勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース時評

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    イラン停戦によって、米軍の余力がインド太平洋へシフトする。これは、ロシアへの圧力増大になるので、ロシアも停戦への最終決断を迫られることになろう。地政学的に、こういう流れが強まるに違いない。イラン停戦は、「ロシア包囲網の完成」を意味する。ここで、微妙な立場に置かれるのが中国である。

     

    「ロシア敗北」は、習近平政権へ打撃になる。中国は、かねがね何とか勝利の形で停戦を望んできた。現実は、逆方向に向っている。ロシア軍が劣勢状態に立たされているからだ。中国は、ロシアがボロボロ状態になる前に、停戦へ持ち込みたいであろう。今や、中ロは「一蓮托生」という危険な立場へ追い込まれている。

     

    『PRESIDENT オンライン』(6月20日付)は、「『もう戦争を続けられない』本音が透ける…追い詰められたプーチンがウクライナに用意した『新提案』の中身」と題する記事を掲載した。筆者は、名越 健郎 拓殖大学客員教授である。

     

    ロシアのSNS、テレグラムで発信する独立系情報チャンネル「Insider-T」(6月14日)によると、プーチン大統領は6月13日、政権中枢の非公開会議で、ロシアが支配する占領地をウクライナがロシア領と公式に承認するなら、現在の前線を「国境」として停戦に応じる用意があるとの新提案を策定した。大統領に近い情報筋の話としている。新提案は近く、非公式ルートでウクライナ側に伝達されるという。

     

    (1)「プーチン政権は、ウクライナがこれを拒否するなら、「特別軍事作戦」を継続し、領土をさらに制圧すると警告しているという。大統領側近はこの提案について、「プーチン大統領が退陣した後も、ロシア領土の不可侵性を保証するものだ」と指摘した。ロシアは現在、クリミア半島を含めウクライナ領土の約20%を支配しているが、情報が事実なら、占領地を恒久的にロシア領とすることで停戦に応じる方針に転換したことになる」

     

    ロシアは、既存占領地をロシア領に認めることを条件に停戦したいとしている。プーチン氏自身は公の場では徹底抗戦の構えを崩していないが、本音では早期停戦を志向している形跡がある。それは、ドローン戦の不利など戦況悪化や国民の厭戦気分を察知したためだろう。ロシアの国営世論調査機関である全ロシア世論調査センターによれば、80%台を維持してきた大統領の支持率は、4月中旬の調査で65%まで低下した。

     

    9月の下院選を意識しているかもしれない。最大野党・共産党のマルハエフ下院議員はブログで、「現在の状況が続けば、社会不安や混乱が拡大し、社会的爆発を招く」と警告し、現政権を厳しく非難した。開戦後初となる下院選では、反戦世論が台頭しかねない。また、イラン戦争終結で、原油価格が再び下落し、ロシアのエネルギー収入が減少して経戦能力が低下する。ロシアの新提案が事実なら、プーチン政権は戦争長期化がロシアに不利と判断したのかもしれない。

     

    (2)「この提案はロシアの一定の譲歩を意味する。ロシアの停戦条件は徐々に変わっており、プーチン大統領は2022年2月の開戦時、戦争目的として、ウクライナの中立化、政権交代を意味する非ナチ化、非武装化、南東部4州のロシア併合などを挙げた。昨年1月のトランプ政権発足後は抽象的な「ウクライナ問題の根本的解決」を主張するようになった。プーチン氏は今春以降、ウクライナがドンバス地方を全面割譲すれば、停戦に応じると言い始めた。ロシアはドンバス地方を構成するルハンスク州をほぼ制圧し、ドネツク州の約8割を支配するが、ウクライナ側はドネツク州の残りの領域を要塞化して抵抗し、撤退要求を拒否している」

     

    ロシアは、停戦条件を徐々に引下げている。当初の戦勝国気分の高圧的要求は、最近の現在の占領地承認を停戦条件にまで引下げている。最初の勢いはすっかり影を潜めた。

     

