勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース時評

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    戦争は痛ましいものである。前途有為の青年が、戦場で斃れるからだ。ロシアが侵攻したウクライナ戦争では、ロシア兵士の戦死者が1万~2万人も出ていると報じられている。このため、著しい兵士の士気低下が起こっているという。

     

    この士気低下の理由が分ってきた。戦死者に、モスクワ出身者がいないことだ。最前線へは,モスクワ出身兵士が出動していないことを覗わせている。これは、偶然でなく政府による意図的な兵士の選別であろう。

     


    『中央日報』(5月5日付)は、「死亡者のうちモスクワ出身はいない、ロシア軍戦死者の悲しい真実」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナを侵攻したロシア軍隊を支えているのはモスクワから数千キロメートル離れた極東・シベリア地域から来た所得が低いいわゆる「土の箸とスプーン」出身だった。

     

    (1)「英紙『タイムズ』は、ウクライナで戦っている多くのロシア兵士が首都モスクワから遠く離れた地方に基盤を置いていると3日(現地時間)、伝えた。寒く土地がやせているシベリア・極東地域や少数民族別に区分された一部の共和国など、ロシア内の非主流地域から来た兵士たちが多かった。ウクライナ戦争が70日以上続いていて、この地域出身の兵士はさらに増えている。ウクライナのシンクタンク、国防戦略センターによると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はモスクワを除き、主に極東とシベリア地域から毎週200人ずつ入隊するよう要求している」

     


    ウクライナ最前線で戦っているロシア軍兵士は、シベリア・極東地域や少数民族に区分された一部の共和国などの出身者である。戦死してもモスクワから遠く離れた地域であれば、ロシア国民に広く知られないで済むという計算が働いていると見られる。報道統制しているので、好都合なのだろう。プーチン氏は、主に極東とシベリア地域から、毎週200人ずつ入隊するよう要求しているという。これは、200名の戦死者が出るという想定であろう。

     

    (2)「ブチャで戦争犯罪を起したとされる第64分離車両化小銃旅団も、モスクワの東6000キロメートル以上離れた極東地域ハバロフスクの小さな村に基地を置いている。ハバロフスクは中国と国境を接していて、モスクワとは7時間の時差がある。戦争初期はロシア兵士がウクライナ占領地で略奪したテレビ・洗濯機・貴金属・化粧品などをベラルーシの国境都市マジルの宅配会社からシベリアの人里離れた地方などに送る防犯カメラの映像が公開された。ロシアの家族に送ったものと推定される」

     

    ブチャで大量虐殺を行なった部隊は、モスクワの東6000キロメートル以上離れた極東地域ハバロフスクの小さな村に駐屯している。寒村ゆえに貧しく、略奪したテレビ・洗濯機・貴金属・化粧品を故郷へ送ったことが判明している。

     


    (3)「入隊者が、多いため死亡者も多かった。ロシア独立メディア『メディアゾナ』は4月末、ロシア兵士死亡の内容が出てきた1700本余りの記事を研究した結果、少なくとも1774人が死亡(西側は1万5000余人死亡推定)したと推定した。このうちロシア南部の北カフカースのダゲスタン共和国、東部シベリアのブリヤート共和国などだけで200人余り以上が戦死した。メディアゾナは、「モスクワとサンクトペテルブルク地域の戦死者はいなかった」とした。『ワシントン・ポスト』(WP)は、「ダゲスタン・ブリヤート共和国は貧しい地域」と伝えた。ダゲスタン共和国の昨年の平均給与は3万2000ルーブル(約6万円)、ブリヤート共和国の平均給与は4万4000ルーブルだ。モスクワの平均給与は11万ルーブルだ」

     

    ロシア僻地は給与も低く、モスクワ平均給与の3~4割レベルである。それだけに、高い給与に釣られて入隊してくるのであろう。

     


    (4)「ロシア独立メディア『メドゥーサ』によると、ダゲスタン共和国は3月からウクライナ戦争に参戦する兵士たちを募集している。一般兵士の月給は17万7000ルーブルだった。ロシアの今年の最低生活費は1人あたり月1万3000ルーブル程度だ。ウクライナの1カ月派兵で年間生活費を得られる場合があるため貧しい地域からは若者が軍隊に志願入隊する場合が多かった」

     

