部の戦況は今年に入ってウクライナ優位に転換しており、米国の戦争研究所によれば、ウクライナ軍は戦場で主導権を握り、4月に116平方キロメートル、5月に281平方キロメートルの領土を奪還した。ウクライナ軍の本格的な領土奪還は3年半ぶりという」
中国にとっては、ロシアの劣勢で気が気でなくなっているであろう。ロシアが弱ると、中国の「逃げ道」が消えるからだ。中国はこれまで、ロシアとの連携、中東の混乱、米軍の分散、エネルギーの安定供給によって「戦略的余裕」を確保してきた。しかし、ロシアが弱ることや、イランが停戦することで米軍がアジアに集中し、ASEANが防衛力を強化するといったことで、中国包囲網が強化される状態となる。
(4)「ウクライナ軍は、無人機で後方をかく乱し、ロシア軍の兵站や輸送に打撃を与えた。ウクライナはAI(人工知能)搭載ドローンや赤外線ドローンなどを次々に新開発して戦線に投入。「戦況の潮目が変わった」(西側軍事筋)とされる。プーチン氏は「ロシアの日」の6月12日、前線に従軍する突撃部隊の兵員らと会見したが、突撃部隊からは「多くの戦友が重傷を負い、部隊を去った」「敵は人工知能を活用した無人機を活発に投入しており、戦争はますます技術主導型になった」「敵のドローンはスターリンク(米スペースX社の衛星通信網)によって制御されているが、われわれにはそうしたシステムがない」などと窮状を訴えた」
科学戦争へ突入している。この面では、ウクライナがロシアをリードしている。時間が経てば経つほど、ロシアが不利となろう。