    (3)「今回の提案が事実なら、ロシアは難攻不落となったドネツク州の残る20%の攻略を放棄したことになる。プーチン政権が停戦を意識し始めた背景には、戦況の悪化や国内の厭戦気分がありそうだ。東部の戦況は今年に入ってウクライナ優位に転換しており、米国の戦争研究所によれば、ウクライナ軍は戦場で主導権を握り、4月に116平方キロメートル、5月に281平方キロメートルの領土を奪還した。ウクライナ軍の本格的な領土奪還は3年半ぶりという」

     

    中国にとっては、ロシアの劣勢で気が気でなくなっているであろう。ロシアが弱ると、中国の「逃げ道」が消えるからだ。中国はこれまで、ロシアとの連携、中東の混乱、米軍の分散、エネルギーの安定供給によって「戦略的余裕」を確保してきた。しかし、ロシアが弱ることや、イランが停戦することで米軍がアジアに集中し、ASEANが防衛力を強化するといったことで、中国包囲網が強化される状態となる。

     

    (4)「ウクライナ軍は、無人機で後方をかく乱し、ロシア軍の兵站や輸送に打撃を与えた。ウクライナはAI(人工知能)搭載ドローンや赤外線ドローンなどを次々に新開発して戦線に投入。「戦況の潮目が変わった」(西側軍事筋)とされる。プーチン氏は「ロシアの日」の6月12日、前線に従軍する突撃部隊の兵員らと会見したが、突撃部隊からは「多くの戦友が重傷を負い、部隊を去った」「敵は人工知能を活用した無人機を活発に投入しており、戦争はますます技術主導型になった」「敵のドローンはスターリンク(米スペースX社の衛星通信網)によって制御されているが、われわれにはそうしたシステムがない」などと窮状を訴えた」

     

    科学戦争へ突入している。この面では、ウクライナがロシアをリードしている。時間が経てば経つほど、ロシアが不利となろう。

     

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    「関税男」を自称する米大統領トランプ氏が、ロシアに対して「50日以内のウクライナ停戦」を要求した。従わなければ、ロシア産の原油などの輸入国へ「二次制裁」として100%関税を課すと通告した。原油の輸出などで国家財政を賄っているロシアにとって、輸入国の中国やインドが二次制裁を恐れて購入を止めれば、事実上の輸出ストップになる。25年のロシアは、3年半に及ぶウクライナ侵攻で経済的に行き詰まりが明らかになっている。米国による「兵糧攻め」が、プーチン氏を翻意させて停戦に向うのか。大きな転機になろう。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月15日付)は、「トランプ氏、ロシアに通告 停戦なければ『2次関税と制裁』」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ米大統領は、ウクライナでの戦争が早期に終結しなければ、ロシアに対し「非常に厳しい」関税や金融制裁を科すと警告した。あわせて、北大西洋条約機構(NATO)加盟国を通じてウクライナに武器を追加供与する方針も明らかにした。さらに「50日以内に停戦合意がなければ、非常に厳しい関税、つまり『2次関税』と呼ばれる約100%の関税を課す」とも述べた。この関税は「痛烈で、非常に強力な措置になる」と強調した。

     

    (1)「米国は、国際金融の中心にあるため、広範な制裁プログラムを通じて、個人や国を国際経済から締め出すことができる強い立場にある。2次関税や制裁は、ロシアと取引する第三国の企業・産業・国家に打撃を与えることで、モスクワへの圧力を一層強めることになる。ラトニック米商務長官は14日午後、「制裁と関税は、いずれもトランプ氏の『道具箱』にある手段だ」と述べた」

     

    米国は、ドルが世界の基軸通貨である。これにより、自動的に国際金融の中心になっている。この米国が、ロシアと原油取引する國へ「二次制裁」で関税100%を掛けるというのだ。米国から20~30%の関税を通告されるだけで右往左往している現状から言えば、100%関税は大きな抑制効果を持つであろう。

     

    (2)「ロシア大統領府は、トランプ氏の発表に対して即座には反応を示さなかった。ロシア上院のコサチョフ副議長はSNSで「欧州諸国は(ウクライナへの兵器供与のために)今後も出費を強いられるだろう。利益を得るのは米国の防衛産業だけだ」と書き込んだ。さらに「50日もあれば、戦況も米国やNATOの指導層の姿勢も大きく変わる可能性がある。だが我々の士気は揺るがない」と付け加えた」