    一般兵士の月給は、17万7000ルーブル(約33万2000円)である。ダゲスタン共和国の昨年の平均給与は3万2000ルーブル(約6万円)、ブリヤート共和国の平均給与は4万4000ルーブル(約8万2000円)であるから、4~5倍もの高収入である。喜んで入隊するのだろう。

     


    (5)「『メドゥーサ』は、「ダゲスタン共和国の多くの若者たちが貧しい家を立て直し、出世のために軍隊に行こうとする。過去、各地で徴兵人員を制限すると徴集委員会に賄賂を送りさえした」と伝えた。今回の戦争でも多くの人々が入隊した。ロシア国営メディア「リアノボスティ通信」は3月、「ダゲスタン共和国では1週間で300人以上が兵役契約を締結した」と伝えた。しかし、100人以上が戦死した。20代の若い青年たちが多かった

     

    貧しい地域では、一般兵士の高い給与に目が眩み、応募してくるのであろう。事情を知らないままに、ウクライナ最前線へ送り込まれている。

     

    (6)「高麗(コリョ)大学ロシア語ロシア文学科のチェ・ジョンヒョン教授は、「極東とシベリア地域などは所得が低く生活水準が劣悪だ。他の職業よりも給与がよい軍入隊でお金と名誉を得ようとする者が多い。世論統制もうまくいっていて、ウクライナ戦争の真実について知らずに志願した若い青年たちが多かった」と背景を説明した。続いて「反面、モスクワなど大都市で徴兵しないのはロシア内部で逆風が吹く恐れがあるためだ。モスクワで徴兵するようになれば西側で『ロシアは本当の危機に直面している』と考える可能性もある」と付け加えた」

    ロシア軍は目下、辺鄙な地域で一般兵士を募集しているが、モスクワで徴兵を開始するようになれば、募集兵業務が行き詰まってきたことを示す。

     

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    ロシア中央銀行は、4月5日に期限のきた国債元利金支払いで「ルーブル払い」を強行したが、ついにドル払いへ転換した。これで、デフォルトという最悪事態を免れる。方針転換した裏には、制裁によってロシア経済が急速に悪化している事情がある。ダブルパンチを回避するには、契約通りの「ドル払い」しか道がなかったのであろう。

     

    格付け会社は、上記のロシア国債は契約違反として「潜在的デフォルト」扱いになっている。5月4日までにドル払いとならなければ、最終的な「デフォルト」が決定するところだった。

     


    『ロイター』(4月29日付)は、「ロシア、ドル建て債の支払いをドルで実施 デフォルト回避か」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア財務省は29日、これまで自国通貨ルーブルで行うとしていたドル建て債の支払いをドルで行ったと明らかにした。デフォルト(債務不履行)回避に向けた動きとみられる。

     

    (1)「財務省は2022年満期債券について5億6480万ドル、24年満期債券について8440万ドルの支払いをドルで行ったとし、資金はシティバンクのロンドン支店に送られたと明らかにした。両債券の支払い期日は過ぎているが、30日の猶予期間が設定されているため、最終的な期日は5月4日になっている。米政府高官は、ロシアが米国で凍結された外貨準備金を使わずに支払いを行ったと確認しつつも、資金の明確な出所は不明と述べた」

     

    ロシアは、意地を張って合計6億4920万ドルの支払いをルーブル払いにする損失が、今後のロシア経済に大きな痛手になることを認めた形だ。ひたひたと迫りくる経済制裁による黒い影に、ロシア当局が音を上げたものであろう。

     


    『日本経済新聞』(4月30日付)は、「ロシア、制裁で傷む経済 3月製造業生産マイナス」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ侵攻をめぐり米欧から制裁を受けるロシアで、実体経済の傷みが目立ってきた。禁輸措置などのあおりを受け、3月の製造業の生産指数は前年同月比で11カ月ぶりにマイナスに転じた。ロシア中央銀行は2回連続の利下げを決めたが、インフレ懸念から大胆な金融緩和には踏み切れない。ロシア経済の冷え込みが続けば、軍事作戦継続への影響が出そうだ。


    (2)「ロシア中銀は29日、政策金利を17%から14%へと引き下げると決めた。5月4日から実施する。利下げ発表は4月8日に続き2回連続。声明では利下げの背景として「企業は生産や物流面で相当な困難に直面している」と指摘した。制裁の影響を見えにくくするため、ロシア政府は原油生産量など一部の経済統計の発表を取りやめている。それでも入手可能なデータの分析からは、同国経済の苦境が垣間見える。世界銀行は2022年のロシアの経済成長率を前年比マイナス11%と見込む。国内景気の悪化と外貨収入の減少、インフレに手足を縛られる金融政策という三重苦になっている」

