ロシアのウクライナ侵攻が9カ月目に入った。これからの時期、再び天候が決定的な要因になると安全保障担当者や軍事専門家は指摘している。
冬の気温が時にマイナス30度まで下がる国のことだ。暖を取る方法だけを考慮すればよいわけではない。それほどの低温下では機材の操作が難しくなり、仕掛けられた地雷は雪の下に隠れる。発電機を動かすにもより多くの燃料が必要だ。敵の視界を遮るものが少ないため、物資は夜間に移動する必要がある。一部のドローンのナビゲーションシステムは氷で覆われる。冷気は暖気より密度が高いため銃弾ですら速度が落ちる。『フィナンシャル・タイムズ』は、ウクライナ戦線の厳しさをこう報じる。
英紙『フィナンシャル・タイムズ』(10月31日付)は、「ウクライナ・ロシア軍攻防、厳冬期が勝負の分け目に」と題する記事を掲載した。
プーチン氏の戦略ポイントは、寒さが軍事作戦の速度を落とすことにある。ロシア軍は防衛線を維持し占領地域を支配し続けられる。アナリストは、これがウクライナでの作戦を統括するロシア軍スロビキン司令官の考えの中心だと指摘する。
(1)「英ワーウィック大学のアンソニー・キング教授(戦争研究)は、「冬は寒く暗いため、兵士へのより手厚い後方支援が必要になる。使う燃料も増える。作戦を阻む様々な抵抗にこれらが加わり、守る側に有利に働く」と話した。だがウクライナには、特に兵士への物資供給や防寒対策においてより決定的になりうる強みがある。カナダが50万着の冬仕様の軍服を供給しており、10月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では冬の間ウクライナをどう支援するかが主要議題となった」
この冬、ウクライナ侵攻で決定的な局面を迎える。戦局の拡大ではなく、前線の兵士の士気がどうなるかだ。ウクライナ軍は、完全な防寒具が用意されている。ロシア軍は、かねてから装備不足が指摘されている。兵站線攻撃で有利なウクライナ軍は、徹底的にロシア軍を叩けば、さらにロシア軍は苦境に立たされるであろう。
(2)「ウクライナ空軍の元中佐でキーウのシンクタンク、ラズムコフ・センターの共同所長を務めるオレクシー・メルニク氏は、「ロシアは少なくともエネルギー戦争では冬が自分たちに味方すると踏んでいる。ウクライナ軍兵士を取り巻く環境の方がはるかに良いだろう」と指摘する。地元住民からの物資の援助があるためだ。同氏は最近キーウ近郊の分隊を訪問した際、「住民が洗濯した衣類を提供したり、(兵士に)食事を出したりして、必要なものは何でも持ってきていた」と語った。前線となっている東部バフムートに派遣されているウクライナ軍特殊部隊のタラス・ベレゾベッツ氏は、「我々はボランティアからたくさんの物資をもらっている。ガソリンの備蓄も自立型電源もある。『備えよ』との司令が出ている」と話した」
ウクライナ軍は、自国領土での戦いである。地の利を得ているのだ。自国民から温かい差し入れを受けて戦えるのである。
(3)「占領地域にいるロシア兵にそのような支援はない。また最近招集されて1100キロメートルに及ぶウクライナの前線に急きょ配備された数万人の兵隊の多くは基本的な装備にも事欠いている。ロシアメディア『アストラ」が公開した動画では、動員兵が十分な物資がないまま南東部ザポロジエに送られたと不満を述べている。新兵の一人は「敵地にいるのに装弾の一つも持っていない」と話し」
ロシア兵は、弾薬も持たされずに最前線へ送り込まれている。冬の装備が、どこまで整っているか疑問である。
(4)「安全保障担当者や軍事専門家は、最大の未知数はこの冬がどれほど厳しいかだと話している。また気温は0度前後で雨が多く地面がぬかるむのか、あるいはマイナス10度まで下がり何もかも凍るのかも重要だという。暖冬の場合、プーチン氏が狙うエネルギー戦争の効果は薄れ、物資を搭載した重量のあるトラックはぬかるんだ道で車輪が泥にはまるのを避けるために舗装道路しか走行できない」
暖冬の場合、物資を搭載した重量のあるトラックは舗装道路しか走行できない。これが、ウクライナ軍の狙い目だという。
(5)「そうなればウクライナ側は、ロシアの補給路や後方支援部隊を狙い撃ちしやすくなる。ウクライナの国立戦略研究所のアナリスト、ミコラ・ビエリエスコフ氏は、ウクライナ軍は「戦場で精密誘導兵器を利用してロシア軍を(疲弊させ)、ロシア兵の前線での生活を一層みじめなものにできる」と話した。一方で、ぬかるみはウクライナ軍の反撃能力を制限する面もある」
舗装道路を走るトラックは、ウクライナ軍に攻撃され易くなる。そうなると、ロシア兵の生活は物資不足に見舞われて、厳しくなるだろう。
(6)「ビエリエスコフ氏は、それとは対照的に「地面が深くまで凍結すれば地上をあちこち移動でき、理論的には新たな攻撃が可能になる」と指摘した。また「冬の間も士気を保つことが双方にとり最重要課題となる。もし維持できなければ、地上に展開するロシア軍が後戻りできない状況に陥る可能性が高い」と話した」
地面が深く凍結すれば、ウクライナ軍の攻撃が行ないやすい状態になる。冬の間、ロシア軍は寒さとひもじさ。さらに、いつ攻撃してくるか分からないウクライナ軍に怯えざるを得ない。ロシア軍兵士は、こういう環境でどう動くのか。集団投降もありうるのだ。ウクライナ戦線は今冬、大きな分岐点になりそうである。