     

    ロシアはまだ、公式の反応をみせていない。ロシア上院のコサチョフ副議長はSNSで「50日の余裕があるから、どうなるか分らない」と、トランプ氏にまつわる「TACO(朝令暮改)」現象を引き合いに出している。

     

    (3)「トランプ氏は14日、防空システム「パトリオット」を含む武器をウクライナに追加供与する計画を確認した。NATO加盟国が米国から「数十億ドル相当の防衛装備品」を購入し、ウクライナの「戦場に迅速に配備する」方針であると説明した。トランプ氏は「ドイツや(NATO)主要加盟国の大半と協議した。各国はこの計画に非常に前向きだった」と述べた」

     

    米国が、ウクライナへ供与する武器は、防空システム「パトリオット」のほかに、攻撃型武器も含まれている。ロシアが、50日間に「死闘」を展開すれば、ウクライナは不利になるからだ。これを食止めるには、相応の攻撃型武器も不可欠である。

     

    (4)「この兵器供与計画には「あらゆるものが含まれる」とし、「パトリオットが中心だ。すべての関連装備を含む。バッテリーも一式そろっている」と強調した。一部のパトリオットはノルウェーから供給される見通しで、ある国ではパトリオット17基が「輸送準備に入っており」、ウクライナに「非常に迅速に」供与することが可能だと語った。ルッテ氏は、これはウクライナへの武器供与の「第1波にすぎない」と強調した」

     

    NATO事務総長ルッテ氏は、ウクライナへの武器供与として、パトリオットが第一波として、後続支援を示唆している。

     

    (5)「迎撃ミサイルのパトリオットは、ロシアによる空爆からウクライナを守る上で極めて重要な装備だ。米国製のこのシステムは、ロシアの弾道ミサイルを撃墜できる唯一の手段である。ルッテ氏は、ウクライナへの兵器供与計画にあたっては、米国の備蓄状況も考慮されると強調した。ロシア政府はここ数週間、ウクライナの各都市への空爆を強化している。巡航ミサイルや弾道ミサイルに加え、イラン製の自爆ドローン(無人機)数百機が、民間・軍事インフラを標的として放たれている。ウクライナの防空システムは兵器不足に直面しており、軍は迎撃対象の選別を余儀なくされている。迎撃率は高く、通常は約70%に達するものの、毎回数十機のドローンや数発のミサイルが防空網をすり抜けている」

     

    迎撃ミサイルのパトリオットは、ウクライナが最も欲していた武器である。それが、ようやく揃うことは朗報である。防空網を完備して、逆にロシア領奥深く攻撃できる武器が揃えば、ロシアも真剣に停戦を考えざるを得まい。米国は、ウクライナ支援で迷いのあったことが、ウクライナの犠牲を増やした。ウクライナが対等の武器を揃えれば、ロシアも停戦の潮時と判断せざるを得まい。

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    ロシアのプーチン大統領は12日、国防相を務めたショイグ氏を交代させ、第1副首相のベロウソフ氏を後任に充てる人事を議会へ提案した。経済閣僚が長い同氏を起用して、国防省と軍の組織改革を進める。ロシアは、ウクライナ侵略の長期化で戦費が膨張している。国防相交代は、財政規律の引き締めを図るのが目的だ。ベロウソフ氏は、国防相として軍事予算や軍備の管理を担う。ペスコフ大統領報道官は同日、国防相交代の理由を「軍の予算を国全体の経済運営に合致させる必要がある」と説明した。

     

    『ロイター』(5月13日付)は、「ロシア大統領、ショイグ国防相を交代 後任にベロウソフ氏」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領は12日、ショイグ国防相を交代させ、副首相だったアンドレイ・ベロウソフ氏を後任に起用する人事を提案した。経済政策を専門とするベロウソフ氏を国防相に充てることで、ウクライナでの勝利に向けて防衛費の有効活用を図り、経済戦争に備える狙いがあるとみられる。

     