     

    ロシア中銀は、4月に2回もの政策金利引下げを発表した。20%から14%へとつごう6ポイントの引き下げだ。それでも異常な高さである。設備投資への刺激期待はゼロであろう。

     


    (3)「一例が鉱工業生産指数で、3月は3%増と2月(6.%増)から勢いが鈍った。鈍化の主因は製造業だ。2月の6.%増から一転、3月は0.%減だった。自動車関連は45.%低下し、電気機器やたばこも10%以上下がった。「外資撤退や部品不足による生産減が顕著に表れてきた」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田陽介副主任研究員)。2月下旬以降、欧米や日本は半導体や工作機械の輸出を停止し、ロシア産製品の輸入も禁じた。外資に頼ってきた自動車生産は特に縮小が目立つ。仏ルノーやトヨタ自動車など車各社は3月にロシアでの生産を相次ぎ止めた。欧州ビジネス協議会(AEB)によると3月のロシアの新車販売台数は前年同月比63%減った」

     

    経済制裁による影響は大きい。鉱工業生産指数は、2月の6.3%増が3月は3%増と半分に鈍化した。4月以降はマイナスに転じるであろう。外資撤退や部品不足が顕著になっているからだ。原油・天然ガスの輸出減少も痛手である。

     


    (4)「雇用への影響は深刻だ。米エール大経営大学院によればロシア事業の停止や縮小を表明した企業は750社以上。モスクワ市長は同市の外国企業で働く「約20万人が職を失う恐れがある」とブログに投稿した。

     

    外資による事業停止や縮小、撤退などによって約20万人が失業の危機を迎える。外資による雇用は100万人以上とされている。

     

    (5)「主力産業である石油や天然ガスなど鉱業は7.%増と堅調さを保っており、鉱工業生産指数全体ではプラス圏を維持した。欧州などはエネルギーをロシアに依存し、禁輸に踏み切れていない。ただし直近では消費者からの批判を懸念して、商社などがロシア産原油を自主的に回避する動きがじわりと広がる。国際エネルギー機関(IEA)は、ロシア産の石油供給が5月以降日量300万バレル減るとの見方を示す。輸出量の4割に相当する。主に欧州向けに輸出されるロシア産原油は需要鈍化のせいで国際価格に比べて約3割安で取引されている」

     

    IEAの予測では、5月以降の原油生産が日量300万バレルの減少である。これは、約3割減と大幅なダウンである。5~6月積み出しの原油入札では、応札がゼロという深刻な事態だ。価格も国際市況の3割安と不利な状況に追い込まれている。状況に精通していない向きでは、国際市況を基にしてロシアの原油収入は大幅増と言っているが、そういう甘い期待を持つべきでない。

     


    (6)「国際金融協会(IIF)の分析では、原油・石油製品・天然ガスが、ロシアの輸出の5~6割、財政収入の25%を占める。「輸出や生産が落ち込めば財政への打撃は大きく、支出削減を迫られる可能性がある」(IIF)」

     

    一説では、原油・石油製品・天然ガスが財政収入の45%としている。これが落込めば、ロシア経済に痛手は当然である。戦争継続上も負担が増大する。今年の歳入不足分は、国債発行に依存せず、ファンドからの借入れで賄う方針だ。財政相がすでに発表している。 

     

     

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    ウクライナ侵攻開始から4日目の2月27日、ロシアのプーチン大統領は、戦略的核抑止部隊に「特別警戒」を命令した。西側諸国が、ロシアに「非友好的な行動」をとったことを理由にしたのである。ロシア政府による「核戦争危機論」は、その後沈静化していたが、4月25日にラブロフ外相の蒸返しによって、改めてこの問題が浮上している。

     

    『ロイター』(4月26日付)は、「ロシア外相、核戦争の『深刻なリスク』警告」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ロシアのラブロフ外相は国営テレビのインタビューで、核戦争が起きる「かなりのリスク」があり、過小評価すべきではないとの見方を示し、ロシアはリスクを抑えたいと述べた。また、西側諸国がウクライナに供与する武器はロシア軍の「正当な標的」になるとした。「このようなリスクを人為的に高めることは望まない。高めたいと考える国は多い。深刻で現実の危険があり、それを過小評価してはならない」と語った。外務省のウェブサイトに発言内容が掲載された」

     


    このような発言が飛び出す背景は、ロシア軍が苦戦していることを意味する。英国防省は25日、つぎのような発表をした。

     

    「英国防省は25日、ウクライナのマリウポリ防衛が「多くのロシア部隊を消耗させ戦闘効果を落とした」と明らかにした。ロシアが、ウクライナ東部ドンバス地域をすべて占領しようとして「小さな進展」を成し遂げたが、供給問題が攻勢の足を引っ張り「重大な突破口」を設けられずにいると付け加えた。また、英国のウォレス国防相は下院でウクライナ軍によるロシア軍の戦死者が1万5000人に達するという分析を明らかにし、ロシア軍の装甲車も2000台以上が破壊されたり、ウクライナ軍に奪取されたと話した」『中央日報』(4月26日付)が伝えた。ロシア軍が,予想以上の苦戦を強いられていることから、苦し紛れに「核戦争論」が出てきたのであろう。



    (2)「ラブロフ氏のインタビューを受け、ウクライナのクレバ外相はツイッターで、ロシアはウクライナ支援をやめるよう外国を脅せるとの望みを失ったようだと指摘。「つまり、敗北感を覚えているということだ」とした」

     

    ウクライナ外相は、このバブロフ発言がロシア軍劣勢を自ら言っているようなものだと批判している。核戦争がどんな意味を持っているか、あまりにも軽々に発言しすぎているからだ。客観的に見て、ロシアがウクライナ戦争で「核投下」する危険性はあるのか。

     


    英『BBC』(3月1日付)は、「核使用のリスク、どれくらいあるのか ロシアのウクライナ侵攻」と題する解説記事を掲載した。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月27日、核兵器を含む「抑止部隊」を「戦闘の特別態勢」に移すよう、軍に命じた。一体なにを意味しているのか。多くの人は今回の動きについて、実際の核兵器使用の意図を示したというより、主に世界に向けてシグナルを送ったものと解釈している。プーチン氏は、核を使えば西側から核の報復を受けることを分かっている。イギリスのベン・ウォレス国防相は、プーチン氏の発表について、主に「言葉の上」のことだとの考えを示した。だからといって、リスクがゼロというわけではない。状況は注意深く見守られることになるだろう。

     

    (1)「プーチン氏は先週、間接的な言い方で、ロシアの計画を邪魔する国は「見たことのないような」結果に直面すことになると警告していた。北大西洋条約機構(NATO)に向かって、ウクライナで直接的な軍事行動を取らないよう注意したものと、広く受け止められた。NATOは一貫して、そうした行動を取るつもりはないと言明している。もし実施すれば、ロシアとの直接衝突につながり、核戦争へとエスカレートしうると理解しているからだ。2月27日のプーチン氏の警告は、これまでより直接的かつ公なものだった」

     

    プーチン氏は、NATOが直接的な軍事行動を恐れて、「核使用」という形でけん制している。もともと、ロシアはNATOがロシアの安全保障を脅かしているという理由で、ウクライナ侵攻を行なったはずだ。それが、本当にNATO参戦になれば、大変な思惑違いになる。

     


    (2)「プーチン氏は、ウクライナの戦場でロシア軍がどれほど抵抗を受けるかについて、見誤っていた可能性がある。プーチン氏はまた、西側が厳しい制裁措置を取ることについて、どこまで結束するのかも見誤った。そのため、彼は新たな選択肢と、さらに厳しい話を持ち出すことになった。「怒り、フラストレーション、落胆の表れだ」と、ある元英軍司令官は先日、私に言った」

     

    プーチン氏の予測が完全に外れたことへの絶望感が、「核使用」というトンデモ発言に現れたに違いない。最近では黒海艦隊旗艦「モスクワ」が撃沈されるなど、予想外の事態が連続的に起こっている。「核使用」という言葉を外相に使わせて鬱憤晴らしをしている面もあろう。

     