    (1)「今回の人事刷新は22年2月のウクライナ侵攻以降にプーチン氏が軍司令部に対し実施した最も重要な変更となる。人事案は議会の承認が確実視される。大統領府のペスコフ報道官は今回の交代について、軍と法執行当局が国内総生産(GDP)の7.4%を占めていた1980年代半ばのソ連のような状況に近づいているため理にかなっているとし、こうした支出を国家経済全体と整合的にすることが重要だと説明。プーチン大統領が国防相にエコノミスト起用を望むのはこのためだとし、「革新に前向きな者こそが戦場で勝利する」と述べた」

     

    ロシアの2024年の国家予算では、国防費が前年比6割増の10兆ルーブル(約17兆円)超に伸びる見通しだ。歳出全体の3割も占める規模になる。3月にはプーチン政権が戦費確保のために個人所得税の増税を検討しているとも報じられたほどだ。下線部で、国防関係費が、GDPの7.4%も占めた旧ソ連時代(1980年半ば)に接近している事実を認めている。こういう事態が、旧ソ連経済を崩壊させたことから、プーチン氏は「戦費節約策」に出ざるをえなかったのであろう。

     

    ロシア財務省は、2022〜23年の戦争関連の財政出動が、GDPの約10%相当と推計していた。フィンランド銀行新興経済研究所が公表した調査によると、同期間に民需生産が横ばいだったのに対し、戦争関連の工業生産は35%増加した。

     

    フィンランド銀の調査チームは、直近のロシア経済予測リポートで次のように指摘している。「政府が、戦争を他の何よりも優先すると、経済政策の基本原則を無視することになる。ここ20年来、ロシア政府は堅実な経済政策を選択してきたが、(戦争によって)ロシアの堅実な政策が放棄されることは、経済専門家のみならず多くの人を驚かせた」。『フィナンシャルタイムズ(FT)』(2月3日付)が報じた。

     

    前記の報道から推察されるのは、ロシアが2年3ヶ月以上続けてきたウクライナ侵攻によって、経済がガタガタになっていることだ。これまで、ロシア経済は予想外に持ちこたえているとみられてきた。だが、ロシアは「国防関係費が、GDPの7.4%も占めた旧ソ連時代」という暗黒時代を引き合いに出すほどになっている。経済的にみれば、ロシアの継戦能力に限界がみえてきたことを示唆している。前記FTは、次のようにも指摘している。

     

    エコノミストに加え、ロシア政府の要職にあるテクノクラートの一部も、大々的な軍事支出によって、ロシア経済に新たなひび割れが生じ始めていると警戒感を示す。国家歳入の約3分の1を占める石油・ガス輸出への依存を減らすどころか、プーチン氏の戦時体制は新たな依存症を生んだ。武器の生産である。

     

    ウィーン国際比較経済研究所(WIIW)のエコノミストチームは、1月のリポートで「戦争が長引くほど、ロシア経済の軍事支出依存度が高まる」と指摘した。「このため、紛争が終結した後、経済が停滞したり、明らかな危機に陥ったりする恐れが生じている」と警告した。ロシア経済は、ウクライナ侵攻で大きなダメージを受けている。

     

    (2)「ベロウソフ氏は、プーチン氏に非常に近いことで知られる。ロシアのドローン(無人機)プログラムで重要な役割を果たしてきた。一方、退任するショイグ氏はウクライナでの戦況を巡り軍事ブロガーらから強く批判され、昨年には民間軍事会社ワグネルの創設者だったプリゴジン氏が反乱を主導した経緯がある」

     

    プーチン氏は、新たな政権発足時を捉えて人事一新を断行する。開戦中の国防相交代は、難しい事情をはらんでいるであろう。軍部内の反発などだ。ただ、新政権発足で全閣僚の辞任届を預かっているので、形式上は反発を招かないように配慮していることが窺える。

     

     

     

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    流血の惨事が予想されていた「ワグネルの反乱」は、ベラルーシ大統領の仲介で収拾された。ワグネルはモスクワへの「行進」を中止して撤収する。プリゴジン氏は、ベラルーシへ行くというのが合意事項だ。今回の騒動は、大きな波紋を残した。プーチン大統領が、騒ぎを事前に解決できなかったこと。また、ワグネルに特別功労賞を贈りながら、一転した「逆賊」扱いにしてロシア国民へ説明できない事態となったこと。プリゴジン氏は、ウクライナ侵攻の不当性を訴えていたこともあり、プーチン氏の受けた打撃は計り知れない。