    (3)「このように見ると、核への警戒の呼びかけは、自国民に向けてメッセージを発する1つの方法のように思われる。別の見方としては、西側がウクライナに軍事支援を提供するのをプーチン氏は懸念しており、西側に対してやり過ぎないよう警告しているとも考えられる。さらに、プーチン氏が制裁について、政情不安と政権転覆を狙ったものではないかと心配しているとの解釈もできる(演説では制裁に触れていた)。しかし、メッセージ全体としては、NATOに対して、直接関与すれば事態は悪化しうると警告したものと思われる」

     

    ロシアが、甘く見ていたNATOの結束ぶりに驚き、さらに本格的な反撃に出てくることを恐れているにちがいない。その意味でロシアは日々、苦境に立たされているとの認識を強めているのかも知れない。

     


    (4)「冷戦時代、西側ではロシアの核兵器の動きを監視する巨大な情報マシーンが作り出された。人工衛星、通信傍受、その他の情報を分析し、ロシアの行動に変化を示すものがないか探った。武器や、爆撃機の乗組員の準備といった、警告が必要となる状況が生じていないか調べた。それらの多くはまだ残っていて、西側各国はロシアの動きに重大な変化がないか、活動を注意深く見ている。変化を示すものは、いまのところない」
     

    NATO軍の情報収集に加え、「ファイブアイズ」(米英豪加ニュージーランド)5ヶ国の特別諜報網が、ロシアによる核への動きを監視している。冷戦時代のソ連監視網は、現在に引継がれているのだ。仮に、ロシアが核投下の兆候を見せれば即、世界へ発表されるだろう。ロシアの評価は、それだけで激落間違いない。そういう事態にならぬよう、プーチン氏の自重を祈るほかない。


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    ロシアへの経済制裁効果が、なかなか現れないと指摘されている。だが、ロシアではすでに原油需要の低下によって、貯蔵スペース不足に直面する事態になっている。この状況が続けば、永久に施設を閉鎖する恐れも出ているという。西側諸国による一致した経済制裁で、先ず原油輸入を禁止ないし抑制している効果が現れてきた。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月14日付)は、「ロシア産原油のだぶつき、成長エンジンを直撃」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアでは行き場を失った原油がエネルギー供給網を逆流し、産油量の落ち込みが鮮明になってきた。ウクライナとの戦闘が激化する中で、ロシア経済の屋台骨に深刻な影響をもたらしつつある。製油所では、国内外の需要の落ち込みを受けて精製量を減らすか、閉鎖に追い込まれたところも出ている。パイプラインやタンク内の貯蔵スペースは減少の一途をたどっており、油井でも生産を縮小している。とはいえ、損失は今のところ限定的で、エネルギー業界は依然としてロシア政府に巨額の収入をもたらしている。ただ、向こう数カ月には、原油を採掘してから供給先に届けるまでに問題が生じる可能性が高い、とトレーダーやアナリストは指摘している。

     


    (1)「国際エネルギー機関(IEA)は13日、ロシアでは5月以降、日量およそ300万バレルの生産が滞るとの予想を示した。これにより産油量は日量900万バレル弱と、アナリストの予想以上に落ち込む見通しだ。ロシアの産油量がどこまで打撃を受けるかは、アジアで新規顧客を確保できるかどうかにかかっている。米国の顧客は完全に避けており、欧州でも代替の調達先を探る動きが広がっている。IEAでは、ロシア産原油の長年の買い手が離れていったことで、中国が急いでその分を輸入している兆候はまだ見られないとしている」

     

    ロシアは、5月以降の原油生産が日量300万バレル減少して、日量900万バレル弱に落込む見通しである。これはIEAの予測であり、アナリストの予想を上回る落込みである。この落込みをアジアでどこまでカバーできるかだ。

     

    (2)「産油量が持続的に落ち込めば、西側の経済制裁で深刻な景気後退に向かっているとみられる厳しい局面で、ロシア経済のけん引役が大きく損なわれることになる。DNBマーケッツの上級石油アナリスト、ヘルジ・アンドレ・マーティンセン氏は「潜在的な生産能力の一部が恒久的に失われる恐れがある」と話す。ロシアの石油・天然ガス業界がこの危機を乗り越えることができるかどうかは、政府の運命を左右することになりそうだ。2021年のロシア予算で、歳入の45%は石油・ガス業界によるものだった(IEA調べ)。国際金融協会(IIF)では、ロシアは3月の原油輸出代金として121億ドル(約1兆5200億円)を受け取ると試算している」

     

    急激な需要減で生産量を落とせば、潜在的な生産能力の一部が恒久的に失われる恐れがあるという。宝の持腐れに直面するのだ。2021年のロシア予算で、歳入の45%は石油・ガス業界による利益である。原油生産量が5月以降、25%以上も減れば、歳入への影響が出て当然である。

     


    (3)「トレーダーによると、ロシアの精製業界はウクライナへの侵攻開始直後から問題に直面した。欧州の買い手が代替の調達先の確保に動き、輸出が急減したためだ。その後の3月初旬には、米国がロシア産石油の輸入禁止に踏み切った。ロシアでは十分な買い手がつかなったことで、ディーゼルやガソリンなど石油製品の貯蔵スペースが枯渇し始めた。そのため、精製業者の稼働率は低下。4月8日までの1週間に製油所の生産量は日量約170万バレル減った。S&Pグローバル・コモディティー・インサイツの石油分析責任者、リチャード・ジョスウィック氏が分析した。これは稼働率が下がる春季メンテナンス期間の通常レベルをさらに7割下回る水準だという」

     

    石油精製業界にも,影響が出ている。4月8日までの1週間に、製油所の生産量は日量約170万バレル減っている。それでも、石油製品の貯蔵スペースが枯渇し始めている。だぶついているのだ。

     


    (4)「
    ロシアの製油業界が衰退すれば、石油市場への影響は大きい。ロシアはウクライナに侵攻するまで、米国、サウジアラビアに次いで世界第3位の石油生産国だった。また世界最大の輸出国でもあり、日量500万バレルの原油とコンデンセート(注:熱水 ナフサの成分に似ている)に加え、ディーゼルなど日量290万バレルの石油精製品を海外に供給していた。ロシア国営パイプライン会社トランスネフチでは、製油所への原油供給が落ち込んでいるため、パイプライン内の原油貯蔵スペースがひっ迫しているもようだ。トレーダーやアナリストが明らかにした」

     

    ロシアは、世界3位の原油生産国である。また、世界最大の輸出国でもあり、日量500万バレルの原油を輸出してきた。それだけ、国内需要が少ないことを意味する。西側諸国が輸入を禁止ないし抑制すると、途端に大きな影響が出る体質である。

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    ウクライナ兵の高い士気に比べ、ロシア兵の士気は大きく劣っている。意味のない「プーチン戦争」に駆り出されているからだ。ロシア軍では、ウクライナ派遣を拒否する兵士も出ているほど。

     

    ロシア軍のウクライナ北部からの撤退は、大きな損傷を受けた結果とされている。余裕を持った撤退でなかった。撤退直後に英『BBC』記者が現地取材した映像によれば、食べ物が散乱しており、慌てて撤退した様子が窺えるとしている。「規律ある部隊ではない」とBBC記者は伝えた。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月4日付)は、「ロシアの戦略転換、ウクライナ戦争長期化か」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウクライナ戦争は先週、ギアチェンジした。複数の戦線で迅速な攻撃を実行するだけの兵力を欠くロシアは、首都キーウ(キエフ)などウクライナ北部の都市から後退を始め、当面の目標を東部の一部地域の掌握に定めた。5週間にわたって激しい戦闘を展開したあげくの方針転換は、ウクライナの抵抗がいかに激しく、有効であったかを物語っている。戦いは長期の消耗戦になりそうだが、ロシアの動きからは戦争続行の決意もうかがえる。

     

    (1)「ウクライナ政府関係者によると、長期の通常戦争になれば、ロシアと比べて軍事的資源が少ない同国にとって、戦車や重火器のような大型兵器を調達する必要性がさらに高まる。ロシアはドンバス地方の掌握に集中することで、縮小した戦線に攻撃能力を集中したり、補給線を短縮したりすることができる。航空支援も容易になる可能性があり、軍事的成功の確率は高くなる。また、ドンバス地方に配置されたウクライナの精鋭部隊の一部を包囲しやすくなる。しかし、ロシアがキーウから後退すれば、ウクライナも東部のドンバス戦線に追加資源を再配置できる。しかもルートが短いため、動きははるかに速い」

     

    ロシア軍は、ウクライナ北部の都市から撤退した。東部へ兵力を移動させ、最後の決戦を挑む体制である。一方、ウクライナ軍は、これまでの首都防衛部隊を東部へ短時間で移動できるので、戦力的には大幅に補強される。