     

    『BBC』(6月25日付)は、「『ワグネル』プリゴジン氏、 モスクワへの前進中止を発表 ベラルーシ大統領が仲介とロシア報道」と題する記事を掲載した。

     

    プリゴジン氏はメッセージアプリ「テレグラム」で、「ロシア人の血が流れる(可能性の)責任を理解し、我々は隊列を方向転換させ、予定通り野営地に戻る」と書いた。

    24日夜には、ロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌにあるロシア軍の南部軍管区司令本部を、ワグネル戦闘員と共に出るプリゴジン氏の姿が確認された。

     

    (1)「これに先立ち、プーチン大統領の報道官、ドミトリー・ペスコフ氏は午後9時(日本時間25日午前3時)ごろ、プリゴジン氏とワグネルへの刑事訴追は中止し、プリゴジン氏はベラルーシへ移動すると明らかにした。ロシア国防省と雇用契約を交わしたいワグネルの雇い兵は、引き続きそれは可能だとも述べた。さらにペスコフ報道官は、ワグネルのこの日の行動がウクライナでのロシアの軍事行動に影響するなど「ありえない」と強調した」

     

    (2)「ロシア政府は24日未明には、プリゴジン氏が「武装蜂起」を呼びかけ内戦を開始しようとしたとして、刑事捜査に着手したと明らかにしていた。ロシア国営テレビ「ロシア24」によると、事態が一気に収束へ向かったのは、ベラルーシのルカシェンコ大統領がプリゴジン氏と電話で協議した後のことだという。ロシア24は、ルカシェンコ大統領の広報を引用する形で、「ロシア領内でワグネルの移動を中止するというルカシェンコの提案を、プリゴジンは受け入れた」と伝えた。さらに、「ワグネル戦闘員の安全保証と共に、受け入れ可能な事態沈静化の形を見つけることは可能だ」と判明したとも報道した」

     

    今回の「ワグネル反乱」は、日本の「2・26事件」(1936年)に似たような面もある。この事件では、「首謀者」を除き寛大な処分になった。これが、後の太平洋戦争への火種になった。「ワグネル反乱」では、刑事訴追を中止するので誰も罰せられないのだ。一度は、大ナタを振るいながら、うやむやにする便宜的解決策になった。これが、ロシアの統制がぐらついていることを示している。ロシアが、国際法違反の傭兵部隊をウクライナ侵攻に用いたこと自体、プーチン氏の統率力の欠如を示している。

     

    「2・26事件」では、ケジメをしっかりつけなかった。これがその後、青年将校の跋扈を許したのである。彼らは米国との開戦を迫り、東条首相の生命を脅かすまでに増長した。そういう日本の脆弱性と似ているのだ。

     

     

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    6月6日未明に起ったウクライナ南部のダム決壊は、想像以上の後遺症をもたらすことが分ってきた。ウクライナ軍南部司令部のナタリヤ・フメニュク報道官は、ウクライナ・テレビに対し「(ロシア占領地域の)対歩兵用地雷の多くが浮き上がり、水に流されている」と述べた。その上で、こうした地雷ががれきなどに当たると爆発する可能性が高いと述べ、「これは大きな危険となる」と指摘する。事態は深刻である。 

    ウクライナとロシアは互いを非難しているが、ダムの決壊が起きたのはロシアの占領地域である。決壊の原因はまだ分っていないものの、CNNによる衛星画像の分析によれば、ダムは決壊の数日前に損傷していた。この損傷が、自然発生か人為的工作によるものかは不明である。ロシア側の占領地域ダムだけに、損傷を修復する、あるいは警告する義務がロシア側にある。ロシアの責任は免れず永遠の十字架を背負うだろう。

     

    『ブルームバーグ』(6月8日付)は、「ロシアのエリート層、ウクライナ侵攻の見通し悲観ー停戦も見えず」と題する記事を掲載した。 

    プーチン大統領が始めたウクライナ侵攻を巡り、重苦しい空気がロシアのエリート層を支配している。ロシアにとっていまやあり得る結果は、最善でも紛争の「凍結」でしかないとの見方が広がっている。 