     


    (2)「ロシア軍は精鋭部隊の一部をキーウなどウクライナ北部に派遣していた。軍事アナリストによると、その多くが激しい戦闘で大打撃を受けており、再編成して再配置に備えるには相当の時間が必要になる。米政府関係者の推計では、ロシアがウクライナに投入した19万人強の兵士のうち、死者は約1万人に上り、数万人が負傷したか捕虜になった。ロシアは兵力を補充しようと予備役を招集している。徴集兵に加えてナゴルノカラバフや南オセチアに駐留している兵士もウクライナに派兵している。通常は主に国内の治安任務を担う国家親衛隊の隊員も含むこうした兵士の中には、ウクライナへの派遣命令を拒否した人もいる」

     

    ロシア軍のウクライナ北部派遣軍は、精鋭部隊であった。それが、かなりの打撃を受けており再編成までには時間がかかりそうという。ロシア軍は、戦力の補充が難しくなっており、国内の治安任務を担う国家親衛隊の隊員まで動員されている。

     


    (3)「英空軍中将エドワード・ストリンガー氏はロシアには新たな攻撃に投入できる予備役は多くないと指摘する。同氏は英国防省で複数の作戦を指揮し、英国によるウクライナでの軍事訓練プログラムの創設を支援した。「実質的な戦闘力のほとんどは既に戦争に投入されている」とストリンガー氏は指摘する。したがってプーチン大統領は「より多くの戦闘力を構築するか、今ある戦闘力を集めるかだが、前者は制裁の影響もあり、兵力の動員がなければ難しい」と指摘」

     

    ロシアは、戦闘力の構築(武器弾薬の増産)が、経済制裁で困難になっている。部品不足でタンクや自動車の生産は中止状態だ。頼みは、兵員の動員にかかっている。十分な兵員を集められなければ、苦戦を免れない。

     


    (4)「ウクライナとロシアは和平交渉を続けているが、戦争は数カ月かそれ以上続く可能性が高いというのが多くのウクライナ政府関係者と軍事アナリストの見方だ。ロシアはウクライナよりはるかに人口が多く、保有する軍装備品も多いが、長期の消耗戦では時間は必ずしもロシアに味方するわけではない。「どのシステムもそうだが、軍事的潜在力はその中で最も弱い部分と同程度の強さしかない。ロシアの場合は最も弱い部分は人だ。ロシアには大量の装備品、大量の防護具があるが、訓練された人材に大きな問題がある」。ザゴロドニュク元ウクライナ国防相はこう指摘した」

     

    悲観的な見方では、これから数ヶ月の戦争が続く懸念があるという。プーチン氏が、メンツにかけて戦わせる結果だ。ロシアは、5月6日の対独戦勝記念日に「ウクライナ戦勝パレード」を行なう計画があると報じられたが、現実はそうした甘い夢を実現させられない状況だ。ロシアは、肝心な兵力の枯渇という難題に突き当たっている。

     


    (5)「ウクライナは戦争が始まった時点で約20万人の兵力があり、必要があれば同規模の軍を出動させることができるだろうとザゴロドニュク氏は言う。
    「戦争が長期になれば、ウクライナが西側のパートナー、まず米国からの支持を受け続けられるかが唯一の問題だ。西側の支持があれば、われわれはロシアより長く持ちこたえることができる」。ウクライナは長距離砲、戦車、防空技術、自国の軍用機と攻撃ヘリコプターを使って大規模な通常戦争を戦っている。同国はこうした軍事的資産を日々失っているが、これまで西側からの補充はなかった。

     

    ウクライナには、士気も高く予備兵力を残している。問題は装備面の劣化である。これが補充されなければ、長期戦に耐えられない状況にある。

     


    (6)「こうした状況は徐々に変わりつつある。3月31日には英国のベン・ウォレス国防相が、35カ国が支援国会議で長距離砲・装甲車・対砲兵システム・対空兵器・沿岸防御兵器をウクライナに提供することで合意したと述べた。ゼレンスキー大統領が要請していた戦車や戦闘機は含まれないものの、兵器が迅速に提供されれば、ウクライナの勝機は大幅に高まるだろう

     

    西側35ヶ国は、ウクライナへ兵器の補充を決めた。これが迅速に実現すれば、ウクライナは勝利へ向けてチャンスが広がるという。

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