    (1)「事情に詳しい7人の関係者によると、政治や実業界のエリート層の多くは戦争にうんざりし、戦争を止めたいと考えているが、プーチン大統領が戦争を停止するとは思っていない。関係者は繊細な内容を話しているとして匿名を要請した。侵攻について大統領に立ち向かおうとする者は誰もいないが、政権に対する絶対的な信念は揺らいでいると、関係者4人が述べた」 

    ロシア・エリートは、すでにプーチン氏への絶対的な信念が揺らいでいる。危険水域へ入っている証拠だ。 

    (2)「最も望ましい展開は、年内に交渉が行われて紛争が「凍結」され、占領地域の一部の支配を維持してプーチン氏が一応の勝利を宣言できるようになることだと、関係者の2人は話した。元ロシア政府顧問で侵攻後に国を離れ、現在はウィーンを拠点とするシンクタンク、『Re:Russia』の責任者を務めるキリル・ロゴフ氏は「エリートは袋小路にはまっている。無意味な戦争のスケープゴートにされることを恐れている」と指摘。「ロシアのエリート層の間で、プーチン氏が今回の戦争に勝利できない可能性がこれほど広く考えられるようになったというのは、実に驚くべきだ」と続けた」 

    プーチン氏への絶対的な信頼が揺らいでいることは、これまでになかった。「プーチン終焉」が近くなっている兆候であろう。

     

    (3)「失望感の深まりで、先行きが怪しくなってきた侵攻の責任を巡る非難合戦が強まりそうだ。すでに、国粋主義的な強硬派とロシア国防省の間の亀裂は表面化している。欧米の巨額の支援を受けたウクライナが反転攻勢に乗り出す中で、ロシア当局者による戦況好転への期待は低い。ロシア軍は冬季に攻勢をかけたもののほとんど進軍できず、多大な犠牲ばかりを生んだ」 

    下線部は、重大な事態である。傭兵組織を率いるプリゴジン氏は国防省トップをこき下ろしている。これだけでも「敗北の前兆」だ。プーチン氏が、この紛糾を抑える動きもしないとは、どういう意味か。両者が、武器を持っているので片方の肩を持てば相手側がプーチン氏の追い落としを策するであろう。そういう意味では、極めて危険なゾーンに入っている。ウクライナ侵攻の継戦能力に疑問符がつくのだ。 

    (4)「ウクライナに対する侵攻を支持し、攻撃強化を望んでいた向きですら、戦争の見通しに対する期待はしぼんだ様子だ。侵攻は当初、数日で終わると考えられていたが、いまや16カ月目に入った。ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループ創設者のエフゲニー・プリゴジン氏ら国粋主義者は、ショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長に軍事的失敗の責任があると非難し、破滅的な敗北を避けるため総動員と戒厳令の導入を呼び掛けている。ロシア大統領府と緊密な関係を持つ政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフ氏は、「あまりに多くの大きな誤りがあった」と述べ、「ずっと前には、ロシアがウクライナの大部分を占領できるとの期待があった。しかしその期待は実現しなかった」と説明した」 

    国粋主義者と国防省のトップが、責任のなすり合いをしている。これは、ウクライナ侵攻が敗北過程に入っている証拠であろう。旧日本軍では、最後に陸軍と海軍が争って合同作戦を妨げた例もある。「負け戦」とは、内部の統一が崩れることでもあるのだ。

     

    (5)「プーチン大統領と政権幹部は、まだロシアが勝利するとの主張を続けている。政権内部からプーチン氏に挑戦するような兆しは見られない。事情に詳しい関係者4人によると、エリートの大半は大勢に影響を及ぼすことはできないと信じ、目立たないようおとなしく仕事に専念しているという。プーチン氏は終戦を望んでいる兆候を一切見せていないと、関係者5人が述べた」 

    日本では敗戦前夜、ポツダム宣言受託をめぐって血なまぐさい争いがあった。終戦促進派がいた。ロシアには、未だそれが現れないのだ。エリートは、「国難」を見て見ぬ振りをしている。これもロシア危機を示す例だ。

     

     

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